アルカパでの一夜

「ねぇ、そっちに行ってもいい?」
甘く切なげな声が聞こえた。
時間の流れはときに残酷で、懐かしい思い出も今はまるで無かった事のようにさえ感じられる。
受け入れることしかできない喪失感。
せめて側にいられることで、少しでも君の寂しさを埋められるのなら・・・
アベルは黙って毛布を開け、ビアンカを受け入れた。

「あったかい・・・」
胸元でビアンカが少し照れくさそうに小さく、囁く。
布の擦れる音、君の吐息。
ぼくを愛してくれる、君がいる。

自然に肩を抱くと、ビアンカが目を閉じた。
額にふれ、髪をなでる。
ちょっと嬉しそうに目を伏せる、その表情がたまらなく愛しい。
「・・・好きだよ」
何度でも言いたい。

ビアンカが首に手をまわすと、引き込まれるようにアベルの思いは強くなった。
身体を少し起こして、ビアンカを組み敷く。
アベルを愛している事はわかっているのに、
彼が男になる瞬間に今だ戸惑いを隠せないビアンカは、少しだけ、眉をひそめた。
その目元にアベルは優しく口付ける。
「抱きたい」
言わなくてもいいことなのかもしれないけど、口から漏れてしまう。
「うん・・・」
飲み込むような声で応じると、吸い込んだ息をゆっくりと吐き出し、腕の力を少しずつ抜いている。
まだ少し、怖いのかもしれない。

アベルはその小さな唇を何度も求めた。
最近気づいたのは、ビアンカはチュッ、ていうキスが好きだという事。
本当は、その唇の中に侵入して、舌先をからめあいたいけど、
ビアンカが満ち足りてくれるまで、幾度となく軽いキスをした。

唇から頬へ、頬から耳元へ、耳元から首すじへ。
アベルの愛しさが伝わったのか、ビアンカはやっと
んっ、ん・・・
と小さく声をあげた。
首すじへのキスは、いつの間にか舌先での愛撫に変わって、
やがてその舌は、胸元を求める。
明るい色の布をめくり上げ、ビアンカの身体をを少しだけ起こすと、
乱暴にならないよう、そっと服を脱がせた。
ベッドに身を横たえ、両手で胸を隠すその姿はまるで妖精のようで、
アベルはビアンカという美しい女性を己の妻として迎え入れることができた喜びに、打ち震えた。

アベルの左の指先は、いつしか彼女の柔らかい胸に置かれ、
そのふくらみを愛おしむかのように弧を描く。
同時に右の乳房のもっとも柔らかい部分を舌でなぞり、、
さらにその先端を口に含み、小振りで淡い色の粒を、たっぷりと潤った舌ですくいあげる。

ビアンカの愛らしい声が次第に大きくなる。
んんっ、んん・・・あぁ・・・

愛撫による悦びの声をあげる事に慣れていないビアンカは、パッと自分の口元を手で押さえた。
それでも、手の下で、はあっ、はあっ、と苦しそうな息がもれている。
目を閉じ、眉をひそめ、肩を縮ませて恥じらいながらも快楽を感じ得る若い妻の姿は、
アベルの欲求をさらに強くした。

舌での愛撫を続けたまま、アベルは指先をさらに求める場所へと滑らせた。
ビアンカの身体に少しの緊張が走り、脚を閉ざす。
「力を抜いて」
アベルが胸元から唇を離しビアンカに顔を近づけて囁くと、少しの間を置いて、
ゆっくり大きな吐息とともに、ようやく膝を離した。
すかさず、アベルが自分の足を挟みこむ。
腰から臀部のラインを撫でながら、最後の一枚を下ろしていった。
ビアンカの一糸まとわぬその姿は、艶やかな曲線を描き、たとえようもない深い愛情をおぼえる。
しなやかに動く四肢に恥じらいの仕草を感じると、アベルは黙って自らの衣服を脱ぎ捨てた。

アベルは大きな身体が細い身体を包み込むように覆いかぶさると、
ビアンカにキスの雨を降らせた。
既に過敏になっている全身に少しでも触れるたび、ビアンカは
あっ、あ・・・んっ、と小さく声をあげ、身体をピクンと反らせた。

