116 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 04:53:23 ID:G0Bx8QRG
117 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 04:54:49 ID:G0Bx8QRG
118 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 04:55:35 ID:G0Bx8QRG
119 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 04:56:27 ID:G0Bx8QRG
120 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 04:58:17 ID:G0Bx8QRG
121 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 04:59:19 ID:G0Bx8QRG
122 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 05:00:28 ID:G0Bx8QRG
123 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 05:28:06 ID:G0Bx8QRG
124 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 05:29:24 ID:G0Bx8QRG
125 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 05:30:34 ID:G0Bx8QRG
126 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/09/12(金) 05:31:15 ID:G0Bx8QRG

旅の標 前編


息が切れる事はなかったが、暑さに噴き出す汗はどうしようもない。
夏である。
山の清風に心地よい時もあるが、どうしようもないほど暑かった。
とはいえ鍛冶場ほどではない。
こけた頬に無精ひげ、白髪しかないような頭と言う、不健康を体現したその男だが足取り軽く歩き続けた。
その手にはただ一輪、真紅の花。道中摘んだものだ。孫娘が、好きな色合いなのである。

山の中であり、森の中。
かなりの距離を歩いたが、途切れる事のない木、樹。
この領内全てが山と言って過言ではないのだから、視界いっぱいが緑になるのは無理なからぬことだった。
多分、山頂から眺める景色が壮観であろう事が、3合程度のここからでも分かる。

目的があってこんな山登りをしているわけではなかった。
鉄を扱う職人と会合し終えた今、この領に来た目的が終わっている。だから後は自由に物見遊山。
ただ、供回りはつけずの散策だ。戻ると娘にこっぴどく怒られる事だろうから、今はとにもかくにもこの緑を楽しんだ。

「は……あ」

視界が大きく開けた。それと同時に、吐息。感嘆が漏れた。
崖。
山の半分も登っていないが、高々としたその場所は周囲を一望できた。
街も見える。人が見えないほど遠いが、街の全容が一目で収まる。
城も見える。城壁高い無骨な造り。戦争の絶えなかったこの地の、かつての領主たちが苦心して築いてきた堅牢の城塞だ。
遠くに山が見え、そのさらに遠くにも山、山、山。
湖や泉の煌めきも、捉えられる。

風が吹いた。
強く、涼やかな風。
緑に染まった景色に奪われた心が、緑の風だ、とささやいた。

「あぁ…緑の風、か」
「緑の風?」

呟きを拾い、復唱したのは女の声。
不意打ちをくらったように視線を移せば、一段下がった場所。女性が一人。
美女と形容して、間違いのない女だ。
旅装束にショートボブの金髪、ほっそりとした印象だがしっかりした立ち振る舞い。
そして、墓があった。かなり古い墓だが、手入れは入念で丁寧になされているらしいのが簡単に分かる。
その墓前には彼女が供えたのであろう花束。

「緑の多い景色ですので、緑の風、と言う形容が似合う気がしたのです」
「緑の風……ですか。良い響きです」

一段下り、男が手の中の真紅の花を墓前にそえた。
孫娘には、また摘んでやるつもりだ。

「まぁ、有難う御座います」
「古い墓ですな」
「はい、百年以上ここからこの領を見守っています」
「それはすごい。御先祖様ですか?」
「私の主様です」
「主様……ですか?」

男の怪訝な顔を相手に、女は穏やかな微笑みで返す。
当惑しかけ、突っ込んで話を聞こうか迷っている男に先んじて女が尋ねた。

「この領の方では、ないのでしょうか?」
「ええ、ずっと南から鉄を売買する道を通そうとここまで来たのです。ここの鉄は質が高い」
「商人……なのですか?」
「ええ、そうです」
「そうですか、てっきり高貴なお人と思ったのですが」
「!」

男が驚いた。
そして間を置かずに豪快に笑う。四十を超えた年齢の、落ち着いた雰囲気だっただけにギャップが激しかった。

「そんな、買い被り過ぎですよ。ただの、商売人です」
「そうですか……しかし、どちらにせよ山にも森にも、魔物も出る事もあります。お一人は危ないですよ」
「なに、これでも昔から鍛え続けているのでね、逃げ脚には自信があるんです。それよりも女性一人の方が、よほど危険だ」
「ふふ、私も逃げ脚には自信がありますよ」
「旅に慣れている様子とはお見受けしますが……」
「ずっと、旅をしています。今日は、旅の報告に帰ってきました」
「その……主様に報告するためですか?」
「はい」
「………」

しばらくだけ、その古い墓を眺めた。
百年。
そう言われて納得はできるほどあせている。それでもなお、老いた墓には見えなかった。
時を止めた慈母がただひたすら子らを見つめ続けるように、この崖から城と街を愛でているような錯覚。

「時間がおありでしょうか?」
「たっぷりと」
「よろしければ、この領の昔話などどうでしょう?」
「おお、それは土産話に是非お願いしたい」

脈絡のない誘いだった。
しかし、墓と関係のある話なのだろう薄く感じながら男が頷いた。



むかしむかしの話。
この領はシャマルと言う女に治められておりました。



「シャマル様」

呼ばれる声に、唇に紅ひく手を止めた。
短く応えれば従者が入ってくる。身は鎧ってある。幕舎の中、軽く化粧施す自身もだ。
就寝ぐらいでしか具足は脱がない。
戦場なのである。

「状況は?」
「攻撃の気配があるようです」
「すぐに出るわ。行きなさい」

従者が持ち場へ戻り、すぐに幕舎を出た。
燦々と太陽が高い位置で輝く時刻。山が見えた。そして、それを包囲する自軍。
山とそのふもと全てを一望できるというわけではないが、二千を超える自軍の半数は目で把握できる位置だ。後方なのである。
即座、麾下の二百のいる場所へ足を運んだ。馬がいた。それに伴う兵士。麾下すべては騎兵なのだ。
湖の騎士団と通称される一隊だ。

「もうそろそろです、シャマル様」
「どう出ると思う?」
「逃げの一手かと」
「この首に突っ込んでくる事は?」
「無駄ですな。我らがおります故」

二代前から戦い続ける古参の騎兵と喋っている間も山から目を外さなかった。

纏まって山へと逃げた敵軍の退路を断って三週間を過ぎている。
兵糧は尽きないまでも、山の中で心は折れているだろう。耐えられず攻勢に出てもおかしくない。
現に、山に動きがある。
際立って目がいいというわけではない。木々が生い茂る山は、ただ泰然とそびえるだけだ。
しかし、山を下りてくる人間の気配―――

「乗馬」
「シャマル様…我らはもう必要ありますまい。どうかここで決着を見届けていただけませんか?」
「聞こえなかったのかしら」
「……了解しました」

一声、麾下全てに発進準備の令を下すが、誰もが是とする雰囲気ではない。
そもそも主が戦場に出る事さえ不安があるのに、攻撃に参加するとなると言語道断だ。
家督を継いで以降、半分以上の戦地に自ら赴いて指揮を執っている。
無論、武官文官を問わず臣下からは猛反対を食らった。いや、今なお戦場に出る事は渋られてる。当たり前だ。
麾下二百はこの地の最強を誇ってはいるが、戦場では何が起こるか分からない。
しかし前線に出ている。

一糸乱れぬ動きで二百が乗馬したのと、山に変化があったのはほぼ同時だ。
山の中で十人、二十人とばらばらに動いていた小さな集団が、ふもとの一点で姿を現しながら纏まり、逆落としに攻めてきた。
百が二百になりながら、二百が三百になりながら、どんどん圧力が強くなっていく。
布陣していた自軍の兵は二百やそこらだが、上手く後退したり横によけたりして緩く逆落としの威力を受け止める。
そして、突破される前に他の場所を閉鎖していた味方が集合して防御の厚みを増していく。

さらに四百、五百と敵の兵が山から突っ込んでくる。山にこもった敵の全兵力は七百といくらだ。あと少しで全てが下りてくる。
総力はこちらが圧倒的に上だが、山の反対側にも兵を配置しているので始まった今、半分ほどの人数が無駄になる。
敵の七百が一丸となってこちらの防衛に切り込んでくる。一寸だけ敵と味方が拮抗した。
一寸だけだ。
七百の敵兵がこちらの防御を破って明後日の方角へと駆け抜ける。逃げの一手だ。

「発進」

敵の七百を味方が追撃するのが、まだ遠いながら見える。
すぐにおかしい事に気づいた。
逃げる六百ほどと、踏みとどまっている百ほどに敵が分かれている。
百は決死隊だろう。残りを逃がすために死に物狂いで剣を振り回しているのが見えた。そして、その覚悟に自軍はひるんでいる。
いや、それだけではない。百の中に七百を纏めていたリーダーがいる。
リーダーを殺させまいと、周囲の者が実力以上の力を出しているのだ。あれでは五百の兵をぶつけても逆に貫かれかねない。

すぐに現場の指揮官が五百程の兵を半分に分けた。
決死隊を避けて二方向から、逃げる六百の敵を追うが驚いた事に百の決死隊はたった一度の突撃で一方を粉砕してのける。
さらに敵の六百がいったん逃走を止めて自軍の追撃を受け止めた。
いくらかの人数を削ったが、逃げの態勢だったくせに思いのほか粘りのある防御だ。そして、決死隊百とはさみ撃つ。
半分に分かれていた五百が再び纏まれば、百人近く減っていた。
さらに後方から味方が到着するが、六百が遁走に専念せずに防御もキチンと行うに当たり決死隊に切り裂かれている。
無茶苦茶な強さだ。たった百名に、自軍の七百が良い様に振り回されている。

