207 名前:東屋にて(1/7)[sage] 投稿日:2008/05/30(金) 23:58:25 ID:WziDgpjN
208 名前:東屋にて(2/7)[sage] 投稿日:2008/05/30(金) 23:59:29 ID:WziDgpjN
209 名前:東屋にて(3/7)[sage] 投稿日:2008/05/31(土) 00:00:13 ID:bI4vtqVL
210 名前:東屋にて(4/7)[sage] 投稿日:2008/05/31(土) 00:01:35 ID:bI4vtqVL
211 名前:東屋にて(5/7)[sage] 投稿日:2008/05/31(土) 00:03:03 ID:bI4vtqVL
212 名前:東屋にて(6/7)[sage] 投稿日:2008/05/31(土) 00:04:06 ID:WziDgpjN
213 名前:東屋にて(7/7)[sage] 投稿日:2008/05/31(土) 00:05:07 ID:bI4vtqVL

聖祥大付属小学校の4年生の教室、うっとおしかった梅雨も終わり、空はすみわたる青空。

ゆれるカーテンの窓際でなのは、フェイト、アリサが昼飯をつまんでいた。

「ふえ〜?また犬が増えたんだ!」
「そう!パパがこの前カナダに仕事で行ってきたとき。こう、でかいのが欲しいって言って、いきなり買ってきたの」
アリサが腕をオーバーに広げてなのはとフェイトに説明した。

「アリサ、どんな種類?」
「ニューファンドランドっていう種類なんだって。黒色の大型犬よ」

「3人とも、なに話してん?」
そう言って車椅子をすずかに押してもらってはやてが教室に入ってきた。

「あっ、はやてちゃん。図書室どうだった」
「ええ感じや、目当ての本もすずかちゃんがすぐ見つけてくれたんよ。ほんまありがとうな」

はやてに礼をいわれてすずかは照れた。
「礼なんていいよ。この前、司書の先生のお手伝いをして、その本の場所をたまたま知ってただけだから」

「それでみんなどんな話してたん?なんとかファンドとか・・・株の話か?」

「違うわよ、はやて」
「アリサちゃんの家でまた新しい犬を飼うことにしたんだって」
「ニューファンドランドっていう種類で、黒い大型犬」

「そうなん!?犬か・・・ほんま見たいわ〜」
はやては眼を輝かせた。ザフィーラが普段から獣形態をとっているように彼女もアリサに負けず劣らずの犬好きである。

「それじゃあ、明日の土曜日に臨海公園でお披露目するね」

「明日の天気は・・・うん!ばっちり晴れマーク!」
なのはは携帯をいじって海鳴市周辺の明日の天気を調べた。

「さっそく、図書室で借りてきた本の出番だね。はやてちゃん」
すずかにそう言われてはやては借りてきた本をみんなに見せる。それはハイキングやピクニック用に適した料理本であった。
「せやな、すずかちゃん!腕を振るう良いチャンスやわ〜」

『キーンコーン・・・』
はやてがそう言うと、昼休みの終わりをつげるチャイムがなった。と同時に先生が入ってきた。

机から教科書を取り出しながらフェイトは考えた。
もし良かったら、クロノやエイミィ、アルフも誘ってみようかな・・・?

(その日の夕方、ハラオウン家)
夕日でオレンジ色にそまるマンションの通りをフェイトは急いだ。
教室の掃除が思った以上に長引いてしまい、だいぶ遅くなってしまったのだ。

ドアを開けるとリンディと子犬フォームのアルフが近寄ってきた。
「おかえりフェイト〜」
「おかえりなさい、フェイト」

「義母さん、アルフ。ただいま」
そう言ってフェイトは制服を着替えに部屋へ行った。

私服にきがえてリビングに戻るとソファーに腰かけ雑誌を読むエイミィがいた。
「フェイトちゃんおかえり〜、お邪魔してるね〜!」

「エイミィ、久しぶり!あれ?お義兄ちゃん・・・クロノは?今日は午後から休みなんじゃ・・・」
「ああ、クロノくん報告書まとめてる。週明けに本局に提出しなきゃいけないんだって」

