魔法少女リリカルなのはA's++

[366]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/29(日) 14:31:45 ID:ysbMrxYl
[367]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/29(日) 14:33:09 ID:ysbMrxYl
[368]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/29(日) 14:33:59 ID:ysbMrxYl
[369]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/29(日) 14:34:43 ID:ysbMrxYl
[370]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/29(日) 14:35:31 ID:ysbMrxYl
[371]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/29(日) 14:36:17 ID:ysbMrxYl
[372]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/29(日) 14:37:08 ID:ysbMrxYl
[373]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/29(日) 14:38:01 ID:ysbMrxYl

「ユーノ、頼まれてた資料できたよ」
「うん。ありがとう」

ユーノはエリオからデータの入ったカードを受け取ると、再び仕事に没頭した。
今二人は司書長室で朝からずっと仕事にふけっている。朝食は食べる暇などないし、昼は固形食品ですませた。
この調子なら普段より2時間ほど早く仕事が終わりそうだ。これも隣で同じように仕事をしている青髪の少年のおかげである。
ユーノが思っていた以上にエリオは有能だった。いきなり初めての仕事をしているにしては適応が早い。
ユーノは横目でエリオを見ながら昨日の夜ことを思い返した。


真相を知り、巨大輸送船グランディアから帰ったユーノはその足で時空管理局の人事部へと向かった。
エリオに関する正式な書類を作成し、レティに提出するためだ。
ユーノはエリオを個人の秘書にすることにした。
本来なら司書にしたかったのだが、無限書庫の司書になるためにはそれ専門の試験をクリアする必要があったし、
それ以前に時空管理局で働くための試験と審査を受ける必要もある。
いちいち試験勉強させる猶予もなかったので、てっとりばやくユーノが個人的に雇うことにしたのだ。
これならば誰にも迷惑はかからないし、スクライア一族のよしみということで疑われることもない。
エリオは管理局内に入れる場所には制限がかかるが、ユーノと会うことだけが目的だったので特に問題はなかった。
結局書類はあっさり通り、即日でエリオはユーノの秘書として働くことになった。
ユーノが仕事をほったらかしにしたのは無理を言って旧友を秘書として招くためだったと司書達に説明すると、
連絡しなかったことで多少怒られはしたがなんなく受け入れられた。
その日は二人で時空管理局内の寮にあるユーノの部屋に泊まった。
なにぶん急なことで来客用の準備などしていなかったので、しかたなく一つのベッドで寝ることにした。
つらい表情を見られたくなかったユーノはエリオに背を向けるように横になった。
ユーノは精神的に疲れていたが、目が冴えて眠れなかった。
つい数時間前に家族が危険に晒されていること、自分が最悪な事件に巻き込まれたことを知ったのだ。しょうがなかった。

