砂漠の女王

花や什器で惜しげもなく飾り立てられた謁見室。
テルパドールの女王・アイシスは、この部屋で数時間も待たされていた。
窓から見える、自分の城の数十倍もの広さを持つ巨大城都の風景に目を奪われ、
退屈することはなかったが、一国の女王に対する扱いとしては随分とぞんざいだ。
しかし、彼女を呼びつけた相手は、それだけの地位と資格がある。
部屋の入り口に並ぶ護衛兵たちにわからぬように、小さくため息をつこうか、
と思った時に、その相手が部屋に入ってきた。
「──ごめんなさいね、お呼び立てしたのにお待たせしてしまって」
丁寧に頭を下げる相手に、アイシスはもっと丁重に、
──まるで奴隷が女主人に対するように、目の前の青髪の美女に礼を返した。
「いいえ、待ったというほどでもありませんわ、皇后陛下」
フローラ皇后。
全世界で、おそらくは「四番目の存在」といわれている。
──地位も権力も、自身の強さも。
しかし、彼女より「上」の三人との関係を考えれば、
事実上、彼女の細かい序列などはどうでもよい話だ。
なにしろ、皇帝・リュカは彼女の夫であるし、
伝説の勇者は彼女が生んだ息子で、最強の魔女は彼女の娘なのだから。
大魔王エスタークですら簡単に屠ってみせる一族は、
彼らの国を、かつての王国から<グランバニア大帝国>とよばれる世界帝国に変貌させたが、
その成立には、この女性の存在が大きい。
すでに人智を超えた域に達している勇者親子三人は、
人間世界のことにあまり関心を持っていないが、
フローラ皇后は、自分自身が夫や子供たちにはるかに及ばない分、
人間世界のことに対して熱心であり、夫の国を世界の覇者にすることに執心した。
──それは、夫や子供たちの手を煩わせることなく、順調に進んだ。
旅に出ることが多い皇帝リュカが、彼女の「護衛」としてグランバニアに残したモンスターだけでも、
大陸をいくつか征服するのに十分すぎる戦力だった。
人間世界のどこを探しても、最強にまで成長したグレイトドラゴン三匹と
キラーマシーン三体に勝てる軍隊は存在しない。
彼女は表立ってその武力を使用したことは一度もなかったが、政治的にはおおいに使った。
「護衛」を従えたフローラの「表敬訪問」が何度か行われたのち、
ラインハット王国とメダル王国、それにアイシスのテルパドール王国も、グランバニアの従属国となった。
サラボナは、もともとが彼女の持参金のようなものだ。
アイシスが、フローラに対して侍女のごとく接しているのは、そのためだった。

「ほんとうにごめんなさいね」
フローラは再度、物腰やわらかに頭を下げる。
その穏やかさは、とても人間世界の事実上の支配者のものとは思えないが、
彼女のしたたかさと貪欲さを、アイシスは十分に知っていた。
だが、皇后は、今日はほんとうに機嫌が良いらしい。
いつもの無意識の演技ではない微笑と、いつにましてつややかな頬と唇にそれが表れている。
アイシスは最初それをいぶかしげに思ったが、フローラが手ずから紅茶を入れて
(皇后になってからの彼女が、客人にそれをするのは実に珍しいことだ)、
ティーカップを差し出したときに、その理由はわかった。
ばら色に上気した頬と、最高級の香水の香りの下からでもわかる──濃密な「男」の匂い。
「──あの人が、さっき、ちょっとだけ帰ってきたんです。
……すぐにまた天空城のほうに行っちゃいましたけど」
短い帰宅の間に、何度か夫婦の交わりをしたことが、皇后の上機嫌の理由らしい。
久々のセックスの余韻を楽しむために、フローラは性交のあと、
わざと湯浴みもせずにここに来たのだ。
おそらく、彼女の性器の中には、まだリュカの精液がたっぷりと残ったままだろう。
愛する男の子種が、自分の体の奥を満たしている感覚。
女の生理を刺激するその想像に、男日照りのアイシスはびくりと体を震わせた。
不覚にも、それだけでちょっと濡れてしまう。
それを見透かしたように、フローラがにっこりと笑った。
男を丸々一人、それもまぎれもなく世界最高の男を所有している女の、自信にあふれた微笑だ。
満ち足りた家庭の主婦だけにゆるされる笑顔に、アイシスは圧倒された。

