458 :名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 23:06:34 ID:DYc27f/z
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……地鳴り。そして地の底から生じる振動。
地震か、とタイツが感じたが、すぐに"違う"と察した。"眼前の異常"が彼にそう確信させる。
彼の目の前…何もない空間だ。死体以外何もなかった。誰もいなかった。誰も生きていない。空間しかない。空気しか流れていない。

しかし―――今は違う。"何か"がいる。そいつは突如として現れた。いや、立ち上がったのだ。
「……迷って出たか?クリスタトスの姐御?」

タイツの目の前には、先ほどまで死体として地に倒れていた女が立っている。
バイオハ○ードで通路に待機しているゾンビみたいな不安定な立ち姿。
キザな着こなしだった白いスーツは彼女自身の血で紅く染め上げられ、以前の流麗さは感じられない。
「辞世の句を吐けなかったからって無理して出るなよ。怖いぜ」
ボタボタボタ……致命傷となった頭と腹から血と共に何かが漏れ出る。それが"何か"なんて考えたくもない、とタイツは思った。
「どう見ても死んでるよなぁ…マジか?」
あまりにも無防備に突っ立てるのでタイツは少し屈んで相手の顔をうかがってみた。
……死んでいる。半開きの口からは吐息は流れていない。目は虚ろでどこも見ていないし何も捉えていない。
と、その死体が動いた!本気で化けて出たか!とタイツが身構えたが、相手は彼に向けて行動を起こしたわけではないようだ。

うううぅぅぅぅうぉおおぉぉぉおあおあおあおあおあおおあおああああああああ………


459 :名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 23:07:20 ID:DYc27f/z
息も吐かぬ朽ちた唇から何か、声か叫びめいたものが発せられる。
それに呼応して地鳴りと地響きが再び巻き起こる。まるで"それ"がこの地震を呼んでいるかのようだ。
更に異変は続く。広いホールの惨劇を彩る死体や破壊された机や椅子などの調度品が動き始めたのだ。
それはズルズルと見えない糸で吊られて引きずられている。向かう先は一つ、タイツの前に立つ"かつて誰かだった"もの…
そいつは絶えず静かに叫び続けている。まるで近づく幾多の残骸たちを呼び寄せるように。
――まるで、「ともにあらん」と呼びかけているかのように。
そいつはそれらと接触すると、そいつ自体もそれらと混ざり合った。
合体。融合。接続。連結……そうして"そいつ"は大きく、不気味に、ひたすら醜く肥大して変態していく。
死した者は一つになる。だがとうに果てたものに命は無い。命無き"彼女達"がいくら集まろうと、決して『命には成り得ない』……
やがて、有機体と無機物が混ざり団子の様になっていく傍らで、"そいつ"のいる空間が歪み始めた。
構えるタイツを無視してそいつは空間の歪みから何か、いや…誰かを呼び寄せている。叫びは異界からも何かを呼ぶ。
……その返答はすぐに来た。歪みの向こうから来た者は『とうに死んだ誰か』の集まりだった。
出てきたときから死んでいる。呼ばれた場所で既に死んでいた。"死んだ彼女たち"は号令に応じて"そいつ"のために寄り集まった。
連中は死体だが蠢いている。リビングデッドに意志は無い。唯一つの意図に突き動かされている。
明らかな指向性を持って集結する『かつて誰かに倒された女たち』はやがて"一つの形"を成し始める。