「エリオ、起きてる?」
「…うん。起きてるよ」
ユーノが声をかけるとはっきりした声でエリオが返した。やはり同じように眠れないようだ。
「色々あって聞きそびれたけど、エリオは今までどうしてたの?」
ユーノはそのままの姿勢で聞いた。
突然いなくなった幼馴染との出会いはまた、突然だった。
ユーノが今までエリオに関して一切尋ねなかったのは、何か言いづらい事情があるのではないかと思っていたからだ。
だがエリオがどういう流れでやつらに捕まり、遣いとしてよこされたのか知る必要があったし、
なにより子供の頃に仲良く遊んでいた友達として知りたかった。
しばらく沈黙が続き、部屋には時計の秒針の音だけが響いた。
「6年前…」
エリオが呟くように言った。
「6年前、僕と母さんは一族を出てから別の次元で生活を始めたんだ。
そこはミッドチルダよりも文明は発展していなかったけど、とても良い場所だった」
エリオは寝返りをうち仰向けになった。
「母さんの仕事も見つかって、僕達は特に不自由のない生活を送ってたんだ。そこの世界で戸籍も手に入れて、
僕は学校にも通い始めた。数年間は問題なく暮らしていた。…ただ、去年の末くらいから母さんの具合がよくなくってね。
僕は母さんが風邪を引いたんだと思った。症状は悪くなかったし、熱もなかった。
母さんはちょっと体がだるいって笑ってた」
そこでエリオは躊躇うように区切ったが、意を決して続けた。
「あまりに治りが遅いから病院に行こうとしたその日に、僕が起きたらベッドで母さんは冷たくなっていた。
本当に驚いたよ。昨日までは普通に会話もしてたし、全然苦しんだ様子もないのに、息をしていないんだ。
後から医者に聞いた話だと、どこの次元世界でもいまだに解明されていない病気の一つなんだって。
何が原因で、どうして死んでしまうのかもわからない。衰弱もせず、心肺機能だけが停止してしまう。
魂だけが抜けてしまったような状態から、ソウルアウトって呼ばれてるんだってさ。
次元間旅行者に極々稀にいるみたいなんだけど、発症の確率は天文学的数字らしいよ。
運が悪かったとしか言いようがないって言われた」
「…………」
ユーノは何も言うことができなかった。エリオのお母さんは小さい頃にユーノも一度だけ見たことがあった。
その時はきつい目で見られたことしか覚えていない。ユーノはその目がとても恐ろしく、内心苦手に思っていた。
しかし、つい最近亡くなったと聞いて驚くことしか出来なかった。
「あまりに急なことだったから、僕はしばらく放心状態だった。とりあえず密葬を済ませて、やるべきことを探した。
でも、何をすればいいのか、どこに行けばいいのかわからなかった。
一人になって初めて、僕は今まで母さんにいつもついて歩くだけの、何も出来ない子供だってことがわかったんだ。
そして数ヶ月ぼんやりと過ごして、スクライア一族の存在を思い出したんだ。
血の繋がった祖父母とかはいなかったけど、一族の中には遠い親戚が必ずいるだろうと思った。
だから、人づてに一族の居場所を聞いて、スクライアの一団がいるっていう遺跡に向かったんだ。そしたら…」
「やつらがいたんだね」
ユーノは静かに続きを促した。
「うん。ちょうど彼らは一族を魔法で拘束しているところだった。僕は岩陰でその様子を見ていた。
助けようと思ったけど体が動かなかった。僕は6年前からなにも変わってない、泣き虫のままだったんだ。
結局隠れているところを見つかってそのまま連れて行かれた。流石に僕は関係ないとまでは言えなかった。
僕だってスクライアの名を受け継いでいるから。過去のことから今までのことを尋問されて、ユーノとのことも話した。
それが決め手となって、僕がユーノを呼ぶ遣いに選ばれた。たぶん、僕じゃなかったら他の人だっただけだと思う」
そこまで話し終えてエリオは深く息を吐いた。
「何故母さんが一族を出たのかも、聞くことはできなかった。今でも僕は、なんでこんなことになったのか、
どうして僕がここにいるのかわからないんだ。…だけど、一族を助けなきゃいけないってのはわかる。
それは、今やるべきことなんだと思う」
ユーノは話を聞いて、エリオが本当に可哀想になった。
ミッドチルダでも幼少期は親と暮らす。自立はなのはの世界より早い15歳を超えてから、というのが一般的だ。
しかし、クロノのように教育を十分に受けられる環境にあったり、ユーノのように学院をすぐに出てしまうような子供は、
年齢問わず就職が可能だった。これは一種の才能といえる。脳が他の人間より発達している、
いわば天才ともいえる子供がミッドチルダには比較的多かった。
ありがたみこそないが、様々な分野で活躍し将来は必ず大きな功績を残し、大人達からも高く評価されていた。
それ以外のエリオのような子供達は用意されたレールにしたがい、学校に通い、心身ともに成長してから自立する。
しかし、エリオは突然親の保護から切り離されてしまったのだ。途方に暮れるのも当然の反応だ。
しかも頼りにきたはずの一族が捕まり、今は事件に巻き込まれてしまっている。
ユーノはエリオの方を向いた。
仰向けになっていたエリオはユーノに気付いて顔を向けた。
「大丈夫。僕が絶対なんとかするから」
ユーノはエリオをまっすぐ見つめて言った。眼鏡はしていなかったが一人用のベッドで狭かったので、
エリオの顔ははっきり見えた。やはり、すこし不安そうな顔をしているように思えた。
「うん。ありがとう」
エリオは一瞬ユーノの一言にきょとんとしたが、すぐに微笑んで答えた。
ユーノはエリオの返事を聞いて安心したように目を閉じた。
お礼を言われるのも変かも知れないと思ったが、不思議と力が沸いた。
一人じゃないと思えた。つらいことも分け合えるような気がした。
そしていつしか、ユーノは眠りへと落ちていった。

                 *

ミッドチルダの海上の何もない空間から突如巨大戦艦が出現し、ぐんぐんと上空へと上っていく。
海鳥達が珍しそうにその周りを飛び、追いつけなくなるとすぐに飽きたように餌を探しに海の上を飛び回った。

