マルチェロ×ゼシカ 18@Part12

「に、二階からイヤミ男!?」
ゼシカは驚き声をあげた。

魔王ラプソーンを討伐し、皆との旅を終えたばかりの身である。

リーザスの領家の娘ゼシカ・アルバート。彼女であればポルトリンクの船着場を
自由にできるということで冒険で使った古代の船はゼシカが管理することとなった。
トロデーンの宴も酣になり仲間と「次はきっと気儘な旅をしましょう」と別れて、
遠回りになるが船を港へ運ぶため、一人その船に乗り込んだのだ。
分け与えられた装備や道具を運ぶため船室への扉を開けると、見慣れた船室に違和感を覚えた。
血と砂塵の匂いがかすかに立ちこめている。
見回してみれば誰もいないはずのベッドに誰か寝ている小さな呼気の音。
ゼシカは気配を消しながらおそるおそるベッドへ近づき、掛かっているケットをいっきに剥ぎ取った。

そして冒頭のセリフに至る。

「……二階?」
突然に眠りを妨げられたせいか、普段からそうなのか、ゼシカの言動にか、
苦そうに眉を寄せた顔をして元聖堂騎士団団長で一瞬だけ法王だった男マルチェロは身体を起こした。
男の身につけている青い聖職者の服はところどころ煤けてはいるが品を損なわず彼に似合っている。
旅路に見かける時にきっちりと整っていた髪は前に落ち、いつものいやみな鋭い眼光を鈍らせ
幾分表情を柔らげる効果があったようで倦厭したくなる威圧感は半減していた。
ゼシカは持ち上げたケットを綺麗にのばし、半分にたたみ男に押し付けるように手渡し
動揺しながらもたくさんの脳裏によぎる罵詈雑言を呑み込んで一番の謎を男に尋ねた。
「なんでここに…?」
しばらくは状況を呑み込めず考えるように米神を押さえていたが、マルチェロはケットを置き
ベットから立ち上がり、それは癖のようなものなのかもしれないが律儀にゼシカに一礼し、
鬱陶しいのだろう額から頬にかかる髪をかきあげながら
「…ゴルドを出たら誰も乗っていない船があったので休ませて貰ったのだが……
まさかあなたたちの船だったとは…」
と、きまりの悪そうな顔をしながら至極簡潔に事の経緯を述べた。


ゴルドでの戦いの後、皆で彼の安否と行く末を心配していたというのに
まさかこの船にのっていたのか。ゼシカは驚きつつ気付かなかった己と仲間に呆れて笑えてしまう。
「そういえば、神鳥のたましいとルーラの移動手段があったから船には乗らなかった気もするわ…」
不思議な出来事がたくさんつまった旅の結末に、またひとつ不思議な巡り合わせ。
怪しいやつといえば怪しいやつなのだけれど知らないわけでもない。
とりあえずモンスターじゃなくてよかった(その辺のモンスターよりも性質は悪いかもしれないが)、と
ゼシカは緊張していた身体を背伸びをして解し、ひとつ息を吐いた。
しかしゼシカの侵入に気付かない程とは、未だ身体は癒えていないのであろうか。
あの日から何日も経っているというのに。
マルチェロの表情に覇気がない、否、不遜な表情に彼の傲慢さはよく滲みでているのだけど、
それは虚勢の様にただのフェイクにも感じられた。

マルチェロは両手で衣服を叩き、整え、腐っても騎士、と嗜みのごとく再度彼女に一礼すると
「すまない、すぐに出て行く」
とゼシカの脇をするりと抜けて甲板へ続く扉に手をかけた。
「今、海の真ん中よ」
逃げるように扉を開く男の背中にそう声をかけるとマルチェロが固まったように動きを止めたので
ゼシカは可笑しくなってツインテールを揺らしながらくすりと笑い
「心配しないで、今この船にはあなたと私しか居ないわ。
それと、この船はちょっとミラクルな船だから舵をとる必要がないのよ」
おおっざっぱな説明だがククールが居たならばルーラも忘れて海に飛び込みかねない程に
彼がククールに固執して…気に病んでいる事が推測できたのでゼシカはそう言葉を続け微笑んだ。
心中を見透かされている様な居心地の悪さはあるがゼシカの放つ暢気な空気に
マルチェロは諦めたように「…それはそれは…」と息を吐き、扉を開けていた強張っている手を離した。
パタンと空気を揺らしながら扉が閉まる。
かすかに波の音が鼓膜を揺らして、世界が海に切り取られてしまったような錯覚を覚えてしまいそう。
なんとなく、ほんとうになんとなく、予感がした。彼は、誰かを必要としているのでは。
それは期待であるという考えが頭をよぎったが無視をして、ゼシカは先ほど男の眠っていたベッドに
腰をかけ、押し黙ったまま所在なさげに佇むマルチェロの背中をぼんやりと見つめていた。
ゼシカがマルチェロに行く当てはあるのか、と聞こうと「ねえ」と声をかけた時だった。
船体が大きく揺れ、嵐のような衝撃と轟音が響き渡る。

