キーファ・アルス・マリベル 259@Part9

「はっ……あっ、うっ……」
まどろみの中、マリベルは苦しそうな息遣いを耳にした。
はじめは夢の入り口に居るのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
一度ぎゅっと閉じた目をゆっくりと開き、耳をそばだてた。
やはり夢ではない。
背後、隣のベッドから聞こえてくる。
「ふ、う……んんっ」
押し殺された声の主はアルスのものだ。
マリベルは声のする方へと寝返りを打って、隣のベッドに呼びかけた。
「……アルス?」
「ふっ……くっ……」
しかし、返ってくるのは荒い息遣いだけ。
マリベルはベッドの上に起き上がり、即座に立ち上がると、身体を丸めているアルスの肩に手を伸ばした。
「アルス?……どこか痛いの?」
「へ?……うわあッ!」
マリベルの手が肩に触れると、アルスはそっくり返った声を出した。
「!?」
その声に、今度はマリベルの方が声も出ないほどに驚かされた。

窓から差し込む月明かりに浮かんだ部屋の中、アルスがゆっくりとこちらを向いた。
「ま、マリベル……?」
「そうよ。……驚かなくてもいいじゃない」
「……ご、ごめん」
「まぁ、それはいいけど、アルス、あんたどっか具合悪いの?」
「具合?なんで?」
アルスは掛け布団を被ったままゆっくりとこちらを向いて不思議そうにそう言った。
どうやら、具合が悪いのではないらしいが、寝入りばなを起こされた挙句、
こんな事を聞かれたのでは、心配したこっちが間抜けに思えて、マリベルはため息をついてしまった。
「なんで……って、だってさっきまで凄く苦しそうな声、出してたじゃない」
「えっ!?ぼ、ぼく、そんなに、声……出しちゃってた?」
アルスは大いに慌てたが、それでもベッドから起き上がろうともせず、むしろ掛け布団にいっそううずくまるように首をすくめた。
マリベルはまた一つため息をついたが、そんなマリベルをよそに、キーファは後ろで大きな寝息を立てている。
「キーファは気がついてないみたいだけど」
肩をすくめてそう言うと、アルスは安心したようにため息をついた。
「もうっ、なんなのよ。こっちはおなかでも痛いのか、って心配してやったのに」
「う、うん……ごめんね」
「もう平気なの?」
「…………」

アルスは何か呟いたようだったが、マリベルの耳には届かなかった。
「なに?」
「ま、まだ……平気じゃ、ない……かな」
「やっぱり、どこか悪いんじゃない」
「わ、悪いわけじゃないよっ……す、すぐ、おさまると、思うけど……」
なにを言っているのかさっぱり分からず、マリベルが首をかしげると、アルスはしどろもどろに続けた。
「で、でも……また、声が……で、出ちゃうかも……」
「なんで?」
「なんでって、言われても、こ、困っちゃうんだけど……勝手に……
さっ、さっきだって、で、出来るだけ、我慢してたんだよ?……でも、知らない、うちに……」
ますます言っていることが分からなくて、マリベルは再び尋ねた。
「で、どこが悪いの?」
「ど、どこ、って……」
「だって、やっぱりどこか悪いんでしょ?」
「わ、悪くは……」
「もうっ!はっきりしないわねっ!」
それまでは潜めていた声を思わず上げてしまうと、背後でキーファが声を出した。
「うっさいなあ……」
「あっ、ご、ごめん、キーファ……」
キーファに対してまで萎縮しているアルスを見て、マリベルの中に積もりつつあった苛立ちは、簡単に怒りの堰を破ってしまった。

