二度目の悦び

 ビアンカは市場に買い物に出かけていた。旅の途中で立ち寄ったこの町には大きな市場があり、ビアンカは夫にことわって一人で買い物に出ていた。
 結婚から一ヶ月。旅と戦いの日々か続いていた。ビアンカにとって、それは辛いどころか充実した時間であった。愛する人と結ばれ、生死さえ共にする日々にビアンカは満ち足りた幸せを感じていたのだ。
「そこの奥さん!」
 出店の一つから声がかかる。ビアンカが声の方を向くと、恰幅の良い40代の男が笑い顔でこちらを見つめていた。ビアンカが自分を指差すと、凄い勢いで首を何度も上下に振る。
「ここはお守りと魔除けを扱っております。一つ、いかがですか?」
 愛想の良く男は売り込みをする。
「いろいろあるのね」
「これなんかはいかがですか?結婚してる方にはお勧めですよ。素晴らしい加護があります」
「どんな?」
「家内安全、夫婦円満、一番素晴らしいのは絶対に健康な子宝に恵まれることですな」
 そのお守りのデザインは、天空をモチーフにしたものだった。ビアンカは一目で気に入った。値段は安くはなかったが、魔物退治で裕福になったビアンカには何でもなかった。
 ビアンカはお守りを首にかけながら、出店の主に尋ねた。
「どうして私が結婚してると分かったの?」
「それは……幸せな結婚を営んでいる女性だけが浮かべられる表情を、あなたがなさっていたからですよ」

「帰ったわ、あなた」
「おかえり」
 買い物を終えて宿屋の部屋に戻ったビアンカに夫は笑いかける。夫の笑った表情はさわやかで、ビアンカはこの微笑みが大好きだった。
「その首飾り、どうしたの?」
「似合うでしょ」
 うなずく夫に微笑みかけながら、愛する男がフローラではなく自分を選んでくれた喜びが、ビアンカの胸に新たに湧き上がってくる。
(フローラさんの方が、私の何倍も素敵な人だったのに……)
 夫と共にフローラに会った時、かなわない、と思った。長い黒髪に淑やかな物腰。うすく化粧をした品のある顔立ち。フローラも男に惹かれていることはすぐに分かった。
 それに引き替え、自分は田舎の寒村で育った野暮ったい村娘。こんな素敵な青年になった彼には、私なんかよりフローラさんがお似合いだと思った。
 だから……夫が自分に指輪を渡したとき、信じられなかった。何かの間違いだと思った、でも、彼が本気だと分かったとき、ビアンカは泣き出しそうになった。
 そして、夫との初夜は……
「ビアンカ」
 物思いにふけっていたビアンカを、夫は後ろから抱き締めてきた。
「あなた、まだ太陽は出てるわよ。お楽しみは夜になってから……ね」
 微笑んで夫の手から抜け出る。
「それに体が汚れてるから。お風呂で体を綺麗にするまで、待っててね」
 ビアンカは宿屋の風呂場に行った。

「ふう」
 ビアンカは体を清潔な布で拭いながら、ため息をつく。
 夫との初夜は素晴らしかった。念入りで濃厚な愛撫に体は熱くなり、蜜をあふれさせた部分に愛する男を受け入れた充実感は産まれて初めての喜びだった。
 だが、ビアンカは処女ではなかった。何年か前に村に立ち寄った旅芸人一座にいた若者と経験していたのだ。
 背伸びをしたい年頃のビアンカは、性への好奇心もあって、自分を口説いてきた若者としたのだ。最低だった。
 彼女への愛撫もそこそこに挿入してきて、自分だけの快楽を追求して呆気なく終わってしまったのだ。ビアンカには性への失望のみが残った。
 夫との交わりは、そんな経験を吹き飛ばした。奥深い満足感と快楽に、ビアンカは泣いて頭を振り、どこかに行ってしまう恐怖に夫にしがみつき、背を反り返らせて天国に行った。素晴らしい経験だった。
 性の本当の喜びを教えてくれた夫への感謝は、同時にビアンカの罪悪感も深めた。己の浅薄さで、己の乙女を彼に捧げることが出来なかった……
(でも、それも今日で終わり)
 ビアンカは風呂から出た。

 ビアンカは衣服の最後の一枚を足から脱ぎ取り、床に落とした。
 満月は中天にかかり、夜のとばりが町を包んでいる。
 夫はすでに裸となり、寝台に足を軽く開いて腰掛けていた。
「ビアンカ、おいで」
 無言でうなずくと、頬を染めてビアンカは男の足の間に正座する。そして、目の前に突き出された肉剣の先端を舐めた。
 甘い吐息をつくと、反り返った肉剣の剣身を左手でさすり、右手は袋の部分を優しく転がす。唇で先端を包み込んだ。
「いいよ、ビアンカ」
 夫の誉め言葉に、ビアンカはいっそう深く肉剣を含んでいく。自分が含んでる物が愛する夫の一部と思うと、愛おしさがこみ上げてくる。ビアンカは緩急をつけて口を上下させ、舌で夫の分身をあやした。
「出すぞ!」
「ん!」
 のど奥に向けて大量の液体が放たれる。ビアンカは、どろついた感触のそれを喉を鳴らして飲む。自分に向けて放たれた欲望の証を、一滴も逃したくはなかった。
 噴出を終えた後も、一滴も残したくなくて夫の剣を隅々まで舌で拭った。瞬く間に力を取り戻した。
「もういい」
「ああ……」
 ビアンカは唇を離した。放たれたばかりなのにわずかな衰えも見せずに反り返るソレに、ビアンカは熱い吐息をつく。
 夫はビアンカの脇に手を入れると、寝台に引っ張り上げた。
「あん」
 寝台に投げ出されたビアンカに、夫が覆いかぶさる。胸にむしゃぶりついた。右胸、左胸の硬くなった先端を交互にくわえ、吸い上げる。最後は両胸を中央に寄せると、二つ同時にしゃぶって軽く歯を立てた。
 胸に与えられる刺激に快感を感じ、ビアンカは甘い声をあげて頭を振る。
 夫はビアンカを四つん這いにさせた。
 男はビアンカの割れ目を右手でなぞり、あふれだす蜜をすくい取った。それをビアンカのアナルへとすり込んでいく。
「ああ……」
 自分の最も汚い部分を触られる感触に、思わず声が出た。
「いくよ」
 男は人差し指を後ろの穴へと少しずつ入れていく。ビアンカは体内に入る指の、何とも言えない感覚に尻を振る。
 ビアンカは今日、夫に後ろの穴の処女を捧げるのだ。
 一週間前の夜、夜の営みの快楽の余韻を味わっているとき、夫は唐突にビアンカの後ろの穴が欲しいと言った。
 ビアンカは仰天した。そんな部分で交わるやりかたがある。それはビアンカの性的な知識では想像もつかないことだった。ビアンカは、無理だ、と何度も言った。
 「ビアンカだから。俺はビアンカの後ろの初めてが欲しい」
 ビアンカは知った。自分が処女を夫に捧げられなかったことに負い目を感じてるのを、夫が気づいていたのを。そして……ビアンカは後ろの処女を夫に捧げることを同意した。
 それから今日まで、夫のモノを後ろで受け入れることができるよう、夫の指でアナルを開発されていたのだ。
「もういいかな」
 夫は指を抜き出した。そしてビアンカの腰の両脇を掴む。夫の先端が尻の穴に当たるのを彼女は感じた。
「いいかい?」
「……はい」
 未知の感覚への恐れに一瞬の逡巡をしたが、ビアンカはうなずいて返事をする。
「わかった。いくよ」
「ん、んんっ、ひあ!」
 夫の肉剣がはい込んでくる感触と痛みに声を上げ、そして自分が後戻りのできない場所に到達する恐れが心をよぎる。
「ビアンカ、もう少しだから……」
 ビアンカは声も出せず、後ろの穴からの侵入の異様な感触に耐える。
「ぐぅ……」
 ついに夫のすべてを収め、ビアンカは息を吐く。しばらく浅い呼吸を繰り返す。
「あ、あなた。もう大丈夫」
「……じゃあ、動くよ」
 男は抜け出る寸前まで腰を引き、そして再び根本まで後ろの穴に突き入れる。
「ひゃ、あふぅ、くう……」
 内蔵が引き出され、再び押し込まれると思えるような異様な感触を、ビアンカは夫への想いだけを頼りに必死に耐える。
 異様な感触は、少しずつ快楽へと変わり始めた。前で味わうものとは違うが、肉の悦びであることに変わりはない。
(私、一番汚いところに入れられて、こすられて喜んでる。どうなってしまったの?)
 快楽が引き起こす羞恥と己への狼狽は、新たな快楽を引き出し、その快楽はさらなる羞恥と狼狽を招く。この増大していく循環に、ビアンカは絶頂へと追い込まれていく。
「ビアンカ、行くよ!」
「わ、私も……あふぅ!」
 尻の奥深くで放たれた初めての感触が引き金になり、ビアンカは絶頂へと達したのだった。
「ビアンカ、ここでするのも良かったろ」
「……ええ」
 交わりの余韻にひたるビアンカに、夫がささやきかける。ビアンカは恥ずかしさを感じながらも、はっきりとうなずいた。
 (やっと愛する人に、自分の乙女を捧げることが出来た)
 ビアンカは今、その満足感に心が満たされていた。
「またここで、して欲しい?」
 悪戯っぽい微笑みで顔を覗き込む夫を軽く睨んで……ビアンカは笑った。
「ええ、いっぱいして欲しいわ。あなた」
 ビアンカは、夫の唇に自分の唇を優しく重ねていった。
2008年04月11日(金) 19:49:12 Modified by dqnovels




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