ぐんぐんぶつかり合いの現場が近くなる。敵のリーダーと目があった。どちらも先頭なのだ。

「シャマル!!」

怒声も聞こえる距離。
片手の剣を麾下全員に見えるように動かして騎兵全員に指示を下す。
敵の決死隊百名とぶつかる寸前に方向を変えた。逃げる六百にぶつかる。
腹の据わった防御だ。逃がす決死隊百だけではなく、逃げる六百も命を燃やしている。
しかし、ここまでだ。
麾下二百の騎兵は止まらない。一撃で六百の敵兵を真っ二つに立ち割った。
二つに分かれた六百、決死隊の百が補い合おうとするより早く、反転を終えて再び二百の騎兵が敵に突っ込んだ。
守ろう守ろうと行動する決死隊百は、割れた六百のために盾になろうと立ちふさがる。
しかし六百の敵兵は散り散りになって潰走の体だ。
自軍の歩兵がさらに追撃を仕掛けようとするが、それを止めた。

「決死隊を包囲なさい」

百ほどの決死隊は、最後の最後まで牙をむき出しに戦い続けた。



死屍累々。
結局、百の決死隊が生き残る術などなく殺し尽くされた。
残りは一人。
七百を率いていたリーダーの男だけだ。
仲間の屍を超えて、ただただシャマルの軍に剣を振るう。
その顔は目が飛び出ているように見え、頬はそげ落ちている。
数百の仲間の命を預かりながら三週間も山に閉じ込められては無理なからぬ様だ。

「殺す……殺せ…殺す…殺せ…殺す…殺す…」

呪詛のように髑髏めいた顔から言葉が漏れる。もう壊れかけているが、救いはあった。
六百に届かずも、おそらく四百ほどの仲間を逃げ延びてはいるのだ。命を使っただけの、人数だと信じている。

「良く戦ったわものね」
「シャマル…! シャマル! シャマル! シャマル!」

一騎で前に出たのを皮切りに走りだそうとして転んだ。鬼のように戦った後だ。とうの昔に死線を踏み越えている。
残った命の灯はろうそくの火よりも儚い。眼を閉じて意識を失えばもう二度と起きる事はないだろう。
それほどに、戦った。
ありったけの負の感情を込めたリーダーの男の視線を、美しい両目で受け止めた。澄んだ湖のように綺麗な双眸だ。

「シャマル…!」
「どうしたのかしら、憎い私がすぐそばにいるのよ。さっさと斬りかかるなりすれば良いわ」
「ふざけるなよ……化粧だと…」
「あなたたち程度、化粧しながら殺し尽くせるという事よ」
「貴様…! シャマル! 侵略者が…!」
「…首を打ちなさい」

例えば何か気の利いた遺言でもあるかと期待していたが、結局は憤怒の声しかなかった。
馬の頭を返しながら、怨嗟の怒号が背を叩く。それもすぐになくなった。

「全軍、帰還します」



山と森が美しいこの地を侵略に来たのはシャマルの曽祖父だった。
国から賜った命令で、山連なる一帯を支配下に起き豊富な資源を物にしようとしたのだ。
土着の山の民、森の民は戦い抗った。
結局、代を跨いでシャマルの祖父が原住民を叩き伏せ、国の領として各部族を従わせるに至る。
そしてシャマルの父、シャマルに代が及ぶが、それまでに仕えていた国は滅び、シャマルはベルカの中の群雄の一つと位置づけられた。

しかし多数いた豪族全てを完璧に平らげたわけではない。
早くから帰順した部族もあったりするが、全部が全部、この侵略者に屈したわけではない。
シャマルに至るまで、何度も反抗の軍を組んで攻撃を仕掛けてきている。

全て、叩きつぶした。

今回の騒動も、そんな抵抗だ。
逃げた抵抗の徒を追うのも無理だ。かなりの部族にはシャマルに対する憎悪の念が大きかれ少なかれある。
侵略者がやってくる以前はいがみあっていた部族間であれ、きっとシャマルに牙をむいたと言う一事だけでかくまってくれるだろう。
人が隠れるのならば人の中だ。それをあぶり出すのは無理だろう。
それをする手間よりも、一つにまとまって攻撃を仕掛けてくれた方が手っ取り早く大人数を潰せる。
しかし、「シャマルに対抗できると」と期待された輝きを一つ殺したばかりだ。当分、抵抗はなりをひそめるだろう。

