167 歪んだ素直 02 01/06 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/01(火) 06:59:25 ID:8Ag4ADem
168 歪んだ素直 02 02/06 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/01(火) 06:59:52 ID:8Ag4ADem
169 歪んだ素直 02 03/06 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/01(火) 07:00:12 ID:8Ag4ADem
170 歪んだ素直 02 04/06 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/01(火) 07:00:37 ID:8Ag4ADem
171 歪んだ素直 02 05/06 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/01(火) 07:01:25 ID:8Ag4ADem
172 歪んだ素直 02 06/06 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/01(火) 07:01:46 ID:8Ag4ADem
172 歪んだ素直 02 06/06 ◆kd.2f.1cKc sage 2008/04/01(火) 07:01:46 ID:8Ag4ADem

「それじゃあ、お先に失礼するね」
 ユーノは、自らが駆動させていた検索を全て終了させると、席を立つように、その空間
から移動を始める。
「お疲れ様です」
 司書の1人が、移動を始めるユーノに向かって、声をかける。
「この所、定時にお帰りになられてますね」
「ああ、うん……」
 この無限書庫、某黒提督から依頼が入ると阿鼻叫喚の地獄絵図を呈することで有名だが、
何も365日いつでもインパールもかくやなデスマーチが高らかに鳴り響いているわけでは
ない。
 が、ユーノはと言えば、誰も止めないといらない残業をいくらでもする。いや、無限書
庫の探索なので、不要かと言えばそうではないのだが、度が過ぎているのだ。
 自己犠牲の精神は立派だが、ここまで来ると逆に大きな迷惑となってしまう。
 かくして無限書庫でユーノに近しい司書には、“ユーノを宥めすかして休みを取らせる”
という非公式の職務が追加されていた。
 しかし、ここ1週間ほどはその、ユーノのワーカホリックじみた行動が形を潜めていた。
 しかも、これまで仮眠室が居住所だったような生活から一転、わざわざクラナガンの自
宅まで帰っていると言う。
「ひょっとして、恋人でもできましたか?」
 ビクッ
 その言葉に、ユーノは一瞬だが、背中を跳ねさせた。
「そ、そんなんじゃないよ……からかわないで欲しいな」
 ユーノは苦笑を取り繕って、棒読みになりがちな口調で言い返した。
「ははぁ、さては図星ですね?」
 しかし、件の司書は、ユーノを見てニヤニヤ笑いながら、そう言う。
「で、相手は誰です? やっぱり高町一尉ですか?」
「本当に、そんなんじゃないんだったら」
 司書の追及を拒むように、ユーノはそう言ってから、無理にその場を離れようとする。
「そ、それじゃまた、明日ね」
「はい、お疲れ様です」
 逃げ出すようにその場を後にするユーノに、司書はニヤニヤと笑ったまま、そう返事を
した。

「さすがに、愛人囲ってますとは言えないよなぁ」
 未婚の身空で愛人もなにもないのだが、少なくともユーノの中での認識は、現状は褒め
られたものではない、ということになっていた。
 転送ポートからクラナガンへ、地下鉄を少し乗り、自宅の最寄り駅で下車する────
「…………」
 ふと、駅から地上に出た所で、その足取りが軽い事に気付く。
「僕、は……」
 そもそもユーノにとって、自宅とは記号のようなものでしかなかった。
 出身は流れの民族であり、一定の地に根ははらない。だから、“Home”とは構成する人
間の事であり、“House”とはただの建物の種別に過ぎなかった。
 彼にとってはじめて定住し、枠にはまった“家族”というものを知ったのは、高町家で
過ごした僅かな時間だけだっただろう。もっともそこでの彼の扱いはペットのフェレット
でしかなかったが。
 無限書庫詰めになって自宅というものを持ってからも、そこは住所を得るための便宜的
な存在に過ぎず、生活のほとんどは本局内の無限書庫とその周囲で済ませていた。
 逆に言えば、家に1人でいる事は落ち着けず、精神的に辛いものでさえあった。そもそ
もプライバシーというものをあまり抱え込まず、無限書庫がプライベートの場ですらあっ
たのだから、別の空間にいて落ち着けるはずが無い。
 19歳の青年の生き方ではない、と言う人間もいたが、だからといってユーノにはどうし
ようもない。それ以外の生き方を知らなかったのだから。
 だが。
 それまで、儀式的だった自宅へ歩む足が、この所は軽い。
「…………」
 ふと、顔を上げる。
 繁華街というほどでもないが、道路の両脇には商店が並んでいる。
 ユーノが目に止めたのは、1軒の小ぢんまりとした、個人経営だろうブティックだった。
 少し古びた、しかしガラスの磨き上げられたショーウィンドゥには、黄色いワンピース
のサマードレスが飾られている。
「ティアナに似合うかな……」
 ふと、そんな事を考える。
 衣服は生活必需品である。別に何かイベントが無ければ買い与えてはならないというこ
とはないだろう。
 しかし、ユーノはやがて、顔を険しくする。
「今の彼女じゃ、曲解するよな……」
 曲解とは少し違うな、と、ユーノは自分で自分の呟きに訂正を入れる。
 今のティアナに必要なのは、物ではなく、心を解く事……ユーノはそう思い返すと、歩
みを再開し、家に急ぐ。
 その歩みは、いつもの、儀式的なものに戻ってしまっていた。

