魔法少女リリカルなのはA's++

[232]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/08(日) 12:41:00 ID:XtJUQbZW
[233]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/08(日) 12:41:35 ID:XtJUQbZW
[234]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/08(日) 12:42:09 ID:XtJUQbZW
[235]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/08(日) 12:42:44 ID:XtJUQbZW
[236]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/08(日) 12:43:20 ID:XtJUQbZW
[237]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/08(日) 12:43:55 ID:XtJUQbZW
[238]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/08(日) 12:45:20 ID:XtJUQbZW
[239]名無しさん@ピンキー<sage> 2006/10/08(日) 12:45:57 ID:XtJUQbZW

ミッドチルダ首都、クラテガンの中心には巨大な建築物がある。
周りはいくつかの小さな塔で囲まれており、優秀な結界魔導師と高度な装置により
建物を囲むように強力な結界が張られている。その中に入ることが出来るのは選ばれた者のみ。政治家である。
そこは政治の方針を議事する場所であり、ミッドチルダの要だ。
毎月そこでは数百人の政治家達が激論を戦わせている。
今日もその様子はミッドチルダ中の民に生中継されていた。
大広間の中心では、ミッドチルダの刻印の入った伝統的な衣装を着た初老の男が魔法陣の上に立っていた。
髪は真っ白で、オールバックにして長い髪を結んでいた。
周りは薄暗く、その魔法陣の上だけに照明が当たっている。

「今この時も、格差は広がっているのです。年々増える失業者の数、今手を打たなければいずれ破綻する。
才能を重視し、高度な文明を培ってきたのは誰もが認めるミッドチルダの歴史だ」

男はそこで一旦切ると、まるで体全体で語りかけるように力強く続けた。

「だが、幼年者の社会進出が今の格差を生んでいるのです!
経験値は生きた年数に比例するのです。決して魔力の高さだけではないのです。
今一度、能力の高さとは、優秀であることとはなんなのかを見極めるべきなのではないでしょうか!!」

男がそう言い終え、拡声と発光の効果のある魔法陣の上から暗闇に消えるように離れた。その瞬間、盛大な拍手が巻き起こる。
その反応を見て男は薄く笑った。

ようやく来た。自分の望んでいた流れが。今まで支持するものなど皆無だったこの演説も、着々とその効果を示し始めている。
庶民院のやつらも大したことはない。所詮下賎な民の寄せ集めなのだ。
この中継を見る無能な愚民たちも、今のパフォーマンスとメディアの論争ですぐに意見を変える。
そう、政治は結局は流れであり、抽象的なイメージに踊らされるように右にいったり左にいったりしているのだ。
そのくだらないシーソーゲームの存在に気付いたのは四十路を超えたときであった。

今でも続々と“才能ある子供達”が社会へと出ている。はらわたの煮えくり返る思いだ。
周りの議員達の賞賛の声に笑顔と握手で返しながら、男は心の内でそんなことばかり考えていた。



定例の議会も終わり、事務所へと帰り葉巻に火をつける。誰も見ていないので机に足まで乗せた。
今日の仕事はもうない。引き出しからアルコール度数の高い酒をだし、グラスに注ぐ。
窓の外には美しい夜景が広がっていた。ミッドチルダ。とても美しい場所だ。
辺境地域には豊かな自然が残り、なおかつ提携している他の次元世界に肩を並べるほど高度な文明を有している。
風景はその残酷な側面を映し出さない。表面的であるからこそ綺麗と感じるのだ。
男がグラスに口をつけながら物思いにふけっていると、ふと扉の前に人の気配がしドアをノックする音がした。

「べレット・ウィリアムスさん、お届け物ですよ」
「……入れ」

ガチャリと扉が開き、帽子を被った男が入ってきた。手には小さな箱を持っている。
帽子には星に猫が乗ったロゴが入っていた。
目は帽子で隠れているが、その体格の良さは一目でわかる。口には無精髭が見えた。

「私は直接届け物など受け取らん。秘書を通す。覚えておけ」
「それは失礼」
小さな箱を指先でクルクル回しながらその男は壁に寄りかかった。
口では謝罪しながらも欠片も悪いと思っていないその様子にウィリアムスは鼻で笑った。
すると男がにやりと笑いながら言った。
「今日の演説見たぞ」
「どうだった」
「ペテン師にしては、目立ちすぎだな」
男のらしい感想を聞いてウィリアムスは懐かしい気分になった。
「いいのか」
男は葉巻を吸う自分の姿を見て言った。今のウィリアムスはふてぶてしいこと極まりなく、およそ貴族出身とは思えなかった。
一度落ちぶれた身だ。今では自分が元貴族であるとはこれっぽっちも思っていなかった。
「お前と会った選挙前とは違う。それに今日の仕事はもう終わった」
口から煙を噴出すと、パチンと指を弾く。窓にカーテンがかかり、部屋全体に防音の結界が張られる。

