53 :名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 22:46:28 ID:64jiOZuJ
「ぁ……ぁ……ん」
ギシギシと悲鳴を上げるベッドと女の喘ぎが重なる。
冷やりとした女の柔肌も今は熱を持ち汗ばんできている。
触れ合うような前戯を済ませ、俺は上になっている肢体に手を回す。
両脇から背を通り、肩を優しく握ってこちらへ手繰り寄せる。
女も誘いに乗って俺の身体にもたれかかってくる。
その大振りな胸が俺の厚い胸板と合わさり、軽く潰れる。
「ん…」
それに感じたのか女が吐息を漏らした。その甘い息が俺の頬を撫でた。
女はそのまま、俺と強く抱き合ったままゆっくりと悶え始める。
眼前で淫らに蠢く女の頬へ左手を伸ばして顔を寄せ、口付けをする。
数秒、女の瞳と俺の眼の視線が交じり合う。唇も、舌も重ね合う。
そしてどちらともなく淡い結合を解き、唾液の糸もすぐに空中で溶ける。
「ふふ…」と女が妖艶に哂う。俺も少し気分が良かった。
「貴方って、ほんっと無愛想なのね〜」
「なんでだ?」
「だって、始める前からずっと無表情なんだもの。変わんないから逆に面白いの」
「つまらない、とか思わないのか?」
「ううん。全然♪」
そう言うと女は翡翠色の長髪を揺らして俺に抱きつき、自分から俺を求めに来た。
いよいよ、か。俺は脳裏でそう考えた。

だがそれは…この流れに乗るものではなかった。
俺はこれから――この女を殺さなければならないのだ。


54 :名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 22:57:33 ID:64jiOZuJ
――女を抱きたくなる。正義の味方にだってそんな時はある。
たとえ相手が、敵側の戦闘員であろうとかまわない。

…俺は今、半分"任務"でこの女を抱いている。
『組織の末端から情報を聞き出す』そう言われた。
"ウチ"の組織が何処からか嗅ぎ出したのだ。
詳しく聞くと"結社の雑魚が身体を売っている"。そういう内容だった。
「お前、行ってきたらどうだ?」と下卑た笑みを浮かべた同僚に促された。
そいつは別件の捜査があるため、俺に話を持ちかけてきたのだ。
自分としては断る理由はなかった。ちょうど予定も無く、戦闘疲れも残っている。
なにより先に述べた通り、そんな気分だったからだ。

写真は既に撮られていた。当然隠し撮りだ。
ウチも趣味が悪い。わざわざ加工して容姿が分かりやすいようにまでしていた。
お陰でこちらは簡単にターゲットを発見できた。
見た目は自分より少し幼い、大学生くらいの年恰好だ。
そいつは街中で自分からアピールしてきた。手間が省けたというわけだ。
後は言うまでも無い。そいつの商売に乗って――ついでに愉しませてもらう――でもって尋問するだけだ。

俺は女を抱いたまま、詰問口調で口を開こうと…したところで先制された。
再び唇を重ねられたのだ。やれやれだぜ。


55 :名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:17:07 ID:64jiOZuJ
その口付けは、やけに長く感じた。
実際は数秒だろうが…その間には妙な沈黙があった。

2度目の接吻を済ませた直後、女は口を開いた。
「ね。そろそろ…」
潮時か。そう確信した。だが若干の諦念もまた、あった。
「あぁ…」
何故か俺の口からは諦めの声が挙がった。相手からすれば単なる応答と取られたのだろうが…
上体を起こす女。その手が自身の秘所へと向けられる。
そうして俺の股間へと、十分に誇示されたソレに近付く、その刹那、

俺は両手を交錯させ、叫んだ。
「―――碧玉の威光よ!わが身に降りよ!」

そう叫んだ直後、重ね合わせた手の平から聖なる光が迸る。
俺の異変に女が一瞬唖然とし、すぐにハッとなって我に返った。
すぐに身体を起こして騎上位の姿勢で叫ぶ、「お前は――」
彼女の形相が憎しみを帯びる。そして長い髪がふわりと持ち上がった。
そうだ。俺はお前の敵…

「聖石戦士!ギョクレンジャー!」

あっという間に俺の身体は碧緑のボディースーツ――本当にウチはいい趣味をしている――に包まれた。
説明する気など無い。瞬着された俺の姿は、まさに戦隊ヒーローのそれへと変わったのだ。
「あ…ああ…」
女が騎上位のまま自分の髪を掻き乱す。その様も徐々に変貌していく。
日本人らしい黒い瞳の色は髪と同じ翡翠色に染まり、長い髪はますます持ち上がっていく。
「悪いな。そういうわけだ。」
「畜生!」
女が髪の中から短刀を取り出して俺に突き立てようとする。
だが所詮は雑魚。俺には止まって見える。
片手で武器を払いのけて、白く輝く手の平を相手の胸に当てた。
当たった瞬間、電撃が相手を襲う。
「ぅあっ!」とショックで仰け反る女。
光はすぐに失せ、短刀が床に落ちて金属音を鳴らすのと同時に彼女の肢体が俺に倒れ掛かってきた。


56 :名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:36:21 ID:64jiOZuJ
「…脱着」
ボソッと呟くと、ボディスーツは光の粒子となって俺の両手の甲に収まって消えた。
後には静寂だけが残された。
…いや、俺の胸の上で意識を失っている女の荒い息遣いだけが俺の耳に届いている。
部屋は行為を始める時に電気を消していたので真っ暗だ。
それでも、カーテンから指すネオンの光が、辛うじて互いの姿を認識できる程度の明度を保ってくれている。
そのお陰で俺は彼女の顔をしっかりと眺めることが出来た。
「すぅ…」
やがて女の息が柔らかなものになる。
出力は抑えてあるので火傷もないようだ。肌を触ってもちょっと腫れている程度で済んでいる。
俺は女を両腕で包んでしばし余韻に浸ることにした。
女の顔をみる。…よく見ると目には涙が。痛みのせいか、それとも…

プルルルルルッ

俺の思考を携帯の着信音が遮る。画面を見ると、俺を誘ったあの同僚の名前が表示されている。
面倒だが出ねばなるまい。俺は携帯を手に取った。

「もしもし」
「よぅ、どうやら終わったようだな」
「なに?」
「ははは。悪いね。観させてもらったぜ。お前のプレイをな」
「…この変態め」
「お前だってなかなかのモンだぜ」
「変態は否定しないのか」
「ああ。俺もあのテの変則プレイは好きだぜ!イェア!」
「…切るぞ」
「ちょ、ちょっと待てよ。まだ用件が済んじゃいねぇ」
「なら早く言え」
「ああ。お前の可愛い彼女が起きる前に済ませてやるよ」
「誰が彼女だ」


57 :名無しさん@ピンキー:2006/07/15(土) 23:52:56 ID:64jiOZuJ
……ピッ。少しの会話の後で俺は通話を断った。
「…なんて?」
気付くと女が顔だけ起こしてこちらを見ている。その目には相変わらず涙が浮かんでいる。
「お前を連れてこいってさ……夜が明ける前に」
「せっかちね」
「そうだな。だがまだ夜中の2時だぜ」
そう言いつつ、俺は彼女の涙を親指の腹で拭ってやる。
彼女は抵抗することなく、むしろ自分から顔を寄せて応じた。
「丑三つ時ね」
「そうだな」
その目は元の黒に戻っている。眼差しは先ほどの交じり合っていた時のものに戻っている。
そこに憎しみも、敵意も無い。
「あたしは末端だから、機密なんてちっとも知らないわよ?」
「初っ端から期待なんてしていない」
「あら。酷いのね」
文句を言ってむくれる女。手を伸ばして俺の髪を弄る。
「ああ。もうちょっとやり方があったな」
「痛かったわよ。とっても」
口を尖らせる女。俺は両手でその胸を、先ほど痛めつけてしまった部分を撫でた。
優しくマッサージを施す。その時彼女が漏らした甘い声が若干、久しく感じられた。
「悪かっ…」
俺は申し訳ない旨を伝えようとして、またも口を唇で塞がれる。
女がすぐに離してこちらを真正面から見つめる。
「だ〜め。どうせ謝るなら、こっちで示して」
そうして互いの股間に指を刺す。なんて甘美なお誘いだ。
本当に、やれやれだ。
半分任務――半分戯れ…気紛れが過ぎた結果がこうだ。笑える。
「そうだな。では、楽しむか」
「あはっ…」

彼女が俺の方に両腕を回す。密着した姿勢のまま、俺たちは性のリズムを刻み始めた。


その様子を…
「……う〜わ〜。羨ましいぞこの朴念仁!ちっくしょう!俺がやっとけばよかった〜…あ〜も〜!」
ビルの影で監視していた出歯亀捜査官が一人、身悶えしながら悔しがっていた。

 〜完〜

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