 ユーノのマンションの自室からは、照明の明かりが漏れていた。
 中には人がいるのだから、当然といえば当然である。
 だが、玄関のドアの鍵は開いていなかった。だが、それも別に、不自然というほどでは
ないだろう。
 ユーノはポケットから玄関の鍵を取り出し、開ける。
 扉を開けると、玄関は暗かったが、LDKの照明は点いており、人の気配があった。
「ただいま」
 ユーノは玄関を上がりつつ、そう声をかけながら奥に入る。
「お帰りなさい、スクライア司書長」
 答える、隻眼のティアナ。
 彼女はキッチンの調理台の前にいた。手には包丁。
 最初にこの光景を見たときは、ユーノは慌ててティアナを制止した。
 ティアナが自殺しようとしていたように見えたからだ。
 よく考えるまでもなく周囲の光景、それにティアナの格好を見れば、それは違うと判断
できたはずなのだが。
 ティアナは黒のジャージのズボンにTシャツという格好の上から、エプロンを身につけ
ている。少なくともこれから自殺しようという人間の格好には見えなかった。
 大体、レンジに鍋をかけたまま自殺する者はそういない。
 ────それに……
 ユーノは思い、軽くため息をついた。
 今のティアナに自殺するようなプライドは残っていない。命あっての物種、それこそ車
の運転だろうが残飯漁りだろうがやるだろう。
 ────どうして、そこまでボロボロになってしまったんだろう。
 ユーノは、自分の事の様に胸が締め付けられる。もともとそう言う性格ではあった。
 なのはにティアナのことを聞いた事はある。あくまで伝聞だが、兄の名誉回復と自らの
向上に必死で、故に素直になれなくなる性格。
 想像する限りでは、プライドは高く、まして金銭の為に自分の身体を売ったりするよう
なことはないだろう。
 ────今の彼女と、まるで逆じゃないか。
「どうかしましたか? スクライア司書長?」
 ユーノが、いつまでも突っ立ってティアナを観察していると、ティアナは怪訝そうな顔
で小首をかしげ、ユーノに訊ねて来た。
「あ、いや……なんでもないよ」
 ユーノは、顔を赤くしながら苦笑し、誤魔化すように言った。
 すると、ティアナは優しげに微笑む。
「荷物ぐらい降ろしてはどうですか? もうすぐ準備できますから」
「あ、うん……ごめんね、こんな事やらせちゃって」
 ユーノはそう言いながら、首元に手を持ち上げ、ネクタイを解きはじめる。
「毎日言わなくても良いですよ」
 ティアナは苦笑混じりに言う。

