63 熱き彗星の魔導師たち 07-01/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:21:47 ID:HrBShQtV
64 熱き彗星の魔導師たち 07-02/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:22:08 ID:HrBShQtV
65 熱き彗星の魔導師たち 07-03/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:22:35 ID:HrBShQtV
66 熱き彗星の魔導師たち 07-04/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:23:02 ID:HrBShQtV
67 熱き彗星の魔導師たち 07-05/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:23:31 ID:HrBShQtV
68 熱き彗星の魔導師たち 07-06/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:23:52 ID:HrBShQtV
69 熱き彗星の魔導師たち 07-07/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:25:49 ID:HrBShQtV
70 熱き彗星の魔導師たち 07-08/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:26:11 ID:HrBShQtV
71 熱き彗星の魔導師たち 07-09/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:26:41 ID:HrBShQtV
72 熱き彗星の魔導師たち 07-10/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:27:15 ID:HrBShQtV
73 熱き彗星の魔導師たち 07-11/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:27:36 ID:HrBShQtV
74 熱き彗星の魔導師たち 07-12/12 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/03/13(木) 01:28:03 ID:HrBShQtV

 機動6課・フォワード小隊オフィスルーム。
「はぁ……」
 自分の席で、非実体コンソールの前に向かいながら、アリサはため息混じりに、光学キ
ーボードを叩き続けていた。
 ドアが開いて、ユーノが室内に入ってきた。手に、書類のフォルダを持っている。
「あれ?」
 室内を見渡して、ユーノは言う。
「アリサだけ?」
 8人で共有しているはずの空間には、第2小隊長席に腰掛けているアリサの姿しかなか
った。
 ユーノの問いに、アリサは顔を上げ、視線を向ける。
「うん、シグナムはヴィータと自主訓練だって、出てった」
「他のメンバーは?」
「ウェンディとティアナは同じく。あたしもついて行きたかったんだけどねー」
 アリサはそう答えて、もう一度、ため息をつく。
「スバルとマギーは、良くわかんない」
「そっか」
 ユーノは言い、もう一度室内を見渡して、苦笑した。
「お茶、淹れようか?」
 ユーノは、ドアを閉めてから、アリサに向かって、そう訊ねる。
「ん、コーヒーで良い」
「判った」
 アリサが答えると、ユーノは簡易的な休憩スペースに設けられた、キッチンに向かう。
 イギリス人のアリサだが、外ではあまり紅茶を飲まない。逆に、幼少の頃から、家政婦
や執事の入れた本格的な紅茶に慣れていて、舌が肥えてしまっているからだ。
 コーヒーは、本格的な入れ方、と言っても、ドリップとサイフォンではそれぞれ特性が
違ってどちらが上とも言えないし、缶コーヒーも近年は本格的かつ個性的なものが増えた。
インスタントも、よほどの安物でなければ飲めないことはない。
