遠い昔、古代シルクロードの時代。

アララト山と呼ばれる高い山の麓、広大に広がる乾いた砂漠地帯。
その中に浮かぶ緑の浮島のような町があった。その町の名はバラ―ジ、町の規模こそ小さいながら、この砂漠を行き来する者たちにとっては唯一ともいえる拠点であり、独立した都市国家(ポリス)を形成している栄えた町であったはずだった。
 だが、町は何かによってひどく破壊され、通りやその周りに立ち並ぶ建物は半ば砂の中に埋もれ、そこにいたはずの人々の姿も逃げ去ったのか、はたまたこの砂の中に埋もれてしまったのかほとんど姿を消してしまっていた。

 そんな瓦礫と砂の町並みの中で唯一残されている建物、この町を治める神殿の中に一人の女性が倒れている。彼女の服装からしてどうやらこの神殿の神官か巫女を務めているようであった。そんな、彼女以外の人の姿はこの神殿のなかにも誰一人いない。

 だが、そんな彼女のもとに一つの光の球体が姿を現すと、彼女のもとへと近づき、そして彼女の身体を抱きかかえるように光のなかへと取り込んでしまった。
光の玉が消滅する寸前、わずかに意識を取り戻した彼女と何者かが会話をしていたかと思うと再び姿を消し、後にはそこにたたずむ彼女だけが残されていた。

そして時代が変わり。


千五百年以上の時が流れた現代……。

「へぇ〜、すごくきれい…… これが千五百年以上前から残っていたのね」
 
 黒髪をサイドに結った美女が瑠璃の装飾品を興味深そうに見つめている。一見すると大学生の様だが、彼女特捜隊臨時ライセンス(見習い)隊員柚本紗希はとある理由から国立の歴史博物館を訪れていた。
その館内の一つ、年代としては奈良時代頃と説明されている物が並べられた展示室、そこに一人の白人男性が近づいてきた。

「お嬢さん。それらはシルクロードでこの島国へと伝えられたものです。だから、同じ時代の物とも少し違う形をしているのです」
そう説明している外国人は学者といった感じの風貌であった。
「シルクロード……?」
「えぇ、ユーラシア大陸を東西に結んだ、今でいうところのハイウェイの事です。その工芸品ですが……」

そう男性が言いかけたところで2人のところに真がやってきた。
「あら、真?」
「おいおい紗希ったら、俺たちは遠足に来ているんじゃないぞ」
「えぇ、でもでもなんだか気になっちゃったんですもの……」
「やれやれ……、まさかジム隊員が予定を一日早めて来日しているなんて……」
「おや、すると君たちが迎えという事ですか?」
 そう言って胸ポケットから特捜隊の隊員証を取り出すと、2人は思わず敬礼をした。
「失礼いたしました。あなたがジム隊員でしたか」
「えぇ。ハロー、はじめまして鈴村隊員。そして柚本隊員」
そういって手を差し出した。
「すみません、そうとは知らず……」
「いやいや、おかげでゆっくりと博物館見学が出来ました。せっかくジャパンに来たからには、こうした施設を見ておかなければ。彼氏君も彼女のようにもっと様々なものに知的欲求を持たなければ、特捜隊員は博識多才たれだ」
「か、彼氏だなんてまだ……」
思わず動揺してしまう真、それを見てジムは少し笑って見せる。
「そうだったか、まだそういう間柄ではなかったという訳か失礼。じゃあ、そろそろ基地へと案内してもらおうか」

そうして、紗希と真、ジムの3人は博物館の外に停めておいた専用車へと乗り込むと特捜隊基地へと向かった。

特捜隊 極東基地

「隊長、ジム隊員をお連れしました」

基地へと到着した3人はすぐに隊員服へと着替えると指令室に入ってきた。すでに指令室には隊員たちが集められていた。
パリの特捜隊本部から直々に隊員が来たとあって、いつにもまして緊張した雰囲気が入った時から伝わってきた。
「2人ともご苦労だったな。ジム隊員もわざわざパリからご苦労様です」