「――作者のアホめ!ようつべで何か観たな!?」
『……ぬうぅぅぅぅうおおおおおあああああああああぁぁぁぁッッ!!!』
それは、何処の…どの口から発せられる叫びであろうか。
女と女と女と女と女が複雑に絡み合い、死体や肢体が交わりあって――唯一つの躯体が完成する。
『ぶるううぅぅうぅああああああああッッ!!!!』
若○ボイスっぽい声がシャウトする。その叫びに呼応して身体を取り巻く死せる女どもの口が次々に声を上げていく。
恐怖・憎悪・愉悦・快楽・怠惰・悪意・絶望・羨望・強欲・呪詛・怨嗟・懇願・悲哀・恋慕・偏愛・殺意……破滅の呼び声が鳴る。
ありとあらゆる感情、念の籠もった叫びは様々な色を帯び、混ざりに混ざって混沌を極める。
いかなる鮮やかな色でも染まりに染まれば……行き着く色は一つ…途方も無く深い"黒"だ。
女たちは叫び続ける。何処へも向けぬ。誰にも対することはない。何の意味も意図もない。全ての音が空間の虚無に消え失せる。
ガッチャッ!ガッチャッ!――ホールに散乱していた死体や調度品の残骸が寄せ集まって出来た骨と金属の足が地を踏みしめる。
床はいつの間にか、血かなにかで真っ赤に染まっている。気付けば壁も紅く染まっている。
そして天井……タイツは上を見上げて目を見張った。今まで当たり前のように存在した天井や照明が…真っ黒な闇に変わっている!
其処にはホールを閉じている"蓋"そのものが抜け落ちている。暗黒はホールの上方を果てしないものに置き換えてしまった。
照明はシャンデリアごと何処かへ去り、暗黒がそれに成り代わって漆黒の黒で場を照らしている。
「おいおい…夢見すぎだぜ。それにしてもなんか見覚えのある顔が多いなオイ」
とりあえず目の前の"それ"に話しかけてみるタイツ。ここ最近、ずっと連戦だったので少々疲労が溜まってきている。

だが…なんとなくこれが最終戦だと直感で感じ取っていた。


460 :名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 23:08:05 ID:DYc27f/z
『ぶるるるるるううぅうぅぅあああぁぁぁぁぁああぁぁぁあ…………』
木霊する女声版○本ボイス。女声が重なり合ってドスの効いた叫びへと合成されて鳴っているのだ。
美しき乙女たちの残滓の寄せ集めが奇異な肉塊と化し、一匹の怪物と成ってタイツを標的に動き出す……

あるものは巨乳と大きな銀縁眼鏡が特徴の、黄色い衣装を纏った高慢そうな年増女だ。裂けた喉から際限なく血が流れている。
あるものは上から下まで銀色で統一された装備と髪の色をした格闘タイプの戦闘員だ。額が腫れ、目鼻から血を流す。
あるものは胸の谷間が奇妙に陥没している。深緑の長髪に尖った耳。鎧と水着を合わせた格好をして、両の鉤爪を喧しく鳴らす。
あるものは漆黒のボンテージに身を包んだ、プライドの高そうな三つ編みの三十路女だ。身体が真っ二つに割れ、片手の鞭がしなる。
あるものは腹から剣を生やして血を流している。"悪魔っ娘"という表現が似合うその娘は、手足に電撃を帯びて魔力を練っている。
あるものは藍色の布の服を着た黒髪の少女だ。胸がばっくり裂けて割れている。手には氷の魔力が込められた魔剣を携えている。
あるものは全身に水晶か氷を思わせる鎧を着込んだ美女だ。ところどころ溶けており、股間から氷の粒子が舞い散っていく。
あるものはボーイッシュな顔立ちをしている。格好からしてクノイチか。首が折れ、頭がブラブラと力なく揺れる。
あるものはとても貧相な体格をしている。だが両腕のみが奇妙に肥大して蠢き、鬼の腕のように振るわれる。
あるものは裸同然の姿に外骨格を足した姿だ。ポニーテールの愛らしさと獣のような獰猛な形相がアンバランスな美を生んでいる。
あるものは白黒で扇情的な衣装に身を包んでいる。その淫靡な肢体に外傷はないが下半身から白濁色の水を垂れ流し続けている。
あるものは胸と尻が剥き出しになった派手な色のタイツに身を包んだおかっぱ女だ。これは下半身から光る粒子の滝を流している。
あるものは少々オシャレな格好の若い女の子だ。怨嗟に歪んだ顔面が半分以上砕けている。熱を帯びた紅い手腕はとても熱そうだ。
あるものは砕けた両腕から幾重もの武器を生やしている。左の眼孔が空いた女の灰色の髪とトレンチコートがはためいている。
あるものは2人組の若い娘だ。双方とも首から下を包むラバースーツを着込み、血を流しながら手にしたナイフを振り回している。
あるものは右の眼孔が開いている。胸丸出しの上半身と露出した下半身が完全に分離している。裂け目から青黒い触手が見え隠れする。
あるものは真っ白いスーツを鮮血で朱に染めた大柄でスタイルの良い女だ。頭と腹から肉片と血がドロドロと垂れ流されている。
あるものは身体がほとんど砕けてしまっている着物姿に奇妙なブーツのポニテ娘だ。奇妙に捻じ曲がった腕が前後する。
……他にも多数の戦闘員らしき女、犠牲になったビルの住民らしき女が塊の中に埋没し身体の一部を不気味に蠢かせている。

