ナイーツ・1

初出スレ:主従合同スレ627〜

属性:見習い女騎士と男騎士


とある大陸のとある騎士団領。とある騎士団のお城。

もふもふ…
城のすぐ裏手の木陰で、白い毛玉が丸くなっていた。
それは、綿菓子のようにふわふわワッフルの髪の女の子。
丸めた布を枕にして、芝生に横になり小さく寝息をたてている。
すぴー…ほよほよ…ぴふー…
プラチナブロンドの長い髪に包まれ眠るさまは、まるで豪華なペルシャ猫のようだ。
平和に眠りこける少女の元へ、芝生を踏みしめ近付く人影がある。
男だ。しかもかなりデカイ。
男は少女が枕にしている布を見て、前髪をさっぱりと上げたその額に青筋を立てた。
「こんのクソ見習いはっ…」
忌々しそうに呟きながら身を屈め、少女の枕をわし掴む。
そして、「起きぬか!!馬鹿もん!」一気に引き抜いた。
「…っ!」
下敷きを引き抜かれた少女は芝生に頭を打ち付ける。白い髪がモサッと地面に広がった。
驚いて身を起こす少女に男は一喝した。
「貴様はどうして毎っ回毎回無断で稽古を抜けるんだ!」
体も大きければ怒鳴りつける声もまた大きい。ビリビリ響く重低音は大の男でも縮み上がる程だろう。
しかし少女は、ブスーッと迷惑そうな一瞥をくれただけで男から顔を背けた。

それどころか説教など完全に無視し、自分の髪をいじくりだした。
「サイアク…汚れた」
自慢のワッフルに絡みついた草や土をちまちま指で払い落とす。
「マシュリ!貴様ぁ!聞いているのか!」
名を呼ばれても気にしない。少女マシュリは優雅に毛繕い中である。
マシュリの態度はさらに男の神経を逆撫でした。
忠義に命を賭す騎士団に、こんな不遜な騎士見習いが居ていいのだろうか。
この男―マシュリの上官である隊長シスレイは、怒りにわななきながらマシュリを睨んだ。
マシュリの厚い二重瞼は常にぼんやりと眠たそうで、やる気も覇気もゼロ。
さらには無表情な上に淡白で、どうにも相手を小馬鹿にしているようにしか見えない。
いや、実際に馬鹿しているのは確実なのだが。
(許っっせん!)
沸騰したシスレイはマシュリの目前に、さっきまで枕だった布を突き出した。
「貴様は何を下敷きにしていた」
それはマントである。
隊長各がその証として左肩に下げるものだ。
「俺が手合わせする間預かっておくよう渡した物だろうが!なぜ上官の物を粗末に扱う?」
そう、一時間程前、修練場でとある新米騎士と手合わせをする前に、マントを肩から外しマシュリに持たせていたのだ。

それが、いざ終わってみたら試合を見学しているはずの見習いは消え、マントを枕に裏庭ですーぴー昼寝。
騎士団創立以来の問題児っぷりである。
怒れる上官殿の詰問に、マシュリはさも面倒くさそうに答えた。
「…芝生に直に寝たら髪が汚れる」
「なっ!」
マシュリさんは、上官のマントより乙女のふわふわヘアが大事なのである。
なんと恐ろしい思想回路をしているのだろうか。シスレイは開いた口が塞がらなかった。

その時、
「おーい、シスレーイ!」
頭上から隊長を呼ぶ声がした。
驚いてシスレイが声の方向を見上げれば、城の二階の窓から美しい女性が手を振っている。
その姿を見た途端シスレイは大いにうろたえた。
「だ、団長っ」
「ははは、お前またマシュリをいじめてるのか?酷い奴だ」
ラランス団長は華やかな笑みを浮かべた。
茶がかかった濃い金色の髪と切長のつり目が色っぽい。
「な、だから俺はいじめてなど」
慌てるシスレイの様子にカラカラ笑い、ラランスは窓枠に足を掛けた。
ラランスの行動にギョッとするシスレイと、いつも通りの無表情でぼーっと見上げるマシュリ。
「受け止めろよ」
シスレイに言うと、ラランスはヒョイッと窓から飛び降りた。
「ちょ!?待…っギャアアア!!」
なんでまた窓から!
血相を変えて駆け寄るシスレイ目掛け、楽しそうに落ちる美女一人。

バムッポヨヨンッ

シスレイの顔面がラランスの巨大な胸で押し潰された。
見事、ラランスは彼の腕の中に着地した。
「む…むがっ」
団服の布地越しでも十分に感じる胸の柔らかさに、シスレイの頭が見る間に燃え上がった。
じー…
マシュリは無言のままその光景を見ている。半月型の目からはまったく感情が読めなかった。
「よーしよし、着地成功。さすがは騎士隊長だぞ!立派立派!」
ストンと地に降りると、ラランスはシスレイの肩をバンバン叩いてやった。
「団長…いつも俺をからかって」
うううと唸るシスレイに楽しげに笑う団長。
じー…
見つめるマシュリ。
「マシュリはまだ見習いになって日が浅いんだから、怒鳴ったりしちゃだめだろ」
そう言ってシスレイを見上げるラランスの顔立ちはどこか狐を思わせる。セクシーで意地悪な笑みだ。
「こ、こいつは本当に性根が曲がってて、少しは怒らないと」
なんとか反論しつつも、間近で見るラランスの美貌に赤くなるシスレイ。


じー…
二人の姿にマシュリは一体何を思うのか。


つづく




関連作品:

シリーズ物 「 ナイーツ・2? [[]]
2008年12月17日(水) 18:14:44 Modified by ID:H1hLfUggHw




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