摂取したエチルアルコールの代謝によって生じるアセトアルデヒドを、酢酸に分解する代謝酵素。
飲酒により体内に入ったエチルアルコールは、胃や小腸から吸収され肝臓内のアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドへと分解される(式1)。アセトアルデヒド脱水素酵素は肝臓内においてアセトアルデヒドを酢酸に分解する酵素である(式2)。
CH3CH2OH + NAD+ → CH3CHO + NADH + H+ …… (1)
NAD+ : ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの酸化型 NADH : ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの還元型
CH3CHO + NAD+ CoA → + acetyl-CoA + NADH + H+ …… (2)
CoA : 補酵素A acetyl-CoA :アセチル補酵素A、補酵素Aと酢酸が結合した物質

こののち、酢酸はさらに二酸化炭素と水に分解され、最終的に体外へと排出される。
アセトアルデヒド脱水素酵素 (ALDH) は、517個のアミノ酸から構成されるたんぱく質である。このうち487番目のアミノ酸を決める塩基配列の違いにより、3つの遺伝子多型に分かれる。グアニンを2つ持っているGGタイプ(遺伝子対が両方ともGタイプ:ホモ)と、グアニンの1つがアデニンに変化したAGタイプ(遺伝子対のうち片方がAタイプで他方がGタイプ:ヘテロ)、2つともアデニンになったAAタイプである。GGタイプのアセトアルデヒド脱水素酵素に対し、AGタイプは約1/16の代謝能力しかなく、AAタイプにいたっては代謝能力を失っている。AGの活性が1/16であるのはアセトアルデヒド脱水素酵素が4量体を形成し、Aタイプが優性に活性を無力化してしまうために起こってしまうものである。
ヒトのALDHの例 [編集]

ALDH1A (RALDH)
レチナールの酸化によりレチノイン酸を作り出す酵素。レチノイン酸はビタミンAが生体内で働く際の本体で、目や骨の形成など様々な分化過程に関わる。このため、ALDH1A の機能に異常があると正常に発生が進行しない。分子量は約 55 kDa。四量体として機能する。ALDH1A1 (RALDH1)、ALDH1A2 (RALDH2)、ALDH1A3 (RALDH3) の3種があり、それぞれ異なった組織発現様式を示す。
ALDH2 (ALDH I)
肝臓、心臓、腎臓、筋肉に多く存在する。細胞内ではミトコンドリアに局在するがミトコンドリアDNAにコードされるミトコンドリア遺伝子ではなく核ゲノム遺伝子に由来する。一般にアルコールに弱い人はアルコールに強い人に比べて持っている ALDH2 の活性が弱い。 ALDH2 遺伝子には少なくとも4種の対立遺伝子が報告されているが、日本人が一般に持つのは ALDH2*1 と ALDH2*2 で、ALDH2*2 が機能喪失型。四量体として機能し、ALDH2*2 を持つ複合体は機能を持たないため、ヘテロ接合型でも ALDH2 の活性が極端に下がる。
ALDH9A1
γ-アミノブチルアルデヒドから神経伝達物質であるγアミノ酪酸 (GABA) を作る。494 アミノ酸、分子量 54 kDa。四量体として機能する。 肝臓、副腎、腎臓で高い酵素活性が認められた一方で、ノーザンブロットでは筋肉で最も高いmRNAの存在が確認された[2] 。同様にノーザンブロットにより、脳の中では脊髄で最も高い発現がみられた[3]。

 1).アルコール脱水素酵素
 アルコールは、体内では、肝臓で、主に(90%)、肝細胞内(ミトコンドリア内)に局在するアルコール脱水素酵素(アルコールデヒドロゲナーゼ:alcohol dehydrogenase:ADH)により、代謝され、肝毒性の強いアセトアルデヒド(Acetaldehyde:AcH)に分解(酸化)される(主経路)。
 ADHにより、アルコールが、アセトアルデヒドに代謝されると、NAD+が、NADH2+に、還元される。NAD+は、ビタミンのニコチン酸から合成される。飲酒量が多い(アルコールを多飲すると)、ニコチン酸が欠乏して、ペラグラ脳症などになることもある。NADH2+は、NAD+に、再酸化される。
 CH3CH2OH + NAD+ → CH3CHO + NADH + H+

 2.アセトアルデヒドの毒性
 アセトアルデヒド(Acetaldehyde:CH3CHO、AcH)は、蛋白、DNA、脂質とも結合し、化学反応を起こして、それらの一部を変性させる。
 アセトアルデヒドは、血中濃度が数μM以上になると薬理作用が現れ、血中濃度が10μM以上に上昇すると、顔面紅潮(顔面発赤)、頭痛、悪心(嘔気)、嘔吐などの、中毒症状が現れる。
 従って、アセトアルデヒドは、強い、有害作用があり、肝毒性を示し、肝細胞のミトコンドリアを障害する。
 また、アセトアルデヒドは、肝類洞壁の星細胞(伊東細胞:コラーゲンを産生している、注2)を刺激し、肝線維化を促進する作用がある。

ALDHにより、アセトアルデヒドが、酢酸(アセテート)に代謝されると、ADHの時と同様に、NAD+が、NADH2+に、還元される。空腹時や運動時など、脂肪酸のβ-酸化により、ミトコンドリア内にNADH2+が多く存在すると、NADH2+を生成するALDHによるアセトアルデヒドの分解が、滞って、アセトアルデヒド濃度が高まる。その為、空腹時などに飲酒すると、早く酔い、長く酔っていることが多くなり易い。
 CH3CHO + NAD+ → CH3COOH + NADH + H+

肝臓が、アルコール(エタノール)を、酢酸にまで分解する(酢酸への転化)には、約6時間要する(肝細胞のミトコンドリアの電子伝達系が、NADH2+を酸化する能力には、限度がある)。 酢酸は、血管を拡張する作用があると言う。酢酸からは、アセチル-CoAが生成され、脂肪酸が合成されるので、アルコールを多飲すると、高脂血症を来たす。

アセトアルデヒドを酢酸に代謝するALDH(アルデヒド脱水素酵素)には、ALDH1と、ALDH2の、二つのアイソザイムが、存在する。
 ALDH1は、ミトコンドリア外の細胞質に存在するので、アセトアルデヒド(飲酒に際して、エタノールが、アルコール脱水素酵素により代謝され生成される)の除去には、有用でない(Kmは、約100μM)。
 ALDH2は、ミトコンドリア内に局在する。飲酒に際して生成されるアセトアルデヒドは、主に、ALDH2により、代謝(処理)され、酢酸に酸化される。ALDH2の方が、アセトアルデヒドに対する親和性が高く、アセトアルデヒドは、主に、ALDH2により代謝を受ける。
NADH/NAD+比([NADH] / [NAD+]比)は、以下のような関係が存在する。
 K=[オキサロ酢酸][NADH]/[リンゴ酸][NAD+]
 なお、K=6.2×10-6。
 NADH/NAD+比は、ミトコンドリア内では0.1、細胞質ゾルでは、0.002に、維持される。

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