魔法少女リリカルなのはA's++

[203]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/12/02(土) 01:10:01 ID:44tr59mw
[204]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/12/02(土) 01:10:37 ID:44tr59mw
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[210]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/12/02(土) 01:17:03 ID:44tr59mw

「僕の勝ちだ」

ユーノがそう口にした時、レイジングハートが輝いた。
宝玉についた傷を直す自動修復が行われる…そう思われた瞬間、レイジングハートが発したトリガーは驚くべきものだった。

『Divide Energy』
「えっ!?」

なのはが驚きの声を上げるとともに、桜色の光がユーノに向かって流れ込んだ。
全魔力の供給。一瞬での膨大な魔力の喪失になのははまるでゼンマイの切れた人形のように気を失い落下した。
ユーノはすかさずなのはの下に回りこみダガーをしまった左腕で抱き上げる。
しかし片腕では思うように支えられず魔力の調整もうまくいかない。みるみるうちに高度が下がっていった。
「くっ!!」
眼前に広がる木々。ユーノは咄嗟に自分を下にしてなのはの頭を抱える。
枝の折れる音と葉のすれる音に包まれながらも二人は落下を続け、森の闇へと消えていった。

                 *

(なんとか……しなくちゃ…!!)
フェイトは頭を抱えながらエリオを見つめた。
激痛で飛行を維持するのが精一杯だが、現状を打破しなければ反撃に出ることが出来ない。
相手の念話は全周波数に飛んでいる上に強制的に遮断ができない。防ぐ手段が皆無だった。
ただ一つ幸運なことは、この魔法を発動中はエリオはほぼ何も出来ない状態にあることだった。
おそらくこれほどの強力な念話を広範囲に飛ばし続ければすぐに魔力が切れる。
魔法を解除した瞬間が狙い目だ。

エリオは薄目を開けると目の前では反撃のチャンスを待ち続けるようにフェイトが睨んでいた。
(うわ…あれ絶対怒ってるだろうなぁ…)
加虐の趣味があるわけではないが、自分よりもいくつもランクが上の魔導師を屈服させている感覚に酔いしれていたエリオは
それを見てすぐに現実に引き戻された。
自分の魔力も残り少ない。転移魔法の分は残しておく必要がある。
逃げ切れなかったことを想像してエリオは身震いした。
「それじゃあそろそろ引き上げますか」
『Fine』(フィーネ)
曲の終わりの合図とともにフォーチューンの宝玉の輝きが消える。
すかさずエリオは転移魔法陣を展開した。
(逃が…さない!!!くっ!?)
フェイトはその行動を見て杖を構えたが頭の激痛と高音が今もなお響き続けている。
(どうして!?)
エリオの魔法はすでに消えているはずである。フェイトは歯軋りしながら必死で魔法を使おうとしたが集中できない。
その様子を見ながらエリオは魔法陣の中から笑顔で手を振った。すでに転移魔法陣は完成している。
「行か…せるかぁ!!!」
精神力と根性を振り絞りフェイトは魔力弾を飛ばす。しかし、あと一歩というところでエリオの姿は空間から消えうせた。
「もうっ!!」
『…………』
フェイトには珍しく声に出して悔しさをあらわにし、バルディッシュは自分の不甲斐なさに沈黙を続けた。
インテリジェントデバイスには自動防御と自動修復の機能はあっても自動攻撃機能はない。
そもそも主人の魔力を機械の意志で奪うことは危険性を伴うのだ。
しばらくすると脳を刺激していた高音が徐々に小さくなり、辺りは激しい雨の音だけが支配した。
フェイトはぎゅっとバルディッシュを握り締めた。
「帰ろう…」
『Yes, sir』
マントをひるがえし、フェイトはアースラへと飛んで行った。

(はぁ…危なかったぁ…)
エリオは空間転移を続けながらほっと胸を撫で下ろした。最後の魔力弾は本当に当たるかと思った。
まさかディミヌエンド中に攻撃をしかけてくる人がいるとは思わなかった。
エリオのテンペストは術終了後もだんだん効果を弱めながらしばらく対象に影響を与え続ける。
これをエリオはディミヌエンドと呼んでいた。フォーチューンは
『This is “echo”』(これはエコーですよ)
と言っていたが名前はカッコいい方が良いに決まっている。
(もっといい名前があるかも…)
エリオはそんなことに頭を捻りながら転移を続けた。