 緑茶は、急須で淹れたもので慣れてしまっているので、問題はないが、出涸らしは苦手
だ。
 ──閑話休題。
 ユーノが、2つのコーヒーカップを持って、アリサの席に向かう。カップは私物で、
『YuNo・Alisa』と相合傘の描かれた、ペアカップだ。
 この所は仕事に徹しているものの、臆面もなく使っているあたり、新婚ぶりが伺える。
「ん、Thanks」
 アリサは、ユーノに向かって、笑顔を向けた。しかし、いつもの覇気が、殺がれている。
「僕は、不可抗力だと思うんだけどな」
 ユーノは、自分の机からOAチェアを引っ張り出し、アリサの傍らで、前後逆に腰掛け
ると、そう言った。
「うん、でも」
 アリサは、彼女らしくなく、しょげた感じの苦笑を浮かべる。
「最初からあんなモンがあると想定してりゃ、とる手段はいくらでもあったでしょ。その
あたりは、あたしの判断ミスだし」
「うん……まぁ、それはそうかもしれないけど……」
 ユーノも、穏やかだが困惑気な苦笑で、そう言った。
「ユーノの結界技術がなかったら、半径400mは更地になってた。それで不可抗力ですっ
て言っても、誰も納得しないわよ」
 言って、アリサの手が、光学キーボードを叩く作業を再開した。

『始末書 時空管理局執行部長殿
遺失文明遺物管理部機動6課 第2小隊長 アリサ・バニングス特別三等陸佐』

熱き彗星の魔導師たち〜Lyrical Violence + StrikerS〜
 PHASE-07:Precarious days (後編)


 大地に、バーミリオンの光の、ミッドチルダ式魔法陣が出現し、駆動している。
「だぁぁっ、そんな、力んじゃだめっスよ!」
 魔法陣の真上に、3〜4mほどの高度で浮いているティアナに、その横で大地に立ってい
るウェンディが、見上げて、慌てたように、言う。
 ウェンディは、赤紫の魔力光で僅かに光った足で、軽く大地を蹴ると、ティアナの目線
にまで、浮かび上がる。
「そんな、浮かび上がるだけで術式ガンガン駆動してたら、飛びながら戦闘なんてできな
くなっちゃうっス」
 困ったような顔で、手振りを加えつつ、ウェンディはそう言った。
「は、はい……すみません」
 ティアナは、俯き、ウェンディの顔に視線を向けず、言った。どこか、ぎこちない。
 ──機動6課隊舎、裏手の森。
 6課の敷地内に設定されているこの森は、公園のように拓けたスペースがあり、そこを
個人訓練の場として使用できるようになっていた。
「なんかティアナ、昨日から変スね〜。今までよりどこかぎこちなくなったような感じも
するし」
 ウェンディは、顎に手をあてて、ティアナを見たまま、そう言った。
「…………っ」
 ギリッ、ティアナの奥歯がかみ締められる。
『No.5……チンクっスね。あまり覚えてはないっスけど……』
『誇り高きナンバーズが、管理局の犬に堕ちるとはな……』
『なんとでも言えっス。No.11ウェンディ、いかに親とは言え犯罪者に義理立てて、恩義
を忘れるほど、道理から外れるよーなことは出来ないっスよ』
 ティアナの脳裏に、ウェンディと、チンクの掛け合いがよみがえる。
 ティアナにとって、スカリエッティ製戦闘機人、と言えば、物心付いてから唯一の肉親
だった、兄ティーダの仇だった。
 公表されている資料では詳細不明となっているが、当時稼動していたスカリエッティ製
戦闘機人のどれかと対決して、死亡したのは間違いない。
 そして、ウェンディもそのスカリエッティ製戦闘機人だった。
 ウェンディがティーダの仇とは限らない。可能性は限りなく低い。
 だが、ゼロとも言えない。ティアナの中では、そうなっていた。
 チンクとの掛け合いから察するに、今のウェンディはスカリエッティとは対立する立場
なのだろう。
 だが、それでも、ティアナの中に、心のわだかまりが生じていた。
 加えて、焦り。
 ユーノは、4年前の事件のとき、昨日対峙したチンクと、引き分け、しかもあちらに手
傷を負わせていると言う。
 ユーノは現在、公式ランクAA+。つまり、ティアナがティーダの仇を討ちたいと思うな
らば、少なくともAA相当か、それ以上の実力が必要と言う事になる。
