ダンカンの陰謀

パパスさんの息子の“主人公”が十数年ぶりに訪ねてきた。
なんでも、とある女性への結婚指輪を探して旅をしているらしい。
あのあどけなかった少年が、まさかこんな立派な男に成長しているなんて。
ダンカンは感極まった。ビアンカにはこういう男と結婚してもらいたい。
(ビアンカは勝気なようで、こういったところはオクテだからな。
 しかも、相手がいるとなったらあっさり身を引いてしまうだろう。)
でも、もし何かの弾みで二人がそういう関係になって既成事実が出来てしまったら、
人のよさそうな主人公のことだ。責任をとってビアンカと結婚してくれるに違いない。
―――――ダンカンは、企んだ。

主人公とビアンカがずっとダイニングで
積もり積もった話をしている間に寝室でダンカンは手紙を一筆した。

「ビアンカー!頼みがあるんだー!」
「なぁに?お父さん。」
「この手紙を今すぐ宿屋の女将に渡してきてくれないか?」
「明日じゃダメなの? 今、主人公と話してるんだけど。」
「急ぎの用なんだ。どうしても今じゃないと困る!!」
「僕が行ってくるよ。」
「そんな!主人公に行ってもらうなんて、悪いわ。」
「いいよ、近くだし。散歩がてらに行ってくるよ。」
「いやー助かるよ、主人公!
 ほら、ビアンカ!彼もそう言ってくれてることだし。」
「そう…?じゃあ私、その間にお夕飯の支度してるわね。」

主人公は宿屋に向かった。
温泉の湯煙がもくもくと立ち上がっているので、場所はすぐに分かった。
「こんにちは。」
主人公はカウンターの女将に声をかける。
「いらっしゃい。見かけない顔だね。湯治客さんかい?」
「いえ、ダンカンさんにこの手紙を渡すように言われて来たんです。」
「あらダンカンさんから?」
「急ぎの用らしいので、今すぐ読んでもらえますか?」


女将は手紙を開く。
『前略 女将殿
 今、我が家にビアンカの幼馴染の青年が訪ねてきている。
 名前は“主人公”という。なかなか精悍で骨のある男だ。
 私の体もこんなだから、彼にビアンカを貰ってもらいたいと思っている。
 しかし彼は今、別の女性と微妙な関係らしい。
 ビアンカの将来の幸せの為に一肌脱いで頂けないだろうか。 
 詳細については以下の通りである。
 ――――――――――――――――――――――――――――
 ――――――――――――――――――――――――云々。
                                草々』
女将はちらりと主人公を見る。
ダンカンの言う“幼馴染の青年”はきっと彼のことだろう。
整ったきれいな顔立ちで、優しそうな瞳で誠実そうだし、
体つきもたくましくて立派だ。
(ビアンカちゃんにぴったりじゃない!)
女将は心躍らせた。
「ありがとう、主人公。わざわざ持ってきてもらって悪いねぇ。
 今すぐ返事を書くからちょっと待っててくれるかい?」
「はい。」
 (…………あれ?僕、名前言ったっけ?)
主人公が不可思議な顔をしていると、女将がすぐに返事を書き終えていた。
「はい。じゃあこれをダンカンさんに渡してくれる?
 これも急ぎだから、すぐに渡してね!」
「はい。」
「それじゃ主人公、………またね!」
女将は悪戯っぽく笑った。
(やっぱり、さっき無意識に名乗ってたのかな。)
主人公は宿屋を後にした。

主人公がダンカン邸に戻ると、家中に夕飯のいい香りが立ち込めていた。
「おう!主人公、おかえり!手紙はちゃんと渡せたかい?」
「はい。……これが女将さんの返事です。」
ダンカンはすぐに目を通す。満足げに何度もうなずいている。
「……主人公、あの宿屋の温泉にはもう入ったかい?」
「いえ、まだです。今晩行こうかと思って。」
「あの温泉は大人気でね。夜は特に混むんだよ。
 ゆっくり浸かれないかもしれないな。」
「そうなんですか?」主人公は少し残念そうな顔をした。
「……だがな。お得意様の俺だけ、貸切にしてもらってる時間があるんだよ。
 今日はその時間を主人公に譲るから、一人でゆっくり浸かってきたらどうだ?」
「いいんですか? ………でも、それなら一緒に入りましょうよ。」
「いや、俺は今日はいい。一人で浸かってゆっくりして来いよ。
 ちなみに、これは俺と女将さんとの密約だから他言に無用だぞ!
 ………もちろん、ビアンカにもな。」
「わかりました。ありがとうございます!」
「……………で。その時間なんだが――――――」
ダンカンと主人公が二人でこそこそ話していると、
ビアンカが声をかける。
「ご飯よー!」