「戦勝おめでとう御座います」
「馬鹿ね、民を殺しておいてめでたいはずがないでしょう」

城に帰還して早々、何人もの官吏に捕まり一言述べられるがその全てに冷たく返す。
そして、そのまま戦中にあった重要な報告をその場で聞いた。
謁見を待ったり、会議を通すのも時間がもったいないと言わんばかりの態度である。
新参の臣下はひるんだりするが、長く仕えている者たちにとってはすでに当然となっているやりとりだ。
長く仕える者と言え、十年ごしがせいぜいである。官吏の大人数が、若い。
各部署の代表と言った年長でさえ四十歳をいくらか超えた程度だったりするのだ。

祖父の時代からいるような、古い臣下のかなりの数を城の外に出しているからである。
経験豊富な彼らを原住している部族たちの所へ送り、監視と同時にこちらの政治を強く施させている。
特に、原住していた民族とこちらの血をできるだけ混ぜるように尽力してもらっていた。
そして、若い文官を多数取り入れてこの領を若返らせているのだった。
早くに帰順している部族出身の若者なども採用して政治に携わらせたりと、根底からこちらになびくようなメリットも作っていた。

さらに良質の鉄が出るこの地である。いや、鉄だけではない。
シャマルの祖父の時点で、各方面の豪族連中の仲介をして質の良い資源を領の外に売り、その利益を彼らに還元している。
銭を通して損得を勘定できる多くの土着の民と、それなりの関係を確立してあるのだ。かなり甘い汁を吸わせている。
永劫にシャマルたち支配者と原住の民族は一枚岩とはなるまい。しかしそれでも利害を一致させていれば大きく反目しあう事もないだろう。

「おう、帰ったか」

執務室まで戻る折り、豪奢さはない堅牢のみを考えた石造りの廊下での事。
城主に対するものとは思えないほど気楽な声がかけられた。供回りの者もハッとなるが咎める事はない。咎める事も出来ぬ人物なのだ。
振り向けば、仙人じみた老人がいた。
枯れ木のような風体で、線のように細った双眸は閉じられているよう。
低い背丈なのに腰が曲がっているせいで豆のようだ。強固な造りをするために大きい城内の中、それがさらに強調される。
しかしながら、吹けば木の葉のように飛んでいきそうなほど軽い外見なのに、その気配はそこいらの軍人よりも重厚だった。
丁寧に礼をすれば、歩調を合わせて並ぶ。
シャマルの先生なのだ。どれどころか、シャマルの父の面倒も見ている。祖父の友人だ。

「ただいま帰りました」
「また教会から使者が来とったぞ」
「留守を狙ってですね。面と面向かい合って出頭を促すのが恐いのでしょう」
「攻めてくるかのぉ、教会」
「間違いなく」
「いくらか教会の動向が入って来ておる。そうさな、湖まで行って話し合おうか、三人で」
「はい」

執務室まで同行した時点、ふと気づけば翁の姿は跡形もなかった。
まるで最初からいなかったかのような消え方だが、いつもの事だ。
供回りの者はそこまでで止まって警備につき、扉を開けた。
殺風景な部屋だ。うず高く積まれた書類ばかりが目につく仕事部屋。

人が一人、待っていた。
暑くなってきた時期にも関わらず幾重ものローブを羽織り、フードで顔のほとんどを隠し、さらに、仮面。
手套も長い物を着用し、一切の素肌を見せぬ怪人である。
ただ、その双眸のみが外界をつなぐ唯一だ。無感動な左目に荒んだ右目。

「ただいま帰りました。報告を致しましょう」

恭しい礼に応えるように、怪人がその仮面を外す。



聖王教会。
ここ最近、急激に勢力を伸ばしてきたのがこの一党だ。
各地に強者がひしめき、群雄割拠の様相を呈するベルカでもひときわ異色の集団である。
理由は単純。あまねく困窮の民草に救いの手を伸ばすのだ。

あらゆる土地の英雄が軍事に力を注ぐこの時代、下層の者たちに理不尽に降ってくるそのしわ寄せは大きなものだ。
それら不満を持つ者たちを宗教で纏め、さらに軍事力さえ有したのが聖王教会である。
その動きから、各地の統括者からは煙たがられる一方、群雄に押しつぶされそうな弱い権力者に助力したりもしていた。
要するに仁愛を旨とした一党と言う事である。

さらに各地の異能の者に対して行動をしている事も評判を後押しするのだ。
あるいは、あらゆる場所で迫害を受ける異能の業遣いを保護し、その能力を活かしてやる。
あるいは、魔王と呼ばれる人外の力を使う覇者に戦いを挑んでこれを退治する。
かなりきわどい戦いを繰り返しながら、着実に聖王教会は強くなり、今では各国で油断ならぬ相手として注意されていた。
その一方で下々人気の高い一党なのだ。

教会は分かるとして、聖王と言うのが良く分からないというのが大多数の意見であるが、
聖王教会の指導者の一人に座す預言者が曰く、戦乱のベルカを治めるべく未来に現れる尊い存在、らしい。
聖王教会とはその聖王とやらを迎える集団と言う事だ。
人集めのためのアイドルやシンボルの類いだろうとシャマルは鼻で笑う。
ちなみにこの預言者と言うのが、聖王教会が設立する以前から有名な詩人だったらしいが詳細は不明だ。

