魔法少女リリカルなのはA's++

[298]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/15(日) 17:29:09 ID:ErZ1szPb
[299]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/15(日) 17:29:51 ID:ErZ1szPb
[300]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/15(日) 17:30:27 ID:ErZ1szPb
[301]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/15(日) 17:31:02 ID:ErZ1szPb
[302]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/15(日) 17:31:39 ID:ErZ1szPb
[303]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/15(日) 17:32:14 ID:ErZ1szPb
[304]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/15(日) 17:33:04 ID:ErZ1szPb
[305]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/15(日) 17:34:40 ID:ErZ1szPb

時空管理局本局。高町なのはは武装隊が勤務するB3区画からとある場所に向かって歩いていた。
今日の新任局員への戦技教導も終わり、捜査協力の依頼も来ていなかったので勤務時間はもう終わっている。
いつもならあとは帰宅するだけなのだが、今日は特別に訪れようと決めていた場所があった。
可愛らしい手提げを持って歩く姿は、管理局の制服を着ていながらもその幼い年齢をはっきりと感じさせた。
すれ違う局員達に微笑みながら挨拶を交わす。なのはを含めフェイトやはやては管理局のエースであり局内に知らないものは
ほとんどいなかったし、なによりその可愛らしい容姿もあって人気があった。
その局員達の憧れと羨望の的であるなのはが向かうのは、ユーノの勤務先である無限書庫だった。
大きな休みがある時以外に自分から会いに行くのは初めてのことだ。
しばらく歩いていると無限書庫の司書達が働くエリアへと近づいてきた。
そこは普段なのはが知っている世界の図書館のイメージとはほど遠いほど混沌としていた。
ある司書は持てないほどの書籍を魔法を使用しながら移動させ、ある司書は一度に三冊の本を調べながら
なにやらコンピュータに打ち込んでいる。
前にユーノが家に来たときには最近仕事が減ったと聞いていたが、減ってこの状態なのかと思うとなのはは少し恐怖を感じた。
ユーノの所在を聞きたいと思っているのだが、その忙しそうな雰囲気に呑まれてなのははなかなか近づくことが出来なかった。
するとふいに前から見知った顔の少女が近づいてくるのが見えた。

「はやてちゃん!」
なのはが手を振ると向こうも気付いたようで軽く手を挙げて近づいてきた。
はやてのほんわかとした雰囲気は殺伐とした司書達の中にいても決して消えることはなく、
走り回る司書の間をゆったりと歩いてくる。
そのギャップを見てなのはは苦笑した。
そして目の前まで来たはやてになのはは尋ねた。
「はやてちゃんはどうしてここに?」
「今日は借りてた本を返しに来たんや」
びしっと指に挟んだカードを見せながらはやてが言った。どうやらそのカードで無限書庫内の本を借りれるらしい。
「そういうなのはちゃんは?」
首を傾げるはやてになのはは持っていた手提げを軽く持ち上げた。
「翠屋のお菓子をユーノ君におすそ分けしようかなって思って」
「ユーノ君、今日はおらへんよ?」
「え!?」
なのはは目を丸くして驚いた。別に連絡を取り合って訪れたわけではなかったが、
ユーノは会うたびに無限書庫に篭りっきりだと言っていたので、てっきりいるものだとばかり思っていたからだ。
ちょっとしょんぼりしているなのはを見てはやてが尋ねた。
「なのはちゃん、それって手作り?」
「え?…うん」
予想通りの答えが返ってきてはやては微笑んだ。
「なのはちゃんちょっと時間ある?」
「?」
少し不思議に思いつつも頷くなのはを連れてはやては歩き始めた。


