魔法少女リリカルなのはA's++

[21]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/09(木) 02:26:51 ID:kYi5sy9F
[22]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/09(木) 02:28:09 ID:kYi5sy9F
[23]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/09(木) 02:28:53 ID:kYi5sy9F
[24]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/09(木) 02:29:53 ID:kYi5sy9F
[25]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/09(木) 02:30:37 ID:kYi5sy9F
[26]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/09(木) 02:31:20 ID:kYi5sy9F
[27]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/09(木) 02:32:03 ID:kYi5sy9F
[28]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/09(木) 02:32:56 ID:kYi5sy9F
[29]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/09(木) 02:33:57 ID:kYi5sy9F

「…ユーノ、終わったよ」
「…………」

大小様々な箱が散らばる部屋の中、何もない空間から二つの人影が姿を現した。
空間に溶け込む迷彩を発生させる魔法、ミラージュハイドを解除しながらエリオはユーノを見たが、ユーノは始終無言だった。
最近のユーノはめっきり口数が減った。普段の仕事の疲れに加え、アースラを奪うための下準備、
そして何より裏切りによる良心の呵責で精神的に疲労しきっていたからだ。
先ほどもアースラ内の12箇所に、転移魔法を発動させるための補助装置を設置してきたばかりだ。
計画で使用する魔法はかなり巨大である上に生体反応のみを感知させる必要があり、12個のインターフェースが
発動範囲などの情報を送り、送られてきた情報をグランディアのコンピュータで処理しながら発動させる仕組みにしてある。
補助装置1個の大きさ一辺10センチの黒い立方体で、ユーノ達が自分で持ち込むことも十分可能だったが
少しでも疑われることを恐れたユーノは今回別の方法で持ち込むことにした。
それはユーノ達が今アースラにいる理由にも関係がある。
今日は月に一度のデバイスのメンテナンスの日であり、普段は本局で行うのだがフェイトの任務が重なったために
アースラで行うことになっていた。そのためいつも一緒にメンテナンスしているなのはとマリーもともにアースラにいる。
交換する部品はある程度決まっていたので、ユーノがその発注を行い、
送られてくる荷物に目的の装置をあらかじめ忍ばせたのである。
そのため発注先を一族を人質にしている運送会社を利用する製品工場にした。
そうしてなんなく装置を持ち込んだユーノはメンテナンスが始まる前にアースラ内に設置したというわけだ。

「メンテナンスが始まって15分経ってるね。マリーさんには僕から遅れると伝えてあるから大丈夫だけど」
「ああ。ありがとう」
少しぼんやりとしていたユーノはエリオの言葉に気付いたように返事をした。
エリオは秘書としてスケジュール管理の面でユーノのしっかりサポートしていた。
具体的な計画の全容を聞かされていなかったが、これから行う内容はユーノから聞いていた。
「やっぱり僕だけでやろうか?ユーノは少し休んでいた方が…」
「いや、大丈夫だよ」
エリオの申し出にユーノは首を振った。
約束の期限まで残り半月。ユーノ自身休みたい気持ちは大いにあったが、秘書という肩書きのエリオに
なのはとフェイトのデバイスのメンテナンスをやらせるわけにはいかなかった。
それに今回はメンテナンスだけではない。レイジングハートにある処理を施さなければならない。
デバイスの知識に長けたエリオなら可能かもしれないが、マリーに怪しまれる可能性がある。
「そういえばエリオは今デバイスは持ってるの?」
「これは肌身離さず持ってるよ」
ふと思ったことを尋ねるユーノに、エリオは右の袖をまくって青い宝玉のついたリングを見せながら言った。
エリオと再会を果たしてユーノが一番驚いたこと、それはエリオがデバイス、
しかもインテリジェントデバイスを持っていたことだった。
ユーノは万が一の場合はエリオにも戦闘に協力してもらうつもりだったので、使える魔法やデバイスの能力、
魔力資質についてもきちんと聞いていた。
リングは後から装飾用につけたようで、そのデバイスのスタンバイモードはレイジングハートと色違いの形状をしていた。
一族が所持していたレイジングハートを子供のときに見て、そのまま外面を模したらしい。
もちろんデバイスモードは持ち主のイメージで形成されるのでなのはのレイジングハートとは全く違うものだった。
母親が残した資産が思った以上に多くその全てをはたいて自作したそうで、エリオはそのデバイスを形見と言っていた。
自作が難しく敷居が高いと言われているインテリジェントデバイスをそれでも選んだのは寂しさもあるのかもしれない。
今のところ戦うのはユーノ一人の予定だが、エリオにはそのデバイスでなるべく戦ってほしくない、とユーノは思った。
「それじゃあ、行くよ」
「うん」
部屋に散らばった箱をしまい、交換する部品を荷台載せてユーノ達はメンテナンスルームへと向かった。

