[142] 昼餉前 sage 2008/02/16(土) 20:05:42 ID:Qea0al9D
[143] 昼餉前 sage 2008/02/16(土) 20:07:01 ID:Qea0al9D
[144] 昼餉前 sage 2008/02/16(土) 20:08:20 ID:Qea0al9D
[145] 昼餉前 sage 2008/02/16(土) 20:09:31 ID:Qea0al9D

 カーテンの隙間から、昼間の光が漏れている。
 本来なら意識に目覚めをもたらすはずの光だが、身体と頭の芯に残る重たさは一向に晴れない。
 小春日和の日差しというものは、どうしてこうひたすら生温くて気だるさを増すばかりなのか、とカリ
ムはぼんやり考える。
 光を受けた密かに自慢のブロンドの髪も、なにやら湿った飴色のように輝いている気がする。
(……濡れているのは事実ね)
 かき上げた前髪に引っかかりを覚えて、カリムは苦笑する。髪や顔に飛び散った白濁液を拭いもせずに
乱れあったため、すっかり固まってしまった。背中に流れた髪も、自分の汗でべっとりと貼りついている。
洗う時に難儀しそうだ。
 目にかからない程度に髪を梳き分け、今度は隣に寝転がる人物の黒髪に手を出す。少し癖のある短い黒
髪も、やはり湿っている感触がした。
 これぐらいの長さなら洗う時に楽だろうと思いつつ、カリムは口を開く。
「提督はもっと誠実な方だと思っていました」
 天井の辺りを彷徨っていたクロノの視線が、こちらに向けられる。
「……あなたに嘘をついた記憶はありませんが」
「ええ、たしかに嘘はつかれていません。ですが……奥様がいらっしゃるのに他の女性を抱く殿方を、誠
実とは言えないでしょう」
 クロノの眉間に皺が寄る。
 寝室で彼の妻子を話題にしないのは、二人の間の暗黙のルールだった。あえてそれを破り、カリムは一
歩踏み込んでみる。
 しかし、クロノはすぐに険しさを解いて微笑んできた。
「求めてきたのは、騎士カリムからでしたが」
「こういう場合、受け入れた方の罪が重いものですよ」
 起き上がり、クロノの顔を上から覗き込む。どこまでも柔らかな表情。こんな話題を振られて余裕ある
顔をしている時点で、彼は少なくとも世間で言われているように実直一筋の男ではない。
「それに、全くためらわずに抱いてくれましたし。……この分だと、妹さんやはやてにも手を出している
のではありませんか?」
 それは初めて抱かれた日から、カリムの胸の内に棘のように刺さっていた疑問。こうも容易く自分を受
け入れたのは、既に不倫を経験済みだからではないか、と。
 茶化し気味にしたが、カリムは顔の皮一枚下ではしごく真剣だった。
 しかし、クロノにまったく動揺は見られない。
「……もしそうだったら、どうしますか?」
 手が伸びてきて、胸板に抱き寄せられる。
「僕が妻やあなた以外の女性もこうして抱きしめていたら、あなたはどうしますか」
 どうだろう、と改めてカリムは思考する。所詮は自分も倫を外れて愛に溺れた愚か者の一人であり、ク
ロノの不実をなじるのはお門違いも甚だしい。
 とはいえ、それは理屈だけの話だ。
「…………寂しいです」
 心の中を偽らずカリムは言葉にする。
 他の女性と、例え妻であるエイミィでさえ、彼とこんなことはしてほしくない。彼のたった一人の恋人
になりたい。
 そっと、主人に甘える猫のように顔を摺り寄せれば、優しい手が髪の上から身体を撫でてくれた。
 そのまま緩やかに眠りについてもよかったが、今日はもう少し問い詰める。
「それで、真実はどうなのですか?」
 背中の手が、止まった。
「……そんなに訊きたいですか」
「私が笑っているうちに白状されるべきですよ。……こう見えて一途な女ですから」
 顔の向きを変え、クロノの視線をベッドサイドに置いた籠に誘導してやる。
 籠の中身は、昨日ヴェロッサが持ってきた果物の詰め合わせ。しかしカリムが見せたかったのはそこで
はなく、その隣にぽつんと置かれた果物ナイフ。
 ほんのちっぽけな物だが先端は物騒に尖ったナイフと自分の言葉から想像される未来図を描いたのか、
クロノの表情が少し青ざめた。
「さあ、クロノ提督。いったいどれだけの人と…………んんっ!」
 追求の手は強制的に中断された。下半身に走る甘い痺れ。二人の体液が溢れまだ乾いていない秘裂に、
無骨な指が忍び込んでいた。
「あふ…………こうやって誤魔化すなんて……やっぱり誠実とは、言えません……ね」
 激しい抽迭に晒されていた膣内は過敏なままで、ほんの指一本でも吐息が不規則になってしまい、意識
にうっすら紗がかかる。
 潤み出した瞳で注視するが、クロノが本当に誤魔化そうとしているのか、ただ戯れで黙っているのかは
判別できなかった。
 素直に諦め、再び硬くなりだした乳首を擦りつけながら、カリムはなんとか耳元で言葉を形作った。
「いいですよ……今日は誤魔化されてあげます。その代わり……」
 次にあなたが来る日まで寂しくないよう、ありったけ激しくしてくださいと、強く重ねた唇で伝えた。


「ああ……はぁんん!」
 寝室にあるのは嬌声と卑猥な水音、そして絡み合う二人の男女。ただそれだけ。
 昼の光に全身を照らし出されながら、カリムはクロノに跨っていた。
 体勢だけ見れば、カリムが貪っている光景。だが実際の主導権はクロノにあった。震えるカリムの足は
身体を支えるのが精一杯で、とても上下することなどできはしない。ただ一定の間隔で身体を貫いていく
衝撃を、甘んじて受けるだけだ。
 それをいいことに、クロノは好き勝手にカリムの身体を弄んでいく。手が、揺れる胸に伸びてきた。
 いつもは法衣の下に隠れて目立たないが、平均よりもだいぶ大きい乳房が揉みしだかれる。その度に身
体のあちこちが意思と無関係にびくつき、喉も欲望だけを吐き出す。
「ふぅ、は……ぁ……もっと、強く、お願いします…………あああん!」
 柔肉の稜線が歪み、しこった乳首が強制的に天を向く。こちらも充血した乳輪もろとも摘み上げられれ
ば、カリムは部屋の外まで響きかねない嬌声を上げるしかない。
 腰と胸を強く愛され、このまますぐ絶頂に身を委ねられるはずだった。
 しかしクロノの手はすっ、と離れてしまう。左手は背骨をこそばすように上ってき、右手は二つの丸み
を帯びた丘に落ちてくる。それだけでは終わらず、谷間に指が埋め込まれた。
「あっ……そんな所を……」
 ありえない場所に入ってくる異物。だが心に湧いたのは恐怖ではなく、高揚だった。少し回転されただ
けで、腰がその方向に揺れてしまう。
「こちらも嫌いではないでしょう、騎士カリム?」
 腰の動きは止まったも同然に遅くなる。嫌でも意識が後ろにいってしまい、指が与える快感が増えて力
が入る。
「ほら、こんなにも締めつけてきている。……なんなら、こちらでしましょうか?」
 こうして本能のままに交わりながら、呼び方も口調も他人行儀なままだ。
 それがあなたとはここまでだという線引きではなく、彼流の特別扱いなのかだと思っている。根拠は、
無い。
「本当にお好きなのは……提督の方でしょう」
 しかしかく思うカリムも、話し方は普段と変わりはしない。いつまでも口調を改めてくれない彼への、
ささやかな皮肉だ。効果があるかどうかは怪しいが。
 だがもしも、自分がした問いにどんな答えであれ彼がきちんと返事をしてくれたなら、その時は。
 肩書きを付けぬ彼の名を、ありったけの愛を込めて囁いてあげよう。他の誰よりもあなたを想っていま
す、という証拠に。
 そうすれば彼も、カリム、と優しく呼んでくれるか。
 また肉棒の突き上げが本格化し始めた。前も後ろも、痛々しさを感じる寸前の絶妙な荒さ。
「お尻をいじると、前も気持ちよく……なりますね……!」
「そっ、んなこと……言わないで、ください……!」
 身体中の神経が、腰の二点だけに集中した。力の入らなかったはずの足が憑かれたように動き出し、腰
を派手に振る。髪飾りを取った金髪が、煌きながら舞い踊る。
 一番深くで絡み合った肉と肉が、限界を迎える。なにかが弾ける音が、した。
「んあっ……! あああぁぁ!!」
 もはや何も考えられぬ頭が、陽光の中でゆらゆらと揺れていた。


 カリムの意識が戻ったのは、身体を持ち上げられ股間にあった存在感が消えたからだった。
 倒れこむように顔を寄せ口づけしようとするが、クロノはするりと腕の中から抜け出てしまった。
「そろそろ帰らせてもらいます」
 その態度はもうすっかり、管理局屈指の敏腕にして堅物と評判の提督へと変わっていた。
「仕事がかなり溜まっていますので」
 クロノは寝台を離れ、床に脱ぎっぱなしだった服を身に着けていく。
 カリムも裏返ったりしているのを整えては渡していくが、ふと悪戯心を起こした。別れ際にキスもして
くれず帰ってしまうつれない男には、いじわるの一つぐらいはしてやるべきだろう。
 念話を忠実な従者と、着替えを終わらせつつある提督に繋ぐ。
『シャッハ、お昼の準備は出来ている?』
 鞄を手に取り、まさに部屋を出て行こうとしていたクロノの足が止まる。
『ちょうど今から取りかかるところですが』
『クロノ提督が昼食を食べていかれるそうなので、私の分と一緒に持ってきてくれるかしら』
『はい、かしこまりました』
 主が客人と淫行に走っているなど想像すらしていないであろうシャッハは、実に快活な返事をした。
「…………騎士カリム」
 他方、こちらは苦虫を噛み潰した見本のような顔をしている。念話を切ったカリムは極上の笑顔を向け
てやった。
「誠実なことで有名なクロノ提督は、女性からの食事の誘いを断られるような方ではありませんよね?」
 はあ、と大げさに頭を振りながらクロノは鞄を置いた。すかされ翻弄されっぱなしだったクロノから、
ようやく一本取れたようだ。
「なんなら、晩餐も……朝食もご一緒してもよろしいのですよ」
「……さすがにそれは絶対に無理です。昼食だけで許してくれませんか」
「それでしたら」
 日頃使わぬ洒落た言い回しを頭の中で組み立てながら、カリムはそれこそダンスのエスコートを求める
ように、細い指先を愛する男へ伸ばした。
「食事が出来るまでまだ時間はあります。……もう一曲、ワルツを踊っていただいてよろしいでしょうか、
提督?」



       終わり


著者:サイヒ

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