 陸士隊に所属して以降、スカリエッティ云々は極力こだわらないことにしていたティア
ナだったが、ウェンディとチンクという存在に、そのたがが、外れかけていた。
「なんか、いつもより気張りすぎてる感じがするんスよねぇ……今日は、ここでやめてお
くっスか?」
 むしろ、ティアナを気遣うように、ウェンディはそう、声をかけた。
「っ!」
 ティアナは、反射的に、顔を上げる。
「大丈夫です!! 続けてください!」
「わわっ」
 ティアナの剣幕に、ウェンディは反射的に身を仰け反らせた。
「わ、わかったっス。で、でもとりあえず、一旦は降りるっス」
 戸惑ったようにしながら、ウェンディはそう言って、自分から、高度を落とし始めた。
「…………」
 ティアナも、それに続いて、高度を落とし、ウェンディの傍らに、降り立った。
「術式を少し変えてみるっスかねぇ、ティアナはミッドチルダ式としては特に偏ってない
し、アリサみたいなフィンタイプの方が相性良いかもっス」
 ティアナの葛藤も知らず、しかしウェンディは、ティアナの飛行方法について、彼女に
しては、割合真剣に考えていた。

 ガァァァァァッ
 ローラーが激しく走行音を立て、廃棄区画の路地をすり抜けていく。
『Stinger Ray, Multi Shoot』
 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ
 上空から、深紫の魔力弾が、立て続けに、スバルを追いかけて着弾する。
「エラ・ストラーダ!」
 スバルは魔力光の道を編み上げると、それをジェットコースターのように、垂直回転す
る軌道を描かせる。
「うぉぉぉぉぉっ、スティンガーレイ・ブレイクモード!」
 気合一閃。
 リボルバーナックルに纏わせた魔力を、弾丸に昇華させる。
 視界に捉えたマギーに向かって、撃ち出す。
『Protection, Dual exercise』
 ガキィィンッ
 突き出されたWS-Fの同心円に、深紫の光の盾が2重に出現し、スティンガーレイの魔
力弾を受け止める。
 スバルの青い光の魔力弾は、シールドに弾かれ、弾けて消えた。
「くっ」
 スバルは悔しそうに声を漏らしつつ、宙返りをする。その下にエラ・ストラーダを紡ぎ
出し、着地すると、旋回しながら、マギーに向かって迫る。
「もらったっ!」
「甘い!」
『Brake slash』
 WS-Fの帯びた魔力光の刃が、魔力を纏ったスバルのスバルの拳と、交錯する。
 ギュイィィィィィッ
 リボルバーナックルのギアータービンが回転し、魔力衝撃を強めるが、WS-Fとの間で
火花を散らすばかりで、体格で劣るはずのマギーは、ほとんど揺るがない。
「レイ・ランス!」
「えっ」
 マギーの胸先で、小さな魔力弾が集束した。
「うわわわわっ」
 スバルは反射的に回避しかけ、バランスを崩して落下する。
 ガシャッ、シャアッ……
 人間業とは思えないしなやかさで着地し、後ろに下がって止まる。
『Axel stinger, Shoot ready』
「Check mate」
 スバルが体勢を立て直したときには、マギーは既にスバルの真後ろ、スバルの身長の半
分ぐらいの高度を占めており、WS-Fに魔力弾を集束させていた。
「っ……」
 スバルが、悔しそうに歯噛みしつつも、構えたまま動きを止めた所で、マギーは、WS-F
を引いた。
「スペルクリア」
『No Problem』
 集束していた魔力弾が、かき消える。
「だから言ってるじゃない。こんな“モドキ”みたいな技だけじゃ、本格的な戦闘魔導師
には勝てないって」
 マギーは、腕を組んで、WS-Fを肩に担ぎ、呆れたように言った。
「あたしがミッドチルダ式に確定して、すぐアリア達やアリサが飛行魔法教えたのだって、
戦闘ベースの魔導師は、飛行できないと絶対的に不利だってわかってたからだし。だから
ウェンディだって、相性悪い飛行魔法を…………」
「うるさいうるさいうるさい!」
 マギーの独演になりかけた状況だったが、ウェンディの名前を出した途端、スバルはい
やいやをするように首を振り、小さな子供が駄々を捏ねるように声を上げた。
「あたしは! あたしとギン姉は! あんなヤツには絶対負けないんだ!!」
 スバルは泣きべそになりながら、吐き出すように、叫ぶ。
「だからっ…………っ」
 もう1本、と言う様に、スバルは構える。
 だが。
「モードリリース」
『O.K. Barrie jacket release, System suspend』
 マギーは、バリアジャケットを解除すると、WS-Fを白のメタルカードに戻し、指で挟
んだ。
「えっ?」
 スバルは、キョトン、として、マギーを見る。
「悪いけど、付き合ってらんない。飛行魔法教えてくれ、って言うんならともかく、これ
じゃただの弱い者いじめだもん。あたしにとっては、何のプラスにもならないし」
 それだけ言うと、マギーは、踵を返して、廃棄区画の、機動6課寄りの出入り口のほう
へ向かって、すたすたと歩いていってしまう。
「あの、ちょっと待って」
 スバルは、慌ててマギーを追いかける。だが、マギーはまとわり付いてくるスバルを、
構おうともしなかった。

 シュルルルルルルッ
「げっ!?」
 A.M.F.に、グラーフアイゼンの纏う魔力が、かき消される。
「ちょっ、まっ……」
 複数の傀儡兵が、ヴィータに殺到する。
 1対多数と言う、ハンデがあるとは言え、飛行魔法にまで干渉されて、後退も出来ず、
ヴィータはもみくちゃにされる。
「……何をやっているのだ、お前は」
 シグナムは、呆れたようにため息をつきつつ、仰向けにひっくり返ったヴィータに、そ
う言った。
「う、うるせーよ」
 ヴィータは起き上がり、忌々しそうに言う。その胴を、大型ファルシオンが、貫いてい
た。
 が、模擬戦用の像である。テレビの空チャンネルの“砂嵐”がシルエットを模っている
だけで、ヴィータの身体には、毛ほどの傷も付いていない。
「そもそも、お前には私と違って射撃があるのになぜ使わん?」
「あんまり、柄じゃねぇんだよ」
 シグナムの問いに、バリアジャケットの埃をわざわざ手で払いながら、ヴィータは不機
嫌そうに、そう答えた。
「まぁ、今に始まったことでは無いが……ここの所はそれが余計にひどい。何をそんなに
苛立っているんだ?」
 シグナムは、切れ長の目でヴィータを見据えつつ、そう、問いかけた。
「別に、なんでもねーったら」
 ヴィータは、不機嫌そうに、そう答えた。
「バニングスを意識しているのか」
「っ!!」
 シグナムの言葉に、ヴィータはかぁっ、と、顔を紅潮させる。
「あんなヤツ、かんけーねーっての!!」
 怒鳴るヴィータ。その目は、サファイアのような鮮やかな青に染まっている。
 図星か、と、シグナムは看破した。
「…………実戦では問題出ていないから、良いが、な」
 シグナムはそう言って、もう一度、軽くため息をついた。
 ヴィータは、そのシグナムを、怒りに満ちた形相で睨みつけている。
「シャマルやザフィーラの掩護は期待できないということ、わかってるだろうな?」
「あ、当たり前だ!」
 シグナムが問い質すように言うと、ヴィータは反射的に、怒声で答えた。
「それなら良い」
 シグナムはそう言って、右手に握っていたレヴァンティンを鞘に収め、三度、軽くため
息をついた。
『全員、取れてるかしら?』
 不意に、念話が、シグナムとヴィータの頭に響く。言い回しからすると、他のフォワー
ドメンバーにも届いているのだろう。
『バニングスか、どうした?』
『どうしたって程でもないんだけど、一度オフィスに戻ってくれるかしら? リニスが来
てんのよ』
 シグナムが問い返すと、念話越しのアリサは、そう答えた。
『ふむ、そうか』
 シグナムは短く返事をすると、視線をヴィータに向け、
「一旦はここまでだ。戻るぞ、ヴィータ」
 と、言って、踵を返す。
「へーい」
 不承不承という感じで、ヴィータはその後を追った。

 機動6課隊舎・フォワード小隊オフィスルーム
「まず紹介しておくわね」
 そう言って、アリサは、隣にいる人物を、手で指し示す。
「彼女は、リニスって言って、山猫の使い魔なの。Masterは、フェイトのお姉さんの、ア
リシアよ」
「今後、よろしくお願いいたします」
 アリサの紹介を受けると、リニスは手を前に、深々と頭を下げて、そして微笑んだ。
「フェイト隊長の姉で、アリシアって、無限書庫司書長の、アリシア・T・ハラオウンで
すか?」
 ティアナが、驚いたように、訊き返す。
「そうよ」
 アリサは、そう、即答した。
「へー」
 わざわざ声に出したスバルと、ティアナと、感心したように、リニスを見る。
「で、無限書庫ってなに?」
 声の主本人であるスバル以外が、全員ずっこけた。
「アンタは! ちょっとは本局の事も勉強しておけって言ってるでしょーがっ」
 ティアナは立ち直ると、スバルのおでこをつつきながら、そう言って迫った。
「別にティアナに聞いてるわけじゃないもん」
 スバルは反抗的に、ティアナから目を逸らしつつ、ブツブツっとそう言った。
「あぁ?」
 対するティアナのリアクションも、不良とかヤンキー(房総半島及び茨城県南部地区棲
息の絶滅危惧種)そのものの言い回しだ。
「まぁまぁ、その辺にするっス」
 本気で止めているのかいないのか、苦笑しながら、ウェンディがティアナの斜め後ろか
ら、声をかける。
「まぁ平たく言えば、時空管理局の資料室……みたいなところ、かな」
 ユーノも苦笑混じりに、手振りを加えつつ、そうざっと説明した。
「でも、リニスは技術部の嘱託扱いでね。今はデバイスマイスターが本職だよ」
「戦闘でも強いけどね」
 ユーノがさらに言い、アリサが付け加えた。
「えっと、こちらがスバル・ナカジマ二士で」
 リニスは、1歩進み出ると、笑顔のまま、スバルを見て、言う。
「こちらが、ティアナ・ランスター二士ですね?」
 ティアナに視線を移し、そう言った。
「あ、は、はいっ」
「は、はいっ」
 ティアナが呼ばれてから、スバルは直立不動の体勢をとって返事をする。さらに、ティ
アナもそれに倣った。
「お2人の為に頼まれていたデバイスが仕上がったので、持ってきたんですよ」
「えっ?」
 笑顔のリニスが言うと、スバルとティアナが、揃って声を上げる。
「と言っても、スバルさんには、クイントさんに頼まれていたのを、直接お持ちしただけ
なんですが」
「お母さんが?」
 スバルはキョトン、として、リニスに聞き返した。
「はい、ギンガさんのと揃って。ですがフルスペックのインテリジェントデバイスだった
ので、ちょっとお渡しするのが遅れてしまったんですよ」
 リニスの笑顔が苦笑に変わった。
「申し訳ありません」
「べ、べべ、別に申し訳無いだなんて、そんな滅相も無い」
 スバルはそう言って、バタバタと手を振った。
「で、リニス、物はどれなのよ?」
 アリサが、リニスの背後から、そう声をかけた。
「はい、こちらです」
 リニスはそう言って、ポーチから、テーパーのかかったステップ・カットの、青い宝石
の下がった、ペンダントを取り出し、それを、両手で抱えるようにした。
「展開」
『development』
 リニスの言葉に、宝石が答えると、それは光を放ちながら、リニスの両手に、抱えられ
る。
「わぁ……これっ」
 スバルは、驚いたような声を出す。
 サスペンションつきの大きなローラーブレード、クイント愛用の『ソニックキャリバー』
に形状は似ているが、色は黒に近い藍色で、それよりは明るい青でアクセントが入ってい
る。そして、最大の違いは、右足の足の甲の部分に、インテリジェントデバイスとしての
管制人格を備えたコアが備わっている点だった。
「『マッハキャリバー』です。もともとはクイントさん御自身用に設計していたものみた
いですけど、ストレージの『ソニック』と相性が良すぎたようで」
「Sonicで音速だから、Machでそれ以上、って事かしらね」
 リニスの説明に、アリサは背後からよってきて、そう付け加えた。
 本来、Mach・numberは、速度単位としては音速に対する倍数で、超音速そのものを示す
ものではないのだが、それはご愛嬌。
「もちろん、リボルバーナックルの管制スクリプトもインストールしてありますから、後
はご自身で調整なさってくださいね」
「あ、は、はい! ありがとうございます!」
 リニスが、言いながら、マッハキャリバーを手渡すと、スバルは、興奮したような明る
い顔で、そう言った。
 スバルの背後で、マギーが軽く、ため息をつく。
「で、あたしが頼んでおいたやつは?」
 アリサは、リニスの横に回りこみ、笑顔で訊ねる。
「せかさないで下さい、順番です」
 リニスはアリサを窘めるように言ってから、ポーチの中から、赤の縁取りの入った、白
いメタルカードを取り出す。
「展開」
『development』
 光を放ったカードが、その本来の姿に戻る。
「っ……!!」
 それを見て、ティアナは、愕然とした。
「『クロスミラージュ』です」
 そう言って、リニスは両手で、先端にショートソードを刀具として取り付けた槍、西洋
長巻、パルチザンを握る。
「こっちはあまりに急だったので、簡易インテリジェントですけど、その分、頑丈に作っ
てあります。応答速度も、折り紙つけますよ」
「へぇ、ずいぶん頑丈さ優先の感じがするけど」
 自らも、アマチュアとは言えデバイス製作を行うユーノが、それを見て、感想を漏らし
た。
「アリサがすぐ使いたい、って言ったら、無茶をするのはわかってますから」
 リニスは苦笑気味に言った。すると、その傍らで、アリサが憮然とした表情になる。
「相当乱暴に扱っても、壊れたりしないように出来てます。ただ、アームドデバイスほど
鋭利に出来ていないので、打撃時には魔法補助を使ってください。ブレイクスラッシュは、
仕込んであります」
 リニスは、自信気な笑顔で、そう、説明した。
「O.K. 悪いけど、あたし宛に、請求書切っといてくれない? 出来れば、日本円か、
U.S. dollarでくれるとなおありがたかったり」
「さすがに両替はまずいですが、請求書は承りました」
 アリサが冗談交じりに言と、リニスも苦笑気味の笑顔で、そう答えた。
 そして、視線をティアナに移す。
「ティアナさん?」
 ────私はハンドガン型が使い慣れてるのに、私はハンドガン型が信条なのに、あ、
でもアリサさんが私のために用意してくれたものだしアリサさんの……
「ティアナ?」
 アリサが、怪訝そうな顔をして、ティアナの顔を覗き込む。
「はっ? あ、い、いえ、なんでしょう?」
 びくっ、と、硬直するように直立不動の体勢になって、ティアナは、アリサに訊き返す。
「悪いけど、しばらくクロスミラージュ使っててもらえるかしら?」
 アリサは、苦笑気味の穏やかな微笑みになって、そう言った。
「し、しばらくだなんてとんでもない!」
 ティアナは慌てた様子でそう言って、リニスからひったくるように、クロスミラージュ
を手に取った。
「大切にします! ありがとうございます!」
 興奮気味に顔を赤くして、ティアナはアリサに向かって頭を下げ、クロスミラージュを
抱くようにする。
「ホントに……」
 それから、頭を下げたままで見えないようにしつつ、腕の中のクロスミラージュを見な
がら、少し、下唇を噛んだ。
「…………?」
 アリサは、怪訝そうに顔をしかめてから、リニスと顔を合わせた。リニスは、キョトン、
としていた。

「残念ながら、レジアスの部隊の抹殺には失敗したようです」
 薄紫の、ウェーブのかかった長い髪の、妙齢の女性は、淡々と、そう言った。
「ほぅ、レリック爆弾を使って、なお凌いだかね?」
 男性の口調の言葉が響き、そう言った。
「申し訳ありません、ドクター」
 女性の前で、膝を折って頭を下げていたのは、あの、チンクだった。
「いいかいウーノ、一度は『親友』だと言った相手に対する、仕打ちがこれだよ! ハッハ
ッハッハ! 管理局と我ら、一体どちらが酷薄なのかね!」
 妙齢の女性────No.1ウーノに言い、しかし、彼は、むしろ相手を嘲笑うように、哄
笑を上げた。。
「できれば、彼の手駒には、退場していただきたかったが……まぁ、いい。“アレ”が、
“Unlimited Powered”の元に渡れば、“燃え上がる炎”といえど、もう、止められはせんさ!」
 “彼”────Dr.ジェイル・スカリエッティは、そう言って、狂気そのものの哄笑を上
げた。



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目次:熱き彗星の魔導師たち
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

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