モンスターの襲撃。
ゼシカはすぐに立ち上がり腰にあるグリンガムのムチを確認すると、船上を目指し部屋を飛び出した。

マルチェロは佇んだままその走り行く背中を見送りながら加勢すべきであろうかと思案する。
女はゴルドで手合わせをしていることから護る必要もないくらいに強いと知っていた。
それに自分は今、法皇でも聖人でも騎士でもないのだ。
なにもない。なにもかも野望さえも潰え灰になった。凶悪な罪人として追われる身になり、
絶望さえ許されず、己の手には惨めに救われた存在という理由なき生だけしか残っていない。
「……らしくない……」
美しい装飾が施されたレイピアを携えて、マルチェロはゼシカを追いかけるように部屋を後にした。

◇◇◇◇◇

「マルチェロ、お疲れ様。あなた敵にすると厄介だけど仲間となると心強いわ」
額をつたう汗を拭いながらゼシカはふふ、と笑いマルチェロに彼女なりの礼を述べた。
敵のマホカンタのところにイオナズンを仕掛け相当のダメージをくらうというゼシカのなんとも痛い戦いに
マルチェロのいてつく波動の素敵な補助に強力なかえんぎりの援護。
そして二人お得意の容赦ないメラゾーマ乱射で戦いはひとまず上々な終焉を迎えたのであった。
「…仲間になった覚えはないのだが」
マルチェロは甲板の手摺に寄りかかり溜め息まじりに形式だけの不服申し立ての言葉を言いながら、
見てられないほどに(自滅によって)ぼろぼろなゼシカに向けてベホイミを放つ。
ゼシカはまさかあのイヤミ大将の性格の歪んだ男が気遣いなど!と失礼ながらも大層驚きつつも
遠慮もせず淡く優しい魔法の光を感じていた。傷口がふさがり力が戻ってくる。
ゼシカの再生されていく皮膚を確認して次にマルチェロは自分に回復魔法を詠唱した。

しかしその男の翳した掌からは何も起こらず彼の傷が癒えることもなかった。

「マジックポイント切れ…かしら?」
その様子を見ながら、たしか万能薬があったはず、と、ゼシカが急いで腰元の袋を探る。
立ち尽くし悲哀を帯びた表情でマルチェロは己の掌を見た。

そのままその腕で頭を抱えるようにして俯く。
「そうか……そういうことか……」
マルチェロが乾いたように笑いながらその場に座り込み、剣を床に置いた。
ゼシカはダメージを余り受けていなかった筈の男から濃い血の匂いを感じ不振に思い傍に駆け寄る。
考えてみればはじめから、そう、船に乗り込んでからずっと、血の匂いはしていた。
「ちょっと、診せて!」
ゼシカは乱暴に左手でマルチェロのたぶんきっとおそらくチャームポイントであろう額を押さえつけ
半ば無理矢理に顔を上げさせた。勢いがありすぎて馬乗りに近い状態になる。
右手で強引に男の身につけている法衣の襟元についている留め具を外そうと試みる。
「…っ!……発情期の猫のようだな」
その反動でへりに頭を打ち付けながらもマルチェロは悪態を忘れない。
が、それはゼシカを腹立たせる効果はなく、むしろ彼女には何かのサインにすら思えた。
開かれた両の眼と眼が合う。
「あなたも、発情期だなんて言葉ククールみたいよ?」
揶揄には揶揄でと、ハンムラビ法典を思い出させる様な答え方をしながらゼシカは男の服を開いた。

