[441] 鉄拳の老拳士 sage 2008/02/28(木) 23:04:49 ID:gvklbPiC
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[445] 鉄拳の老拳士 sage 2008/02/28(木) 23:07:24 ID:gvklbPiC

鉄拳の老拳士4


まったく、ちょいと戦っただけで昔の古傷が疼きだしやがった。
昔から比べりゃあ魔力量の出力も低くなってる、魔力結合もし辛くってしょうがねえぜ。
やっぱり俺ももう若くねえ。
まあ無理もねえか、昔は散々無茶しまくったからな。
消耗の激しい戦闘はもってあと三時間弱、大技は二回が限度ってところか。

だがまだ止まる訳にはいかねえ、あのクソッタレをぶち殺すまでは‥‥





今は廃棄された巨大工場区画、そんな場所で耳をつんざく爆音が響き魔力弾や高出力エネルギーの射撃攻撃が飛び交う。
それは激しい戦闘の彩り、戦うのは若きストライカーと異形の戦闘機械ガジェットドローン。


「くっ! スバルあんまり突っ込まないで!!」


爆音の中、ティアナが声を上げながら構えたクロスミラージュから大量の魔力弾を撃ち出す。
その全てが正確に敵ガジェットに命中するが戦況は一向に苦戦の様を呈している。

隊長陣に空中戦を任せて一足先に目的の廃棄工場区画へと向かったフォワード陣だったが、彼らを待ち構えていたのは新型ガジェットの群れだった。
隊長陣でも苦戦する高濃度AMFの影響下、さらに数多と群れを成す大群に若きエース達は防戦一方となっている。
そして形勢は徐々に敵へと傾きつつあった。



「ディバインバスタアアアァァッ!!!」


スバルが叫ぶと共に青き閃光を閃かせてガジェットに自身の持つ最高の技を放つ。
十数メートルを超える新型ガジェットの装甲がひしゃげて魔力による圧倒的な破壊にスクラップへと変わった。
スバルの攻撃により破壊されたガジェットの巨体が地に転がる、だがその上を増援のガジェットがそのクモのような多脚で乗り越えてスバルへと迫り来る。
そして金属製アームを唸らせてスバル目掛けて振りかざした。


「ブラストレイ!!」


そこへ飛竜の火炎弾が支援に入り敵ガジェットのボディを砕く。
火力支援の主は言わずもがな飛竜フリードを従えし竜召還師、キャロ。
そしてキャロは続けて、自分と同じくフリードに跨っていた若き槍騎士にブースト魔法を行使する。


「行くよストラーダ!」


飛竜フリードに跨る若き槍騎士エリオはキャロのブーストにより得た力を存分に自身のデバイスに巡らせて最大の加速を加えた刺突を繰り出す。
次の瞬間、閃く刃の風となったエリオの軌跡に従ってガジェットが斬り裂かれる。
エリオが高速移動によりフリードの上に戻った瞬間、裂かれたボディから火花を散らせたガジェットが轟音を立てて爆散した。
だが敵の数には限りが無いかのように次々と沸いて出てくる。
そして醜悪な戦闘機械の群れは、もう引く場所が無いほどにフォワードメンバーを追い詰める。

ザフィーラやヘリから援護射撃をしているヴァイスが助けに向かおうとするが数多の敵に阻まれてそれは叶わない。

万事休す、圧倒的な数の暴力により今正に若き命が戦場に散らんとする。

だがその刹那、一筋の青き閃光が宙を走りフォワードメンバーの前に現われる。そしてフォワード全員に念話通信が入った。


(全員、地面から離れろ!!!)
「これは‥‥ゴードンさん?」
「ゴードンさん、一体どいう意味‥‥」
(いいから早くしな!!)
「は、はい」


念話越しにも耳を震わせるようなゴードンの怒声に驚きながらも、フォワードメンバーは地より離れる。
エリオとキャロはフリードの上に、スバルとティアナはウイングロードの上に乗り大地より離れる。
そしてスバルとは違う、濃密な青色をしたウイングロードの上を疾走しながらゴードンが現われた。


「一撃いいいぃぃぃ爆震んんんっ!!!!!」


空気を震わせる凄まじい掛け声を上げながらゴードンは加速のギアを上げた。
それに加えて足元のウイングロードが二重の螺旋を描き、彼の身体に壮絶な回転を与えていく。
ゴードンは、もはや見る者の動体視力ではまともに動きを追えない程の速度で回転しながら、独楽のように身体をしならせて拳を振りかぶる。
そしてゴードンは、最高の回転を与えられて空気の壁を突き破り音速に達する程の速度になった自身の拳を大地に叩き付けた。


「ガイアアアァァクラッシャアアアアアアア!!!!」


拳が大地にめり込み、それに完璧なタイミングを合わせてありったけの魔力が拳から爆散する、そしてその瞬間に周囲の空気に圧縮されたような衝撃が生まれて轟音が轟いた。
究極のタイミングで拳のインパクトを合わせる技術、それが古流拳術における発剄という技であると知る者はここには存在しない。
だがその威力は誰にでも眼で見て理解できるだろう。

