魔法少女リリカルなのは A’s to the strikers −ママは中学一年生−

[322]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/12/31(日) 12:17:31 ID:4NSYnrTM
[323]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/12/31(日) 12:18:53 ID:4NSYnrTM
[324]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/12/31(日) 12:20:00 ID:4NSYnrTM
[325]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/12/31(日) 12:20:57 ID:4NSYnrTM
[326]640 ◆CaB8KPh.gs <sage> 2006/12/31(日) 12:22:03 ID:4NSYnrTM

二度、三度。
鳴らしたチャイムに、応答する者はいなかった。

「……あれ?」

アリサ、すずか。
それに、なのはにはやて。
四人の友を後ろに従えたフェイトは、返事の無いインターホンに首を傾げる。

───おかしいな。

家にいるはずの母の顔を思い浮かべつつもう一度ボタンを押してみるが、
やはり応える者はない。

世間一般の中学生には、避けては通れぬものがある。
中間、期末といったいわゆる定期テストの類がそれだ。
その試練は、皆に平等にやってくる。

時空管理局の局員として忙しく働くなのはやフェイトたちもその例に漏れることなく、
近づいた期末試験に向けて、アリサの提案でハラオウン家にて、
溜まった管理局組三人の宿題の処理を兼ねた勉強会を行うことと相成ったのであるが。

「買い物でも行ってるんじゃないの?」
「……かも」

に、しても。
アルフくらいは留守番しているはずなのだが、どうしたのだろう。
兄やエイミィは朝から仕事だとしても。

「ま、いいか」

怪訝に思いながらもフェイトは鞄から鍵をとりだし、
オートロックになっているマンションのホール玄関の扉へと差し込んだ。


魔法少女リリカルなのは A’s to the strikers

−ママは中学一年生−

第一話 息子(?)、来訪す


ピンポーン。

家の前まで来て、チャイムを鳴らしてみてもやはり、応答はなかった。
急な呼び出しでも、本局のほうからかかったのかも知れない。
今は後方任務の母やアルフとはいえ、ごくたまにそういうこともある。
一応、アルフに念話してみたけれど通じないことだし。
二人ともあれで、時空管理局の提督と、執務官付きで登録された使い魔なのだから。

だからさして、心配などはせず、深く考えずに先程と同じキーホルダーから、
今度は自宅の鍵を見繕って鍵穴に挿し、回す。
ほんの少しだけドアを細く開けてみると、案の定チェーンはかかっていなかった。
やはり、出かけているようだ。

「なんか、みんな出かけちゃってるみたいだけど───」
「あー!!フェイトママ、おかえりなさいー!!」
「───は?」

ただ、こればかりは案の定ではなかった。

数センチにも満たない、ドアの隙間から聞こえてきた幼い声。
さあ開こうかという扉の向こう側からなにやらどたどたと駆けてくる、乱暴な足音。
それらは予想だにしたものではない。

「え?」
「フェ?」
「イト?」
「ママですってえっ!?」

───今、なんとおっしゃいました?

思わずフェイトは、扉にかけた手を離す。

聞き捨てならない言葉、単語を耳にしたなのは達、そしてフェイト本人が動揺する中。
閉まりきっていなかったドアが勢いよく押し開かれ、一つの小さな影が飛び出してきて
フェイトへと飛びついた。

「わわっ!?」

さほど、重くはない。
むしろ小さく、軽い。
奇襲に近かったとはいえ、フェイトは軽くよたついただけで済んだ。
ぶつかるように飛び込んできた影は、しっかりとキャッチしている。

「……エリオ!?」

そしてそんな彼女の腕の中にあったのは、一人の幼い少年、子どもの姿であった。
開け放たれたドアの向こうには、子犬姿でへとへとになって床にへばる、アルフの惨状があった。

*   *   *

「で?父親はだれなの」
「だから違うったら……。信じてよ、アリサ、はやて……」

わずかに時を置いて、ハラオウン家のリビング。
なのはとすずかが少年の相手をしている側で、正座をさせられたフェイトが
はやてとアリサからの尋問(?)を受けていた。

「───孤児?」
「うん、この間担当した事件で……」

少年───というにもあまりにも幼い子ではあるが、
彼の名は、エリオ・モンディアルといった。
年齢は、四歳。先日フェイトが担当、解決した事件に巻き込まれていた子らしい。

「研究施設で、色々あったみたいで」
「さよかー……。でも」

事件を無事にフェイトが解決した後、彼女の手で保護しレティ提督の伝手で紹介された、
馴染みの孤児院へと引き取られた、ということなのだが。

「おもいっきり遊びにきとるなあ、ええんかあれ?」
「……うん」

勝手に抜け出してきた、とかじゃないといいんだけど。
今はなのはの膝の上でけらけら笑う彼を見て、
フェイトともども、はやても頭を抱える。

「───で、『ママ』ってのは何よ、一体」

一方で、疲れきった様子のアルフがソファでダウンしているのを横目で見ながら、
アリサが気になっていたことを繰り返し尋ねる。

「保護したくらいで『ママ』はないでしょ、『ママ』は」

アレは相当、あのエリオって子にもみくちゃにされて遊ばれたな。
不憫に思い予想しつつも、やっぱりそこが一番気になる。

「ああ、うん。『ママ』っていうのはやめなさい、って言ってるんだけど」

せめて「フェイトさん」くらいにしなさい、って。
微妙にずれた答えが返ってきたが、フェイトも承知の上でまずそれを答えたようで。

「そうじゃなくて」
「わかってるったら。で、それは」
「ふんふん」
「私が保護者って事になってるから」
「───は?」

保護者?