「そっか。どうしちゃったんだろうね、ユーノ君」
なのはがジュースに口をつけながら言った。
ここは本局内にある喫茶店のような休憩所だ。時空管理局本局ともなればこれぐらいの施設はある。
ユーノのために持ってきたお菓子はさきほどユーノが住んでいる寮の方へと送った。
はやての話を聞く限り、今日はユーノは仕事もほったらかしにして行き先も告げずにどこかへ行ってしまったらしい。
今までこんなことがなかっただけに失踪説まで囁かれたが、
メールの返事があったらしくどうやら身に危険が迫っているわけではないとのことだ。
責任感が強いユーノらしからぬ行動に一抹の不安を覚えるなのはだった。
「まあ今日たまたま何か用事があっただけやないかな。…そんなことより」
「えっと…なにかな?はやてちゃん」
急に真顔になって切り出すはやてになのはは少したじろいだ。
「なのはちゃん、最近のフェイトちゃんどう思う?」
「あ…うんっと……変、かな?」
やっぱりその話か、となのはは思いながら答えた。
どんなになのはが恋愛に対して朴念仁で超がつくほど鈍感であるとは言え、
ユーノが学校に来た4日間とその後のフェイトの様子の不自然さには気付いていた。
なのは自身、ユーノとはやての仲が良くなったことには気付いていたが、前より仲良くなったなぁ、と思っただけだった。
二人とも本好きであることは知っていたので、むしろ当然のこととすら思っていた。だが、予期せぬ反応を示したのがフェイトだった。
はやてとユーノの仲を邪魔するかのように必死に奔走する姿は、なのはの目にも異様に映った。
しかもユーノの休みが終わった後も、フェイトはなのはを避けることはなかったが何かを話していても上の空のような、
それでいて何か言いたげな表情をするのだ。
「それで、どうするんや?なのはちゃんは」
「どうするって…」
楽しげに聞いてくるはやてになのはは質問の意図を聞き返そうと思ったが、
先ほど届けたお菓子のことを思い出して言いとどまった。今日は特に意識せずにユーノに会いに来たのだが、
やはりその動機の根底にあるのは最近のフェイトの行動にあるのかもしれないことを今この瞬間自覚したからだ。
フェイトとユーノが恋人になったらどうなるんだろうか。ユーノに対してフェレットと人間のイメージが半々である
なのはにとって、そもそもユーノとはどういう存在なのか。なにやら考え始めたら頭が混乱してきた。
答えあぐねていると、はやてがウィンクしながらなのはに言った。
「恋に遠慮はあかんよ?」
そう言いながら紙コップを捨てに立ち上がったはやてになのはは聞き返した。
「はやてちゃんはどうするの?」
「へ?なんで?」
突然の切り替えしにはやては動きを止めた。
「だって、本を返すだけならユーノ君の今日の予定、知らなくても大丈夫だよね?」
「なのはちゃんって…変なところで鋭いんやなぁ」
他人の心の機敏には敏感ななのはにはやては苦笑した。
別にどうもせぇへんよ、とはやては軽くながしたが、なのはとはやてはお互い似た心境だということをなんとなく理解したのだった。

                 *

ユーノは今の状況を把握するために必死に頭を回転させた。
囚われた一族。黒い首輪。呼び出された自分。考えながらも眩暈がし足が竦(すく)んだ。
「一応言っておくが、間違っても変な気は起こすなよ。そいつらの命は俺が預かってるんだからな」
釘を刺されたがユーノは特にここでサイオンを取り押さえようとは思わなかった。とりあえずみんなの首にとりつけられた
不気味な首輪の正体がわかるまでは下手に動くわけにはいかなかったし、相手の余裕がユーノの危機感を刺激していた。
サイオンから目を離さず横目で檻の中の一族の人数を数えた。今ここにいるだけで18名。まだ他にもいる可能性もある。
ユーノ自身一族の総数を完全に把握しているわけではないが、少なくとも全員を捕らえられるほど一族は小規模ではない。
おそらく各所での発掘調査が同時期に行われ、一番一族が離れ離れになった時を狙われたようだ。
スクライア一族は遺跡の調査を依頼されることもあれば独自の研究のための発掘をすることもあり、
常にひとまとまりとは限らず数ヶ月連絡を取り合わないことさえある。
ユーノがジュエルシードの回収に単独で乗り出したときも誰も心配しなかったのは、一族にそういう性質があるからだ。

