アリスとエドガー

初出スレ:【従者】 主従でエロ小説 第七章 【お嬢様】
属性:お馬鹿なお嬢様と腐れ縁のサド家庭教師。ラブコメ。エロは少年漫画レベル。

1
なんでこんなに馬鹿なのか。

お嬢様のために作ったテストの解答用紙を前に、エドガーは眼鏡を白い手袋の指先で軽くおさえた。
目の回るような珍解答、バ解答の連続。
さらには考えることを放棄したのか、後半の解答欄にはすべて「エジプト」と記入してある。ちなみにテストの科目は理科だ。
もはやここまでくると、勉学の神に見放されているというか、憎まれていると言っていいレベルだ。
そして、その神罰の皺寄せを食らっているのが、足掛け10年住み込みで家庭教師をしているこのエドガー先生なのだった。
怒涛のエジプトを前に採点する気も起きず、とりあえず一筆、stupidと書き込んでエドガーもこのテストを放棄した。
お嬢様と家庭教師の関係も放棄したい、と切に願った。
この時は。

次の日、屋敷内の勉強部屋に向かうエドガーの足が不意に止まった。部屋からお嬢様の明るい笑い声が聞こえきたのだ。
エドガーは神経質そうな細い眉をひそめ、足を速めた。
勉強部屋にはコミック、雑誌、スマートフォン、ゲーム機の類の持ち込みは禁止してある。
教本や辞書以外何もない部屋で一人で笑っていたら、それはお馬鹿じゃなくて単にヤバイ人。
(大方、変なキノコでも食べたのだろう)
うんざりしながらドアのノブに手をかけ、「アリス様」とお嬢様の名を呼びながら開く。
そこで、エドガーの鉄面皮がさらに固まった。
部屋の中には、白い子猫がそのまま人間に化けたかのような幼顔の美少女がいた。

2
窓から注ぐ午後の日差しを浴びてほわほわと輝く淡い金髪のショートボブ。愛らしい大きな目と、対して小さい鼻と口が絶妙のバランスで小さな顔におさまっている。
猫のようにしなやかで細っこい体はミニスカートのパフスリーブワンピースに包まれているが、胸だけがポヨンと大きく、ワンピースの胸の部分のボタンは外れてしまっている。
エドガーの仕える大馬鹿お嬢様の、アリス様だ。
しかし、問題はそこじゃない。
アリスはエドガーの来訪にも気付かず、目の前の男に向かって鈴を転がすような笑い声を上げていた。
もう一人、この部屋には居るはずのない第三者がいる。この、アリスとエドガーだけのためにある勉強部屋に。
「なにそれぇー!面白い!」
アリスは教壇に手を乗せてピョンピョン無邪気に飛び跳ねた。豊かなお胸もポヨヨンと柔らかそうに弾んでいる。
目の前で揺れるたわわな胸に苦笑しながら、教壇に肘を付いている男は白い歯を見せてアリスにウインクした。
「歴史上の偉人ってのは変人も多いんですよ。だからこういうエピソードにはことかかない」
オマケとばかりにモーツァルトの性癖を暴露すると、それにまたアリスはキャーキャー笑う。

なんだ、これはーー。

エドガーがドアを半開にしたまま硬直していると、やっと男がエドガーに気付いた。
「ああ、エドガー先生でいらっしゃいますよね?失礼しました」
人好きのする笑顔で姿勢を正し、握手を求めて歩み寄ってきた。
身長は、エドガーとほぼ変わらない。つまりかなり長身だ。
しかし壮年で細身のエドガーとは違う。二十代半ばの男の肉体は逞しく、ついでに冷徹で常にスーツ姿のエドガーとは正反対で、フランクで温かそうな半袖ポロシャツ姿だった。
「旦那様からお聞きだと思いますが、体験ということで本日こちらにお邪魔しています。アンディです。よろしく」

3
エドガーは心底後悔した。そういえば昨夜、旦那様からアリスの教育について話があると聞かされていたのだ。
だがしかし、例のエジプトエジプトエジプトのせいで聞く気になれず、話は後日にと断ってしまっていた。
その話の中身が、目の前にいるこの爽やかな青年だったのか。
新しい家庭教師ーー。
若くて、初日で勉強嫌いのアリスと打ち解けられて、性格が良くて、そして、割りとハンサムなーー。
固まったまま動かないエドガーに困惑し、握手のために手を伸ばしたまま首を傾げるアンディ。てちちとアリスが駆け寄って、その二の腕をとって下げてやった。
「あのね、エドガー先生は潔癖症なの。だからいっつも手袋してるし他人に触りたがらないんだよ。アンディせんせぇは何も悪くないの。ごめんねー」
ピクッ。
エドガーの薄い皮膚のこめかみに血管が浮いた。
アリス様の手が、むき出しの男の腕に触れている。
そして、聞き逃してはならないが、エドガー「先生」と、アンディ「せんせぇ」と、微妙に発音が違う。
今すぐ世界の全てをアルコール消毒したいようなおぞましい不快感を全身にぶちまけられたエドガーは、どうしたかというと。
乱暴に部屋の戸を閉めると回れ右をし、ツカツカとその場を去った。
一般的には、逃げた、という。

「旦那様っ!」
珍しく切迫したエドガーの声を聞き、アリスのパパは驚いてタブレットから顔を上げた。
広間で寛いでいた大富豪パパに、長年1つ屋根の下で暮らしてきた家庭教師が詰め寄る。
エドガーの方がパパより5つほど年が上だから、こんな風に怒りの冷気を発されながら近づかれると、ぶっちゃけ怖い。
エドガーは旦那様のソファーの側に立ち止まると、一度ながーく深呼吸をした。

