クトゥルフ神話TRPGやろうずWiki

B-1エンド
探索者達は常世の神の撃退に成功し、常世で出会った少女『シン』と共に現世へと帰還する。
しかし…『叫び』が消え、滅びの運命から脱した現世では少女の奇跡は消えてしまい
彼女は再び人形に戻ってしまった…。

砂漠化の原因が消えたため、調査チームは必然的に解散となる。
研究所もそのうち都心の拠点に戻るだろう。

残された研究所跡地には、２つの墓が建てられた。
その墓には

『愛する娘、ここに眠る』

そう刻まれていた。

「生きてるって、とってもすごいことなんだよね？」

丸い月がぽっかりと浮かび、白い光が二つの墓石を優しく照らしている。
辺りには、色とりどりの花が咲いている。
恐らく、クールなようでいて、実は中身が大雑把で、心優しいあの青年が植えたのだろう。

返答など来るはずもないのに、墓石の前でしゃがみこんでそう尋ねた。

なんとなく携帯を取り出して、ひとつの動画を再生する。
透き通るような、すっとした歌声が流れる。

あの旅人が完成させた、少女の歌声だ。
そういえば、馬に揺られながら、みんなでこの歌を教わったんだっけ。
その声に合わせて、少し歌を口ずさんでみる。
お世辞にも上手いとは言えない歌声に、乾いた笑い声がこぼれる。

「生きてるって、とってもすごい事だから」

繰り返すようにそう呟く。確かに生きてる事って素晴らしい事だ。
それと同時に、とても理不尽な事だとも思う。
辛くて苦しくて、誰にどう評価されようが生きていかないといけない。
自ら生きる事を手放すのは許されない。
自分の足で、最後まで一人で歩いていかないといけない。

この前、あの旅人さんのライブに行ってきた。強い意思を持った、真っ直ぐな歌声。
彼はこの先どんな事があっても、自分を見失わずに歩いていくのだろう。
彼はこれからも、生命の歌を広げるために、旅を続けていくのだろう。
あのガイドさんも、これからもこの地に根を下ろして、この地を守り続けていく事だろう。
それなら、俺はこれからどうするか。あの後随分考えた事だ。
誰かを支えられるような、誰かが困ったとき、生き詰まった時に手を差し伸べられるような。
そんな人に、なりたいと思った。
だから、行動に移さなきゃいけないと思った。

「シンちゃん、俺ね」

顔を上げて、彼女に向かってにっこりと笑って告げる。

「壱岐島に引っ越して、独立して…探偵始めてみようと思うんだ。応援してくれると嬉しいな」

ずっと暖かい所で暮らしたいと思っていた。
綺麗で、暖かなこの地に住んでみたら、何が変わるんじゃないかと思った。
環境を変えたところで、実際自分を変われるかだなんてわからない。
だけど、形から入ってみるのも悪くないだろう。

立ち上がって、空に浮かぶ丸い月をぼんやりと眺める。
笑顔が素敵な、機械に強い彼女はこれからどうするのだろうか。…大丈夫だろうか。
就職先を斡旋する約束をしていた。
お節介かもしれないが、いずれ電話をかけてみよう、と思った。

──とある日、某大手動画サイトに1つの動画が投稿された。
どこかの白い砂浜の静止画をバックに、少女の歌が流れるありふれた音楽動画である。
投稿者のHNは「Diana」。以前から自作のボカロ曲や歌ってみた動画を投稿していた人物だったが、
その動画に使われていた歌声は彼女のものではなく、曲調もDianaの作風とは異なっている。
一部のファンが質問するも、この動画についての説明はなく、彼女は沈黙を続ける。
やがて、Dianaはネット上から姿を消した。



「…………ふぅ」
薄暗い部屋の中、Diana──月長沙羅は小さく息をついた。
あの事件以来、大学へは行っていない。憑りつかれたように、この動画だけを作り続けていた。
しかし、それもようやく完成した。
後はこの動画のURLを「彼ら」に送れば、自分の仕事は終わりだ。
連絡先を確認しようとスマホを起動すると、待ち受け画面が目に入る。
設定されているのは5人の男女の集合写真。
少しの間、黙って画面を見つめる。やがて、静かにメールを送信した。
これでようやく、彼女の中での壱岐島事件は終わりを迎えたのだ。
「……終わった、か」
達成感は、ない。
倦怠感と寂寥感、そして虚無感だけが心に満ちていた。
でも、いつまでも塞ぎ込んでいるわけにはいかない。だって、自分が今ここにいられるのは──
投稿されたばかりの動画を再生し、彼女はゆっくりと目を閉じる。
「さて、と……就活、どうしようかなぁ」

──編集中に何度も聞いた彼女の歌が、サイズの合わない男物のヘッドホンから漏れていた。

この度はご同卓、本当にありがとうございました。
あの子を助けられなかったのは後悔してもしきれませんが、
とても楽しい時間を過ごさせて頂きました。
コミュ障気味な月長は一歩下がった消極的なRPをするつもりだったのですが、
あれだけ探索者仲間やNPCと仲良くおしゃべりできたのは、みなさんのお陰です。
またどこかで卓を囲むことができたら幸いです。5日間、お疲れ様でした。

「えぇと…これでいいのか？…よし、ばっちりだ」

俺は心の中で本当はわかってたのかもしれない
シンに命ある世界を見せることは叶わないってことを

それでも俺はシンにその世界を見せてやりたかった
そして、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ約束を果たせたんだ！
本当はもっと見せてやりたかったけど…それでもシンは命ある世界に触れる事ができたんだ！