肉が裂けていた。新しい血が滲んでは焼かれた皮膚の傷痕をつたい法衣にそれが吸い込まれていく。

「……薬も、効かないのだ……おそらく、魔王の呪いかなにかだろう」
フン、とでも言いたげに顔を背けマルチェロが白状する様に思い当たる可能性を言葉にする。
「あなた達に敗れた後だ。薬草を煎じても血が止まらないので
己で皮膚を焼いて止血をしようと思ったのだがそれでも止まらない。
まあ仕様がない…しばらく休めば治るかと思いベットを拝借したが
日が経っても一向に傷が癒えぬ。妙だとは思っていたが…」
そう語り、呼吸を整えるとゼシカの手を払い退け衣服を整えた。
「……神は相応の罰を私に授けたのか。赦されることはない、罪が癒えてはならないと……」
「話がややこしくなるから悲観的な独白は心の中で喋って頂戴」
このままマルチェロの語りが法皇就任の演説ばりに仰々しく
尊大な立ち振る舞いになってはかなわないとゼシカは男の言葉を牽制した。
そして放棄したいくらいの不可解な謎を整理するように考える。
「……魔王は、倒したのよ?トロデ王、ミーティア姫の呪いはしばらくして解けた」

魔王の呪いだとしても未だ解けないなんて、この男には何が起こっているというのだろう。
ゼシカ自身もマルチェロと同様にあの魔王の封じられた杖に身体をのっとられたのだが
そんな後遺症はない。
それとも、ほかの支配されていた生物は皆死んでしまったのだから
なんの影響もないゼシカが異常なのかもしれない。
しかしながらオールバックでイヤミでネクラな眉間の皺を恨んでいる人間はたくさんいるだろうから
他の原因も考えられるのではなかろうか。
と、ゼシカが思案していると急にドサ、と鈍い音をたててマルチェロの身体が床へと崩れた。
「マルチェロ!?」
ゼシカがとっさに手を出して男が頭部を打ち付けないように受け止める。
怪我の炎症のせいであろう、ゼシカが触れたときにマルチェロの体温は高く熱かった。
抱き起こし声をかけてもかえって来るのは痛みに魘される呼吸だけで、男の意識は戻らなかった。

◇◇◇◇◇

ゼシカは思い切りマルチェロの頬を拳で殴りつけた。
格闘スキルを極めた彼女によって昇天手前になりつつもマルチェロが意識を取り戻したのは
一本の細い糸を手繰り寄せたしぶといカリスマ根性の賜物であるような気がする。
殴り起こした本人とは思えぬほど心配そうにゼシカはマルチェロの顔を覗き込んだ。
「五日も眠ってたのよ?不思議な泉の水で煎じた薬で少しは楽になったでしょう?」
赤く腫れ上がる男の頬を指でなぞり言葉を続ける。
「泉の水は呪いの力を消す効果があるんだけど……強い呪いには効き目が弱いのよ……だから
あなたの呪いが完全に解けたわけじゃないんだけど、セックスするくらいの力は回復したわよね?」
マルチェロの意識が途絶えてから五日の時間が経過していた。
脳髄から揺れて痛む頭でマルチェロは事態をゆっくりと咀嚼し認識しようと試みる。
随分と意識を失っていた。なぜ殴られなければならないのであろう。
見覚えのない森の中であるので、どうやら船を降り移動したようだ。
身体が少し軽く感じるのは不思議な泉とやらのおかげらしい。
セックスするくらいの力は回復したかと尋ねられた。

どうだろうか、動く分にはもんだいはな…………………?

「セックス?」と思わず確認するように呟いてしまった。
ゼシカの言葉にマルチェロが反応を示すまでにたっぷり三分はあっただろう。
驚きに撥ねるように身体を起こし、いつも以上に眉間の皺を深くして男は訝しげにゼシカを見た。
「大丈夫?すごい変な顔よ?」
ゼシカはマルチェロのカリスマ睨みを気にすることもなく素直に意見を述べる。
「下品な事は冗談でも言うものではない。レディであろう」
以後気を付けたまえ、と動揺した己を抑えつつマルチェロは毅然とした態度でゼシカを嗜め、
状況を把握する事に努めるべく、あたりを見回した。
水面が七色にきらきらと揺れる澄んだ清らかな泉が見える。おそらく不思議な泉とやらであろう。
マルチェロは立ち上がり、背伸びをするようにして大きく息を吸い柔らかい空気を肺に取り込み、
体を確かめるために首や肩、手指を動かす。焼けるような痛みがあるものの、随分と楽になっていた。

