不感症

勇者バリーはサマンオサを離れる事になる。仲間の戦士ブラックともしばしの別れ。

 その時、酒場のカウンターの二人に近付く若い商人の男。
 腫れぼったい青い吊り目は生気が無く、鼻も唇も大きい。
 そして黄土色の肌、人種ははっきりしない。
 ただ、ターバンを取ると黒い髪が天に向け少し逆立っている。
 電撃の呪文で逆立てているらしい。相当の魔法の使い手だ。

 (似てる…)勇者は父オルテガに似ていると一目で思った。顔も雰囲気も背も〔オルテガ
 190cm、その男170cm程〕全く違うのに(私の兄?)位にまで勇者は思った。

 男はバリーをじっと睨み、勇者としての彼女を
 悪し様に言葉で侮辱して来た。
 戦士は、その男がナイフの柄に手を掛けて居るのを見ると、
 二人の間に割って入る。2mの大男のせいで、
 商人の男からはバリーが全く見えなくなってしまった。
 (来るなら俺に)
 と言った迫力の戦士だが、その目が穏やかで商人男の癇に障った。
 「俺の居る国で勇者を騙るな」
 と言う男のナイフが弧を描く。続けて戦士の重心と血が、少し落ちた。
 鮮血は戦士の裂かれた瞼から。
 (女を守ろうなんて思いながらだから、こうなる)
 と思う男はブラックに唾でも吐き掛けたかった。
 薬草で戦士の流血だけはもう止まっている。
 戦士片手で片目を押さえ、物凄い圧力で若い男を睨む。
 こんな恐い彼の顔を見たのは初めてだ…
 と思っているバリーも商人男に対しかなり厳しい顔だ。

そのナイフと、戦士の血が待つサマンオサの酒場へ、一人の男が外から入って来る。
 「どうした」
 戦士の仲間だ。戦士に駆け寄る。この国で名の有る勇者サイモンだ。
 バリーも、酒場の人間も、戦士ブラック以外は彼の存在にホッとした。
 この男も大きい。背が2m位あって、商人男の
 「父上様」
 「アイ」
 十年振りに合ったらしいこの親子の再会は素っ気無かった。
 「あぁ、すまん」
 無感動、無表情でバリーとブラックにアイは謝る。
 
 アイはオルテガの子ではない。サイモン経由の孫だった。勇者の息子、孫は勇者として
 の誇りがあり、偽者なら許せないと思っていた。そしてギガデインの使い手。腕は超一流。
 サイモンはアイの父だが、アイがもし他人なら、
 「おっかないな…」
 と言ってきっと寄り付かない。しかし父なので話す。
 その中のこんなセリフ。
 ---スーの近くの荒野で町を作ってみろ。修行してみろ。---
 アイは二つ返事でOKした。
 その町を作りたいと言う老人ハリと、アイは旧知の仲だ。
 アイはスーで十年近く暮らし、そこでハリに商魂を学んだ。
 サイモンのアイに対する言葉は(商人としての彼も含み)
 辛辣だった。アイは苦笑いしている。
 「いい町作ります。それで俺が間違っているのかどうか判断して下さい」
 十年前7才で彼は故郷から遁走し、スーに落ち着いた。
 つまりバリーとは同い年になる。アイは父を、ハリを愛していた。
 アイが遁走する少し前に死んだ、実の母の事は嫌いだった。

 只今片目のブラックは宿。サイモンは町に城に右往左往。
 バリーは今、夜、人目の無い所にいて
 ルーラでアリアハンに帰る所だが、アイが現れた。
 バリーは後から抱かれてキスされた。
 (?………あ)
 そうだ、甥って男だ。とバリーは気付く。
 そのキスの仕方が私意的で、男性的だった。
 「……止めなさいよ」
 静かにバリーは言い聞かせた。
 「一人でうろうろしないで下さい。あんた見ただけでオレ、」
 バリーの手を自分の股間へ、元々立派と思われる物が大きくなっていた。
 バリーは魔法力も力の強さも、この男に及ばない。
 無理に暴れてお腹でも蹴られては大変だ。
 (サラッと終わって、サラッと)
 そればかり彼女は願うのみ。まず、妊娠している事を伝えたい。
 「あの…「オレ女でイッた事がない。叔母との禁忌を犯している
 と思ってイケるかも」

 そのセリフの意味と、言いながら女の旅人の服の下の服、
 下着を脱がす余りの速さにバリーが驚いているうちに、
 彼女はミニスカートに素足と言う姿で、どこかの家か、店の壁に押し付けられ、
 男女立ち姿のままつながってしまった。男は弾かれた様に乱暴に入る。
 (うっ……)
 女は又、あの萎えた痛み。強く目を閉じて顎を下げる。
 「スゲ…」
 バリーの体に驚く男。彼の目とは思えない程大きく見開いて、
 とても喜んでいる。アイはゆっくり腰を動かしてみる。
 (あっ……)これは男の声だ。動きを大きくする。
 「すげぇ体っ、他人でもっ、あんたなら、イケた」
 打ち付ける男は声を弾ませながら言う。
 「あたし、あたし妊娠して、る」
 「そうか…オレの従弟妹ね…」
 そう言って草の上にバリーを寝かせる。アイは自分を掴み、
 先端を極浅く、激しく出し入れする。時に恥丘辺りにぬり付ける。
 「あっ…」「あっ……」
 男女は言い合う。バリーは濡れて来てしまった。
 「服脱いでくれよ……」
 彼女は応じない。アイは無理矢理、
 首元まで女の服を押し上げ上半身を見た。

 (お------っ)
 心の中で男はうめく。黒い乳房が、柔らかそうな乳首が細かく揺れていた。
 「叔母上、……オレ、いきそうだ。初めてだ…」
 これといって表情も変わらないが、男の声は濡れている。
 両手で彼女の足を掴み、股を開かせ深く強く押し付け、
 激しく叩き付ける出し入れ。
 「ダメ!!、あっ!」
 大声を出したついでにバリーは声が出てしまった。
 男は、その力強い動きの腰を打ち付けている。摩擦は熱い。
 「ヤメテ…ヤメテッ……」
 「すぐ終わる…っすぐいくからっ」
 中々いかない。男がバリーに何度も刺さる。
 「イヤだ!」
 アイを、バリーは平手で殴り付けた。彼は口から血を出したが、
 アイの方はバリーの頬を拳で殴り、彼女の口から流血させた。
 仰向けのバリーは顔を背け、その顔を腕で隠し、押し黙った。
 ショックを隠し切れない。殴って静かにさせたのは自分だが、
 元気な女の反応が好きなので彼は物足りない(…まぁいいや)
 「あっ…ぅっ……いくっ…いく、ほら、」
 男は跳ねる様に体を喜ばせ、バリーのなかに果てた。
 「へっ、サンキュー」
 と言ってバリーの口の血を、アイは指で拭いた。
 そうされてやっとバリーは泣き出した。
 アイは眉をしかめ、首を傾げながらその涙も拭いた。
 「父上様に言い付けられたら、オレ殺されるだろうな」
 アイは去った。ここまで蹂躪されたのはバリーは初めてだ。

 戦士ブラックは元々男々した顔に黒い眼帯をして、アイよりよっぽど近寄りがたい。恐い。
 「どうした?」
 今頃アリアハンに居る筈のバリーが、宿に来たので戦士は怪訝。彼女の元気が無いのも、
 この、お腹の子の父親にすぐばれた。
 「エヘヘ…あんたと別れるの寂しいよぉ」
 (何だ?急に)
 戦士はときめき捲くって、一瞬どうして良いか解らなくなった。
 イシスで彼女を抱く(?)少し前から、
 彼女の自分を見る目が変った事に彼は気付いていたが。
 (許そう。可愛い甥だ)バリーはアイが死ぬのも不本意だし、そうしなけば
 〔なぜか人を殺せない体のサイモンに代り〕この戦士が手を汚すだろうと思ったからだ。