『『るうううぅぅぅぅうあううあうあうあうあうあうぁぁぁ〜〜〜〜』』
それらが一斉に吼える。まるで威嚇するかのように………それらの目に色はない。恐らく何処も見ていないのだろう…

――――ゴクリ。タイツは目前の怪物を一通り見渡して、その凄惨な様に思わず息を呑んだ。
「今まで見た女戦士で一番醜悪だぜ…最悪だな。」
チラリと視界の隅で倒れているであろう連れ2人に目をやる。視界は赤と黒で彩られていたが、2人は確かに存在していた。
ミユキは相変わらずカエルみたいに引っくり返っている。ブロフェルドはタイツが横たえた場所でスゥスゥと眠りについている。
「……引くわけにはいかねぇよなぁ。正義の味方で、常に正しい俺様が"家族"を見捨てて逃げるだと?」

ガッシャ!ガッシャ!…怪物の前進は遅々として捗(はかど)らない。あまりの体積にバランスが取れずにいるのだ。
だが"彼女たち"…いや、"そいつ"はその難点を気にも留めない。緩慢に脚を突き出して赤い大地を闊歩する。
時々、そいつを構成している女たちの手足が地面について怪物の歩行や安定に一役買っている。それでも、怪物の歩みは遅い。

「――えぇい!面倒だ!犯す気も屠る気も起きんけど、テメェは俺がSATSUGAIして誅殺して成敗してアレしてナニしてやる!」
半ばやけっぱちで、タイツは怪物に突っ込んでいった!!!