「……冗談じゃないから、殴ったのよ」
ゼシカが酷く穏やかな声でマルチェロの背中に話しかける。
鬱積していたものがぽろぽろとこぼれていくような、主観のみでお送りする言葉の羅列。
「あんたなんかどうでもいいんだけど、でも、放ってはおけないじゃない。
私が呼んだって死んだみたいに目なんか閉じてるから、すごくこわかったのよ?
だから頑張って、調べて……それで……呪いを解く方法がわかったの。
あなたも嫌かもしれないけど私だって嫌。だけど、人が死ぬのはもっと嫌。
だから………………………ああ、もう!!」
癇癪でも起こしたのかような勢いでゼシカはマルチェロのマントの裾を思いっきり引っ張り叫ぶ。
「処女じゃあるまいしやらせなさいよ!」
マルチェロはゼシカの引力と暴言に身体のバランスを崩し、引っ張られるまま背中から芝生に倒れた。

「お、おい」
心から動揺したためにマルチェロが情けない声をあげる。
ほとんど彼女について何も知らないのだが、完全に様子がおかしい。
テンションが100まで一気にあがったようなゼシカは、仰向けになった男のマウントポジションを取る。
「契り、よ」
自分自身に確認するように呟きゼシカは真剣な表情でマルチェロのベルトに手をかける。
勢いのわりにもたつきながらも腰元を緩め、男のアンダーのファスナーを降ろした。

「どういう事だ?」
下から見上げる状態であり、露出の多い神秘のビスチェを装備しているおいろけスキル100の
ゼシカ嬢の腿と胸がマルチェロの視界を占領している。
混乱し呆けてしまいそうなところを堪えて、身を捩りながらマルチェロはゼシカに
全然今から行われるであろう行為の意図がわからないのだと抗議した。
「終わったら、今度はあなたが殴ってくれて構わないから……お願いよ」
怒ったような、困ったような、泣き出してしまいそうな、形容し難い表情でゼシカはマルチェロの質問の
答えとは程遠い答えをしながら、目をギュッと瞑って男のアンダーに細い手を差し入れた。
「…っ…」
股間にゼシカのひんやりとした手が触れマルチェロは息を呑む。
女の小さなてのひらが揉み込む様にペニスを包み、それを持ち上げるようにしてファスナーから覗かせた。
焦っているのかゼシカはビスチェのショーツ部分を己の指でずらし陰部を露にし
その性器を併せるようにマルチェロのペニスの上に跨った。
「ん……こう、かな?……」
マルチェロのペニスは完全に勃起しておらず、ゼシカの秘部も濡れていないので挿入は困難である。
が、ゼシカは頬を染めながらぎこちない手つきで一生懸命ペニスを己の中への誘導を試みる。
「ちょっと、待ち、たまえ、まさか、あなたは」
ゆるゆるとしたゼシカの手の動きと擦れる陰部のもどかしい不規則な快感に息を詰まらせながら、
マルチェロはこちらへの気をそらしているゼシカにやっとの抵抗で手を伸ばし、腕を摑み手前に引いた。
手を引かれたため、きゃ、と小さい悲鳴と共にマルチェロの胸に顔から飛び込みゼシカは鼻を打つ。
すぐに起き上がろうと顔をあげようとしたが男の手に頭を抑えられ叶わなかった。
マルチェロがゼシカを胸元に抱きしめる形になり、じんわりと互いの体温が混ざり合う。
行動の意味は判断しかねるがどう考えてもどう考慮してもどう善処してもどう転んでも
これは恐らく確実であろう推測を事実として認識するためマルチェロはゼシカに問うた。
まさかまさか。
「……処女か?」
ゼシカの耳に丁度マルチェロの心音が伝わる。
勢いでなんとか保っていたゼシカはそれを挫かれて、激しい羞恥心に顔が火を噴いたように熱くなる。
命を刻む男の胸にその情けない顔を埋めるようにして蚊の鳴くような声で、そうよ、と答えた。