「アースラはそのままミッドチルダ上空で巡航を継続。高度2000メートルを維持」
「了解」
クロノの命令にエイミィが慌しく手を動かした。
少し長い次元間航行だったが、何事もなく無事到着できたのでクロノは満足そうに頬杖をついた。
久しぶりに見たミッドチルダの海は相変わらず青く美しかった。
ただ残念なことは、今はすでに薄い雲の下にあるということだった。
クロノは艦長席から立ち上がりエイミィの後ろへと立った。
「先行した武装局員からの連絡は?」
「特に異常なし、だって。ま、そうタイミングよく事件なんて起こらないもんよね」
エイミィは両手を頭の後ろで組み、のけぞるようにクロノを見て言った。
「僕達の役目のほとんどは事件を未然に防ぐことじゃなく、発生した事件に対処することだからな。しょうがないさ」
クロノが諦めを含んだ答えを返した。
「それにしても、フェイトちゃんは呼ばなくてよかったの?緊急の場合ここまで来るのに結構時間かかるけど」
「これは長期任務だからな…。あと数日で夏休みに入るらしいし、それまでは学校に通わせてやりたい。
そうタイミングよく事件は起こらないもんさ」
クロノはわざとエイミィの言葉を借りてにやりとしながら答えた。
エイミィはなぜか一本取られたような気がしたのでむっとして言い返した。
「義理じゃあシスコンも洒落にならないわよ?」
「なっ!?僕はそういうつもりで言ったんじゃ…」
生真面目にむきになって反応するクロノにエイミィはクスクスと笑った。
内心、まだクロノがいじりがいがあることに少しほっとした。
クロノはこの3年で一気に背が伸びエイミィの身長を軽々と越してしまった。
ちょっと前までの可愛らしい面影は一切なく、今では立派な青年としての姿を見せている。
格好良くなったと思う反面、エイミィは寂しいとも思っていた。ただ、中身はやっぱり相変わらずのようだ。
「それにしても、結局私たちの受け持ちになっちゃったわね。この事件」
「予想以上に相手は手強いみたいだな」
クロノが顎に手を添えて言った。最近多発しているミッドチルダでの強盗事件はかなり広域で行われているため足取りが掴みづらく、
さらには他次元に逃げ込むこともあるため時空管理局がこの一件の捜査にあたることとなった。
といっても、事件発生は限りなく不定期で2年も間があいたこともあった。盗まれるものは現金だったり美術品だったり様々で、
逃走手口と犯行集団の衣装が似ていることから同一の組織であると予想されているだけで、その詳細は一切不明だった。
挙句の果てに模倣犯まで出る始末で、ミッドチルダ内では完全にお手上げらしい。
「まぁ相手が何であろうと、僕達は僕達の仕事をやるだけさ」
そう言ってクロノがエイミィの横からコンソールを操作してモニターにある画面を出した。
それはミッドチルダで配信されている情報番組だった。
自分の生まれ故郷の内情は常に知っておきたいと思っているクロノは
仕事の合間にたびたびその番組を見ていた。
画面に映ったのはミッドチルダの議事堂内の映像で、今も政治家達が討論を繰り返していた。
クロノが真剣にその様子に見入っているとエイミィが両手で頬杖を突きながら言った。
「私この人嫌い」
「ん?」
クロノが目を向けると、画面で演説を繰り返している白髪で長髪の老人が目に入った。
最近特にミッドチルダでメディアに取り上げられている人物。べレット・ウィリアムスといったか。
「だって、この人って結局大人以外は社会に出るな!って言ってるんでしょ?」
「ああ。特に、僕みたいなやつに言ってるんだろうな」
クロノは少し笑いながら言った。父母がどちらも管理局の人間であったことから、クロノは5歳から教育を受け
異例の速さで執務官となった。今は暫定の艦長だが艦長就任も時間の問題で、そうなれば周りのどの艦よりも若い艦長となる。
「ちょっと!じゃあなんでそんなに呑気なのよクロノ君は」
その淡白な反応にエイミィが振り返って強く聞いた。
「いや、僕が何か言ったところでなにも変わらないだろう。言論の自由というのもある。
それに就業年齢に関する法律は、この先も変わることはないよ」
クロノがチャンネルを変えながら言った。今日の議会の内容はあまり知る必要がないと判断したからだ。
チャンネルを変えた先は料理番組で、おいしそうな料理がさも今作ったかのように並べられていた。
「なんでそんなこと言えるのよ。もしかしたら、20歳までは学業に専念しろってことになっちゃうかもよ?」
先ほどのクロノの自信ある発言に疑問を持ったエイミィが尋ねた。
クロノは答えるべきか少し躊躇したが、ため息を吐いてエイミィの疑問に答えることにした。
「士官教導センター、つまり士官学校を出た僕達以外の人間も早年から働けるのは、
差別による不満を軽減させるためだ。そしてもう一つ、年齢問わず優秀な人間というのはいるものだからだ。
これは過去の実績とミッドチルダの発展の歴史を見れば明らかだ。
もし彼の言う主張が通り新たに法案が出来たら、時空管理局はフェイト達のようなエースを手放すことになる。
この意味、わかるだろ?」
それを聞いてエイミィははっとし、アレックスやランディに聞こえないように小声でクロノに囁いた。
「もしかして、管理局の圧力?」
「…僕の口からは言えないな。ただ、メリットに対してデメリットが大きすぎるってだけさ」
結局クロノは口を濁したが、エイミィの言ったことを肯定していることはわかった。
才能のある魔法使いが一人でも多く必要な管理局としても、就業可能年齢を引き上げるわけにはいかないらしい。
そのせいで失業者が増えているという事実には目を瞑るしかないようだ。
エイミィ自身、アースラ通信主任として早くから大きな責任の伴う仕事に就かせてもらっているので、
どちらが正しいかはっきり口にすることができなかった。
ただ、自分のいる組織が政治に口を出しているという事実が、ほんの少し嫌だった。
奇麗事だけでは回らない世の中。うまくいかないもんだ、とエイミィはぼんやりと画面に映る楽しげな映像を見ながら思った。