                 *

「フェイトちゃん夏休みの宿題どこまでやった?」
「数学は全部終わったけど国語と社会があとちょっと残ってるかな」
メンテナンスルームでなのはとフェイトは立ち話をしていた。
今はマリーがレイジングハートとバルディッシュのメンテナンスのための初期設定をしていて、
なのは達は特にすることもなかった。
交換する部品は遅れてユーノが届けに来るようでそれを待っている状態だ。といっても、メンテナンス自体はいつもと変わりなく
なのは達のすることは自分のデバイスの状態を確認することだけなので、ほとんどマリーとユーノにまかせるだけでよかった。
「それにしてもユーノ君のお友達ってどんな人だろうね?」
「…一族の人らしいし、きっといい人だよ」
なのはとフェイトはユーノが秘書を雇ったということをメールで聞かされていた。
まだ会ったことはないので今日が初対面となる。なのはは自分が知らない昔のユーノを知る人物と会えることがとても
楽しみだった。違う時代のユーノの幼馴染。きっと仲良くなれるだろう。
一方フェイトは先ほどからたった一つのことが頭の中を支配していた。
ポケットに手を入れて二枚の紙切れをぎゅっと握る。
今日は前から計画していたことを実行する決戦の日だ。ユーノとの仲を誤解されてからずるずると時間ばかりが流れ
なのはもはやてもあまりそのことを気にしなくなったが、フェイトは気がかりでしょうがなかった。
女の子というのはどんなに親しい間柄であっても恋愛に関してはいつも分かり合えるわけではない。
そういう話に疎いフェイトでもそれぐらいは理解していた。情報源はドラマと漫画だけだが。
そしてフェイトは誤解を解きつつ、なおかつなのはとユーノの距離を縮める作戦を考えたのだ。
「あ、あのね、なのは」
「?」
急にかしこまったように話しかけてくるフェイトになのはは不思議そうに首を傾げた。
「えっと、この前ね、雑誌の懸賞に応募したら、その、当たったんだ…」
「へぇ!おめでとうフェイトちゃん!…でもそれってなんの懸賞?」
「これ…」
フェイトはポケットから二枚の紙を取り出しなのはに見せた。
「これって…最近出来たテーマパーク?しかもペアチケットだね」
「うん」
なのははしげしげとチケットを見つめた。近頃、海鳴市から少し離れた都心に近いところに大きなテーマパークができ
話題を呼んでいた。一日で全てを周ることも難しいほど巨大で、完成したばかりということもありチケットの入手は困難と
言われている。アリサ達ともいつかみんなで行ければいいねと話していた場所だ。
そのペアチケットをフェイトが当てたらしい。
ペアということは二人で行くということだ。フェイトの場合アルフだろうか。それとも…
「フェイトちゃん、もしかしてユ」
「でね!私は仕事が忙しいし、アルフも手が離せないみたいだから、これ、なのはにあげようと思うの」
「えぇ!?」
予想外のフェイトの申し出になのはは素っ頓狂な声をあげた。
デバイスに目を向けていたマリーが振り返って不思議そうになのは達を見た。
「そんな!せっかくフェイトちゃんが当てたんだし、悪いよ」
なのはは両手をぶんぶん振って断ったが、フェイトは首を振ってなのはの手にチケットを握らせた。
「うぅん。いいの。これはね、なのはにもらってほしい」
「フェイトちゃん…」
フェイトの真剣な眼差しについなのはも押し黙ってしまった。
「そしてユーノと一緒に行ってほしいの」
「………はぃ?」
雰囲気に呑まれかけたなのはもあまりの飛躍した話に我に返った。
「えぇっと…どうしてそういう話に?」
なのはは困惑の表情でフェイトを見た。
「なのはの気持ちは分かってる。それになのはには私の気持ちを知ってほしくって…。」
そういうとフェイトはなのはに握らせたチケットから一枚を取って言った。
「大丈夫、ユーノには私の方から言っておくから」
「ちょ、ちょっとフェイトちゃん?」
話が飲み込めなかったなのはがフェイトに尋ねようとした瞬間、メンテナンスルームの扉が開いた。
「ごめん、みんな。ちょっと遅れちゃって」
そう言いながら荷台を押してユーノと青髪の少年が入ってきた。
「いいえ、今部品交換に入れるところまで調整が進んだので丁度良かったです」
マリーがユーノの代わりに荷台を押してデバイスに取り付ける準備を始めた。
その様子をぼんやりと見つめながらなのはは先ほどのフェイトとのやり取りを思い出した。
フェイトの気持ちとは一体何なんだろうか。ユーノに対して特別な感情を持っているのではないか、という程度には