                 *

ガサガサと葉を掻き分けながらユーノは一本の木に近づいた。森の中は上空ほど雨が激しくなかったが、
葉に溜まった大粒の雨水がぼたぼたとユーノに降り注いでいた。地面はぬかるみ靴の中は水浸しで気持ちが悪い。
背中から地面に叩きつけられたことでユーノは激しく体を痛めていた。しかしなのはが無傷であったのでそれで十分だった。
「ぐ!あぁっ!!」
木に思い切り右肩をぶつけて関節を入れ直す。その衝撃に激痛が走った。
それでも指がじんわりと熱くなるような感覚を覚え、動かすことができた。指を開いたり閉じたりして少し慣らす。
葉の上に寝かせていたなのはを背負いユーノはある物を探した。
魔力反応を頼りにしばらく散策すると、ある巨木の根にたどり着いた。
「見つけた…」
その近くに落ちていた淡い緑色を放っているナイフを拾い上げる。
内部にわずかばかり蓄積されていた魔力がユーノにその場所を知らせていたのだ。
なのはとの戦いを終えた今その役割は終えていたが、この先使うことがあるかもしれない。
そう思ったユーノは回収を決めたのだった。
「!?」
なのはを落とさないように気をつけながら拾い上げた瞬間、後ろで何か生き物の気配がした。
急いで振り向き身構える。といってもなのはを背負っているので片腕しか使えない。
「安心しろ。獣じゃねえ」
声とともに暗闇の中から黒マントの影が現われる。
顔ははっきり見えなかったが、ユーノはその人影が何なのかをすぐ理解した。
「ばっちり記録できたぜ」
男はそう言うと大きなレンズの付いた装置を懐から取り出した。
ユーノがアースラをハッキングで混乱に陥れる前にサイオンに連絡したこと。
それはエースとの戦闘データを記録する人間を一人よこしてほしい、ということだった。
暗い森の中でぼんやりと見えたその男は20代半ばくらいの比較的若い男だった。
「それにしてもどうやったんだ?大逆転劇だったじゃねーか」
男はじろじろとユーノを見ながら言った。ユーノは気分がすぐれなかったが、
サイオンの遣いには報告義務があるので答えることにした。
「インテリジェントデバイスには自動で主の魔力を奪いコマンドを実行するオートガードとリカバリーの機能があります。
そして彼女は過去に自分の魔力の半分を他人に与えるコマンドを使ったことがある。
僕はただ、そのコマンドをリカバリーと交換しループ処理を施し、自動再起させただけです」
二分の一の二分の一の二分の一…それを繰り返せば極限値は0だ。
発動高速化のためインテリジェントデバイスに蓄積されている過去の呪文とはいえ、
誤魔化せるのは前の主の権限を使っても一回きり。しかし、その一回で十分だった。
今のユーノにはなのはの残存魔力の全てが受け継がれている。退避場所として一時的にリンカーコア以外の肉体に
魔力を貯め、腰のポシェットにあるカートリッジに魔力を込めながら負荷を軽減しているが、少しずつなのはの魔力は
ユーノのリンカーコアへと定着し始めていた。このままではユーノのリンカーコアはその膨大な魔力に耐え切れずに
崩壊するだろう。早く次の予定に移らなければならない。
「なんだ。つまんねーの」
男はふんっと鼻を鳴らしてユーノに言った。てっきり新しい魔法を使って倒したと思っていたからだ。
「それでも、勝ちは勝ちです」
ユーノはなのはを一度背負い直しながら男を見て言った。
サイオンの条件は満たしているし、そのことを伝えてもらわなければならない。しかし、その前にこの男にはやってもらうことがある。
「一つ頼みたいことがあるんですが、いいですか?」
「あぁ?」
ユーノの突然の申し出に男は顎を上げた。
「この子を、この場所に連れて行ってほしいんです。このままでは風邪を引いてしまう」
ユーノが取り出した端末の画面には三角印である場所が示されていた。
「…ま、いいもん見せてもらったし、帰るついでに行ってやるよ」
男は少し考えたが了承した。魔力の空になった魔導師は無力に等しい。危険性がないことは理解できた。
そして男はユーノから少女を受け取り抱えた。
(なんだよ…めちゃくちゃ可愛いじゃねーか)
男は自分の腕の中で気を失っている少女の顔をまじまじと見た。
戦っている姿を見ていたときは遠目でよくわからなかったが、こんな可愛らしい少女だったとは思わなかった。
グランディア船内には女性はいない。この男にとって久しぶりの異性との接触だった。
(こりゃあ役得かもしれねーぞ)
腕の感覚に集中すると、女性特有の柔らかさを感じた。
改めて自分の腕の中にいる少女を見る。濡れた姿もまたそそるものがあった。
わざわざこんな雨の中、寒い思いをしてビデオ撮影に来たのだ。多少の甘露があってもバチは当たらないだろう。
風邪を引かないように服を脱がして…そこまで妄想した時、少年が声をかけてきた。
「その子に何かしてみろ……」
男は顔を上げその少年を見た。エメラルド色の鋭い瞳と目が合う。