                 *

「あの…だからね?私は、別にユーノのこと、なんとも思ってないの…」

金色の髪を後ろで束ねたフェイトが、俯き加減に体操服の裾をいじりながら言った。
しかし、返事はない。フェイトの目の前には大きなヒマワリが一輪咲いているだけだった。
遠くで少女達の楽しげな声と笛の音が聞こえ、セミの鳴き声が近くの木からうるさげに耳に届いた。
「はぁ…やっぱ駄目だ」
フェイトは頭をかかえてうずくまった。家で何度もイメージトレーニングを重ね、必ず言おうと決心して学校に来ても、
いざという時に声にならなかった。
言っても絶対遠慮してると思われるだけに違いない。
現にアリサとすずかに言ってみても
「「またまたー」」
と言われて一蹴されてしまった。こんな調子ではとてもなのはとはやてに面と向かって言うことなどできなかった。
フェイトは自分の口下手さを初めて呪った。4年前になのは達と出会い、多くの人と友情を育んだことで
過去の人形のようであった自分は見る影もないほど明るくなったフェイトだが、奥手であるのは本来の性格ようだ。
はやてとユーノの仲をこれ以上近づけさせないために試行錯誤してきたつもりなのに、
いつの間にか自分がなのはを悲しませる側になってしまっていたのだ。ここ最近はそのことで悩みっぱなしだった。
さらに問題なのは、いまだにフェイトは何が悪かったかわかっていないことだった。
(もしかして、私はすごい不器用なのかもしれない…)
フェイトはその事実に薄々気付き始めていた。

「あ、いた!ちょっとフェイトこんなとこで何やってんのよ。もうすぐ私たちの番なんだから早く来なさいよね!」
ヒマワリの前でしゃがんでいると、アリサが背丈ほどある花達が植えられた花壇の端から顔を出した。
今は体育の時間で、サッカーの途中だった。2クラス合同の体育で5チームでき、
フェイトのチームは観戦する時間だったのでフェイトはこっそり抜けてシミュレーションしにきていたのだ。
しかし、その時間もどうやら終わりらしい。
アリサに手を引かれながらフェイトは尋ねた。
「ねぇアリサ…」
「ん?なによ」
歩きながらもアリサがフェイトに振り返って聞いた。
「私って、不器用だと思う?」
突拍子もない質問でアリサはきょとんとしたが、すぐにその意図を読んで恋愛のこと?と聞くと、
フェイトは小さくうん、と頷いた。
「そうねぇ。フェイトの場合、頭にキング・オブが付くわね」
それを聞いてフェイトはがくっと頭を下げた。その日のサッカーはほとんど活躍することなく、
終了の笛を聞くこととなった。

次回へ続く

アースラを奪う計画を立て、人質解放のためサイオンと取引をするユーノ。
ユーノの予想通りに話が進むかに見えたが…。

次回 第九話 「最悪のミッション」

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著者:396

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