魔法少女リリカルなのはA's++

[48]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/13(月) 21:37:10 ID:hdWQwcW+
[49]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/13(月) 21:37:50 ID:hdWQwcW+
[50]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/13(月) 21:38:29 ID:hdWQwcW+
[51]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/13(月) 21:39:17 ID:hdWQwcW+
[52]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/13(月) 21:40:03 ID:hdWQwcW+
[53]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/13(月) 21:40:37 ID:hdWQwcW+
[54]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/13(月) 21:41:15 ID:hdWQwcW+
[55]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/11/13(月) 21:42:28 ID:hdWQwcW+

滑らかな片刃のエッジ。幾何模様をあしらったグリップ。
柄と刃の間には小さな装置が取り付けられ、グリップに沿ってレバーが伸びている。
ユーノはそのナイフを持つと斜めに空を切った。自分の手の型を取ったそのグリップはしっくりと手になじみ、
夜空に輝く星の光に反射してエッジがキラリと光った。
試しに足元に落ちていたコブシ大の石を拾い空中に放り投げ、切り裂く。
石は音もなく真っ二つに割れ、ぼとぼとと地に落ちた。通常の切れ味に問題はない。
次にユーノは暗闇に沈む岩場を飛び越え、その辺りで最も空に近い平地となっている岩場の頂上へ降り立った。
そこにはいくつかの巨大な岩石が大きな影を作っていた。
ユーノはその中で一つの岩石の前に立つと深い息を吐いて右手に持ったナイフを逆手に持ち変えた。
上体を低くし、右腕を岩石の反対方向へと下げてレバーに人差し指と中指をかける。

「はぁ!!」

レバーを軽く引き、刀身から緑色の大きな刃が形成されるとともにナイフを思い切り振りぬく。
一瞬の間の後に、斜めに切り裂かれた巨大な岩石は大きな音とともに崩れ落ちた。
レバーから指を離すと、緑色の刃は空気中に溶けるように消えていく。
威力を確認したユーノはじっとナイフを見つめる。満天の星空をバックに自分の顔が映っているのが見えた。
その顔は苦痛の表情を浮かべているように見える。
ユーノは気を取り直すかのように腰の後ろに付けた鞘にナイフをしまった。
すると後ろからパチパチと拍手が聞こえ、ユーノは振り向いた。

「すごいね。それがユーノの武器?」

振り向いた先には岩に腰をかけたエリオがいた。
スクライア一族のバリアジャケットのマントが風でたなびいている。

「…うん。うまくできたみたいだ」

そう言いながらユーノは鞘に収めたナイフの柄をそっと触れた。
アースラ奪取の計画前になのはと戦うために作った武器の一つ。
これはデバイスではなくただの出力装置つきの武器だ。柄の幾何学模様は持つ者の魔力を吸い取る魔術式で、
柄から吸い上げられた魔力は小型の魔力圧縮コンバータを通り、レバーを引くことで高密度の魔力として放出される。
最大射程は3メートルと短くユーノの魔力量では常時維持することはできないが、
その瞬間的な威力はフェイトのザンバーにも引けを取らない。
それでも、一瞬とは言えユーノの魔力はかなり消費された。なのは達との魔力の差がいかに開いているかを実感する。
これがあれば大抵のシールドは切り裂くことはできるだろう。
しかし、今回の相手はカートリッジシステムを組み込んだレイジングハートとあのなのはだ。
そのためにもう一つ準備したものがあった。
「性能を確認したいから、ちょっと協力してほしいんだけど」
「うん。いいよ」
ユーノの頼みにエリオは岩から飛び降りた。ふわっと浮きながら静かに着地する。
「それで?僕は何をすればいいの?」
「攻撃魔法を撃ってくれない?あまり強力なやつじゃなくて」
そう言いながらユーノは先ほどのナイフとは逆の、腰の左側に付けた鞘からダガーを取り出した。
この両刃の短剣の中央には真っ直ぐ細長い液晶のようなものがはめこまれていた。
『Please Select the Mode』(モードを選んでください)
ユーノがそのダガーを握ると機械的な音声が流れる。
「ディフェンス」
『Mode:MAIN GAUCHE』(マインゴーシュモード)
ユーノが呟くと、ダガーの液晶部分が青紫色に輝き[ MAIN GAUCHE ]の大文字が現れる。
「それじゃあ、四方向から僕に攻撃してみて」
「わかった」
エリオが右手をかざすと、手首のリングに付いた青い宝玉が光る。
すると藍色の四つの魔力弾が現れ、ユーノの周りを取り囲みゆっくりと公転を始めた。
「いくよ?」
「いつでもいいよ」
エリオがユーノに確認を取り、ユーノは目を閉じダガーを強く握った。失敗すれば大怪我の可能性もある。
自分で作ったものだからきちんと動作する自信はあったがやはり緊張した。
「シュートッ!!」
エリオがかざした手を横に振ると、四つの光の玉は真っ直ぐユーノに向かい、着弾する。
もくもくと煙が上がり、ユーノの姿は見えなくなった。
しばらく煙がたちこめたが、高所特有の気まぐれの強い風がそれを吹き飛ばす。
煙の晴れた中心には緑色の球に包まれたユーノが左手に短剣を持ったまま立っていた。
「オートガードのスフィアプロテクションか…。ってことはずいぶんと防御特化なデバイスだね。それ」
エリオが感心したようにユーノのダガーを見ながら言った。
「これの役目の一つは障壁支援。あと一つはこれから確認するよ。…オフェンス」
『Mode:OBELISK』(オベリスクモード)
ユーノの声に応じて液晶の文字が[ OBELISK ]に変わる。
「エリオ、ちょっとシールド張ってくれない?」
「え?いいけど…」
目の前まで来たユーノに、エリオは手をかざして防御魔法を生成する。
キィンッという音と共に藍色の魔法陣が現れる。
ユーノは魔法陣に歩いて近づくと、思い切りダガーを突き立てた。
突き立てられたダガーに魔法陣が斥力を生じさせ、金属と魔力の衝突に火花が散る。
『Break in』(侵入開始)
ダガーから機械的な音声が発せられると、突き立てられた剣先から広がるように藍色の魔法陣の色が薄まる。
そしてパリンッという音とともに魔法陣はその形を保てずに崩れるように消えていった。
バリアブレイク支援。それがこのダガーのもう一つの特性だった。
それぞれのモードでただ一つの魔法を行使するストレージデバイス。短い期間で作れる精一杯の物だ。
結果に満足したユーノは軽く息を吐いてダガーを腰の鞘に戻した。
その様子を見ながらエリオは腕を組みながらユーノに尋ねた。
「さっきの高出力のナイフといい今のダガーも確かに良い出来だけど、これだけでエースに勝てるの?」
計画まで残り一週間。それまでにエースと戦って勝たなければならない。
サイオンから聞かされるユーノ達の監視状況は正確で、打ち合わせをする余裕などないことは明白だった。
