386 :名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 04:59:53 ID:eRzPRZAQ
逃げる!逃げる!金細工の施された上等な装飾品のような美しいキャリアーに運ばれ、目玉が逃げる!
(某実況板で"某アニメにベアード様のそっくりさんが出た"時の「このロリコンどもめ!」連レスは異常w)
真っ直ぐ伸びる廊下をひた走る目玉。その…かつての主はよりによって自分が呼び出した物に呑まれた。
無様に絶命した主にはもう用はない。早く『本来の主さま』のところへ戻らないと――
と、しばらく走ったところで同型の目玉が待っていた。その視線は逃げる同類を見つめている。
待ち人(待ち目玉?)の到来を首を長くして待ち望んでいた"血風"の目玉は、とにかく焦っていた。
その場で足踏みでもするかのようにカチャカチャと3脚を鳴らしている。焦れているのだ。
やがて、2つの目玉が同列に並んだ。そうして並んでいるのを見ると、そいつらは一対の目に見える。
いや、実際そうなのだ。彼らはもともと対なる存在。今や一心同体となった目玉たちは並んでまっすぐ廊下の最深部へと向かう。
今こそ『本来の主さま』の元へ赴く時……とにかく今はあるべき姿に戻らんがために足を動かし続ける他あるまい―――

"新"タイツ仮面・後編 〜謳われぬ戦勝者たち〜

「―――なんだ。あの女の居た部屋はいたって普通の作りなんだな」
タイツがドアの開け放たれた一室を覗き込みながら呟く。
それは先ほどこの世から"肉体ごと"消え失せた女…"淫毒"のクリスタトスの出てきた部屋だった。
彼女の出てきた部屋はそれまで見てきた殺風景な2部屋とはまるで違っていた。
玄関の足元を見ればブーツやクマさんのスリッパが並んでおり、玄関脇には造花を飾った花瓶まである。
壁には陰陽を巧く表現した貴婦人人物画が掛けられており、足元には玄関マットまで丁寧に敷かれている。
それまでの部屋に比べれば"生活感"を十分に感じられるものだったので、タイツは意外に思って驚いていた。
「ねぇタイツ!見て見て!他の部屋も割と普通だよ?」
まるで新発見に胸躍らせる探検家の如く興奮気味に喋るミユキ。無遠慮に扉を開けて中を覗き見ている。
「おいおい。勝手に人ン家を開けまくっちゃいかんだろう。常識的に考えて…」
「だって、ブロフェルドが言ってたじゃない。"人の気配が全く無い"って」
果たしてそれはブロフェルドの言葉を裏づけるものだったか、各部屋ともに生活感こそ溢れていたが肝心の住人が居なかった。
部屋に荒らされた形跡などは無く、かといって奥に引きこもってるだけ…でも無さそうなのタイツも気配で察知できる。
本当に、部屋には誰も居ない。物は多いのに伽藍としている。例えるなら張子の虎のような状態なのだ。
かつて居た部屋からして舞台が廃マンションの類だったならばまだ納得できただろう。
だが、このマンションには生活の跡がある。臭いがある。今の今まで平和だった、その名残がタイツらには感じられる…
「一体住民は何処に――……」

ギイィ…タイツが言った直後、まるでそれに呼応するかのように廊下の最奥部の、赤い扉がひとりでに開かれた。
「……。向こうは早く来いと言ってるな。よぅし、いっちょ応えてやるか。」
タイツはそう自慢げに言い放つとケンシロウよろしく指をバキボキ鳴らしながら悠然と進み始めた。