「ったく、あんたがさっさとしてりゃ、キーファだって起きなかったでしょ?
なんなのよ、おなかが痛いなら、とっととトイレでもどこでも行きなさいよ!」
「えっ、あの、じゃあ、そっち向いて……」
「なんでよ!いい加減に……!」
「マリベルうるさい……何やってんだ?さっきから」
マリベルがアルスの上掛けをはがそうとした瞬間、キーファがまた声を出した。
マリベルがキーファの方を向くと、キーファはベッドの上に腰掛けて、目を擦っていた。
「キーファも言ってやってよ。アルスのやつ、苦しそうな声を出してたから、あたしが心配してあげたって言うのに、
なんでもないって言ってみたり、でも大丈夫じゃないって言ってみたりで、訳がわかんないのよ」
「だ、だってぇ……」
「だってじゃないわよ!」
「アルスー。どっか悪いのか?腹?」
「知らない。おなか抱えてるくせにトイレには行きたくないんだって!」
「アルスー?」
自分の言い分を流してアルスに問いかけるキーファに、マリベルは眉根を寄せてから、
アルスがどう答えるかを聞くべく、アルスを下目づかいに見下ろした。
「おなか、っていうか……その、下……」
アルスは消え入りそうな声でそう言って、顔を掛け布団にうずめてしまった。
「下ぁ?なによ。脚でもおかしくしたの?」
マリベルがそう言うのと同時に、キーファは膝を叩いて笑い出した。

「そうかそうか。そりゃあ、苦しいし、マリベルにゃぁ、言えないよな」
「なによ。なんであたしに言えないのよ」
腕組みをしてキーファを軽く睨むと、キーファは軽く肩をすくめた。
「おい、アルス。マリベルは理由を知りたいらしいけど……どうする?教えるか?」
「え……そ、それは」
「あ、あんたたち、なに通じ合ってんのよ。気持ち悪いわね!さっさと教えなさいよ。
人が心配してやったって言うのに」
もう理由などどうでもよくなっていたし、出て行けるものなら自分からこの部屋を立ち去りたいと思うほど、
マリベルの苛立ちはつのっていた。
しかし、元々この宿屋で二つ部屋が取れなかったせいで、こういう構成で寝ているのだ。
出ていった所で行く当てもない。
マリベルがドアへと向かいたくなる足をかろうじて押しとどめてそう言うと、
キーファがやれやれ、といった風に軽く首を左右に振って、ベッドから立ち上がった。
「アルス、諦めて教えてやらないと、マリベルは納得してくれなさそうだぞ」
「そ、そんなぁ……」
「そうだよなあ……。そうあっさりと教えられるもんでもないよなあ」
「あんたたちぃ〜」
マリベルが怒りを爆発させそうになる直前で、キーファがそれを制した。

「オーケー、オーケー。アルスの代わりに俺がマリベルにアルスの状態を教えてやるよ」
「ったく、最初っからそうすればいいのよ」
マリベルが口を尖らせてベッドに腰を下ろすと、キーファがマリベルとアルスのベッドの間に立った。
「ま、あれだ、マリベル。……そう睨むなよ。だからな、つまり、アルスも男だ、ってことだ」
「男ぉ?こんなうじうじしてるのが?……っていうか、それとアルスの腹痛とどう関係が」
「まあ、落ち着けって」
腕を組んで睨みを利かせるマリベルに、キーファは愛想笑いを向け、
ふと何か思い当たったように身をかがめて、マリベルの顔を覗き込んだ。
「なんだ、マリベル。ホントに分かってないのか?」
「な、何がよ……」
「意外とうぶなんだな」
意味ありげな笑みを浮かべているキーファに、マリベルは再び苛立ってきて、思わず声を上げた。
「もう!なんなのよ!あんたたちッ!」
「わかったわかった。怒るなよ。だからさ、アルスは勃っちゃってんだよ」
いたたまれない、というふうにアルスがこちらに背を向けた。
「立つ……って、な、何がよ」
どう見ても寝ているアルスを見てから、マリベルはキーファに目を戻した。
キーファは肩をひくつかせて笑いながら、
「ホントに分かってないんだな」
と、言った。
悔しいけれど分かっていないのは本当だ。
だからマリベルはキーファを睨むしかできなかった。