思っていたけれど、さっきの様子では自分とユーノをくっつけようとしているようにしか見えない。
というか絶対そうだ。それが遠慮からくる諦めなのか単に元からなんとも思っていなかったのかなのはにはわからなかった。
(でも…)
なのはは半ば強制的に受け取らされたチケットを握った。
(本当にわからないのは…自分の気持ち…)
つい最近まで恋愛について深く考えたことはなかった。今でもそうだと言えるかもしれない。
ユーノは大切な幼馴染だ。異性であれば友達以上の関係になることもありえる。
自分と恋人になったことを想像するとむず痒いような照れくさいような不思議な気持ちになる。
それが恋なのかはまだわからなかった。どちらにしろ人から押し付けられるようなことではないとは思った。
けれど、かと言ってフェイトの好意も無駄にしたくない。
ユーノと二人で遊園地に行けばきっと楽しいだろう。恋愛感情を抜きにしても十分魅力的だ。
仕事も学校も充実している今は、それで十分なのかもしれない。
ここはフェイトの希望通りユーノを誘おう、と思った。もちろん自分の口から。
お互いの休みが合えばだけど…と思った矢先、気付くと自分の目の前にユーノの顔があった。
「なのは?」
「はぅ!ユ、ユーノ君!?」
びくっとしてなのはが距離を取った。
フェイトと青髪の少年も不思議そうな顔をしている。
「大丈夫?ぼーっとしてたけど」
心配そうにユーノがなのはを見た。
「あ、うん。大丈夫。ごめんね」
そう言って微笑むとユーノも少し微笑んだ。ユーノのその顔が無性につらそうに見えたのは気のせいだろうか。
なのはが違和感に考えを巡らす間もなくユーノが話し始めた。
「二人は会うのは初めてだよね?彼はエリオ・スクライア。6歳まで一緒に過ごしてた僕の幼馴染」
「はじめまして」
ユーノの隣の少年がぺこりと頭を下げた。緊張しているのか動きは堅かった。
背はなのはより少し低いくらいで、大人しい印象を受ける。
「私は高町なのは。よろしくね」
「フェイト・T・ハラオウンです」
なのはとフェイトも自己紹介をしてそれぞれエリオと握手をした。
「それじゃあ僕はメンテナンスに入るから」
エリオの紹介を終えるとユーノはすぐにデバイスの方へと行ってしまった。
いつものユーノなら久しぶりの会話を楽しむはずなのだが、今日はずいぶんとあっさりしている。
なのははちょっと寂しさを覚えつつユーノの背中を見ていると、エリオがなのは達に話しかけてきた。
「あ、あの、お二人ともかなり優秀な魔導師とか。高町さんが教導官でハラオウンさんが執務官ですよね」
「うん。あと、私のことはなのはでいいよ」
「私もフェイトでいいです」
エリオの問いになのはとフェイトは微笑みながら答えた。
エリオはそれを見て顔が熱くなるのを感じた。同年代の女の人と話すのは久しぶりのことだったし、
何よりとても可愛い。
ユーノはずいぶんと幸せ者だな、と思った。
(いや、それももうすぐ終わりか…)
部屋の奥でメンテナンスを続けるユーノの背中を見ながらエリオが考え直した。
ユーノは今日高町なのはのレイジングハートにあるしかけを施す。
詳しい話をエリオは聞かされていなかったが、うまくいけばマスターでなくてもある一つの魔法を
デバイスを通して発動させることができる、とユーノは言っていた。
そのコマンドにある処理をして、レイジングハートの自己診断プログラムの穴に忍ばせるらしい。
たった一つの魔法が使えるだけで致命的な欠陥になりうるのかエリオにはわからなかったが、
ユーノはこれを切り札に高町なのはに勝つつもりらしい。
ちらっとユーノの方を見ると部品交換でマリーの気を取らせている間にカードを差込みプログラムをインプットしているのが
なんとなくわかった。
こちらも二人の気を引かなければ、と思いエリオはなのはとフェイトに視線を移した。
すると視線の合ったなのはが話しかけてきた。
「昔のユーノ君ってどんな子供だった?」
「あんまり今と変わらないかな」
なのはの疑問にエリオは素直に答えた。
「大人びているわけじゃなかったけど、考えていることはいつも大人顔負けだったし、一族から期待もされてたよ。
遊んでいるときくらいかな。本当に子供らしいって言えたのは」
小さいときの記憶なので覚えていることが少ないが、ユーノの聡明さは小さいながらもエリオはわかっていた。
「子供らしさが見えないって点じゃなのはさんやフェイトさんにも言えることだけどね」
「そ、そうかな」