そんな聖王教会から、シャマルへと使者が何度も来ている。
簡潔に向こうが言いたいのは「魔女シャマル様へ、その土地をもともといた人々に還してあげなさい。言う事聞かないと攻めちゃうぞ」とこう言う事だ。
二度、使者に謁見を許したが厳しく突っぱねた。
以降来た使者はシャマルの留守であったり、謁見を許可していない。
再三の警告を無視、おそらく攻勢に出ておかしくない時分だろう。

なにせ、シャマルは魔女であるというのが専らの噂なのだ。

「失礼な噂ね」
「カカカカ、なに、なに…実際は的を射ているじゃろうに」
「…そうですね」

翁は笑うが、シャマルは素っ気なく返しただけだ。
ギ、ギ、と船を漕ぐ音。小船だ。湖の上なのである。城から馬で三日、領のかなり深い位置だ。
ほとんどの者の立ち入りが禁止された区域にひっそりと存在する湖。

翁とシャマル、そしてローブとフードと仮面身に纏う怪人物の三人である。
操舵をするのは一言たりとも発さぬ怪人。翁とシャマルは船の縁にもたれかかりながら話をしている。
戦争の話だ。
聖王教会のああいった通告はなにもシャマルにだけ来ているわけではない。
各地の義に反する有力者にそこそこ送り届けられている。
数代前とはいえ、地元の者たちに憤りの残るこの領を教会が奪還してやろうというのは当然の成り行きに見える事だろう。

しかしシャマルと数人は即座に聖王教会の真の狙いを悟る。
いや、おそらく何十人も存在する群雄のいくらかも、その実体を掴まないまでも何かを悟っているだろう。

船が止まる。
静かな湖の上。中心だ。遠めの岸には深い森の緑ばかり。いや、蒼い毛並みも見える。動物だろう。

シャマルが左目に指を突っ込んだ。ずるりと抜きだされる。義眼だ。
それを、無造作に湖に放りこむ。
ちゃぷ、と控えめに義眼が水の中へと沈んでいけば、湖が起動する。
シャマルを囲むように湖中より伸びた細い光線がいくつも、ホログラムのウィンドゥを結像させていく。
多面が虚空に展開され、領内の詳細な地図や物の流れや金の流れ、さらには人の流れまでが緻密な情報として示される。
紙面には到底おさまりきらぬ情報の森。しかしそれをその場にいた三者は正確に把握していた。

ミーミル・システム。
オリジナルは泉を媒体とした超巨大データベースだが、この領に備えられたミーミル・システムは湖を用いている。
あまたの情報を記録、その分析や解析、編集ができるとても便利な書庫と言うわけだ。
紙を扱うこの時代、破格の情報の貯蔵庫として活用されていた。
代々、起動の鍵として設定した左の義眼を受け継いでいっている。

この地の物はシャマルの祖父が発見、利用したのが最初だ。現地住民さえこのシステムの存在を知らなかったようだった。
そしてシャマルの祖父はこの湖を一級の防衛対象としたのだが、
それを受けて「この湖をこちらの物にする事が有利」と判断した当時の豪族たちが湖の奪取に連合する。
シャマルの祖父はそんな動きに、ミーミル・システムに納まっていた土地の情報を最大限活用して、これを撃破した。
森や山しかないこの土地で、はじめて騎馬を決定打にして文句のない快勝を飾った戦いだ。
森や崖を馬で超え、湖へ攻めいる豪族たちを神出鬼没に撃ち殺したシャマルの祖父は以降、湖の騎士として称えられる。

それから家督を受け継ぐ者たちのみがミーミル・システムを秘中の秘として利用し、土地の情報を徹底的に頭に叩き込む。
そんな領主たちが騎馬隊を編成、そして自身で指揮を執り、進軍できると思えない森や山を疾駆して鮮やかに戦場を駆け抜けるのだ。
彼らの戦闘の才能と、ミーミル・システムに隠された土地の情報を合わせた結果である。
代によって総員五十から四百と変動するが、これこそ湖の騎士団と呼ばれる騎兵隊の正体だ。
シャマルの父には戦いの才がなく、長く出動がなかったのだがシャマルに代が至り、湖の騎士団は一躍最強の声を取り戻す。

教会の狙いは間違いなく、この湖。ミーミル・システムだ。
翁がこの地へやってきたのも、ミーミル・システムについて調べるためだ。一つ、作りたいものがあるらしく参考にしたいと言っていた。
他の地のミーミル・システムは破損がひどかったりするらしい。
祖父と絆を結んだのは、彼らが単純に気に入りあっただけに過ぎない。

