主人公×ビアンカ 349@Part10

 隣の彼が寝入ったのを充分に見計らってから、いつものようにビアンカは毛布の
中でもぞもぞと両手を動かしはじめた。最初は服の上からゆっくりと胸を揉みしだ
き、乳首の先っちょがだんだんと硬くなってゆくのを指先で愉しむ。
「んっ……」
 吐息に混じって小さく声が漏れそうになるのをこらえる。
 頭上の木の枝から響く木の葉擦れのかすかな音を聞きながら、ビアンカは毛布の
中で半ば無意識の内にふとももをもぞもぞと動かしはじめる。わずかに速くなって
ゆく呼吸、そして早くもしっとりと潤いはじめた自分のいやらしいトコロを彼女は
意識した。
(私ってこんなにいやらしい娘だったんだ……)
 膝をすりあわせ、胸を揉みしだくたびにじんわりと広がってゆく軽やかな快楽に
身を委ねながら、ビアンカは思った。
 幼なじみの彼の結婚のため、水のリングを取りにゆく旅に同行して幾日。数年ぶ
りに彼の傍らで寝食を共にする生活を始めたビアンカは、ある出来事をきっかけに
夜毎、ひとり慰めるようになってしまっていた。
 村で暮らしていた時は、月に二回程度の慰み事だったから、ビアンカは自分は性
に対して淡泊なのだと勝手に信じ込んでいた。それがこの有様である。
「ふぅ……、ふぅ……んッ」
 彼に聞こえないように、荒い息をかみ殺しながら胸を揉んだ。しかし、すぐに服
を隔てての愛撫にもの足りなくなり、直接肌に触れたい衝動に駆られる。
(でも、背中の向こうで眠る彼が突然起きたりしたらどうするの?)
 いつものように自問するが、答えは出ない。
 答えは出ないが、揉みたいという欲望には勝てず、ビアンカは彼の寝ている背中
側を緊張でわずかに強ばらせたまま、胸元に手を伸ばしてゆっくりと胸を包む布地
をそろそろとずりおろしてゆく。

「あ……」
 窮屈な服からポロリとまろびでた自分の胸の膨らみの先っちょが、いやらしくぶ
っくりと膨らんでいるのを、ビアンカはすこし恥ずかしく思いながらも愛おしげに
見つめた。まだ誰にも触れられた事のない、男の手の感触を知らない自分の胸だが、
こんなにいやらしい形になる方法は知っている。それが少し不思議だった。
「ん、んんッ……んはッ」
 先程よりはやや強く、パン生地をこねるようにゆっくり丁寧に胸を揉みしだく。
時折、乳首の先を親指と人差し指でつまんでコロコロと転がしたり、軽くしごきあ
げたりして変化をつけると良いのは最近になって気づいた。
 ――欲しい。
 おなかの奥底にある燭台に小さな焔が灯ったような感覚を、胸を愛するリズムに
よって大事に育ててゆく。小さかった焔がだんだん大きく膨れあがり、下腹部を熱
くするにしたがって、ビアンカの頭の中は快楽の白に染まってゆく。
(ああ、こんな事してちゃいけないのに……)
 ――もっと、欲しい。
 本能が理性を駆逐するのに、そう時間はかからない。
 ビアンカの指先は焔に誘われる蛾のように躰の稜線を滑りおり、ふとももの間の
濃密な空間へと吸い込まれてゆく。
(もう、こんなに……)
 辿り着いた先を被う布地は、すでにはしたないほどにしっとり濡れそぼっていた。
ビアンカはいきなりその中を侵すような事はせず、布地ごしにざらざらとした茂み
の感触を味わったり、自らじらすように下着からはみ出た股の肉をくすぐる。
「……ぁはッ、あはぁっ……ンんッ……」
 そのこそばゆさを含んだ気持ちよさにビアンカのお尻がキュッと締まり、口元か
ら艶めかしい吐息が漏れる。そうした甘美な感覚を味わいながらも、指先はまるで
彼女とは別の生き物であるかのように、下着と肉の境目をそろそろと這いのぼって
しつこく彼女を貪っている。
「……ぅふぅん、あ……うくぅっ……」
 下着からハミ出たビアンカの肉を、やさしく、そしていやらしくくすぐり、こね
回す指先。いつの間にか彼に遠慮することなど忘れたかのように、大胆に露出させ
た双乳を愛撫するもう片方の手。

 それらがビアンカの中枢を刺激して、じゅわりとした温かい液体を彼女の泉から
湧き出させ、下着をさらにぐっしょりと濡らしてゆく。
 ――欲しい。欲しい。アソコに欲しい。
 愛液が止めどなく流れ出るのは、まるで躰が涙を流しているかの様だ。ビアンカ
は思った。
(……なら)
 ゆっくりと目を閉じる。まぶたの奥に誰か泣いている男の子の姿が浮かんだ。
(それなら、私が慰めてあげないと……)
 ビアンカは下着の縫い目をジグザグに辿っていた指先をひるがえして、濡れた下
着の奥へ、濡れた紅い真珠が潜む彼女の聖地へと指を巡らせようとした。
 その時――。

「ビアンカ?」
 彼女の背中から声がした。

 *

「そこに川があるから、交代で水を浴びようか?」
 太陽が天頂をすぎてしばらくたった頃、森の中でゴツゴツした岩に周囲をかこま
れた綺麗な川を見つけて、そう彼が提案した。
 町や村のない道中ではお風呂なんて贅沢は望めないから、数日に一度、日が高い
うちに体を洗う必要がある。もちろん、綺麗な川や泉がなければそれも望めないが、
今回の旅では比較的水場には恵まれていた。
(山奥の村を出てそろそろ丸二日。そろそろ体がカユくなってくる頃よね)
 汚れでへたり始めている髪の毛を撫でつけながら、ビアンカは彼の提案に肯いた。
「いいわ。それじゃあ先にどうぞ」
「いや、僕から言い出したんだし、ビアンカから先に入りなよ。僕は馬車で待って
るからさ。はい、これが石鹸と体拭きの布」
「いいの? じゃあ、そうさせてもらうわね」
 彼から石鹸と布を受け取ると、ビアンカは川へと向かった。

 馬車を離れ、しばらく歩いて辿り着いた水場は、比較的山の上流であるからなの
か、水がとても綺麗で澄んでいた。
 髪留めを解き、服を全部脱いで水の中へと飛び込む。清冽な冷たい水をくぐると
それだけで、髪や体にまとわりついた埃や汚れがさらわれていくように感じた。
 しばし泳ぎを堪能したあと、ビアンカは石鹸で髪と体を洗い、裸のままで川縁の
大きな岩に腰掛けて、暖かな日の光でゆっくりと湿った体を乾かし始めた。そして、
なんとなく彼の事を考える。
「ちょっと、強引だったかな……」
 彼と再会して夜遅くまで語りあった次の日、水のリングを取りに行く旅への同行
を申し出た。断られたら水門の事を盾にとってでもついていくつもりだった。
 父さんの具合もあまり良くないのに何故そこまで必死になったのか、ビアンカは
今でもわからなかった。冒険を楽しんでいたあの頃の思いが蘇ったというのもある
だろうし、困っている幼なじみの役に立ちたいという気持ちも嘘ではない。
 でも、何かが違う。必死になった理由は、それだけじゃあない気がするのだ。
「それにしても……あの子、大きくなったなあ」
 感慨深げにビアンカは漏らす。
 小さな頃、一緒に冒険をしていた時は、確か私の方が身長があったはずだ。とこ
ろが、偶然訪ねてきてくれた時には、すっかり彼の方が高くなっていた。そんな彼
を見て思わずドキッとしてしまい、それを隠すために彼と再会した日は必要以上に
はしゃいでしまった気もする。
 身長の事だけではない。旅や戦いを重ねてきたからなのか、少年のどこか気弱げ
な顔は、いつのまにか凛々しく引き締まった大人のそれへと成長していた。
「もう、あの子なんて言えないか、立派な青年ってところよね。素敵な奥さんも貰
うことだし……」
 本当はこの旅だって彼にとって自分が必要なわけじゃあない。むしろ戦いから身
を遠ざけていた私は足手まといだろう。彼はもう、わたしが先導してあげなきゃな
にもできない男の子ではないのだ。
 それはすごく喜ばしい事のはずなのに、ビアンカはなぜか小さく溜息をついた。