キーファはにやにやとした顔のまま、自分の口元に手を添えて、マリベルの耳元に顔を寄せ、反対側の手で自分の股間を指した。
「ここだよ、ここ」
「ここ?……そこ、って……」
はじめは何の事かわからなかったが、数秒して言っている意味が把握できると、マリベルの顔はかっと赤くなった。
「なっ……なん、っでよっ!アルス、あんた、なに考えてっ……」
罵倒してやりたいのに、血が上った頭はうまく回ってくれなくて、
つっかえつっかえ声を荒げるマリベルの右にキーファが腰を下ろした。
また耳元に口を寄せてくる。
「そう言うなって。仕方ないじゃん。男ってさ、意志とは無関係にこうなっちゃうことがあるわけ」
「だけどっ、だったら、何もこの部屋で……」
「まあ、それはそうかもしれないけどさあ……トイレじゃ色気がないもんなぁ。な。アルス」
アルスは相変わらずうずくまったままだ。
そんなアルスを見て、キーファはやや呆れたように息をついてから、マリベルの肩に手を廻してきた。
「ま、そういう訳だから、協力してやってよ」
「は?協力?な、何であたしが……っていうか、手、どけてよっ!」
思いのほか強く肩を抱かれて、マリベルは慌ててキーファから逃れようとした。
しかし、キーファは片手でマリベルを抱いたまま、寝巻きの上から彼女の胸に右手を置いた。

「キーファッ!」
「実際にやろうって言ってるわけじゃないんだ。ただ、せっかくだからさ」
「せっかくって何よっ!」
容赦なく乳房を揉んでくるキーファの手を引き剥がそうとするが、キーファの腕は全く離れていかない。
キーファはマリベルに構うことなく、アルスに顔を向けた。
「アルスー。せっかくだからこっち向けよ。実物、見たことないんだろ?」
「実物……って、ホントにっ……放しなさいよっ!」
アルスがもそもそと布団に潜ったままこちらを向き、掛け布団から目だけ覗かせた。
「アルスっ!こっち見なッ……」
アルスに声を上げた瞬間、首をぬめりと何かが這って、マリベルは息を呑んだ。
キーファが舐めたらしいそこに、今度は唇で触れてくる。
気持ちが悪い。
首から腕にかけて鳥肌が立っているのが分かる。
「まあまあ、意地悪言わないでさ。ほら、マリベルだって……勃ってきた」
「やっ!……や、だ……」
自分でも感じられるほど硬くなってきていた胸の先をつままれ、抵抗は示したものの、
マリベルの声には力が入っていなかった。
それに気づいたのか、アルスが顔を布団から出した。
「アルスも触らせてもらえよ。マリベルの胸、見た目よりでかいぜ」
「何、言って……」
やはりいつものように張りのある声を出せない。
キーファはマリベルの腕を押さえていた手を胸へと廻し、両手でマリベルの胸を弄び始めた。

「や、だっ」
力を入れにくくなってきている身体を叱咤して身体を捩ったが、キーファの腕は振りほどけない。
やはり、毎日あれだけ剣を振るっている男の腕力には敵わないんだろうか。
マリベルはそれでも身体を捻ろうとしながら、そんなことを思った。
「なあ、マリベルー。ホントに入れたりしないから……」
耳孔に入ってくるキーファのぬるい息に体中がぞくぞくして、頭がくらりと揺れる。
不快感なのか、それとも違うものなのかよく分からない。
胸元とこちらの顔を交互に見つめているアルスの顔が紅潮している。
荒くなっている息遣いはアルスのものなのか、それとも自分のものなのかも判別しがたい。
「あっ……あ、たりまえ、でしょっ!」
どうにか応じたけれど、もうこれ以上身体にも声にも力を入れられない。
背筋から腰にかけて、感じたことのない何かがマリベルの中を這っている。
「そう、だから、見せてくれ、よっ」
びりびりと寝巻きの胸元が引き裂かれた。
冷や水を浴びせられたように、はっとして、マリベルは悲鳴をあげ、胸元を隠した。
「キーファッ!何すんのよっ!」
消えてしまっていたかと思っていた力が戻ってきて、マリベルは声を荒げ、キーファを睨み、立ち上がろうとした。
しかし、キーファは難なくマリベルの両腕を掴んで自分の膝へと彼女を乗せた。

「やめて!放しなさいっ!」
「新しいの買ってやるから」
「そういう問題じゃないわ!」
「アルスー。早くしろよ。マリベルにこんなに騒がれたら、隣の部屋の人が起きちまう」
「う、うん」
アルスは慌てて身体を起こすと、上掛けで下半身を隠しながらベッドから降りた。
「今更隠したって仕方ないのに……」
キーファはもがくマリベルを後ろから抱え込んで両手首を押さえたまま、呆れた声を出した。
「だ、だって……」
「ま、初めて女に見せるのは恥ずかしいよな」
「あんたたち、いい加減に」
「マリベルも往生際が悪いなぁ。減るもんじゃないんだからいいだろ?そっちこそ、いい加減諦めろよ」
そう言ったキーファの声は今まで聞いたことがないほど冷たくて、マリベルは恐怖を感じてしまった。
必死に胸を隠していた腕から僅かに力を抜くと、キーファがその手を左右に開いた。
夜の冷えた空気に火照らされていた胸が晒される。
「き、きれい……」
アルスが頬を更に赤くして、目を輝かせた。
思わず顔を背けると、悲しくもないのに涙が滲んできた。
「触ってみろよ」
「う、うん!ま、マリベル、いい?」
特別な感情を抱いている訳でもない情けない顔の幼馴染に胸を触られていい訳がないが、反論したら、キーファに何をされるか分からない。
先ほどの恐怖感から抜けられず、結局マリベルは何も言えなかった。

「いいってさ」
キーファの声に笑みが含まれている。
上掛けが床に落ちる音がして、両方の乳房に指が触れた。
「もっと。手のひら全部でさ」
「う、うん」
乳房が包み込まれ、押された。
「つッ!」
キーファに触られたときには感じなかった痛みが胸に走った。
「あっ、ご、ごめん」
「もっと優しく……な?マリベル」
キーファがいやらしく耳元で囁いてきて、マリベルはこれ以上ないくらい顔を背けた。
「や、柔らかい……」
「だろ?」
そんなマリベルをよそに、二人はそんなやり取りをしている。
キーファは女の扱いを心得ているらしく、耳や首筋を啄ばみ、アルスはしつこく、けれど痛みを与えないように乳房を揉みしだいてくる。
嫌だと思うのに、手のひらが乳首を擦り、胸の肉がゆがませられるにつれ、マリベは息をうまく継げなくなってきた。
体中が弛緩して、まどろみの中に居るようなふわふわとした心地になってきた。
だから、キーファがそれまで掴んでいた手首を放したのにも気づかなかった。

手が重力に従ってだらんと垂れ、キーファの胸に背を預けている状態が心地いいとさえ感じてきていた。
はじめは何か違和感があるとしか感じなかったが、次の瞬間、キーファの手が自分の足へと伸びているのに気づいた。
下着の上から、キーファがそこを触っている。
「い、入れないって言ったじゃないっ!」
マリベルの声にアルスがびくりと手を離した。
「入れないよ」
「でも、そこ……やめ……やめてっ」
腹に力が入らないせいで声が震える。
「マリベルも気持ちよくしてやるよ。……って、もうなってるか」
キーファは濡れた唇で耳を食みながら、下着の横から指を入れてきた。
そこがぬるついてキーファの指が滑っているのが分かる。
「や、は……あぁ」
自分でも信じられないような声が口から落ちた。
「アルス、ちょっと、脱がせて」
「あ、アルスぅ……やめ、てぇ……」
掠れた声でどうにかそれだけ言ったけれど、キーファが首を横に一回振ると、
アルスは何も言わずにマリベルの下着に手をかげ、それを剥ぎ取ってしまった。
「ば、ばかっ……!」
熱く濡れたそこがひやりとして、状況の不快さとは裏腹な外気の心地よさがマリベルのバランスを崩し、乱した。