387 :名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 05:01:26 ID:eRzPRZAQ
「さぁて、この先には蛇が出るか鬼が出るか、女戦闘員が出るといいなぁ〜―――って、うわあああッ!?」
蝿みたいに手をスリスリ擦りながら扉を潜(くぐ)る一行。と、その直後に彼は悲鳴を上げた。
赤い扉の向こうにあったのは、広いホールだった。パーティでも開けそうな其処に…死屍累々を形にしたものが広がっていた。
ある者は拳を奪われ、ある者は記憶は奪われた!―――じゃないが、そこではあらゆる者が様々な方法で死に絶えている。
老若男女問わず酷い死に方をしている。絞殺・扼殺・刺殺・撲殺・毒殺・射殺・謀殺・忙殺(!?)・殴殺・自殺・抹殺・滅殺…鏖殺だ。
此処は正(まさ)しく殺しの総合商社…色々な殺し方が、まるでショーケースの展示品のように雑然と並んでいる。
その犠牲者達は、間違いなく先ほどタイツたちが覗き見た部屋の住人たちだろう。いずれも凄絶な表情で果てている。
見ているだけでも死に侵されそうだ。視覚的なものだけでなく、死体群から漂う腐臭が嗅覚からダイレクトに死臭を伝える。
「うっ…」とミユキが気分を悪くしてその場にうずくまった。ブロフェルドはそれを手で支える。
「最悪だな」と忌々しげに吐き捨てるタイツ。一気に胸糞が悪くなり、厚い胸板を大きな手で掴んで胸を襲う不快感を握り締める。
「そうとも、サイアクだとも」
と、妙に芝居がかった口調の美声が後ろから返ってきた。ハッとなって3人が振り向くと……そこには人が立っていた。
まったく気配を感じさせなかった、タイツは心底驚いた風に目を見開いていた。が、ブロフェルドはその人物そのものに驚いている。
「! "碧水"のクリスタトス!」
"壁水"と呼ばれた女は――真っ白なスーツに身を包んだ妙齢の女性だった。大柄だが体格は美しいく整っている。
「ま、またクリスタトス!?そういえばそっくりね」
ミユキは改めて相手をまじまじと見つめた。よく見れば彼女は前にあったクリスタトスと名乗る2人とそっくりだ。
肩まである灰色の髪。整った顔立ちは氷のように冷たい印象を与える。そして眼、眼は――今度は黒い目が2つ、ちゃんと付いてる。
「そう。彼女もクリスタトス。"血風"・"淫毒"に続くクリスタトス"3姉妹"の一人…彼女は次女に当たります」
「…その通り。愚劣なる妹よ。お久しぶり。そして…醜き被造物ども、はじめまして。」
慇懃無礼を絵に描いたようなお辞儀でタイツ&ミユキに挨拶する"碧水"と呼ばれたクリスタトス。

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※この物語はフィクションであり、劇中に出る名称と実在の団体・人物・地名等とは一切関係ありません。

「…突然なによこのナレーション」
「彼女の2つ名は作者が適当に考えたんですけど、ググると団体名などが多数出てきたんです。偶然ですね」
「ふぅん…って、直感かよ!ちょっとはひねりなさいよ作者!」
「ひねりなさい!ひねりなさい!ひねってひねってひねりなさい!ひねりなさいひねりなさい…ってやかましいわwww」
「兄さん五月蝿い」
「はぅ」
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388 :名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 05:02:50 ID:eRzPRZAQ
…ゴホン。"クリスタトス3号"は大袈裟に咳払いをして見せた。
「ハニー&ガイを死に至らしめるため馳せ参じた。ワタシの用はキミら2人にあるがワタシの友はそうではない」
ペラペラと早口で喋る"碧水"。初対面であるはずのタイツらに馴れ馴れしく話しかけてくる。ミユキはさっそく疑問をぶつけた。
「友って、誰よ?」
「うむ。困った性格の子でね。暇潰しと称して此処のヒトたちを捕まえて、こんな風に……」
台詞の途中で彼女は足元にあった死体――もはや男か女かも分からないほどズタボロになっている――を蹴った。
「――ブッ殺し始めてしまった。ワタシゃ見てられなくて"淫毒"を連れて部屋を物色してた、ってワケよ」
飄々とした様子で喋り続ける。彼女との距離は腕を伸ばせば方を掴めそうなほどに近い。
タイツならその場を離れずに拳を当てられる距離だ。だが彼はそうしない。何故か。
「"淫毒"は途中で風呂に入りたがってネ。あの娘は綺麗好きの風呂女だから金目の物よりお風呂場を主にして見て回ってたねぇ」
アゴをさすりながら思い出すように話す。タイツはもう彼女の駄弁りに耳を貸してはいない。どうしてか。
それは……それは怒りだ!もう怒りしかない!タイツは相手への憤怒を溜めていたのだ!そしてそのチャージが、炸裂する!

