魔法少女リリカルなのはA's++

[173]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/28(火) 00:35:15 ID:hqCBC3lR
[174]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/28(火) 00:35:49 ID:hqCBC3lR
[175]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/28(火) 00:36:30 ID:hqCBC3lR
[176]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/28(火) 00:37:04 ID:hqCBC3lR
[177]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/28(火) 00:37:43 ID:hqCBC3lR
[178]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/28(火) 00:38:20 ID:hqCBC3lR
[179]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/28(火) 00:38:57 ID:hqCBC3lR
[180]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/28(火) 00:43:31 ID:hqCBC3lR

暗雲が大地を覆い、木々は吹き荒れる。それはまるで今のなのはの心を表したかのようだった。
自分の背中を守ってくれていた少年が、自分を撃つと言っている。
見ている全てを疑いたくなる。仲間であり、幼馴染であり、大切な人…。
その人が今、自分の前に立ちはだかっているのだ。
少年は黒服をバリアジャケットに変える。その姿もまた、見たことのあるものだった。
間違いであってほしいともがく自分と、現実を受け入れないといけないと叱咤する自分。
そのアンビヴァレンスがなのはの心を苦しめる。
喉の奥から搾り出すようになのはは声を上げた。
「お願い!理由を聞かせて!!」
その声を聞いてもユーノは無表情になのはを見つめていた。
管理局を裏切った理由が、戦わなくてもいい選択肢があるはずだ。
なのははユーノの次の言葉を待った。きっと考え直してくれる。そんな淡い期待を込めて。
しかし、返ってきた言葉はその全てを否定するものだった。
「杖をかまえて…」
なのはは目を見開いた。ユーノの決意は固い。
ぽつぽつと雨が降り始め、だんだんと雨脚は激しくなってくる。
まるで餌を前に猛獣が喉を鳴らしているかのように暗雲の中で雷が蠢く。
なのはは悟った。たぶんこのまま戦いは回避できない。ユーノがそれを強く望んでいる。
それがわかったら涙が溢れてきた。しかし、その涙も頬に当たる雨で流される。
「僕と戦うんだ」
「なんで!?そんなのできない…できないよ!!!」
腰の後ろから短剣を取り出したユーノになのはは必死に叫んだ。
ユーノが両手に持つその刃はそれぞれ違う形状をしていた。
明確な敵意。武器を向けることがそれを如実に表している。
ユーノのその迷いのない瞳がなのはを怯えさせた。
つい数週間前には遊園地に行く約束をしたはずなのに。何が彼をここまで突き動かすのだろうか。
「引けないんだ。それに、引かせるわけにもいかない。だから…」
夢なら覚めてほしい。そんな子供のような願いすら、なのはは願わずにいられなかった。
(ユーノ君…どうして…?)
震える手でレイジングハートを握り締める。そしてユーノは武器を構え、叫んだ。
「だから、僕と戦え!!!」
稲光りとともにユーノは高速で向かってきた。それになのはは反応し杖を構えるが、動けない。
その瞬間レイジングハートがキラリと光った。
『Axelfin』
その声になのははハッとし瞬時に魔力を込め、上空へと急上昇する。ユーノはその高速移動にナイフを空振りした。
無意識の行動にぼんやりとしながらもなのはは上空からユーノを見下ろした。
ユーノもこちらを見上げているようだが暗闇でその表情はよく見えない。
『Be steady, master』(しっかりしてください、マスター)
いまだに現状に困惑しているなのはにレイジングハートははっきりと言った。
『He has the possibility to be brainwashed』(彼は洗脳されている可能性があります)
「えぇ!?」
自信満々に(?)そう言い放ったレイジングハートになのはは驚きの声を上げた。
たしかにユーノにあるまじき行動だし、その理由はいまだにわからない。
可能性がないこともない。それでも、はっきりとした意志と普段のユーノの雰囲気がなのはを惑わせる。
もしかしたらこの発言はレイジングハートなりの励ましなのかもしれない。
『We will make him wake up』(目を覚まさせてやりましょう)
その強気な言葉になのはは苦笑した。そうだ。相手が言うことを聞いてくれない時は、戦ってでも理由を聞く。
今までだってそうしてきたのだ。荒っぽいかもしれないが、相手もそれで満足するならやむを得ない。
考えていても、迷っていてもしかたがない。
「うん!そうだね。ゴメンね、心配かけて」
『All right』(かまいません)
ぐっとレイジンハートを握りしめ、なのははユーノをしっかりと見据えた。
彼が間違いを犯しているなら、それを自分が止めなければならない。止める力、変える力こそ、彼との出会いで得た力。
「絶対負けないから、お話聞かせてね!」
『Ignition』
レイジングハートがエクセリオンモードに形を変える。なのはが本気の証だ。
それを見てユーノは微笑んだ。
(そう、それでいいんだ)
ユーノも左手のダガーを握り締め命令する。
「ディフェンス」
『Mode:MAIN GAUCHE』
無機質な声とともにダガーの液晶が青紫色に光る。
「シュート!!」
『Accel Shooter』
レイジングハートから6発の光弾が飛び出す。それを見た瞬間、ユーノはなのはに向かって高速で飛び出した。
そして迎撃するために飛んでくる光弾を次々とかわす。
(ごめん!!)
なのはが意識を集中すると、ユーノの死角の真後ろから2つの光弾が飛び出す。
しかし、着弾するかと思われた瞬間ユーノの周りに緑色の光の球が姿を現し光弾を逸らした。
「!?」
スフィアプロテクションがユーノを常時包んでいるようだ。
「はあああ!!!」
数メートル手前まで来たユーノが右腕を振り上げる。
なのははアクセルシューターの制御を中断し回避行動をとる。
『flash move』
「遅いよ!!」
ユーノがレバーを引くとナイフから緑色の魔力光があふれ、魔力の刃が形成される。
「なっ!?」
避けきれない!そう思ったなのははとっさに一番近くにあったアクセルシューターの一つを自分にぶつける。
その強い衝撃とともになのは弾き出され、ユーノは煙に包まれる。
弾き飛ばされ天地が逆さになりながらも、なのはは叫んだ。
「カートリッジロード!」
『Load cartridge』
ガシュッとカートリッジがロードされる。
「ブレイクシュート!!」
『Barrel shot』
体勢を立て直すと同時にエクセリオンバスターを煙に向かって発射する。
煙を晴らしながら緑色の魔法陣があらわれ、完全にバスターを弾く。
放出しながらなのはは思考を巡らした。ユーノの方がわずかながらスピードが上。
距離を置くと盾を貫けない。スターライトブレイカーを撃つ余裕はない。
この攻撃が終われば必ず射程内に入ってくるだろう。ユーノは魔力が切れる前にカタをつけるつもりだ。
…ならばこちらも取る手段は一つ。

