『宇宙からの侵略者』

プロローグ

地球防衛機構隊員寮

「……って、ことがあって」
同居人から渡された寝巻に身を通しながら、紗希は誰かと話していた。

「そうか、報告ご苦労だった。シャイン」
彼女が話している相手の名はウルトラレディ・シルフィ。紗希、いやシャインにとっては上司であり、姉の様な存在である。

「太陽系か……、なるほどあまりこちらとしては重要視していなかった星域だったわね」
「えぇ、ですから。わたし、しばらくこちらに留まろうかと……?」
「ちょ……っ……!? どういう事よ、シャイン!」
 急に二人の会話に口を挟んできたのはシャインの幼馴染であり、相棒でもあるウルトラレディ・セレスであった。

「なんで、そんなド辺境の星域に一人留まろうとするのよ?危険すぎるわ! ねぇ、シルフィー姉さんからも……」
「よし、分かった。シャイン、お前を地球及び太陽系星域の守護戦姫に任命する。事務処理は私たちに任せてもらって構わないわ」

セレスの意に反して、シルフィーはそう冷静にシャインからの申し出を了承した。
「姉さん!?」
「シャインの実力は私もあなたも理解しているでしょう? 宇宙警備隊としても辺境といえど、守護戦姫の空白地をなるべく置くべきではない。そういう事よ」

「……ん? 紗希どうしたんだ?」
「あっ、鈴村隊員? いえ、ちょっと知り合いと……じゃあシルフィー姉さん。これで……」
「ちょ……っ!、今の男の声は何なの!?」そんなセレスの声が届く間もなく、紗希からの通信は切れてしまった。

「タダでさえ、辺境の星域でしかも野蛮な原住民のオスなんかと……。こうしちゃいられないわね!待っててシャイン!」
 そう言うとセレスは隊長室を飛び出していった。
「やれやれ……セレスときたら……、これは何かありそうね……」
 そんな事をシルフィーはそう呟いていた。

『侵略者を撃て』

1

「なんだ紗希はもう起きてたのか」
 ベットから目覚めた真は、数日前から同居人となった紗希がもう起きていた事に気付いた。
「あらっ、おはよう真。随分と早起きね」
「それはこっちのセリフだよ、それにしても窓の外なんか眺めてどうしたんだ?」
「えぇ、少し早く目が覚めたから、ちょっと空を眺めていたの」
「そっか……、ってそれにしても紗希……」
「えっ? ……って……////// ご、ごめんさないっ!?」
 思わず顔を赤らめ目をそらした真の様子に気づき、紗希は大きく胸をはだけさせた寝巻のボタンを急いではめ直すと急いでキッチンへと駆け込んだ。
「あっ、そうだ。今日は私が当番だから、す、すぐ作るわね……!」
「あ……、あぁ……」

 そんな紗希の様子を眺めながら、真はこの数日間に起きた出来事を思い出していた。
 先日、「ベムラー」と正式に命名される事になった青い光の怪獣の事。そして、その怪獣を倒した光の女神シャインの事。そしてこの事件がきっかけで亜希たちの強い推薦で科特隊に入隊することとなった紗希がこの部屋に居候することになった事であった。
「ホント、色々あったなぁ……この数日間は……」
「ねぇ、真? こんな感じで良い?」
「んっ? あぁ、どんな感じ?」
 そう言うと真は紗希を手伝おうとキッチンへと向かった。

「それにしても、星野副隊長はどうしてあの2人を一緒に?」
 同じころ、亜希と隊長である影丸そして山木や梶たちはそんな話をしていた」
「そうね……。あの2人、私の見たところだけどなかなか良いコンビになると思わない?」
「コンビ……、ですか?」

「えぇ、2人とも正義感も強くって行動力もあるじゃない?」
「確かにそうですね……」
「それに、少し生真面目で無鉄砲な真を紗希ちゃんがうまーくフォローしてくれれば……なんて思ったのよ」
「そういうことだったのか」

「ほら、噂をすれば……」
「おはようございます、隊長」
「おはようございます」
 隊員服に着替えた真、そして紗希が2人仲良く指令室に入ってきたので、周りからはクスリと笑い声が漏れた。

「どうかしましたか? 星野副隊長」
「いえ、なんでもないわよ」

「それよりも早速だが……」
「はい、隊長」
「鈴村、それに柚本。君たちに科学センターの調査に向かってほしい」
「何かあったのですか?」

「えぇ、鈴村隊員」
 そう言ったのは通信オペレーターを務める森田涼花であった。
「御殿山地区周辺で異常な電波反応と通信障害が観測されました」
「御殿山……、科学センターの近くでしたね」
「あぁ、その後から科学センターとの通信が一切とれなくなっているんだ」