「パリからわざわざ派遣されてきたとなると、やはりあの事件についてですか?」
梶が口にしたあの事件とは、中近東で発生している謎の飛行機の墜落事件の事であった。
数週間前に西アジアに数千年ぶりに流星群が観測された日を境に、とある空域で飛行機の失踪が相次ぎ、その捜索と調査に向かった特捜隊のトルコ支部、イラン支部の機体すらも突如として消息を絶っていたのである。
「えぇ、パリ本部としてはこの怪事件について、かなり重大視しています。そして、その解決に……」
「怪獣との対戦も豊富な我々にぜひ出動してほしいという訳か」
「えぇ、まだ怪獣とは断定できませんが、その可能性がかなり高いというのがパリ本部の見方になっています」
こうして、ジム隊員と極東支部特捜隊から選抜されたメンバー。隊長である影丸、梶、山木そして真と紗希の6人が中近東へと出動することになった。
選抜から外れた亜希や涼花たちはほかの極東基地の特捜隊メンバーとともにそのバックアップとして待機し、極東基地特捜隊がこの事件の捜査に乗り出すことになった。

「では行ってくる」
「皆さん、お気をつけて」
出発当日、基地に残るメンバーたちに見送られながらNEOビートルへと乗り込むと、香港やバンコク、デリーを経由しながらではあるが一路中近東へと飛び立ち、こうして派遣調査が開始されたのであった。


 日本を飛び立って数時間。テヘランの基地を飛び立ったビートルの機外には中近東の乾いた砂漠地帯が広がっていた。

「見渡す限りの砂漠だなぁ」
「真、みて富士山」
そう言って紗希が指さした窓の先に尖った台形の山が見えていた。
「柚本隊員、あれはアララト山といいます」
そう答えたのはジム隊員であった。
「アララト山……あれがあの……」
そう言ったのは梶であった。
「えぇ、ノアの箱舟の神話にも出てくる山です。私は一度研究であの山に登ったこともありました」

「たしかジム隊員は考古学を専攻していたとか」
「えぇ、それにトルコとイランにも赴任していました。私が今回派遣されたのも中近東に詳しいからです」
「なるほどそうでしたか」

「まもなく、問題の空域に入ります」
その操縦席の山木の一言に機内の気が一気に引き締まった。
「よし、気を引き締めてかかるぞ!」
「「「はい!」」」

問題の空域へと突入したビートル。窓の外の景色こそ先ほどと全く変わらない砂漠地帯ながら機内に緊張が走っていた。
「こちら、極東支部ビートル1号。問題の空域に入りました。今のところは……」

ガガガ……

突然、ノイズが走り、そして通信が途絶えてしまった。
「どうした?山木」
「隊長、通信が……」
その時であった。

「隊長!前方に不審な光の壁が!」
真が指さした方に謎の虹色の光を帯びて放つカーテンのような怪光線の壁が映った。
「おい、気をつけろ。あれが事件のカギかもしれん……」
「ですが……」

 光の壁を警戒し、操縦かんを傾けようとする山木と真であったがユラユラと手招きするように怪しく動く光の壁へ、機体がそれに吸い寄せられていくように近づいていった。

「だめだ!このままだとアレに引きずり込まれる……!」
必死に操縦かんを握る2人だったが、どんどんと光の壁に吸い寄せられていくビートル。
だが、影丸がとっさに何かを思いつくと操縦席の二人に指を上へと指示した。
「上昇ですか!?」
「隊長!どうして!」
「あれの発生源は地中からだ。横に逃げられないのなら急上昇してあの怪光線の手の届かない場所まで登って回避するんだ」

「分かりました……!いくぞ鈴村!」
そう言って山木が操縦かんを上昇させると、真も同じく上昇させた。

「みんな捕まっていろ!」
「はい!」
失速するギリギリの角度でぐんぐんと急上昇していく機体。
そして、その光の渦となった壁の真上すれすれを滑るようにビートルは飛び越えることに成功した。