ユーノはシールドを展開しながらなのはを見た。おそらく今の数回の接触でこちらの武器の性能はだいたいわかってしまっただろう。
だとするとなおさら次で決着をつける必要がある。スフィアプロテクションも展開するごとにユーノの魔力を奪っていっている。
この距離なら逃げられる前にクロスレンジ(接近戦距離)に入ることができる。今度は避けさせない。

なのはとユーノの目が合う。
お互いを知り尽くしているからこそ、次の行動がわかった。
桜色の魔力の帯が消えると同時にユーノは飛び出した。
激しい雨を弾きながら突進してくるユーノになのはは杖を構える。
『Protection Powered』
カートリッジがロードされ、杖の前に波状のシールドが形成される。
「オフェンス!!」
『Mode:OBELISK』
ユーノの叫びと同時に左手のダガーの表示が変わる。
ダガーを突き立てると、激しい火花が散った。
『Barrier Burst』
シールドに波紋が生じ、爆発を起こそうとする。
『Break in』
レイジングハートのバリアバーストを瞬時にセイクリッドスコアがキャンセルする。
しかしカートリッジによる強化で、バリアブレイクプログラムはプロテクションパワードを消し去れない。
ユーノはジャックナイフを握り締めた。なのはの強固なシールドを破るために作った2本の刃。
二種類のバリア破壊連撃による防御魔法絶対突破。それがこの二つの武器の真の特性だ。
弱められたプロテクションパワードを見て、なのははカートリッジを続けて二発ロードした。
『A. C. S., standby』
『Mode:MAIN GAUCHE』
それに反応するかのように、再びユーノはスフィアプロテクションに包まれる。
なのはが魔法陣を展開すると、杖の先端にストライクフレームが形成される。
二人の考えていることは同じだった。

(シールドごと切り裂く!!)

(バリアごと撃ち抜く!!)

ユーノは右腕を後方へと下げ、なのはが杖をユーノに向けた。
「フルエミッション!!」
ユーノがナイフのレバーを限界まで引き絞り右腕に全ての魔力を込める。
「エクセリオン!!」
なのはが高速で突撃するため構える。

「スラッシュ!!!!」「バスターーー!!!!」

そして、二人は桜色と緑色の光に包まれた。

                 *

「サンダーフォール!!」
「うわっ!」
巨大な落雷がエリオの真上に落ちるが、シールドがそれを阻んだ。
完全に防ぎきっているのだが、シールドを展開しているエリオ本人はフェイトの魔法の威力に完全に気後れしている。
(やっぱり挑発したのがいけなかったのかな…)
こちらを鋭い瞳で見てくるフェイトを見てエリオは心の中で後悔した。
ユーノにはなるべく会話をして時間を稼いでほしいと言われていたがつい格好をつけてしまった。
言ってみれば調子に乗ったのである。
恐ろしいほどの魔力攻撃を受けているエリオはたじたじだった。なにしろ実践は初めてに近い。
(これがホントの戦いなんだ…)
自分を狙ってくる衝撃と轟音。
想像していたのとは全く違うその緊迫した雰囲気に、エリオは完全に飲まれてしまっていた。
その様子を観察しながらフェイトは考えていた。
相手は弱い。それは手合わせしてすぐわかった。なにより攻撃を受ける瞬間目をつぶっているのだ。
しかし、フェイトの攻撃はことごとく回避、または防御されていた。
ランクの高い魔法を繰り出しているにもかかわらずだ。
だがその謎も先ほどのサンダーフォールで全て解けた。
攻撃を受けた後をよく見るとエリオのシールドに雷撃が吸収されている。