461 :名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 23:08:53 ID:DYc27f/z
「色気や魅力なんかとっくに抜け落ちてるのに綺麗な顔とか体格を寄せ集めやがって!」
怪物の前に躍り出つつ悪態をつくタイツ!疲労はあるが幸い身体に戦闘で支障をきたす様な傷は負っていない。
万全とは言いがたいが十分闘える力は残っている。問題は…倒せるか否か、だ!
女体で構築された醜悪な肉達磨の、一部の視線がタイツを睨むあ。その目は生者でなく亡者のそれだ。
手に武器を持ったモノは得物をその場で振り乱し、素手のモノは胸を震わせながら叫び声を挙げて相手を威嚇する。
『ジュアアアァァァァァァァァァッッ!!!』
それまでのボイスから一変。映画で見るエイリアンが上げるような金きり声を挙げる女だらけの怪物!("ドキッ!"とはしない…)
悪魔ッ娘の雷撃が地を撃つ!エルフ耳の強化人間の爪が無闇矢鱈と繰り出される!灰色の髪のコート女が手裏剣を飛ばす!
それら全てを紙一重で避け、時に全く動かずにやり過ごすタイツ。"碧水"を凌駕した動きで怪物をも翻弄する。
『ぶぉう!』『ギャオ!』『ポゥ!』『ギャゴォ!』『がぁお!』
女性どころか人間の発する物とは思えぬ叫び声が立て続けにタイツの耳を打つ。様々な感情が複雑に交錯する!
「…っだあぁ!五月蝿いぞお前ら!」
堪らず耳を押さえて抗議する彼に向けて2人一組の刃が同時に降りかかる!果物ナイフと軍用ナイフの斬撃が空を切る!
身を掠(かす)らせる事なく難を逃れたタイツに貫手が差し出される。見ると、銀髪に銀衣装の娘がこちらを見ていた!
タイツはまずこの小生意気な奴の腹を手始めに打ってみた。"ドム!"と確かな手応え。確かに、人間の肌だ。
だが…効いてはいないようだ。その銀色女は身体を仰け反って肉塊にその細身を埋(うず)めたが…即座に跳ね返ってきた。
驚いたタイツの側面に別の視線がかかる。と、その先を見る前に両肩をゴツい腕が鷲掴みにしてきた!
もろに身体を抑えられたタイツ。頭上に華奢な顔つきと忍び衣装の女が待ち構えている。更に真ん前にも灰色の髪の裸身がいる。
そいつは灰色の髪の向こうから右目に穴の開いた綺麗な顔をぐにゃりと歪ませてタイツを見ている…ように見える。
その腰の辺りは鮫か何かに食い千切られたように破れており、青黒いというか真っ黒の筋肉繊維が見えている。下半身は毒の壷だ!
「う、うおおおおおおお!!!!」
劣勢と見て腕と足で百烈拳と百烈脚を連打、連打。連打!
狙わなくとも当てられる巨体のあちこちにタイツの殴打による傷が刻まれていく!
その衝撃でメガネ女のどてっ腹に穴が穿たれ、ボンテージ三十路女の光刃で切断された傷が更に裂けて真っ黒な血を吐く。
外骨格に身を包んだ裸身の女の肩や腰が骨ごと粉砕され、首が折れていたクノイチの左胸が衝撃で弾け飛んだ。
『『ぶるるるううぅぅぅうあうああああわわあああああああああああぁぁぁぁぁあぁあああぁぁぁぁッッッ!!?!?!?!』』
連打!連打!!連打!!!連打!!!!連打ッ!!!!!
打ち込んでいるうちに鬼の腕の拘束力が緩んだ。付け根のところにいる華奢だが美しい少女の顔が苦痛で歪む。
そいつもまた、聞き取りづらい悲鳴を上げている。顔に血管が浮かび上がり眼球が朱色と化し鬼の形相もかくやという様相を呈す。
その形相をタイツは足の裏で塞ぎ、マリ○みたく踏みつけた。顔面の上半分がいとも容易く砕け散った。
タイツが次を狙おうとした刹那、冷たい刃が横槍を入れてくる。黒髪に青い服の娘だ。身体を前傾すると胸がばっくり割れた。
気持ち悪い姿に取り乱す事無く、タイツは回し蹴りで横っ面をしばく、首が180度曲がった…が、異音とともに顔がこちらを向く。
「―――ホンットに趣味悪いな。まとめの人が怯えるじゃねぇか!この!このっ!」
駄々っ子みたいな文句を上げながら両腕を振り回して斧のように相手の頭上に振り下ろす!
"血風"の両腕を打ち砕いた豪腕は簡単に相手に届く。一本は女体の交錯する部分を、もう一本は氷の鎧を着た美女を直撃した。
叩き切られた衝撃で絶叫を上げる氷の女は雹のような氷のつぶてを手から発する…だが狙いが全く定まっておらず、外れてしまう。
また、砕けた部分からは血と肉と骨が漏れ出る。内部に埋もれた死体群が露出し、新たな産声を絶望を込めて上げる。