そう言ってクロノの部屋をエイミィは指差すと『当方仕事中につき、日曜夜まで開けるべからず』という紙がドアに張られていた。
そんなところがクロノらしい。

「そうなんだ・・・残念だな」

「フェイト、何が残念なのさ?」
アルフが聞くと義娘は昼休みのやりとりをリンディとアルフに話した。

「そう、アリサちゃんが。それはいいわね。でも本当にクロノは残念ね」
「最近、遠洋任務で家に帰ってなかったし、疲れてないか心配だったから。良い気晴らしになると思ったんだけど・・・」

周りの空気はフェイトの残念そうな顔で重くなる。そんな暗い雰囲気を吹き飛ばすようにリンディは言った。

「フェイト、みんなと楽しむんでしょ?それならおかあさん、みんなの為に料理と特性のジュースを作るわ♪」
料理はともかく『ジュース』という単語にフェイトとアルフはギョッとする。

「あっ・・・ああ!義母さん。料理ははやてが作ってくれるみたいだし、飲み物も私が準備するから」
「あら、そう!?それなら2人とも、お願いね」

「「ほっ・・・」」

娘と使い魔はほっと胸をなでおろした。

そしてそんなスリリング(?)なやりとりを聞いていたエイミィは読みかけの雑誌を閉じてこうつぶやいた。
「しゃーない、義妹泣かせのアニキのために一肌ぬぎますか!」

(夜、クロノの部屋)

パチパチパチ・・・
暗い部屋でキーボードを叩く音だけが響く。

無限書庫はユーノのおかげで資料や情報収集をしやすくなったが、それに伴って事件や辺境次元世界の報告書も
より細分化、詳細化を余儀なくされるようになった=(イコール)報告書作成の手間が増えたのだ。

「2行目の真ん中、字が間違ってる」
「本当だ、ありがとう・・・ってエイミィ!?本局に戻ったんじゃ!?」

そんなクロノにずいっとでかいマグカップが手渡される。

「ほい、コーヒー。クロノ君の好みどおりう〜んと濃くしてクリームを少し入れたブラック」
「あ、ありがとう・・・」

エイミィもマグカップを持ってカーテンの閉じてあるベランダへと歩いていき
「こんなニートみたいな生活してたら、空気がこもって脳がヨーグルトみたいになっちゃうよ。換気するね!」
そう言って窓を開けた。

「うわぁ!きれいな夜空、こっち来て見てみてよクロノ君!」
「エイミィ、近所迷惑だぞ」

そう難癖をつけながらもクロノは正午からの休みなしに向かい合っていたディスプレイから眼を離し、一呼吸置こうとベランダへ出た。
夜空に星が輝き、満月も水平線の奥に見えた。

「きれいだね〜♪天の川見えるかな?」
「ここは街中だ。星雲みたいな光の弱いものは高原でしか見えないのが普通だ」

「相変わらずロマンチックのかけらもない返答なんだから!」
そう言ってエイミィは怒った。

そして2人は夜空を見上げる。

「明日さ・・・晴れるといいね」
「明日?」

「なのはちゃん達が臨海公園でピクニックを計画してるんだって、フェイトちゃん、クロノくんにも出てもらいたいみたいでさ」
「別に僕が出ても楽しい事はないぞ。ロマンチックのかけらもないしな」

