343 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/01/01(木) 16:30:08 ID:LlaPHPwQ
344 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/01/01(木) 16:30:44 ID:LlaPHPwQ
345 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/01/01(木) 16:32:59 ID:LlaPHPwQ
346 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/01/01(木) 16:33:43 ID:LlaPHPwQ

第1章 

 無限書庫の闇は深い。

 管理世界のあらゆる情報を呑み込み、日々、増殖し続けるこの怪物の食欲が満たされることは永遠にない。
 今日も7つの管理世界の古代遺跡から収集された石版や書籍、再生デバイスが不明なディスクなど大量の資料
が無限書庫に運び込まれてくる。

 これらの文献を無限書庫の主と称されるユーノ館長が定めた基準に従って分類し、あらかじめ割り振られた区
画に運び込むのがレナード・スクライア改めレナード・スライとその一族の請け負った仕事の一部である。
 スライ一族の若者たちの顔は、遺跡盗掘という非合法な仕事から解放され、民間協力者という身分とはいえ、
時空管理局で働ける喜びに満ちていた。
 もう管理局の執務官や武装局員の影に怯えたり、時空犯罪者や同業者の襲撃に脅かされることもないのだ。

「おい、ディスクを入れる空ボックスの規格が合わないぞ。A1じゃなくてF3を5箱持ってこい」
「封印が甘い。この文献は、第176区画の非公開文献所蔵庫に入れるんだぞ。再度、封印処置を行え」

 眼下で文献の仕分け、搬送作業を行う一族の若者たちのやり取りを見ていたレナードの右腕が声を上げた。 

「レナードさん、この石版200枚はどこにしまうんですか?」

 右手の義手にしてデバイスでもあるアーガスを通じて、搬送係の若者が指示を仰いできたのだ。
「361番区画石版所蔵庫B223の第77管理世界遺失文明のところだ」
 アーガスの助けを得て、無限書庫の該当区画を探索したレナードが、一族の若者に指示を出し終えた瞬間2枚
のモニターが目の前に展開した。

「族長、クアンです。第498区画の拡張工事の見積もりが取れました。転送しますのでご確認ください」
 一族屈指の空間把握能力の持ち主クアンが提出した拡張工事の見積書に目を通しOKのサインを出したレナ
ードに、スキンヘッドの壮漢が息せき切って話しかけてきた。

「こちらフィッシャーマン。レナード、第33管理世界のフォルグ文明のデーターのデジタル化の進行状況が、
 予定より28%遅れているぞ。ブラック提督が館長を締め上げる前に済ませてくれ。機器の不調を盾にして
 追求をかわしてるが、それも限界が近いんだ。頼む」

 クロノを隠語のブラック提督で呼ぶ、副司書長のフィッシャーマンの口調から切迫した状況を理解したレナー
ドは、即座に決断した。

「フィッシャーマン。フォルグ文明のデジタル化を優先した場合、第3管理世界の口碑と神歌のデジタル化が
 遅れますが、構いませんか?」

「その点は問題ない。フォルグ文明のデジタル化を優先させたまえ。フィッシャーマンくん、いつもながらユー
 ノ博士への忠誠心、監察官的にも嬉しい限りだよ」

 レナードの背後から唐突に現れたマテウス・バウアーが茶色の紙袋を抱えたまま、モニターのフィッシャーマ
ンに向かって声をかけた。

「バウアー卿、正規の入り口から入ってください」
 運び込まれる資料に紛れて潜入してきたとしか思えない人物の出現にレナードはうんざりした表情で注意した。

「荷受け用入口のセキュリティチェッカーがOKを出したんだが。ところでユーノ博士は、館長室にいらっしゃ
 るかね?」
 相も変わらず、よれよれの薄茶色のレインコートを管理局の制服の上に羽織ったマテウスは、寝不足なのか、
いつにもましてさえない顔でアーガスに話しかけた。

