最終更新:ID:DfFvQVicUA 2011年08月08日(月) 01:52:12履歴
二月十四日、バレンタイン……この日は女性にとって特別な日である。
ある者は恋人へ、ある者は家族へ、またある者は友人へと贈り物をする。
アラガミが闊歩するこの時代においてもその風習は褪せる事なく存在している。
だが、一部の女性にとってそれは単なる風習を超えて一種の試練と化していた……。
―――
――――――
―――――――――
「チョコレート狩り……ですか?」
「うん、そう。アネットも一緒にどうかと思って」
「はぁ……でもバレンタインって普通はお店で売ってるチョコを各々が加工して作るものなんじゃないんですか?」
「あら?アネットは知らないのね」
そう言うとサクヤはエントランス脇の端末からノルンにアクセスする。
目当ての情報を引き出すとアネットを手招きして画面を見せる。
「これよ、これ」
【チョコレートメイデン】
第二種特別保護指定種。
アフリカで発見されたコクーンメイデンの亜種。
カカオやその他様々な果実の木を捕喰をしたコクーンメイデンが進化したものと思われる。
本個体そのものは脆弱だが体内でチョコレートに非常に酷似した成分の液体を生成しており、それを餌に周囲のアラガミと共生関係を結んでいる。
この液体は毒を含むものの毒性は低く、例えそのまま口径接種しても手足が痺れる程度である。
また、この毒は熱処理によって完全に無毒化する。
天然カカオの減少から近年このアラガミの生成する疑似チョコレートの需要が高まっており、乱獲防止のため特別保護種に指定される。
そのため本個体の討伐は需要の急増する2月13日〜2月15日の期間に限定される。
弱点属性:[火]
「こんなアラガミがいたんですね……」
「訓練にもなるし、うまく倒せれば一般流通品よりも美味しいチョコが手に入るわよ?」
「成る程……わかりました。同行させて頂きます!」
―――
――――――
―――――――――
「あのぉ……本当に私がご一緒してもいいんでしょうか?」
「勿論よ。カノンさんだってチョコ欲しいでしょ?」
「それはもう!いつもは一人で行ってたんですが、私ヘタであんまり量が取れなかったので助かります」
二月十三日……解禁期間初日の朝。
エントランスホールの出撃ゲート前に女性三人が集まっていた。
「こういうイベント初めてなので、ちょっと緊張します」
「あら、アリサはロシアに居た頃はやらなかったの?」
「あっちに居た頃は渡すような相手がいなかったので……」
「ふふ、という事は今は渡したい人がいるのね?」
「えっ!?ほら、リーダーとかサクヤさんとか第一部隊のみんなには日頃からお世話になってますし……そのお礼がしたいなと思って!」
「ありがとうアリサ。でも……"彼と"私達なのね」
「もぉ!からかわないで下さいよぉっ!」
「すみません!遅くなりました!」
三人に遅れてアネットがエントランスホールに到着した。
「大丈夫よアネット。まだ集合時間前だから。でもあなたがギリギリの時間に来るなんて珍しいのね」
「すみません……装備の点検をしていたらなかなか終わらなくて……」
「気合い入ってるわね。アネットは誰に渡したいの?」
「リーダーに渡すつもりです」
「え?」
アネットの発言にアリサがピクリと反応する。
「だってリーダーって格好いいじゃないですか。
私達がピンチの時には直ぐにフォローしてくれますし、指示も的確で凄く強い……。
極東支部に配属される前から憧れだったんです。
だから日頃お世話になっているお礼という意味も込めてちゃんとしたものをあげたいと思いまして……」
言いながら段々恥ずかしくなったのかアネットは顔を赤くしてしまった。
「あらあら……これは頑張らないといけないわね?」
サクヤがアリサに向き直り軽くウィンクをする。
「う、うぅぅぅ……」
「ふふ、それじゃあみんな揃った事だし出発しましょう」
―――
――――――
―――――――――
「こちらアリサ。ターゲット見つかりません」
「こちらアネット。こちらにもターゲット見当たりません」
「こちらカノン。うーん、こっちにもいません」
「こちらサクヤ。私のところにもまだいないわね……みんな、油断しないでね!」
「「了解!」」
「了解です!」
彼女達はバラバラに索敵を行っていた。
ターゲットが弱いので単独でも比較的安全である事と何より今回はなるべく沢山狩らなけばならないというのが理由だ。
―――
――――――
―――――――――
〜アネットSIDE〜
「ターゲット見つからないなぁ……個体数が少ないとは聞いてたけど……ん?」
なかなかターゲットが見つからず緊張感も解けてきたアネットは目の前にオウガテイル三匹を発見した。
今回の討伐予定対象ではないの無視しようと思ったが、様子がおかしい。
「どこかに向かってる?」
オウガテイル達はまるで何かに誘われるように皆同じ方向に歩いていた。
何かあると思ったアネットが気付かれないように追い掛けると、その先にはチョコレートメイデンとそれに群がるオウガテイル数体がいた。
「いた!こちらアネット!ターゲットを発見!これより戦闘開始します!」
『アネット!?早まっては駄目よ!』
サクヤが制止をかけるが既にアネットは駆け出していた。
「ハァーっ!!」
アネットの接近に気付いたチョコレートメイデンは高速で反転しアネットへ茶色の液体を飛ばしてきた。
「速いっ!?きゃあっ!」
予想外の速度での反撃によってアネットはチョコレートメイデンの攻撃をモロに受けてしまった。
「うわぁ……ベトベト……あ、でもいい匂い……」
『アネット!大丈夫!?』
「あ、はい平気です。ターゲットから攻撃を受けましたがダメージはありません」
『!!急いでターゲットを撃破して!』
「え?は、はい!」
『チョコレートメイデンはチョコを飛ばして攻撃してくるの!つまり攻撃される度に取り分が減るわ!』
「えぇっ!?」
『それに身体に付いたチョコはマーキングの役割も果たすから早くしないとどんどんアラガミが寄ってくるわよ!』
「そんなぁ!」
そうこうしている間にもチョコレートメイデンはチョコを飛ばし続け、アネットに付着したチョコ目当てにどんどんとアラガミが湧いてくる。
「うぇ〜ん。どんどん出てくる……サクヤさんスミマセン、共闘お願いします……」
『仕方ないわね……今行くからもう暫く保ち堪え…………』
「サクヤさん?」
―――
――――――
―――――――――
〜サクヤSIDE〜
「あれは……チョコレートメイデン堕天種!?」
『サクヤ……さん?』
「寒冷地にしか生息していないと聞いていたけど……まさかこんな所にまで進出していたなんて……!」
『あ、あの!サクヤさん!どうしたんですか!?』
「……チョコレートメイデンの堕天種を発見したわ」
『堕天種……ですか?』
「そうよ。通常のチョコレートメイデンと違ってホワイトチョコを体内に貯えてるの。この地域ではかなり珍しい個体よ」
『はぁ……あの、サクヤさん……なるべく早く助けに来て頂けると有り難いたいんですが……』
「ごめんなさいアネット。私は暫くこの辺で堕天種を狩るから一人で何とかしてちょうだい」
『えぇ!?そんなサクヤさ……あっ!?オウガテイル達が!?駄目!こんなに沢山っ……やだ舐めないで!いやあぁぁぁ!』
「本当にごめんなさいねアネット……あなたにもちゃんと分けてあげるから……」
『そんなぁ……あっ、ゃンっ!そんなに舐めたってもうチョコは付いて無……きゃあっ!?だからってそんな沢山かけなくても……ぁ、駄目!
そこ引っ張らないで!ひゃうっ!?駄目!そこは絶対に……いや、ダメダメダメ!でゃめぇぇぇぇ!!』
「共生しているアラガミは……あの身体のあちこちに白いものが付着しているサリエルかしらね」
『サクヤさん!サクヤさぁん!!お願いします!早く助け』
サクヤはアラガミに気付かれないように通信を切断してゆっくりと狙いを定めてゆく……。
「ふふふ、腕が鳴るわね……」
―――
――――――
―――――――――
〜アリサSIDE〜
「もぅ!さっきから雑魚ばっかり!ターゲットは何処なのよぉ!」
『アリサさん、落ち着いて下さい。相手はコクーンメイデンの派生種ですから逃げたりしませんよ?』
「カノンさぁん……逃げないなら何でこんなに見つからないんでしょう?」
『うーん……きっと地面に潜っているんですよ。その内ボコっと出てきますよボコっと』
「はぁ……そう簡単にボコっと出てきてくれたら苦労はしな……」
ボコォッ!
「ボコっと出たぁ!?」
『おめでとうございます!早く倒しましょう!あっ!?私の方にも出ました!』
ボコッ!
ボコボコッ!!
「どんどん出てきた!?よ、よし……!倒すわよぉっ!」
次々と地面から生えてくるチョコレートメイデンに誘われ、アリサの元に大量のオウガテイルが押し寄せてきた。
「くっ……鬱陶しい!」
チョコレートメイデンもオウガテイルも単体ではさほど驚異ではないが、流石に今回は数が多すぎる為アリサも苦戦していた。
『アッハハハハハ!ほらほら、早くチョコを頂戴ッ!』
「カ、カノンさん!?なんか凄い破砕音が聞こえるんですけど!?」
―――
――――――
―――――――――
〜カノンSIDE〜
「どうしたの?逃げないの?逃がさないけど……ねぇっ!」
戦闘モードに入ったカノンは周囲のオウガテイルを蹴散らしながらチョコレートメイデンを次々に粉砕していく。
ドンッ!ドンッ!グシャ!ビチャアァ!
「フフフフフ……甘ぁい……」
『カノンさん!ちゃんと目的のもの集めてます!?』
「大丈夫ですっ……よ!!ちゃんと逃がさず倒してますからっ……邪魔ァ!」
突如現れたヴァジュラも顔面に零距離射撃を叩き込んで吹き飛ばし、カノンはひたすらアラガミを狩り続けた。
―――
――――――
―――――――――
〜アリサSIDE〜
「カノンさん、すっかりスイッチ入っちゃってる……"いつも量が少ない"ってこれが原因だったんだ……
こうなったらカノンさんの分も私が頑張らないと……!」
決意を新たにしたアリサに今度は二匹のオウガテイルが襲いかかる。
「あああ!もぉ!邪魔!」
神機の砲身部分をオウガテイルに思いっきり叩きつけ、二匹まとめて吹き飛ばす。
が、吹き飛ばした先にはチョコレートメイデンがいた。
グシャァ!
「しまったぁ!?」
オウガテイルの直撃を受けたチョコレートメイデンは中身を盛大にぶち撒けて絶命していた。
「これじゃあ回収できない……くっ、こうなったら数で勝負!」
―――
――――――
―――――――――
二月十三日……夕方。
エントランスホールへ戦いを終えた乙女達が帰ってきた。
「つ、疲れました……」
「まさかサリエルが二匹もいたなんて予想外だったわ……」
「皆さん本当にごめんなさい!私またあんなに無駄にしてしまって……」
「うぅ……お嫁にいけない……」
なんとか材料は回収できたものの、全員の分を山分けすると一人チョコ一個分程度にしかならなかった。
「おっ、カノンお疲れさ……ぁ……」
「あ、タツミさん。お疲れ様です……ってどうしたんですか?」
「あー……なんだ……お前達、早く着替えてきた方がいいぞ?なんて言うか……ヤバい」
「?勿論これからシャワー浴びて着替えるつもりですけど…………あ」
チョコレートメイデン達との激戦を潜り抜けてきた彼女達の衣服は通常とは違う汚れ方をしていた。
「わ、私もう部屋に戻りますねっ!」
返り血ならぬ返りチョコをたっぷり浴びたカノンの服は肌に張り付き、豊かな胸を強調するように身体のラインを浮かび上がらせていた。
「わ、私も!」
カノン程でないにしろアリサも身体のあちこちにチョコを付けている。
顔や足、おへそや服の隙間から覗く胸にまで。
アリサの白い肌や整った体型も相俟って、それはアブノーマルな色気を醸し出していた。
「シャワー……浴びてきます……」
衣服が乱れ、全身をアラガミの体液で濡らしたアネットの姿は、邪推して見れば"悲惨な事後"そのものである。
本人は既にそんな事を気にする余裕もない程に落ち込んでいるが……。
「やだ!?私ったらなんて格好を……っ!」
サクヤの姿は一見すると一番まともだ。
だが、所々に"白いチョコ"を纏った姿は一言で言えばとても……………エロかった。
―――
――――――
―――――――――
「これでよし!」
着替えを終えたアリサは早速チョコ制作に取りかかり完成させた。
多少は歪ながらもハート型に作られたチョコレートの中央にはサクヤが手に入れたホワイトチョコを使って"люблю"と書いてある。
「明日これをリーダーに渡して、それから…………あ、もうこんな時間!そろそろ寝ないと」
明日へ想いを馳せながらアリサは眠りについた……。
―――
――――――
―――――――――
「何?あの人集り……」
翌朝アリサがエントランスホールに来るといつものメンツ以外にも沢山の人が集まっていた。
「お兄ちゃんありがとう!」
人集りの中から子供が小さな包みを持って出てきた。
どうやら誰かがチョコを配っているらしい。
人集りの中へ入ると、その中心に茶色い熊を見つけた。
「何やってるんですかリーダー……」
「僕はリーダーじゃないよチョコレートベアーだよ」
「じゃあそのチョコレートベアーさんは何をやっているんです?」
「聞いた事もないアラガミの討伐任務があったからさ、いい素材でも出ないかと狩っていたら大量のチョコを入手したんだ」
「だからみんなに配っていたと?」
「うん、そう。はいこれアリサの分」
「あ、ありがとうございます……」
近くに居たアネットと目が合ってお互いに苦笑する。
どうやら彼女も渡すタイミングを逃してしまったようだ。
「いやぁ、君って本当に器用だね。どう?こっちの部署に来ない?」
「リッカさん。嬉しいお誘いですけど僕は身体を動かしている方が性に合っているので」
「残念。フラれちゃったか……うーん、美味しい」
あんまり残念そうでないリッカが包みからオウガテイルの形をしたチョコを取り出し頬張る。
「リーダー、このチョコの形……」
「ん?あぁ、良く出来てるでしょ?我ながら自信作だよ」
「いきなり来て『ちょっと設備貸して』とか言うから何かと思ったけど、まさかチョコの型を自作するなんてね」
「僕らはゴッドイーターだしね。アラガミは食べちゃおう!みたいな。あはは」
負けた。と、アリサは思った。
チョコを渡すべき相手から逆にチョコを貰い、出来も全然違う。
それどころか材料集めの時点で負けていた。
別にリーダーやその他の誰かと勝負をしていたわけでもないが、何故かアリサは圧倒的な敗北感に打ち拉がれた。
「あ、そうだ。あたしからも……はい。あたしのは普通のチョコだけど」
「ありがとうございます。嬉しいなぁ」
「ところで……今晩一緒にどう?」
リッカがグラスを煽るようなジェスチャーで飲みに誘う。
「ジュースで良ければお相手しますよ?」
「固いなぁ。ま、それでいいから付き合ってよ」
「わかりました。それでは今晩」
「うん……待ってる……」
そう言ってリッカは去って行った。
鈍いリーダーにはわからなかっただろうがアリサにはわかった。
リッカが"女の子の顔"をしていた事に。
「うぅぅ……先を越された……」
「ん?どうしたのアリサ?」
俯いてぷるぷると震えるアリサを心配そうに見つめるチョコレートベアー。
何も知らずにいつものように優しく接する。
だが今回は、それがアリサの琴線に触れた。
「もおぉぉぉぉ!リーダーの……ばかあぁぁぁっ!!」
渡す予定だったチョコを熊の顔面に叩きつけ、アリサはその場から逃げ出した。
次こそは!次こそは!と心に誓って……。
ある者は恋人へ、ある者は家族へ、またある者は友人へと贈り物をする。
アラガミが闊歩するこの時代においてもその風習は褪せる事なく存在している。
だが、一部の女性にとってそれは単なる風習を超えて一種の試練と化していた……。
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「チョコレート狩り……ですか?」
「うん、そう。アネットも一緒にどうかと思って」
「はぁ……でもバレンタインって普通はお店で売ってるチョコを各々が加工して作るものなんじゃないんですか?」
「あら?アネットは知らないのね」
そう言うとサクヤはエントランス脇の端末からノルンにアクセスする。
目当ての情報を引き出すとアネットを手招きして画面を見せる。
「これよ、これ」
【チョコレートメイデン】
第二種特別保護指定種。
アフリカで発見されたコクーンメイデンの亜種。
カカオやその他様々な果実の木を捕喰をしたコクーンメイデンが進化したものと思われる。
本個体そのものは脆弱だが体内でチョコレートに非常に酷似した成分の液体を生成しており、それを餌に周囲のアラガミと共生関係を結んでいる。
この液体は毒を含むものの毒性は低く、例えそのまま口径接種しても手足が痺れる程度である。
また、この毒は熱処理によって完全に無毒化する。
天然カカオの減少から近年このアラガミの生成する疑似チョコレートの需要が高まっており、乱獲防止のため特別保護種に指定される。
そのため本個体の討伐は需要の急増する2月13日〜2月15日の期間に限定される。
弱点属性:[火]
「こんなアラガミがいたんですね……」
「訓練にもなるし、うまく倒せれば一般流通品よりも美味しいチョコが手に入るわよ?」
「成る程……わかりました。同行させて頂きます!」
―――
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「あのぉ……本当に私がご一緒してもいいんでしょうか?」
「勿論よ。カノンさんだってチョコ欲しいでしょ?」
「それはもう!いつもは一人で行ってたんですが、私ヘタであんまり量が取れなかったので助かります」
二月十三日……解禁期間初日の朝。
エントランスホールの出撃ゲート前に女性三人が集まっていた。
「こういうイベント初めてなので、ちょっと緊張します」
「あら、アリサはロシアに居た頃はやらなかったの?」
「あっちに居た頃は渡すような相手がいなかったので……」
「ふふ、という事は今は渡したい人がいるのね?」
「えっ!?ほら、リーダーとかサクヤさんとか第一部隊のみんなには日頃からお世話になってますし……そのお礼がしたいなと思って!」
「ありがとうアリサ。でも……"彼と"私達なのね」
「もぉ!からかわないで下さいよぉっ!」
「すみません!遅くなりました!」
三人に遅れてアネットがエントランスホールに到着した。
「大丈夫よアネット。まだ集合時間前だから。でもあなたがギリギリの時間に来るなんて珍しいのね」
「すみません……装備の点検をしていたらなかなか終わらなくて……」
「気合い入ってるわね。アネットは誰に渡したいの?」
「リーダーに渡すつもりです」
「え?」
アネットの発言にアリサがピクリと反応する。
「だってリーダーって格好いいじゃないですか。
私達がピンチの時には直ぐにフォローしてくれますし、指示も的確で凄く強い……。
極東支部に配属される前から憧れだったんです。
だから日頃お世話になっているお礼という意味も込めてちゃんとしたものをあげたいと思いまして……」
言いながら段々恥ずかしくなったのかアネットは顔を赤くしてしまった。
「あらあら……これは頑張らないといけないわね?」
サクヤがアリサに向き直り軽くウィンクをする。
「う、うぅぅぅ……」
「ふふ、それじゃあみんな揃った事だし出発しましょう」
―――
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「こちらアリサ。ターゲット見つかりません」
「こちらアネット。こちらにもターゲット見当たりません」
「こちらカノン。うーん、こっちにもいません」
「こちらサクヤ。私のところにもまだいないわね……みんな、油断しないでね!」
「「了解!」」
「了解です!」
彼女達はバラバラに索敵を行っていた。
ターゲットが弱いので単独でも比較的安全である事と何より今回はなるべく沢山狩らなけばならないというのが理由だ。
―――
――――――
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〜アネットSIDE〜
「ターゲット見つからないなぁ……個体数が少ないとは聞いてたけど……ん?」
なかなかターゲットが見つからず緊張感も解けてきたアネットは目の前にオウガテイル三匹を発見した。
今回の討伐予定対象ではないの無視しようと思ったが、様子がおかしい。
「どこかに向かってる?」
オウガテイル達はまるで何かに誘われるように皆同じ方向に歩いていた。
何かあると思ったアネットが気付かれないように追い掛けると、その先にはチョコレートメイデンとそれに群がるオウガテイル数体がいた。
「いた!こちらアネット!ターゲットを発見!これより戦闘開始します!」
『アネット!?早まっては駄目よ!』
サクヤが制止をかけるが既にアネットは駆け出していた。
「ハァーっ!!」
アネットの接近に気付いたチョコレートメイデンは高速で反転しアネットへ茶色の液体を飛ばしてきた。
「速いっ!?きゃあっ!」
予想外の速度での反撃によってアネットはチョコレートメイデンの攻撃をモロに受けてしまった。
「うわぁ……ベトベト……あ、でもいい匂い……」
『アネット!大丈夫!?』
「あ、はい平気です。ターゲットから攻撃を受けましたがダメージはありません」
『!!急いでターゲットを撃破して!』
「え?は、はい!」
『チョコレートメイデンはチョコを飛ばして攻撃してくるの!つまり攻撃される度に取り分が減るわ!』
「えぇっ!?」
『それに身体に付いたチョコはマーキングの役割も果たすから早くしないとどんどんアラガミが寄ってくるわよ!』
「そんなぁ!」
そうこうしている間にもチョコレートメイデンはチョコを飛ばし続け、アネットに付着したチョコ目当てにどんどんとアラガミが湧いてくる。
「うぇ〜ん。どんどん出てくる……サクヤさんスミマセン、共闘お願いします……」
『仕方ないわね……今行くからもう暫く保ち堪え…………』
「サクヤさん?」
―――
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〜サクヤSIDE〜
「あれは……チョコレートメイデン堕天種!?」
『サクヤ……さん?』
「寒冷地にしか生息していないと聞いていたけど……まさかこんな所にまで進出していたなんて……!」
『あ、あの!サクヤさん!どうしたんですか!?』
「……チョコレートメイデンの堕天種を発見したわ」
『堕天種……ですか?』
「そうよ。通常のチョコレートメイデンと違ってホワイトチョコを体内に貯えてるの。この地域ではかなり珍しい個体よ」
『はぁ……あの、サクヤさん……なるべく早く助けに来て頂けると有り難いたいんですが……』
「ごめんなさいアネット。私は暫くこの辺で堕天種を狩るから一人で何とかしてちょうだい」
『えぇ!?そんなサクヤさ……あっ!?オウガテイル達が!?駄目!こんなに沢山っ……やだ舐めないで!いやあぁぁぁ!』
「本当にごめんなさいねアネット……あなたにもちゃんと分けてあげるから……」
『そんなぁ……あっ、ゃンっ!そんなに舐めたってもうチョコは付いて無……きゃあっ!?だからってそんな沢山かけなくても……ぁ、駄目!
そこ引っ張らないで!ひゃうっ!?駄目!そこは絶対に……いや、ダメダメダメ!でゃめぇぇぇぇ!!』
「共生しているアラガミは……あの身体のあちこちに白いものが付着しているサリエルかしらね」
『サクヤさん!サクヤさぁん!!お願いします!早く助け』
サクヤはアラガミに気付かれないように通信を切断してゆっくりと狙いを定めてゆく……。
「ふふふ、腕が鳴るわね……」
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〜アリサSIDE〜
「もぅ!さっきから雑魚ばっかり!ターゲットは何処なのよぉ!」
『アリサさん、落ち着いて下さい。相手はコクーンメイデンの派生種ですから逃げたりしませんよ?』
「カノンさぁん……逃げないなら何でこんなに見つからないんでしょう?」
『うーん……きっと地面に潜っているんですよ。その内ボコっと出てきますよボコっと』
「はぁ……そう簡単にボコっと出てきてくれたら苦労はしな……」
ボコォッ!
「ボコっと出たぁ!?」
『おめでとうございます!早く倒しましょう!あっ!?私の方にも出ました!』
ボコッ!
ボコボコッ!!
「どんどん出てきた!?よ、よし……!倒すわよぉっ!」
次々と地面から生えてくるチョコレートメイデンに誘われ、アリサの元に大量のオウガテイルが押し寄せてきた。
「くっ……鬱陶しい!」
チョコレートメイデンもオウガテイルも単体ではさほど驚異ではないが、流石に今回は数が多すぎる為アリサも苦戦していた。
『アッハハハハハ!ほらほら、早くチョコを頂戴ッ!』
「カ、カノンさん!?なんか凄い破砕音が聞こえるんですけど!?」
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〜カノンSIDE〜
「どうしたの?逃げないの?逃がさないけど……ねぇっ!」
戦闘モードに入ったカノンは周囲のオウガテイルを蹴散らしながらチョコレートメイデンを次々に粉砕していく。
ドンッ!ドンッ!グシャ!ビチャアァ!
「フフフフフ……甘ぁい……」
『カノンさん!ちゃんと目的のもの集めてます!?』
「大丈夫ですっ……よ!!ちゃんと逃がさず倒してますからっ……邪魔ァ!」
突如現れたヴァジュラも顔面に零距離射撃を叩き込んで吹き飛ばし、カノンはひたすらアラガミを狩り続けた。
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〜アリサSIDE〜
「カノンさん、すっかりスイッチ入っちゃってる……"いつも量が少ない"ってこれが原因だったんだ……
こうなったらカノンさんの分も私が頑張らないと……!」
決意を新たにしたアリサに今度は二匹のオウガテイルが襲いかかる。
「あああ!もぉ!邪魔!」
神機の砲身部分をオウガテイルに思いっきり叩きつけ、二匹まとめて吹き飛ばす。
が、吹き飛ばした先にはチョコレートメイデンがいた。
グシャァ!
「しまったぁ!?」
オウガテイルの直撃を受けたチョコレートメイデンは中身を盛大にぶち撒けて絶命していた。
「これじゃあ回収できない……くっ、こうなったら数で勝負!」
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二月十三日……夕方。
エントランスホールへ戦いを終えた乙女達が帰ってきた。
「つ、疲れました……」
「まさかサリエルが二匹もいたなんて予想外だったわ……」
「皆さん本当にごめんなさい!私またあんなに無駄にしてしまって……」
「うぅ……お嫁にいけない……」
なんとか材料は回収できたものの、全員の分を山分けすると一人チョコ一個分程度にしかならなかった。
「おっ、カノンお疲れさ……ぁ……」
「あ、タツミさん。お疲れ様です……ってどうしたんですか?」
「あー……なんだ……お前達、早く着替えてきた方がいいぞ?なんて言うか……ヤバい」
「?勿論これからシャワー浴びて着替えるつもりですけど…………あ」
チョコレートメイデン達との激戦を潜り抜けてきた彼女達の衣服は通常とは違う汚れ方をしていた。
「わ、私もう部屋に戻りますねっ!」
返り血ならぬ返りチョコをたっぷり浴びたカノンの服は肌に張り付き、豊かな胸を強調するように身体のラインを浮かび上がらせていた。
「わ、私も!」
カノン程でないにしろアリサも身体のあちこちにチョコを付けている。
顔や足、おへそや服の隙間から覗く胸にまで。
アリサの白い肌や整った体型も相俟って、それはアブノーマルな色気を醸し出していた。
「シャワー……浴びてきます……」
衣服が乱れ、全身をアラガミの体液で濡らしたアネットの姿は、邪推して見れば"悲惨な事後"そのものである。
本人は既にそんな事を気にする余裕もない程に落ち込んでいるが……。
「やだ!?私ったらなんて格好を……っ!」
サクヤの姿は一見すると一番まともだ。
だが、所々に"白いチョコ"を纏った姿は一言で言えばとても……………エロかった。
―――
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「これでよし!」
着替えを終えたアリサは早速チョコ制作に取りかかり完成させた。
多少は歪ながらもハート型に作られたチョコレートの中央にはサクヤが手に入れたホワイトチョコを使って"люблю"と書いてある。
「明日これをリーダーに渡して、それから…………あ、もうこんな時間!そろそろ寝ないと」
明日へ想いを馳せながらアリサは眠りについた……。
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「何?あの人集り……」
翌朝アリサがエントランスホールに来るといつものメンツ以外にも沢山の人が集まっていた。
「お兄ちゃんありがとう!」
人集りの中から子供が小さな包みを持って出てきた。
どうやら誰かがチョコを配っているらしい。
人集りの中へ入ると、その中心に茶色い熊を見つけた。
「何やってるんですかリーダー……」
「僕はリーダーじゃないよチョコレートベアーだよ」
「じゃあそのチョコレートベアーさんは何をやっているんです?」
「聞いた事もないアラガミの討伐任務があったからさ、いい素材でも出ないかと狩っていたら大量のチョコを入手したんだ」
「だからみんなに配っていたと?」
「うん、そう。はいこれアリサの分」
「あ、ありがとうございます……」
近くに居たアネットと目が合ってお互いに苦笑する。
どうやら彼女も渡すタイミングを逃してしまったようだ。
「いやぁ、君って本当に器用だね。どう?こっちの部署に来ない?」
「リッカさん。嬉しいお誘いですけど僕は身体を動かしている方が性に合っているので」
「残念。フラれちゃったか……うーん、美味しい」
あんまり残念そうでないリッカが包みからオウガテイルの形をしたチョコを取り出し頬張る。
「リーダー、このチョコの形……」
「ん?あぁ、良く出来てるでしょ?我ながら自信作だよ」
「いきなり来て『ちょっと設備貸して』とか言うから何かと思ったけど、まさかチョコの型を自作するなんてね」
「僕らはゴッドイーターだしね。アラガミは食べちゃおう!みたいな。あはは」
負けた。と、アリサは思った。
チョコを渡すべき相手から逆にチョコを貰い、出来も全然違う。
それどころか材料集めの時点で負けていた。
別にリーダーやその他の誰かと勝負をしていたわけでもないが、何故かアリサは圧倒的な敗北感に打ち拉がれた。
「あ、そうだ。あたしからも……はい。あたしのは普通のチョコだけど」
「ありがとうございます。嬉しいなぁ」
「ところで……今晩一緒にどう?」
リッカがグラスを煽るようなジェスチャーで飲みに誘う。
「ジュースで良ければお相手しますよ?」
「固いなぁ。ま、それでいいから付き合ってよ」
「わかりました。それでは今晩」
「うん……待ってる……」
そう言ってリッカは去って行った。
鈍いリーダーにはわからなかっただろうがアリサにはわかった。
リッカが"女の子の顔"をしていた事に。
「うぅぅ……先を越された……」
「ん?どうしたのアリサ?」
俯いてぷるぷると震えるアリサを心配そうに見つめるチョコレートベアー。
何も知らずにいつものように優しく接する。
だが今回は、それがアリサの琴線に触れた。
「もおぉぉぉぉ!リーダーの……ばかあぁぁぁっ!!」
渡す予定だったチョコを熊の顔面に叩きつけ、アリサはその場から逃げ出した。
次こそは!次こそは!と心に誓って……。
このページへのコメント
アネット可愛いなぁ
リッカさんの圧倒的強者感
チョコレートベアーで不覚にもワロタ
純粋にコメディとしてすげー面白かった
流石はリーダー。
美味しいアラガミ食べちゃおう。(笑)
アネットも可愛いなー