キミはともだち・4

初出スレ:3章752〜

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帰省したお陰で規制解除ktkr
まぁ予想してた流れではあるけどワロタw
ご希望通りにすることにするよ
遅筆の筆者故にそれまでの間生殺しで放置します
あしからず


  夜襲の日から一月後の夜、怪我が完治したと聞いてシドニーはミコトを部屋に呼んだ。
「失礼いたします。娘を連れてまいりました」
 執事がミコトを部屋へと促す。連れてこられたミコトは下女の服を着せられていた。
 ――妙な景色だ。
 子どもの頃からずっと、彼女は腕も足も丸出しの服で窓からこの部屋に飛び込んできた。それが
屋敷の使用人として扉から入ってくる。言いようのない違和感だった。
 ミコト自身も落ち着かないのだろう、きょろきょろと見慣れているはずの部屋を見回す。
 目が合う。変わらない強い瞳に、ほんの少し安堵が浮かんだような気がした。
「お前は下がれ」
 執事は「は」と恭しく頭を下げ、部屋を出て行った。
「ミコト!」
 扉が閉まるや否や、シドニーは一足飛びに駆け寄るとミコトを抱きしめた。
「ちょ、ちょっと、いきなり何するんだい! はなしなってば!」
「良かった……ほんとに怪我治ったんだな」
 暴れるミコトなど意にも介さず、シドニーはその身体を抱きしめた。存外小さく、柔らかく温かかった。
風呂に入ってから来たのか、石鹸の匂いがする。ミコトは暫くもがいていたが最終的に諦めたのか
シドニーの背に軽く腕を回した。
「あんたのおかげだよ。ここで養生させてもらったおかげさ。ありがとよ、シドニー」
 胸の奥に僅かな罪悪感を覚えて、シドニーはそっとミコトを解放する。
「……すまない。こんなことになって」
「なんであんたが謝るんだよ? こちとら食事と住む場所まで世話になっちまってるんだ。
さっきの執事さんに頼んで屋敷の掃除やら何やらやらせてもらうことにしたんだ。あんまり
大したことはできないけど、医者代ぐらいは働いて返すからさ」
「……そんなことしなくていい」
「いいわけあるかい! こっちばっかあんたに迷惑かけてるんじゃ寝覚めが悪いってもんじゃ」
「そうじゃねぇんだ」
「……どういうことだい?」
 シドニーが遠慮から言っているわけではないことを察し、ミコトの声に不安が混じった。
「お前と俺が友だちだってことを知られたらまずいってのは」
「知ってるよ。分かってる」
「なら何故ここに匿われたか」
「…………」
 それはミコトの中にも疑問としてあったのだろう。答えを求め、勝気な瞳が珍しく戸惑いを浮かべて
シドニーを見上げる。
 胸の辺りで言葉が閊える。
 ――だからってずっと黙っていられねぇだろ。
 シドニーは大きく息を吸い込む。
「親父はお前をここで飼殺すつもりだ。俺がお前を助けたことを誰にも言わないように」
「私はそんなこと――!」
「分かってる。でも親父は流民を信用しない」
 ミコトの顔が悲しげに歪む。自分でも酷い言葉だと思ったが、それが事実だ。
「あいつは貴族以外は人間じゃないと思ってる……きっと逃げれば殺される」
「…………」
「でも……いや。だから」
 長い黒髪の垂れる肩をつかむ。
「お前のことは絶対自由にする。だから暫く我慢してくれ。それまで、絶対に惨めな思いはさせない」
 きょとんとシドニーの顔を見上げていたミコトは、不意にふっ、と笑った。どこか寂しそうにも見える
顔だった。
「まったく、いっちょ前にいうじゃないか。庭の隅で泣いてた坊ちゃんが」
「え?」
「いいよ。あんたの家来になってやるよ」
「……怒ってないのか?」
「何を怒るってんだい?」
 全く見当がつかないという風のミコトに、シドニーは拍子抜けしてしまった。
「だって、ここから出られないんだぞ?」
「あはは、出られないだって?」
 ミコトは心底おかしいというように大きく笑う。
「あたしを誰だと思ってるんだい? この十数年、誰にも知られずここに出入りしてきたのはこのあたし
だよ? 見張りの目ぐらいいくらでもちょろまかして外に出られるさ」
「そんなことしたら――」
「シドニー」
 ミコトは微笑む。一点の曇りもなく。勝気な目をして。
「あたしは自由さ。こんなことで縛られたりしない」
 ――ああ。
 敵わない。自分の不安が杞憂にすぎなかったことをシドニーは悟った。ミコトは自分が思っているより
ずっと強く自由だ。世の中の柵など、彼女を妨げることはできない。
 そんなミコトが、美しいと思った。

「シドニー?」
 
 ――ああ。
 そして気付いた。
 ――俺は、こいつが好きだ。
 何か言いかけたミコトの口を、シドニーは唇で塞いだ。

「……っ」
 長い口づけから解放され、ミコトは大きく息を吸う。
「あ、あんたいきなり何んだい! 今、口に――」
 いつもの悪ふざけだろうと思ったのだろう。怒鳴りかけて、しかし笑わないシドニーに、ミコトの口から
続く言葉は出なかった。その隙に再度唇を奪う。最初は浅く、徐々に深く変えていく。ふっくらと
柔らかな唇を舌先でなぞり、何か言いたげに開いたその奥へ更に這入る。退こうとするミコトの後ろ頭へ
手を添え、もう片方で腰を捕える。舌を絡めると腕の中で細い身体はびくりと跳ねた。
 仕方なく唇を解放する。細い透明な糸が、名残惜しそうに二人の唇の間を伝った。
「っ……はっ……」
 上気した頬でミコトがシドニーを見上げる。顔には明らかな混乱が浮かんでいた。当然だろう。ずっと
友達だと思っていた奴がいきなりこんなことをするのだから。
「な、なんで……」
「なんで?」
 無意識に後ずさるミコトの腰を捕まえたまま、シドニーは部屋の奥の方へとその足取りを導いていく。
「駄目か」
「だ、だってあんたとあたしは……っ」
 抵抗の言葉は再度塞がれた。ミコトの後ろにベッドを確認して、シドニーはミコトの腰にまわしていた
腕を解く。支えを失い、バランスを崩した四肢はどさりと音をたてて布団の上に落ちた。
 ミコトが起き上がるよりも早く、シドニーはその身体を組み敷く。存外華奢な腕は、片手で押さえる
だけで簡単に封じられた。
「わ、わかった! あんた酔ってんだろ!? あたしが来るの遅いからって先に酒飲んだから、酔いに
任せてこんなこと――」
 どうにか茶化してこの場を切り抜けようとするミコトを、シドニーはじっと見下ろす。やがてミコトの顔から
笑みが消えた。
 ゆっくり顔を近づける。ミコトはびくりと震えて顔を背けたが、開いた片方の手でそっ、とこちらを向かせて
浅く口づける。
「……酒の味も匂いもしねぇだろ」
「……」
 部屋を、静寂が満たす。
 見上げるミコトの顔には怯えがありありと浮かんでいる。ふと、押さえた両の手が小さく震えているのに
気づいた。
 ――しまった。
 シドニーは、漸く我に返った。
 顔から手をはなし腕を解放する。殴られるかと思ったが、ミコトは組み敷かれたままシドニーを見上げて
いる。
「……ごめん」
「……本気?」
「冗談で、俺がお前にここまですると思うか?」
「……」
 まだ混乱しているらしく、ミコトは困った顔で何か言いかけては黙り込む。シドニーから目を逸らし、羞恥
からか頬が紅く染まっている。
 純粋に可愛いと思った。
 ――もう一度触りたい。
 そっと顔に手を添える。肌理の細かい、柔らかい感触の肌は少し熱い。びくりと震えて逃れようとしたが
そうなるとまともにシドニーの顔を見ることに気づいてミコトは泣きそうな顔で男の掌に頬を埋める。手の甲に
押し付けられたひんやりとした黒髪が心地いい。
 体の中から、どうしようもない衝動が広がっていく。
「そんなこと、いきなり言われても、どうすりゃいいかわかんないよ……」
 そうだろうと、シドニーも思った。だが気付いてしまった思いをシドニー自身も抑えられない。こんな真似など
したくなかった。だが間違いなく、男としての性は真反対の行動をとろうとしている。

 箍は外れてしまった。もう戻せない。

「……嫌だったら、そう言ってくれ。そしたら諦める」
 一瞬、「い」の形を作った口からは、しかし何の言葉もでなかった。ミコトはシドニーを見上げる。困ったような、
苦しいような顔で。
「なんでそんな顔泣きそうな顔すんだい……」
 シドニーが思ったことを、ミコトが言った。
「え?」
「卑怯だよ、そんな顔されたら、あたし何も言えないじゃないか……」
 自由になった手でミコトは顔を覆う。ミコトと同じような顔をしていたことに、言われてシドニーは気がついた。
「……」
 ――もしかしたら。
 ミコトも自分と同じことを思っているのだろうか。
 『お前に嫌われたくない』と。  
 顔を覆っていた手をそっとはがす。泣きそうな顔のミコトが出てきた。
「……ごめん」
 うわ言のような空々しい謝罪を吐きながら、シドニーはミコトに口づける。
 ミコトは諦めたように目を瞑りそれを受け入れた。
2011年10月06日(木) 23:25:58 Modified by ID:4YurNyhosA




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