「それで…僕に何をさせるつもりですか」
なるべく怒りを押し隠し、冷静さを保ちながらもユーノは尋ねた。
「さぁ、どうするかな」
面白そうに言うサイオンにユーノは歯軋りした。この男は20名弱の人質をとるという重罪を犯しながらも今の状況を楽しんでいる。
ユーノに一瞬今まで感じたことのない感情が生まれた。
(挑発に…乗っちゃ駄目だ!)
ユーノは深い息を吐いて心を落ち着けた。今必要なのは交渉だ。
「僕を自由にしたまま、ここに連れて来たんだ。何か理由があるんでしょう?それに、僕は自分の価値くらいわかってるつもりです」
「…………」
ユーノがそう言うと、サイオンは顎に手を添え品定めするような目つきでユーノを見つめた。
ユーノ・スクライア。時空管理局無限書庫司書長。人望が厚く頭もいい。状況判断能力も高い。
何より、本人も気付いていないだろうが、極限状態で能力を発揮するタイプだ。直感でそう思った。
優しさと温厚な性格で隠れているだけだが、計り知れない思慮深さを瞳に秘めている。
どうやら聞いていた以上に使える逸材のようだ。これからの計画が非常に楽しみになった。
「いいだろう。状況を説明し、俺がお前に求めることを言おう。条件しだいでは人質解放もありえる。よく聞け」
ユーノはゆっくりと頷いた。後ろにいる一族も寄り添いながら静かに状況を見ていた。
「まず、今捕らえているスクライア一族は28名。別の場所にもう10名いる。
そしてそいつらについた首輪は、俺からの信号で起爆する爆弾だ」
(くっ…!)
ここまでは予想の範囲内だとは言え、ユーノはこぶしを握り締め沸々とわいてくる怒りを抑えた。
赤い目玉のようなレンズは一族の目とほぼ同じ動きをしているので、かなり精度の高い装置であることは一目でわかった。
首輪が締まったり、薬物が投与されるわけでもなく、爆破する。一瞬で、しかも周りを巻き込むタイプは非常にやっかいだ。
誘爆を避けるために二箇所に人質を分けたのだろうか。
「ある一定距離俺から離れたり、俺からの信号を一定時間受信しなくなると爆発する。
もちろんいつでも俺の意思で吹き飛ばすことが可能だ」
それを聞いて檻の中の幼い者達が怯えた声を上げたが、大人達に口を塞がれた。
「それで、お前にやってもらうことだが…」
そう言うとサイオンはユーノに向かって15センチ四方の小型の電子機器を投げてよこした。
薄型で画面と本体がほぼ同じ大きさだ。ユーノが受け取り画面に触れると、見たことのある戦艦の映像が現れた。
「次元空間航行艦船、アースラの奪取だ」
「!?」
それを聞いてユーノは顔を上げた。
「お前にはそのための方策を練ってもらい、実行してもらう」
「な…!?」
あまりの馬鹿さ加減にユーノもついに口を開いた。どうやら全ての作戦をユーノ自身に作らせ、実行もまたまかせるらしい。
簡単な話、空のアースラを用意させ後は乗って奪うだけというところまでユーノにさせる、ということだ。
完全な他力本願。あくまで自分達はぎりぎりまで手を汚さずアースラを奪うつもりのようだ。
「…アースラを奪ってどうするつもりですか?例え入手してもあなたは一生逃げ続けることになるだけだ」
「答える必要はないな」
当然の疑問をユーノはぶつけたが、サイオンは答えなかった。
どう考えてもリスクの割にデメリットが大きすぎる。もしかしたらまだ発見されていない次元でも見つけたのだろうか。
「俺は表の職業柄ビジネスが得意でな。これからお前にはある取引に乗ってもらう。もちろん拒否は許さん」
ユーノが頭を整理する間もなくサイオンが話し始めた。
「アースラ奪取の猶予は1ヶ月。それまでに完璧な作戦を練り、俺に伝えろ」
「…人質の解放は?」
ユーノが一番知りたいことを口にすると、その質問を待っていた様ににやりと笑いながらサイオンは答えた。
「先ほど取引と言ったな?アースラ奪取までは様々な手順を踏むだろうことはわかっている。
そしてその間いつまでも人質を解放しないのも納得いかないだろう。
そこで、なにかしらの成果をあげるごとに人質を順次解放していく。お前の行動しだいで人質の人数は減っていく、ということだ」
「そのための自由…ですか」
「そうだ」
サイオンが頷くと振り返り扉に向かって歩き出した。
「取引には仮初(かりそめ)であろうと信頼関係が必要だ。
人質を解放する意志があることを信じてもらうために我々はまずこいつを解放する。協力するなり好きに使え」
そう言いながら扉を開けると、暗闇の中からエリオが入ってきた。
部屋に入ってからの衝撃の連続のせいでユーノはすっかり忘れていたが、
ここに自分を連れて来たのもそういえばエリオだったのだ。
一族を訪れたときに一緒に捕まったのか、別の場所でスクライアの名で捕らえられたのかは
わからなかったがユーノと同じ立場であることは確かだ。
「ユーノ…大丈夫?」
「うん、僕は。でも……」
話しかけてきたエリオに答えながらユーノは心配そうに檻の中を見る。不安そうに見つめる一族の子と目が合った。
「大丈夫。やつらもみんなに手荒なことはするつもりはないみたいだ」
エリオのその言葉を聞き改めてよく見ると、服は多少汚れているが乱暴を受けた様子はないし、飢えているわけでもなかった。
サイオンも人質に手を出すような粗暴な人間ではないように感じられた。
人質をとるという手段は強攻だが目的に対しては理にかなっている。
ユーノはふと気付くと冷静に分析している自分が嫌になった。

