優しき歌 | ヤサシキウタ | 指示 | 速度 | 調性 | 拍子 | 備考 | |
1 | 爽やかな五月に | サワヤカナゴガツニ | 中庸の速度で、語るように | 4分音符=約92 | ニ短調 | 4/4 | |
2 | 落葉林で | オチババヤシデ | 遅く、しみじみと | 4分音符=約92 | ハ短調 | 4/4 | |
3 | さびしき野辺 | サビシキノベ | 非常に速く、虚ろな感情をもって | 4分音符=約152 | ト長調 | 2/4 | |
4 | また落葉林で | マタオチババヤシデ | 中庸の速度で、淡い感傷をもって | 4分音符=約92 | ニ短調 | 4/4 | Tenor solo |
5 | みまかれる美しきひとに | ミマカレルウツクシキヒトニ | たいそう遅く、悲しみを秘めて | 2分音符=約44 | ホ短調 | 2/2 | Tenor solo |
月の光のこぼれるやうに おまへの頬に
溢れた 涙の大きな粒が すぢを曳いたとて
私は どうして それをささへよう!
おまへは 私を だまらせた……
《星よ おまへはかがやかしい
《花よ おまへは美しかつた
《小鳥よ おまへは優しかつた
……私は語つた おまえの耳に 幾たびも
だが たつた一度も 言いはしなかつた
《私は おまへを 愛してゐる と
《おまへは 私を 愛してゐるか と
はじめての薔薇が ひらくやうに
泣きやめた おまえの頬に 笑ひがうかんだとて
私の心を どこにおかう?
溢れた 涙の大きな粒が すぢを曳いたとて
私は どうして それをささへよう!
おまへは 私を だまらせた……
《星よ おまへはかがやかしい
《花よ おまへは美しかつた
《小鳥よ おまへは優しかつた
……私は語つた おまえの耳に 幾たびも
だが たつた一度も 言いはしなかつた
《私は おまへを 愛してゐる と
《おまへは 私を 愛してゐるか と
はじめての薔薇が ひらくやうに
泣きやめた おまえの頬に 笑ひがうかんだとて
私の心を どこにおかう?
あのやうに
あの雲が 赤く
光のなかで
死に絶へて行つた
私は 身を凭せている
おまへは だまつて 脊を向けてゐる
ごらん かへりおくれた
鳥が一羽 低く飛んでゐる
私らに 一日が
はてしなく 長かつたやうに
雲に 鳥に
そして あの夕ぐれの花たちに
私らの 短いいのちが
どれだけ ねたましく おもへるだらう か
あの雲が 赤く
光のなかで
死に絶へて行つた
私は 身を凭せている
おまへは だまつて 脊を向けてゐる
ごらん かへりおくれた
鳥が一羽 低く飛んでゐる
私らに 一日が
はてしなく 長かつたやうに
雲に 鳥に
そして あの夕ぐれの花たちに
私らの 短いいのちが
どれだけ ねたましく おもへるだらう か
いま だれかが 私に
花の名を ささやいて行つた
私の耳に 風が それを告げた
追憶の日のやうに
いま だれかが しづかに
身をおこす 私のそばに
もつれ飛ぶ ちひさい蝶らに
手をさしのべるやうに
ああ しかし と
なぜ私は いふのだらう
そのひとは だれでもいい と
いま だれかが とほく
私の名を 呼んでゐる……ああ しかし
私は答へない おまへ だれでもないひとに
花の名を ささやいて行つた
私の耳に 風が それを告げた
追憶の日のやうに
いま だれかが しづかに
身をおこす 私のそばに
もつれ飛ぶ ちひさい蝶らに
手をさしのべるやうに
ああ しかし と
なぜ私は いふのだらう
そのひとは だれでもいい と
いま だれかが とほく
私の名を 呼んでゐる……ああ しかし
私は答へない おまへ だれでもないひとに
いつの間に もう秋! 昨日は
夏だつた……おだやかな陽氣な
陽ざしが 林のなかに ざわめいてゐる
ひとところ 草の葉のゆれるあたりに
おまへが私のところからかえつて行つたときに
あのあたりには うすい紫の花が咲いていた
そしていま おまへは 告げてよこす
私らは別離に耐へることが出來る と
澄んだ空に 大きなひびきが
鳴りわたる 出發のやうに
私は雲を見る 私はとほい山脈を見る
おまへは雲を見る おまへはとほい山脈を見る
しかしすでに 離れはじめた ふたつの眼ざし……
かえつて來て みたす日は いつかえり來る?
夏だつた……おだやかな陽氣な
陽ざしが 林のなかに ざわめいてゐる
ひとところ 草の葉のゆれるあたりに
おまへが私のところからかえつて行つたときに
あのあたりには うすい紫の花が咲いていた
そしていま おまへは 告げてよこす
私らは別離に耐へることが出來る と
澄んだ空に 大きなひびきが
鳴りわたる 出發のやうに
私は雲を見る 私はとほい山脈を見る
おまへは雲を見る おまへはとほい山脈を見る
しかしすでに 離れはじめた ふたつの眼ざし……
かえつて來て みたす日は いつかえり來る?
まなかひに幾たびか 立ちもとほつたかげは
うつし世に まぼろしとなつて 忘れられた。
見知らぬ土地に 林檎の花のにほふ頃
見おぼえのない とほい星夜の星空の下で、
その空に夏と春の交代が慌しくはなかつたか。
――嘗てあなたのほほゑみは 僕のためにはなかつた
――あなたの聲は 僕のためにはひびかなかつた、
あなたのしづかな病と死は 夢のうちの歌のやうだ。
こよひ湧くこの悲哀に灯をいれて
うちしほれた乏しい薔薇をささげ あなたのために
傷ついた月のひかりといつしよに これは僕の通夜だ
おそらくはあなたの記憶に何のしるしも持たなかつた
そしてまたこのかなしみさへゆるされてはゐない者の――。
《林檎みどりに結ぶ樹の下におもかげはとはに眠るべし。》
うつし世に まぼろしとなつて 忘れられた。
見知らぬ土地に 林檎の花のにほふ頃
見おぼえのない とほい星夜の星空の下で、
その空に夏と春の交代が慌しくはなかつたか。
――嘗てあなたのほほゑみは 僕のためにはなかつた
――あなたの聲は 僕のためにはひびかなかつた、
あなたのしづかな病と死は 夢のうちの歌のやうだ。
こよひ湧くこの悲哀に灯をいれて
うちしほれた乏しい薔薇をささげ あなたのために
傷ついた月のひかりといつしよに これは僕の通夜だ
おそらくはあなたの記憶に何のしるしも持たなかつた
そしてまたこのかなしみさへゆるされてはゐない者の――。
《林檎みどりに結ぶ樹の下におもかげはとはに眠るべし。》
タグ
このページへのコメント
http://www.youtube.com/watch?v=BssIxmQ3wno
立命館大学メンネルコールによる再演。