「それで…計画はどうなった」
机から足をおろし腕を組む。葉巻を灰皿に押し付け火を消した。
「始まった。いまさら止めようといっても、無理だ」
「そうか。安心した」
ウィリアムスは笑った。これが成功すれば、確実に法案は通る。
流れが自分にある以上、やるなら今しかない。
「やつらはどうしてる」
「丁重におもてなししている。と言っても、檻の中だがな」
そう言うと男は持っていた小さな小箱を放り投げてきた。組んでいた腕を解いて受け取る。
「なんだ?これは」
「証拠だ」
そう言うと男は振り返り扉のノブに手をかけた。
「もらった金はその送料として受け取っておく」
扉を開け、出ていく間際に男が言った。

「またのご利用を」


男が出て行ったのを見てウィリアムスはため息をついた。
これで会うのが最後かもしれないというのに、全くあの男はあっさりとしている。
しかも直接会いにくるとはなんとも大胆だ。たぶん、大胆だからこそ、あの仕事はやつにしかできないのだ。
それにしても箱の中身はなんだ、と思った。あの男は言った。証拠だと。
ごくりと喉が鳴る。
(まさか、指とか耳じゃないだろうな…)
そんな処分に困るもの、もらっても気持ち悪いだけだ。軽く箱をふってみた。音はしない。それに驚くほど軽い。
ウィリアムスは薄目を開けながらゆっくりと箱を開けた。箱の中身を見てほっと胸を撫で下ろす。
なんだか無性に笑いがこみ上げてきた。
「あいつらしいな」
そう言うと再びグラスに口をつける。今日は気分よく酔えそうだ。


机の上に置かれた小箱には、動物の毛が詰まっていた。



                 *

ユーノは目の前の少年に連れられミッドチルダの郊外にある港町にきていた。港と言っても海があるわけではなく、
飛行船舶が停泊している場所ということだ。海の代わりに森林が街の周りには広がっていた。
旅行用もあれば、戦艦も停泊している。町は昼下がりで結構な人で賑わっていた。
「ねぇ、どこまで行くんだよ」
ユーノは人の波をかき分けるようにどんどん先に進んでいく少年に声をかけた。少年は振り返り、真剣な眼差しで言った。
「ついてくればわかる」
「ちょ、ちょっとエリオ!」
そして再び早足で進んでいく少年の背中を、ユーノは必死で追いかけた。

彼の名はエリオ・スクライア。
青色の髪、長さは小学生の頃のユーノより少し短い程度。青い瞳が印象的な少年だ。
ユーノとは小さい頃の幼馴染だが、6歳の時にエリオは母親と一族を出て行ってそれ以来会ったことはなかった。
一年だけだが、魔法学院も一緒に通った。もう一人の幼馴染の少女と三人で、よく森に冒険に出かけたことを思い出す。
エリオはかなりの泣き虫で、もう一人の少女はとんでもなくお転婆だった。ユーノはいつもまとめ役だった。
三人は、時には喧嘩し、時にはふざけ合いながら野を駆けた。
二人は孤児のユーノを変な目で見たりしなかったし、一族にそんな人は一人もいなかった。
スクライアの名を持っているものはみな家族なのだ。
あれから何をしていたのか聞きたかったが、どうやらそれどころではないようだ。
どうやって無限書庫に忍び込んだのかもとても気になった。
そんなに本局のセキュリティは甘いのだろうか。早く帰って見直す必要がある。
しばらく歩くと、人の賑わいから外れた大きなコンテナがたくさん置いてある場所まできた。
どうやら貨物船の積載場のようで、がたいの大きな男たちが機械を操作しながらコンテナを貨物船の中へと運んでいた。
「よぉエリオ。早かったじゃねーか」
すると突然、作業をしていた男がこちらに声をかけてきた。周りの男たちもそれに気付いたようでこちらを見ている。
しかし、エリオは全く目を合わせず素通りした。その様子を見てユーノは戸惑った。
「え、いいの?知り合いなんじゃ…」
せっかく挨拶されたのに無視するのは酷いんじゃないだろうか。
ユーノが尋ねると、エリオは怒りをにじませたようなきつい目をして言った。
「ユーノも、じきにこうなる」
「?」
そう言うと階段を上り開けっぱなしの貨物船の中へと入って行った。困惑しつつもユーノはそれに続いた。