 *

「さっぱりした?」
 ビアンカが服を着て馬車に戻ると、彼が幌の中から顔を出した。
「水が冷たくていい気持ち。行水は久しぶりだったけど、いいものね」
「それじゃあ、僕も楽しんでくるよ」
 ビアンカと入れ違いに、彼が馬車から下りてきて川の方へと駆けだした。
「あ、上流に向かってすこし歩いたところに丁度いい水場があるわ。川縁に大きな
岩があるから、そこで体を乾かすといいわよ」
「わかった!」
 大きな声に片手を挙げて応える彼を見送ってしばらくしてから、ビアンカは自分
が石鹸を馬車に持って入ってしまっている事に気づいた。
 たしか、石鹸はこの一つしかない筈だ。
「いけない!」
 ビアンカはあわてて馬車から飛びだして彼の後を追った。
 しかし、木々の間を抜けて先程の水場に近づくにつれてその足は徐々にゆっくり
になり、水音が聞こえてくる頃には、何故か忍び足に近い状態になっていた。
 それなのにビアンカの心臓はどんどんと早く脈打ち始めている。
(石鹸を渡しにいくだけなのに、どうして私はこんなに緊張しているの……? 緊
張?)
 疑問が頭をよぎったが、そんな疑問とは裏腹に体が勝手に動く。
 ビアンカは、あの大きな岩の近くまでやって来ると、茂みの陰に身を隠した。そ
こで彼に見つからないよう耳をそばだてた。
(……いる!)
 まちがえる筈もない、彼の気配。
 あの岩の上だ。
 ゴクリと唾を飲み込む。
 握った手を胸元にあてると、水音がスッと遠くなった。
 何を予感しているのか、何を期待しているのか。いつの間にかビアンカの心臓は、
早鐘のように彼女の中で高く、高く、鳴り響いている。
 振り返れば、きっと見てしまうだろう。
 ――何を?
(わからない。でも、見たい)
 ――そんな事をするのは変態。
(それでも構わない。彼の――を見たい。見たいの!)

 そうして、ビアンカは振り返った。

 *

 ――濡れた。

 自分の行為に対する嫌悪感も、彼の行為に対する嫌悪感も何もない。
 ただ、濡れた。
 その事の意味もおぼろにしか知らないのに、どうしようもなく濡れた。膣口から
溢れだした熱い滴がふとももを流れる。一瞬にして躰の芯に火が点いてしまった。
熱くなった血液が体中を駆け巡る音が聞こえる。
 カーッと頬が熱くなり一瞬で頭の中からいろんな思考や感情が吹っ飛んでいって
しまった。

 彼の姿。
 彼が自分を慰める姿。
 そして、大人になった彼の――。

 *

「ビアンカ?」
 背中からの声に、ビアンカは息を飲んだ。
 彼の声だ。
 彼女の胸ははだけたまま、指先は股間に触れたままである。見れば何をしていた
のか誰にでも分かる。言い訳をする余地は全くない。
(……ついに見つかってしまったの?)
 ――毎日だもの、見つかるのは当然よ。
(……いやらしい娘だって彼に思われてしまうわ)
 ――構わないじゃない、事実でしょ。それに、彼だってしてた。
(彼は、私なんかと違うわ……違うの)
 ――知られたかったんでしょ? 期待してたんでしょ?
(ち、違う。チガ……)
 不安に視線が泳ぎはじめ、思考が高速で回る。しかし、なぜか体は微動だにでき
ない。彼に晒された背中が恥ずかしい。せめて月がこんなに明るくなかったらと思
わずにはいられなかった。
「ビアンカ……」
 背後で彼がもぞもぞと動く気配がする。
 毛布を引きずったまま、こちらへ近づく音。
 押し寄せる不安。彼の気配。
(ああっ、ダメ、こっちへ来ないで……!)
 ビアンカのそんな懇願とは裏腹に、身をすくめる彼女の背中に彼の影が射す。耳
元に彼の息づかいさえ聞こえそうなその距離。
「あ、あのね、――」
 高まる緊張に耐えきれずに、ビアンカが彼の名前を叫ぼうとした瞬間――。

 背中から抱きしめられていた。

「えっ……!」
 驚きで声が漏れる。
 前に回された両腕、押しつけられた胸板。若々しい彼の匂い。
 そして、お尻に感じる大きく張りつめた彼の――。

 少なくともビアンカにとって、それはありえない事だった。彼はフローラさんと
結婚したがっていたはずなのだ。それを幼なじみとして手伝うために、私はこの旅
に同行しているのではなかったか?
 彼はフローラさんが好きなのだ。……私ではなく。
 そんな彼が私を抱きしめるわけが、ない。
 ――を大きくするはずが、ない。
 これは何かの間違いに違いないのだ。
 なのに、……なのに嬉しい。
「ち、ちょっと、どうしたの?」
 今までにないほど近い距離で味わう彼の体温に理性が飛びそうになるのを、務め
て冷静に訊ねた。
 その刹那――、
「きゃっ」
 小さく悲鳴が漏れた。
 ビアンカの問いかけには応えず、彼がさらに強くギュッと彼女を抱きしめたから
だ。そして、その手のひらは、ムキだしの胸にかかっていた。――先っちょが昂奮
にまだぷっくり膨らんだままの。
 少しざらついた彼の手のひらの感触……。
(恥ずかしい……)
 初めて自分以外の者に乳房を触れられる事。それ以上に発情していることを彼に
知られる事がたまらなく恥ずかしかった。羞恥に頬が熱くなってゆき、耳まで赤く
なっていく音が聞こえるかのようだ。
「ね、ねぇ……恥ずかしいよ。それにダメよ、こんな事しちゃ……」
「……」
「ねえってば?」
「……」
「……どうしたの?」
「……」
 再三の呼びかけにも彼は応えず、ビアンカの耳に聞こえてくるのは規則正しい息
づかいのみである。
 この期に及んで、ようやく彼女は訝しく思いはじめた。考えてみれば、胸に触れ
ている彼の指先には動きがなく、力も込もっていないような気がする。

(ひょっとして……)
「……寝てるの?」
「……」
 ――彼からの反応はない。
 しばらく答えを待った後、安堵交じりの溜息が唇から漏れた。緊張がいっきに解
けて、体中の力が抜ける。おそらく彼は、夢でも見てたのだろう。それで寝ぼけた
まま私に抱きついてしまったのだ。
「もう、期待させて……」
 ビアンカは口を尖らせて文句を言った。
「……ビアン……むにゃ……」
「寝ぼけちゃって……」
 彼女は少し寂しそうに小さく微笑むと、胸元の彼の腕を両手で抱いた。
 結局それは、――彼が私を抱きしめてくれるというのは――、ありえない事だっ
た。そう、例えば彼が寝惚けるような事がなければ。
 彼女の認識は正しかった。元々分かっている事だった。
 でも、分かっていた事なのに、今感じているこの大きな喪失感はなんだろう。
「そっか……。私、貴方の事が好きだったんだ……」
 ストンと胸に落ちた。
 好きになったのが再会してからなのか、もっとずっと昔からなのか。それはもう
分からない。でも、彼に抱きしめられて、望んでいたものの片鱗を実際に見せられ
て。今はもう、気づかないフリをしていた自分の気持ちに気づかされてしまってい
た……。
 そして、私が無意識のうちに彼にどれだけ迷惑をかけたのかも――。
 ビアンカは、腕を解くと寝返りをうって彼の方へと向き直った。そのあどけない
寝顔に唇が吸い寄せられそうになるのを、目を瞑って必死にこらえる。
「ゴメンね」
 謝ってから、ビアンカは彼の下半身へとゆっくり身を沈めてゆく。