「──それで、私に頼みとは?」
心の平静を取り戻すのには随分努力が必要だった。
しかし初潮も迎えぬ少女の時代から女王を二十年近く務めている経験がそれをカバーした。
だが、それも皇后の次の一言で粉々に吹き飛ぶ。
「実は──貴女に、あの子の筆おろしを頼みたいの」
「!?」
フローラが、「あの子」と呼ぶのは、彼女の息子、勇者その人ことだ。
父親のリュカを除けば、まぎれもなく世界最強の戦士である。
天空の武具を身に付け魔王の軍団と戦う<伝説の勇者>の姿に、
世界は希望を見出し、今日の再建を成し遂げた。
だが、今年十四歳になったはずの勇者は、
世界の至宝であると同時に、フローラの手中の玉のはずだった。
彼女の野心の道具、権力の源、絶対性の後ろ盾という意味ではなく、
単純に、母親にとっての「大事な息子」という意味で。
家庭的な問題においてはひどく保守的な皇后が、
好奇心旺盛な皇子がすごろく場をはじめとする各地の
「悪い遊び場」に出没することに頭を悩ませているのを、アイシスは知っていた。
──ラインハットは先日、百万ゴールドもの臨時献上金をグランバニアに納めたが、
その理由は、未成年の勇者に「ぱふぱふ屋」を利用させた、ということに対する謝罪だった。
「ぱふぱふ」ですらそれほどの大問題にする皇后が、よりによって息子の筆おろしを依頼するとは──。
アイシスは一瞬、フローラに、気は確かか、と問いかけようかと思ったほどだった。
女王の表情にそれを読み取ったのか、皇后はちょっと目をそらして間をおいた。
沈黙は短かった。
あまり言いたくないことだが、話してしまったほうがよい、とすぐに判断したようだった。
皇后は、天のように高いプライドを持っていたが、
自分の家族のためならば、それを忘れることも、脇に置いておくこともできる賢明な女性だった。
「……実は、あの子のことについては、いろいろと厄介ことになっているのです」
「厄介?」
興味津々という様子を表に出さないように気を使いながら、アイシスは先を促した。
天空の兜の守護者であったテルパドールの女王として、
<伝説の勇者>その人のことは、何よりも関心が深いものである。
「娘が、あの子のことを「男」として好きなのは、もうご存知でしょ?」
娘とは、勇者の双子の妹のことである。
最強の魔女であり、勇者の一行の要の魔法使いであるが、
この少女が、ひそかに兄のことを想っていることを、
アイシスは、はじめてあったときから見抜いていた。
幼いときから、この二人はいっしょの旅の中で育った。
石になった両親を探し、二人が見つかってからは魔界にまで及ぶ戦いの旅を共にした兄妹の絆は非常に強い。
同年代の友人がいない二人にとっては、なおさらだろう。
また、旅というものは、往々にして性的に成熟するところが多い。
いっしょに水浴びをしたり、用便の際に見張りをしてやったりするし、
宿泊先の街で、売春宿などの夜の世界を垣間見たりもする。
そうした中で思春期を迎えた妹が、兄のことを異性として意識してもおかしくはなかった。
──ましてや、少女は、年若くして世界最強の魔法使いとなってしまった身だった。
彼女につりあう同世代の男は、「伝説の勇者」である兄しか存在しなかった。
いろいろな要素が絡み合ったあげく、少女は、双子の兄を「男」として愛するようになってしまった。
「……いくらなんでも、それだけは避けたいのです」
フローラは、複雑な、というよりおびえたような表情を浮かべた。
こうした問題に関して言えば、辣腕の皇后も、一介の母親でしかない。
近親相姦を防ぐために、フローラは一時期、ラインハットの王子コリンズを少女の婿に考えていたが、
国同士も本人の力量的にもあまりにもつりあわない組み合わせであったのであきらめざるを得なかった。
さいわい、性に対する罪悪感が芽生え始めた年頃に入り、
また、魔王を倒した後は四六時中いっしょのパーティーを組むことがなくなったこともあって、
少女は兄と微妙な距離を置いて接するようになった。
しかし事態はただ保留になっただけであり、解決したわけではなかった。
「……さらに悪いことに、その娘から、この間連絡があったのですが……」
フローラはふたたび憂鬱そうな表情になった。
「……ビアンカさんが、最近、あの子に近づいているみたいなのです」
アイシスはあやうく含んだ紅茶を噴出すところだった。