シンが初めて見せたあの笑顔を
シンと一緒に何度も歌ったあの歌を
シンと旅したあの思い出を

俺は決して忘れない…全部シンがくれた大切な宝物だ

その後、俺は愛馬との旅に戻った
今は、どっか遠くの街で歌を歌い、人と触れ合い、思い出を作っている

その思い出は全部、譲ってもらったICレコーダーに残しておく
「どうだシン！これが生命ある世界だ！」って旅が終わった後シンに聞かせるためだ

「よしよし…と、時間だ…行ってくるぜ！シン！」
ICレコーダーに記録されたのを確認し、ギターと譲ってもらったあの鏡を持ってステージに立つ

「よぉ！皆、楽しんで行くぞ！」
そして、ライブは始まる
何曲か歌い、観客も盛り上がっている
そして、クライマックスに向かう
「いよいよラスト2曲だ
この2曲はどちらも『生命の歌』だ
観客の皆は、この2曲どちらも覚えて行ってくれ
そして、生命ってもんを感じてってくれ！」
「まずは…『サンドリヨン』！」
サンドリヨン…それはあの旅で俺たちが出会った見たこともない赤い花…『生命の抗い』の表れである花の名前だ
『サンドリヨン』が歌い終わり、俺は鏡の入った箱を開けた
「さぁ、いよいよラストだ！泣いても笑ってもこれが真のラスト！行くぜ！『シン』」
シン…それは俺とシンが散々歌ったあの歌だ
俺の宝物の一つだ
こうすれば、この歌と一緒にシンの名前を知らせる事ができる
俺はシンを愛していた
愛していたからこそ、シンを知ってもらいたかった
その考えからこの曲名になった

「（シン…俺は、お前の事、一生愛してるぜ！）」

そしてライブは終わり、旅人は次の街へ行く
世界中に生命の歌を届けるために

KP様そしてPLの皆様5日間ありがとうございました。
最初の方（というかよくよく考えれば全体的にだが）、謎の行動ばかりしていました
不快に思ったならば申し訳ない
しかし、シンや他のPCとの絡みのお陰でRPを楽しくでき、良い立ち位置を得ることもできとても満足しています
本当に楽しい5日間でした
この5日間の間はぶっちゃけ、どこにいてもこの卓の事ばかり考えていました
それほどにこの卓が大好きで、思い出に残りました！
また、ご一緒する機会がありましたらその時は、例の盛りシオシリーズ共々、常にパワーを求め続ける演出家ココウをよろしくお願いします

P.S. シンの歌に勝手に曲名しかもシンという名で付けてすまない……などと言うつもりはない！！(よし！オチがついた！）

砂丘が消えて、調査チームは解散になった。
あの時、行動を共にしたF班の皆もそれぞれの場所に戻っていった。
そういえば褒め上手の年上の人。あの人は何をしている人だったのだろう。
聞いておけばよかったな、なんて思いながら、ハンドルを切って国道を抜けた。
今はもう誰もいない研究所跡。俺は週に一度、ここを訪れる。
この島に残った……いや、帰ったのは俺だけだから。
そこに眠る”あの子”に会いに行っている。

「……あ」
今日は先客があったようだ。二つの墓石に供えられた赤い花束。
墓の周囲には色とりどりの花が咲き誇っている。
毎日来られる訳ではないから、俺が植えた。
あの子が寂しくないように………俺が悲しくならないように。

始めは、俺が何かしくじったのだと思っていた。
俺の所為で皆を訳のわからないところに連れてきてしまった、と。
どうにか全員を無事に帰さないといけないと、そればかり考えていた。

だけど本当はそんなレベルのことじゃなくて、それからはまた別の意味で必死だった。
あの中の誰が欠けても、うまくはいかなっただろう。そう、誰が欠けても。
………だからあの子が欠けてはいけなかったのに。

ポケットの中でスマホが震えて、着信を報せた。
メールだ。開いてみれば機械に強い彼女からで、本文に記載されたURLと、一件の添付ファイル。
ああ、できたのか。自然と頬が緩む。
すぐにそのURLとファイルを開いた。ついこの間のことなのに、懐かしい歌声が流れ出す。
そしてファイルに記された、原曲よりもキーの低い楽譜を見ながら、歌を口ずさむ。

あの気ままでまっすぐな旅人が君に教えたように、今度は俺が君の歌に習おう。

白い砂と月光に覆われていた研究所に、今はやわらかな風と太陽の光が降り注ぐ。
少女の繋いでくれた命の歌が、取り戻した故郷の砂に染み込んでいった。

そうしていつか、また花が咲くだろう。
俺は故郷に根を下ろして、それを守り、生きていく。

卓を開いてくれたKPさん、同卓してくれたPLさんたち、５日間本当にありがとうございました。
公募は久々で実は始め少し緊張していましたが、皆様のおかげですぐにリラックスでき、
とても楽しい時間を過ごすことができました。
あの子を助けられなかったことは心残りですが、皆で作り上げた物語を大切にしたいと思います。
終わってからしばらく経ちますが未だ書くべきことがまとまりません。
そのくらい圧倒的な感動を頂きました。
最後に改めまして皆様に御礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

追伸：盛りシオさんには大変お世話になりました。