二人がかりでも勝てないだろう相手にユーノはたった一人で挑む。
エリオにはこの二つの武器だけでは決定的な戦力差はうまらないように思えた。
「もう布石は打ってあるからね。あとは事がうまく運ぶかどうかだけど」
そう言いながらユーノは腰の二つの鞘を外し、岩場の影に置いておいたバッグに入れた。
切り裂く刃ジャックナイフと守りの刃セイクリッドスコア。
本来ならその性能を一本にまとめることも可能だったがいかんせん時間がなかった。
どちらも急ごしらえなため単純かつ比較的安価な代物だ。それでも、ユーノの想定する戦闘では十分すぎるほどの役目を果たす。
もはや自己嫌悪に浸る余裕もない。計画は最終段階に入っているが、準備はまだ終わっていないものもあった。
これから本局に帰って残った仕事も済ませなければならない。軽く眩暈も覚えたが、どう足掻いても残り一週間。
一族の命がかかっている以上絶対にやり遂げなければならない。
「それはそうと、そろそろどうやって一族を助けるか教えてよ」
本局に戻ろうとしていたユーノにエリオが尋ねた。
今まで責任を一手に引き受けようと何も伝えてこなかったユーノだが、エリオだってすでに共犯に近い。
少なくともこれから行われることの全てを知っておきたかった。
「…そうだね。もし僕に何かあったら、エリオに実行してもらわなきゃならないかもしれないし」
ユーノは少し考えた後、エリオに計画の全容を話すことを決めた。
「まず、人質は全員で28名いて計画立案で5名が解放されたから今は23名。
アースラ内の下準備はそろそろ終わるからそれでさらに5名解放されて残りは18名。
エースを一人倒せば5名、計画実行直後に10名が解放される。そうなれば、最終的に残る人質は3名。ここまではいい?」
「…うん」
エリオがサイオンが提示した条件を頭に思い浮かべながら頷いた。
「アースラとグランディアの搭乗員を交換する魔法を発動するとき、スクライア一族は全員グランディアに残ってもらう。
そうなれば、サイオンは計画実行後に解放する予定だった10名とアースラに連れて行くはずだった3名の計13名の首輪を
遠隔で爆破する可能性がある」
「そうだね」
「それを防ぐことが出来る人が僕の知り合いにいる。名前はシャマルさんって言うんだけど、いちおうエリオも知ってるよね?」
目線を上げてしばらく思い出す仕草をしたエリオは「ああ、あの人ね」と手を打った。
会ったことはなかったがユーノの秘書としてエリオはユーノの知人の資料は一通り目を通していた。
八神はやての守護騎士ヴォルケンリッターの一人、湖の騎士シャマル。サポート専門の騎士だ。
「首輪のシステムについてしばらく考えてみたんだけど、あれはサイオンと相互に情報を伝達してる
いわば遠隔操作型のデバイスみたいなものだと思うんだ。
ただそうなると、複数のデバイスを管理する高性能の管制デバイスをサイオンは必ず持っていることになる」
「インテリジェントデバイス…?」
ユーノの説明に自分で納得するかのようにエリオが付け加えた。
「うん。それも通信専門のね。そしてそこからの強力な通信を100%遮断することができるのが彼女のデバイス、クラールヴィント。
通信妨害は念話・思念通話から電波・無線にいたるまでかなり広範囲なんだ。それで遠隔操作の一切を遮断する。
効果範囲の関係上シャマルさんがアースラに乗っているときに計画を実行することになる」
エリオは頷きながら頭の中で整理した。
たしかに事前に連絡を取り合わなくても通信妨害くらいならこちらが直前に言えばすぐできるだろう。
それでも一つだけ疑問があったエリオは腕を組みながら言った。
「それじゃあアースラはあげちゃうわけ?」
「人質解放が最優先だからね。それに人質のいない彼らが逃げ切れるわけないよ」
ユーノがバッグを背負いながら答えた。
たった三週間でこれだけの準備と計画を一人でこなしたユーノにエリオは心底すごいと思った。
計画の内容を聞いたが、どうやら自分に出番はなさそうだ。今までそれを伝えなかったのは、本当にユーノはエリオに
罪も着させないつもりだったらしい。
エリオはユーノにわからないように歯軋りした。
「あと少しでハッキングプログラムも完成するし、早く帰ろう」
「あ、うん…」
ユーノの作り出した緑色の魔法陣が夜の闇に輝き、エリオは急いでその中へと入った。
(もうすぐか…)
消えゆく景色の中、エリオは右腕のリングを触りながら心の中で呟いた。