「くそっ。軟いのか硬いのか、どっちなんだYo!」


462 :名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 23:10:24 ID:DYc27f/z
邪悪な怪物はその身を怪物たらしめている女体の塊を構成するダメージを受けているのも関わらず
ぬぬぬぅ…タイツの方に向きを変える怪物。正面…と言っていいのか分からない部位が前に来た。
怪物はその前部に一部の女体を移動させた。
灰色の髪の――同じような顔つきの3姉妹。左にズタボロのコート姿・中央に血濡れの白スーツ・右に崩れた裸身……
生前はニヤニヤ笑いやうろたえた姿が印象的だったが今の彼女たちは苦悶と憤怒と恐怖に醜く歪んでいる。
四つの瞳は全て紅く染まっており、左と右の女の、空いている眼孔からは小さな炎めいたものがチロチロと灯っている。
『『『ぬうううぅうぅぅうおおあおおぉぉあおおあおあああ〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!』』』
3人揃って叫ぶと飛○ボイスっぽい。発想の元からして○田が声当ててるアミバ似の誰かさんだし…
タイツが攻める前にその前面の3体が同時に攻めてきた!
得体の知れない暗器の刃の群れが、槍と化した手刀による無数の突きが、食い千切られた腹から生じた”憎悪の具現”が、
目の前にいるたった一人の変態ルックの男一人に向けて次々に降りかかる。
タイツが飛びのいたその場には突き出された見た目以上の数の穴が穿たれた。地がバリバリと音を立てて抉られ、切り裂かれる!
スタッと後方に降り立ったタイツ。無事か思えた。だが、よく見ると地面に赤い斑点が点在している。これは……
「うげっ、ちょっとやられちゃってるじゃんよー!」
悔しそうに歯噛みするタイツ。背中に手を当ててみると…真っ赤な血がベッタリと付着している。
だが、ちょっとどころではない。背中がざっくりと幾重にも渡って斬られていた。
「おいおい。生前より強いぞコr――うお!鬼の手っ!」
ギュン!…あと一歩反応が遅かったらタイツの首が飛んでいたであろう爪の斬撃が頭上を通過する!
見ると、先ほど打ち据えた裸に黒い外骨格の女が爪を尖らせてこちらを睨んでいた。その様、まさに鬼人。
『くぅああぁああ!』『きゅおおぉぉおお!』『ぐががががががっ』『ゴッボボボ……』
ラバースーツの2人組と銀色の女が嬌声らしきものを喉から発する。呼応して喉を裂かれているメガネ女が不気味にうなる。
ガッチャガッチャ!骨組みと鉄の柱で構成された曲がりくねった脚部が喧しい異音を立てながら歩んでくる。
と、途中で歩を止めた怪物はその足の一本を大きく振りかぶった―――タイツを踏みつける気だ!
…ズン!と足が振り下ろされた。先の連続攻撃と比べれば眠ってしまいそうなほど緩慢な動きだ。
その隙だらけの足の側面にタイツは「ヤラァ!」と一撃をくわえる!…ガッ!
「ぐえっ!か、KATEEEEEEEEEEEEE!!!」
途端、悲鳴を上げて飛び退いたタイツの拳は痛めてしまって赤く腫れていた。
…意外!骨も鉄もかなりの硬度で、タイツの鉄拳を持ってしても砕くことは出来なかった。
『―――――うううううぅぅぅううううああああおおおあおおあおあああおあおおあああああッッッ!!!』
怪物はタイツのその様を見て勝機と判断したか、全身の女たちが絶叫を上げ、数えるのも面倒な多腕を振り乱し始めた。
身体の中心辺りで3姉妹の手が前方の一点に向けて掲げられる。そして、前ならえのような形まで下ろしてその場で止めた。
未だ絶叫を続ける怪物。体中の女たちからスパークが散る。自ら発しているようにも、電撃刑を受けているようにも見える。
死して磔刑に処せられし女どもは、前方の人間一人をコロスために力を寄せ集めている。
「―――なんだ。せっかちな連中だな。もう決め技使っちまうのかぁ?w」
痛めた右手をブラブラ振りながらタイツが仰ぎ見るように相手を睨む。怪物の一部がその視線を赤い瞳で睨み返す。
更に上体を起こして鞭や火の玉や鉤爪を振り回す。カマキリの威嚇のようなポーズを取るものもいる。唾を飛ばして叫ぶものもいる。
その形相と狂乱に「おお、こわ」と身を引っ込めるタイツ。怪物の身体から発するスパークは勢いを増すばかりだ。

そして、徐々に突き出された手が虚空から何かを掴みだした。"それ"はスパークの迸りから生まれたようにも見える……
不鮮明だったその"何か"はすぐに一つの形を成し、そいつの得物となった――それは、血に塗れた一振りの骨の剣だった。


463 :名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 23:11:42 ID:DYc27f/z
まぁた…けったいな得物を出したなぁ」
ガッシャガッシャ。タイツの声を無視して怪物が迫る。その手――3姉妹の腕のどれか2つが掴んでいる赤い骨の剣が妖しく光る。
そいつは本当に、大きな動物の骨を削って作ってあるようにしか見えない代物で、実に原始的な印象を受ける。
現出したそのときから既に血塗れで呪われている。その剣を生んだ電撃は今もその刀身を青白い閃光で照らす。
スッ…見かけの醜悪さとは違って、武士がするように静かで機敏な動きで太刀を構える怪物。
その身体の周りでは未だに女戦士たちの哀れにさえ思える叫びが続いている。
死んでも死にきれない慟哭か。死んでなお戦い続ける自身に対する悲哀なのか。いや、それらに感情はない。
叫ぶ声に激情が込められていようと、それらにはもう、意思らしき意思など介在しようもないのだ。
何故ならその精神はとうに果てているから。その心は各人に例外なく訪れた"あの瞬間"に逝ってしまったから。
だからそこには何の心もない。女戦士たちの残骸は動くたびに胸が揺れ、髪が風で流れ、綺麗な顔が奇妙に歪む。
それでも、なんの色気も生気もない。グロテスクとエロティックが混在する死体と金属の混合体は、何者でもないのだ。

ただ、そこに在るのみ。

"そいつ"は骨を振り上げる。上方に掲げ上げられた剣はスパークを帯びて青白く、赤い刀身を染める。
「当たれば死ぬな」とタイツは思った。それで弱気を覚える彼ではないが眼前の異様に、僅かに目を細めた。
その細めた目でそっと後ろを見てみた。後方には2人の女が寝ているはずだが、何時の間にか辺りを霧が包んでおり周りが見えない。
その霧も、血しぶきのように赤い。視界全てが血で塗り固められた呪われた光景になっている。

自分とそいつだけの戦場だ。

こいつがなんで俺を倒そうとするのかわからない。
だが"一応"女戦士だ。ジャンクコーナーから拾った中古パーツで組まれた自作パソコンみたいな怪物だ。
――なら倒すしかないじゃないか。その為に俺はここに存在している。
悪の女戦士をぶっ飛ばすタイツ姿の正義の味方!それが俺の存在意義だし、それが俺の生き方だ!

ダン!と血と地を踏みしめ、自身をその場に固定する!
そのタイツの思い切った行動に、だがしかし怪物は怯みもしなければ反応もしない。
剣は変わらず振り上げられている。そのまま、振り下ろせばタイツは真っ二つになるだろう。
避ければ逃れられるかもしれない。しかしタイツは自らその"逃げ"を放棄した。受けて立つ!…そういう構えだ。
背中に受けた傷はとうに血が止まっている。彼の体力は人並み外れている。いや、彼も十分"怪人"だ。
怪物の一太刀を前に、タイツは肝を据えてその場に踏みとどまり、真正面から怪物を睨む。
怪物は中央の3姉妹を頭部のように動かしてタイツを真正面から睨みつける。

…その、一瞬。その顔が、顔どもが、笑みを―――浮かべた。タイツは反応しない。彼はもうそれらを見ていない。
それは笑みなのではない。動く瞬間の、挙動の一つに過ぎないことを悟っている。

そして、怪物が手にした大剣を、一気にタイツに向けて、振り下ろした。ブンと、空を切り裂く音がした。


464 :名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 23:14:43 ID:be1u2CYe
怪物の骨の剣の一撃は、やはりただの一撃ではなかった。

その大きな剣が地面に"着弾"すると同時に、爆音が響き閃光が迸った。

爆発――――赤い霧を吹き飛ばし、怪物自身を巻き込んで辺り一体を消し去る滅びの一撃。

雷撃の光球がそこに生まれてすぐに炸裂し、呪われた場を粉砕していく。
爆風と熱気が怪物自身を焼く。いくつかの女体がその余波を受けて吹き飛ぶ。
一瞬の破壊劇。戦場の叙事詩。稲光の喝采が終わった後には、身体が削れて幾分かスリムになった怪物だけがいる。
異界から呼び寄せし死体は綺麗に消し飛び、残っている体は……ズタボロのコートの女一人。

…着弾の瞬間、タイツはそこに間違いなく、いた。確かに直撃した。剣に切り裂かれた。真っ二つになった。
怪物たちは目撃していた。剣が、突っ立ているタイツの肩を通り綺麗に股間まで裂いて抜けたのを。
破壊が一過する最中、怪物たちは自身をも滅ぼして怪物に成り果てた。
崩れたコートを来た長身の女…だった肢体は身を振るわせる。そして声無き絶叫。
『――――――――ッッ!』
単体になっても、その声からは混沌とした感情が渦巻いている。嘲り・罵り・呪い・蔑み、そいつは叫んでいる。
見る影もなく穢れた灰色の髪が、自身の震えでパラパラと散っていく。
空いた左眼の眼孔が赤く輝く。未だ、その穴に灯っている赤い鬼火は勢いを失ってはいない。
怪物は満身創痍だったが元より朽ち果てた身。今さら問題とするつもりもないようだ。

とにかく、敵は排除した。視界の隅には破壊を免れた2人の女が今も呑気に眠っている。後はこいつらも―――― ドゴッ!