「す、すごい……キーファ、これ……」
「そ、濡れてる、ってヤツ」
キーファは言いながら、マリベルの両膝を開いた。
脚をばたつかせようと試みたが、力が入らない上に、キーファに押さえられていて、ちっとも思うように動かない。
「触ってみろよ。あ、指はまだ入れるなよ。マリベルとの約束だからな」
アルスがごくりと喉を上下させて頷いた。
「もう……やめ、てよっ……」
呟くようにそう言った瞬間、びりびりとした痺れが身体を走って、マリベルはびくりと震えた。
「こ、ここ……?」
「そうそう。わかってんじゃん。優しくな」
アルスの問いにキーファが笑いながら応じる。
「んッ!あっ!……う、くっ……や、ああっ!」
アルスは執拗に彼女が強い反応を示した場所をつまんだり、指で転がしたりし、
マリベルはそのたびに身を捩って、殺そうとしても上がってしまう嬌声を上げた。
「マリベル、マリベル……すごい、すごいね」
「ば……ッ!や、あ…だぁ……」
呼吸が乱れ、涙がこぼれ、マリベルはまともに思考が出来なくなってきていた。

「アルス、もういいと思うぞ」
「え、何……?」
キーファの声にアルスの動きがようやく止まって、マリベルは無意識のうちに息を整えようとした。
「おまえなー……」
「あ、そ、そっか」
「ま、いいや。マリベルのトコにそれ、乗せな」
「え、え?」
「割れ目に、おまえのちんちん乗っけんの」
勝手に進むやり取りを遠くで聞いていたが、その言葉にマリベルははっとした。
「えっ!でも……」
「や、やよ……」
「俺の言うとおりにすれば、入んないから大丈夫」
キーファは猫なで声でマリベルの耳元に囁いたけれど、その声はマリベルに再び怖いという感情を呼び起こした。
「ほら、早くしろって」
キーファが苛立った声で言い、アルスはそんな声に少し驚いたようだった。
「アルス」
しかし、キーファに促されると、アルスが先ほど言われたとおりにマリベルの秘部に自分のものを合わせた。
「んっ……」
アルスが小さく声をあげ目を細めると、キーファが抑えていたマリベルの膝を閉じた。
脚の付け根がアルスのそれを挟み込み、敏感な場所が指より太いもので圧迫され、マリベルはまた身体がしびれるのを感じた。

「ゆっくりな」
「う、う……うん」
アルスが目を強く瞑ったまま、腰を前後に動かし始めた。
「あ……」
マリベルも思わず目を瞑る。
こんな状況が嫌だからなのか、快感を誤魔化すためなのか自分でもよく分からない。
「ふっ……ぅ、んっ!……あ、はっ……」
それでも、意志とは関係なく敏感な部分を刺激されれば声が出る。
脚の間で数度行き来するとアルスの動きが止まった。
「きっ、キーファ、…マリ、ベルっ……ぼ、ぼく、もうっ……」
「いいよ、そのまま出しちゃえよ」
彼女を無視したやり取りが聞こえても、マリベルにはもう抗議しようと思う力さえ残っていなかった。
「えっ、で、でも……」
アルスの情けない声が耳に届く。
「いいからやってみ。もうちょっと動いたらいけるだろ?」
また脚の間のものが動いた、と感じた瞬間、アルスの小さな呻き声と共に、身体に熱いものがかかった。
鼻を突く異臭がする。
ゆっくりと目を開けると、腹の上に白く濁った液体が散っていた。
臭いとは思ったけれど、不快感は不思議と感じずにただそれを眺めていると、
「おまえ、よっぽど溜まってたんだな」
と、キーファが笑いながら言った。

アルスは床に座り込んで荒く息をしていたが、顔をあげ目が合うと、だらしのない顔で笑みを作った。
「あ、ま、マリベル……すごい、気持ち、良かったよ」
身体はまだふわふわとしていて、頭もくらくらしていて、自分は気持ちが良かったのか悪かったのかは分からなかった。
「だろ?」
キーファが言うと、アルスは満足そうに頷いた。
ようやく解放される。
そう思い、体全体から完全に力が抜けた瞬間、
「じゃあ、次は俺の番だな」
キーファが頬に口付けてきてそう言った。
マリベルが誰に言うわけでもなく、
「うそ……」
と呟くと、キーファは笑った。
「うそじゃないよ。これだけのこと、見せ付けられたら俺だって、やりたくなるからさ」
マリベルは身体から血の気が引いていくのをありありと感じていた。

(了)
2008年12月27日(土) 07:34:34 Modified by test66test




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