「危機一髪でしたね……!」
「あぁ…… あの磁力の光線から逃げるにはあの力を逆に利用する方にかけるしかないと思ったが」
「なるほど、さすがは極東支部にミスター影丸ありといわれるだけはありますね」
とっさの影丸の判断力に驚嘆するメンバー。

だが、ほっとする間もなく機体がガクッと揺れたかと思うと、そのまま一気に降下し始めた。
「うわぁああああ!」
「どうした!」
「エンジン……いや、全ての計器も機械も壊れました!」
操縦席のディスプレーが暗くなり、エンジンも静かになるなか必死に再起動を試みる。だが、何の反応もなかった。
 そして、みるみる機体の先に砂漠の地表が近づいていった。

「不時着するぞ……!みんな頭を低くしろ!」
「はい……!!」
山木と真のすんでのところの抵抗で、何とかビートルの機体を砂漠地帯へと不時着させることに成功した。
だが、期待を襲った衝撃にメンバー全員が一時気を失ってしまうほどであった。

「はぁ……はぁ……! みんな無事か……!」
「え、えぇ……!」
隊長の呼びかけに応じるように意識を取り戻し起き上がった隊員たち。

「梶隊員……頭から……」
「先ほどの衝撃で打ったようですね……いたた……」
そう言って頭を押さえる梶をすぐさま紗希が機内のメディカルキットで急ぎ手当を行った。

「ほかにけがをしたものは……」
 まさに急に一生といったところで安堵する影丸たちであったが、今度はぐらりと機体が揺れたかと思うとずるずると傾きだした。
「今度はなんだ!」
「隊長……!」

ジムが窓の外を指さす。
そこには巨大なすり鉢状の穴がビートルを穴底へと引き込もうとしているところであった。

「まずいっ! 全員脱出だ!」
 ハッチをこじ開け機外へと脱出する一同。
だが砂の波に巻き込まれ、足を取られなかなか思うように抜け出せなかった。
「うわっ……!」
「紗希……!」

脚を滑らせた紗希が砂の穴を転がり、そして砂の中へと飲み込まれる。
だが、その瞬間。紗希はSカプセルを取り出すとスイッチを入れウルトラレディ・シャインへと変身した!
[newpage]

「シャイン!」
「来てくれたのか!」

 思いがけない救世主の登場に湧き上がる特捜隊の隊員たち。
シャインは特捜隊員たちに早くここから出るようにと伝えるそぶりを見せると、砂に引きずり込まれそうになっているビートルを両手で抱え上げた。
「この機体が壊されたら大変だわ。はやく、どこか安全なところに……」
 そう思い、あたりを見回すシャイン。
だが、その足元はずぶずぶと砂に埋まり、思った以上に厄介であった。
サラサラと足元を底へと向かって、流れていく砂に逆らいながら、足元を踏みしめるように上っていくシャイン。
そしてようやく這い上がりビートルを安全な平地へと据えようとした瞬間。突如、シャインの背後から砂嵐が巻き起こった。

「何っ!?」
 思わず後ろを振り向こうとしたシャイン。

だが。それよりも先に砂嵐の中から突如角のような物体が背後からシャインを挟み込んだ。
「きゃあっ!」
 背後から挟み込まれ、左右両側から挟み込まれるシャインの柔らかな乳肉。
「シャイン!」
「ぐぁああああああっ……」
 鋏が胸に食い込み、思わず顔をゆがめるシャインは体を振りよじって振り払おうとする。
だが、鋏の主はさらにシャインの肢体をぎゅっと挟みこみ、そして、そのまま穴の底へとバックドロップの様に投げ飛ばした。

 砂漠が震え、頭から砂漠へと突き刺さるシャインの身体。
「うぅ……!」
その場にもわもわと土煙が立ち上る。
そして、その砂煙の中からあの顎の主、クワガタや蟻地獄のような怪獣が頭からひっくり返ったままのシャインへと襲い掛かった。