──ビアンカ、久しくその名前を忘れていた。
リュカの幼馴染のその女性は、山奥の村に隠棲しているが、
フローラをもしのぐと言われたその美貌は健在だった。
リュカがやはり「護衛」として彼女のもとにおいていった
キラーパンサーとともに世界を旅して培った魔力は、
一対一ならばフローラ皇后と互角とも言われる。
一時はリュカの花嫁の座を争った金髪の魔女は、フローラにとってこの世で一番煙たい存在であった。
しかし陰謀家の皇后が彼女に手を出せないのは、彼女が夫の古い友人であり、
旅の途中でもしばしば立ち寄り、子供たちとも家族のような付き合いをしてきたからだ。
……フローラと出会う前の話だが、リュカが童貞を捨てた相手がビアンカだともいう。
そのためか、リュカは世界の片隅で隠棲する彼女に、今もいろいろと気を使っているようだった。
息子に、山奥の村に時折立ち寄るように命じているのも、
彼女と勇者とを顔なじみにしておくことで、さりげなくフローラへのけん制をしている、とも言えた。
──それが裏目に出たようであった。
「ビアンカさんがね、最近、あの子が村に行くと、いっしょに温泉に入るようにしているらしいのですわ」
「混浴ってことですか?」
「しかも、素っ裸でね」
彼女の住む山奥の村は、世界屈指の温泉保養地だ。皇帝一家も、好んで入りにいく。
しかし家族での貸切を除けば、混浴といっても、
湯の中では布をまとって入るのが、あの地方での習慣であったはずである。
ビアンカは、それを無視して、勇者と全裸で湯に入るようにしているらしい。
(あの美貌と身体なら、勇者にとってさぞかし興味深いものだろう)
アイシスはそう思った。
「まだ肉体関係にはないみたいだけど、あっちはその気満々よ。
──この間は、湯の中でおっぱいを吸わせてたということだし、最近などは……」
皇后は口を閉ざし、苦々しい表情を作った。
「最近などは……?」
アイシスは注意深く先を促す。
「……あの子に自分の女性器を見せてたのよ。指で開いて、奥までね」
熟れきった美女の裸は、思春期の少年には刺激が強すぎるだろう。
「それは大胆──というより、もうその先まで進んでいるんじゃないのですか?」
「キラーマシーンの報告では、絶対まだだということだわ。でも……時間の問題よ」
「……そうですわね。そこまで行ったら、次はクンニリングスとオナニーの手伝いは確実。
その次は、フェラチオ。あるいは、そのまま一気にセックスまで行ってしまうかも知れませんわね」
「──冗談じゃないわ!」
イオナズンが炸裂したかと思うような叫び声に、アイシスは身をすくめた。
自身で手を下すことはないとは言え、フローラ自身も、最強の魔女である娘に次ぐ大魔法使いである。
皇后の本気の怒りは、皇帝と勇者と最強の魔女のそれをのぞけば、地上で最も恐ろしいだろう。
アイシスは、口を閉ざしてフローラが平静さを取り戻すのを待った。

しばらくして、皇后は先ほどの激昂が嘘のように、艶やかな笑みを浮かべた。
「──ごめんなさいね、取り乱しちゃって。忘れてくれるとありがたいわ」
つまり、口外したらひどい目に会うということだ。
アイシスは慎重に頷いた。
「それでね。考えたのですが、あの女狐──じゃない、売女──じゃない、
ビアンカさんがあの子と、アレをしてしまう前に、あの子に女性を経験させておこうと思ったのです」
話が少し飛躍しているが、フローラなりに考えた結論だろう。
たしかに、男の子は、いずれ童貞を捨てなければならない。
その相手が問題なのだが、アイシスはそれにふさわしいと言えた。
「──テルパドールの女王である貴女なら、あの子の初体験の相手に不足はないわ」
アイシスなら、血統的にも、グランバニア次期皇帝の相手ににつかわしい。
「たしかに、テルパドール王家は<伝説の勇者>ゆかりの者です。
あるいは勇者様のご相手に私はふさわしいかもしれません」
アイシスは深く頷いた。
「あの子の筆下ろし、引き受けてくれるかしら?」
「よろこんで」
皇后と女王は、密約を交わすことにした。

二人の陰謀家は、女性らしく事細かに計画を立てた。
口うるさい皇后が満足するに値する段取りが付いたころには、紅茶はすっかり冷め切っていた。
冷えた紅茶をすすり、アイシスは最後に質問をする。
「──ことに当たってなにか、ご注文はございますか?」
皇后は、唇にちょっと指を当てて考えた。
「そうね。大事なあの子の、せっかくの初体験だもの、できれば生でやらせてくださるかしら」
王家にはさまざまな避妊具が常備されているが、それを使うなと言うことだ。
たしかに、避妊具をつけての性交は、男性にとっていささか味気ないものだという。
皇后はもちろんリュカ以外に性交経験はないし、夫相手の交わりで避妊をすることもないのだが、
耳年増な彼女は、色々と聞きかじっているのだろう。
自分が一度も避妊をしたことがないので、避妊具で快楽が減じる事を実際以上に心配しているのかもしれない。
「私は計画の頃にちょうど危険日なので、妊娠してしまうかも知れません」
「──それは、困るわね」
「私はかまいませんが。いえ、むしろそちらのほうが好都合です」
「……どういう意味かしら?」
皇后の目が、ぎん、と光る。
息子に変な虫が付かないように、異常に神経を尖らせる母親の目だ。
自分から性交を命じておいて変な虫も何もない物だが、母親とはそういうものらしい。
「……ご安心ください。勇者様の正妻の座を狙うほど若くはありません。
私は<グランバニア大帝国の忠実なる従属国の女王>で十分です。
しかし、テルパドールにもそろそろ、王位継承者が必要になってきました。
──それが<伝説の勇者>様の血を引くものなら、最高ですわ」
「……そういうことなら、かまわないわ。そちらが良ければ、ね」
「ふふふ、<伝説の勇者>様、しかもあんなに年下の殿方の子種で孕めるなんて、素敵ですわ」
アイシスは皇后に気付かれぬように舌なめずりした。
勇者は、テルパドールの民にあっては、希望の星という以上の存在だ。
アイシス自身にも、何より強い思い入れがある。
その童貞を奪える──その子を宿せるかもしれない。
それは、女王にとって最高の快楽だった。
「たっぷり楽しませてあげてね」
「もちろんですとも」
この身の全てをかけて──テルパドールの女王は、皇后ではなく、自分自身にそう誓った。

「砂漠の国も久しぶりだね!」
竜の背から降りながら伝説の勇者はにっこりと笑った。
「あちぃー、あちぃーよ」
プオーンが膨れた腹を付き出しながら文句を言う。
「泣き言を言うな!」
勤勉なプチタークが、どちらかというと怠惰なプオーンを叱責する。
「見たところ、雰囲気に異常は感じられないようですな」
バトラーが冷静に意見を述べる。
勇者と同年代(?)で、ともすれば友人感覚なプチタークやプオーンとちがい、
もともとリュカ直属で、その腕と頭脳、それに戦闘経験を買われて勇者に付けられたヘルバトラーは、
勇者一行の中で参謀役とお目付けを兼ねる。
「うん。母上が、至急テルパドールの危機を救うように、と連絡くれたからびっくりしたけど、
なんだか平和な様子だね。──まずは王宮に行って、女王に話を聞こう!」

「よく参られました、勇者様!」
王宮の謁見の間で、アイシス女王は艶やかに笑って少年を迎え入れた。
「お久しぶりです、アイシス女王。──テルパドールの危機が迫っていると聞きました。
……敵はどこにいるんですか?」
勇者は勢い込んで尋ねた。
「たしかに、皇后様にご相談したとおり、テルパドールには深刻な危機が迫っております。
しかし、それは外敵によるものではございません」
女王は勇者を見つめた。
「え。じゃあ、何が……」
「ここではいささか話しにくいことですので、地下の私の部屋にいらしてください。──勇者様お一人で」
女王の言葉に、プチタークがむっとしたように前に出る。
「勇者の護衛として、それは聞けないな」
だが、ヘルバトラーがその肩を掴んで止める。
「──王宮内では、どんなことでも女王の指示に従う。それが問題解決への一番の近道。
出立前に皇后から指示があった事を忘れたか」
「──だけど」
「あ、そう言えば、母上がそんなこと言ってたね。言いつけ守らないであとでお小言貰うのもなんだし、
僕ひとりで行くよ。大丈夫、アイシス女王は、父上の昔からの友人だ。何も心配はいらない」
プチタークを制しながら屈託なく笑った勇者は、女王の後に続いたが、まだ幼い彼は、
自分が「女」という最も恐ろしい化物のあぎとに、今まさに飛び込もうとしていることを自覚していなかった。

