うたかた

 緑に囲まれた森の中。遠くからは小川のせせらぎがさやさやと聞こえる。蒼き景色にとけ込む、蒼き法衣。わずかな濃淡の動きが、移動のスピードを示している。
 その蒼に、一カ所だけ違う色。
 天空に鎮座する太陽が地に降りてきたかのような緋色。輝かんばかりにたたずむ、己にとっては神よりも高き場所に住む人…。
「アリーナ様……」
 思わず声に出してしまい、今までの静寂を破いてしまったことを悔いる。だが、彼の人は、その声に笑顔で答えてくれたのだ。
「クリフト」
 ひまわりのごとく笑いかける彼の人に、喜びを感じるとともに、悲しみを感じるのはなぜだろう。
「早くおいでよ。待ちくたびれちゃったよ」
 やっとのとこで追いつくと、彼の人は私自身をぎゅうっと抱きしめる。己の心臓が早鐘を打つ。これに気を取られたのか、もつれるように草むらの中へ倒れ込んでしまった。
「えへへ」
 彼の人の顔が、ほんの目と鼻の先にある。紅き唇が、私のココロを奪う。
 ごくり。
 知らず知らずのうちに、喉が鳴る。頭の中が真っ白になる。
「クリフト」
 彼の人の瞳がかすかに潤む。そして、ゆっくりとまぶたが重なる。
 そのまま。
 紅き罪は、唇に舞い降りた。
 気がつけば、それを無心にむさぼる己がいる。荒い息を立てながら、それを深く激しく犯す自分自身。彼の人の唇から漏れる甘いため息をすべて舐め取り、やがて、ゆっくりと下に降りてゆく。
 いつの間にか、彼の人は何も纏ってはいなかった。生まれたままの無垢な姿。その純白な肌に、紅く所有の印を打ってゆく。そのたびに漏れる甘いため息。
「アリーナ……」
 そこで、初めて名前で呼ぶ。己に課したい戒め。永遠の臣下を誓ったときから、けして呼び捨てにはしなかった。それを、今だけ。
「愛してます。永遠に」
 もう一度口づけながら、覆い被さるように抱きしめる。そして、限界まで高まった己の欲望を、彼の人の中へと……。

「アリーナっ!」
 思わず大声を上げ、その声にぎょっとし、クリフトは飛び起きる。そして、その目の前が緑の風景でなく、灰色の無機質な室内であることに気づき、ため息をついた。
(夢か……)
 そう気づくと、自分自身が情けなくなった。神官職でありながら、何という夢を見ているのだと。
 だが。夢はどこまでも夢ではなかった。
「起きた?」
 鮮やかな黄金色が、視界に飛び込む。そして、美しいソプラノ。
「姫様……」
 夢の中で犯してしまった愛しき姫君。彼女は、何も知らずにニコニコと笑っている。
「せっかく来たのに、寝てるんだもん。がっかりしちゃった」
 アリーナがぷうとむくれる。声が穏やかなところを見ると、本気で怒っているわけではないようだ。クリフトの胸が、ずきんと痛む。
「申し訳ありません、姫様」
 別の意味も込めて、お詫びする。アリーナはきょとんと不思議そうな顔をして、よっこいしょとクリフトのベットの上に昇る。そのまま、未だベットの中に潜っているクリフトの身体をまたぐと、馬乗りになって向かい合った。
 にふぁ。天真爛漫なアリーナの笑顔。
「あのね。あれからいろいろ考えたんだ」
 突然の切り出しに、クリフトはどきどきする。何のことだろうと。
「クリフトが、どうしても身分にこだわるんだったら、今までのままでかまわない」
「え…」
 何を言い出すのだろう、姫様は。寝起きだからというわけではないが、まだ頭の中は回転していない。アリーナが何の話をしているのかすらわからない。
「だけど。世間的にはともかく。あたしはなかったことにするつもりはないから」
「何の…?」
 訳も分からず聞き返すクリフトの頬を両手で包み込む。
 そして。
 唇が重なり合う。
「して。いいから……」
 甘い囁き。
 ユメ…? ソレトモ ユメジャナイ…?
 さっきまでの夢であるはずの映像がフラッシュバックする。
「本当に…いいのですか?」
 呆然と聞くクリフトに、アリーナは顔を赤らめた。そして上目遣いに見つめると、やがてこくりと頷いた。

「あっ…はあっ……」
 アリーナの甘い吐息をついばむように、短いキスの雨を降らせる。赤く火照る頬に、可憐な唇に。やがて、そのキスの雨は鎖骨を通り、赤く尖った2つの丘にたどり着いた。
 乱れた服を脱がすのももどかしく、服の上から甘噛みする。
「クリフトぉ…」
 頭の上から、甘い呼び声。クリフトの上に馬乗りしたまま、アリーナは赤く身悶えていた。まだ上半身しか愛撫されていないというのに、かすかにその腰が動いている。その動きがちょうどその下で暴走するクリフトの欲望を刺激していることに、まだ気づいていない。
「あぅ…ひゃあ!」
 胸の突端を甘噛みしなから、クリフトは脇腹をすうっとなでる。その途端、アリーナの体が大きく震えた。それをとらえて、クリフトは体を入れ替えた。
 ぎしり。ベットがきしんで、今度はアリーナが布団の中に沈む。
「…っうん…くぅう…」
 右手で器用に脇腹を愛撫を続けながら、左手でアリーナの服をするりするりと脱がせてしまう。すると、大きくて白い双丘がぷるりと現れた。
「姫様……」
 うっとりとした声を漏らし、クリフトが唸る。皆が予想していたよりもはるかに大きいその胸に愛おしそうに頬ずりをすると、おもむろに先端を口に含んだ。
「ああっ、アリィ…ナって…」
「あ、アリーナ様っ、本当に……」
 敏感な突端を舌でコロコロ転がされ、もう一方の胸を優しく甘く揉まれ、さらに、弱い脇腹を優しく撫でられ、アリーナはあまりの快楽に激しく首を振る。
「ああ、やあ…ああぅ!」
 やがて、キスの洗礼はもう一つの突端へ移る。そして、脇腹を撫でていた腕はすうっと下の方へ降りる。
「や、やぁ…」
 まだ身につけていたスカート中にするりと入り込んだかと思うと、あっという間に下着が脱がされる。そのまま足を大きく開かされ、アリーナは恥ずかしさに身を震わせた。
 と、ここでクリフトの動きがはたりと止まった。両目をしっかり開けると、クリフトはまじめな顔をしてその顔を見つめていた。あまりにまっすぐな視線に、アリーナはふいと視線を逸らす。
 クリフトは何か言いたそうに口を開き、やめたのかふうとため息をついた。そして、両腕を使ってさらに大きく足を広げると、その中心でかすかにひくひく動く花びらに、そっと口づけた。

「あああっ!あーっ!」
 唇がアリーナの敏感な場所を探り当てる。そこを早く優しく刺激するたびに、花びらはひくひく動き、奥から甘い蜜がしどどに溢れ出す。何気なく人差し指を差し入れてみると、花びらはきゅっと締め付ける。
「あ、あ、あ、だめっ、あたし……」
 差し入れられた指が動き出す。その数はいつの間にか2本に増え、花心を刺激する舌の動きとシンクロする。ぴちゃぴちゃと嫌らしい音を立てているのは花心を刺激するものか、それとも2本の指の動きか。アリーナの嬌声がだんだん高くなっていく。
「あ、い、い、いくっ、いくいくぅっ」
 アリーナの全身が痙攣する。それを見計らったかのように、クリフトは奥に差し入れられた指を曲げ、高速で動かし始める。
 そして。
「い、あ、あああああっ!!」
 花心を軽く噛んだところで、アリーナは頂点に達した。


 アリーナの白濁した意識に色づき始める頃。
「申し訳ありませんでした…」
 いつものクリフトらしい気弱な声で、アリーナは我に返った。気がつくと、自分はベットの中でちゃんと毛布まで掛けられているのに対し、クリフトはその外で膝立の姿勢で心配そうに見つめている。
「あなた、まだ…」
 何をどうしたのか思い出してがばりと起きあがると、クリフトは気まずそうに朱を走らせた。
「何とでも言ってください。やはり、私には…」
「何よ、あたしは」
 最後までやっていないことを噛みつこうとするアリーナに、クリフトは不意打ちのキス。文字通りの口封じ。
「勝手な言い方かもしれませんが…」
 濃厚な口づけから離れると、クリフトはうつむき加減に、しかしきっぱりと言った。
「いつか必ず、姫様と釣り合う身分を手に入れてから。それからでは駄目でしょうか?」
「……」
 そういわれてしまえば、言い返すことも出来ない。頭の固い、彼らしいといえば彼らしいかもしれない。
 でも。やっぱりこれで終わりは物足りない。
「じゃあ、あたしが望んだら、またしてくれる?」
 甘い誘惑。クリフトは苦笑すると、返事の代わりにもう一度、甘い口づけを施したのだった。
2008年05月11日(日) 20:25:15 Modified by dqnovels




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