魔法少女リリカルなのは Step

第7話 鏡合わせの二人なの?


[13]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/09/20(水) 02:59:59 ID:eawTYiMd
[14]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/09/20(水) 03:00:31 ID:eawTYiMd
[15]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/09/20(水) 03:01:14 ID:eawTYiMd
[16]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/09/20(水) 03:02:00 ID:eawTYiMd
[17]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/09/20(水) 03:02:37 ID:eawTYiMd

「まったく、キリがないな」
 管理局本局の一室。急場で拵えた対策本部の中央モニターの前で、もう何度目かわからない嘆息。
 アースラへの救援要請及び地球での活動の許可。渋る上層部をなんとか説き伏せた矢先にこの事件。とんぼ返りとはいかなかった。
「今の所、発動体の暴走だけで落ち着いてはいるが……」
 他ならぬジュエルシード。単体での魔力暴走程度ならまだ可愛いものだ。
 本当の問題は願望を吸収し暴走したときこそ。
「回収したジュエルシードは今日付けで三十七……アリシアが撒いた数は百を超えているはず」 
 これだけの数なのだ。本命の暴走がないこと自体奇跡に等しい。
「プレシア・テスタロッサ…………ミッドチルダへの宣戦布告だぞ」
 上の人間もようやく大慌てだ。
 夢物語としてきた世界の住人からの攻撃。しかもそれがPT事件の首謀者なのだから。
 心を蝕む怒りは眼光となり、アルハザードにいるであろうプレシアに向かっている。
「出来損ないが多いのが救いなのか……」
 手元の資料に目を通せば今まで捕獲したジュエルシードは、そのほとんどがPT事件でのジュエルシードに比べ劣っている所がある。さしずめコスト重視のオミット版という所だ。
 しかしだ、曲がりなりにもジュエルシード。完全に暴走した時のエネルギーは比較にならないだろう。
「一度に発動すれば…………いや、考えるのはよそう」
 不意に浮かんだ最悪の結末を振り払い資料を閉じる。
 管理局の武装隊も頑張ってくれている。それでも依然、いやだからこそ戦況も平衡を保てる。
 手を打つなら今しかない。
「しかしどうする……ジュエルシードがある限りはどんな作戦も」
 どの道ジュエルシードあっては全てが水泡になるのは目に見えている。
 フェイトと話し合った例の作戦も……十中八九失敗か。
「クロノ、南地区の制圧終わったよ」
「ん、ご苦労」
「うん、嘱託魔導師フェイト・テスタロッサ任務完了しました」
「ぶっ、なんだよそれ」
 いきなりの畏まった口調に噴き出しつつもなんとか応じる。
「だってクロノが「ご苦労」なんて偉そうに言うから」
「い、言ったか?」
「言ったよ。もしかしてまた」
『Workerholic?』
「そ、そんなわけ……ないだろ」
 思わず詰まり語尾が小さくか細く……。
 図星を突かれるのはいつも心が痛い。
「やっぱりエイミィの言うとおりだ。切羽詰るほど仕事に夢中になるって」
 言われるほど切羽詰ってない。
「誰が切羽詰って……いや、ここにいるな確かに」
 そう言おうとするも口は別の動きをした。
 モニターに映りこんだ自分の顔を見れば、どれだけ疲弊しているかぐらい一目でわかる。
 ああ、確かにこんな顔してればそう言うしかないな。
「あれ? 随分素直なんだ」
「僕だってそういう時はあるさ」
「……ちょっと期待はずれっていうか意外かな」
 振り向けば少しだけ物足りなさそうな顔をしたフェイトがいた。
「ワンパターンな人間じゃないんだぞ、僕は」
 確かに認めるところは認めるけど……。
 正直なところエイミィの言う通りになんかなってたまるか。
「ふーん……やっぱりまだまだクロノのことわからないな」
「そう簡単に人はわからないさ」
 一年の付き合いで本当に理解するのはこれが意外に難しい。
「そうだよね……ほんとのこと言うとクロノがどんな人かわかってたつもりだったんだけど」
「僕だってまだまだ君の事を本当にわかっているか自信ないさ」
 あくまで自論だが、どちらかといえばその月日が入り口であり始まりだと考えている。
 円滑な人付き合いする上でなら表面的なパーソナリティーの理解で十分だけど、一つ屋根の下で共に生活するならもっと相手を知らなければ失礼だ。
「特に最近のフェイトは特にわからないな」
「そ、そうなんだ……」
 声のトーンが幾分落ちて居心地悪そうに視線も落ちた。
 何か勘違いしているみたいだが、決してフェイトのことを理解しようとしない意味ではない。
 断じてない。
 もう一回言う、断じて有り得ない。
「なんていうかお転婆になってきた。第一印象が物静かな子だと思っていた僕としては計算外の事態だ」
「私そこまでお転婆になってないよ!」
「僕からみれば随分と快活になってるぞ」
「それならクロノだってここ最近口の悪さ一割増しだよ」
「また微妙な増え方だな……」
 というか口が悪いって……。
 そんな風にフェイトに見られていたのか僕は。
「あと……優しくなったと思う」
「え?」
 いきなりの一言にドキっとさせられた。
 なんていうか全く予期していなかった言葉である。
「初めの時はほんと仕事一筋の人だと思ったけどね。でも本当はすごく優しい人だって」
 そういえばなのはにもそんなこと言われたことをおぼろげながら思い出した。
 しかしどうも「優しい」は僕には体質的には合わない言葉のようで。
 じんましんが出るというわけでないが体がむず痒い。
「か、からかうのは止めてくれ……当たり前のことをしているだけだ」
「そうなんだ……クロノってほんとによくわからないな。……でもね、これだけはエイミィや提督に聞かなくてもわかるな」
「今度は何だよ……」
 思わず身構えてしまう辺りすっかりフェイトのペースに乗せられているのだろう。
 そう思うと情けない一方、フェイトが喜んでくれるならそれもいいかと思っていたり。
「クロノって不器用だよね」
 そうか、そう来たか。
 僕はフェイトから言わせると不器用な男らしい。良くわかった、勉強になった。
 以後参考にしよう。
「きっとエイミィや母さんに聞いても言われそうだな。やっぱり君は僕のことを随分とわかってるぞ」
「えっへん……なんてね」
 恥ずかしそうに胸を張り、これまたいまいち締まりのない声だった。
「油断するなよ。これぐらいじゃまだまださ、僕のことを知りたければもっと時間をかけないと駄目だ」
「やっぱり駄目か」
「調子に乗ったらいけないからな。特に君は僕以外にもエイミィや母さんのことも知らないといけない」
 自分で言うのもなんだが大変だな。
 でも家族とはそういうものだ。
「ん?」
 自分の心の声にはて、と首を傾げた。
 なにか引っかかるような、何か勘違いしているような。
「私頑張るよ。もっともっとみんなのこと知りたい。なのはもアリサもすずかもみんなみんな」
「ああ、期待してる。じゃあ今日はもう遅いし、明日に備えて休むといい」
「クロノは? また仕事中毒?」
「大丈夫だって、すぐに終わらせる」
 それだけ言ってフェイトも納得して、
「じゃあそう思っておくね。おやすみクロノ」
 くるりと背を向けドアを開け出て行った。
 僕も踵を返し、再びモニターを見やる。また自分の顔が映っていた。
 幾分、ガスは抜けたようだ。
「やれやれ……一応はこのモニターに感謝しないとな」
 こいつのおかげで僕はフェイトの考えた定型から抜け出せたんだから。しかもフェイトと親睦も深められた。
「ああ、そうなるか……参ったな」
 そうして引っ掛かりが何だったのか自覚し、ため息追加サービス。
「僕もフェイトを家族にしたいんだな」
 考えること全部フェイトが僕らの家族になること前提だ。 
 母さんもそうみたいで僕まで伝染するとはたちの悪いウィルスだ。
「はは、妹か……」
 モニター見上げて、弛緩していく口角にやれやれとお手上げして。
 結局、それから僕もすぐに仕事を止めた。
 
 だってそうだろ? 妹ばかり考えてる兄馬鹿の頭なんだから。

 * * *

 既に時刻は深夜一時を指そうとしていた。
 私も就寝すべき時間なのだが
「夢……ですか」
「うん」
 もう一度確認してもアリシアは首を横には振らない。
 たかだか夢の内容だ。普通ならさして重要視するものではない。
 寝ている間の記憶など所詮、夢現の曖昧すぎる世界のものだ。起きてしまえばその世界は容易く崩壊し頭の中から旅立ってしまう。
「でも私とリニスが……」
「みなまで言わなくてもいいですよ」
 精神リンクを通してアリシアの動揺が痛いくらいに心を揺さぶってくる。
 彼女が受けた衝撃は私が受けたも同じ。そっと抱きしめれば、腕を通してアリシアの震えが顕著に伝わってくる。
「……うん」
 頭を優しく撫でるとくすぐったそうにを目を細める。少し落ち着いてきたみたいだ。
 こういう時に精神リンクで相手の心象がわかるというのはなんともありがたい。
 自分の心も安らいでいくのを感じながら、今一度アリシアから聞いた夢の話を思い返してみる。
(私とアリシアが捕まるか……)
 反芻するのは結末。
 簡単に纏めればアリシアがフェイトと戦い、後一歩のところで潜んでいた管理局員の結界に拘束され、あのフェイトと共にいた黒衣の魔導師の一撃に沈むというわけだ。
 私はというとその魔導師の一撃からアリシアを庇ってやられるらしい。
 それでアリシアが守られれば良かったのだが、残念ながら庇った甲斐もなく一緒に轟沈。
 完全敗北。まったく救いのない物語だ。
「やられたりなんかしないよね?」
 声がくぐもっているのは顔を埋めている所為だからだろう。両腕は離れまいと私の腰に巻きついている。
「大丈夫ですよ、どんなことがあっても夢は夢。忘れるんです」
 優しく言い聞かせながらも撫でるのだけは忘れない。
 これは最近の疲れのツケなのだ。なんども心に負担をかけ、ジュエルシードをミッドチルダに撒き続け、フェイトたちと戦う。
 子供の体には限りなく大きすぎる負担。常識的に考えればこの年の子供にここまでの魔力負荷をかければどうなるか。
 リンカーコアの発育障害。それに伴う肉体、精神への影響。
(その兆候……だとすれば)
 少しぐらい休暇をしても……いいや今すぐ必要だ。
「……リニス?」
「はい?」
「……変なこと考えてない?」
 ああ、しまった。
 リンクのおかげで私の小難しい思念も筒抜けだ。
「いえいえ大丈夫です。もう遅いし、今日は寝ましょう」
「でも……また」
 私を見つめる瞳は少し潤んでいた。
 眠りについて悪夢に苛まされたら――。
 そう思ってしまうと目が冴えてしまうだろう。
(そういえばそんなことも……私は考えていましたね)
 あれはそう、私がまだフェイトの教育をしていた頃。
 親子とは思えない態度を取るプレシアに使い魔ながらも不満を募らせていたあの頃。
 フェイトを魔導師として育て上げていく中で私の胸に去来した一つの感情。
(もしも……フェイトが私の娘なら……) 
 プレシアへの嫉妬。
(この手で……抱きしめて……うんと可愛がって、か)
 本当に、そうだったならどれほど良かったか。
 でもフェイトやアルフに出会えたことは何にも変えがたい大切なもの。
(じゃあ今は……?)
 フェイトを抱きしめるぐらい私にも出来たはず。
 出来なかったのは、きっとそうプレシアにどこか負い目を感じていたから。母親のやるべきことを、主がやるべきことを使い魔ごときが奪ってはいけない。
 今の主はアリシアだ。それでもプレシアの手前、そんなことはしないと思っていた。
(思っていた……のに)
 こうやって、この腕に抱かれてるのはプレシアの本当の意味での娘。
 なぜだろうか、アリシアには私の心はいつも丸裸にされてしまう。
 その所為、なのだろうか。私はアリシアを今も強く抱きしめている。
 フェイトやアルフに注ぎきれなかった愛情。主に反発しても、最後は結局留まってしまった思いの欠片。
(参りましたね……今更ながらに)
 フェイトやアルフを敵に回すこと。自分の欲望のために彼女たちを裏切ったこと。
(地獄に落ちますね……私) 
 そうだ、そうなのだ。
 私は望んでいたものを得たいがために二人を拒絶したのだ。
(そうなったって私はむしろ感謝している)
 いつも私のちっぽけな戒めを破ってくれる我が主。
 無邪気で素直で、笑顔が似合う私のご主人様。
 アリシア・テスタロッサ。

「……そっと目を閉じて……耳をかたむけていて……」
 
 ――いつしか、私は子守唄を歌っていた。
 
 腕の中で眠りに落ちるたった一人少女のために。 
 
 愛しいあなたのために。
 
 静かに、私は歌う。柔らかに、いつまでも――。

 あなたが優しい夢を見れますように……。

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目次:魔法少女リリカルなのは Step
著者:176

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