膝から次第に上へ指先を滑らせ、求める場所へと向かってゆく。
脚の付け根が既に汗ばみ、湿っていた。
ぬるっ、という感覚とともに、複雑な器官に、アベルの中指が触れる。
最も敏感な、その部分に触れたとたん、
はぁっ・・・
切なそうに声をあげたビアンカは、顎を下げて身体を縮ませ、無意識のうちに身体をに力を入れた。

意地悪するつもりではなかったが、緊張で快楽に身を委ねられない妻の表情に、
アベルのちょっとした征服欲が生まれた。
身を起こし、再びビアンカの突起を舌先で刺激しながら、中指を絶え間なく動かす。
あぁ、いやっ・・・ああっ!
愛する人とはいえ、あまりに男をむき出しにした強引な行為に、
ビアンカはその肩を自らの手で押しやろうとした。
その手をシーツの上に押し戻すと、アベルは耳元で低く囁いた。
「怖がらないで、力を抜いて・・・」
夫の声に従い、何度か浅い呼吸をしたあと、ビアンカは身体の力を緩めると、
ごめんなさい、と目を閉じた。
「愛してるよ、ビアンカ」
チュッ、とその火照った唇にキスをしてから、
アベルは再び口付けるとビアンカの口内に舌を侵入させ、一方で指先を滑らせた。
あっ、んっ、んっ、・・・・っ!
その声は次第に高くなり、細く美しいラインを描く腰が、ピクン、ピクンと揺れ動く。
ビアンカの硬かった表情はやがて恍惚のものへと変わり、
性感の証拠が液体となってとめどなくあふれだしていた。
「ああっ、アベル、アベル・・・!」
己の名を呼ぶその姿に、アベルは愛くるしく耐え難い欲求を覚えた。
膝をわりその中に脚をそろえて入り込むと、妻の右手を取り、熱くそそり勃った己のそれを触れさせた。
その先に知らない液体がしたたり、まるで別の生き物のように鼓動をうち、硬く膨張したアベル自身に、
ビアンカは羞恥心のあまり目を伏せ、夫の望むままにはできなかった。
いつか、自分から触ってくれるようになるのだろうか?
アベルはそんな期待を近い未来のビアンカに持った。

「いい?」
申し訳なさそうにしているビアンカの上でアベルは両手をつき、尋ねた。
彼自身の先端は既に収まるところに触れ、待ち構えている。
妻として、夫を迎え入れるべく、ビアンカは静かにうなづいた。
シーツの上で、金色の髪が美しく流れていた。

「まだ、痛いかな」
遠慮しながらも、アベルはしっかりと腰を送り込むと、
強い抵抗感とともに、上下にうねりを感じ、強い快感を得た。
ううううんんんっ、んん・・・
苦痛を隠し切れない表情で、ビアンカが肩を縮める。
「大丈夫?」
呼吸が荒くなりながらも、アベルが優しく問いかける。
「うん・・・、何だか、今すごく・・・」
胸の間に指先を置き、女としての悦びをわかり始めたビアンカが、恥ずかしげにこぼした。
「足先から、このあたりまで、ビリビリって・・・感じたの」

アベルは自分の挿入によりビアンカを感じさせたことに、得た事の無い興奮を覚えた。
嬉しいよ、と目を細めて囁くと、腰を引き、一気に突いた。
「あっ! アベル・・・」
胸をそらし、身体の力がすっかり抜けると、ビアンカはアベルの腰の動きに応じ、甘い声をあげる。
「可愛いよ」
それまでの羞恥心を脱ぎ去り、身体の悦びを知ろうとしているビアンカを、
アベルは幾度となく突き上げた。
「ああっ、んぅ、んっ、あっ・・・」
大きく口をあけ、己の動きに合わせてビアンカの肉体も揺れる。
アベル、アベル、と苦しそうに夫の名を呼ぶ妻の声に答えるように、夫は何度も腰を送った。
その苦痛にも似た快感は、終焉を求めて駆け上がり、
妻の名を叫びつつ、アベルは狭く暖かい中で果てた。

自分の中で、アベル自身が波打ち、すべてを放っている。
麻痺した痛みの中で、流れ込む彼の快楽の証を、受け取る。

ひとつになったまま、二人は互いの鼓動と呼吸が落ち着くまで抱き合っていた。
そのまま少しの間、まどろむ。

目を開けると、愛しい人がそこにいる。
――これからも、ずっとずっと一緒にいよう
アベルはビアンカに、チュッ、とキスをした。
2009年04月29日(水) 22:35:22 Modified by test66test




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