―――――お前を殺す


少年の言葉に何が続くのか、男は瞬時に理解した。ふいに少年の手の中にあるナイフが目に入る。
エッジから雨水が垂れ、まるで血がしたたっているかのように見えた。足が震え、背筋が寒くなる。
体は完全に目の前の少年に恐怖を覚えていた。
「な…何もしねーよ…」
震える声を押し隠すように男は言った。
この少年を船内で見かけた時の第一印象は、痩せっぽちで覇気が無く、誰にでも敬語で話す情けない少年、というものだった。
人質を取ればなんでも言うことを聞き、どんな任務にも文句すら言えない優男。
しかし、今はどうだろう。男は首元にナイフを押し付けられている感覚に陥っていた。
たぶんこの少女に何かしたら、こいつは次元の果てだろうと追いかけてくる。
その瞳に宿る意志は、男が今までに見た誰よりも強く、恐ろしかった。
『優しい人間を怒らせてはいけない』
男は生まれて初めてそのことを実感した。
「それじゃあ、僕はアースラにやり残したことがあるので後はお願いします」
少年は変身魔法を使い姿を変える。男は呆然とした表情でそれを見ていた。
お尋ね者の身でまた戦艦に乗り込むとはなんとも大胆だが、その変身した姿を見て少年の度胸に感心した。
そして少年が飛び去った後、男も指定された場所に少女を運ぶために転移魔法を展開した。
(あいつは…早く切り捨てないとやばい)
転移中、男は眉間にしわを寄せながら思った。自分達のリーダーであるサイオンはあの少年を最大限利用するつもりのようだが、
早く始末をつけなければ、必ず何かをしでかす。それも、全てをひっくり返すような何かを。
男はサイオンへの進言を堅く心に誓った。