そしてフェイトはある結論に至った。
(エリオ・スクライアの魔力変換資質は……水)
変換の資質の中でも「炎」「電気」資質は比較的多い。フェイトは初めて水の資質の持ち主と出会った。
フェイトの魔法は電気に変換するものが多く、エリオはそれらを水に帯電させることで衝撃を半分以下にしているようだ。
意識してやっているのか無意識にやっているのかはわからなかったが、自分との相性は最悪だ。
(でも…)
フェイトは杖を握り締める。
「バルディッシュ、ザンバーフォーム」
『Yes, sir. Zamber form』
カートリッジをロードしたバルディッシュがその形を大剣へと変える。いつまでも時間をかけていられない。
相性を魔力差でカバーし、全てを切り崩す斬撃でケリをつける。
エリオは大剣を構えたフェイトを目を見開いて見ていた。
(あれが…エースの力…)
力強い、畏怖とともに魅了をも覚えさせる神々しさをもった金色の剣。
あれがその残酷な運命すらも切り開いたフェイト・テスタロッサ、いや、フェイト・T・ハラオウンの力だ。
(あれくらいの力が僕にもあれば…!)
エリオはそれを見ながら歯軋りした。生まれ持った才能が、自分との差を見せつけてくる。
『Let's do now as he said』(今は彼の言った通りにしましょう)
するとフォーチューンが声をかけてきた。ユーノも無理はしないでと何度も言っていたが、
エリオはエースくらいなんとかなると思っていた。しかし、今その圧倒的な力の差を見せ付けられ、その考えは消えうせた。
ユーノから言われた作戦通りにするしかない。思ったより時間は稼げたことだし、もう十分だろう。
「しょうがないか…」
溜息を吐きながらフェイトに杖を向ける。これから一矢でも報いることが出来るのだからそれはそれで喜ぶべきことかもしれない。
杖を向けられたフェイトはバルディッシュを腰の脇に構える。
『Sonic Move』
次の瞬間、エリオの視界からフェイトが消えた。
「大気の精エアリエルの名の下に、我が調べを万物の魂に刻め」
それでもエリオは全く動揺せず詠唱した。
(今だ!!!)
エリオの真後ろに姿を現したフェイトが大きくバルディッシュを振りかぶる。
終わりだ、そう思った瞬間、エリオに真下に藍色の魔法陣が出現する。
「テンペスト」
『tune the harmonic』
「!?」
そして耳障りな超高音がフェイトの脳を刺激する。
あまりの激痛にフェイトはバルディッシュを落としそうになった。
「ああああっ!?くぅっ!!」
耳を押さえて苦しむフェイト。集中できずに魔法を維持できない。ザンバーフォームの光の刃が消えた。
かろうじて飛行魔法を続けるものの、ふらふらと漂うのが限界だった。思考すらも遮るほどの高音が頭に響き続ける。
「耳を押さえたって無駄だよ……って言っても聞こえないだろうけど」
エリオはすいっとフェイトから離れる。エリオの魔法、テンペスト。
魔力で何千倍にも増幅した念話を飛ばすことで生き物全ての行動を一定時間不能にする魔法。
空気中と生体の水分を媒介に対象の脳へと到達するため回避は不可能だ。
この魔法の欠点は、無差別なこと。自分以外の半径3キロメートルにいる全てにその効力を発揮する。
森の中でも木の上にいる小動物がぼとぼとと落下し、大型の猛獣も丸くなって苦しんでいた。
今日は雨で湿度は100%。なおさらよく響いているだろう。
「一曲5分、まあ楽しんでいってよ」
目を閉じ、まるでタクトのようにフォーチューンを振るエリオを、フェイトは苦しそうに見つめた。