「了解しました。いくぞ、紗希」
「えぇ、真」
 こうして2人は早速御殿山の科学センターへと急行すべく、地下の車庫へと降りて行った。

「さて、2人のコンビの初出動だな」
「えぇ、さてどうなるかしら」
2
「ここが科学センターか」
 2人を乗せた特捜隊専用パトロールカーは科学センターの入口へと到着した。
「どうするの、真?」
「紗希はここで待っててくれ、まずは俺が行く」
 そう言って、真は車を降りるとゲートへと向かった。

「すいません、特捜隊の鈴村ですが……」
 真は入口のインターホンでそう中に呼びかけるが反応は全くもって返ってこなかった。
「返事がないわね」
「あぁ、そもそも中に人がいるのかな……」

 その時であった。
「あっ!」
 入口を固く閉ざしていたゲートがゆっくりと開き始めた。

「やっぱり、誰か居るのかしら?」
「うーん……。よし、中に入るしかないな」
 そう言って真は無線機のスイッチを入れた。

「こちら鈴村。科学センターに到着しました」
「そうか。で、様子はどうなっている?」
「何度か呼びかけましたが反応はありません。そもそも中に人気があるのかすら疑わしいくらいです」

「なので、俺はこれから紗希隊員と共に内部の調査を行いたいと思います」
「こちら本部、了解。真、気をつけろよ」
「はい」

「よし、行くぞ。紗希!」
「えぇ、真!」
 こうして、2人は科学センターの中へと調査へと向かった。
だが、その様子を中から監視していた何者かがいた事にまだ二人は気づいてはいなかった。

「随分とひんやりとしてるな……」
 科学センターの内部は薄暗く、そして妙にひんやりとした冷たい空気に満たされていた。
その中を2人は慎重に進んでいく。

「ここまで静まり返ってるなんて、やっぱり何かがあったに間違いないな。……紗希?」
 共に歩いていた紗希が急に立ち止まったので少し驚いた。

「真、何か聞こえない?」
「何かって……、電話の呼び出し音か?」
「えぇ、向こうの部屋からよ」
「よし、行くぞ」
 2人は急いでベルの鳴る部屋へと向かい、ドアを開けた。するとそこには……

「うわっ!」
 中にいたのは、立ったままピクリとも動かなくなった科学センターの職員の姿であった。
「し、死んでるのか……?」
 異様な光景に思わず驚いてその場に立ち止まった真だが、すぐに落ちつくと職員へと駆け寄って胸に耳を当てている紗希にそう聞いてみた。
「いえ、僅かながらに生体反応はあるわ。仮死状態ってところね」
「なるほど、じゃあ助けられそうか?」
「うーん……、でもどうすればいいかまではまだ……」

「なるほど、意識を戻せるなら何があったか聞き出せたんだけどなぁ……。って事はまだ他の人も同じように固められているんじゃないのか?」
「えぇ」
「よし、ならもっと奥まで捜すぞ。それにどこかで隠れている人もいるかもしれないな。紗希はこの事を本部に」

「こちら紗希。研究所内にて職員を発見しました。ですが、どうやら動けなくさせられているようです」
「よし、わかった。紗希、そして真は調査を続けてくれ」
「了解……って、真?}
「紗希、急ぐぞ。どこかから足音が聞こえてくる」
 そう言って飛び出すように部屋を出た真を紗希は急いで追った。
「待って!真」

「確か、こっちの階段の方から……おい誰だ!?」
 階段の先の気配に気づいて真はそう叫んだ。するとその気配の主が真の目の前に姿を現した。

「君は……っ……!?」
 真の目の前に現れたのは、まるで忍者の様な装束を身にまとった謎の女性宇宙人であった。
その元へとゆっくりと身構えながら進んでいく真に、その女宇宙人は両腕を蟹のような鋏に姿を変えると、怪しい光線を真へ向け放った。
とっさに光線をかわし、真は身を丁度影になるところへと隠した。

「真!どうしたの?」
 そこにようやく紗希が追い付き、駆け寄った。
「あぁ、紗希。気をつけろこの階段の先に……」
「この階段の上に……」
 紗希が階段の紗希に目をやると、もうそこに女宇宙人の姿は無かった。

「くそっ……、逃げられたか。 紗希、すぐに俺の見たことを本部に伝えてくれ。きっとあの女宇宙人が……」
「女宇宙人ですって?」
 その一言に紗希の表情が変わった。
「んっ?紗希、どうした?」
「ねぇ、その事もう少し詳しく聞かせて」
 真は紗希に先程階段で起こったことの詳細を話した。

「……という事なんだ。どうだ、紗希?」
「なるほど、そういう事が……(その宇宙人もしかしたら……)」

「とりあえず、一旦本部にこの事を報告して戻るぞ」
 こうして、2人は基地へと帰還した。
3
「そうか、2人ともご苦労だったな」
 2人が科学センターで起こった事を本部へと報告し、戻った時すでに関係各所からの関係者を招集した対策本部が立ちあげられ、そこに各方面の面々が顔を合わせていた。

「至急これを撃退すべきだ!」
 そう声高に主張しているのは防衛隊の担当者であった。
その意見に何人かの、主に治安部隊からの参加者が賛同していた。

「では、なにか具体的な作戦は?」
「すでに想定しうる最悪の事態に対応すべく、反応弾頭はげたかを現場へと移動させております」
 防衛隊からの「反応弾頭はげたか」というその言葉に周囲がざわめいた。
それは強硬論に賛同していた者も同様であった。

「反応弾頭って……、ここ東京で本当にこれを使用する気ですか!?」
「あくまで宇宙人への示威ですが……、これが使用されないことを祈るまでですね」
「待ってください! まずは彼ら…いえ彼女たちとの交渉の機会を」
 思わず普段は冷静な梶が割って入った。

「梶、交渉といっても既に奴らは科学センターの職員を襲撃していると鈴村たちは報告してきたではないか」
「しかし、同時に鈴村君たちの報告では一種の仮死状態で死んでいるわけではないとの事です。それなら彼らにも完全に我々への敵意は無いという事なのでは……?」

「だが……」
「対策本部長、良いですか?」
 そこに梶へ助け船を出したのは影丸であった。
「私は梶の意見に賛成です。それに防衛隊の方もまだ完全に迎撃態勢を整えているわけではないしょう。ですから、その間に我々特捜隊が連中と交渉を試みる事で時間稼ぎを試みる。……というのはどうでしょう?」

「なるほど、防衛隊が北風なら特捜隊は太陽になるという事か」
「えぇ」
 こうして、特捜隊は宇宙人との交渉役として事態に当たる事となった。

「こちら、梶。予定通り科学センター前に到着」
 早速その夜、急遽梶隊員が仕立てた宇宙言語翻訳機を装備し、特捜隊の梶、真そして紗希は再び科学センターへと突入した。

「こちら、本部。了解、慎重に行け」
「了解です。じゃあ、鈴村君そして柚本君行きましょう」
「はい!」
「えぇ」

 慎重にセンター内を進んでいく3人。
「それにしても、その宇宙語翻訳機って……」
 真はなんだか疑わしいといった表情を、梶が抱える奇怪な電波音を発信し続けている機械へ向けていた。

「えぇっと……、これまで防衛軍が関わった事件に関してのデータの中から会話や言葉と思われるデータを解析して、作ったのがこれというわけです」
「なるほど……」
 (……確かに宇宙語翻訳機と言うには怪しいわね。ただ、先日のメカといい地球の技術力は凄いといった方がいいわね)
とりあえずは納得したと言った感じの真。一方でその傍らの紗希は冷静に分析をしていた。

「とにかくここは今敵のアジトと言うべき場所です。用心して進みましょう」
そう言って階段を上っていたその時である。

「誰だ!?」
階段の上から突然何者かがこちらの方へと向かってくるのを感じ、真と紗希はは思わず光線銃を構え、宇宙語翻訳機のマイクを片手に気配の方へと向けた。
すると……。

「キミタチ ノ ウチュウゴ ハ ワカリニクイ」
「き、キミは……!?」
 突然現れた声に自分の自信作をあっさりと批評され、すこし動揺しながらも梶はその方へとライトを向けた。
するとそこにいたのは水色の肌と青い髪、青色と灰色の水着型のビキニアーマーに銀色のハサミを両腕に身に付けた女性型宇宙人だった。
その姿に真も思わず見とれるそうになった。

「に、日本語……話せるんですね……」
「えぇ、ここの人たちを……すこし眠っていただいた時に脳波などを解析しましたので」
「そ、そうでしたか……」
「あなたのその機械はあまりに稚拙ですね。どうやら我々の言葉を翻訳するようですが、まったくもって煩いだけでしたので」
 そう女宇宙人に言いきられて梶は若干ショックを受けたようだった。

「ところで、君たちの名前は?そして、いったいどうしてこの星へ?」
「名前……?」
「えぇ」

「我々はバルタン……」
「バルタン星人……つまり君たちはバルタン星人と言うのですね」
 バルタン星人と名乗った彼ら宇宙人はかつて住んでいた星をとある事件によって失い、脱出に成功した一部や丁度星を離れていた事で難を逃れていた残党たちであった。
そして、彼らは新たに居住が可能な惑星を探している中で宇宙船が故障し、どこか修理可能な惑星を探している中でこの地球へと辿り着いたという事だった。

(バルタン星人……まさか……)
「どうした、紗希?」
「いえ、なんでも無いわ……」
 バルタンと名乗った瞬間、彼女に一瞬だが疑念を抱いた紗希の反応を女宇宙人は見逃さなかった。
(まさか、この地球人の女……)

「司令官、彼らはいわば難民のような存在だと言えます。 よって、我々としては彼らに対して何らかの保護の措置を取ることが適当かと考えますが」
 そう梶が無線で影丸に伝えると、影丸自ら無線を通じてバルタンへと問いかけた。
「お前たちはバルタンと言ったか、一体どのくらいの数がいるんだ?」
「20億人……」


 バルタンのその言葉に亜希や片山、そしてそのやり取りを通信の向こうで聞いていた指令室の参謀たちがざわついた。
「なんだと……」
「今の地球の人口が70億近くになっている今、20億なんて人口とてもじゃないが抱え切れる土地など……」
 そして、亜希がそのやり取りの中に割り込んだ。
「申し訳ないけど、あなた達の規模は我々人類の受け入れられる能力を越えているわ。 他の星に、例えば火星……」
「火星はダメだ! なぜなら……」
 火星と言う言葉を亜希から聞いた途端、バルタンの様子がやや動顛したのを紗希は見逃さなかった。

「スペリオリウム……」
 その紗希の一言に更にバルタンの表情が強張った。
「スペリオリウムって確か宇宙線の反応によって生成される物質で確か……」
「えぇ、梶隊員。だからスペリオリウムが存在する火星には移住できない。そうでしょ?」
 そう言って、紗希はバルタンを指差す。

「ぐぬぬ……」
「気を付けてください。 バルタンはスペリオリウムのない居住に好都合なこの星を我々の意思なんて関係なく取りに来る気ですよ」「そこまでお見通しとは」
 グッと紗希を睨みつけたバルタンは両腕のハサミで紗希へと襲いかかった。 
「紗希! おい、紗希から離れろ!」
真がバルタンへとビームガンを構える。

「ぐ、ぐっ……やはり本性を現したというわけね……」
「うるさい!こうなったら力づくで奪うまでだ!」

「なんだと!」
 そう言って真はビームガンをバルタンへと放った。
「ぐあっ!」
 そう悲鳴を上げて、バルタンはその場へとあっさりと倒れた。
「やったか!? 大丈夫か紗希?」
「えぇ……」
 首元を押さえながら、そう答えた紗希。

「2人とも危ない!」
「!?」
 その梶の叫び声で真は背後を向く、するとさっき倒したはずのバルタンの死体から抜け出るようにバルタンが現れ、2人へと襲いかかろうとした。
「くっ……!」
 梶がとっさにビームガンを抜き、バルタンを撃ち貫く。
だが、今度はバルタンの姿がスーと消えてしまった。

「消えた……いったいどこに?」
 思わず周りを見渡す3人。すると。

「フォフォフォ……」
「あっ!あそこです」
 梶がその声の先を指差すと階段の方に複数のバルタンの姿があった。

「あんなに仲間がいたのか……」
 思わず、愕然としながらも3人はバルタンへ一斉射撃を開始する。するとバルタンはそれをあざ笑うと今度は一体だけの姿へと戻った。
「分身ですか……、まるで忍者の様ですね」
「感心している場合じゃありません! すぐに追いかけなければ」
 そう言って、真はバルタンが逃げ去った屋上の方へと追いかけた。
「す、鈴村君……、柚本君すぐに追いかけましょう」
「はい」
 そうして、2人も後を追って屋上へと向かった。
4

「おい、待て!」
真は屋上へと逃げ去ったバルタンを単身追いかけた。

「くっそ……、どこへ行った!」
周囲を見渡す真。すると真の目の前に巨大化したバルタンが姿を現した。
その巨大化した姿はスポットライトに照らされ、科学センターを囲むような形で控えていた亜希や影丸、そして防衛隊の面々にも堂々と姿を見せつけていた。

「梶!何が起きている?」
「すみません、隊長。交渉は決裂です、彼女たちは地球に力づくでも移住するつもりのようです!」
「なんだって」

「よし、すぐに攻撃開始だ!」
そんな影丸の横で、ほら見たことかとばかりの表情を浮かべた防衛隊の幹部はすぐさま部下に攻撃指令をだした。
「梶、鈴村そして柚本。すぐに隠れろ!」
「はい!」
とっさに3人が物陰に隠れると、バルタン目がけて防衛隊のミサイル「はげたか」が発射され、あたりに爆風が巻き起こる。
「やったか!?」
爆炎がバルタンを包みこみ、そしてゆっくりとその場へとバルタンの体は倒れこんだ。
その様子に司令部からは歓声があがった。だが、しかしそれもつかの間であった。