 翌日三人パーティーとアイとの別れ。
 アイが歩いて行く。サイモンが背を向け逆方向に歩いて行く。バリーはそのまま。
 黒い眼帯のブラックは早足でアイを追う。
 逆方向を向くサイモンが戦士の行動に気付いているかは解らない。
 「おい」
 170cmのアイの肩を2m2cm(成長中)のブラックが掴む。
 ブラックの拳は大きい。それが一閃、アイの顔面を弾く。
 鼻の骨の割れた、乾いた音がした。
 鼻血と共にうずくまる男に、ブラックは無言で去った。
 少し遠くのバリーの元へ。
 バリーは血塗れのアイに向かい、舌を出してその後ちょっと笑った。
 ブラックの腕に手を回し(ブラックときめく)
 アイから遠ざかり、歩いていく。
 (あぁ、目の借りか……叔母上は誰にも言わなかったな…)
 アイは叔母の温情が鬱陶しかった。鼻血を吹き出した男は足取り早く消えた。

 アイとハリの町は数ヶ月で大きくなって行く。
 人を利用し、酷使し、大都市ともなろう勢いだ。
 ハリが町のイメージを辛うじて支えているが、裏でアイが暗躍している。
 バリーは、そのバーグの町へアイに呪文を習いによく訪れる。
 ある日アイは劇場にバリーを招待した。
 「あの戦士に殴られて、鼻折れたら三日高熱出して種無しになった」
 元々無いのかも知れないが、と加えた。バリーはショックだ。
 バリーを知ってから、女に行き倒しているらしいが、さっぱりだと言う。
 「俺のガキの顔なんて見たくもねぇよ」
 本当に好都合と言った顔をアイはする。
 バリーは何故かそう言う性質のアイが憎めない。
 「裸になれば少しは腹出てんでしょ?良いな妊婦。またしないか?」
 「あんたそう言う事やめなよもう…」
 「やりたい」「バカ」
 アイは少し調子に乗った。誰の耳があるとも知れない劇場だった。
 
 革命は翌日だ。バリーはバーグを去っていた。
 頭角を現してきた良商人ビム。
 ターバン、黒髭、黒目(黒目勝ち)の穏やかそうな彼は
 アイを町の真中の大噴水に呼び出した。
 町中の人間で大群衆になっていた。
 アイの悪政、不実は町中に知れ渡っている。だが決め手が無かった。
 「仮にも大都市の長である。この男が相応しいと思うか!?」
 アイを指差しビムは声を張る。大群衆は盛上がる。何百と言う声、叫び。
 「アイは、世を救う勇者であり、妊婦であり、
 血の繋がる叔母に当る女性を無理矢理に犯した!
 都市の長が、この様な外道を厚顔と行っている!方々、この男を如何に!」
 ビムは大群衆に問う。
 「首を刎ねろ!!」「いや、火炙りにしろ!!」「外に捨てて犬に食わせろ!」

 (このやろ---…)
 好き放題言う群衆にアイはそれでも冷静だ。
 別に自分の命は惜しくない。この世になんの未練もない。
 暗い。深い世界に落ちて永遠に目を覚まさなくても構わない。
 断頭台がもし目の前にあれば、進み出もしよう。

 しかし足が一歩も動いてくれない。
 人の目には解らぬだろうが震えがずっと止まらなかった。
 その時ハリがアイの前に庇う様に歩み出た。
 「殺さないでくれ。この男は尽力を…」
 「この男は一人で汚れて、一人で町の罪を背負って」
 「尤もです。だから長で居られた」
 ビムが言うも、もうそんな存在をこの町は要らないらしい。
 アイは無言。ギリギリの冷静さを保っている。
 アイは終身刑となった。
 牢兵に掴まれ、アイは神妙にしているが、
 夫を返せ、あの人を返せ、(夫の名を呼び)を返せと
 町の為に死んでいった男達の妻がいっせいにアイを責めた。
 (お前等の様な女、別れられて男達はあの世でせいせいしてる)
 唾を吐いてアイは牢に入った。