「きゃあっ!」
 怪獣は仰向けに頭から倒れたままのシャインへと覆いかぶさると、その鋭い角のような顎をその豊かな胸へと突き刺すように振り降ろし始めた。
「ギャアアアン!」
「きゃあぁ……っ……!」
頭から振り降ろされた顎が、シャインの豊満なバストへと突き刺さり、プルンとそのたびに弾け揺れ動く。
「くっ……、このっ!」
 胸の前で両腕をクロスさせ、そして怪獣の胴体めがけて、両脚で思いっきり蹴り上げるシャイン。
後方、穴の縁まで怪獣の身体がキックの勢いで退いたのを見て、ようやくシャインは立ち上がった。

「うぅ……!」
未だに痛む胸を押さえるシャインだったが、後ずさりしながら怪獣と距離を取っていく。「飛行機を襲っていたのも、あなたね……!」
ぐっと睨みつけ、構えを取り直すシャイン。
だが、怪獣も一つ咆哮を上げると虹色の怪光線をシャインへと放った。

「ぐっ……!」
 思わず、突き出した両腕でガードしようとするシャイン。
だが、その光線によってじりじりと怪獣の方へと引き寄せられていった。
「しまった……これで飛行機を……!」
 とっさに脚を踏ん張り、押しとどまろうとするも砂の上では思うようにいかないのか、次第に前のめりの姿勢になりながらじりじりと怪獣の真正面へと引き寄せられていった。

そして真ん前まで来たところで怪獣の大あごがシャインの首を掴み上げてしまった。



「うああっ!」
 首を掴まれたシャインが苦悶の表情をうかべる。
「く、くるし……ぃ……!」
首の締まる音、軋む音が砂漠に響く。
「あっ……いや……っ……!やめ……っ……うっ……んんっ……」
怪獣の顎で首を掴まれたままネックハンギングでつられたシャインの下半身が必死にもがき、じたばたと動く。
「んっ……んんっ……!うっ……うぅ……っ……」
 顎を両手で掴み、引きはがそうとするもがっちりと挟んだそれはビクともしなかった。
「シャ……シャイン……!」
思わず穴のそばまで近づいて様子をうかがっていた真たちもそれを心配そうに見つめている。
「うぅ……っ……!うぅ……!(まずい、このままじゃ……!)」
ピコンピコンピコン……!
カラータイマーが赤く点滅を始める。この星に来てからここまで強い怪獣とは当たってきたことはなかったシャインにとってこれまでで一番の危機となった。
「くそー……!武器さえあればあの虫の怪獣なんてぶっ叩けるのに……」
悔しそうな顔を浮かべる山木。ほかの隊員たちもシャインのピンチを前にしても戦える武器がほとんど残されていないことに悔し気な様子を浮かべていた。

「あぁ……っ……!」
 誰かに救いを求めるようにシャインが片腕を上空へと突き上げる。その時だった。

突如として、何かの存在に築いたように怪獣が咆哮を上げるとつかみ上げていたシャインを放り投げた。
「きゃあっ!」
 思わず、砂の上を転がるシャイン。その間に怪獣は何かから一時逃れるように地中へと潜り逃げ出していった。

「(な、なにが起こったの……!)」
 残された余力で砂の穴を登っていくシャイン。ふと穴の上に誰かの気配を感じたが、そこで変身が溶けそのまま意識がふっと途絶えた。

「シャ……シャインが……」
「こんな強い怪獣がこの砂漠地帯にいるとは……!」
目の前で繰り広げられた光景に愕然とする特捜隊員たち。
「おい、そういえば紗希は……!?まさか逃げ遅れて……」
そう真が叫んだ時であった。

「その方なら……」
「誰だ!?」
思わず振り向くとそこには神秘的な雰囲気を漂わせた美女の姿があった。
褐色の肌に絹糸のような美しさを持つ髪、そして妖艶さと神秘的な衣装。それは中東系でもなければヨーロッパ系でもアジア系でもない、いやそのさまざまな要素の美しさを湛えた彼女とその腕の中に力なく身を委ねている紗希の姿があった。
「紗希……!」
「先ほどのアントラーの気配を感じ、ここまで来ましたところこの方が倒れておりました」
「そうでしたか……っ……ってあなた日本語が?」
そういった真にジムは英語で聞こえるぞと話す。
だが、その謎の美女をそんな騒然とする回りに対し、こう話を続けた。
「わたくしたちの一族には不思議な力が宿っております。なので、この言葉はあなたたちの心へ直接語り掛けているのです。申し遅れましたわたくしはチャータムと申します」
「こちらこそ、よろしく……それにしてもアントラーとはあの怪獣の事ですが?」
「えぇ、とりあえずここにいると危険です。はやくバラ―ジの都へ……!」

 そう促され、特捜隊はチャータムと共に砂漠をかけていった。すると砂の向こうに微かに城壁が立ち並ぶ城そして町へとたどり着いた。

「ここがバラ―ジか……」
ジムがそう呟いた。

町はかつての繁栄を物語るような華やかな建物が立ち並び、それはまるで物語の世界にでも入り込んだようであり、通りですれ違い、見かける人々は見慣れぬ客人を見て何かを話しているようであった。
「何を話しているか、わかりますか?」
そう影丸はジムに尋ねた。
今回、ジムが極東支部特捜隊の調査に同行したのは、彼が特捜隊の中でも西アジアについて研究していた人物であり、自身もテヘランやアンカラに駐留しており、現地の言語にも精通していたからであった。
だが、そんな彼でもってもこの町の人間の言葉は理解できないように首を横に振った。
「いいえ、おそらく我々が知るずっと以前の言葉なのか、それともこの環境下で独自の進化を続けた言語なのか……」
「町の皆さんはあなた方を歓迎しております。この町は大昔から旅人をやさしく迎え入れてきましたから」
そうチャータムが話すと、どこからかは音楽が聞こえてきていた。
その音色も初めて聞く聞きなれない神秘的な音色を奏でていた。

「大昔の旅人はどうして、遠い地で話すことができたのだろう?そう考えたことはありませんか? それは大昔の我々には私の様な力を皆持っていたからなのです。もっともほとんどの方は長い中で失っていったようですが」

 そうしているうちに、一行がたどり着いたのは町の中央にある神殿であった。
「ここが私の神殿です。どうぞこちらへ」
 神殿のなかは荘厳な雰囲気であった。
かつてのシルクロードのオアシスらしく、装飾品は洋の東西の要素を合わせたような神秘的なデザインで少し薄暗い気配の空間でも耀く彩っていた。
そしてその神殿の祭壇に御簾に隠された何かがそこにはあった。

「あれは……?」
「あれが私たちの神、ノアの女神です」
 そういって御簾が開けられると、隠されていたそれが姿を現した。

「ウルトラレディ……」
「シャイン……」
「いや、少し違う気がするが……」

 そこにあったのはシャインに似た姿をした戦姫の姿をした像があった。
 その片手の掌には蒼く輝く石が据えられていた。

「数千年前、この地に出現したアントラーをこのノアの女神が鎮めた。とされています」
 チャータムが話したのはこの地に伝わる伝説であった。
数千年前、空から落ちてきた火の玉と共にこの地に出現し街やそこを訪れる旅人を襲ってきたアントラーをこのノアの女神が、青い石の力でもって砂漠の砂の中に封じたこと。そして、それ以来平穏がこの地には訪れていた事であった。

「以来、この地はノアの女神とこの青い石の力の加護によって護られてきました」
「そうだったのか……」
「シャインの仲間はこれまでも、地球へ来ていた……という事か」
そう口々に話しながら像を驚いた顔で眺める隊員たち。ただ一人紗希を除いて。
(あの姿、確かどこかで……それにあの青い石から感じられる反応はおそらく……)
「どうかしたのか?紗希」
「いえ、何でもないわ」
(まさか……)