「出ろ」
サイオンがユーノとエリオに退出を促した。
「絶対に…助けるから」
部屋を出る時にそう言うと、一族のみんなが無言で頷いた。
本当は話したいことが山ほどあったが、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。
「詳しい話はそいつから聞け。必要なことは全て伝えてある」
遅れて歩くユーノ達を待たずにサイオンは一人でエレベータに乗り込むと、扉を閉める間際付け加えた。
「くれぐれも管理局に助けを求めるなよ。内通者もいる。常に監視されていると思うことだな」
そして扉が閉まると、倉庫に静寂が訪れた。どこかで水がしたたる音がした。
「…ユーノ」
エリオが心配そうにユーノの顔を見た。
「ちょっと、外に出ようか」
そう言ってユーノは降りてきたエレベータに乗り込むと、甲板に出るためにボタンを押した。


ユーノが港町を訪れたときは昼過ぎだったが、甲板に出たときには空は夕暮れに赤く染まっていた。
外の風はおだやかで非常に心地よかったが、ユーノの心は晴れることはなかった。
船の向こう側に広がる森林さえも不気味に見えた。
甲板の上はクレーンのようなものも備え付けられ、大きなコンテナがいくつか固定されていていた。
その一つのコンテナの上にユーノとエリオは腰をかけた。
「はぁ…」
そこで初めてユーノは深く息を吐いて頭を抱えた。
「あいつらは一体…」
震える声でユーノは嘆くように呟いた。
「表向きは運送会社みたいだけど…ごめん、僕にもわからない」
エリオは申し訳なさそうに答えた。

できることなら逃げ出したかった。
これから自分を待ち受ける運命はユーノの周りの人を傷つけるだろう。
自分の最も大切なものを天秤にかけなければならない時も必ずくる。
そのことを考えただけでユーノは胸が苦しくなった。
エリオはただ静かにユーノの様子を見ていた。
しばらく二人は沈黙し、ただ、風にそよぐ木々の葉の音だけが二人を包んだ。
遠くでどこからか鐘の音が響き、だんだんと近づいてくるように音の波が耳に届く。
5回目の鐘が鳴り響いたとき、ユーノがようやく顔を上げた。
その時のユーノの瞳は、決意と覚悟を秘めていた。
「…首輪をはずす方法は?」
エリオはその意志に答えるかのように知っていることを教えた。
「えっと…サイオンが開錠の信号を送れば開く仕組みになってる。
無理にはずそうとしたり、切断しようとすると爆発するみたい」
「みんなは魔法は使えるの?」
「念話、変身魔法も含めて一切使えない。みんなの魔力が感じないんだ」
「あの赤いレンズは?」
「あれはつけてる者とリンクして見たものをリアルタイムでサイオンに伝えてるらしい」
それを聞いてユーノは口に手をあててしばらく考えを巡らした。
どうやら思っている以上にあの首輪は高性能のようだ。正規の方法以外ではずすことはやめたほうがよさそうだ。
それにしても28人分の映像、魔力封じ、そしてサイオンが送るという信号。少し調べる必要がある。
「それで、どうするの?」
エリオが不安そうに聞いてきた。
「…相手は僕達を利用するつもりなんだ。しばらくは期待通りに動くよ」
ユーノは真っ直ぐに前を見つめながら力強く言った。
「しばらくはって…いいの?取引は?」
「向こうだってこっちが最後まで言いなりだとは思ってないよ。ギリギリまで利用して捨てる気だ」
そう言いながらユーノは立ち上がった。
「これは取引じゃない。…駆け引きだよ」
ユーノは先ほど受け取った小型の電子機器を森の方へと思い切り放り投げた。

次回へ続く

次回 第八話 「過去と現在」

前へ 次へ
目次:魔法少女リリカルなのはA's++
著者:396

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます