第一句集の題名『海燕』は、夫・豊次郎氏と最後の旅をした上海の霧の港に停泊中の船の帆に羽を休めていたたくさんの燕(つばめ)の事なのです。

11)

【春の季】

伊勢には多佳子の師・山口誓子氏も昭和16年以来、住まわれた由。

伊勢といっても山口誓子氏のお住いは愛知県寄りであったようです。

志摩は奈良県寄りで、かなり離れているけど、県外者は地理に疎い。

志摩と言えば真円真珠(カルチュアパール)の養殖で世界に知られる。

伊勢海老・あわび・ひじき…海の幸。海女の遊ぶ海もご存知でしょうか。

この旅行の目的は何だったのか…ともあれ、弾む心の多佳子がいる。

干満の差の著しい春潮…多佳子の眼前に広がるは勇大なる春の海。

この自然の働きを前にして、人間になにか為せる事があるでしょうか。

次から次と寄せて寄せて寄せ来るは、新たなる命の胎動に違いない。

圧倒されつつも・粋がらない・荘厳しつつ・受容れる時・友好の始まる。

巧まずして出合いの場となりし志摩の海辺に両者は挨拶を交します。

互いを善く確かめ・その存在を認め合って・両者の絆は深まるのです。

気を許し合う相手に己の全てを曝け出す…両者の間に愛は満ちみつ。

多佳子は今・新たな愛を育まんとして大いなる存在に手を差し伸ばす。

(読み方:しゅんちょうをつきけりしまのくににきし)

(海燕・昭和十年の句)

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句集 ・ 海燕

      【 句 集 ・ 海 燕 】


野路ゆきて華鬘つ
曼珠沙華火立の花
曼珠沙華折りたる
曼珠沙華咲きて
送り火が並び浦曲
浦人の送り火波に
おぼえなき父のみ
月光にもゆる送り
わが袂磯砂にある
月の砂照りてはて
月照りて野山があ
龍舌蘭夏天の銀
龍舌蘭旱天の花
龍舌蘭の花日輪を
高き葉ゆ蜥蜴の尾
龍舌蘭灼けたる地
龍舌蘭咲きて大き
波乗りに暮れゆく
波に乗れば高波空
波に乗り陸の青山
波に乗れば沖ゆく
波乗りに青き六連
白波の沖よりたて
ひぐらしや絨毯青
花葛の濃きむらさ
山荘やわが来て葛に…
月見草闇馴れたれ
高波のくだくる光
月見草雲の夕焼が
月見草地の夕焼が
若人等幾日ぞ南風
練習船白南風の帆
南風の船並み帆の
練習生帆綱の上ぞ
白南風や練習船
帆を統べて檣は南
百千の帆綱が南風
南風つよし綱ひけ
積雲も練習船も
フレップの実はほろ
フレップの崖なき
樺を焚きわれ等迎
波荒く港といへど
船航くに北海夏の
霧の港北緯五十
東風寒く海女も去
東風寒く海女が去
海女の髪春潮に漬
若布(め)の底に海女ゐる光り目をこらす
わがために春潮深く
若布は長けて海女ゆく底ひ冥かりき
春潮のさむきに海女…
春潮を着きけり志摩…
陵王に四方の庭燎の…
枯芝に万歳楽は尾を…
アベマリア秋夜をね…
海彦のゐて答へゐる…
わがまつげ霧にまば…
鹿啼きてホテルは夜…
硬き角あはせて男鹿…
わが行けば露とびか…
曇り来し昆布干場の…
公卿若し藤に蹴鞠を…

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