 牢に入り、父サイモンの事、ハリの事、スーの村の事、
 ハリと大きくした町の事をアイは一人、思っていた。
 ずっと思って、その夜泣いた。
 (……愛していたのか………)バーグの町を、である。
 (誰にも渡したくなかっただけなんだ……)
 その時バリーが牢に来た。
 牢番、(バーグの町人全てが)バリーとアイの仲を知って居るので、
 バリーはその男に卑猥な目で見られた。
 夜の町でも哀れむ様な目で見られたり、(?)バリーは訳が解らない。
 (叔母上…すまん……)
 アイからは見えないが、牢番の態度は想像がつく。
 監獄の奥の奥の牢で、一人、人知れずアイが泣いていたのでバリーは驚いた。

鉄格子にアイは飛び付いて来た。
「あなたに謝る事を、許してくれますか」
バリーは驚いて頷くと、男は好きな様にそうした。
「信じたい」
この罪人をどうするのか、これからの町の出方、全てをただ彼は信じたいと言う。
普通見てはいけない男の生まれ変わった瞬間を見た気がして、バリーは眩暈した。
鉄格子から伸びるアイの腕から貰ったイエローオーブは、バリーの手に少し熱かった。

革命の熱は過ぎ去りアイの再審。
彼はバーグでの、罪とも呼ばれそうな自分の行動を全て暴露した。
バリーとの事は…彼女自身に許された事だ。結局強姦は被害者の告訴を要する。
バリーとアイ、二人は叔母と甥として勇者同士睦まじくあった。
彼女の子が無事だった事が良い事の全てで、そうで無ければ
アイはこうして様々な町民の前で裁かれる事は疎か、町を作ってさえも居ない。
彼の言う暗い、深い世界に落ちて二度と目を覚まさない事であった。

裁判は数日続いた。
アイを捕らえる為の革命に、訴え出もしないバリーの傷を利用した事を恥じ、
商人ビムは町長を辞退した。
その座を妻に譲り、彼自身は外交に明け暮れ、殆ど町に居ない。
その妻とバリーは会った。
「アイさんは商人としてバランス感覚が素晴らしかったわ。
 自供も“町の為”と人心に許されそうな事が殆どです」
ピンク色の髪が鮮烈な、エジンベアから来た女性。バリーに解る言語で流暢に話してくれる。
(個性派美女だ……)バリーは爽やかに動悸。
アイの様な男、革命がすぎると、こうした夫婦が出て来た。
老商人ハリも老婦人と結婚し、町の幹部はもはや穏やかだ。

アイの罰は財産、所領没収の上、追放と落ち着いた。
「罰が有って良かった……」
とアイは独りごちた。もうバリーとアイは町を出ている。
「この町作れて良かった?」
「良かったよ」
バリーは兄のサイモンが、アイに何故か怒りながらも
スーの荒野を見てから、商人のアイと言う息子をずっと探していた事を彼に伝えた。
父には頭が上がらない。彼はそうだった。

アイは故郷の村で母殺しの疑いを掛けられている。真相はアイしか知らず、
彼は自分が殺したと思っている。父のサイモンはそう思っていない。
ずれのある父子だが何とかやっている。
ところで、戦士ブラックは他人様の手で育てられ、親を知らなかった。
その男とアイは少し前、互いに血を見る程ああだった。

(これで女の人を好きになってくれれば……)
と思うバリーは、そのアイと言う男を、親戚の誼でまずアリアハンの彼女の自宅へ連れて行く。
着くなり、アイはバリーに
「やばい。もうあの人しか居ない」
と自分の祖父(オルテガ)の妻であるサンダをそう言った。
バリーは又思う(似てる……)
彼はこの家の居候となり、取り敢えずオルテガの部屋を与えられた。
2008年04月25日(金) 00:27:33 Modified by dqnovels




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