夕飯の後、ビアンカは食器の洗い物を片付けていた。
その作業がもう間もなく終わる頃、ビアンカはダンカンに声をかけた。
「お父さん、主人公は?」
「ああ。さっき馬車の掃除をするって言って出て行ったぞ。」
「そうなんだ。じゃあ私そろそろお風呂行ってくるね。」
――――実は、ダンカンの言っていた【温泉の貸切時間】
というのはビアンカの為の時間なのだ。
せっかく温泉の村に住んでいるのに、混浴なのでビアンカは恥ずかしがって
入ろうとしないため、女将さんが好意で用意してくれたのだった。
いま温泉には主人公が先に入って浸かっている。
もちろん、女将さんが快諾してくれたからである。
二人には何も起きないかもしれないが、
それでも年頃の男女が裸で二人きりになって、
何の感情も動かないわけがない。
(うまくいってくれよ……っ!!)
ダンカンはこぶしを握り、強く念じた。

主人公はまったりと温泉に浸かっていた。
日頃の疲れがどんどん癒えていくのがわかる。
その心地よい熱さに身を沈めていく。
その時、誰かが湯船に浸かる音がした。
主人公は湯煙でぼんやりとした視界の中、
その音の主を見る。
――――――――ビアンカだった。
「び、ビアンカッ……!?」
「きゃあっ!!主人公………?」
主人公はかなり深く温泉に浸かっていたので
岩に隠れて、ビアンカは気づかなかったのだろう。
主人公もビアンカも貸切だと思っていたので、
二人とも身を隠すタオルを持っていなかった。
お互いに申し訳ない程度に手で隠すのみである。
温泉の透明度も高かった。
主人公とビアンカはお互いに男と女に“性徴”した肉体を
湯煙で多少霞んではいたがばっちり見てしまった。
ビアンカは胸と下半身を腕で隠し主人公に背を向ける。
しかしその美しい白い肌と見事な体のラインは隠しようがない。
「ご、ご、ごごご、ごめんっ!僕、すぐに出るから……!」
真っ赤な顔をした主人公は、湯船から出ようとビアンカの横をすれ違う。
その姿を、同じく真っ赤な顔をしたビアンカがちらりと横目で見る。
そこには主人公の酷く傷だらけの背中が目に映った。
「待って!」
主人公が歩みを止めると同時にビアンカは主人公の背に触れた。
「これ―――」
ビアンカは絶句してしまい、言葉がうまく見つからない。
主人公はついこの間まで奴隷として囚われていたと言っていた。
きっとその時に受けた傷だろう。その傷の多さと、深さに
永い年月を感じずにはいられなかった―――。
主人公の背中をビアンカが両手で優しく撫でる。
「ビアンカ………?」主人公がわずかに振り返る。
目を見張った。ビアンカは体を全く隠していなかった。
しかもさっきよりずっと距離が近いので、湯煙の影響を受けず、
はっきりとビアンカの裸を見てしまった。
あわてて目線を元に戻すが、もう遅い。
主人公の股間は膨らんでしまった。
(ま、ま、ま、まずい……!!)
主人公は動転する。慌てて落ち着こうとするが、
ビアンカの背を撫でる優しい手つきが、いやらしく感じないこともない。
股間はますます膨張し、完全に勃ち上がってしまった。
ビアンカの撫でる手も止まない。
主人公の脳内は完全に“男”に切り替わった。
「………ビアンカ。」
主人公はゆっくり振り返った。