「んー。相変わらず、綺麗な庭だなあ」
城の地下に広がるアイシスの庭園を眺め、勇者はにっこり笑った。
城下の地下水脈を利用して作った庭は、砂漠の国とは思えぬ色とりどりの花に満ちていた。
「ここは水が豊富ですから」
アイシスはにっこりと笑った。
「では女王、さっそくお話を──」
「まあまあ、そんなにお急ぎにならないで。まずは、湯浴みでもして旅の垢をお落としになってください」
女王は東屋の中に作られた浴槽を指し示した。
「砂漠のわが国にあっては、客人にお風呂を立てることは、最大の歓待でございます。
ぜひとも勇者様に私のもてなしを受け取ってもらいたく存じます」
「あ、うん。いいよ」
勇者は軽い気持ちで頷いた。
秘密の相談と言うことで、侍女を含めてまわりに誰もいない。
アイシスも、旅塵に汚れた服を洗濯に出すと言っていったん下がったので、
勇者は、広い地下庭園を独り占めするような気持ちで体を洗いはじめた。
「──うーん、気持ちいいなあ」
体を洗い終え、湯船にも一回浸かった勇者が、浴槽の縁に腰掛け、
鼻歌まじりに庭園を眺めはじめた時、──湯殿に人影が入ってきた。
「え……」
勇者は目を見張った後、あわてて浴槽の中に身を沈ませた。
「私もご相伴させていただけますか?」
そういいながら湯殿に入ってきたのは、全裸のアイシス女王だった。

「わわわ、アイシス女王、一体……」
湯の中に沈み込んだ勇者に、女王はにっこりと微笑んだ。
「せっかくですから、私も勇者様とお湯をご一緒させていただこうかと」
「女王ってば、は、裸だよっ……」
「ええ、湯浴みは裸でするものですわ。それが何か──?」
女王は、豊かな乳房も、張り詰めた腰も、艶やかな恥毛に守られた秘所も隠すそぶりがなかった。
爛熟した果実を思わせる三十路の女王の体は、しかし、結婚も出産も経験したことがないゆえか、
ぎりぎりのところで若い女のラインを保っていた。
「……それがって……」
勇者はことばを失った。
沈黙した少年に、アイシスは優しく追い討ちをかける。
「ふふふ、山奥の村では、着衣のままでお入りになられていましたか?」
「えっ!?」
女王の質問に、勇者は思わず顔を上げる。──そして、アイシスの裸体を見て慌てて眼をそらす。
「ビアンカさんは、勇者様とお風呂をご一緒にするときに、裸だったでございましょう?
──私と裸で混浴するのは、お嫌ですか?」
「ええっ、な、なんで知っているのっ!?」
勇者は湯船の中から飛び上がらんばかりに驚いた。
「アイシスは、勇者様にゆかりの王国、テルパドールの女王でございますよ。
私は勇者様のことなら、予言と夢見を通じてなんでも知っておりますわ。
もちろん、ビアンカさんが勇者様に何をお見せになられたのかも……」
「えぇぇっ!!」
アイシスの言ったことは、はったりにすぎなかったが、
女王歴二十年に及ぼうとする女の、威厳と神秘性に満ちた態度は、
年若い勇者を簡単にだますことができた。
勇者は、耳まで真っ赤になって、女王をそろそろと窺った。
「え……その……あの……」
「ふふふ」
ここではあえて追い詰めずに、アイシスは優しく笑って洗い場に向かった。
勇者は、女王が本当に山奥の村でのことを知ってるのか、動揺を隠せないでいた。
アイシスはそ知らぬ顔で体を洗いはじめた。
豊かな胸乳や腰に舶来のシャボンを塗りつけ、丹念に肌を磨き上げる様を、
メダパニをくらったように混乱している勇者は、思わずそれをぼうっと眺めていたが、
アイシスが小椅子を持ち出して勇者の目の前までやってくると、はっと目を伏せた。
女王は、気にした素振りもなく、少年の目の前に小椅子を置いて座る。
──勇者に向かうようにして、大きく足を広げて。
「ここは念入りに洗っておかないといけませんわね」
少年に聞こえるような──聞かせるための声で言いながら、女王は自分の性器を洗いはじめた。
宣言どおり、丹念に。
シャボンの泡のむこうにちらちらと見え隠れする陰毛と秘所は、いかにもエロティックで、
勇者は、湯の中で股間を押さえずにはいられなかった。
少年が、自分の事を視姦していることに気付かぬ振りをしながら、
アイシスは時々立ち上がって湯をかけたり、また座りなおして洗い直したりを繰り返した。
「──ああ、お尻のほうを忘れていましたわ。ここもよく洗っておかなければ……」
アイシスは、いかにそれに意味がある、といった様子で後ろを向き、勇者の方向へ尻を突き出した。
シャボンを臀部の割れ目によく塗りたくり、あわ立ちの中でゆっくりと肛門を洗い始める。
勇者は鼻血を噴き出した。
アイシスがすっかり体を洗い終えたとき、
勇者は、肝心な部分を湯気とシャボンでまったく見ていないのに、域も絶え絶えの様子だった。
しかし、女王の誘惑は、こんなものではなかった。

ちゃぷ。
茫然自失の勇者が我に変えると、アイシスが湯の中に入ってくるところだった。
「ご相伴いたします」
熟れきった美女が全裸で同じ湯の中にいる。
ビアンカ相手に経験したことのあるシチュエーションとは言え、神秘的な女王のそれは、
勇者の感性を極限まで刺激せずにいられなかった。
「あっ、あのっ──」
「なんでございますか?」
「い、いえ、その……なんでもありません……」
山奥の村の温泉で、ビアンカに裸を見せてもらっていることを本当に知っているのか、
と聞きそうになって、勇者は慌てて口をつぐんだ。
「──ビアンカさんのあそこは、綺麗でしたか?」
アイシスは、ここで切り札を使った。
駆け引きを知り尽くした女王が、完璧なタイミングで出したカードに、
勇者はこんどこそ、湯の中から飛び上がった。
「ど、ど、どうしてそれをっ!!」
「ふふふ、言ったはずですわ。私は、勇者様のことならなんでもわかる、テルパドールの女王でございます」
勇者は、女王の術中にはまった。
女王が、本当に自分のいろいろな事を知っている、と思って身を縮める。
アイシスは、にっこりと笑って、その目を覗き込んだ。
「ふふふ、私のも、ご覧になられますか?」
「ええええええええっ!?」
「私は、勇者様のお心がわかります。──私の性器もご覧になられたいのでしょう?」
「そ、それはっ!!」
混乱し、またアイシスに飲み込まれている勇者は、それが単なるカマかけと見破ることができなかった。
先頭戦術にかけては父親のリュカを除けば天上天下最強の戦士も、
男女のことについてはまだ初心そのものであった。
「ご覧に、なられたいのでしょう?」
優しく、だが、有無を言わせず繰り返す女王に、勇者はしばらく固まっていたが、やがて、こくんと小さく頷いた。
アイシスの笑みが、さらに優しく淫らに深まった。
「ふふふ、ビアンカさんのと、比べてみてください」
湯の中から立ち上がった女王は、勇者の前にまわりこむと浴槽の縁に腰をかけた。
先ほどの洗い場の時よりもさらに大きく足を広げる。
勇者の視線は、太ももの奥に釘付けになった。
「──!!」
「どうですか、私の性器は?」
「あ、……すごく、きれい……です」
「ふふふ、ありがとうございます。──ビアンカさんのよりも?」
「え……?」
勇者は言葉に詰まった。
目の前のアイシスの女性器もきれいだが、
山奥の村で見せてもらっているビアンカのそれも負けず劣らず美しいものだった。
髪と同じく黒い恥毛に守られた女王の性器は思ったより小ぶりだが、爛熟した花弁を思わせたし、
金色の飾り毛の下にある女魔法使いの性器は、乙女のもののように繊細だった。
「え……と」
返答に困る少年を、アイシスは更なる罠にいざなう。
「見た目で甲乙が付かないのなら、触ってみてはいかがですか?」
「え…い、いいのっ!?」
ビアンカには、まだそれをさせてもらっていない。
いや、女魔術師のほうはその気まんまんであったが、
なんとなく自分の母親がビアンカの事を快く思っていない事を悟っている勇者は
妙な罪悪感を感じてその勧めに乗ることができなかった。
だが、次回あたり、その一線を越えてしまいそうな気もしていた。
だが、その前に、アイシスが強烈に誘惑をしてきた。
勇者はふらふらと指を伸ばした。
「あっ」
柔らかい──と思った瞬間、少年の背筋を、猛烈な衝動が駆け抜けていた。
「──!!」
勇者は声にならない声を上げて、女王の秘所にむしゃぶりついていた。

「ふふふ、美味しいですか、私のあそこは?」
アイシスは、自分の股間に顔をうずめて夢中になっている勇者の髪を梳きながら微笑んだ。
いきなりクンニリングスに来るとは思わなかったが、ビアンカのを見たときに、
すでに少年の中にそうした欲望は目覚めていたのだろう。
だとすれば、ビアンカは、アイシスのために、苦労して準備を整えてくれていたことになる。
やがて、アイシスの蜜液を唇や顎から滴らせながら、勇者が顔を上げた。
大魔王を簡単に屠る少年が、泣きそうな顔をしている。
「じょ、女王。ぼ、僕、もうっっ!!」
「わかっておりますわ。おち×ちんが、切ないのでございましょう?」
はちきれんばかりに怒張した少年の男を見つめたアイシスが、そっと唾を飲み込みながら答える。
「あ、あのっ……、そのっ……!!」
「ふふふ、私にお任せください。アイシスは、勇者様のそれを一番気持ちよくする方法を存じております」
女王は勇者を抱くようにして湯船から出、庭園に敷物を敷いて横たわった。
「さあ、勇者様、ここへ。ここへ、勇者様のそれをお収めになられるのです」
アイシスが自分の性器を指で開くと、そこは勇者の唾液とアイシス自身の蜜液とでとろとろに潤っていた。
「え、それって、せ、セックス……」
知識はあるのだろう、勇者は真っ赤になった。
「そうですわ。そして、テルパドールを危機から救う唯一の方法でございます」
「えっ!?」
自分がこの砂漠の国を救いに来た事を思い出して、勇者は絶句した。
「そ、それって!?」
「テルパドールは、後継者がおりません。私が子を産まなければ、王家の血が絶えてしまうのです。
勇者様が、私とセックスして、御子をお授けになられれば、危機を回避することができます」
「で、でもそれは──」
「これは、フローラ皇后陛下もお許しになったことでございます」
アイシスは二つ目の切り札を使った。
勇者は息を飲んで考え始めた。
少年の性行為への最大の障壁は、母親に対する罪悪感だ。
だが、アイシスは、ビアンカとちがってフローラのお墨付きがある。
はたして、勇者は頷いた。
「う…ん。それが、テルパドールを救う方法なら……」
「ありがとうございます。全てを私にお任せください」
アイシスは、とびっきりの微笑で勇者を迎え入れた。
この先、勇者が忘れられないような初体験を与えるために。
少年のこわばりを優しく指で導き、自分の入り口にあてがう。
とろけきった女性器は、勇者のこわばりを簡単にくわえ込んだ。
「うわっ──!じょ、女王っ!!」
自慰もろくにしていない年頃の少年は、初めての快感の波に身を震わせた。
「ふふふ、私のは気持ちいいですか?」
女王は少年の口を吸いながらささやきかけた。
この交わりで自分が快楽をむさぼるつもりはなかった。──それは追々でいい。
今はこの少年に最高の初体験を与えることと、その精を子宮に収める事を考えればいい。
アイシスは勇者の腰に手をまわし、前後運動を促した。
「あっ、あっ、女王っ、僕、もうっ!!」
「良いのです。私の性器に、精をお出しになってください」
アイシスは勇者の唇を下から奪いながら、性器を締め上げた。
「ああああっ!」
少年は泣くような声を上げて、年上の女性の中に射精をはじめた。
勇者のはじめての性行為は短かったが、射精は長く長く続き、
テルパドールの女王の性器と子宮は若い精液であふれかえった。
「ふふふ、まだまだこれからですわ、勇者様。今度は私を悦ばせてくださいませ。
──もちろん、私も勇者様をたっぷり悦ばせてさしあげます。
私の口も、胸も、お尻も、なかなかのものでございますよ」
はじめての快感に、半ば失神してぐったりとしている少年を優しく愛撫しながら、
砂漠の女王は、妖艶この上ない微笑を浮かべた。
2008年12月27日(土) 20:59:06 Modified by test66test




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