「あっ、バルタンの背中が!」
一人の隊員がバルタンの死体の方を指さすと、背中の装甲が縦に割れたかと思うとそこから抜け出すようにまた再びバルタンが現れた。

「脱皮ですかね?」
「あるいは身代わりとか……」
人智を超えたバルタンの能力に一同は思わず茫然としてしまった。

そしてそれは梶達も同様であった。
「参りましたね……、あのはげたかすら無力となると、一旦我々は戻りましょう。所で紗希隊員は?」
「えっ……!?」
いつの間にか紗希がいない事に気づき、真は周囲を見渡した。

「このままじゃ……、なら私が」
シャインへと変身すべく、一人離れた紗希は胸元のポケットからSカプセルを取り出した。
「おい、紗希!何してるんだ!」
「えっ!」
紗希を探し、追いかけてきた真の声にとっさにスイッチを押すのを躊躇った紗希。
そして、その声に気付いたバルタンがその巨大なハサミを2人の方へ向けて振り払うように襲いかかった。

「紗希、危ないっ!
とっさに紗希を庇うように飛び込んだ真。なんとかハサミは二人の傍らをかすめただけで済んだが、その弾みでSカプセルは紗希の手元から離れ床を転がった。

「いたた……、どうしたんだ紗希?」
「真……、あたしは何とかするから早く!」
手元から離れたSカプセルを探すべく、あたりを見回すとビルの端に光る反応を見つけた。

「何を探して……、ってあれか。よし待ってろ」
「真!」
真は起き上がると、Sカプセルを紗希に代わって取りに向かった。

「紗希、これだな。探していたのは……」
「真、危ない!」
Sカプセルを拾い上げた真の方へとバルタンのハサミが再び迫ってきたのを見て、今度は紗希が真の方へ駆け寄った。

ドンッ!

紗希の背中に何かがぶつかってきたような衝撃を感じた瞬間、2人は思いっきり屋上から吹き飛ばされてしまった。
「うあぁあああああ!」
屋上から落下する真。そして再び宙に舞い上がったSカプセルを何とか紗希は掴み取ると、もう片方の腕を伸ばして真の腕を掴み取ると今度こそスイッチを押しウルトラレディシャインへと変身した!

「うぅ……、あれここは……」
バルタンのハサミによって突き飛ばされ屋上から落下した際に気を失った真。彼が次に意識を取り戻した時、彼の体はなにかベットの様な物の上に寝かされている事に気付いた。
そして、自分の頭上からの目線に気付き、上を見上げた。

「うわっ!シャ……シャイン!?」
思わず驚いた真に対し、シャインはホッと安堵した様な表情を真へと見せるとゆっくりと真を乗せた片手を地上へと下ろした。

「鈴村君!」
「梶隊員!」
シャインの掌から飛び降りた真の所に梶がやってきた。
「ウルトラレディに助けられたのですか」
「えぇ、また助けられてしまいました」
「ところで紗希隊員は……?」
「あっ!?そうだ紗希は……」
紗希の行方を探そうとした真。だが、シャインは心配はいらないと言った表情でほほ笑むと早くここから立ち去ることを勧めた。

「そうか……、なら紗希の事をお願いします!」
「わたしからもお願いします」
そう言って、退避した2人が司令部へと撤退するのを見届け、シャインはゆっくりと立ちあがった。

「ウルトラレディ!」 
 シャインの姿がビルの谷間に姿を現すと司令部に詰めていた亜希達からも思わず喜びを含んだ歓声が上がった。
再び現れた光の女神。その体は流れるようでセクシーなボディラインを描き、うっすらと腹筋が見えるほど程良く美しくしなやかに引き締まった体が周囲のビルの明かりとスポットライトによって夜の街に浮かび上がっていた。 

「貴様!ウルトラ戦姫か……!」
バルタンにとって宿敵であるウルトラ戦姫の姿にバルタンは敵意をむき出しにする。

「バルタン、どんな理由があっても武力で他の惑星を奪い取るなんて事はさせないわ。大人しくここから撤退しなさい!」
強さと美しさを兼ね備えた正義のウルトラ戦姫シャインは人差し指をバルタンへと突き出し、こう言い放つと悠然とファイティングポーズを構えた。
5
 こうして守護女神と侵略者の戦いの火蓋が切って落とされた。 

 まず最初に動いたのはバルタンだった。バルタンはシャインへ向けて突進し、そして大きくハサミを振り上げる。
するとシャインは両腕それをがっちりと受け止め、逆にバルタンの体を一気に力を込めて投げ飛ばした。