「なんて分かりやすい悪役だ!何の気兼ねも無しに屠れるぜ!喰らえ!正義の肉ぼ―――「きゃああああーーー!!」

タイツが躍り出んとした刹那!部屋の片隅から悲鳴が聞こえてきた。タイツはビクリとしてその場で止まってしまった。

「貴様のその声が…妹に似ている」
ドスの効いた声。見ると、そこにセーラー服のおかっぱ少女の首を腕で絞めて羽交い絞めにしている異様な風体の女が立っていた。
そいつは、西洋人のような金髪を後ろで括ってポニーテールにして垂らしている、背丈の低い若い娘だ。
それだけなら至って普通だが、格好が異様すぎる。
まず、顔の半分近くを覆う大きな眼帯が両目を覆っている。水中眼鏡を思わせるそれはレンズも無く、蓋が完全に眼を隠している。
あれでは前がまるで見えない。タイツとミユキはその装備に奇異な印象を受けた。
次に格好。和服を着崩した感じの姿だ。胸元を締めずにだらっと流しているため、前が露出している。
しかも、下に何も着けていないのだろう、肌蹴た部分からは白い素肌がそのまま出てしまっている。小さいが形の良い乳房が見える…
「なにあの凄い格好。俺を誘ってるのか?犯すか?」
タイツがさっきまでの殺意を奥に追いやって前の女の恥ずかしい格好…の一部に注目し鼻息を荒くする。が、相手は取り合わない。
「い、いやああ!離して!おねがいぃ〜ッ!」
「本当によく似た声だ。あの妹もそんな風に情けない悲鳴を上げてくれたら心地好いのだが…くははは」
必死で抵抗する少女を弄びながら、和服に眼帯のポニテ女は意地悪く笑った。



389 :名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 05:03:37 ID:eRzPRZAQ
「いつまで遊んでいるつもりだね。ドラッグス」
「んん〜?その声は、"碧水"の。」
声を聞いて顔をあちこちに向けてさ迷わせるドラッグスと呼ばれた女。その挙動の最中に腕に何気なく力が入り、
捕まっていた少女の、締められていた首がボギッと鈍い音を立てて折れた。ドラッグスは「あら」と気の抜けた声を上げる。
おかっぱ少女は顔から生気が失せ、半開きの口から血を滴らせた。即死だ。そのまま、つまならそうにしたドラッグスに捨てられた。
「あ〜ああ。まぁたうっかり殺しちまった。だから遊んでる最中に話しかけるなってのにww」
その女は――その死にたいしてまるで頓着が無い様子で軽々しく話し、少女の遺体を踏みつけた。
荒々しい口調は男っぽく、眼帯で覆った状態からでも窺える端正な顔立ちからはかけ離れた、低俗な印象を相手に与える。
「声からして、いるのは件の3人だな?よく来たな。待ち焦がれたぞ。待ちすぎてつい殺しすぎちまったがな。」
カカカ、と笑う姿も忌々しい。ミユキはそう思った。彼女は、実に分かりやすい"悪"だ。命をゴミか何かとしか考えてない感じだ。
「タイツ仮面って変態ヒーロー。ミユキとか言う戦闘員。そしてぇぇ……」
そこで一旦、口火を切った彼女はさっき殺した少女を踏み越えてこちらにまっすぐ近づく。
ガチャッ、ガチャッと重々しく、かつ派手に響く足音。見ると、彼女はレッグアーマー付きでカーキ色をしたブーツを履いている。
それぞれ片方(外側)の側面に4つの短いスパイク(棘)が仰々しく備わった攻撃的なフォルムをしている。架空の軍靴っぽい外見だ。
歩くたびに金属音が響く様も荒々しい。どこであんなの買うのか、もしくは特注か、とタイツは考えてしまった。
肌に直接着た着物と、前述のブーツが最高にミスマッチだ。そいつは傍まで寄ると、ゆっくりと恨みを込めて台詞の続きを吐いた。
「ブロフェルドォ〜…」
恐ろしい殺気が襲う。その怪しい風体の女に、クリスタトス3号は馴れ馴れしく話しかける。
「そうだよ。待ち人来たれり。これでようやく本懐を遂げられるわけだ。おめでとう。おめでとうドラッグス」
わざとらしく拍手してみせるクリスタトス。
「おっと。紹介しよう。彼女は――」
「"邪梵"のドラッグス…貴女も…」
ブロフェルドが忌々しいものに対するような声でクリスタトスの紹介に強引に割り込む。
「ドラッグス?」
2文字付けたら薬屋さんじゃん、という詮無い冗談を封じつつブロフェルドに問いかけるミユキ。
「『邪なるもの(邪)と聖なるもの(梵)の双方を併せ持つ属性』の、姉妹の一人です」
ブロフェルドは珍しく冷静さを欠いた様子でドラッグスを見ている。その尋常ならざる様にミユキもタイツも息を呑んだ。
「その通り、俺の名はドラッグス。"邪梵"のドラッグス。漸く逢えたな、ブロフェルドォォ〜〜」
自分の事を"俺"と言う娘も珍しいもんだ、とミユキ。『ボクっ娘』すら希少種だというのに『俺っ娘』とな。新ジャンルか?
そんなミユキを他所に、ドラッグスとブロフェルドは睨みあいを続ける。
「くくく…俺は今まで一度も貴様への復讐を忘れたことはない…」
そう言ってドラッグスは両手を自身の顔…大きな眼帯へと向ける。留め金を外す金属音が2度立て続けに響き、ベルトが力無く垂れる。
もはや彼女の手だけでその位置に留まり続けているだけのその眼帯を、彼女は両手の指でゆっくりと外していく。
外された眼帯はゴミのポイ捨て同然に部屋の隅へ投げられた。ポーンと軽く飛んでいって床に落ちる眼帯。
ミユキは反射的に飛んでいった眼帯に眼を奪われていたが、すぐにドラッグスに視線を戻し―――驚愕した。
「この…貴様に穿たれた眼孔が疼く度に貴様への恨みを募らせて来たのだ〜ッ」
"穿たれた眼孔"――そう。文字通り、眼帯を外した彼女の顔には目玉が2つとも欠けていた。
本来それらが収まっているべき場所には虚無があり、瞼の奥には空洞がポッカリト空いているのみだ。
ドラッグスはその目でブロフェルドだけを見つめている。その顔は憎悪に歪み、眉間には深い皺がビキビキと音を立てて刻まれる。
その様子から、眼球は無いが空いた双眸から刺すような視線を浴びせているのが窺い知れる。