ゴードンの放った拳は“ガイアクラッシャー(大地を砕く)”の名の如くに大地を崩壊させ、深いクレーターを作り出す。
そして撃ち込まれたゴードンの拳を中心に大地が凄まじい勢いで隆起して円形に広がっていった、その様はまるで海面を走る津波。
ここが地の上だと忘れそうになるような凄まじいアスファルトの大波が周囲のガジェットを飲み込み破壊しながら広がり、壊れた戦闘機械達の部品を宙に舞わせる。

天地を震わせる轟音が鳴り止んだ時には、ガジェットの残骸がゴードンを中心に山と築かれていた。


「ふう〜、ちょいとやり過ぎちまったかな?」





「これはどういう事だスカリエッティ!!」


廃棄工場区画の奥底、大量の画面で外部の状況を映し出すモニタールームで男は吼えた。
身に纏った軍服の装束から男が軍人であると容易に想像がつく。
そして男の激昂を受けた白衣姿の狂科学者、ジェイル・スカリエッティは涼しい顔で言葉を返す。


「何か問題でも?」
「大ありだ! たった数人の空戦魔道師を倒すのにどれだけ掛かっているのだ!?」


部屋に備え付けられたモニターにはガジェットの大編隊と勇猛果敢に戦うなのは達、機動六課の隊長陣が映っている。
かなりの大編成で送り込まれた新型ガジェットの群れも隊長陣の強大な戦闘力に一進一退の攻防を見せていた。


「彼らは一応、管理局の中でも最高クラスの魔道師ですからねぇ、簡単には倒せませんよ。まあβタイプでもう少し体力を削ってからγを送り込めば事足りるでしょう」


スカリエッティは宙のモニターに格納庫から発射される空中戦闘用新型ガジェット、タイプβを映し出す。
次々と射出される新型ガジェットの群れには、まだまだ余裕があるようだ。


「ならば良い。少なくともここに進入してきた奴らだけは始末しろ、そうでなくては貴様に莫大な予算と設備を与えた意味が無いからな」
「分かっておりますよ将軍閣下」
「ここではその名で呼ぶな」
「これは失礼」
「‥‥ともかく私は首都に戻る、後は任せたぞ」
「かしこまりました、依頼主(クライアント)様」


将軍と呼ばれた軍人は踵を返して部屋を後にする。
スカリエッティは彼が出て行ったのを確認すると、一つ重い溜息を吐いた。


「まったく、どこの世界でもああいう手合いは変わらないものだ‥‥」


嘲笑めいた呟きを漏らしながらスカリエッティは振り返ってモニターに映る侵入者達に目を向けた。
そこにはかつて自身の誇る自慢の戦闘機人や召還師を破った機動六課の魔道師達、若きストライカーの姿が映っている。
スカリエッティは邪悪を内包した笑みを零しながら小さく呟いた。


「それじゃあ、来てくれた方々にご挨拶といこうか」





ゴードンの放った超弩級の破壊力を持つ鉄拳によって巨大なクレーターが出来上がり、その場には土煙が濛々と立ち込める。
クレーターの周囲には鉄屑の残骸へと姿を変えたガジェットが山と成り、破壊されたボディから火花を散らす。
この惨状をたったの一撃で作り上げられたというのだから、にわかには信じられない事だ。
恐らくは広域破壊に長けた機動六課部隊長の八神はやてでもこう簡単にはいかないだろう。

だが破壊を行った主、黒衣のバリアジャケットに身を包んだ老兵は自身の禿げ上がった頭をポリポリと掻きながらゆったりとクレーターの中心地から上がってくる。


「いやぁ、すまねえな。ちょいとやり過ぎちまったみてえだ」


ゴードンはまるで何事も無かったような軽い口調、その様子に一同は唖然とするより他はない。
ただ一人、活発すぎる少女を除いては。


「凄い凄い〜、ゴードンさん凄いです!」


スバルはゴードンの下に駆けて、それはもうご主人様にくっつく子犬のようにはしゃぎだす。
その様子を見る者は、思わずスバルに犬の耳や尻尾が付いているのを幻視するほどだ。
じゃれ付いてきたスバルの頭を撫でながらゴードンは陽気な笑みを見せる。


「ははっ、まあこれくらいなら嬢ちゃんにもすぐに使えるようになるぜ」
「本当ですか!?」
「おうともさ」


戦いの中のつかの間の安らぐようなひと時、だがそんな中に耳障りな笑い声が響く。
それは聞き覚えのある、あの男の声だった。


『はははっ、やあ諸君ご機嫌はいかがかな?』


空中に展開された映像に映る金色の瞳、狂気を宿した笑み、その顔は忘れようにも忘れられぬ六課の追う犯罪者ジェイル・スカリエッティである。
スカリエッティは実に愉快そうな表情でモニター越しに機動六課の面々に語りかけた、まるで久しく会っていなかった友人にでもするかのように。


『お久しぶりだねぇ機動六課の皆様方、私の新しい作品は気に入っていただけたかな? ゆりかごやナンバーズの様な面白みのある素材は無いんだが、案純な戦闘兵器の物量というのも中々に捨てたものじゃないだろう?』