なんでもないことのように言われた言葉に、アリサとはやての目が点になる。
エリオと遊んでやりつつも聞いていたなのはとすずかも、顔を見合わせた。
二人ほどではないにしろ、彼女達も驚いている。

「法的には、うちの母さんが後見人になってはいるんだけど」
「ほ、保護者ってあんた……」
「アースラで保護して、しばらく相手してるうちに随分懐かれちゃって。だから」
「フェ、フェイトちゃん……それはつまり、まさか」

ぱくぱくと金魚のように口を開閉し、わなわなと身体を震わせる二人に気付くことなく、
その時のことを懐かしむように目を細め笑顔を浮かべるフェイト。

「事件に臨むだけじゃなくて、これからはこういう子たちの面倒もみていきたいな、って思ったんだ」

だがしかし、アリサたちの表情はとても、納得や同意を含んだものではなく。

「「その歳で、一児の母ってこと(なんか)っ!?」」

心からの笑みを向ける彼女に、遂に二人は叫んだ。
当然、彼女の吐いた言葉など、聞いてはいなかった。
シュベルトクロイツの中で寝ていたリインフォースが、飛び起きた。

顔に唾が飛びそうな距離で言い放たれた大声に、フェイトはきょとんとし。
彼女たちの言わんとするところのことを理解できぬまま、やや間を置いて。

「えっと。……うん、そうなるね」

こくりと小さく頷いた。半ば、首を傾げるようにしつつ。

後になってこのことを思い出し、言葉と驚きの意味を理解してフェイトは密かに思った。
既に一児どころか五人の家族の大黒柱であるはやてにだけは言われたくない、と。

*   *   *

「それじゃ、ちゃんと外泊許可はもらった上でのことなんですね」

さすがにこれでは宿題もやりようがないだろうと、なのはたちが帰宅した後。
入れ替わるように、フェイトが制服から着替え終わったタイミングでリンディが帰宅した。

開口一番エリオのことについて問い質したフェイトに、彼女の答えは明瞭であった。

「当たり前でしょう?きちんと孤児院の係の方が送ってきて下さったし」
「そっか、よかった」
「やあねえ、いくらなんでも魔法の使い方も知らないあんな歳の子が、一人でここまでこれるわけないじゃない」
「そ、そうですね」

ハンガーを片手にリンディから上着を受け取り、安堵の溜息をつく。
大袈裟な娘の様子に、母は呆れたように笑った。

「二泊三日の予定だって聞いてるわ。まあ、出がけに書き置きくらい残しておくべきだったかもしれないけれど」
「ああ、いえ。そんなことはないです、母さん」

事務方のリンディが急に呼び出されたのは、戦技教導隊のなのはと、フェイトが共同で立ち上げた
とあるプロジェクトに関する折衝、改善案などについての緊急会議によるものである。
申し訳なくこそ思えど、不満やああしろこうしろなどと母親であっても言えるものではない。

なにしろ計画を立ち上げた二人が事件で飛び回っていることが多いのだ。
その分、後方の事務にかける迷惑や負担は大きい。
そういった点はフェイトも、重々承知している。

「えー!?あと三日もあいついるのか!?」
「アルフ」
「ほらほら、そういうこと言わないの」

リンディとフェイトの留守中、相手をさせられへとへとになるまでもみくちゃにされた
アルフが不満の声をあげると、リンディがたしなめる。
更には主であるフェイトにも眉を吊り上げられ、しゅんとなる。
フェイトやリンディの仕事を考えると、家にいることの多い彼女が必然的にエリオの相手をすることが多くなる。
子守りの大変さを今日身をもって痛感したアルフとしては、抗議の声をあげたくもなるだろう。
むしろ子守りというより、一方的な被害者にしか傍目には見えなかったわけだし。

「でもー……」
「でも、じゃないよ。いくらなんでも学校や仕事にはエリオを連れていけないでしょ」

そんなにこねくりまわされるのが嫌なら、子供や子犬の姿ではなく
以前の大人モードを使えばいいのではないかと思うのだが、「フェイトの負担を減らすため」に
この姿をとっている以上、彼女としてはそれはNGらしい。

子守りの負担を減らすために魔力の負担を増やしたら本末転倒だ、とかなんとか。
別に戦闘にでもならないかぎり魔力消費はそこまで大したものにはならないし、
フェイトはどちらでもかまわないのだが。

「……わかった」
「ありがと、アルフ」

渋々頷くアルフの頭を撫でてやる。
フェイトが執務官になった頃からだろうか。二人の身長の差が、逆転したのは。

フェイトは、大きく、たくましく変わっていき。
アルフは彼女の邪魔にならぬように自身を変えていった。

「さ、それじゃ夕飯の支度しましょ。幸い今日はクロノもエイミィも定時で帰れると聞いているし」
「よかった、それなら」
「エリオくんが来ているんだものね。ごちそうにしましょう」
「はいっ」

本当に孫の顔を見るのは、もう少し先だろうけれど。
予行演習みたいなものかしらね。

強く頷いたフェイトは、煮え切らない息子とその恋人に思いを馳せた母の心情に気付きもしなかった。
気付いたところでどうせ、一緒になって溜息をつくだけにしかならないのは目に見えているが。

ソファで、かけられた毛布の中すやすやと眠る幼子を背に、
母と子は晩餐の支度を始めたのであった。

……つづく

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目次:−ママは中学一年生−
著者:640

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