「全く、解せぬ」
しばらくの沈黙の後マルチェロが呟いた。
二人は倒れこんだ状態で重なり固まってしまっていたのかのように止まっていたのだが
マルチェロがゼシカを支えるようにして一緒に身体を起こした。
「マルチェロ?」
向き合いながらマルチェロの組んだ膝にゼシカが座る体勢になり、ゼシカのすぐ目の前に
マルチェロの顔がある。
冗談も通じないようないつもの顰めた表情でこちらをじっと見ているが、
心なしか頬が染まっているように感じられて暖かみがある気がして嫌悪感はない。
体勢を立て直されたせいで先ほどからお互いの情けなく露出した性器がヒタリとくっついている。
羞恥に一度呑み込まれたゼシカには耐えられず今度は彼女が顔を背ける番だった。

マルチェロがゼシカの髪を後ろに流すように梳き、露な白い首筋に優しく噛み付いた。
びくり、とゼシカの身体が揺れる。少し屈んだだけでお互いの身体がますます密着してしまう。
「ひっ」
と短い驚きの声をあげてゼシカは身じろぎ、いやいやをする子供の様に両手でマルチェロの胸を押す。
なんて色気の無い声だ、とマルチェロは呆れたように揶揄し、後ろへ逃げようとするゼシカの
反動を利用して腰を引き、彼女に覆いかぶさるように地面へと押し倒した。
「不明瞭な事態も主導権を握られるのも嫌いなもので……説明していただこう」
ゼシカのテンションが下がるとたちまちに本来の調子を取り戻したマルチェロがゼシカの耳元に囁く。
かかる息のくすぐったさにゼシカが震え、男のM字額が際立つ前髪ごと摑み押し退けようとした。
「ば、バカ、く、空気読みなさいよ!」
「っ〜〜!その言葉そのままお返しする」
ある意味急所を摑まれて、マルチェロは狼狽しつつもゼシカの内腿を撫で牽制する。
「性交に何か意味があるのであろう?それに……経験のない者にリードされてたまるか」
たじろぐゼシカを余所に上着を素早く脱ぎ床に置き、乱れた髪を整えつつ彼女をを見下ろす。
「馬鹿にしないでよね。本当は……できる娘よ、私」
ゼシカが男の下ですぐばれるような見栄を張った。売り言葉に買い言葉、という悪い癖だ。
弱気になりそうな自分を奮い立たせながら、有限実行と胸元のリボンを解き始めた。
「理由は、教えてはくれないのか」
眉を寄せながらもやはり、といった風にこぼしながらマルチェロはゼシカのふくよかな胸に顔を埋める。

キメの細かい滑らかな若い肌に唇を落とし、舌を這わせながら、ゼシカが服を脱ごうとする手を止めて
マルチェロが引き剥がすように一気に女のビスチェを剥がした。
「っ、ぁ、く、くすぐったい」
堪えきれず、のどを震わせてゼシカが恥じらいを含んだ吐息まじりに笑みを漏らす。
「それは、どうも」と手指でゼシカの身体の線をなぞりながらマルチェロが答え、
こぼれそうな乳房にある乳首を唾液を含ませた唇に含み舌先でで遊ぶように嬲る。
チロチロと転がすほどに桜色の蕾がぷっくりと膨らんだ。
「…んっ…やだ、へんな、感じ」
ゼシカの声がだんだんと色を含んでいく。
「いちいち感じてしまうのか、淫乱だな」
からかう様に笑い、啄ばむ様に胸、肩、へそ、陰毛とキスを繰り返しながら
マルチェロの手がするすると女の皮膚を撫で進み彼女の秘部へと到達する。
「ここは?」
と茂みを指で掻き分けて指の腹で淫核を刺激する。
「あ…ん、や、何か気持ちいい…な、なんで?」
マルチェロの指の動きと熱さに肌が粟立つ程の快感をゼシカは感じた。
「クリトリスは性感帯、男のペニスの様なものだ」
ゼシカの陰部に沿って絶えず指をくるくると動かしながら生真面目にマルチェロは説明をする。
「ぁ…あっ…はぁ…、そ、そうなんだ…?」
頭の中が白くなりそうなくらいの感覚に息を乱すゼシカの陰部から
くちゅくちゅと水気を帯びたいやらしい音が立ち始める。
マルチェロは横たわるゼシカの足を開き、女の匂いが色濃いその間に顔を埋めた。
「ちょ、ちょっと!?」
ゼシカが驚いて足を閉じようとするが「セックスとはこういうものなのだが、御存知では?」
とマルチェロは両手で抑え付ける。薄い栗色の陰毛を掻き分けると、
桜色の突起が色味を増してふくらみ、しっとりと濡れたいびつな二枚のヒダがひくひくと揺れていた。
「指を入れる。痛かったら右手を挙げろ」
歯医者さんの様な気遣いをみせつつ、マルチェロは親指でゼシカのクリトリスを撫でながら
潤んだヒダを掻き分け中指をゆっくりと進めていく。くちゅり、とざわめく。
「…んぅ…」
指で膣をほぐす様に掻き回すと絡みつくようにゼシカの中が蠢いてまとわりつく。

人差し指も加え二本の指でぐちゃぐちゃと弄れば、とろとろとねばりをもった蜜があふれて零れていく。
「お嬢さん、気分はいかがかな」
指で秘部を拡げるようにして、わざとぴちゃぴちゃと音をたてて指と舌とで悪戯に舐めまわす。
「…ぁぁん、おかしい、くらい、きもちいっ……」
両手をぎゅっと握り締めて耐える様にゼシカが答えた。
不思議な泉のほとりに、風が揺らす葉のこすれる音と女の嬌声と男の息遣いが響き渡る。

執拗な愛撫をしていたマルチェロが手を止め、ゼシカの身体を起こした。
慣れない快感のせいで呆けているゼシカを、マルチェロは少し躊躇いながら抱きしめる。
「挿れて、本当にいいのか?」
ロックされたように視線が交わり、そうゼシカに問いながら
マルチェロがゼシカの顎を引いて、唇を重ねようと顔を近づける。

あと数センチ、というところで、ぐい、とマルチェロの顔をゼシカは邪魔そうに押し返し
一人納得したように微笑んだ。
「あ!今度は私の番ね!」

空気読め、とマルチェロは心の中で100回唱えた。

マルチェロなりの、勇気を振り絞った行為を容易く無に帰したゼシカは、
みるみる不機嫌になるカリスマの心を知ってか知らぬか先ほどまでのムードを壊しながら
「やってみるわ」
とマルチェロの身体を今度はゼシカが抱き寄せ、拗ねたように顔を歪める男の首筋に唇を寄せる。
ゼシカの紅い唇が、マルチェロの肉体を甘噛みしていった。
マルチェロがゼシカに施した愛撫のように、手や指、そして舌で敏感なところをさぐる。
ゼシカとは全然違う、鍛えられた脂肪の少ない男の身体。
当たり前だけれど、あたたかく、生きている。
たくさんの傷があり、呪いのせいで未だ赤く腫れあがって血が滲んでいた。
いちばん深い、裂け焼けた傷にゼシカは触れるか触れないかのやさしやさしい口付け。
「…ごめんなさい。痛いわよね?」
ゼシカは不安気にマルチェロを見上げる。