「フェイトちゃんね、クロノ君のこと心配してるんだから」
「僕の心配?」

「フェイトちゃん言ってたよ。『最近疲れてそうな感じだったから。お兄ちゃんに良い気晴らしをさせたい』って」
「僕は大丈夫だ」

そんなクロノにエイミィは言った。
「まぁクロノ君の頑健さは私も太鼓判を押すけど、フェイトちゃんは実際心配してるんだよね〜」
「・・・」

「たまの土日くらい妹の真摯な思いを汲んであげなくちゃ!いくら『金の閃光』の二つ名を持っている無敵のエースといっても、まだ9歳なんだから」

エイミィの言葉にクロノは月をあおいでフェイトを考えた。

水平線の向こうに見える優しい月の光が彼女の魔力光を思わせた。

「そうだったな、フェイトは・・・誰よりも家族のことを考える子だったな・・・」
自分に言い聞かせるようにそう言った。

「エイミィ」
「うん?」

「・・・みんなと一緒に臨海公園に行くのもいいかもな」
無理だけど・・・と続けようとしたクロノの言葉をエイミィはさえぎって言った。

「クロノくんならそう言ってくれると思ってた!!」

そしてエイミィはクロノの机の横に愛用の情報端末が入ったバッグを置いた。
「図化処理と校正はまかせて!」

予想だにしないエイミィの申し出にクロノは驚いた。
「エイミィ、君だって僕と同じく今日まで遠洋任務だったじゃないか。無理をするな」
「あれ〜、艦隊で一番当直時間が多かった誰かさんこそ一人で無理してるんじゃないの?」

「う・・・」
「それに私の頑健さもXV級並だって知ってるでしょ!大船に乗ったつもりで仕上げてくれたまえ!」
日ごろから自分だけ無理をして抱え込んでしまいがちなクロノに対しては、強気で話すのがいい事をエイミィはよく知っていた。

クロノはふぅっとため息をついたが、優しい眼でエイミィを見つめ小さくこう言った。
「全く君ってヤツは・・・・・・」

朝、先日の天気予報通り、海鳴市は見事なまでに快晴であった。
「うわぁ、いい天気!」

そんななのはに桃子は声をかけた。
「なのは、気をつけていってらっしゃい!」

「はーい!」
そうしてなのはは翠屋を駆け出していった。

「ギリギリ間に合いそうだね。レイジングハート。これなら飛行魔法使わなくても」
『マスター、いくら認知されていないとはいえ、こういう事で魔法を使うのは・・・』
「にゃはは、冗談!急ごう!」

臨海公園、かつてなのはとフェイト、また闇の書と戦ったその場所は、夏の日差しを浴びてまぶしいくらいに輝いていた。
「なのはおそーい!!」

駐車場ではすでに腕組をして堂々と立っているアリサ、フェイト、すずか、アルフ、そしてエイミィとクロノもいた。

「あれ?エイミィさんにクロノ君?久しぶり〜」
「やっほ〜!」
「おはよう」
予定外のゲストになのはは喜んだ。

驚くなのはにフェイトが説明する。
「2人とも仕事が早く片付いたから来てくれたんだ」

そしてアリサが、手をたたいてみんなの注目を集める。
「はい、それじゃあ新しく我が家の一員になったニューファンドランドを紹介するわね!」
そして鮫島がワンボックスの後ろのドアを開け、黒い毛むくじゃらの大型犬がトコトコ歩いてきてアリサの足元でちょこんと止まった。