船内はお世辞にも綺麗とは言えず、所有している企業があまり大きくないことをうかがわせた。
大きい企業ほど、こういった清潔感には気を遣うものだ。貨物船自体はかなり巨大で、アースラに引けを取らない大きさだ。
クルーはあまり多くないのか今はいないだけなのか、船内を歩いていてもほとんどすれ違わなかった。
それにしてもこの久しぶりに会った幼馴染は自分に何をさせるつもりなのだろうか。
無限書庫は比較的仕事が減ったというだけで今でもやるべきことは山ほどある。
昔のよしみでそれらをほっぽりだしてまで出てきたと言うのに目的も告げずに連れまわすばかりだ。
文句の一つでも言ってやろうとユーノが声をかけようとしたとき、ある鉄の扉の前でエリオが立ち止まった。
プレートには船長室と書いてある。どうやらここが目的地のようだ。
「入らないの?」
扉の前でしばらくたたずんでいるエリオにユーノは話しかけた。
「あ、あぁ」
そう言いながらノックしようとするエリオの肩は、明らかに震えていた。
そして意を決したように声を出す。
「入ります」
ゴンゴンとノック音が響き渡り、重い扉を開け二人は部屋へと入った。
中にはコンピュータに向かって仕事をしている眼鏡をかえた男がいるだけだった。
顔には無精髭をたくわえ、その体格からか窮屈そうに椅子に座ってデスクワークをしている。
歳は30代前半くらいか。黒髪短髪で、第一印象は体育会系っぽく見えた。
男は入ってきた二人を見てコンピュータから顔を上げると、眼鏡を外して立ち上がった。
「おお、ようやく連れて来たか」
笑みを浮かべながらそう言った目の前の大柄な男に対して、隣のエリオは直立不動で立っていた。
もしかしたらこの男がエリオの雇い主かもしれない。
「これはこれはスクライア司書長。この度は申し訳ありませんでした。強引にお連れする形になってしまって…」
「はぁ…」
愛想笑いを浮かべながら話す男にユーノは戸惑った。いまだに何故自分がこの場にいるのかわからないからだ。
「おっと自己紹介がまだでしたな。私の名前はサイオン・ウイングロード。この輸送船『グランディア』の艦長を…」
「いいかげんにしろ!!!!」
「!?」
突然の怒声にユーノは驚いてエリオを見た。
全く怒るような状況でもなかったし、しかも雇用主だと思っていた男に怒鳴ったからだ。
「あんたの言うとおりユーノは連れて来た。それに僕達には演技の必要もないだろう!」
それを聞いたサイオンは今まで浮かべていた笑みを消し、エリオとユーノを見下ろしながら言った。
「勘違いするな。演技などではなくどちらも俺だ。まあ、今は裏の方を使うべきだったかな」
そう言うと二人の横を通り過ぎ扉を開けた。
「ついて来い」
またも移動するらしい。ユーノは先ほどのやり取りに眉をひそめながらもその後をついて行った。

部屋を出て通路をしばらく歩き、エレベーターに乗った。
数字をみるかぎりどうやら今いるのは二階で、一階、三階、そして甲板へと出られるようだ。
エレベーターの中でふいにサイオンがユーノに話しかけてきた。
「ときにユーノ・スクライア」
「…なんですか」
一変したサイオンの雰囲気に警戒するように堅い表情のままユーノは返した。
「なぜここに呼ばれたのか知りたいだろう?」
「当たり前でしょう。エリオは話してくれないし…」
ちらりとエリオを見ると俯いていて立っていた。なんとなくそこには昔の泣き虫だった面影が見えたような気がした。
今まで無理をしていたようにも感じる。
「口止めしていたからな。ここでのことはどんな些細なことであろうと口外できない」
1の数字が点灯しエレベーターの扉が開く。そこは倉庫のようで多くのコンテナが積み重なっていた。
小さな電灯がいくつかその真下を照らしているだけで、とても薄暗かった。
通路のようになったコンテナの間を歩いていくと、扉に突き当たった。
サイオンがリーダーにカードキーを通すと、ランプが緑に点灯し扉のカギが開く音がした。
「この中にお前を呼んだ答えがある。なに、閉じ込めたりはしない」
そう言うとサイオンが扉を開け中へと入って行った。
いい加減理由が知りたかったユーノはすぐに入ろうとすると、突然肩を強くつかまれた。
「どうしたのさ?」
ユーノがいぶかしげにエリオを見ると、エリオはそのスカイブルーの瞳をユーノにまっすぐ向けて言った。
「何を見ても、心をしっかり保って。ユーノ…」
そう言うとユーノを軽く押して促した。ユーノはその言葉に不安にかられつつも部屋の中へと入った。


倉庫と同じく薄暗いその大きな部屋の中には動物用の檻、それも少し大型の動物を入れるための檻がいくつか立ち並んでいた。
空の檻もあれば、ミッドチルダに生息する獰猛な動物も入っている。時折ひっかくように檻の隙間からその爪を伸ばし、
前を通り過ぎるユーノを威嚇するように吼えた。
ユーノは両脇に並ぶ檻の間をゆっくりと歩いていく。
自分の足音が室内に響いた。
しばらく進むと、ユーノは一番奥の大きめの檻に目がいった。
目を凝らすと、奥ではいくつかの影が蠢くのが見えた。

自然と手に汗をかく。

嫌な予感とともにユーノは恐る恐る近づいた。

そして目を見開く。

その中には小さな子供から大人まで、複数の人間が閉じ込められていた。

さらに驚くことに、ユーノはその幾人かの顔に見覚えがあった。

「そんな……みんな……」

ユーノの声に檻の中の人間の目が一斉にユーノを見つめる。
みなの首には黒い首輪がされていて、赤い目玉のようなレンズがまるで生きているかのように、同様にユーノを見つめた。

「!?」

駆け寄って檻に手をかけようとするとすぐ横で人の気配がした。
ユーノは震えながら目を向けると、檻の前にサイオンがいやらしい笑いを浮かべながら立っていた。

「これが答えだ。ユーノ・スクライア」

次回へ続く

次回 第七話 「駆け引き」

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著者:396

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