エリオの言葉になのはとフェイトは顔を見合わせて苦笑した。
「二人とも管理局のトップエリートとして大人と肩を並べているんだから。僕はユーノの後について回ることしかできない」
「エリオ君も十分頑張ってるよ」
なのはは笑顔でエリオに言ったがフェイトは先ほどのエリオの言葉に違和感を覚え、ただ何も言わずにエリオを見ていた。
少し嫌味を言われたような気がしたからだ。執務官をやっていると色んな人間と出会い、その悪意に敏感になる。
フェイトは目の前の少年からはその時と同じ感覚を覚えていた。
(考えすぎ…かな)
初対面の人に対してこのような感覚を持つのは初めてのことだったのでフェイトは思い直した。
「メンテナンス終わったよ。はい、なのは。フェイト」
するとユーノが三人に近づいてきて、なのはとフェイトにそれぞれデバイスを渡した。
「システムには特に異常はなかったし、いつもの通り消耗してる部品を一部交換したよ」
「うん、ありがとう」
「マリーもお疲れ様」
「あ、はい」
フェイトの労いの言葉にマリーは書類を胸に抱き軽く頭を下げた。
マリーはこれから報告書の作成に入るらしく、荷台を押して先にメンテナンスルームを後にした。
「じゃあ、僕達も行こうか」
「うん」
「あ!ちょっと待って!」
後に続くようにユーノとエリオが部屋を出ようとしたのでフェイトが慌てて呼び止めた。
「なに?」
「あ、えっとね。その…」
「ユーノ君、次のお休みにでも、私と一緒に遊園地に行かない?」
口ごもるフェイトになのはが続けるように言った。
積極的に話すなのはにフェイトは目を見開いたが、なのはの意を読み取って安心したように二人の様子を見守った。
「え!?もしかして二人でってこと?」
「…うん」
恥ずかしさからかなのはは照れたように俯いた。
「えっと…ちょっと仕事が…」
ユーノは突然の申し出に咄嗟に否定しようとした。
「無理…かな?」
「い、いや、無理ってわけじゃ…ないけど」
少し寂しそうに見上げるなのはにユーノは戸惑った。受け取るわけにはいかない。
頭ではそうわかっているのにユーノはどうしても断れずにいた。エリオもユーノのその様子に眉間にしわを寄せている。
これから先無駄な予定を入れることは行動の制限に繋がる。ユーノもそのことは分かっていた。
一方すんなり受け取ると思っていたフェイトはユーノの予想外の反応にハラハラした。
しばらく沈黙が続いたが、ユーノは一度頷いてから答えた。
「…うん、そうだね。一応受け取っておくよ。期限はまだ先みたいだし」
「よかった」
ようやく受け取ったユーノになのはは笑顔になり、フェイトは胸を撫で下ろした。
そのユーノの答えにエリオは誰にもわからないほど小さくため息をついた。
フェイトにはなぜユーノが素直に受け取らなかったのかわからなかった。
仕事が忙しいといっても全く休みが取れないなんてことは有り得ない。これではまるでなのはを避けているかのようだ。
なのははそうは思っていないようだが、ユーノらしくない、と思った。
フェイトが眉をひそめていると、なのはがユーノの顔を見て気付いたように言った。
「ユーノ君、疲れてる?」
「そ、そうかな…」
覗き込むように見つめてくるなのはに、ユーノは頬をかきながら顔を逸らしてごまかした。
「ちゃんと休まなきゃ駄目だよ?」
「…うん。そうだね。心配してくれてありがとう、なのは」
なのはの言葉に肩の力が抜け、ユーノは本当の笑顔でなのはに答えることが出来た。
「それじゃあ僕はもう行くから」
「うん。またね」
歩いていくユーノ達をなのはは笑顔で見送り、フェイトはいぶかしげに見つめた。



「どうして受け取ったんだよ」
歩きながらエリオがユーノに尋ねた。たとえ受け取ってもチケットの期限までに事件を解決できる可能性は低い。
今はそれどころではないことはユーノが一番理解しているはずだ。
「分からない…」
ユーノが嘆くように呟いた。
「僕にも…分からない…」
それからユーノは一言もしゃべることはなかった。

次回へ続く

約束の期限まで残り一週間。ユーノは二つの武器を作り上げる。
自分の大切な絆を切り裂くことになるその刃に、ユーノは何を思うのか。
そして一方クラナガンではある事件が発生していた。

第十一話 「狂い始めた歯車」

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著者:396

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