390 :名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 05:04:54 ID:eRzPRZAQ
「なんか…凄く恨まれてるみたいよ?あんた…」
「…………」
ミユキは妹のことが心配になって声をかけた。その時、視界の隅、足元の方で何かがチョロチョロしていることに気がついた。
「あ、虫…じゃなくて、クリスタトスの目玉虫じゃねぇか。いつの間に?」
タイツが一早く相手の正体に気付いた。それは、2匹の脚付き台座だった。荷物は目玉。金色をした瞳だ。
そいつらはゴキブリ並みの素早い動きでドラッグスに近寄ると、あっという間に身体を登り、肩までやって来た。
更に肩から頬に跳び移り、ドラッグスの顔にぽっかり空いた2つの穴に2匹がそれぞれ辿り着く。
ドラッグスは両手を上げて目元全体を覆った。その下で目玉達が瞼に寄り添い、何やら蠢いている。
そして――ソケットに差し込むように、開いた眼孔に運んで来た物を収め始めている……ように見えた。
ギチュ……ギチ……と生々しい音が彼女の顔から聴こえ、その後すぐにCDを読み込むようなキュイイイィィィという音が鳴った。
動作と音はすぐに止み、動きを止めた2つの脚付き台座は力なく落下して床に落ちて砕けた。ドラッグスは瞼を閉じている。
あまりに不気味な光景にミユキは再び不快感を覚え、吐き気をもよおす。それを堪えて顔を上げた。
ドラッグスには――2つの目玉が備わっていた。それは金色の、綺麗だが同時に不気味さも孕んでいる美しい瞳だった。
「ふふふふふ。やっと目玉が帰って来たか。俺の目がお前に潰されたが代替品であるこいつらがお前らの戦いぶりを見ていたぞ!」
カッと目を見開くドラッグス。その目は攻撃的な色を帯びて3人を見据える。
義眼(?)であろう2つの瞳。それに違和感は無い。完全にドラッグスの"目"となって"其れ"は"其処"に"存在する"。
「"碧水"の姉妹は挑戦者であり、観察者でもあったわけだ。なぁ"碧水"の」
"碧水"はドラッグスの言葉に肩をすくめるだけだった。やれやれ、といった風情で冗談めかした態度をとっている。
「姉妹たち2人は共に隻眼でしたが、そこに貴女の義眼を入れると聞いたときは驚きましたよ…これも復讐の為、だとねw」
彼女は姉妹が捨て駒同然だったことに対しなんの感慨も持ち合わせていないのだ。ははは、と簡単に笑って済ませる。
「彼女達は大いに役立ってくれた。ブロフェルドの乱入は想定内のことだったからな。スカラマンガは気付かなかったろうが…」
「あれはオマケだったんでね。ブロフェルドの力に心が屈服してるあたり所詮は小娘。無様だったね」
「違いない。が、これでやっと復讐を成就できる。抉られた目玉の、借りを返すぞブロフェルド!」
一通り会話を済ませるとくるっとこちらに視線を戻して凄むドラッグス。3人は身構えた。
それにしても…悪代官と越後屋みたいな会話だ、とミユキは感じた。そこで、ブロフェルドに問いかけることにした。
「ねぇブロフェルド…このドラッグスって女との間に、一体何があったっていうのよ?」
「それは……」
ミユキの問いに、ブロフェルドは困惑してしまう。しかしすぐに、パッと過去の出来事をまとめて言葉に置換した。

「うふふふ…俺こそが椎根聖拳(しいねせいけん)継承者に相応しいのだ。妹なぞ吹っ飛ばしてくれるわ〜」
「まてェい!ドラッグス!そうはさせないわ!」
「なにやつ!?――て、お前は!?ブロフェルド!?」
「とぅ!たぁ!でりゃあ〜!(ビシビシッ)」
「きゃーッ!目、目、目がぁーーーッッ!!??」

「――と、こんな感じだったんです」
ブロフェルドは手短にそう語った。ミユキはそれに対して一言「はぁ?」と返すのが精一杯だった。



391 :名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 05:05:59 ID:eRzPRZAQ
「……イミフwwww」
タイツが思わず吹いた。端折られすぎて何が何だが分からなかったのだ。というか本当に意味不明。
「と、とにかく。貴女の命を狙ったドラッグスを討って、その目を潰したわけね。でも椎根聖拳って?」
単語の断片から流れを推察するミユキ。
「簡単に説明すると、私がいつも使ってる技です。この拳法には椎根(しいね)・寸那(すんな)という2つの流派がありまして…」
ブロフェルドの話にうんうんともっともらしく頷くミユキ。頭の中では(あれって拳法だったのか)などと考えている。
「――で、私たちの拳法は正確には椎根聖拳の流れをくむ"椎根蛇賦拳(しいねたふけん)"なんですけど。主に飛び道具が…」
「創始者である蛇賦汰夫(たふたふ)がネットの海の『えむえぬえる』なる天を突く偉大なる大山で修行をして拓いた拳法で…」
「代々一子相伝を常としてその長い歴史の間で継承者争いが絶えず巻き起こり選ばれなかった者には過酷な運命が待ってて…」
ペラペラペラペラ。まさにマシンガントーク。止(と)まらぬ。止(と)めぬ。止(や)みません。ブロフェルドの解説は続く。
「あ〜はいはい。もう分かったから…とにかく!それで今はブロフェルドが継承者だと。よく出来た妹だな!」
面倒くさくなったタイツが一気に捲くし立てた。このまま放っておいたらいつまでも続く気がしたからだ。その時、

「姉より優れた妹なぞいねぇ!」

突然"くわっ"と形相を険しくして叫ぶドラッグス。空気がビリビリと激しく振動しその場の4人を無差別に威圧する。
「俺はこの女の甘さでは椎根聖拳は継げないと踏んだ。だが師父は何故かこいつを選んだ!…許せない!」
一方的に恨みをぶつけるドラッグス。元の目の代わりとなる"金色の瞳"がほとばしる狂気によって爛々と輝く。
「闇討ちで潰そうとしたらよりによってコイツが嗅ぎつけて逆に俺を潰し、挙句、目を、俺の光を!奪いやがった!」
「おかげで俺は継承者の道を外れ、拳を忘れよと師父に宣告され裸で道場を負われた!裸でだ!文無しでだ!」
「他の姉妹達も追い出されたのは同じだったが連中には別の力があった!暗器だの!超能力だの!毒だの!白だの!黒だの!」
「俺とブロフェルドだけがノーマルだった!だから椎根聖拳が闘う術の全てだった!だから俺は遮二無二(しゃにむに)なった!」
「だのに!技も実力も俺のほうが上だったんだ!俺が!俺こそが!それでも師父は俺を認めようとしなかった!」
「妹は不出来だ!己が持つ"妹"の属性に引かれて誰でも兄姉と思わざるを得ない出来損ないの甘ちゃんのくせに!くせに!」
「何故か師父のボケによって継承者に選ばれやがった!組み手で一度も俺に勝ったことのない弱者が!こんな餓鬼が、だぞ!!」
「殺してやる!そう思った!だがコイツは俺の目を奪って去りやがった!姉である俺にこんな酷ぇ仕打ちを!クソッタレが!!!」
―――妹以上のマシンガン…いや、チェーンガントーク!止まらない!どう聞いても逆恨み。しかも話がループした。
一通り吐いた彼女は肩で息をし出した。はぁはぁ、と怒りの治まらない自分を落ち着かせようともせずに荒い息を吐き続ける。
「だがぁ〜、時を待った甲斐があった。妹たちから最大の標的であるタイツともども貴様を潰す計画が持ち上がった」
くい、と俯いていた顔を上げ、不安定で歪んだ笑みを浮かべて嬉しそうに話すドラッグス。"碧水"も薄く笑う。
「その後すぐにマスターから指令が下った。連中はタイツとミユキを消す。俺はブロフェルドを消す。それで共同戦線を張った」
「だが奴らは結局、誰一人倒せずに死んでいったようだな。情けない話だが仕方ない。結局、頼れるのは己だけってわけだ」
そう言うとドラッグスは前に出た。ブロフェルドも前に出る。と、同時にタイツとミユキの全身を両腕で制止した。
「――兄さん、姉さん。下がっていてください。これは私とドラッグスとの戦いです。邪魔をしないで」
最後は昔の彼女を思わせる冷たい態度になってタイツ&ミユキを言葉でもで制する。2人はかける言葉も見つからず、従う。
「今こそ俺がブロフェルドを越える時!あの時のようにはいかんぞぉ!くはははは!」
ドラッグスは足元に落ちた目玉を運んで来たキャリアーを踏みつけると高らかに笑いながら、飛びきりの恨みを込めて叫んだ。

「ハァーハハハハハァーーッ!!……あの世で俺に詫び続けろォー!!ブロフェルドォォーーッッ!!!!」

"邪梵"のドラッグスが"地縛"のブロフェルドに向かって突進する!――戦闘開始ッ!


392 :名無しさん@ピンキー:2007/03/21(水) 05:20:41 ID:eRzPRZAQ
しばらく来れなくなる前に決着を着けようと猛執筆中。
クリちゃんをミユキ2号にする声が多いのに驚きました(感想有り難う御座います!)
今回に限っては…彼女らは3姉妹止まりです(ゴメン)

"血風"…殺傷力のある小物や不意打ちが大好き。ヘビースモーカー。レズ。
"碧水"…慇懃無礼。似非淑女。悪趣味。手癖が悪い。口調がキモイ。
"淫毒"…再生する処女膜(呪われてます)。風呂好き。プチ演技派。痴女(ビッチ)。

メンバーのみ編集できます