「うあっ!」

 そしてすかさず倒れこんだバルタンのマウントを取ったシャインはバルタンにチョップを振り落とそうとする。
だが……。

「きゃあっ!」
 シャインの華奢な右腕をバルタンのハサミががっちりと挟み込み、そしてギリギリと締め上げていった。

「うぅ……、うぁ……っ!」
 一転して苦しげな表情をシャインに浮かぶ。だが、なんとかもう片方の腕でバルタンのハサミを掴み取ると、そのまま自らの右腕から引きはがそうと試みた。

「フォフォフォ……、そちらにばかり気を取られていて良いのか?」
 バルタンのもう片方の腕のハサミが開き、シャインの方へと突きつけた。
「……っ!? しまった!」
 バチバチという音が聞こえ思わずそちらの方へと目線を向けた所に、白熱光の強烈な光と熱を食らい思わずバルタンから目を反らしたシャインをバルタンはそのまま自身の体から振り落とした。
 更に倒れたままのシャインの首元にがっちりとハサミが食い付いた。

「うぅ…… ぁ……」
(く…… 苦しい……)
 首に食い込むハサミを必死にもがいて振りほどこうとするシャインであったが、しっかりと食い付きビクとも動かなかった。
バルタンはブラブラとシャインの体を何度か振って見せると、そのまま科学センターの外へ向けて放り投げてしまった。

 「はぁ…… はぁ……」
 夜のビル街を転がりようやく十字路の角のビルにもたれるな格好となってようやく静止したシャインだが、休む間もなくシャインを追ってバルタンがハサミを鳴らしながら迫ってきていた。
なんとか立ちあがり十字路の交差点の中央に構えたシャインを取り囲むようにバルタンが4体に分身して見せた。

「「「「これならどうだ!シャイン!」」」」
 4体が同時にそう言って、シャインへ飛びかかった。

「このぉ……!……って、しまっ……!?」
左右正面からのバルタンをとっさにいなしす。だが、瞬間その姿が消えた事で分身だったとわかり本体と思しき最後の一体のいる後ろからの攻撃に備えようとした時であった。

「くっ……!」
シャインの首にバルタンの大きな腕のハサミが組みついた。

「どうした、さっきみたいに投げないのか?」
 シャインが民間人を巻き込みかねないエリアでの戦闘を避けたがっていると見たのか、そう耳元で囁いて見せる。

「くぅ……っ……!」
 出来れば科学センターの敷地内で倒すことを考えていたシャインにとって、その真意を見透かした一言に悔しげな顔が浮かんだ。
その間にもグイグイとシャインの首にバルタンの腕ががっちりと組みついていく。そして、更にもう一方の腕のハサミがシャインの胸元へと迫ってきた。

ムニッ

「きゃ…っ!な、何するのっ!」
不意に胸を突かれ、そんな声がシャインから漏れる。

そして今度はハサミでシャインの片乳をムニュムニュと揉んで、弄って見せた。
「あぁ……っ……!や……、やめなさい……っ……!」
顔を火照らせ赤面しながらも、バルタンから逃れるべく振りほどこうと体をくねらせるシャイン。だが、次の瞬間だった。

「それっ、もらった!」
「こ、こらっ!」
 バルタンのハサミがシャインの赤いビキニスーツを挟み込み、そして今にも切り落とさんとしていた。
そして、シャインの抗議も無視するようにパチンとハサミを入れると、切り落としてしまった。

「きゃあっ!」 
「ふふふ…… 地球の諸君。これは私からのサービスだ!」

思わず露わになった乳房を手で押さえようとしたシャインだったが、それを阻むようにバルタンの腕がシャインを押さえこみ。そして、更にもう一方の胸へと手を伸ばさんとしていた……

「ちょっと! 防衛隊は何やってるの?!」 
思わず司令部で亜希は声を荒げた。
出動した特捜隊そして防衛隊の攻撃部隊はシャインとバルタンを取り囲むような形で展開しているのだが、バルタンは巧みに周囲のビルとシャインを盾にするようにしている為になかなか攻撃へと踏み切ることを出来なくさせていた。

――その上……
「おおっ! シャインの生おっぱいが!」
 そんな声が隊員達の中から漏れ出す、基本的に男所帯の防衛軍の隊員達にとってシャインの露わになったバストに興奮させるもので更にもう片方のバストまで切り落とされ露わになるのを期待してさえいる者までいるのであった。

「こらっ!何見てんのよ!」
「バカばっか……、踏みつぶされちゃえばいいのに」
数少ない女性隊員からは、そんな男たちの様子に呆れ果てていた。

「ふぉふぉふぉ……、随分と良い物を持っているじゃないか」
慌てて露わになった片胸を手で包み隠すようにして押さえたシャインをそう言ってバルタンは挑発し始めた。

「くぅ……っ……///」
恥じらうシャインに追い打ちをかけるようにスポットライトが一世照射された。

「ほ〜ら、地球人どももお前の生乳が見たくてしょうがないようだな!」
「そんな……っ……、いや……ぁーー!!」
 シャインは自身に突き刺さるように浴びせられる下種じみた目線と悪意あるスポットライトの光に耐えきれず、遂に顔を赤らめ泣き出してしまった。

「おいっ!何やってんだ!」
そして、そんな男性隊員たちに半ば憤りを覚えた真はスポットライトを当てた隊員を怒鳴りつけていた。
「何って……これは状況を把握する為に……」
「ウソをつくな!お前たちがシャインの胸を見たいだけだろ!」
そんな男性隊員に呆れた真は腰のホルスターからブラスターガンを取り出すと単身、バルタンの背後へと回り込んだ。

「シャイン!今助けるからな!」
そう言って、バルタンの背中にレーザーポインターで照準を合わせるとフルパワーでビームを放った。

「うあっ!」
不意打ちを食らい、シャインから腕を離すと思わず背後を振り返ったバルタンの目に他の男性共とは違う真剣な眼差しでこちらへ銃口を向けた真の姿であった。
「地球人の男にもマトモなのがいたか……」
そう呟いたバルタンに、うずくまり胸を隠していたシャインが攻撃があった背後を振りむくとそこに真の姿を見つけた。

「貴様、シャインの生乳が見たくないのか!」
そんな罵声にも似た声が真に浴びせられた。
「泣いている女神の裸なんて、死んでもお断りだ!それに、女神を泣かしたお前は、絶対に許さない!」
そう毅然と言い返すと再びバルタンへブラスターガンを構えた。


「(真……、ありがとう!)」
そんな真の姿に勇気を与えられ、闘志を取り戻したシャインは立ちあがるとバルタンが後ろに気を取られているすきにそのまま上空へと飛びあがった。

「くそっ……逃げたか。待てっ!」
そんなシャインを追ってバルタンも上空へ飛びあがった。

「フォフォフォ……、それでも貴様はウルトラの戦姫か?」
上空高く飛び上がったシャインを追跡するバルタンが挑発気味にそう呼びかけた。

「うぅ……っ……///! こうなったのはあなたのせいでしょっ!」
そう言って更にぐんぐんと高度を上げていく。

「あぁっ!あんな高くに……っ!」
「くそっ、これでは様子が……」
 両者の姿はどんどんと高いところへと飛び上がり、地上からでは様子をうかがう事が困難になりつつあった。
それを男性隊員たちは若干残念がる様な素振りで両者の行方を暗視スコープで覗き込んでいた。
「いい加減にしなさいっ!」
 暗視スコープでシャインの行方をのぞいていた男性隊員たちを一喝したのは防衛隊で唯一の女性隊員である、的場真弓であった。
真弓はそう言って男性隊員の持っていた暗視スコープを取り上げてしまった。
「何するんだ!的場」
「いい加減、防衛隊員としてふさわしい事をしなさいって言ってるのよ……」

 そんなやり取りが地上で繰り広げられている間にもシャインとバルタンはみるみる高くへと飛び上がり、その高度は数千メートル近くにも達していた。

(この辺までくれば……)
「どうした?流石に逃げるのにも疲れてきたか?」
シャインのスピードが鈍り、そこにバルタンが追い付いてくる。だが、これがシャインの逆転の策であった。

「とぉっ!」
「何っ!」
 シャインはくるっと空中で一回転して体を反転させ、そして近寄ってきていたバルタンの体へと組みついた。
そして両者は空中で激しく取っ組み合いとなった。
 その中でシャインのパンチが勢いをつけバルタンへと放った。
だが、これをバルタンはハサミで巧みに受け止めガードし阻まれた。 
すると意を決しシャインは庇っていた右胸から腕を放すとチョップとなって振り下ろし、頑丈なハサミを叩き割った。

「わたしのハサミがっ!」
「夜空の上ならだれも見ていないからね。これはほんのお返しよ」
「くそっ……!」
自慢のハサミをたたき折られ悔しがるバルタン。

更にシャインは片手にエネルギーを集める光の輪を生みだすと、それをバルタンへ向けて放つ。すると……

「……っ……!?」
 光の輪がバルタンをかすった瞬間。バルタンのビキニ上のアーマーそしてプロテクターを綺麗さっぱり切り落としてしまった。
「丁度、倍返しって所ね」
「ぐぬぬ……、こうなれば……」
 シャインに出し抜かれ、素っ裸にされてしまったバルタンは逃げ出すようにシャインを振り払うと逃げ出すように更に上空へと飛び上がった。 

「逃がさないっ!」
 シャインはバルタンに狙いを定めL字に組むとスペリオル光線を放った。 

「う、うああああああああああああああああ!」
 スペリオル光線を受けたバルタンの悲鳴と共に夜空に閃光が走る、そしてバルタンの体は爆発し消え去った。

 「副隊長見てください、バルタンが……」
 梶が指差した方の空でバルタンの粉々に砕けたかけらが燃え尽きた線香花火のように東京湾の方に降り注いでいた。
そして、一際大きなかけらが海の中へと落ち、そして爆発して消滅していった。 

「あの光線はスペリオル光粒子の光線だったのね……」
「つまり、スペリオル光線ですね」

 「さて……、そこにいるのはわかってるわよ」
 バルタンを撃破したシャインの視線の先にはバルタンの宇宙船が浮かんでいた。 

「おとなしく、退去するなら深追いはしないわよ。それとも……」
そう言って宇宙船へ向け、再び両腕をL字に組んで見せた。

〈くっ…… 覚えておけ。 ウルトラレディそして人類諸君。我々は諦めんぞ、次こそはこの星を我々が手にしてくれよう〉

 そう、捨て台詞を言い残しバルタンの円盤は閃光と共に上空から退去していった。 

「ふぅ…… これにて一件落着ね」
 そう言ってシャインは両手を合わせ、地上へ向け光のリング状の光線を放つ。
するとシャインの姿が消えるのと同時にその光のリングの中から紗希の姿が現れた。

「それにしても…… 今回は大変だったわね……」
 先程、バルタンに胸のブラを切り裂かれ、防衛隊員のいる目の前で生乳を露わにしてしまった事を紗希は思い出し、ふと顔がほんのりと赤くなった。

 〈紗希!、聞こえるか!〉
 ピンバッチの様な形をした超小型通信機から真の声が聞こえた。

「あっ、真!?」 
「さっきから連絡がないから心配したんだぞ!隊長たちも紗希の事を探しているし……」
「わかったわ。すぐに戻るわ」

そう言って紗希は真たちへの元へ急ぐことにした。

「紗希!」
「柚本君、よかった……無事だったんですね」
「心配したわよ。紗希ちゃん」
 司令部に戻った紗希を真、梶、そして亜希たちはみな安心したような表情で迎えていた。

「すみません。皆さん、ご心配をおかけしたようで……」
「それにしても、今までどこで何をしていたの?」
「えっと……それは……いろいろと……」

「まぁ、良いわ。あとの始末は防衛隊員の男共に任せましょ。だって、あの連中ずっとシャインの胸ばっかり……」
「あぁ、あいつらは全くたるんでるな。シャインの胸が露わになったからって、それに魅入って動けなくなんて情けないにもほどがあるってもんだ……」
そんな山木隊員の言葉に紗希の顔が赤くなった。

「どうしたんだ?紗希」
「えっと……///それは……///」
「同じ女の子としてシャインに同情しちゃったんでしょ?」
「え、えぇ……」

「科学センターの研究員ですが、全員意識を取り戻したそうです」
「そうか、これですっかり一件落着だな」
「えぇ、今回もシャインのおかげで万事解決だな」
「はい、そうですね(少し恥ずかしかったけど……、真達がいたから頑張れたし、頑張って良かった)」
 そう言いながら、紗希は今回の事件で自分の果たした事を実感していた。
こうして特捜隊員は基地へと帰還したのだった。
エピローグ

「ふぅ……、ようやく部屋に戻れたな」

 二人はようやく特捜隊司令部を後にして、隊員用のマンションへと戻っていた。

「あのさ……真……?」
「んっ? どうした紗希?」
「や……、やっぱり見てたの……?その……、シャインの……おっぱい……」
そう言う紗希の顔が少し赤らめた。
「えっ! いや……俺は……!シャインを援護する為に……っ……!」
「でも……少しくらいは……」
「えっ……、いやそれは……」

「み、見たんだ。やっぱり……」
「ご、ごめん……でも、別に見ようと思ってみたわけじゃないんだ」
「わかってるわよ。いいわよ、別に……」
「でも、せっかくシャインに二度も助けられたってのに俺は全然……」
「そ、そんなことない……っ!」

「さ、紗希……?」
「あの時、真がいなかったら多分シャインは負けてたかもしれないもの……シャインだって分かってるわよ」
「そうだよな、紗希。そう言えば紗希はあの時って何してたんだ……(そう言えば、あの時紗希がシャインになった様な気がしたような……)」
ふとそう思うと真は紗希の顔をまじまじと見ていた。

「どうしたの?」
「い、いやなんでもない」

紗希に不審がられたのをみて、真はこれ以上深く考えるのはやめる事にしたのだった。

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