「師父、教会の蓄え、あとどのくらいで取り戻りますか?」
「1年以内」
「時間がありませんね」
「残ってる時間、どう使う?」
「領の外の情報を直接集めて、出来る限り領の外に呼びかけもしておきます。教会が相手なら、近隣の領主も手を貸してくれるかもしれません」
「それは分からんぞ。教会に手を貸すかも知れん」
「それならそれで、仕方ありません」
「外にはどちらが行く……と、聞かんでも影の方か」
「ええ」

シャマルがそちらを見もせずに仮面の怪人を指す。
影。
そう呼称されるこの怪人は、城内ではほとんどシャマルから離れず影のようにつき従う。
五年前、シャマルが22歳の時に「拾ってきた」と紹介した時から欠片も素肌をさらさない風貌は変わらない。
シャマルの影武者か、とささやかれたのを見計らい、重臣の集まりで仮面を取って見せた。
酷い火傷で顔面が爛れきり、男か女かの判別もつかぬ程におぞましい容姿にその場にいた全員が声を失った。
五年の間に、このような噂が二度立った。影と呼ばれる怪人はその都度、仮面を取って身の毛もよだつ面貌をさらしている。
以降、陰口が絶えた事はない。

「教会はどのくらいで攻めてくると予想しますか?」
「そりゃ、将兵が誰かに依るがな、一万数千ぐらいかのぉ」
「大軍ですね」
「そのくらいないと天嶮のこの地を落とせんよ。お前のじいちゃんが、五千で暴れまわった方がおかしいんじゃ」
「ミーミル・システムがありましたから」
「見つかってない時点ですでに暴れまわっておったわい。お前のじいちゃんはなぁ、そりゃあ強かった」

ホログラムのコンソールをいじりながらシャマルが一つ、過去のデータを浮上させる。
祖父がミーミル・システム、つまりこの湖を守備した時の詳細だ。
森が深いこの位置、八百人足らずで見事に防衛を果たしている。
森が深すぎて、攻めも守りも千人単位を動員できない。
そして、そんな森を騎兵で駆けたというにわかには信じられない話と言うわけだ。

「これ、本当ですか?」
「おう、こっちにも兵を裂く気か」
「おそらくそうなると思います」
「ならば立ち入り禁止の区域も開放する事じゃな。そうせんと二千配置せんとどこかが突かれる」
「本当に、湖のみ守るようにするならば千人も必要ないという事ですね?」
「そうじゃ。むしろ邪魔」
「そのようにしましょう。しかし、そうなると禁止区域を知ったものが指揮しなければなりませんね」
「わしか影じゃろう。影の時は仮面もとらせてやれよ」
「それはあくまで最終手段です」
「教会は甘くないぞ」
「なら、そろそろミーミル・システムを参考にした作品とやらを早々に完成させる事です」
「あと少しじゃ。なに、開戦までには終わる」

ニッカリと、まるで子供のように笑う翁にシャマルが目をそらした。
眩しい。
心底から自分のしたい事のためだけにこの地で何十年も生活し、
そしてそれが終われば未練も何もなくこの地を去るであろう事が疑いない翁の自由な魂が眩しい。

今度の戦いが終わればきっと自分も……

「あぁ…旅に出たいわ」

淋しげな呟きは無意識に零れた。



七百の反乱を平定して二週間が過ぎる頃合い。
戦後の処理が終わり、滞っていた商人の出入りが順調に戻ったりと外見上、平和に戻ろうとしていた時分だ。
もちろん、逃げ延びた反逆の徒に厳しい取り締まりを行ったが広いこの領である。全てを逮捕できていまい。
大多数が領外に逃げた気配もある。そして、大多数を領外に逃がした気配もある。
逃げた先は十中八九、教会だろう。
四百が全員がたどり着いたとは思えないが、教会がシャマルに攻撃を仕掛ける時、百でも二百でも道案内がいれば成功の率は大きく上がる。
シャマルの強みは、あくあまで領の中で機能するのだ。
熟知した山と森での山岳戦。
森さえ走破して襲いかかってくる騎兵。
領の外にいる者に対して、その力は極端に鈍る。故、追えないし、追う気もない。教会がこちらに攻撃を仕掛けてくる事は、むしろ歓迎なのだ。