(今の時間は、在室されていますが、昼食が近いので遠慮された方が安全かと)

 マスターである自分の許可も待たずに答えたアーガスを思わず左手で殴りつけたレナードを無視して、マテ
ウスはつぶやいた。

「うむ。高町一尉が手弁当を持って来るのか。フィッシャーマンくん、ブラック提督の件についてハンバーガー
 でも食べて語ろうじゃないか」

 ハンバーガーの袋を持ち上げながら、ユーノ麾下の副司書長四天王のリーダーに話しかけるマテウスの口調は、
さえない表情とは、対照的なほど明るかった

「そりゃどうも、そ、それ、キングダムバーガーじゃないですか!今すぐ、そちらに行きますので」
「その必要はない」

 モニターの向こう側で、あわてて立ち上がろうとしたフィッシャーマンの背後に、レナードの隣にいたはずのマテウスが立っていた。

「というわけだ。レナードくん、ユーノ博士のためにもフォルグ文明のデジタル化を急いでくれたまえ」  

「相変わらずの化け物ぶりだ」

 命の恩人とはいえ、人の背後にいつの間にか現れるマテウスの悪癖に辟易したレナードは、消えたモニターに
向かって毒づくと収集文献の分類作業を中止させ、全員に昼食休憩を命じた。

 無限書庫の闇の一角に設けられた館長室と書かれた扉の内側は、桃色の魔力光が支配する異空間だった。
 久々に午後の休暇が取れた白い魔王が、手作りの弁当を携えて来襲したのだ。
 
館長室のテーブルにランチバスケットを置いたなのはは、何か言いたげにモジモジしていたが意を決したよう
にユーノに声をかけた。

「ユーノくん」
「なに、なのは?」

 なのはの持ってきたランチバスケットからハムサンドを取り出そうとしたユーノは、恋人の頬が赤らんでいることに気づくとなのはの言葉を待った。

「あのね。今度の土曜と日曜日、ヴィヴィオがはやてのところにお泊まりなの、そ、それでね・・ユーノくん」
「たまには二人でドライブでもするかい? 今の季節だとチルダ渓谷の紅葉が見頃・・」
「ち、違うの・・ドライブじゃないの」

「じゃあクラナガン301で、買い物しよう。なのはにお似合いのドレスを雑誌で見つけてね。301のハニー
 ビーで売ってるんだ。ドレスを買ったら、夢見亭で食事を な、なのは・・・」

 いきなり抱きついてきたなのはは、狼狽するユーノをぎゅっと抱きしめたまま、声を殺して嗚咽し始めた。
 防音結界を張っているせいで、館長室の外に音が漏れないのがせめてもの救いだった。

「なのは、落ち着いた?」
「うん・・・・」

ようやく落ち着いたのか、ユーノを抱きしめた手を放したなのはは、ハンカチを取り出すと涙の跡を拭った。

「なのは」
「ユーノくんの子供が欲しいの」
 しぼり出すような声で訴える恋人に絶句したユーノに向かって、なのはは、なおも言い募る。
「ヴィヴィオも妹や弟が欲しいって言うし、わたしもユーノくんとわたしの子供が欲しいの。だから、今度の土
 曜日、うちに来てくれないかな」

(レベル3末期の情動衝動の暴発だ・・・)
 なのはの潤んだ目を見つめるユーノは暗澹たる思いに囚われた。リンカーコアバースト症候群の患者が辿る最
悪の経過を恋人が早足で駆け抜けつつあるのだ。

 マテウスの送ってくれた症例となのはの狂態を比較したユーノは、即座に決断した。
(まず衝動を抑え込むには・・・)

「ユ、ユーノく・・」
「愛してるよなのは」

 返事も待たずに口づけしたユーノは、なのはをしっかり抱きしめるとソファーに押し倒すと教導隊制服のタイ
トスカートの裾に手を差し入れた。

「だ、駄目だよ。ユ、ユーノくん、人が来たら・・」
「来ても構わないよ。もう我慢できないんだ。本当は、桃子さんや史郎さんに挨拶してからと・・っ痛い、痛い
 よ。なのは」

 室内に響き渡る平手打ちの音ともに、ユーノから逃れたなのが、涙を浮かべて罵った。
「ユーノくんの馬鹿、馬鹿、馬鹿!」
「なのは・・・」
「こんなところで嫌だよ。ここってユーノくんの戦場だよ。ユーノくんが、こんなことするなんて信じられな
 いよ。時と場所ってものがあるよね。だから、今度の土曜日、私の家でって言ったのに、私の言ってること、
 そんなに間違ってる?間違ってないよね! 少しあたま冷やそうか」

 涙を浮かべていたなのはが、いきなり白い魔王に豹変するとクロスファイアーシュートをユーノに向けた。

「なのはの言うとおりだよ・・・・一族のみんなや桃子さんや士郎さんに挨拶もしないうちに、あんなことして
 なのはの心を傷つけたんだからね。撃ってくれないか」
 自分の胸を指さして、撃つように促すユーノを見た瞬間、なのはは構えを解いた。

「わ、私って本当に駄目だね。ユーノくんの言ううとりだよ。なんでこうなっちゃうのかな?」
「お腹がすいてるからじゃないかな。なのは、サンドイッチ、一緒に食べないかい?」

「じゃあ、玉子サンドちょうだい」
「どうぞ、なのは様」
「にゃはははは、ユーノくん、様付けは反則だよ」

 無邪気に笑うなのはに微笑むユーノの内心は憂いに満ちていた。
(なのはの気持ちを落ち着かせないと、同じ事の繰り返しだ・・・)

 サンドイッチを食べ終わった二人は、館長室のテーブルを挟んで、週末の予定を話し合い始めた。

「子供欲しいのになぁ」
 うるうるした上目遣いで自分を睨むなのはに対して、ユーノは冷静な口調で返した。
「できちゃった婚したら、僕が士郎さんや恭也さんに殺されちゃう」

 一瞬の沈黙の後、我に返ったなのはが小声でつぶやいた。
「そ、それは・・・・無いとは言えないわね」

 愛する娘や妹が、あのフェレット野郎に獣○されたうえにできちゃったされた思いこんだ、父や兄がユーノを
どう扱うか想像するだけで、なのはの背に戦慄が走る。

 道場に連れ込まれた上、父と兄の愛の鞭という名の制裁を受けるユーノ、彼の人柄から言って、できちゃった
の全責任を引き受けて一言も言い訳しないだろう。

 全力全開の士郎と恭也に叩きのめされ、道場の血の海に沈むユーノ。できちゃったのは自分のせいだと、なの
はがいくら言っても、あの二人は聞き入れないだろう。

「だめ、だめ、だめだよ〜 ユーノくん、できちゃった婚は、絶対駄目なの!」
「わかった、わかったから、なのは首締めないで」
「うん、わかってくれたらいいんだよ」 
 
 ユーノを締め上げていた手をあっさり放し、無邪気に笑うなのはに
「今度の土曜日、海鳴市に行って、桃子さんや士郎さんに正式に挨拶するよ。なのはさんと正式におつきあいさ
 せてくださいって」
「ふぇぇぇユ、ユーノくん。で、でも私たち、もうつきあってるんだよ」
「うん、つきあってるよ。それがどうしたの?」
「ど、どうしたって・・・いまさらおつきあいなの?」

「初めて出会った海鳴市で、正式なおつきあいを始めるのってロマンチックだと思うんだけどなぁ」
「それはそうだけど、なんか恥ずかしいよ」

 空になったカップに、紅茶を注ぎながらユーノは、顔を真っ赤にして困惑するなのはに囁いた。
「恥ずかしいのは、僕も同じだよ。なのは」


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目次:翼を折る日
著者:7の1

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