 出会った日の翌日。どうしてこんなことをしたのか、と、ユーノが訊ねると、ティアナ
は住まわせてもらっているんだからこれぐらい、と答えた。
 使用人にしているつもりはないとユーノは言ったのだが、これはあくまで“気持ち”ら
しい。
 そこまで無碍に否定するのも悪いような気がして、以降ユーノは、家事の一部をティア
ナにやってもらっている。
「うん……それじゃあ、ありがとう、かな」
 ユーノは苦笑混じりに、そう答えた。
「どういたしまして……でしょうか」
 そう広くはないLDKに、小ぢんまりとしたテーブル。その上に、ティアナがすでに料理
の載った皿を並べていく。
 ユーノが、部屋でラフな部屋着に着替えてくると、既に準備は終わっていた。
「いただきます」
 正面を向き合って、席に座り、食事に着く。
「美味しいよ」
 少し進めた所で、ユーノはそう言った。
「ありがとうございます」
 そこからは、無言の食卓。
 ティアナを──そう、引き戻そうとアレコレ考えるのだが、言葉が纏まらない。
 下手に何かを言って、さらにティアナを自虐させるのでは、意味がない。
 無論、水商売や風俗営業を賤しいとするのは傲慢である事ぐらい、ユーノも解っている。
 否、だからこそ、ティアナが、自分の価値を貶めた上でそんな事をしているのは間違っ
ていると思った。
「…………?」
 この日も、気まずそうにしつつ、アレコレと考えていたユーノだが、ふとティアナのほ
うに視線をやると、ティアナが、ユーノを見たまま、まるで百面相のように、微笑んだり、
それからむっとしたようにしてみたり、困ったようになったり、を繰り返していた。
「…………どうしたの? ティアナ?」
「ひゃっ!?」
 ユーノが、顔を上げながら訊ねると、ティアナは驚いて、軽く声を上げた。
「ごめん、おどかした?」
 ユーノは慌てたように、謝る。
「いえ、大丈夫です……その、すみません」
 ティアナもまた、慌てて恐縮したかのように、言う。
 そのティアナの顔が、ほのかに赤くなっていた。
「あ……で、も、どうしたのかな? 僕の顔、見てたよね?」
 ユーノは、優しい口調で問い質した。
「えっと……いえ、本当になんでもないんです」
 ティアナは、申し訳なさそう謝るばかりだ。
 だが、ユーノは、彼にしては珍しく、さらに深く問いかける。
 どうにか、取っ掛かりができるかもしれない。ユーノにその確信があった。
「怒っているわけじゃないよ。ただ教えて欲しいだけなんだ……だめかな?」
 あくまで優しく、小さい子に諭すように、ユーノは言った。
「その……失礼な話かもしれませんが」
「うん」
 恐縮しきった様子で、ティアナは語りだす。
「こうしていると、その、スクライア司書長と私で、夫婦みたいかな、って。その……す
みません! ご、ごめんなさい!」
 ティアナはだんだんと顔を真っ赤にしながら、態度を縮こまらせて、最後には声を上げ
て謝り始める。
「あ…………」
 ユーノは、あっけに取られてしまい、絶句してしまう。
 ────早く、早く次を考えろ、ユーノ・スクライアっ
「あ、の、僕もさ、その……ティアナが来てから、って言うか……」
 どもりながら、ユーノは搾り出すように言葉を発する。
 縮こまっていたティアナが、ふと、顔を上げた。
「こ、ここに帰ってくるのが、す、少し嬉しくなった、みたいでね」
 自分でも何を言っているのか、半分理解していないユーノ。ただ会話を途切れさせまい
と、必死になっていた。
「スクライア司書長が、ですか?」
 ティアナは小首をかしげる仕種をする。
 普通はそうだろう、自宅に帰るのに楽しいもなにも無いはずだ。
「家族がいるわけじゃないからね、実は、ここに帰ってくることもほとんどないんだ」
 少し弾みがついて、ユーノは苦笑するように言った。
「そうだったんですか? いえ、そういえば確かに……」
 生活臭がしなかったと、ティアナは思い返す。
「だから正直、ここに1人でいる時のほうが落ち着かなかったんだ」
「そうなんですか……」
 ティアナは、そう言ってから、苦笑気味に笑う。
 ────あ、また……
 ユーノは思った。また、出会ったときのティアナの、ユーノにとっては“嫌な”笑みだ。
「でも、私じゃなくても……高町隊長がおられますでしょう?」
 皮肉を言うわけでもなく。ただ困ったような苦笑で、ティアナはそう言った。
「っ!」
 ユーノの表情が、反射的に歪むのが、自分でも解った。
「違う、別になのはだからどうだとか……そう言う話じゃないんだよ」
「そうでしたか、すみません」
 つい声を荒げてしまうユーノ。それに対して、ティアナは笑みを消した困ったような表
情で、ただ慇懃に謝る。
「…………」
 気まずい沈黙が流れる。
「あの、すみません、お気に触るようなことを言ってしまったみたいで……」
 本当に申し訳なさそうに、おずおずとユーノを見ながら、ティアナは言う。
「あ……違う、無理に聞き出したのは僕だから。その、ごめん」
 ユーノは慌てて、ティアナに向かって自分も頭を下げる。
「そんな、スクライア司書長が私に謝ることなんかありません」
 ティアナは戸惑いがちの表情で、しかし、さらりとそう言う。
「そうじゃ、なくて……」
「良いんです、スクライア司書長は高町隊長の大切な方ですから」
 ────ああもう、結局こうなっちゃうのか!
 ユーノは、ギリ、と歯を噛み締める
 ────それなら……うん、それでも、もう、良いや。
 半ば破れかぶれになり、今度はユーノの方が、自虐的な思考に陥っていく。
 ────そもそもティアナが管理局にいられなくなったのは……つまり、僕の……
 そう思い込むと、意外なほどに、それまで最後の手段と考えていた言葉は、するりと口
から飛び出していく。
 それを聞いたティアナが、左目だけを円くして、唖然とした。

「ティアナ……僕は君に惹かれている。君の事が、好きになっている」



前へ 次へ
目次:歪んだ素直
著者:( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc

このページへのコメント

いいですねぇ〜こういうの好きです
続き気になるわぁ〜

0
Posted by ティア大好き 2009年02月15日(日) 03:07:26 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます