ゾーマ×女勇者

一歩。二歩。
地に伏した女勇者の元に、魔王ゾーマが歩み寄る。
幾多の剣撃を受けたゾーマは、しかし満足そうに笑んでいた。
それはきっと、眼前の美少女がゾーマと戦う際に見せた、憎しみや蟠りのない純粋な覇気に心が動いたからであり。

「は…早く殺しなさい、ゾーマ…」
「殺しなどせん。価値ある者を殺すなど、無益でこそあれど有益になることは有り得んからな」

ゾーマは女勇者に手をかざすと、呪文を唱える。
女勇者も聞き慣れた呪文――ベホマ。

「な……なんで……?」
「私に再度挑むか?しかし貴様は恩知らずではないはずだ。ならば私が癒えるまで待とうとするだろう?」
「違う……なんで私を……」
「気に入ったからだ」

魔王ゾーマ。
人々はともかく、その名を聞いた魔物さえも怯える、闇の世界を統べし者。
その名を聞いてなお挑む勇気、ゾーマの眼前まで到る強さ、父を殺されてなお揺るがぬ意思。
その全てが、ゾーマにとっては好ましいものであった。

「一つ、私から提案がある」
「…なに……?」
「勇者よ、我が妻となれ」
「!?」

女勇者の身体が、自然と空中に持ち上がる。

「私はそれで満足しよう。魔物たちは全て私が責任を持って撤退させるし、必要とあらば処分もする。それでお前の役割は終わるはずだ」
「……私は、ゾーマに負けました。ただ虜囚の辱しめを受けるだけならば自害もやむ無しでしたが、私が貴方を愛することで人々が救われるのなら――」
「良かろう、我が妻よ。これより我々は夫婦――互いに支えあおうぞ」

女勇者の唇がゾーマに奪われる。
その瞬間、彼女は言いようもない感覚に恍惚としていた。
思考が焼かれ、ゾーマへの想いのみに身が悶える。
闇が心臓のみならず、身体中を余さず汚して行く感覚。
未だ青年してすらいないにも関わらず、成熟しきった身が熱情に疼く。

(愚かな勇者めが……貴様の才覚は認めるが、野放しには出来ぬゆえな……)

ゾーマの眼差しが、女勇者の虚ろな眼差しを居抜く。

「貴様は魔物を産む母体となるが良い」
「は……い……ゾ………マ……さま…」

完全に自我を失った女勇者を見ながら、ゾーマは笑む。
これで切り札は揃ったと。
自らの希望だった女勇者が産んだ魔物に滅ぼされる……皮肉の利いた悲劇に、ゾーマは笑いを止めることはなかった。
2013年08月16日(金) 13:54:27 Modified by moulinglacia




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