頭の片隅でそんな思考をしながら、一人、執務室で書類を捌いていた。
もうすっかり夜が更け、灯に頼って文字を読むばかりだ。

ふと、風が吹いた。
いつの間にか窓が開いている。

「…?」

不審に思い、部屋を見渡したが、そも人の隠れる場所などないのだ。
無論、誰もいない。ゆるりと椅子から離れて、窓辺へと一歩。

「!?」

衝撃が背中から響く。
鋭い痛み。刃。

「な…に!?」
「馬鹿な…!」

背後に、いた。女。いったい何時の間に現れたのか、まるで気配がなかった襲撃者。
同時に、襲撃者も目標の背を貫きながら驚愕の声を上げていた。

「貴様…人間ではないな…?」
「く…」

襲撃者が再度首に刃物を突き立てるが、膝をつきながら見ているしか出来なかった。体が動かない。毒だ。
手ごたえが、人間のものではないと悟ったのだろう。
襲撃者の女が手練だと、首に嫌な感触が走る中で認識する。ふつりとそこで意識が途切れた。
即座、襲撃者がほのかな光に包まれる。その足がずぶりと石造りの床に沈みかけた瞬間、

「!!」

背から胸を貫く手。
手套に隠れた手が、自分を貫くのを襲撃者は見た。その手には輝き。リンカーコア。

「な…が…!?」

未知の激痛に言葉が詰まる。胸を貫かれているが、それが痛んでいるわけではない。
どこが痛いとか、どれほど痛いとか知覚できない類のダメージだ。
膝まで沈みかけていた足がすぐに押しだされるように浮き上がり、立たされる。
後ろ。
ローブ。フード。仮面。影と呼ばれる怪人の姿。
すと、襲撃者が見える位置に貫く方と違う手が伸ばされた。
手套がされた五指のうちの三つに指輪。それに備えられた宝石が煌めけば、

「起きなさい」

仮面から声が聞こえた。
血だまりに伏す、今しがた殺したばかりの人物がそれで起き上がる。

「ば…か……な…!」
「申し訳ありません、シャマル様」
「構わないわ」

仮面が放られた。現れた面貌は、シャマルだ。
そして、襲撃者に殺され、生き返った方も…シャマルだ。
まるで見分けがつかない。違いと言えば、化粧ぐらいなものだ。

「な…ぜ…ぇ…」
「影武者よ」
「や…」
「火傷? 仮面をした人間よ、いくらでもごまかせると思わないかしら」
「ご…ごろ…じ…」
「ええ、殺されたわ。だから本物が来たの。殺されたアレも、あなたと同じ異形よ。復元機能と言うらしいわ」

もがき、あがく襲撃者だが脱出は無理だった。
リンカーコアがきしむ音がした。襲撃者の体が一度だけ痙攣すれば気絶する。

「教会のお客様におもてなしをしなければいけないわ。用意なさい」
「はい」

シャマルがシャマルに命令を下す。
いや、片方は影だ。翁がミーミル・システムから生み出そうとしている物の副産物。
22歳のシャマルを生き写した、復元機能を有するプログラム。
シャマルの姿をした、影である。



襲撃者から聞き出せる事を絞れるだけ絞り取り、心を壊した後に城内の官吏を収集、その前で首を刎ねた。
シャマル、影、翁、そして事情を話せる古参の臣下で襲撃者をさらした時の場の人間の観察をしたのは、どうも暗殺者が一人だけではないようだからだ。
若い人材を広く大きく採用しているでの、内通前提で仕えている者も多数いるだろう。それはまだ想定内だ。
暗殺者についても、何度も甦る影武者と言う手は打ってあるのだが、流石にそれが無機物を透過する異形などならば考えがいる。
翁を中心として、代々続く戦いで手を汚している家臣も何人か怪しいと感じた官吏に目星をつけた。
無論、即刻手を出さずに一人一人丁寧に様子を見るつもりだ。

「疲れたわ」

執務室。憂鬱に、シャマルが吐息を漏らした。
ローブとフード、そして仮面で完全に身を隠した影は応えず黙してただ茶を差しだした。
シャマルが影のふりをしている時でも、影がシャマルのふりをしている時でも、仮面をする者は言葉は使わぬ決まりだ。

「旅に出たい…」

淹れられた茶に目もくれず、窓の外をただ見つめた。青い空だ。広い空だ。
夢心地の色に染まったシャマルの右目を見て、影はただ主君の心労に胸が締め付けられる。
襲撃者の拷問は全てシャマルがした。
古株の信頼できる臣下に話をした時には、もう襲撃者は生きながら死んでいたのだ。
拷問など、好む者はいまい。

暗闇に閉じ込め、数日飲食を抜く。
時間の感覚を狂わせて、一人で闇を噛みしめさせた。
両手両足の骨を砕いて、クラールヴィントまで使った捕縛だ。流石に逃げられなかった。
不定期に様子を見て、すぐに去るを繰り返してシャマルが来る事を望むようになるまで待つ。
食料と水も与えるが、最初は頑なに拒んで餓死しようとしていた。結局、ギリギリの所で襲撃者は食った。
死にたくないと、思ってしまったのだ。そこが始まり。
一定のリズムを刻んで額を木の枝で叩く。それだけ。
あるいはすぐ終わる日もあるが、あるいは何時間も執拗に打ち続けた。同じ質問を何度もした。
返ってくるのは同じ答え。しかし本当の事を言っているが、まだ全部ではない。
洗いざらいを吐き出し始めたのは、死にたいと思い始めたから。それでも額を一定の間隔で打ち続けた。
同じ質問を繰り返す。返ってくる答えは同じ。しかし終わらない。
返事をする声がおかしくなってくる。奇声で笑い始める。長く尾を引く悲鳴をあげる。
全て、シャマルは一人でやった。何度も影が代わると申し出ても冷たく拒んだ。
最初に孤独や飢えを叩きつけたのを含めればほぼ一月かかった。
襲撃者が自分の名前も言えなくなればをそれで用済みだ。

やっただけ、シャマルの心もいくらか壊れた。
まだ修復できる壊れ方だ。やられた方は、治らない心の壊れ方。

陰の差すシャマルの顔が少し上がる。仮面の奥にある影の澄んだ両目を見据えた。

「旅に、出たいわ」

シャマルがそっと、影の仮面を外した。
シャマルと同じ顔が現れる。仔細に見れば、無論影の方が若い。それも、化粧で分からなくなる程度だ。

「今度の戦いが終われば、シャマル様は自由です」
「死ぬのね」
「私がシャマル様として戦中に死んで、それで自由です。旅に…出られるのです」

シャマルの手を手套した手が握り締めた。戦場で馬に乗り、並みの兵よりも力強く剣を振るうはずの手は今はか細く感じてしまう。

企みは十何年前からあった。動きだしたのは五年前。
死して復元するこの影武者が翁より紹介されてシャマルは思った。
戦場でこの影武者の死を見せ、自分は何もかもかなぐり捨てて旅に出よう、と。
翁の旅の話を幼いころから聞いていた。
家督を受け継ぎ、この地を治める事が使命と思い定めながら世界を見聞したい欲望はくすぶっていたのだ。
それを察してか、翁は祖父の代から作成に心血を注いでいる物の流用を呈してくれた。
久方ぶりに涙が出たものだ。
それからシャマルは自分がいなくなっても機能するように政治を整えていく。
自分に憎しみを集中させ、古い家臣は領に散らばる各部族の所で血を混ぜる。
もっとも、こうやって古い家臣を遠ざけるやり方は父の代が最初だ。いろいろな施策を、死んだ父から残されている。
そして、最終的に自分がいなくなった後は祖父の兄弟だった血筋に任せればいい。
ミーミル・システムはあってもただの湖に成り下がる。
後は教会を退け、なおかつ自分が教会に殺される事だ。

「影」
「はい」

唇を奪われた。頭を掴まれ、腰掛けるシャマルと同じ高さに無理やり引き寄せられたのだ。
たっぷりと長い時間、舌を吸い合って粘った水音が場を満たす。
何度か、シャマルが喉を鳴らして唾液を飲んだ。
口づけたままローブの隙間にシャマルの手が滑りこむ。辿りつく先は影の胸だ。
舌が絡みうまま、柔らかな乳房をもみしだいてその感触をシャマルが楽しむ。

「たくし上げなさい」
「はい」

淫靡な唇が離れれば影がローブをまくりあげてその股間をさらした。
座ったままのシャマルがそっと指を這わせて茂みを弄ぶ。
腿を撫てから無遠慮に膣に突っ込んだ。影が強張るが乱暴に中をかきまぜる。
しばらくは、歯を噛むだけだった影だがすぐに色っぽいうめき声が漏れ始めた。
ある意味で自慰だ。快感の壷が分からないはずがない。

「ぁ…シャマル様…」
「シャマルはあなたよ」
「わた…私は影です」
「でも、シャマルだわ」

内腿が閉じてしまわぬように健気に脚を震わせながら影がどう答えていいか分からず困惑する。
シャマル自身、疲れているのも手伝ってあまり深く考えているわけではなかった。
しとどに愛液が腿を伝っていくのを眺めながら、さらに強く膣襞をこすりつけた。

「うぅん…」

うっとりと潤んだ影の双眸と嬌声の後、影が達する。
腰が震えて、床に溜まるほど濡れそぼらせた女陰が、痙攣で放してしまったローブで隠れてしまう。

「抱き締めさせて」
「…はい」

余韻が壊れぬように優しく影を抱きしめながら、シャマルはその体重を心地よく思う。
うとうとと眠りに落ちてしまいそうになる意識で、やはり自然と言葉が零れた。

「旅に出たいわ…」




次へ?
著者:タピオカ

このページへのコメント

あ、やっぱり貴方だったのか。

0
Posted by    2009年06月15日(月) 19:11:22 返信

こちらの話を、ArcadiaというSS投稿掲示板の方で続きを書こうと思います。

0
Posted by タピオカ 2009年06月13日(土) 16:57:01 返信

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