痛いのはもちろん痛いのだが。
下半身、尾骨から背中にかけてゾクゾクと這い上がり痺れるような快感に
マルチェロは思わず声をあげそうになり、手で口元を覆って必死で堪える。
声を出さぬかわりに、首をふり大丈夫だ、というような身振りで答えた。
それを確認してよかった、と呟きながら次に男のアンダーを脱がせようとゼシカが手をかける。
「やだ、さっきより、おっきくなってる?」
ゼシカはツインテールを揺らして不思議そうにまじまじとマルチェロの一物を眺めた。
知らないにも程があると思いつつ性教育はやはり大切であるとマルチェロは思い
「人間の男の身体はだいたいがそういうものだ」と大変簡単な説明をした。
ひっかっかって脱がしにくいわ、と思いながらゼシカはマルチェロの服を脱がせる。
男と女の身体はどうしてこんなにも違うのだろう。
彼女の腕がマルチェロの硬く勃ちあがるそれを両手で優しく包むと、びくん、と
魚のようにペニスが跳ねた。はじめてみた男性性器は奇妙な形に思えるが、
すべすべとした皮膚感が不釣合いに綺麗だとゼシカは思う。
体温よりも少熱く、弾力があるが硬い。これが、本当に中に入るのだろうか。
「うわ、なんか、怖くなってきちゃった…」
そう思いながらもゼシカの陰部はしっかりと劣情を催し、
マルチェロを受け入れようとますます濡れていくのだが。
「ならば、やめればいいだけだ」
とマルチェロが言えばゼシカは首を振り、ペニスと男を交互に何度か見つめた後、
目を閉じてひとつ深呼吸した。何だ?と思いながらもマルチェロは黙って成り行きを待つ。
ゼシカは身体をずらして屈み、マルチェロのペニスを手で支えながら、濡れた口にそれを含んだ。
「う…」
敏感なところを生暖かい弾力が襲いマルチェロが小さく声を漏らした。
先を唇で包み、鈴口を舌先で舐める。その竿を持つ手が少し震えて、ゼシカは恥ずかしかった。
マルチェロの愛撫をお手本に真似事をしてみたものの、これでいいのであろうか。
咥えながら、ちら、と男の表情を伺う。あまり変化が分かり難い顔の持ち主で、苦しそうにも見える。
唇をむぐむぐと動かして口いっぱいのそれを懸命に咥え、震える手でさする。
奉仕をしながらゼシカがなにをしたらいいのかわからないで困ったように首をかしげると
マルチェロが彼女の髪を撫で「ゼシカ」と、名を呼んだ。

マルチェロがゼシカに覆いかぶさるようにして瞼にキスを落とすと、ゼシカがその首に手をまわす。
汗ばんだ肌が馴染んで同じ体温になってゆくようだ。
陰毛を掻き分け、手探りで割れ目を押さえ指で誘導するように自身のペニスを滑らせる。
震える彼女の陰部のヒダを腰を揺らしながら分け、掻い潜らせ、奥へ、奥へと、
一物をめりこませようと腰を進めた。
くちゅ、にゅ、むちゅ。と、異物を押し返すようにしてゼシカの熱を帯びた肉が進入を拒むが、
マルチェロはそのまま腰を捻りながら埋め込み、硬くそそり勃ったものを突き挿して行く。
「…ぁっ……ん…いた……っ」
圧迫される感覚にゼシカが声をあげる。
マルチェロの首の上に組まれた彼女の腕に力が入っているのがわかる。
「…っ」
窮屈さに唸りながらマルチェロが腹に力を込めペニスに体重をかけるようにして、
いっきに奥まで貫くと、ゼシカが小鳥の様に鳴いた。
痛さに耐えるゼシカの手を剥がし、その白く細い手をマルチェロの手が包む。
マルチェロはゆっくりと腰を振った。暖かいねっとりと絡みつく肉の波の中を、泳ぐ様に揺らす。
「…っはぁ……ん」
そのゆるやかな律動にいつしかゼシカは快感を覚えて呻きがだんだんと嬌声に変わっていく。
じゅぶじゅぶと擦れ合って火照る空間を満たされたゼシカの膣が快楽を享受して蠢き
マルチェロのペニスを愛しそうにぎゅうと抱きしめる。
「大丈夫、そう、だな」
とマルチェロがゼシカの頬に落ちた涙を舐め、さらに激しく速い律動で腰を動かし始めた。
「…んっ、ん、っ…!」
抜けてしまわないように腰を引いて、勢いよくまた挿し込むとゼシカが苦しそうに腰をくねらせる。
二人にじわじわと差し迫る様に快感が走り出して気が遠くなりそうになる。
ゼシカは、ぎゅ、と目を閉じて、ぐちゅぐちゅと突かれる度に乱れながら
身体を征服されるような衝撃に女の本能を感じた。苦しいはずなのに、気持ちいい。
十分に濡れていても、きゅうくつで痛いのに、追いかけるようにふたりの精液がまざり
潤んだ摩擦がたまらないくらいの快感を連れてくるのだ。
ぐじょぐしょに繋がった性器のお互いの肉の感触が心地いい。
激しく腰を打ちつけながらも、マルチェロの表情はだんだんと穏やかで静かなものになっていく。
けれど呼吸だけが不釣合いに荒く、それがなんともいえない淫靡さを際立たせた。

身体ごと揺すられて、じゅぷ、じゅぷ、と大きな音が響きゼシカの乳房もぶるぶると上下する。
息を乱しながら抜き、挿し、抜き、挿し、と繰り返せば、応えるようゼシカの中が伸縮を繰り返し
ペニスへ纏わりついて離れ難い。
「あっ…あっ……んっ…」
ペニスを咥え込む性器が精液でとろとろに溶けぐちゅぐちゅと擦れる度泡立ち
マルチェロは快楽を貪欲に集める様に、強く、速く、繰り返しペニスを突き刺した。
張り詰めたペニスが勢いをつけてぶつかるたび、ゼシカは意識を手放しそうになった。
身体が、強張って、震える。
「…くっ」
彼女の最後の抵抗の様に陰部がきつくきつく締まった。
気持ちがいい。快感過ぎて苦しいくらいの締め付けに、マルチェロは乱暴にペニスを打ちつけ、
発情期の犬のように腰を振る。
「やあっ…ん…うぅ…っ…!」
奥に当たるほどに追い詰められて、ゼシカは声をあげた。
背中から沸騰する様にぼりつめる快楽が、上へ上へと、マルチェロの劣情を連れて行く。
ペニスが、熱く、熱く、ぎりぎりと、限界の上の限界、というような、もうどうしようもない、感覚。
ぶる、る、とペニスが震え、尿道から白濁した精液が、どく、どく、どく、と脈打ちながら
ゼシカの中にどろどろと流れ込む。

二人は、繋がったままその場に倒れこんだ。

◇◇◇◇◇

『マルチェロの呪いは、やはり魔王ラプソーン支配によるものと考えていい。
ゼシカ。同じく支配されたあなたにその呪いが現れない理由は、
あなたの中に賢者アルバートの血がながれているからであろう。
その身体に宿した賢者の聖なる魔力が、あなたを護ったのだ。

マルチェロを救う方法はある。
それは、マルチェロが賢者の血を持つ者と契りをかわし聖なる血の契約を結ぶ
……つまり性交なのだが。聖なる魔力が身体に宿れば、呪いは消えるであろう。
ああ、契りに性別は問わぬ、交じり合う体の中で血液が一つになれば契約が成立しよう』

◇◇◇◇◇

「ねえ」
呼吸を整えてゼシカが呟いた。
マルチェロがゼシカの中に埋めていたどろどろの身体をゆっくりと引き抜く。
ぬぷ、と弾かれるようにペニスが外れ、血と精液がぽたぽたと伝い流れた。
「何だ?」
射精後の脱力感を気合をいれて振り払い、マルチェロは紳士に女の身体を起こしてやる。
ゼシカが黙ったまま向き合う男の方を見る。
その視線を受けてマルチェロは居心地が悪いような心持ちがしたが女の行動を待った。

ゼシカはマルチェロにやっと行為の意味を伝える。
意識を失っている間に竜王の元を一人で訪れ助言を求めた。
そうして呪いを解く方法がわかったのだと。

女が手をのばして、マルチェロの胸の裂けて焼けただれた傷をなぞる。
「これも、消えるわ」
マルチェロは女の説明に戸惑いつつも、確かに身体が蝕まれているような感覚が
なくなっているので真実なのであろうと考えた。


ゼシカが汚れた髪や身体を手で払いながら、身支度をはじめる。
身体が軋み、肌の感覚に行為の余韻が残っていて酷く恥ずかしくなってしまう。
もう二人が一緒にいる理由はなくなったのだ、と余計に感じてしまう。
ゼシカが身形を整え終わる頃にはマルチェロも既に着衣し、かたいマントを纏っていた。

「世話になった。この礼はいずれさせていただこう」
ひとつも乱れのない頭を下げ、自分の胸の前に片手をかざし、聖騎士の礼をする。
人の役にたったのだから、光栄であるとゼシカは思う。
しかし、なんて喪失感。甘んじて礼に、どういたしましてと冷ややかに返す。

「さようなら、の、まえにひとつ」
マルチェロがゼシカの前に立ち、屈んで、視線をあわせた。
とても近い距離にお互いの顔がある。
「なにかしら?」
ゼシカはどんな表情をしたらいいのか困り、顔を背けた。
黙ったままマルチェロが女の顎を引いて、さらに顔を近づける。
唇まで、あと数センチ。



今度こそ、ゼシカに空気は読めただろうか。



おしまい
2008年12月27日(土) 20:15:36 Modified by test66test




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