「………ビアンカ。」
主人公はゆっくり振り返った。

「きゃあっ!!」
ビアンカは悲鳴を上げた。
もちろん、主人公の完全戦闘態勢な下腹部を見たからである。
――――――怖い。
ビアンカは自身の体を隠し、身を震わせた。
理屈ではない。本能的に怖かった。
おそるおそる主人公の目を見る。
吸い込まれてしまいそうな漆黒の瞳。
―――心まで見透かされそうだった。
その瞳に魅せられて、ビアンカは全く動けなくなった。
主人公はビアンカのこめかみに触れ、そのまま腕を回し体を引き寄せる。
いつの間にか唇を奪われていた。
すごく怖かったのに、主人公の唇は優しかった。
誘われるままに舌を絡めてゆく。


主人公はビアンカを横たえた。
ビアンカは目を閉じたまま全く抵抗しない。
髪をおろしたビアンカは驚くほど艶っぽかった。
その肉体をじっくりと上から眺める。
水に濡れたその美しい裸身はキラキラと輝き、どこか神秘的だった。
主人公はビアンカの乳房を両手で何度も優しくかき集め、
そのピンク色の先端を吸う。
ビアンカは恥ずかしさに顔を歪め、かわいい喘ぎ声を発した。
さらに主人公の優しい手つきはビアンカの体を上から順にゆっくりなぞってゆき、
ついに金色の陰毛にまで達した。
陰毛を少し意地悪くつまむ。するとビアンカと目が合った。
「もうっ!なにしてるのよ……!」
そうやって諭す口調は昔のビアンカと変わらなかった。
もう一度くちづけをしてビアンカの口を塞ぐ。片手は陰部の近くのままだ。
そのまま指先を中へと侵入させてゆく。
「んっ……」口を主人公の唇で塞がれているので、
ビアンカは声が出すことが出来ない。
指先は丸い突起物に出遭った。小刻みに刺激を与えてゆく。
「んっ……んんっ……ん…っ……んっ」
主人公の口の中でビアンカは声にならない嬌声をあげた。

陰部全体が充分に潤っていることを指先で確認してから、
主人公は自らを挿入し始めた。
苦痛にビアンカは顔を歪める。
その表情を見て、主人公は侵入速度を緩める。
ゆっくり、ゆっくりと進み、
やがて、主人公とビアンカは一つになった。
緩やかに主人公の腰は動き始め、徐々に速度を上げていく。
ビアンカの喘ぎ声に合わせて、どんどん下腹部が火照って熱くなっていった。
主人公はうつろな瞳でふと周りを見る。
なんだろう。この空間が何か不思議な力で護られている様な気がする。
頭が真っ白になってゆく。
主人公は、ビアンカの中でつき果てた―――。


脱衣所ではなぜか二人はお互いを見ないように服を着た。
変に意識し合っていて神妙な雰囲気であった。
「……外で待ってるよ。」
先に服を着た主人公は一足先に宿を出た。
髪がびしょびしょに濡れているので風が少し冷たく感じる。
ビアンカもきっと寒いはずだ。
少し待つと、ビアンカも外に出てきた。
すぐに主人公はビアンカの頭にタオルをかける。
「……風が少し寒いから、かけてた方がいいよ。」
ビアンカは目を丸くする。
「あ……ごめん。外で頭にタオルなんてみっともないかな?」
「ううん。そんなことないわ。……ありがとう。」
ビアンカはクスクス笑った。

「ただいま、お父さん!……ずいぶん長湯しちゃった!
 あ、主人公とは家の前で偶然会ったのよっ!」
二人の髪の毛はびしょ濡れだった。そんなわけがない。
計画通りに事が運んだと確信したダンカンは嬉々とするのだった。




――――結婚後、妻となったビアンカは主人公に尋ねた。
「ねぇ、そういえばどうしてあの時主人公は温泉にいたの?
 あの時間ってみんなには知られてないけど、私の貸切時間だったのよ。」
「えっ!!」主人公は顔をこわばらす。
「そんなっ……僕はダンカンさんの貸切時間だって言われて……!!」
ダンカンと女将の、あの悪戯っぽい目を思い返す。
その瞬間、主人公とビアンカは全てを悟った。
「〜〜〜〜〜〜!」
主人公は顔に手を当ててうなだれる。
ビアンカがそんな主人公の顔を覗き込む。
「うふふ。もういいじゃない。許してあげようましょうよ!
 …………だって、今はこんなに幸せなんだもの。」
ビアンカは主人公に口づけをした。
《おわり》
2009年04月29日(水) 22:35:55 Modified by test66test




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