『―――ッ!?』
"コートの女"姿の怪物は、かつて誰かだったそれは、突如その朽ちた身を襲った衝撃に動きを止めた。

………目の前には、男がいる。灰色混じりの黒髪が流れる。はじめて見る相手だ。そいつは全裸で、突然目の前に現れたのだ。
顔つきは精悍で、正義感にあふれた表情をしている。生き生きとしていて、体つきもたくましい。下半身も、大きい。

「懐ががら空きだぜ。クリスタトスの姐御」
『――――……』
そいつは聞き覚えのある声でそう言った。力強い声だ。自身満々の、力強い声だ。
だが怪物にはその皮肉に返す言葉はなかった。そもそも、言葉を解する意識はとうにない。
全裸の男の腕は真っ直ぐに怪物の胸板を貫いている。出血はない。生きていない体から噴き出すものなど何もない。
「俺の顔を見たのはアンタが初めてだぜ」
男は怪物でなく怪物の身体にそう言った。その女はもう其処には居ない。だが男は言った。そこには、なんの意図もない。
『………………………』
死んだ者は二度死ぬことはない。貫かれた場所は心臓を通っていたが、死んでいるそいつに致命の場所は在り得ない。
だがその肢体はそれっきり動きを止めて後方に倒れた。ドサリと、大の字になって倒れた――元通りの死に様だった。

「あばよ。あの世に行ったら土産話にみんなに話してやれ」


465 :名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 23:17:41 ID:DYc27f/z
「う、うう〜ん」
ミユキは軽い頭痛を感じつつ体を起こした。どのくらい気絶していただろう。
「あ、姉さん」
声がかかった。聞き慣れた声だ…傍を見てみると、見慣れた妹が正座していた。
「ん?ブロ?」
日常でよく使う愛称で返事をする。彼女の名前は長いので、面倒だから二文字で呼ぶ。
疑問形なのは、頭がまだボーっとしているせいだろう。
「おはようございます。姉さん」
ブロフェルドは座したままで頭を下げた。灰色の髪の大和撫子、といった風情だ。
「ん、おはよ」
目を擦りながらミユキは笑って手をヒラヒラさせた。
よく見ると、ブロフェルドの制服はあちこちが切り裂かれたり破けたりしてボロボロだ。激戦の痕だ。
「アンタがそんなにボロボロになってるの、はじめて見たわ」
「…でしょうね」
苦笑しあう2人。空では鳥がチチチチ…とささやかな鳴き声を挙げている。
「…終わったの?」
「はい。兄さんが、やってくれたみたいです」
そう言ってブロフェルドが促す先には、確かにタイツが仁王立ちで彼方を見つめている。
その先には街が広がっている。ビル郡が立ち並び、壮観な風景となって眼前に展開されている。
「…って、なんで全裸なのよアイツ」
今さら驚かないけど、と後ろに付け加えつつ露骨に嫌そうな顔をする。前方のタイツはマッパだった。
綺麗でごついお尻がこっちを向いている。背中は筋肉と骨の固まりだ。強そう。
「なんでも、最終決戦でタイツを失ったらしいです。空蝉を使ったとか行ってました」
「……忍者かアイツ。つーか全裸だったらタイツじゃないじゃん」
あえて相手に聴こえるように声を大きくした。青く透き通った空に、彼女の声が溶けていく。
「それはどうかな!」
ここで、初めてタイツがこちらを向いた。しっかりと皮肉を受け取ったようだ。
「ただの変体全裸仮面じゃん…って、あれ?仮面??」
コイツに新たな名前を付けてやるか、と軽い気持ちで振り向く彼に更なる皮肉を放った彼女は、その時ある違和感を覚えた。
タイツは全裸だったが仮面だけは元のままだ。いや、よく見るとそのマスクは真新しい。
「仮面のスペアは私が持ってました」と ブロフェルド。上方で、カラスがガァーガァーと小うるさく鳴いて飛び回る。
「ふぅ〜ん」とミユキ。空ではバラバラバラバラ…と、今度はかなり大きく喧しい音が近づいてきている。
「残念ながら兄さんのお顔は見られなかったんですけどね」と本当に残念そうな妹。乱れた髪を櫛で直している。
「チン○ならいくらでも見せてやるぜ!」とイチモツをブラブラさせる全裸仮面。それなりの大きさのブツが揺れる。
相変わらずな2人。いろいろ忙しかったが、何とか事は終息したようだ。やられっぱなしだったミユキはホッとした。
と、先ほどのバラバラと五月蝿い音が、今度は轟音となって頭上を通過した。ついでに何か大きな物が過ぎていく。
更に、なにか…上で喧しく声が振ってくる。何か、報道じみた内容の――――そこで、ミユキは漸く重大な事に気付いた。

「……って、ゲェッーーーーー!!!なんじゃこりゃああああーーーーーーー!!!」

眼前は完全に"開けていた"。そう、あの閉塞感が完全に抜けている…文字通り。

ビルは、上半分が完全に消失していた。


466 :名無しさん@ピンキー:2007/04/03(火) 23:19:19 ID:be1u2CYe
「で、兄さん。一つ聞きたいことがあるんですけれど」
「ん〜?」
頭上の報道ヘリと下界の喧騒――すごい数の野次馬が集まっている――を前に、タイツは余韻に浸っている。
ブロフェルドはそんな彼の剥き出しのブツを気にも留めずに真剣な顔で声を掛けてきた。
ちなみに、ミユキは逃げる場所などないのにあちこち走り回っている。結婚前の乙女なのに…という悲鳴が聞こえる。
それを面白がったのか、かえってカメラの集中を浴びる結果になっている。こんな所でもやられてるんですか、姉さん。
ブロフェルドは一回せき払いをすると、改めてタイツを見た。"顔だけタイツ仮面"は頭上を回るヘリにピースしている。
「どうやって、あれを倒したのですか」
「ん〜?何のことかな?」
わざと甲高い奇妙な声で返事を返す。質問を質問で返すなど、人が人ならタイツは既に殴りつけられている。
「…彼女たちですよ。亡者と化した連中を、どうやって…?」
そう言って彼女は視線を地面のある一転に向けた。
そこには何時ぞやと同じように仰向け大の字で倒れている女の体がある…かつて"姉"だった者の死体だ。
「――女戦士だからだろ。俺を誰だと思ってんだ?」
くるっとこちらを振り返り真顔でそう言い放つタイツ。近場で見るとちょっと"しっとマスク"っぽい。
「連中が大技で消耗したのは幸運だったな。あとは屠るだけだっぜ」
「……」
答えになってなかった。ブロフェルドは少々恨めしそうにタイツを見たが、すぐに諦めて視線を外した。
そして自分の考えで答えに辿り着こうと試みた時…すぐにその答えに気がついた。
"屠る"椎根と"弄ぶ"寸那。その源流となる拳・耶羅隷(やられ)宗家――なんという後付け設定。
源流と呼ばれる所以を、ブロフェルドはこの時に悟った。

その拳は屠ることも弄ぶことも出来る。生かすも殺すも可能。其は"倒す"ことを極意とするもの也――――

「……愚問でした」
自身の無知を恥ずかしく思いつつブロフェルドは頭を下げた。
タイツは「ん」とだけ言って、再び空と地から向けられる視線と声に向けて"全身"でアピールしていた。

「なに真面目に締めてんのよーー!さっさとズラかるわよーーーッ!?」

ミユキは、未だ無駄な足掻きを続けながらそう文句をつけてきた。


――――この後、ビルの屋上…になった場所から、3人は姿を消した。
崩れた瓦礫をどけて階下への階段を見つけ出し、その闇に消えたと報道記者は後に語る……
無論、逃げ回ったせいで目立ってしまい顔もバッチリ撮られていた魅癒鬼が後日逮捕されたのは言うまでもない。

「名前の表記を戻せーッ!」

"新"タイツ仮面・完

魅癒鬼「これで終わりかよ!って、あたしは何もやってないぃ〜ッ!」 〜終わり。マジで〜

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