(……なら)
(それなら、私が慰めてあげないと……)

 *

(……どんな夢を見ているの?)
 服の下で窮屈そうにしている彼と向き合った。
 おずおずと指を伸ばして、膨らみにそっと触れる。
 こみ上げる自責、愛しさ、嬉しさ。
 年頃の男の子にとって女の子と一緒に旅をするということが、いかに我慢を強い
られる事なのか……。
 考えてもみなかった。知識では知っていたが、分かっていなかった。
 あの時覗いてしまった自慰も、さきほど彼が寝ぼけて抱きついてきた事も、つま
りはそういうことなのだ。
(今、楽にしてあげるからね……)
 ビアンカは彼のベルトを外し、ゆっくりと彼の着衣をはだけてゆく。
 何をすればいいのかは、分かっている。
 自分が毎夜していた事、されたかった事を彼にしてあげればいいのだ。街で夜に
働く女性達のように、彼にひとときの開放と安らぎを与える。たとえ拙くてもそれ
が私のするべき事だ。
(あ……)
 弾けるように姿を現した彼自身。
(……大きい……)
 ビアンカは大きく目を見開いた。
 茂みの中から遠目に見た時には気づかなかったその大きさ。彼女の顔ほどの長さ
もあるその大きな肉の棒。張りつめ、漲るその先端はわずかにテラテラと濡れ光っ
ている。
 ビアンカは優しくそれを見つめた。一見醜怪ともとれるその物体をなぜか可愛い
とすら感じるのは、やっぱり私がいやらしい娘だからだろうか?
 ちょっと鼻を突き出して、クンとその匂いを嗅いだ。
 ツンと湧き立ついやらしい匂い。愛しい彼の発情する匂い。
 ビアンカは目を閉じると、そのまま頬を肉棒に押しあてて素肌で彼の体温を感じ
た。
(熱い……これが……彼の……なんだ……)
 そう思っただけで、躰の芯がじんじんと熱く滾りはじめる。

 大きくて、柔らかくて、硬くて……。
 ドキドキする気持ちを抑えられない。
 乾いた唇を舌で軽くなぞる。
 引き締まったお腹に手をそえ、そのままゆっくり彼の腹筋の上を這わせてゆく。
 腕を伸ばしきった頃に、目当ての小さな膨らみに指先が届いた。
「まずはここからよね……」
 小さな笑みがこぼれた。
 いつも自分を焦らすように、指先の爪で彼の乳首の周りに円を描く。力は入れず、
触れるか触れないかのぎりぎりを見極める。
「うっ……」
 反射的に彼が小さく呻き声をあげ、寝返りをうつようにそのまま後ろに倒れて彼
女の指先から逃げだそうとした。
「……だめ、逃がさないわよ」
 まるで小さかった頃に戻ったかのように、ちょっぴり意地悪な気持ちが湧き上が
る。
 ビアンカは逃げる躰を追うように、自ら彼にのしかかった。ちょうど、仰向けに
なった彼のお腹に抱きつくような格好になる。
 唇の隙間からわずかに舌を突きだして彼のお腹をちょっと舐めた。舌先に感じる
薄い塩味。彼の汗の味。
 唇をあてたまま、躰を軽く浮かせて前へと滑らせた。舌が彼の胸へとたどり着く
と同時に、いきなり乳首の先をチュッと音をたてて吸う。
 彼の躰がビクッと跳ねる。
(気持ちいいんだ……)
 それが嬉しい。
(もっと、よくしてあげる……)
 ビアンカは、子犬のように舌先で乳首をペロペロと舐めながら、その手を彼の股
間へと伸ばした。肉の棒に指先を絡めつかせ、彼の慰み事をなぞるかのようにゆっ
くりとその手を動かしはじめる。
 痛くしないように、優しく、優しくと心がけた。
 時折、彼の顔を窺う。わずかに眉を顰めるその表情に、半開きの口から漏れる吐
息の間隔が少しずつ早くなっている事に、どうしようもなく愛おしさを感じた。

(ああ……)
 ――切ない。
 彼を求める、心が、躰が。
 近くて、果てしなく遠いこの距離が哀しい。
 ビアンカは彼の広くなった胸に額を押しつけた。
 いっその事彼が目を覚まして、そのまま私を押し倒してくれたら……。

 ――欲しい。

 疼く。
 彼の肌に直接触れて痛いまでに尖った乳首が。

 ――欲しい。

 疼く。
 止めどなくいやらしい液体を溢れさせるアソコが。

 ――欲しい。

 疼く。
 求めても得られないと知っている私の心が。

 ――欲しい。彼の――

(……いけない!)
 ビアンカは自分が感情に流されそうになっているのに気づくと、素早く身を起こ
した。その考えを追い払うように左右に頭を振り、小さく鼻をすする。
 いやらしい女だと思われてもいい。鬱陶しい女だと思われないように……。
(気持ちよくしてあげなきゃ……ね)
 ビアンカは彼の両足を広げてその間に膝をついた。

「ふふ、おかしな格好……」
 彼の姿に小さく笑うと、ビアンカはゆっくり腰を折って頭を垂れてゆく。
 内股に両手をそえて、あいだにそそり立つ彼の肉棒にゆっくりと顔を近づけた。
透明な液体がこぼれるその先端に舌先をチョンとあてる。
 ほとんど無味と言ってもいいほどの微かな苦み。
 そのまま舌を根本までおろし、流れる液体をすくい取るように今度は先まで一気
に舐めあげた。その液体はビアンカが舌先で舐め取る先からあふれだす。首を伸ば
して道筋を変えながらそれを数回繰りかえすと、やがて彼の肉棒は、あふれだす彼
自身の滴と彼女の唾液とでべとべとになってしまった。
(……そろそろ、いいよね?)
 ビアンカは両手の指先でやさしく肉棒を固定し、その先端に唇をあててゆっくり
と彼自身を飲みこんでゆく。

「んっ……」
 頬ばるビアンカの口いっぱいに広がる彼の味。唇で感じるその形。そして柔らか
く張りつめた感触。それらを触覚で記憶しようとするかのようにゆっくりと、まる
で沼に沈む樹木のように彼自身を唇の中へと収めてゆく。
 舌の粘膜に感じる凹凸、微かな脈動。
 それらを目一杯、粘膜で感じとりながら、深く、深く――。
「んふっ……んっ……ん……」
 ジュブジュブといやらしい音をたてながら彼自身を貪る。
 吸い、絡め、濡らし――、そしてまた吸う。
 彼の茂みがビアンカの鼻先をくすぐると、今度は逆に肉棒の薄皮を唇でこそげ取
るかのように締めつけながら、一気に引き抜く。鈴口にキスするような形に戻り、
ちょっと舌先で先端を弄んだあと、再び彼を飲みこんでゆく。
 時に早く時にゆっくりと唇を進め、また、引きながら、飽きることなくその奉仕
を繰り返す。
 ときおりピクリと反応する彼を見あげて様子を窺った。快楽をこらえているので
あろう、眉を顰める彼のその表情に自然と嬉しさがこみあげる。
「んふぅ……うんっ……ううんっ……」
 息苦しくなって鼻で呼吸をするたび、唾液と彼の先走りがないまぜとなったむせ
かえるようないやらしい香りが、ツンと鼻の奥を突いた。小さな快感の細波がビア
ンカの胎内を駆けぬけ、頭の中が白く染まる。
 軽くイッた時のようにゾクゾクと背筋が粟立つ。
(ああ……すごい……)
 想像ではない現実。想像をはるかに超えた快楽の予感。
 ギュッと目を閉じる。
 彼女の躰は、早くも再び熱を帯び始めているのだった。
 膝が小刻みに笑い、股間のいやらしい亀裂が淫らな期待にうるおいを取りもどし
始めていた。
(自分を慰めているわけでもないのに……)
 舌先を使って舐めるだけの愛撫では、これほどまでに躰が高ぶる事はなかった。
同じ口を使った行為でありながら、一体、さっきまでと何が違うのか。自分は、一
体何に喜びを覚えているのか……?