                 *

激しい雨が降り続き、遠くで増水した川の流れが聞こえた。
闇の中で、赤い光と薄い緑色がぼんやりと光っていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「…………」
ユーノは右腕をがっくりと下げながら荒い息を吐き、なのははその姿を痛々しげに見つめていた。
ユーノの右手にはナイフは無く、ダガーを持った左手で肩を押さえていた。どうやら衝撃で脱臼したようだ。
「もうやめよう…」
なのはが言った。ユーノのその姿を見ていることがなによりつらかった。
これがエースとの差。レイジングハートの宝玉に大きな傷がついたが、なのはは全くの無傷であった。
なのはの魔力はまだまだ余力があるが、ユーノの魔力は限りなく少ない。
ユーノのスフィアプロテクションは貫かれて穴が開き、今はかろうじて薄っすらと点滅を繰り返していた。
とにかくなのはは、ユーノがなぜここまでするのか知りたかった。
「私の…勝ちだよね」
杖を降ろし、なのはが静かに続ける。勝ったら理由を教えてくれる。
少なくとも聞く権利が自分にはある。するとユーノの口が小さく開いた。
話を聞けると思った矢先、ユーノから返ってきたのは驚くべき言葉だった。

「……いや、僕の勝ちだ」

顔を上げてそう言うユーノの瞳は、勝利の確信に満ち溢れていた。

次回へ続く

ユーノの裏切りにクロノは…。

次回 第十五話 「決心」

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著者:396

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