第一句集の題名『海燕』は、夫・豊次郎氏と最後の旅をした上海の霧の港に停泊中の船の帆に羽を休めていたたくさんの燕(つばめ)の事なのです。

4.)

男鹿はどちらかが引くまで、硬い角を互いにつき合せて力比べをします。

ただし、角突き合いは力比べであって相手を傷つける事を目的としない。

お互いに相手十分の体制を許して競う、それでこそ力比べは成立します。

人間は相手の隙を窺い、破壊力の強い武器で相手の止めを刺そうとする。

不意打ちする気なら、細く鋭利な角を持ったほうが有利に働くでしょう。

だけど、真正面から全力で堂々と押し合う鹿には硬い角が必要なのです。

つまり、硬い角をつき合わせて押し比べする男鹿の力比べなのでしょう。

そんな正々堂々とした男鹿流儀なら、男は妻や家族に暴力を振るわない。

多佳子様が夫に従順だったとしたら、それは安心して過せた事の証です。


多佳子様は夫・豊次郎氏をどのように思ってらっしゃったのでしょうか?}

この句を読んだ瞬間、私は多佳子様の想う男性観に触れた気がしました。

文化に理解ある紳士、世間に顔の利く有能な実業家、多佳子様の庇護者。

もちろん、多佳子様に理解ある夫であり、子に優しい父だったでしょう。

そして信頼する多佳子様に己の弱さを見せる事を少しも恐れなかった夫。

それだけでもう理想の愛妻家として世間的には十分通用するに違いない。

しかもこれは封建的な感覚がまかり通っていた時代の日本の家庭でした。

外で卑屈な手段を使わない人は家庭においては謹厳実直かもしれません。

少し窮屈な豊次郎氏だったとしても、多佳子様は十分に自由を得て幸せ。

いえ、夫のために多佳子様の自由を使えるなら、それは実に幸せでした。

(海燕・昭和十年以前の句)

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句集 ・ 海燕

      【 句 集 ・ 海 燕 】


野路ゆきて華鬘つ
曼珠沙華火立の花
曼珠沙華折りたる
曼珠沙華咲きて
送り火が並び浦曲
浦人の送り火波に
おぼえなき父のみ
月光にもゆる送り
わが袂磯砂にある
月の砂照りてはて
月照りて野山があ
龍舌蘭夏天の銀
龍舌蘭旱天の花
龍舌蘭の花日輪を
高き葉ゆ蜥蜴の尾
龍舌蘭灼けたる地
龍舌蘭咲きて大き
波乗りに暮れゆく
波に乗れば高波空
波に乗り陸の青山
波に乗れば沖ゆく
波乗りに青き六連
白波の沖よりたて
ひぐらしや絨毯青
花葛の濃きむらさ
山荘やわが来て葛に…
月見草闇馴れたれ
高波のくだくる光
月見草雲の夕焼が
月見草地の夕焼が
若人等幾日ぞ南風
練習船白南風の帆
南風の船並み帆の
練習生帆綱の上ぞ
白南風や練習船
帆を統べて檣は南
百千の帆綱が南風
南風つよし綱ひけ
積雲も練習船も
フレップの実はほろ
フレップの崖なき
樺を焚きわれ等迎
波荒く港といへど
船航くに北海夏の
霧の港北緯五十
東風寒く海女も去
東風寒く海女が去
海女の髪春潮に漬
若布(め)の底に海女ゐる光り目をこらす
わがために春潮深く
若布は長けて海女ゆく底ひ冥かりき
春潮のさむきに海女…
春潮を着きけり志摩…
陵王に四方の庭燎の…
枯芝に万歳楽は尾を…
アベマリア秋夜をね…
海彦のゐて答へゐる…
わがまつげ霧にまば…
鹿啼きてホテルは夜…
硬き角あはせて男鹿…
わが行けば露とびか…
曇り来し昆布干場の…
公卿若し藤に蹴鞠を…

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