「かわいい〜」
「ほんまやわ〜」
「かわいいな」
「本当にかわいいね」
4人はそう言って黒い犬を囲んだ。

「それじゃあ早速!」
そう言ってアリサはフリスビーを持ってきた。


「ほな、フェイトちゃんそっち行ったよ〜!」
「あっ、アルフ。右、もっと右だよ!」

「よしナイスキャッチ〜!って全然キャッチできてないじゃない!ウチの方が優秀じゃないの〜?」
「ア、アリサちゃん。それはアルフに失礼だよ・・・」

「アリサ〜、そう言ったって、子犬フォームに身体がまだついていかな・・・ムグ!!」
「アルフ、人前でしゃべっちゃダメだよ」

フェイトはアルフの口をおさえて「めっ」と厳しい表情を見せる。
「・・・クーン」
アルフも犬の鳴きまねをしてしょぼくれる。


5人とアルフ、そしてが早速遊んでいるのをクロノは東屋に腰掛けながら見ていた。

側でエイミィが腰掛けて5人+2匹の写真を取っている。

「クロノくんも、なのはちゃんやフェイトちゃんたちに混ざらないの?」
「僕は、もうそんなトシじゃないしな」

そんなクロノの言動にエイミィは吹いた。
「プッ、な〜に大人ぶってるのよ。クロノくん、こっちの世界じゃまだ高校生くらいじゃない」

そう言ってエイミィはカメラをテーブルに置きクロノの横に腰掛けた。
クロノは5人と2匹を見ながらエイミィにこう言った。

「あんなにあわてたり、怒ったり、楽しそうに笑ったりするフェイトを・・・家族の笑顔を久しぶりに見た気がする。
不思議だな。それだけで心が落ち着くよ」

「昨日、クロノくん、フェイトちゃんが家族思いだって言ってたけど・・・クロノくんだって負けず劣らずじゃない?」
「えっ?」

「だってさ、今日のために、フェイトちゃんのためにあれだけの量の報告書を一晩でこなすんだから。本当にさすがクロノくんだ」
そう言ってエイミィは相変わらずの明るい笑顔をクロノに向けた。

東屋の中を優しい南風が吹いていく。エイミィは髪をかき分けた。そんなエイミィをクロノは見つめてこう言った。

「エイミィ・・・」
「何?」

「君が今日のことを話してくれなかったら、君が昨夜手伝ってくれなかったら、ここには来れなかった・・・ありが・・とう・・・」
そう言ってクロノはエイミィに寄りかかってきた。

クロノの急接近にエイミィは驚いた。
「ちょっと、クロノくん!?」

「スゥ・・・」

クロノはエイミィのひざの上で寝てしまった。エイミィはクロノを少しさすったが起きる気配は全く無い。

「(相変わらず無防備な顔しちゃって、かわいい奴め)」
エイミィはそんなクロノの寝顔を見て笑った。

そんな2人にフェイトが麦藁帽子をとりに東屋へ走ってきた。
「あれ?クロノ寝てるの?」
「ごめんね、せっかくフェイトちゃんが誘ってくれたのに」

「ううん・・・逆に嬉しいかな」
フェイトの答えはエイミィにとって意外であった。

「義母さん、たまに言ってるんだ。アースラでクロノと一緒だった頃からクロノは自分が頑張らなくちゃ、責任を果たさなきゃって重く感じるところがあるって。
だからこうやって安心して眠っている姿を見れただけでも嬉しいんだ」

「そうなの。私の前ではいつもこうだよ。いつもこんな感じで熟睡しちゃってさ。たまによだれをこぼしているときもあるし」

「エイミィが側にいてくれるからじゃないかな?、エイミィが側にいてくれるとお義兄ちゃん安心するんだよ」
「あはは、そうはどうかにゃ?」

エイミィの屈託なく笑う顔を見てフェイトは思わずこう言ってしまった。

「私も・・・同じかな?」
「エイミィといると安心するんだ、プレシア母さんやリニスとはまた違った・・・そう頼りになるお姉さんみたいなものだから・・・」
「?」

エイミィが頭に?マークを思い浮かべていると、フェイトが自分の言葉に驚いていて、はっと我に返った。
「!!・・・ごめんなさい、変な事言って」

そう言って顔を赤くさせながら4人のところへ戻っていってしまった。

エイミィは眼をぱちくりさせていたが、クロノの寝顔を見てこずいてこう言った。
「私がフェイトちゃんみたいなイイ子のお姉さんだなんて、聖王様もびっくりだ。ねぇ、クロノくん?」

「う・・ん、スゥ・・・」
「もう、寝言でも正直に相槌うつな!!」

パシーンという気持ちのいい音が東屋に響いた。

・・・数年後、その言葉が本当になろうとは誰が予想したであろうか。

end


著者:44-256

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます