[545] 鉄拳の老拳士 sage 2008/02/18(月) 17:54:10 ID:aL/Dz3Fa
[546] 鉄拳の老拳士 sage 2008/02/18(月) 17:54:48 ID:aL/Dz3Fa
[547] 鉄拳の老拳士 sage 2008/02/18(月) 17:55:15 ID:aL/Dz3Fa

鉄拳の老拳士


俺には娘がいた。
親の俺が言うのもなんだが本当によく出来た娘だった。屈託のいない明るさそして人を思いやる優しい心。
ただ以外にも喧嘩っ早くて正義感がやたらと強いところは俺に似たんだろう、小さい頃は苦労させられた。
俺の使う特殊なベルカ式の格闘戦術、シューティングアーツを習いたいと言った時なんて心底肝を冷やしたもんだ。
最初は護身術程度で教えたシューティングアーツもいつの間にか随分と上達して俺を驚かせた。

妻を早くに亡くしたという事もあって、甘やかして育てたのかもしれないが俺は本当にあの子の幸せを考えていた。
だからあの子が男を連れてきて“結婚する”なんて言った時に俺は猛反対した。
どこの馬の骨とも知れねえ小僧に娘をくれてやる気なんて無かったからな、だが今ではそれをひどく後悔してる。
俺と娘はそのまま喧嘩別れしてそれっきりになっちまった、しばらくしてあの子が養子をとって娘が出来たと聞いても顔を見せる事も無かった。
正直に言うぜ、俺はつまらねえ意地を張ってもう一度あの子と喧嘩しちまうのが恐かっただけだったんだ。
笑ってくれ、ベルカ最強の拳士なんて謳われたこの俺が娘と喧嘩しちまうのが恐くて顔を見せれなかったんだ。
まったく情けねえ話だぜ。

そして最後まであの子との仲を直すことは出来なかった、あの子は管理局の仕事で事件を追っている最中に死んじまったからな。

俺は葬式に顔を見せることも出来なかった、ただ自分が情けなくて。
てめえの面を晒すことが出来なかった。
この腐った老いぼれがどの面下げて孫に顔見せりゃ良い。

俺は荒れた、局も辞めてけちなバウンサー(用心棒)やバウンティハンター(賞金稼ぎ)で小銭を稼ぎ酒につぎ込む日々が続いた。

その糞のような生活が続いて何年も経った、そんなある日だ娘を死に追いやった犯罪者ジェイル・スカリエッティが脱獄したという情報が流れて来たのは。

俺は迷う事無く長年鉄火場を潜った相棒、名も無き鉄の拳を連れて酒びたりの日々とおさらばした。

目的はただ一つ。
あのクソッタレに娘と同じ苦痛と死をプレゼントしてやる。





J・S事件の首謀者、ジェイル・スカリエッティが脱獄したというニュースは多くの次元世界に波紋を呼んだ。
その背景にはスカリエッティの持つ戦闘機人や人造魔道師の技術を欲した軍属の力が強い管理世界や非合法の軍需産業が関わっており追跡及び探索には多いな労力を要した。
もちろん事件解決に多大な貢献をした機動六課がこの捜査に乗り出したのは言うまでも無い。
地道な捜査の結果、六課はある次元世界にスカリエッティの足取りを掴み捜査の手を伸ばした。


そして潜伏先と思われる朽ちた工場やビルが並ぶ廃棄都市区画。
そこを六課メンバーが探索魔法を行使しながら各々のチームを組んで捜索している。
少女、スバル・ナカジマは相棒であるティアナ・ランスターと共にボロボロの工場区画を走り抜けていた。

「何の反応も無し、本当にここにいるのかな?」
「うっさい、愚痴こぼす暇があったら探しなさい」

いつものやりとりをしながらスバルとティアナは探索魔法の網を広げていく。
もう数時間は探索の手を回しているのだが収穫はゼロだった、いい加減集中力も落ちていく。

だが戦闘とは突発的に起こり、なんの猶予もなく襲い来る。

突如として二人の下に金属製の戦闘機械が踊りかかり、射撃攻撃と巨大なワイヤーアームを繰り出した。

「うわっ!!」
「きゃあっ!」

寸でのところで強襲を回避したスバルとティアナは即座に戦闘態勢をとり襲撃者を見据える。
それは今まで見たこともない巨大なガジェット・ドローンであった。
身の丈十数メートルを超える巨体に、脚部にはクモのような多脚が存在し上部には6本のワイヤーアームが鉤爪を唸らせている。
不気味な姿を晒す未知の新型敵戦力。

だがスバルとティアナは臆する事無く応戦に移る、機動六課で揉まれた日々は伊達ではない。
展開される宙を駆ける翼の道ウイングロードをスバルとティアナは走り抜ける。

ティアナが無数の幻術のカモフラージュと誘導弾を作り出して敵の目を撹乱しながら集中砲火の火を吹かせて鮮やかな戦火を散らす。
だがその魔力弾の雨を受けても新型ガジェットの強固な装甲は傷一つ無い、ティアナの攻撃ではあまりに火力不足なのだ。

「くっ! 普通の弾殻じゃ効かない。スバル、一気に決めて!!」

通常弾頭での撃破は無理と即座に理解したティアナは敵に弾幕を張って足止めしながら相棒に指示を出す。
それを受けたスバルは待ってましたとでも言わんばかりに駆け出し、魔力を込めた最高の技を叩き込んだ。

「一撃必倒、ディバインバスタアアアア!!!」

青き閃光が走り、スバルの右拳が唸りを挙げてガジェットのボディの中心部にヒットする。
さしもの新型ガジェットの装甲も悲鳴を上げだすが、この戦闘機械はただやられるだけの木偶ではなかった。
ガジェットは即座にAMFを展開してスバルの魔力結合を阻害する。
ガジェットの発した高濃度のAMFにスバルのディバインバスターの威力が徐々に落ちていく。

「くっ! なんて重いAMFこのままじゃ…」

スバルが苦い言葉を漏らした瞬間、ガジェットのアームが彼女目掛けて襲いかかる。
スバルは攻撃に意識を集中していた為にこれをあっけなく受けて転がった。

「きゃあああっ!!」
「スバル!!」

ティアナが駆け寄ろうとするが、その彼女の目の前に新しい敵の増援が現われて道を塞いだ。
新型ガジェットがもう一体現われて二人に迫る、スバルは先の攻撃の衝撃で倒れたまま、ティアナも増援の新型ガジェットとの戦闘に助ける事も叶わない。

絶体絶命と思われた刹那、その男は現われた。

突如としてスバルと同じ天駆ける魔力の道、ウイングロードが展開される。
それは蒼穹を思わせる濃いダークブルーの魔力光で形成されており、場違いにもティアナは思わず美しいと感じた程だった。
そしてその上を知覚できるギリギリの速度で一つの黒い影が駆け抜ける。

「砕!!!!」

影はスバルに迫るガジェットに高速で接近すると一撃拳を叩き込んだ。
次の刹那、そのたった一発の拳に新型ガジェットは凄まじい爆音を立てて砕け散り、鉄屑へと姿を変える。

影の正体は一人の男。
黒いコート型バリアジャケットを着込み、禿げ上がった頭とヒゲに覆われた面体の老人だった。
だがとても老人とは思えない筋骨隆々とした五体を持ち、バリアジャケット越しに筋肉の逞しい隆起が見える。
手足にはスバルと同じローラーブーツ型とナックル型のデバイスを装着しているがこれの
大きさはスバルの比ではない。質量は優に三倍を超えると想像させる巨大な金属の拳足は凄まじい破壊力を連想させている。
そしてなによりも老人の最大の特徴はその眼光だろう。
まるで研ぎ澄まされた刃のような鋭さの瞳は正に武人を思わせる迫力を放っている。

老人はティアナに向き直ると小さく呟いた。

「頭下げてな嬢ちゃん、怪我するぜ」

老人はそう言うと無造作に右の拳を振りかぶり、極大の魔力を拳に集める。
ティアナは本能的にその危険度を悟り、しゃがみ込んだ。

「破あああ!!!」

老人は裂帛の気合を込めた咆哮と共に魔力の拳を撃ち出して残ったガジェットに叩き込んだ。
装甲も防御もAMFも無視したその強大な魔力拳は一瞬で残りの新型ガジェットをスクラップにした。

時間にすれば一分もない時間で強大な新型ガジェットは無様に消えた。
後にはスバルとティアナ、そして謎の老人だけが残された。

老人は倒れていたスバルに近づき、そっと手を差し出した。

「立てるか?」
「えっと…はい」

スバルはその手を取って立ち上がる。
老人の目は先ほどの猛々しさが嘘のように優しい眼差しへと変わっていた。
それはまるで我が子を愛しむ父のように。

「あのあなたはいったい誰なんですか?」

ティアナはすぐに思考を冷静なものへと変えて質問をする、ここは捜査の為に一般人の立ち入りは制限されているのだ。
老人は明らかに管理局の人間ではないようだったのだ、不審に思うのも無理はない。
老人はこの質問に静かに答える。

「俺はアルベルト・ゴードン。バウンティハンター、しがない賞金稼ぎだよ嬢ちゃん」

静かで低く、そしてどこか威厳に満ちた声で老人は答えた。


こうして彼は血塗られた復讐に最中、会うはずのなかった孫娘に出会った。

続く。



次へ
目次:鉄拳の老拳士
著者:ザ・シガー

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます