138 名前:肌触れ合うも多少の縁[sage] 投稿日:2009/01/10(土) 19:17:25 ID:svYmYdnJ
139 名前:肌触れ合うも多少の縁[sage] 投稿日:2009/01/10(土) 19:18:12 ID:svYmYdnJ
140 名前:肌触れ合うも多少の縁[sage] 投稿日:2009/01/10(土) 19:18:42 ID:svYmYdnJ
141 名前:肌触れ合うも多少の縁[sage] 投稿日:2009/01/10(土) 19:19:26 ID:svYmYdnJ
142 名前:肌触れ合うも多少の縁[sage] 投稿日:2009/01/10(土) 19:20:19 ID:svYmYdnJ
143 名前:肌触れ合うも多少の縁[sage] 投稿日:2009/01/10(土) 19:20:56 ID:svYmYdnJ
144 名前:肌触れ合うも多少の縁[sage] 投稿日:2009/01/10(土) 19:21:41 ID:svYmYdnJ
145 名前:肌触れ合うも多少の縁[sage] 投稿日:2009/01/10(土) 19:22:34 ID:svYmYdnJ
146 名前:肌触れ合うも多少の縁[sage] 投稿日:2009/01/10(土) 19:23:31 ID:svYmYdnJ

(うう…………お尻まだ痛い。なにも爪まで出さなくてもいいのに)

 姉が言うところの「個別レッスン」とやらが終わってすぐに指名を受けたセインは、痛む腰をさすりな
がらベッドの上に座っていた。客は何か手間取っているのかまだ入ってこない。
 セインは服と下着の間に手を突っ込み、恐る恐ると肛門の入り口に指を入れてみた。軽く指を回して抜
くが、皮膚が赤く染まっていたりはしなかった。怪我は無いと知ってほっとする。

「もうなんだろうが二度とドゥーエ姉に相談するのはやめよ」

 指をハンカチで拭きながら声に出して決心するセインだったが、客を待つ手持ち無沙汰な間に姉が言っ
たことを思い出してみると、少なくとも嘘は含まれていない気がする。

(確かに私ってトーレ姉やディードとかと比べたら胸もお尻もぺったんこだしなあ)
「ここが六番の部屋……ですよね」
(性格だっていきなり変えられるものじゃないし……だったらやっぱりこっちを上手くなるしかないのか
な)
「あの……」
(けど女同士で練習したって男相手だとあんまり役に立たないんじゃあ……)
「もしもし?」

 肩を揺すぶられ思索にふけっていたセインが我に返ると、ベッドの横に眼鏡をかけた見知らぬ紫髪の青
年が立っていた。

「君がセインさんかな?」
「おっとと、ごめんなさいお客さん。ちょっとぼうっとしてました。はい、あたしがセインです」
「あ、僕はグリフィス・ロウランといいます」
「ご丁寧にどうも」

 名乗り返す客ことグリフィス。そんなことされたのは初めてだったので、思わずセインはぺこりと頭を
下げてしまった。

「ずいぶん考え事してたみたいだけど、何か問題でもあるのかな」
「いえ、くだらないことなんで気にしないでください」
「いや、でも眉間に皺を寄せて凄く難しい顔してたから。あんな顔されたら、こっちも気になるんだ。長
くならないようだったら、話してもらっていいかな」

 行為をする前に軽くしゃべりたがる客もいる。しかしこんな話題を振られたのは初めてだ。
 どうも普段の客とは様子が違うと首を捻りつつ、姉妹がなんとも頼りにならなさそうな気配なので思わ
ずセインは問われるままに悩みをこぼしてしまった。

「実はあたし、ちょっと悩み事があって……」

 そのまま、先刻あったことをセインはしゃべっていた。姉に危うく調教させられかけたことはもちろん
伏せておく。
 グリフィスは黙って聞いており、やめろともなんとも言わない。

「そんなことがあったわけなんだけど…………あ!」

 最後まで語ってしまってから、遅まきながらセインは気づく。
 馴染みの客がいないと告白するなど、自分は人気がありませんよと公言しているようなものではないか。
少なくとも、これから相手をする客に言うことでは無かった。

(まずったなぁ……。こういうとこが駄目なんだな、あたしは)

 遅まきながら反省しつつ、セインは男性に謝った。

「ごめんなさい。あたしのつまらない愚痴聞かせちゃって……。しゃべってた分、延長してもらっていい
ですよ。お金はあたしが出すから」
「いや、実は僕も自分のこと地味だな、と思ってて」
「そうなんですか?」

 言われてみれば顔は美男の部類に入るが、そちらよりむしろ大人しさが目立っているような雰囲気であ
る。セインの話の間も、頷いているだけで自分から訊ねてくるようなことはなかった。控えめで目立たな
い性格なのは、顔を合わせてほんの数分で知れていた。

「僕は管理局員なんだけど、階級的には今の部隊で上から十番目ぐらいにはいるんだ」
「へえ、偉い人なんですね」
「いやまあ、まだ准尉なんだけど……。とにかく存在感薄くて周りの人に全然覚えてもらえないんだ。こ
の間も同僚のスバルっていう子に話しかけたら『どちらの部隊の方ですか?』って聞かれたりして。あの
時は本当にへこんだよ…………ははは」

 しゃべっているうちに当時のショックを思い出したが、グリフィスは完全に下を向いてしまった。
 これだけ打たれ弱いあたり、やや大人っぽい風貌をしているがまだ若くて人生経験は少ないのかもしれ
ない。
 そのまま今度はグリフィスが、自分の部隊は女の人ばかりで肩身が狭いとか、自分の存在意義の疑問と
かについて語り始める。何か溜め込んでいるものでもあったのか、いつまで経っても終わる気配が無い。
 ふんふん、と相槌打ちながらそこそこ真剣に聞くセイン。しゃべる相手が基本的に姉妹ばっかりなので、
たとえ愚痴話であろうと他人の話を聞くのは面白い。
 かなり長い時間話は続き、ようやく一息ついたところで今度はグリフィスがしまったという顔をした。

「すまない。今度は僕がつまらない愚痴を聞かせてしまって」
「…………くくくっ」

 謝るグリフィスから思わずセインは喉を鳴らして笑った。

「あははは……なんかおかしいね。愚痴りあう風俗嬢とお客さんなんて……」
「確かに、普通はいないだろうね」

 グリフィスもつられたのか相好を崩す。顔を見合わせ、二人はひとしきり笑いあった。
 場所柄にふさわしくないほのぼのとした雰囲気になるが、いつまでもそうしてはいられない。お金を払っ
てもらっている以上、ソープ嬢として成さなければならないことがある。

「じゃ、お話このへんにして、そろそろ始めよっか?」

 服を脱がしてやろうとボタンに手をかけると、グリフィスは明らかに戸惑った顔をした。

「グリフィスさん、あんまりこういう所慣れてないでしょ?」
「……やっぱり分かるのかな、そういうの」
「まあ、普通は女の子と悩み相談したがるお客さんなんていないし」
「こういう店に来るのは二回目なんだ。一回目もここだったんだけど」
「ふぅん、相手は誰ですか?」
「四番のクアットロっていう人」
「あちゃー……」

 あの姉なら、客が不慣れだろうが気にすることなく自分の流儀でやるに決まっている。そしてクアット
ロの流儀=サドであった。

(いきなり鞭でぶっ叩くようなことはしてないだろうけど。…………しかしこの人、また来たってことは
ひょっとしてマゾ?)

 失礼なことを考えつつも、今度は客を放っておくことなくセインはてきぱきと準備を進めていった。グ
リフィスを脱がすのを手伝いながら、自分もちょっとずつ服を取り去っていく。
 顔を見せたグリフィスの股間に顔を寄せると、音でも立てそうな勢いでグリフィスの身体が強張った。
 まさかフェラチオも知らないのかと表情を窺えば、顔には未知への不安というより警戒心が出ていた。

(……さては噛んだなクア姉)

 肉棒に怪我をした痕跡は無いが、軽いトラウマになってるのか萎縮したままである。
 まずは植えつけられた恐怖心を取り除いてやらねばと、セインは舌だけ伸ばしてちょんとつついた。二
度、三度と繰り返しながら、身体の緊張が解れるのを待つ。
 やがて手を置いている腿から力が抜ていくのが分かった。陰茎にも芯が入りつつある。しかしまだ完全
ではなく、あと一息といったところ。

(ここからどうしよ? まだ口に入れちゃったら緊張される気がするし……)

 思案するうちにふと思い出したのは、先刻ドゥーエにされたこと。といっても、口淫について教えられ
てはいない。
 セインが思い出したのは、巧みな指に昇り詰めさせられて呆然と半開きになった口に注がれた唾液。わ
ざと唇を重ねず口の上から糸となって垂らされる唾液は、蕩けた視界にひどく卑猥に移った。
 一度舌を離したセインは口の中でもごもごと唾を溜め、グリフィスからよく見える角度で唇から垂らし
た。
 かすかに泡立った白い糸がつつっと垂れてまぶされた途端、肉棒は大きく脈動し最大限まで屹立しきっ
た。

(へえ、けっこう大きいな)

 同じ種類のものを見慣れきっているセインの判断では平均よりもかなり立派で、皮も被っていない。
 喉につかえるかもと思いつつ、先端からゆっくりと口に含んでいく。
 滾りきっている肉棒は、熱した鉄のように熱くて硬い。熱さを和らげるかのように、セインが幹の半ば
まで進む頃には先端から透明な液が零れ出した。
 舌の上に溜まっていくそれを唾と混ぜ合わせて全体に塗り伸ばし、唇から出し入れする時にいっそう快
感を与えられるようにしておく。
 くちゅくちゅと音が立つが、それ以上に荒く息を吐く音が大きい。
 まだセインは本腰を入れていないのに、グリフィスはまぶたを固く閉じて快楽に必死で耐えている。額
には汗の粒すら浮かんでいた。自己申告どおり、口淫どころか女性経験そのものが数えるほども無いのだ
ろう。
 この様子では愛撫も拙いものだろうから、先にセインは自分で準備しておくことにした。

(あんまり自分でするの好きじゃないんだけど……)

 他人の目の前で自分の秘所をいじくるなど、ひどい淫乱のような気がしてしまう。こんな商売やってて
何をと呆れられそうだが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 とはいえ、やらざるをえない時はやる。
 姉妹の中では極端に薄い水色の陰毛をかき分け谷間に触れる。ひどく柔らかい肉の割れ目だが、まだ潤
いは無い。こそばすようになぞってやると、すぐに水気が奥から湧き出てきた。
 ゆっくりゆっくり撫でているだけで、肌のすぐ下のあたりが気持ちよくなってくる。指が徐々に大胆に、
止まらなくなりそうになる。
 口の方も忘れず、頭をゆっくり深く上下させて唇で根元からくびれまでしごいていく。唾液に濡れた肉
棒は、赤さを増しながらてらてらと光を反射した。

「ん……ぐ……ぷはぁ……あんっ」

 セインが息継ぎをしたタイミングと、股間の指が淫核に当たるのがたまたま重なり、セインは鼻がかっ
た喘ぎ声をかすかに上げる。
 その途端だった。

「で、出るっ!!」
「へっ!?」

 いきなり目の前の竿が暴発した。

「うそっ!? って、わわわわ!?」

 大きさを裏切らぬ量の白濁液が恐ろしい勢いで噴出し、セインの髪といわず胸といわずあらゆる場所に
降り注いでくる。
 本気のテクニックを見せるだいぶ手前だったのでまさかこの段階で出るとは思わず、セインは呆然とし
たまま精液のシャワーを浴びた。

「…………いきなり、出してしまって……その……すまない」

 ようやく射精が終わると、グリフィスはうつむいて言った。傍目にも落ち込みまくっているのが分かる。
 早漏すぎたのが自分でも分かっており恥ずかしいのだろう。実際、恐ろしく早い部類に入っているのだ
が。

「いやいや、気にしなくていいから。無理やり飲ましてくるお客さんに比べたらずっとましだよ」

 慌ててフォローしてやるセインだが、グリフィスの股間を眼にして思わず吹き出しかけてしまった。
 本人の気持ちと裏腹に、股間は全く萎えておらず女が欲しいと言わんばかりに勃起したままだったのだ。
 あれこれ言うより本番で名誉挽回させてやればいいかと、セインはベッドに横たわってそっと足の間を
開けた。

「本番、しちゃっていいよ。胸とかも触りたかったら触ればいいし」
「…………あ、ああ」

 背中を押されるようにして、グリフィスが上に覆いかぶさってくる。
 穴の位置を確かめているのか指が秘裂のあたりをまさぐり、やがて指先は鈴口に変わった。
 ちょっとずつ、まるで焦らしているかのように性器が進み入ってくる。

(つっ…………やっぱ、大きいな)

 セインの身体は濡れ始めていたとはいえ、挿入するには準備不足が否めない。
 内側が擦れて痛みを覚えるセイン。こういう場合ゆっくりやられるよりも一気に奥まで挿入れられた方
が痛みがまぎれるのだが、顔には出さないようにしてグリフィスを受け入れる。
 根元まで埋まると、それだけで体力を使いきってしまったようにグリフィスは大きく深呼吸をした。
 息が静まった頃を見計らって、セインは優しくキスをして堅さを取ってやる。

「好きなようにしてくれていいから」

 すぐにグリフィスは動き出す。
 本当に出し入れしているだけの、稚拙な腰遣い。胸などに愛撫をすることなど、頭に思い浮かんですら
いないのだろう。
 それでもセインの膣は、男を受け入れ続けているというだけで愛液を分泌してストロークを滑らかにし
ていく。
 ちょっとだけグリフィスの速度が上がったかと思えば、終焉はあっさりと訪れた。

「セイン……さんっ!!」

 名前を呼ばれるのと同時に、身体の中で陰茎が暴れまわり熱い液体を漏らす。
 やはり早すぎる二度目の射精。
 しかし今度はグリフィスは恥ずかしそうな顔もせず、射精が終わると何かに突き動かされるように律動
を再開させた。
 二人分の粘性の汁がセインの腿を伝わっていく。
 顔は真っ赤で、浅く短い息をつきながら腰を動かしている。あまり激しくない抽迭運動が時々止まるが、
射精を耐えているのではなくセインの顔を覗き込んで無理をさせていないか窺っている顔つきをしている。

(……こういうの、初めてだな)

 客にも色々いるが、たいていは純粋に快楽目的のためだけにやってくる。したがって自分の好き勝手に
動きたがる客が多い。
 だからグリフィスのようにひたすらセインの身体を気遣ってくれる客は、初体験だった。

(ほんと、妙なお客さんだなぁ……)

 快感ではなく愛おしさがセインの胸の内に生まれる。
 腕を伸ばしてグリフィスを抱き寄せると、腰の力加減を変えて膣内を蠢かせる。

「男の人って、こうしたら気持ちいいんだよね?」

 答える余裕はないのか、グリフィスは頭でだけ頷いた。

「女の子もね、ちょっとぐらい激しく突かれる方が気持ちいいんだよ。だから気にしないで、グリフィス
さんの動きたいように動いてくれればいいよ」

 もう一度頷いたグリフィスが、腰つきを変える。
 絡みつく粘膜を振りほどくように強く突いて、一番深い場所まで押し入ってきた。
 一瞬も止まることなく、すぐに腰が引かれて肉棒が抜けていく。そのせいで出来た胎内の空洞に、セイ
ンは切なさのようなものを感じた。
 だがまたすぐに膣は満たされる。

「くっ、うくっ……!」
「んぅっ……んんっ……!」

 苦しそうにも聞こえるグリフィスの呻き声とセインの甘い喘ぎ声が、身体と同じく交わって絡み合いな
がら、どんどん高まっていく。
 スピードを緩めぬ性器がいきなり止まったかと思うと、大きく膨張した。

「また…………出るっ!!」
「あ、はあんっ!」

 白く霞む頭。三度目なのに量の減らぬ精液をたっぷり注がれて、小さくセインも達した。

          ※




 慣れぬ身体で三連続はきつかったのか事が終わってしばらく経ってもグリフィスはふらついており、服
を身に着けるのをセインは手伝ってやった。

「タクシーとか呼ぼうか?」
「いや。なんとか歩いて帰れそうだ」

 軽く頬を叩いたグリフィスは確かな足取りで部屋を出て行こうとするが、ドアの手前で振り返った。

「……正直前回は色々あってあんまりだったんだけど、今回はすごく気持ちよかったし、楽しかったよ。
ありがとう」
「こ、こちらこそ……ありがとうございます。…………だったら」

 一瞬口ごもったセインだが、勇気を出して言ってみた。

「次に店に来た時、また私を指名してくれると嬉しい……かな。…………な〜んて、あはは冗談冗談。い
くらなんでも図々しいよね!」

 口に出せたことは出せたが、土壇場でへたれた。
 しかしグリフィスは柔らかく笑って頷いてくれた。

「そうだね。そうさせてもらおうか」
「そうですよね…………ってええっ!? い、いいんですか!?」
「ああ、やっぱりこういう場所には慣れれそうにもないから、セインさんだと肩の力が抜けそうだしいい
かなって」
「うわあ……」

 自分で口にしておいてなんだが、了承してくれるとは全く思っていなかった。なんでも言ってみるもの
である。

(これって馴染みのお客さんってやつだよね。どうしよ、いきなり出来るなんて思ってなかった……!)

 こういう時どんな接客態度を取るかは教えてもらっていない。テンパりまくったセインだが、沸騰しそ
うな頭でもお礼を言わねばというぐらいの判断はついた。
 ベッドの上で畏まったセインはぺったりと頭を下げて言った。

「こ、今後ともごひいきによろしくおねがいします!」

          ※




「ふふふ〜ふふふふふ〜〜ん」

 ナンバーズ三人が休憩中の部屋に、えらくご機嫌なセインの鼻歌が流れる。
 対照的にノーヴェとウェンディは、またこいつかと気分がどんどん落ち込んでいった。
 口笛まで吹き出したセインが、さっきからちらちらとやたらこっちに眼をやってくる。
 意味有りすぎな視線から顔を逸らすと、同じく横を向いたウェンディと目が合った。

(……お前が訊け)
(いやッス。この間も訊いたのあたしッスから、今度はノーヴェがやるべきッス)
(その前は二回連続であたしだっただろ)
(妹を庇うのはお姉ちゃんの役目ッス)
(都合のいい時だけ妹面すんじゃねえ!)

 ウルトラ高度なアイコンタクトの果てに、折れたのはノーヴェだった。

「あー、えーと、それ、なんなんだ?」
「よくぞ訊いてくれました!」

 待ってましたとばかりに、三回転ターンでも決めそうなテンションでセインが振り向く。

「実はさぁ、馴染みのお客さんから映画に行こうって誘われちゃって。グリフィスっていう人なんだけど、
知ってたっけ?」
「…………知ってる。お前から二百回は聞かされた」
「それでそのグリフィスなんだけどさ」

 後半部分を完全にスルーかました六番目の姉。顔面をにっこにことだらしなく緩めているところは、正
直引く。

「もうすっごく優しい人で、デートとか全額もってくれるし、行きたいってちょっと言った場所には必ず
連れて行ってくれるんだよ。この映画もこの間のデートで……」

 心底楽しそうに語るその話を、すでに二回は聞かされている。
 遮断しようと思っても耳から勝手に入ってくるスゥイートトークに泣きたくなりながらそっぽを向いて
耐えていると、妹と再び眼が合った。
 ウェンディの眼も、自分の眼も全く同じ事を物語っているのが嫌でも伝わる。
 もうやだこの姉、と。

「それだけじゃなくて他にもさ……」

 二人の様子になど全く気づかぬらしいセインの独演会は、休憩時間が終わるまで続くのだった。

          ※




「…………知り合って三ヶ月でもう名前呼び捨て。しかも頻繁にデートの約束までしてる」

 事務所の机の上に行儀悪く腰掛けたドゥーエは呟く。
 今日はドゥーエ一人ではなくパソコンの前にウーノが座っていたが、ただの独り言と判断されたのか相
槌は返ってこなかった。

「世話焼いてあげる必要、どこにも無かったわね」

 本当にあれが世話を焼いたうちに入るかということについては、完全に棚に上げていた。

「あっという間に熱々になっちゃって。……姉妹の中で真っ先に結婚したりして」

 だとしたら羨ましいことだとドゥーエはちょっとだけ思い、すぐに心の中の声をきれいに消してウーノ
に話しかける。

「ねえウーノ、ドクターの夜のお相手する権利、三日ぐらい貸してもらえないかしら。利子つけるから」
「利子?」
「返却の際に、私も入れて3P」
「却下ね」
「長女だったら妹におすそ分けしてあげる優しい心は大切じゃないかしら」
「経営の仕事を全部引き受けている特権よ」
「なら、半分手伝うって言ったら素直に貸してくれるの?」
「それも却下」
「ドケチ」

 ウーノは肩をすくめただけで、ドゥーエの罵声を背中で跳ね返す。仕事が終わったのか、パソコンを切っ
て部屋から出て行った。
 はぁ、とため息ついたドゥーエはごろりと机の上に寝転がる。天井に手を伸ばし爪の伸び具合など確か
めながら、ドゥーエは欠伸を一つした。

「……ああ、暇で暇でたまらないわ」

 なべてこの世はこともなし。今日もソープナンバーズは平和極まる一日である。
 気だるく欠伸をしていると、誰かが事務所に入ってきた。ウーノが忘れ物でもしたかと思ったら、入っ
てきたのは姉ではなく十番の妹だった。

「あら、ディエチじゃない」
「少し相談事があるんだけど。……実は私、馴染みのお客さんがいなくて」
「…………へえ」

 咄嗟にドゥーエは顔を伏せた。思わず漏らしてしまったほくそ笑みを見られないためである。
 なかなか世界は上手く出来ている。暇が有り余っているうえ少々鬱屈しているところに、格好の遊び相
手がやってきてくれた。
 顔を上げながらほくそ笑みを消したドゥーエは、今度は満面の笑顔を作ってやる。それだけで何か察し
たのか、ディエチは後退りしかけるがもう遅い。肩をがっちり掴んでドゥーエは顔を近づけた。

「いいわよ。じっくりたっぷり、あなたのどこに問題があるのか教えてあげるわ……」




          終わり


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目次:肌触れ合うも多少の縁ソープ・ナンバーズ
著者:サイヒ

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