[791] 鉄拳の老拳士 sage 2008/02/19(火) 16:39:00 ID:wTy852fq
[792] 鉄拳の老拳士 sage 2008/02/19(火) 16:40:12 ID:wTy852fq
[793] 鉄拳の老拳士 sage 2008/02/19(火) 16:41:50 ID:wTy852fq
[794] 鉄拳の老拳士 sage 2008/02/19(火) 16:43:12 ID:wTy852fq

鉄拳の老拳士2

まったく神様なんて野郎がいやがったら、そいつはきっと最悪の糞野郎だ。
これからドゲスの返り血で汚れる予定の腐った老いぼれの前に孫なんぞ連れて来やがったんだから最悪も良いところだ。
あの世のクイントがみたらきっと俺をクソでも見るような目で見るだろうぜ。

くたばったら地獄に落ちる前に一発ぶん殴ってやる、覚悟してろよ糞神様。





とある次元世界のとある都市、朽ち果てた廃棄区画に乱立する巨大な工場の合間を三人の人間が歩いている。
機動六課スターズ分隊に所属する二人の少女スバルとティアナ、そしてもう一人はバウンティハンターを名乗る老人アルベルト・ゴードンである。
スバルとティアナは新型ガジェットドローンとの交戦中、突如として現われたゴードンに助けられ互いの目的が周辺探査とスカリエッティの足取りを追う事と分かり行動を共にする事にしたのだ。


「それじゃあゴードンさんもシューティングアーツの使い手なんですか?」
「まあな」
「あの魔力で道を作る魔法って先天系(インヒューレント)ですよね? あれもウイングロードって名前なんですか?」
「ああ、そうだぜ」
「さっきの魔力で拳を撃ち出した技もシューティングアーツなんですか? デバイスはやっぱりカートリッジ搭載式なんですか? それからそれから…」
「おいおい嬢ちゃん、あんまりたくさん質問しないでくれよ。俺の口は一つしかないんだぜ?」
「はうぅ……すいません」

先ほどからスバルは眼前で見せ付けられた同系統の格闘技術や先天系魔法ウイングロードに興味を惹かれ、ゴードンに纏わり付いて質問攻めにしていた。
2メートルを超える長身に筋骨隆々たる体躯、ヒゲで覆われた強面の面体、刃のような鋭い眼光と気迫を持つゴードンに初見こそ緊張していたスバルだが今ではひどく懐いている。
その様はまるで新しい興味の対象を嗅ぎまわる子犬のようで実に微笑ましいものだった。

「そのへんにしておきなさいスバル、ゴードンさん困ってるじゃない」
「あうぅ〜」
「まあそう言うなよ、俺もこんなカワイ子ちゃん達と話すのは久しぶりで楽しいんだ、マンザラでもねえさ」
「そ、そんな〜“カワイ子ちゃん”だなんて……」

ゴードンの言葉を受けてスバルは顔を真っ赤にして恥らう。
ティアナはやや呆れ気味に、ゴードンは優しく暖かい眼差しでそんなスバルの可愛らしい様を見守る。
そこへロングアーチからの通信が入った。

『こちらロングアーチ。スターズ03・04、状況はどうですか?』
「こちらスターズ04、異常なし。先ほど連絡した民間のハンターの方と周辺を探索中です」
『了解。それと、もうすぐそちらに他の分隊も合流できます』

通信が終わるや否やというタイミングでスバル達の下に機動六課スターズ・ライトニング両分隊のメンバーが現われる。
飛行魔法を行使する隊長陣にフリードに乗ったエリオとキャロがスバル達の下に下り立つ。
ゴードンは集まった六課メンバーを一瞥すると軽く口を開いた。

「こりゃまたカワイ子ちゃん揃いだ。しっかし、ちょいと小せえ子が多すぎやしねえかい?」

ゴードンはそう言いながらエリオやキャロ、ヴィータを見て呟く。
その言葉にエリオとキャロはともかくヴィータは大いに気に入らないと言わんばかりに眼を吊り上げた。

「おいジイさん! 誰が小せえって!?」
「こいつぁ失礼したぜ、お嬢ちゃん。そういうのが気になるお年頃だよなぁ、お詫びにこの飴玉で許してくれや」

ゴードンは頭を掻いて苦笑いしながら詫びを入れると、ポケットから出した飴玉をヴィータに差し出す。
本来なら子供扱いされて怒るところなのだが、ヴィータにとって美味しそうな飴玉の誘惑は少々抗い難いものだった。

「まあ、なんだ……悪いと思ってるんなら許してやるよ」

ヴィータは少しばかり恥ずかしそうに顔を背けながらもゴードンの手から飴玉を取る。
その様子はもはや“お爺ちゃんからお菓子を貰う子供”状態でありなんとも微笑ましいものだった。

その様子に唯一人フェイトはいささか厳しい視線でもってゴードンを見据えている。
そしてゆっくりとゴードンの前に歩み寄ると彼のシワだらけの顔を上目遣いに睨む。

「おいおい、そんなに見つめられると照れちまうぜ」
「はじめまして、機動六課所属の執務官フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」
「こいつぁ、ご丁寧にどうも。バウンティアンターやってるアルベルト・ゴードンってもんだ、よろしくな」
「あなたのハンター登録IDは先ほど確認しました。でもこの周辺で捜索をしているという情報は現地世界から受けていません、どういう事ですか?」

フェイトは常の彼女らしからぬ鋭い目つきと言葉でゴードンに問いただす。
だがそれも無理はない、ハンターや賞金稼ぎという人種のほとんどは腕っ節に自慢のある荒くれであり賞金首欲しさに局の捜査を妨害する事もあるのだ。
執務官という経験上その事をよく知っているフェイトがゴードンを厳しい目で見るのも当然といえば当然である。
しかしゴードンは不敵に、そして快活な笑みを浮かべてフェイトの言葉に答えた。

「そんなに睨むもんじゃねえぜ嬢ちゃん、綺麗な顔が台無しだ」
「ふ、ふざけないでください!」
「まあ落ち着きなって、俺はちゃんとこの世界の当局に犯罪者確保の申請はしたぜ」
「それじゃあ、なんで私達に連絡がないんですか!? もしそうならスカリエッティを追っている私たちに詳細が…」
「決まってるぜ………この世界の軍属の政治屋共があのクソッタレとツルンでやがるからさ」

ゴードンはフェイトの言葉を遮って口を開き吐き捨てるように呟く。
そしてその瞬間に彼の雰囲気は一変した。
今までは鋭いながらもどこかに温和さを持っていたものが燃えるような怒気を孕んだものへと変わるのだ。
その場にいた六課の面々は空気の温度が上がったような錯覚すら覚えた。

「“ツルンでる”? スカリエッティとこの世界の政府がですか!? い、いくらなんでもそんな事が……」
「別に珍しい事でもねえさな。あのクソッタレが管理局の子飼いだったって事を考えりゃ他の世界の要人とド汚ねえ絵図描いてたって不思議じゃねえだろ?」

ゴードンは心底毛嫌いするように言い、一つ息を吐くと懐からシガレットケースを取り出して太くて大きい葉巻を口に咥え同じく懐から出したライターで火をつける。
その所作は随分と年季が入っているように見えて様になっている、そして紫煙を吐きながらゴードンは続けて口を開いた。

「まあ、この世界の奴らが全部腐ってるとは言わねえが。このヤマに関わってる当局関係者は確実に裏があるだろうよ」
「……何か確証でもあるんですか?」
「無えさ。あえて言うなら、長えこと修羅場・鉄火場を潜ってきた“勘”だ」
「そうですか……」

ゴードンは高級な葉巻の甘ったるい香りを持つ紫煙を吐きながら“勘”という曖昧な言葉を使う、だが彼の言葉は積み重ねた年月の重みを孕み大きな説得力を持っていた。
彼の重い言葉に鋭い眼光を受けてフェイトは少しばかり言葉を失うも、内心嬉しい気持ちも生まれる。
ゴードンの言葉と眼を見てこの男の中には悪を討つという気概と誇り、そして“義”を感じたから。

「それで執務官殿、俺も捜査及び犯人確保に加わっても良いかい? なんならこれから申請許可を貰ってくるがよ」
「そんな必要はないですよ、私が許可しますから今回の捜査に協力してください。むしろこちらからお願いしたいくらいです」
「そいつぁ、ありがてえ。恩に着るぜ嬢ちゃん♪」
「そ、その……“嬢ちゃん”ってのはやめてください、子供じゃないんですから」
「ガハハハッ! まあ、そう言うない。老いぼれって奴は年下を可愛がりてえもんなのさ」

ゴードンは実に気持ちの良い豪快な笑みを零しながらフェイトの頭を乱暴に撫でる。
デバイスを待機状態にした彼の生身の手は大きくゴツゴツとしており、その硬い手で撫でられてフェイトは少し驚くが、その暖かい手の感触はひどく心地良いものだった。
これは彼の持つ豪放磊落な性格と父性の成せる業だろう。

六課メンバーがそんな二人の様子に少しばかりの和んだ空気を感じた時、なんの前触れも無しに爆音が鳴り響く。
皆がデバイスと共に視線を向ければ、そこには新型ガジェットが数十体と群れを成していた。

新型ガジェットの群れは十数メートルはある巨体を揺らし、地のアスファルトを震わせながらクモのような多脚で六課メンバーに襲い掛かる。
高濃度のAMFが展開され、エネルギー弾頭の射撃攻撃と共に数多の金属製アームが鋭い鉤爪を閃かせて唸りを上げる。

六課メンバーはデバイスを構えて全員が迎撃に備える、だがそんな中ゴードンは一人悠然と足を進めた。
それはまるで家路に着くかの如くゆったりとした足取りで緊張感なんて欠片も在りはしない、だが一歩一歩が力強く確かな歩調をしていた。

「ゴ、ゴードンさん! 危ないですよ! ここは連携して…」
「気にしなさんな、ちょいと“肩慣らし”するだけなんだからよ」

ゴードンはスバルの言葉に軽く返しながら自身のデバイスを形成。
巨大で無骨なデバイス、名も無き鋼の拳足を纏った老戦士は獰猛な笑みを浮かべて口に咥えた葉巻を吐き捨てながら眼前の敵を見据える。

「それじゃあ“兄弟”ちょいとゴミ掃除といこうぜ!」

半世紀以上の時を共に戦った自身のデバイス、鋼の拳に語りかけながら老戦士は脚部のローラーを加速させて駆け出す。
あまりにもゴードンの加速が高速であり、高速戦闘を得意とするエリオでさえ一瞬眼で追うのが遅れた程だった。
そして次の瞬間には周囲の空気を圧壊せんばかりの轟音と共に一体のガジェットが吹き飛ぶ。

ゴードンが放ったのは何の変哲も無いただの右ストレート。
最高の筋力を最高の魔力と最高のタイミングで打ち出しただけの鋼の拳、その拳はただそれだけで絶望的なまでの破壊力をもった絶技と成り果てているのだ。
いったい何年修行を積み何回拳を打ち出せばこの境地に辿り着くのか、それはたった一発でゴードンの人生をすら思わせるように重く強い拳打である。

吹き飛ばされたガジェットの巨体が後方のガジェットにぶつかり将棋倒しとなる、何トンもある金属製のボディがまるで玩具の如く呆気なく倒れていく。
だがこの老戦士の攻撃がこの程度で終わる筈も無い。

濃厚な青き魔力光のウイングロードが周囲に数多に展開され、その上を黒き影が走り抜ける。
もはやその姿を性格に視認できるのは六課メンバーの中でも僅かとなる程に老戦士の疾走は速い。
故に愚鈍なガジェットには反応する暇も無い。

「どおりゃああああ!!!!!」

地を揺らさんばかりの裂帛の怒声と共に鋼に覆われた飛び蹴りが炸裂しガジェットにめり込む。
安物のブリキの玩具のようにひしゃげたガジェットが装甲を引き裂かれて爆発しながら四散した。
ゴードンは着地すると同時に展開したウイングロードの上を駆けて次の標的へと肉薄。
今度はたっぷりと力を溜めた裏拳を繰り出す。
高速で回転する前腕部回転刃が唸りを上げてガジェットの装甲を溶けたチーズの様に剥がしてボディを両断する。



もはやこれは戦いなどではなく彼が最初に言った通りの“ゴミ掃除”。
老人の拳足が唸りを上げて、程なくしてガジェットは大した抵抗をする事も叶わず駆逐され尽くし最後の一体となった。
そしてゴードンは残った最後のガジェットを見ながら、ふと視線を唖然としながら見守っていた六課メンバーに向ける。

「何かリクエストはあるかい?」

それはあろう事かフィニッシュブロー(とどめの技)のリクエストである。
あまりの事に六課の者たちは一様に呆れるが、そんな中でスバルは満面の笑顔で答えた。

「それじゃあ踵落としでお願いしま〜す♪」
「良しきた。見てろよ、派手なのいくぜ?」

ゴードンは犬歯を剥き出した凶暴な笑みを宿しながらウイングロードを展開して駆け出す。
高速接近と同時に無数のバインドによってガジェットが動きを封じられる。
そして盛大なジャンプをしたゴードンが足を高く振りかぶった状態で回転し、ガジェットの頭上へと迫る。
それはまるで回転する円刃の如く鋭く、断頭台の刃の如く振り下ろされた。
甲高い金属音が鳴り響いた刹那、先ほどまでそびえ立っていた巨大なガジェットは火花を散らして縦に両断される。
ゴードンが着地して数瞬の間をおいて、ガジェットのボディは左右に倒れ伏した。


それはほんの数分の出来事。
老人は何の労も無く強大な新型戦闘機械の群れを鉄屑の山へと変えたのだ。
戦いが終わってもゴードンは息一つ上がっていない。
ゴードンはおもむろに懐のシガレットケースから新しい葉巻を出してライターで火をつけようとする。

「ん? 火のつきが良くねえな、誰か火ぃあるかい?」

まるで先の激闘など無かったような豪快で快活な笑みに六課メンバーはただただ唖然とした。




現場にいる六課メンバーがゴードンの壮絶な実力に眼を奪われていた時。
六課拠点となっている次元航空艦アースラではロングアーチのメンバーと部隊長であるはやてがこれから先の捜索ルートや範囲と共に件の謎のハンターについて本局データベースを用いて調べていた。
検索した資料を見つけたシャーリーが情報をモニターに映し出す。

「アルベルト・ゴードン……ん? これかな?」
「なんや、元管理局の局員みたいやね」
「はい。随分前に入局した方みたいですね、もう半世紀以上前ですよ」
「さながら生きた化石やね、それじゃあ詳しい経歴とか出して」
「はい」

次の瞬間モニターを数多の情報が埋め尽くす、それはあまりにも甚大な量の事件の情報。
歴戦の戦士が生きてきた戦いの半生である。

「これは…また……凄いですね」
「ほんまやなぁ……あ! あの事件って新しい教科書にのっとるやつや、“大規模次元震を計画していた武装テロ集団を全員逮捕”ってこれあの人なんか…」
「本当に凄いですね、これじゃあ六課が解決したJ・S事件なんて目じゃないですよ」
「同感や、こういう人の上に今の平和があるんやね」

その膨大な情報、男が歩んできた法と正義を守ってきた激動の歴史にはやてとシャーリーは純粋に尊敬の念を抱く。
だが二人は輝かしい経歴に埋もれたある情報を見落としていた。

それはゴードンの家族の記録。
娘の名として記録されていた“クイント”という名を。

続く。



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目次:鉄拳の老拳士
著者:ザ・シガー

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