この映像は工場区画に侵入したフォワード一同だけでなく制空権を奪取する為に空で戦っている隊長陣や後方支援に回っていたロングアーチを含めた全機動六課メンバーに対して流されていた。
相も変らぬふざけた態度に機動六課の面々は思わず表情に怒気を宿すがスカリエッティは構わず言葉を繋げる。


『私はここの最深部にいる、逃げも隠れもしないから是非とも来てく‥‥』
「おい糞野郎」


だがスカリエッティの慇懃無礼な言葉はドスの効いた老兵に遮られる。
瞬間、その場にいたフォワードメンバーやスカリエッティを含めた全ての人間の視線がゴードンに集る。
もはや先ほどの快活に笑う好々爺の姿は微塵も無い。
そこにいるのは黒衣に身を包んだ猛獣、空気が歪むような錯覚を起こさせる程に凄絶な気迫を全身から放つ一匹の修羅。


「すぐに行くから待ってろ、てめえは今日この場で‥‥」


顔を上げたゴードンの眼がスカリエッティの視線と交錯する。
それは凄まじく暗い虚(うろ)、地獄の釜の底ですら生温く感じるような灼熱を孕んだ殺意と憤怒と憎悪の炎。
スカリエッティはモニター越しにゴードンの瞳を見ただけで全身の細胞に死の警鐘を刻まれた。


「‥‥殺す」


ただ一言、だがその言葉に込められた意思は紛れも無い不退転の決意。
スカリエッティは思わず情けない悲鳴が出るのを我慢するだけでも精一杯であり、股間には生温い失禁の感覚すらあった。

次の瞬間には宙に展開されていた映像は消え去り、スカリエッティの姿は虚空に消えた。
だがその場にはゴードンの身体からほとばしる憎悪が大気に溶けるかの如く、空気に重いものが満ちる。
そんなゴードンの腕に柔らかい少女の手が絡んだ。


「あ、あの‥‥ゴードンさん‥‥」


ゴードンが振り向けば、そこには不安そうな眼差しで自身を見つめるスバルがいた。
その切ないまでに曇無き瞳に復讐鬼と化していた老兵は一瞬で毒気を抜かれる。


「少し興奮しちまったぜ。すまねえな嬢ちゃん、ちょいと恐がらせちまって」


ゴードンは再び陽気な貌へと戻ってスバルに微笑みかけた。
老兵の中に渦巻く憎しみの黒き獄炎もこの少女の前でならば形を潜めるのだろう。
スバルは彼の様子にほっとして、柔らかい微笑で零した。





工場区画周辺のガジェットは先ほどのゴードンの攻撃により掃討され。
一同は隊長陣の到着を待つよりも、先に進んでスカリエッティを確保して事態を早期収拾する方向でいく事となった。
広大な工場区画内部での探索にゴードンはフォワード一同と共にウイングロードの上を駆けている。
そんな時、久しく聞いていないデバイスの電子音がゴードンに声をかけた。


<兄貴>
「なんだ兄弟、おめえが喋るなんて珍しいな」
<身体の消耗が激しい、古傷にも響いてるみてえだ。補助系統の得意そうな奴に治癒魔法でもかけてもらわねえと危ないぜ? あんたもいい年なんだからよ>
「“いい年”? 何言ってやがる、そういうのはムスコの立たねえ奴の事を言うもんだぜ? 生憎と俺はまだソッチの方は現役だ」
<そうなのかい?>
「おうよ。大体、そんな時間があったらあのクソッタレを探す方がましだ」
<‥‥しかし本当に良いのか? 仇とは言え、人を殺(ばら)すなんてよ>
「なにも初体験って訳じゃねえだろ」
<なあ兄貴‥‥俺は誰よりも永くあんたの傍にいた。兄貴が局に入ってから60年以上も一緒に鉄火場潜って共に戦ってきた、だからあんたを少しは理解しているつもりだ>
「今日は随分とお喋りだな? 雪でも降りそうだぜ」


茶化した言葉で返すゴードンに名も無き鋼の兄弟が、思わず機械である事を忘れるような熱さを持った言葉を吐く。
永き時をこの老兵と共に駆け抜けたデバイスには、使い手と同じく滾る魂を持っているのだ。


<兄貴、あんたは例えその手を血で汚しても、怨みや憎しみで拳を振るった事はねえ筈だ>
「何が言いてえ、はっきり言ったらどうだ」
<兄貴‥‥‥‥‥‥‥あんた、拳が泣いてるぜ>


鋼の兄弟は心の底からの嘆きを漏らす。
老兵は無骨なデバイスの言葉に一瞬深い悲哀を瞳に宿した。


「うるせえ‥‥‥んな事ぁ分かってらぁ」


ゴードンは聞き取れるか否かの小さな言葉で呟いた。
鋼の兄弟はその言葉に再び寡黙な鉄拳へと戻り、老兵もまた瞳から発せられる眼光に再び憎悪の黒き炎を宿した。

続く。



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目次:鉄拳の老拳士
著者:ザ・シガー

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