                 *

高層建築物が立ち並ぶクラナガンの狭い路地。黒い二つの影が疾走していた。
全身を黒いマントで覆い、顔にも覆面をしている。手には銃器を持っていた。
二つの影は建築物の間をすり抜けるように駆けて行く。上を見上げると、自分達を探すサーチライトが薄暗い空を照らしていた。
けたたましいサイレンの中、雷が雲の中で鳴り響いている。
かなりの距離を走ったことで二人とも息が切れていた。あと少し、あと少しで脱出用の高速艇にたどりつく。
しかし路地の中央に立ち塞がる人影に二人は足を止めた。
「もう逃げられねーんだから投降しろって。はっきり言って時間の無駄だし」
その影、身長は低くゴスロリ調の赤い服をまとった少女が二人に向かってぶっきらぼうに言った。
「くっ!!」
黒マントの一人が銃器をかまえ、引き金を引いた。
ガガガガッという音とともに少女の数メートル手前の壁に穴が開く。
少女は一応シールドを展開していたが溜息を吐きながら言った。
「当てる気ないなら最初から諦めろよ。ま、ベルカの騎士はそんなもんじゃ引かねーけど、な!」
「うわっ!?」
少女の放った鉄球が銃器にヒットし銃身が破壊される。
それを見たもう一人が、武器を破壊されて呆然とした仲間の手を引いて、今来た路地を走って戻ろうとした。
しかし、振り返った瞬間足を止める。
二人の目の前には剣を持った長身の女性が立ち塞がっていた。
「お前達の高速艇はすでに我らが主によって回収されている。これ以上の抵抗は無駄だ」
剣を水平に構えながら鋭い眼つきで女性が言い放った。
細い路地で挟まれ、黒マントの二人組みは完全に逃げ場を失った。
するとそれを悟った一人が懐から袋を放り投げ叫んだ。
「た…頼む!盗んだものは返す!!だから今だけ見逃してくれ!!!」
袋から宝石がいくつか路上に転がる。この二人の追われている理由、それは宝石強盗だった。
哀願するように必死に叫ぶ様子を見て、真後ろの少女がハンマーのようなデバイスを肩にかけながら哀れむように言った。
「それで済むならあたしらはいらねーんですよ」
「く…くそっ!!」
それを聞いて武器をまだ隠し持っていた一人が銃器を構える。
その瞬間、地面から生える様に白い鎖が現れ、黒マントの二人を絡めた。
「あっ!?」
その拍子に一人は銃器を落とした。
「良いタイミングだ。ザフィーラ」
「ああ。打ち合わせ通りだな」
シグナムが路地の真上を見上げながら言った。
上ではがっしりとした長身の男、ザフィーラが手をかざしながら浮かんでいた。
鎖に捕らえられた二人は、それでも諦めずにもがいていた。
『三人ともグッジョブ!!』
『これでひとまず終了やな』
するとその場の三人に女性の声の通信が入る。一人は通信士のエイミィ、
もう一人はその場から少し離れた場所にいる八神はやてだ。
『なーはやてー。ほんとにこいつらが例の強盗犯なのか?なんかあっけなく捕まえちまったけど…』
ヴィータが眉を八の字にしながら尋ねた。本来休暇中の身だっただけに機嫌はすぐれない。
『あーどうなんやろな』
「それは尋問してみなければ分からないことだ」
答えあぐねるはやての代わりに、念話を聞いていたシグナムがはっきりと答えた。
魔法陣に画像出力する空間モニターにエイミィの顔が映った。夜の路地がほのかに明るく光る。
『そういうのはこっちでやるからヴィータちゃん達は拘束した二人を転送して。
はやてちゃんはシャマルさんと協力して回収した高速艇の転送をお願い』
『了解しました』
『それじゃあわたしらは引き続き残党がいないか確認した後、被害状況を調査します』
『うん。お願いね』
そして空間モニターが消え、あたりに暗さが戻った。
「あーあ。じごしょりってやつが一番めんどくせーんだよなー。せっかくの休日だったってのに」
頭の後ろに両手を組みながらヴィータが愚痴った。
「ヴィータ、我々は罪を償っているということを忘れるな。
それに今回は戦わずに済んだんだ。雑務で済むならいくらでもやろうではないか」
シグナムがレヴァンティンを鞘に戻しながら言った。
「それはそうと、早く転送の準備をしてくれないか?」
拘束魔法の鋼の軛(くびき)を使用中のザフィーラが手をかざしながら言った。
「ああ、そうだな。済まない。…いや、ちょっと待ってくれ」
そう言いながらシグナムは拘束中の二人に近づいた。二人はもがくことはやめていたが、どうもまだ逃げることを諦めていないらしい。
報告に聞いていた連続強盗集団の一味かどうかはわからなかったが、その必死な様子にどんな人間か顔を見たくなった。
鎖に縛られる一人の覆面をとろうと掴む。顔を見られまいとしているのかいっそう黒マントは暴れたが、シグナムは気にせず
引っ張り上げた。
「や、やめろ!」
「…ん?」
顎まで覆面を上げたとき、赤い光がシグナムの視界に入る。
その者の首には黒い首輪はめられ、まるで生きているかのように動く赤い瞳のレンズがシグナムを見つめていた。

次回へ続く

強盗事件はユーノに決断を迫り、事態を新たな局面へと向かわせる。

次回 第十二話 「始動」

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著者:396

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