そんな様子の紗希に不思議そうに話す真。
それをチャータムも見ていたが、その時ふと梶が訪ねた。
「でも、それがなぜ最近になって……」
そう尋ねられ、顔を曇らせるチャータム。
「えぇ、ノアの女神によって結界が張られ、アントラーは封じられておりました。ですが……」
チャータム曰く、数週間前にこの地に落下した隕石の影響で封印の力が弱まり、そのすきをついて再びアントラーが目覚め、地上へと現れるようになったとの話であった。
「なるほど……、つまり、こいつをここから出る前に何とかしないとな……」
「あぁ……」
「すでに日は暮れてきました。夜はより危険が増します。今晩はここに御泊りください」
こうして、一行はチャータムの神殿で明日に備え、滞在することにしたのであった。 
「チャータムさん。いえ……」
 神殿のバルコニーに佇んでいたチャータムのもとに紗希が現れた。
「すでに私の正体に気づいていましたか。柚本紗希隊員、……いえ、シャイン」
そう言うとチャータムの髪の色があの青い石と同じ色へとスッと変化した。
「えぇ、あなたのことは直接の面識はありませんでしたが」
「そうですか……」
チャータムは紗希に、自身の正体を伝えた。
そうチャータムの正体はシャインと同じく、光の国の宇宙防衛隊員であったのである。

「私がこの地へとやってきたのは数千年前。あのアントラーが現れた時です」
数千年前、彼女が訪れたた時すでにバラ―ジの都は壊滅状態であった。
彼女はそれを力のすべてで封印し、そして彼女の持つスペリオルエネルギーを結晶体として変化させ、結界と封印としたとのことであった。

「アントラーは並みの戦姫の力ではかなう相手ではないかもしれない。それはわかっています。でも、このままだとアントラーはこの砂漠の結界を破り、外へ抜け出てしまいます。そうならないために……」
そう言ってチャータムは紗希へと手を差し出した。
「手伝っていただけますか?ウルトラレディ・シャイン」
「えぇ…でも、昼間のように私の力だけでは……」
「それなら、私にも策があります。だから、お願いします」


その翌朝である。

「チャータム!アントラー!」
そう言ってチャータムの神殿へと駆け込んできたのは、傍仕えの女官の老婆であった。
「なんだって、もう来たのか!」
 アントラーという言葉を聞き、とっさに立ち上がる。
 「よし、俺たちも行くぞ!」
「はい!」
 神殿の外へと出るとこのバラ―ジの町を囲んでいる城壁の一角が崩れそこから砂煙が上がっているのが見えた。
「あそこだな!」
そして、その方向へと皆は駆け出した。
 すでにアントラーは城壁を突き破りバラ―ジの町へと侵入してきた。

「ここまで早くここまで侵入されるとは……このままではこの町は滅んでしまいます。バラ―ジが滅ぶ時が来たのです……」
 そう呟くチャータム。
町の人々はアントラーから町を守ろうと思ったのか集まってきていたが、アントラーとの大きさの違いに恐れのおののき、逃げ出していった。
「どうします?隊長」
「ブラスターガンだけでは心もとないが……」
「隊長、一応これを……」
 そういって梶が手渡したのはプラスチック爆弾と粘土で封をした小瓶であった。
「ビートルから回収した分と、あとはあり合わせで作った手りゅう弾ですが……」
「よし……、行くぞ!」
 そうして、特捜隊とアントラーとの戦いが始まった。
わずかに手元にあったブラスターガンとプラスチック爆弾。そして手製の手りゅう弾で果敢に挑む特捜隊であったが、シャインすら苦戦させたアントラーの前には全くの無力で足止めにもならないような有様であった。
「ちくしょう……、やはり手も足も出ないか……」
その間にもアントラーはひるむことなく、バラ―ジの町の建物を突き崩していく。
そして、その中の一件の建物に手をかけた時であった。一人の老婆がアントラーの前に飛び出し杖を振り上げ、何かを叫び散らし始めた。
「どうしたんだ。あのおばあさん」
「あの家の住民なのかな?」
 だが、そんな老婆には目もくれず目の前の建物を破壊していくアントラー、そしてその破片が老婆を直撃した。
「あぶないっ!」
 倒れた老婆へと慌てて駆け寄る紗希。
当たったところが急所ではなかったので、けがはしていたが何とか命に別状はなく気を失っていた老婆を背負いあげると、他の隊員たちと共に退避を始めた。
「いったん神殿まで戻りましょう……」
そうチャータムに促され、他の町の人々と共に神殿を目指す。
だが、真は途中でその中にさっきまで近くにいたはずの紗希がいないことに気づいた。
「あれ……?紗希は?」

