210 名前:大狂乱 ミミ大戦[sage] 投稿日:2009/02/02(月) 18:43:30 ID:wfm3Sgy1
211 名前:大狂乱 ミミ大戦[sage] 投稿日:2009/02/02(月) 18:44:28 ID:wfm3Sgy1
212 名前:大狂乱 ミミ大戦[sage] 投稿日:2009/02/02(月) 18:45:26 ID:wfm3Sgy1
213 名前:大狂乱 ミミ大戦[sage] 投稿日:2009/02/02(月) 18:46:19 ID:wfm3Sgy1

大狂乱 ミミ大戦5


「ふあっはは!!! こいつぁ素敵な光景だにゃ〜。猫ミミに犬ミミ、加えてリスミミちゃんとは最高に乙っっ!!」


 変態は笑った、大いに笑った。
 己の珍技により目の前でミミやシッポを生やした少女達を見て狂ったように……いや、狂気の話をするならば既に発狂レベルで狂っているのだが。
 しかし、変態の所業により珍奇な身体にされてしまった方はたまったものではない。
 犬ミミを生やされたスバルは慌てふためき、猫ミミを生やされたティアナは絶望を張り付けた表情で青ざめ、リスミミを生やされたキャロは何が起こったか理解しきれずポカンとしている。
 だがこの状況でただ時間を無駄にするほど機動六課は甘い部隊ではない。
 即座に思考を戦闘時のそれに戻したティアナはデバイスを変態へと構えた。


「くっ! この変態、よくも変なマネしてくれたわね!!」


 オレンジ色の魔力光が煌めき、射撃魔法の閃光が空気を切り裂く。
 直射型射撃魔法の弾頭が正確な照準のもと真っ直ぐな軌跡を描きながら変態目掛けて直進。
 常人ならば回避は容易に叶わぬ抜き撃ちの速度、だが相手は尋常ならざる変態である。
 ミミ仮面はまるで最初からその弾道を知っていたかのように軽く頭を傾けるだけで容易く回避。
 オレンジ色の閃光は無情にも空へと消えた。


「おやおや〜、お嬢さんは猫ミミをお気に召さなかったかにゃ?」

「そんなの当たり前でしょうが!!」


 不思議そうに首を傾げる変態に、少女はツインテに結んだ髪が逆立ちそうな勢いで激怒した。
 スカートの下から伸びた可愛い猫シッポも同様に怒りを露にしてピンと逆立っている。
 ちなみにスカートの中が見えそうだという事には怒り心頭で気付いていない様子だった。
 だがティアナの怒りも当然だ、突然ミミだのシッポだの身体に生やされれば普通こうなる。
 彼女の相棒のような能天気娘でもなければ。


「うわぁ〜、犬のミミとシッポが付いちゃった。ギン姉とお揃いだよティア〜♪」


 自分の頭とお尻に発生した珍事に、少女スバル・ナカジマは一片の危機感も不快感も見せず、ニコニコと嬉しそうに微笑んでそう言った。


「お揃いとかそういう問題じゃないでしょバカスバル!」

「ええ〜、だって可愛いよ? シッポにミミだよ?」

「うっさい! だからそういう問題じゃないのよ!」

「ニャフハハハ! どうやらそちらのお嬢さんにはお気に召していただいたようだ」


 スバルの様子に愉快そうに盛大な笑い声をあげる変態、正直見ていてむかつく光景である。
 ティアナは即座に思考を戦闘モードに切り替えて変態に再び銃口を向けた。


「うっさい! この変態!!」

「ふふ、気の短いお嬢さんだにゃ〜」

「スバル、キャロ! とっととこの変態ぶちのめすわよ!」


 顔を真っ赤にして怒り心頭のティアナは、傍らの相棒と未だ自身の身体に起こった変化に驚いていた召還師の少女へと檄を飛ばした。


「は、はい!」

「了解!」


 鉄拳を携えた少女と竜を従えた少女が変態を打ち破らんとその矛先を向けた。
 愛機、リボルバーナックルの回転刃が唸りを上げてけたたましい音色を奏でる。
 青き空駆ける魔力の道、ウイングロードの上を駆け抜けてスバルは己が拳を振りかぶって変態に狙いを定めた。
 美しい、掛け値なしにそう呼べるほど完成された拳打の一撃。
 空気を切り裂いた拳が変態に到達するのに瞬きするほどの時間すらなかった。
 だがそれよりも速く、ミミ仮面は懐からあるモノを取り出した。


「そーれ」


 声と同時に変態はそれを投げる。
 弧を描き、宙を飛ぶ、小さな球体。それは小さなゴムボールだった。
 常識的観点から考えれば意味不明の行為に他ならない。
 鉄拳を振りかぶった少女が襲い来るというのに、明後日の方角にボールを投げるなど前代未聞だ。
 だがしかし、それは実に効果的な行為だった。
 どんな強固な防御障壁よりもスバルの攻撃を防ぐ最大最強の防御だった。
 なにせ今の彼女は“犬ミミ”の女の子なのだから。


「きゃうんきゃうん♪」


 魔力を込めた強大な破壊力を有した拳を振りほどき、スバルはウイングロードの上からボール目掛けて飛び出す。
 目指すはポーンと宙を飛ぶボール。
 カプ、と効果音を付けて、少女はそのボールを口に咥える。
 そしてその場でゴロゴロと転がって、ひたすら咥えたボールにじゃれ付く。
 それはもう、オモチャを目にした子犬のように。


「うーん、ハミハミ♪」

「ちょ! バカスバルッッ!! 何してんのよ!?」

「だってボールがぁ〜」

「だってじゃないわよ!! ああもう……仕方ない」


 ボールをハミハミ咥えながら至福に浸った顔をする相棒に愛想を尽かし、二丁銃を構えた少女はその銃口を変態に向ける。
 オレンジ色の魔力が小さな球体を幾つも形成・肥大化。
 直射射撃魔法では捉えきれぬと踏んだティアナは自身に出せる限界数の誘導弾での攻撃にシフトする。
 大きさを絞られた十数発の魔力の塊、その全てが彼女の意思に従って精密極まりない軌道を描くのだ。
 絶対必中の決意を込め、ティアナは誘導弾を放った。
 筈だった。
 だが次の瞬間、彼女の前にナニか投げられる。それは麻製の小さな袋。
 小さな麻袋はティアナの眼前を掠めると、彼女の前に音を立てて転がる。
 ふぅわり、と、なにか艶めいた芳香が少女の鼻腔をくすぐった。
 鼻腔を駆け抜けた香りは即座に脳まで浸透し、途端に彼女から全ての力を奪い去る。
 魔力で練り上げられた誘導弾は消滅し、ティアナは力なくその場に膝を突く。
 そして少女の瑞々しい肉体は、芯から火が点いたように熱くなる。


「な、なにコレ?……力、はいんない……」

「にゃっふっふ〜! 猫の弱点と言ったらマタタビに決まってるにゃ!」

「ま、またたび!? そんなモノで……」


 鼻腔を突き脳髄に甘い快楽を刻む香りに、少女は必死に抗おうとする。
 だが、膝に力を入れて立ち上がろうとするが何度やってもそれは徒労に終わってしまう。
 肉体からは力が抜け、頬は火照って赤くなり、目はトロンと蕩けていく。
 荒くなった呼吸のせいで余計に空気が肺腑に流入し、悪魔的な陶酔をもたらす香りを彼女の体内に侵入させた。


「やぁ……ダメ……これかいでると、あたまとけちゃうぅ」


 吐息は甘く声は切なくなり、ティアナは目の前に転がっている袋から漂う芳しい香りに鼻を鳴らした。
 誘惑に屈してしまいそうな自分自身を諌めようと理性が懸命に制動をかけるが、この小さな袋もたらす悦楽はあまりに強力だった。
 身体の芯、その奥底から脳髄までドロドロに溶けてしまいそうな感覚。
 圧倒的な恍惚感が少女を完膚なきまでに堕とした。


「にゃふははは、マタタビの匂いメロメロとは可愛い子猫ちゃんだにゃあ」


 地の上を這い切なげにトロンと潤んだ瞳で荒い吐息をあげるティアナを見下ろし、変態は実に嬉しそうにそう評した。
 心なしか、股を覆うビキニパンツの股間部分も元気そうだ。
 その姿、実に目に毒。
 こんな状況、もう一人のミミを生やした少女はと言うと。


「あうぅ……フリード恐い」

「きゅく?」


 自分の竜に怯えていた。
 まあ無理もない、キャロは今ではただの召喚師ではなくリスミミ召喚師なのである。
 リスとは言わずと知れた小動物だ、肉食獣に捕食対象として狙われる生態系の下層の生物だ。
 これがあらゆる世界の生物種の中でも上位に座する竜を前に怯えぬわけがない。
 自身の使役する竜に怯える召喚師、この世でこれほど使えない存在があろうか?
 まるで本物のリスのように、キャロは縮こまってプルプルと震えていた。


「ふふ、あっちの子リスもまあ可愛いもんだにゃ〜。実に素晴らしいッッ!!」

<マスター、さっきの連中がまた来るにょ>


 変態の愛機マタタビXが設定された美少女ボイスで告げるや否や、さきほど軽く攻撃をいなした六課隊員、なのは・フェイト・エリオが接近。
 人外の化生の如き鋭敏な戦闘感覚を持つ変態はこれを即座に察知し、その身を鮮やかに翻す。
 真っ赤なマントをはためかせ、ヘラクレスの如く鍛えぬいた筋骨隆々の五体で宙を舞った。
 同時に手にした魔法の杖、肉球のような先端のそれが魔法陣を描く。
 展開される術式が高度な魔法作用を引き起こし、魔力を消費し、プログラムを行使する。
 ミミ仮面が宙でその身を静止させた時には超高速処理された魔法は完了していた。


「やれやれ、ゆっくりお茶を飲む時間くらい欲しいもんだにゃ〜。ではバイバイにゃ〜」


 瞬間、爆ぜるように閃光。
 視界を奪う凄まじい光と爆音がその場にいる者全ての動きを殺す。
 ただ一人、技の行使者たる変態を除いては。


「く……また、逃げられた……」


 なのはが言葉と共に目を開いた時には、そこにはあの変態男の姿は影も形もなかった。
 相対した変態を取り逃がした回数はこれで三度目、エースオブエースにとっては大敗に等しい戦火である。
 なのはとてただ黙っていたわけではない。
 ミミ仮面が宙に舞う刹那、やつの動きを捕捉すべく誘導弾とチェーンバインドをフェイトと共に展開していた。
 だがあの変態はそれすら回避したらしい。
 桃色の魔力で形成されたチェーンバインドの先には、ただあの男の赤いマントの切れ端が虚しく風になびいている。
 こちらに死傷者はゼロ(ミミ・シッポ化ノーカウント)だが、若きエースの口中には苦い敗北の味が滲んだ。
 なのはは敵の消えた空を見上げ、口惜しげにその唇から言葉を搾り出す。


「ミミ仮面……次こそは……」

「ねえなのは、スバルがボール追っかけてずっと遊んでるんだけど、どうしよう?」

「次こそは捕まえてみせるんだから!」

「ねえ、ティアナがさっきから喉鳴らして寝転んでるんだけど」

「みてなさい! ミミ仮面!!」

「ねえ、シリアスに決めてもなんか虚しいよ?」

「……フェイトちゃん、人には時に現実を見たくない場合があるの」


 なのはは空を見上げ、そう虚しく呟いた。
 彼女の下では部下である少女達が一様に愛らしい姿を晒していた。


続く。


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目次:大狂乱 ミミ大戦
著者:ザ・シガー

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