                 *

『システムオールグリーン』
機械的な音声とともに赤く点滅を続けていたアースラのメインモニターが正常に戻る。
艦内の局員達から安堵の声が漏れるが、その表情は曇っていた。
「被害状況の確認を」
クロノは無表情にエイミィに言った。
「通信装置、AMF発生装置が物理的に破壊された以外は特にシステム面での問題はないわ。
ただ、AMF発生装置の方は艦内で直すことは不可能ね。本局に戻って入れ替えないと」
モニターには、綺麗に両断された装置が映し出された。
「あれ、たっかいのにねぇ……」
エイミィがぼそりと愚痴った。様々な高性能機器を積んでいるアースラの中でも、イレギュラーな魔法を自動でキャンセルする
AMF発生装置の値段は小さな船が買えるほどだ。
「なぜ警報が鳴らなかった」
クロノは腕を組んだまま尋ねた。それらの機材が壊されていたのはアースラがハッキングされる数分前だったからだ。
「それは、まず最初にハッキングされたのが警報装置及びその機能だったからよ。つまり、ハッキングを知らせる警報自体が
プログラムによって任意に動作してたってこと」
エイミィがコンソールを操作すると、プログラムの文字列が画面いっぱいに映し出された。
「ハッキングプログラム自体は、自己診断を繰り返しながら艦内のコンピュータ内を移動し、全てのコンピュータを擬似的に並列化
することで自立思考し命令を下す、人工知能の初期理論を応用したものだったわ。
コンピュータ同士を環状に繋ぐことで単純化して処理を早め、表と裏の二つのリンクで繋ぐことで遮断を防いでいたみたい。
リポジトリ内の実行ファイル名からその名前は“メビウス”のようね」
エイミィが作った簡易の概念図に局員達が見入った。
「…犯人の名前を言うんだ」
クロノは搾り出すように言った。もうすでに特定はできていた。事件発生前にアースラに乗り込み、現在いない者。
アースラのシステムにはそのログが残っていた。しかし、全ての局員にそのことを知らせなければならない。
エイミィはしばらく手を止め逡巡したが、コンソールのボタンを押した。
「…ハッキング及び逃走ほう助の犯人はユーノ・スクライアとエリオ・スクライアの両名。
戦闘中のモニターは結界とハッキングでできなかったもののフェイトちゃんの証言から
エリオ・スクライアが加担していたことは確定済み」
フェイトは苦々しげにモニターのエリオの画像を見ていた。
みすみす逃がしたのは自分の責任。そしてなにより重要な手がかりを失ってしまったのだ。
そしてユーノ。彼が裏切ったことは衝撃だったが、何か理由があるのは明白だったので今あるのは友人としての怒りだけだ。
(なのはを悲しませるなんて、許せない)
フェイトがそう思っていると、桜色の魔法陣が現われ、なのはが姿を現した。
「なのは!!」
フェイトが駆け寄ると、なのはは疲れたようにうなだれていた。
ユーノと戦って逃げられた、というなのはからの知らせを聞いていたフェイトは、なのはの心中を察して胸が苦しくなっていた。
「なのはちゃん、魔力値が不安定だけど、大丈夫?」
「…大丈夫です」
エイミィが心配そうに声をかけると、なのはが元気なさげに答えた。
「本当に、ユーノ君だった?」
「……はい」
エイミィの質問に言いにくそうになのはは答えた。しょうがないことだ、とエイミィは思った。
あのユーノ君が管理局を裏切り、なのはちゃんに刃を向けた。
理由があるにしろ、それが今わかっている事実なのだ。
「捕まえていた2人の身元が判明しました。どちらもスクライア一族のようです」
ランディがモニターに映像を出す。
「首輪は枷、ということか…」
クロノが口元に手を乗せ考えた。スクライア一族が何者かに脅され強盗し、ユーノが捕らえられた2人を逃がした。
そこまではすぐに推理できた。しかし…
「それにしては、準備が良すぎるな」
あれだけのプログラムが一朝一夕でできるとも考えにくい。少なくとも計画的な犯行であることは確かだ。
「そんなことより!」
珍しくフェイトが声を荒げた。
「早くユーノ達を追いかけよう」
フェイトがクロノに言った。フェイトはユーノを信頼していないわけではないが、現にこうして何も言わずになのはに刃を向けたのだ。
一言言ってやりたくてしょうがなかった。しかし、クロノはその進言に渋い顔をしたまま黙っていた。
このまま本局に報告しアースラで追えば、ユーノは世界中から指名手配される。
たとえ理由があるにしろ、管理局全体から追われることになるのだ。
事件の早期解決のために、時空管理局では解決方法は各艦の裁量に任せられている。
きっと自分が関われない部分も出てくるに違いない。ユーノは大切な友人だ。からかったり文句を言ったり、
仲が良くないと思っている人間もいるが、クロノが唯一心を許せる同性の友達なのだ。
何も言わずに逃げたと言うことは、それ相応の理由があるはずだ。
クロノは閉じていた目を開いて叫んだ。

「今回の一件の本局への報告及び他言の一切を禁じる!アースラはこのまま待機だ!」
「!?」

フェイトは義兄のそのあり得ない決定に目を見開いた。

次回へ続く

クロノの決定に揺れるアースラ。
そしてはやて達もアースラに合流する。

次回 第十六話 「信じる心、疑う心」

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著者:396

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