 彼のモノを口に含んだまま、ビアンカは躰が痺れたように震えるのを抑えられず
にいた。唇の端から唾液がこぼれ、肉棒にツゥと一筋の滴が流れる。
(そっか……似てるんだ……)
 濡れそぼった赤い裂け目が、聳えたつ塔によって侵す/犯されるイメージ。あま
りにも直截的な性交のメタファ。
 それは単なる奉仕ではなく、互いに行われる陵辱。
 ビアンカの肉体はそれを明敏に感じとり、期待に打ち震えているのだった。その
相似が必然であると言わんばかりに、彼女のふとももにも淫らな液体が流れおちる。
 刺激を求めて、ビアンカのお尻がモジモジと動いた。
 何かをこらえるように堅く目を閉じる。
(我慢……しなくちゃ、いけない、のに……)
 しかし、彼女自身の道徳心とは裏腹に、それに逆らい動きだそうとする右手の指
先をビアンカは止められなかった。
 それほどまでに私は彼に飢えているのだろうか? それとも単に自分自身が淫ら
なだけなのか? あるいはその両方か。ビアンカは流されつつも自問した。
 本当は、彼にこうして奉仕する事すら許されない事なのかも知れない。でもそれ
は彼への償い。例え欺瞞であろうとも、為さなければならないこと。

 ――でも、この指は?

 快楽を、赤い真珠を求めるこの指は?
 言い訳すら叶わぬ行動に、心の奥底から湧きでる小さな罪悪感。しかし、抗うこ
とができない識域下からの欲求。
 ――欲しい。
 求める指先。
 ――欲しい。
 求められるため、わずかずつ開いてゆく彼女の白いふともも。
 ――もっと、欲しい。
 求められるため、高く突きあげられる彼女の丸いおしり。
 捲れあがったスカートからハミ出た白い下着を外気にさらし、獣のようなはした
ない格好をしているという事実が、さらにビアンカの昂奮を煽り、彼女の呼吸と心
拍を早くしてゆく。

(ダ、ダメ……ダメッ……)
 背徳に躊躇うビアンカ。
 しかしその右手は、迷うことなくお尻を被う白い布地の端をとらえ、地面につい
た膝の手前までゆっくりと引きずり下ろしてゆく。
 しっとりと光る若草の茂みと、はしたないほど昂奮に紅く充血したビアンカの秘
処が、月明かりの下にその姿をあらわした。
(ああっ……ゴ、ゴメンなさい……私、も、もう……)
 誰に向けるでもなく漏れだした謝罪。
 邪魔な下着を排除した手が、獲物を狙う蛇のようにビアンカの股間へと伸びる。
中指の腹が彼女の茂みの中へと滑りこみ、やがて谷間の端でジンジンと脈打って捕
食されるのを待つ小さな赤い果実へと辿りついた。
「んふぁああああっ……」
 指先が赤い実をついばんだ瞬間、肉棒を口に含んだままで弾ける嬌声。熱い快楽
の波が股間から背筋を伝わって、ビアンカの脳髄を突き刺す。
 その感覚のなんと甘い事か。
(ああああっ……す、すごい……)
 ビアンカの意識は躰が宙に浮くかのような激しい快楽に一瞬で押し流され、現界
した淫夢に溺れた。歓喜が彼女の思考の一切を奪い去り、ビアンカは堰を切ったか
のように夢中で肉棒にむしゃぶりつき、指先を動かして果実をこねまわしはじめる。
「んふっ……んっ……んふぁあ……んもっ……」
 しなやかな指先が、際限なく溢れだす自らの愛液をすくい取り、塗りたくり、捏
ねまわす。
 たおやかな唇は、まるで略奪するかのように、苦しいことなどものともせずに深
く、深く銜えこみ、しごきあげる。
(いっ、いいっ……なんて……すご……こ、こんな……あ、あああっ……)
 一人でするのとは比べものにならない股間の灼熱。液体を介して結びつくことの
圧倒的な喜悦。欲望が満たされた事によって湧き起こる新たなる欲望。
 二人へと閉じてゆく世界。
 罪悪感もなにもなく、もはや、ビアンカの耳に聞こえるのは、登りつめてゆくに
つれて荒くなってゆく二人の息づかいと、粘度をましてヌチャヌチャと響く淫靡な
水音だけだった。

 紅い真珠を擦りあげる指先。
 指の動きを助けるように自然とうねる彼女の腰。
 ほんのり上気し、汗ばむ白い肌。
 揺れる乳房。
 喉奥にまで感じる彼のこわばり。
 止めどなく流れだし、混じりあう互いの体液。
 艶めかしくたちのぼる彼の匂い。
 全身の毛が逆立つような高揚感――。
 全てが渾然一体となって彼女を高みへと誘ってゆく。
「んふっ……んっ……んふぁあっ……んっ……ほはぁ……」
 子宮の辺りが宙に浮くような、それでいてじいんと痺れるような快感の兆しが、
かつて無いほどの絶頂をビアンカに予感させる。
 いつしか彼も全身の筋肉を強ばらせて背筋をそらし、目を閉じて下唇を噛みなが
ら鼻で息をしていた。
 彼の限界も近いに違いない。
 口元に自然と笑みがこぼれる。
 彼が一緒に登りつめてくれている事がなにより嬉しい。
 脳裏に浮かぶ姿。
 あの日、偶然見てしまった彼の自慰、女性を喜ばせる形へと膨らんだ肉棒、そし
て最後に噴きだしたあの液体――。
 一度だけ見た彼の精液。
(……欲しい)
 思うがままに頸を振る。
(欲しい、欲しいのっ……)
 火がつきそうなほど激しく。
(わ、私にっ……)
 私のいやらしい口に、
(……あの液体を)
 貴方の精液を
(……だしてっ)
 いっぱいっ、
(いっぱい、だしてええっ!)

 彼の肉棒が口の中で大きく脈打ち、大きく膨らんだ。その刹那――、
 ビアンカの全身に稲妻がが走りぬけ、同時に口と子宮の内側で何か白いものが弾
けた。
(あふ、あああ……あああふうっ、あっ、ああああーっ!)
 ビュッビュッと口内に打ちつける強烈な精液の匂い。キュウと啼くように締まる
膣口。
 津波のように彼女を巻き込み、全てを押し流そうとする強烈な快楽の大波。
 視界も意識もすべて白色に染まってゆくその快楽の中で、ビアンカは半ば無意識
のまま彼の精液をこくり、こくりと飲み干してゆく。
 その充実感。圧倒的なまでの幸福感に心を打ち振るわせながら、彼の脈動が小刻
みになり、世界が色彩を取り戻しはじめるまでの須臾を、ビアンカは全身に広がっ
てゆく甘い官能という名の美酒に酔いしれながら過ごした。


2008年12月27日(土) 21:01:39 Modified by test66test




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