そのころ、紗希は町の大通りから一歩路地に入った、すこし小さな噴水のある広場にたどり着いていた。

「はぁ……はぁ……ここなら……」
そう言って、老婆を広場のベンチに置くと、ふと空を仰いだ。
アントラーのあの鳴き声と建物が崩されるたびに起こる轟音と振動がだんだんと大きく、近づいてくるのが解った。
「あのアントラーに果たして勝てるの……?」
前回、戦った時は手も足も出なかった相手。
「いや、やるしかないわ!」
だが、チャータムの頼みとこの町、そして仲間を守るため意を決した紗希は再び戦う決心を決め、胸ポケットからSカプセルを取り出すとウルトラレディ・シャインへと変身した。

「シャイン!」
姿を現した戦姫に思わず歓声を上げる特捜隊。
そして、それとは別にノアの女神の再臨にバラ―ジの町人たちが祈るようにひれ伏した。
(シャイン……、頼みましたよ……)
そんなチャータムの願いにうなづくような素振りを見せ、シャインはアントラーへと対峙した。
「アントラー!これ以上好きにはさせないわよ!」
こうして、シャインとアントラーの再戦の火蓋が切って落とされた。

「とおっ!」
先に動いたのはシャインであった。
これ以上バラ―ジの町を壊させないためにも、シャインは腰を落とした姿勢でアントラーの懐へと飛び込むと、そのままがっちりと組み付き町の城壁の外へとぐいぐいと押し出た。
だが、アントラーも反撃とばかりに砂煙を周囲へまき散らす。
「うあっ……!」
思わず、手で顔を押さえるシャイン。
そのすきにアントラーは砂の下へと潜り、そして。
「きゃっ!」
不意に足元が崩れ、バランスを崩しそうになったかと思うとシャインの真下からアントラーは脚を大顎で引っ掛けてその場に倒した。
倒され、四つん這いになりながらもアントラーから離れて立ち上がる。
だが、そこへアントラーが背後から磁力光線をシャインへと浴びせた。
「ぐぁ……っ……!」
じりじりと背後のアントラーへと引き寄せられていくシャイン。
そして、またもアントラーの大顎に背後から捕らえられてしまった。



「うぅっ……っ……!」

両サイドから大顎に挟まれ、ぎゅっと変形し突き出されるシャインのバスト。
両腕でこれ以上鋏潰されまいと抵抗するが、顎のとげとげが乳肉へと食い込み、その端正なマスクを歪ませる。
そして、顎を左右に振らせていく中 顎がシャインのトップスのなかへと入り込んでしまった。

「ちょっ……!そんなところ!」
 思わず動揺してしまうシャイン。だがさらにトップスと乳房のなかへと顎がもぐりこんでいってしまう。

「きゃあっ!」
思わず悲鳴を上げるシャイン。そして、さらにアントラーは顎を開いたり閉じたりしてシャインのトップスを引っ張っていった。

「く、くっそ……!」
「どうすれば……」
そんな光景を眺めているしかない隊員たちに、チャータムが声を上げた。
「この機会を待っていました……」
「えっ……!?」
「私に策があります。皆さん、手伝ってください」
そういうとチャータムは皆をどこかへと案内した。

(シャイン……、しばらくアントラーを足止めしてください)
「え、えぇ……!」
 そう言うとシャインはアントラーの大顎を両腕で掴んだ。

「これを運び出します」
そう言って指さしたのは、投石器であった。
「こんなものが……」
「えぇ、これでアントラーにあの蒼い石をぶつけるのです」
そう言ってチャータムはあの蒼い石を取り出した。
「よし……!すぐに取り掛かるぞ」


「うあっ……!」
大顎に身体を挟まれながら必死に抵抗するシャイン。
強く大顎に挟み込まれるたびにその豊かな双丘がギュッと押し出され、変化する。
「ぐああっ……!」
痛みで苦悶を浮かべるシャイン。そこに。
(準備が出来ました。こちらにアントラーの背中を向けてください!) 
「わ……、わかったわ!」
そのチャータムのテレパシーに促され、シャインは彼女たちの方にアントラーの背中を動かした。
「今です!」
そう言ってチャータムはその場にひざまずき祈るようなポーズを取った。
「よしっ!発射!」
そして、投石器からあの蒼い石が投げ飛ばされる。
すると、石が突如蒼く光り出しそしてさらに勢いがつくとその勢いのままアントラーの頑丈な外甲へと突き刺さるように当たる。
その瞬間、あたりに一層強力な先行が走った。

「ギャアアアアアアン!」
アントラーが悲鳴を上げる。
そのすきにシャインは片顎にエルボーを立て砕く、そしてもう片顎を腕で掴むと膝でたたき割った。

「おぉ!」
「形勢逆転ですね」

「たあっ!」
そしてシャインは後ろを振り向くと磁力光線を発射していた頭の触覚を手刀でこれも破壊した。
「ギャアアン!」
そのたびに悲鳴を上げるアントラー。
それをシャインはつかみ上げ、町とは反対側へと向けて投げ飛ばした。
砂漠の大地に転がるアントラー。するとかなわないと見たのか、シャインに背中を見せ、すでに砕かれた大顎で必死に地中へ潜って逃げようとする素振りを見せる。

「逃がさないわよ!」
そう言って、シャインは腕をL字に組む。
先ほど蒼い石の爆発で蜘蛛の巣状にひび割れた外皮へと狙いを定め。
「スペリオル光線!」
そして、桜色の光の奔流がアントラーを貫くと、アントラーの身体はゆっくりと地面へと崩れ落ちた。

「ノアの戦姫が勝ちましたか……」
(ありがとう、感謝しますシャイン……)
シャインがはャータムや隊員たちの方を振り返り助力に感謝するようにうなづくと、空へと飛び去っていた。 
「これで終わりましたね」
 シャインが飛び去った後も、特捜隊の面々はバラ―ジの町を神殿より見下ろしていた。
「あぁ」
「電波障害も収まってきているようですし、これで無線機を修理すれば」
「ようやくこれでこの砂漠から脱出できるという訳か」

「すみません隊長……」
 そこに土埃に塗れた姿で紗希がようやく合流してきた。
「無事だったか、紗希」
「あのお婆さんはどうした?」
「安全なところまで連れて行きました。命には別状なかったので」
「そうか、ご苦労だった」

「しかし、これでこの町も救われますね」
そう言った山木の言葉に、チャータムは頷くことはなかった。
「いえ……、このバラ―ジの町は元には戻りません」
「チャータムさん……」
「すでにこの町につながる道も、そしてこの町を知っているものもすでに歴史のかなたに消え去りました。やがてこの町も消え去るでしょう」

「あなた方がこの町へ来た最後の客人。ですから、願わくばこの町の事を忘れずにいていただけるでしょうか」


「……にしても、今回の事は一件落着って感じがしないな」
「えぇ、あの最後のチャータムさんの言葉ですね」
 修理した無線機で呼んだ中近東支部のビートルの機内で山木たちはそんなことを話していた。
「紗希はどう思った?」
「え、えぇ……」
そう真に尋ねられ、紗希はあの後チャータムと話したことを思い出した。

「終わりましたね……」
「えぇ」
「あなたはこれからどうされるつもりですか」
「私は……この町の巫女ですから……この町が滅ぶまではこの町を見守り続けるつもりです」
(私は彼女とあまりに長い時間一体化をし過ぎました。私にとっては彼女が、彼女にとっては私がすでになくてはならない存在なのです。だから、彼女の勤めを全うするまではここにいなければならない。そう思ってます)
「そうですか……、いつか会うことがあれば……」
「えぇ、その時は」
そう言って、紗希はチャータムと別れた。

「バラ―ジ……、失われた幻の都。このような事、また起こしてはならない……」

そんなことを思いながら、紗希は窓の外に広がる燃えるような砂漠に沈む夕暮れを眺め続けていた。

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