4
そして、
「あれは、クビです」
突然の戦力外通告。
「………はぇ?」
困惑するパパにエドガーは畳み掛けた。
「いいですか、あれは、アンディは危険です。アリス様はとてつもなく危険な状況であると断言していい。もう今にもセックスをします。間違いない」
「セッ……?」
「そう、セックスです」
ナニを断言してんだ。旦那様は唖然とした。
「お言葉ですが、アリス様は前代未聞の大馬鹿です。なのに体ばかり恐ろしく淫らに成長なされて。
そこにあのような若く精力的な雄を近付けばどうなるか。馬鹿につけ込まれて数分後にはセックスですよ。そう、セックス」
セックスセックスセックス。怒涛のエジプトに負けず劣らずのセックス連呼である。パパと、そして運悪く広間にお茶を運んできたメイドは凍りついた。
「……いや、お、落ち着いて。あのね、その単語を覚えたての男の子じゃないんだからね、少し控えて……」
しどろもどろでなんとか宥めようとする旦那様を遮ってエドガーはなおも続ける。
「こんな話をしている間にももうアリス様は脱がされています。いや、もう全裸かもしれない。いや、脱ぐのももどかしくて半裸で事に及んでいるでしょう。
いいですか?若い男女が密室にいる、つまり間違いなくセックスをするということです。むしろ、もう現在進行形でセックスしている可能性が非常に高い」
もはや、自らが変なキノコを食べたヤバイ人になり下がったエドガーを止める人間は広間にいない。
(誰か助けて!!)
パパとメイドの無言の叫びを知ってか知らずか、てちち、と可愛らしい足音が近づいてきた。
そこでエドガーの体が跳ね、ようやく口が閉ざされた。

5
「せんせー!エドガー先生ーどこー?」
アリス様がのこのこやってきたのだ。
もちろん、エドガーの妄言のように脱いでなどいないし、性行為をした影も形も見られない。
広間にエドガーの後姿を認めると、「あー!」と嬉しそうな声を上げて駆け寄ってきた。
「先生っ!」後ろからハグ。
身長差があるから、柔らかな胸がぷゆんとエドガーの背中の少し低い位置に押し付けられ、甘いシャンプーの香りが立ち上ってきた。
「急にどっか行っちゃうからビックリしちゃったぁ。ね、アリスの今日のパンツまだ見てないでしょ?すっごく可愛いんだからね」
サイドが紐でぇ、フリルがフロントに三段についたエッチなパンツーなのー!なのー…なのー……
ーー急速に頭が冷えていくエドガーを見上げながら、パパはコソッと呟いた。
「エドガー先生こそ、あの部屋でアリスとセッ……をしているのじゃないかね?」
「…………してません」
目をそらして答える家庭教師の姿に、旦那様もメイドも心の中で思った。いや、なんかやってんだろ、と。
「アンディくんは、クビじゃなくていいね」
「……はい」
旦那様の言葉に、頷かざるを得ないエドガーだった。

「だからぁ、アンディせんせぇは家庭教師って言っても護身術を教えてくれる先生なんだよぉ。こういう教育もレディには必要ってパパがさぁ」
「ああそうですか」
勉強部屋でいつものように二人きり。
エドガーはツンと横を向いたまま、まったく興味がありませんというように眼鏡を拭いている。教壇はすでにメイドに命じてアルコール除菌済みだ。
今日はアンディに勤め先のお屋敷を見てもらおうということで、アリスに連れられて色んな部屋を見て回っていたのだとか。

6
そこでこの勉強部屋に入った際、勉強嫌いだというアリスに対し、持ち前の優しさから社会や音楽のおもしろ小ネタを披露してくれたらしい。
住み込みのエドガーとは違い、彼は週に一度通ってくる家庭教師で、ジャンルも勉学とは無関係。
つまりアンディくんは、エドガーにとってはどーでもいいただの好青年だったのだ。アリスには他にもバレエや声楽などの家庭教師が通いでくる。それが一人増えただけだ。
「それでさ、先生はさっきなんで出てっちゃったの?」
「それでは理科のテストを返却します。0点。馬鹿。テスト用紙の無駄遣い。限りある資源をアリス様のような人間に消費されることに憤りすら覚えます。今すぐ消滅すればいいのに」
「えっちょっと!なんで話変えるの?なんで早口なの?もーテストはいいからさ、パンツゥ!アリスのキュートな紐パン見てよ!」
スカートをたくし上げ、やかましく下着を見せつけてくるアリス。
ここまではいつでもある日常の風景なのに、エドガー自身でも理由は分からないが、なぜかこの日はそこに手を伸ばしてしまったのだ。
嫌悪と侮蔑の対象のはずのアリス様なのに。潔癖症だから小娘の下着など、手袋越しでも触れたくなんぞないはずなのに。
エドガーの手は、気がつくとパンツのサイドの紐をピーっと引っ張っていた。
蝶々結びで結われていた紐はあっけなく解け、アリスの真っ白い太ももからするりとパンツは滑り落ちる。
一瞬の静寂。
エドガーは眼鏡を外していたのでそこにあるものを鮮明に視認できなかったが、柔らかく甘いマシュマロのような膨らみから、下部に向かって少し割れ目のラインが見えた。
あと、毛は、生えてなかった。
「それではエジプトのテストを返却します」
プイッと目を逸らしたエドガーが告げる。
あまりの出来事に真っ赤になってただ口を開け閉めしているアリスは、お股をスースーさせながら思った。
(先生って、時々アリスよりお馬鹿になる……)


おしまい
2019年09月06日(金) 22:20:18 Modified by ID:0Yc35ZP2rQ




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