BBSPINKちゃんねる内で発表されたチャングムの誓いのSS(二次小説)を収集した保管庫です

   チャングム×ハン尚宮×チェ尚宮 (4)  −想望−       壱参弐様


 再び顔を合わせたのは、数日後の昼下がり、打ち合わせの席である。最高尚宮は居並ぶ
尚宮たちにまず、不在の間の労をねぎらった。

 事を始める時がきた。
 今朝起きがけ、いや昨夜寝入る時からハン尚宮はそう考えていた。

 そしてあの者の姿を見た時、高笑いをしてしまうのではないか。
 怖れすら、ハン尚宮は感じていた。もうお前に従う必要はないのだから、と。
 けれど、いざ顔を合わせると、そんな気持ちは微塵もない。

 遠方から帰り、まだ汗も引ききらぬと見えて、やや疲れの見える横顔。
 そのうなじに後れ毛が数本。
 張り付くのを見た時、ハン尚宮の心中はぞくりとし、震え、時めきすら覚えた。
抱かれていた時、目に映った後れ毛。それを思い出し、甘い痺れが身に蘇る。

 仕事は夕方までで上がり、部屋に戻り思いは巡る。
 ふしだらな。なんてことを。ハン尚宮は戸惑いを隠せずにいた。
 あの者が離れていたしばらくの間、隣の部屋は灯らず呼び付ける声もない。本当に
久しぶりに、ひとりでゆったりと眠ることができた。

 されどくつろぎ寝入る脳裏に浮べたのは、あの者の肌。手。唇。絶え間なく続く愛撫。
 普段、あの者など見たくも無いと目を固く閉じ、ただ耐えていた。けれど、どれぐらい
させれば満足するか、確かめるべく目を開く時、いつもあの者の鬢の毛が間近に迫る。
 初めぼんやり眺めていたそれが、手の動きに遅れてゆらゆらと揺れ動くのが面白く
思えて、ハン尚宮はある時ふと触りたくなった。
 指でそっとかき上げると、指先に少し汗ばんだ髪の毛がまとわり付いた。それは柔らかく
頼りなげに、けれども美しく光った。

 チェ尚宮に抱かれること、それはハン尚宮にとって初めは嫌悪でしかなく、次は哀れみ
しか感じられなかった。

 けれど、あの者の私を求める心に偽りは無い。その心に気付いてから、呼び付けられる
ことに、嫌な気持ちは少しずつ和らいでいたのではなかったか。
 あの者は、水剌間では人を求めること、自分の心根をさらけ出すことはできない。けれど
私といる時だけは、逃げる術のない鳥に甘えすがり、求めてくる。
 籠に押し込め支配したと、歪なやり方ではあるが思い込み、かりそめではあろうが
安らいでいる。

 あの者の身体だけでなく、気持ちまでも受け止めさせられている。
 それは"本当に嫌"なことなのだろうか。

 そしてかりそめであっても、受け入れているのは私ではないか。受け入れるどころか、
あの者の、今まで見知らぬ一面を、私もまた楽しんでいるのではないだろうか。
 哀れみの中に忍び入る、楽しみという別の想い。
 ひとり寝る夜の明くる間、度々、己の思いを反芻した。

 抱かれる時には常に、冷めた目でいたつもり。
 けれどいなくなる前の数日、激しく抱かれ続け、果て、その耐えられぬほどの快感に、
思わずあの者を強く抱き締めたのも拭いようのない事実である。
 ハン尚宮の身、はそれを忘れられないでいる。今まで覚えたことのない快さ。
 
 あの者の――決して振り向くことはないと知っていても、一途に求め続けようとする――
手で引き出された悦び。身体の奥から搾り出るような味わい。
 もしやあの時、本当に感じたのではなかったか。
 あの子を、欲していたのではなかったか。
 そう思うたび、ハン尚宮は邪念を打ち消そうと努めてきた。あり得ない。あってはならぬ。

 反芻を繰り返すほどに、ハン尚宮の心に少しずつ違う感情が芽生えていた。それを自分
では、黒い光沢のある感情だと感じる。何なのだろう? 判らないけれど漆黒への欲望。

 夜になり、書を前にして、ハン尚宮の目は静かに字面を追う。だが頭の中では。

 柔らかな女体。目の前を行きつ戻りつするふくよかな乳房。汗ばみまとわり付く張りの
ある腿、光る肌。少し手を伸ばせば、そこに。

 いや駄目だ。呼ばれても行くものか。もう行く必要などない。

 書物をめくる。

 きっぱり断って、あのことを告げてやる。どれだけ驚くか、楽しみ。

 ぱらり

 まだ部屋に戻らぬ様子、今日は夜当番ではなかったはずだが。打ち合わせでもしているのか。

 書物をめくる。

 うなじ……。
 いいや、いけない。

 帰ってきた。

 ぱらっ

 寝支度も整い、そろそろ声をかけてくる頃。断るのよ。きっぱり。驚く顔が見たいわ。

 書物をめくる。

 もう飽きたか。それならそれでいい。

 ぱらり

 今日は呼ばぬつもりか。

 ぱらっ

 書物をめくる。

 ひょっとして気付いたか。

 ぱらり

 顔を埋めたい。指で、唇で味わいたい。

 書物をめくり、声がかかるのを待つ。待ち続ける。

「ハン尚宮、来なさい」

 いよいよ。きっぱりと、きっぱりと言うのよ。
 ハン尚宮はそう心を決め、立ち上がり隣室に向かった。

「お呼びでございますか」
「ペギョン」
 その時、ハン尚宮の目にあの後れ毛が飛び込んだ。
 触れてみたい。ああ、なんてことをまた思っているのだろう。私としたことが。
 動揺を悟られないように、そしらぬ顔で答える。
「はい」
「久しぶりね。水剌間は大丈夫だった? あなたも元気にしていた?」
「つつがなく過ごしてまいりました」
「今日は私が外で聞いたお話しをしてあげるわ」

 チェ尚宮の話しはそこそこ面白く、耳を楽しませるものだった。ここ数ヵ月の特訓
あってか、徐々に話しの要領を掴んできたようだ。けれどハン尚宮がずっと気になって
いたのは、あの後れ毛。熱心に聞き入る振りをして、鬢の毛、そしてうなじを目で追い
続けた。いや愛でていた。

 話しが終わるといつものように、チェ尚宮はハン尚宮を抱き寄せる。
 前に責めすぎたのを後悔しているのか、やや遠慮がちな手つき。

 それに、素直に応じるハン尚宮がいた。
 もちろん、この部屋に入るまではきっぱり断るつもりだった。けれど既にその決意は
鈍く潰えている。そんな自分に内心呆れながら、抱き寄せられることがどこか嬉しく
感じた。その嬉しさを隠そうと、自分への言い訳を考える。

 あれを見つけた以上、言うことを聞く必要はない。けれどまだ、そのことをチャングムや
ミン尚宮たちに伝えていない。まずしっかり連絡を取り、隙の無いようにしなければなら
ない。動き出すには、今少し時間が必要だ。しばらくは、以前のように振舞う必要がある。
 だから今晩は仕方なく。
 それにもう何度も抱かれた身。今さら一度や二度、大した違いではない。

 そんなことを考えながら、引き寄せられるままハン尚宮はチェ尚宮に身を委ねた。
 抱き締められて、撫でられる背中。それだけで、もう。

 愛しみが、始まる。
 押し付けられる唇の熱さ、蕩けるような舌の動き。
 唇を割り、チェ尚宮が舌を割り込ませると、待ち侘びたかのように絡め、受け止める。

 羽織っていた上着を解き、少しずつ着物をずらしていく。動き一つ一つが待ち遠しい。
そう感じる自分に、ハン尚宮は内心驚いた。
 いつも先に裸身とされるのはハン尚宮で、しばらく玩ばれるのが常だった。
 抱き締められるのも口付けられるのも、もちろん愉快ではない。しかしそれはある意味、
対等な係わり合いに思えた。
 けれど身にまとう衣を剥がれるとき、これまで獲得してきた何もかもを奪い取られる
ような、寄り縋るものを失うような不安が、衣の代わりに身を包む。
 その不安もまた、愛撫によって剥がされ、又代わりの官能の炎が纏わり付いていく。

 ハン尚宮は、このひと時が嫌で仕方なかった。
 あの者は衣に身と心を守られている。そして自分は肌を晒し、火が付けられ燃え上がるのを
余す所なく眺められている。自分の肌と触れるのはあの者の、時には、かつて自らもまとった
濃緑の上着。この営みが一方的な行為に過ぎぬこと、それが肌から伝わってくる。

 懸命に屈辱に堪える時間。
 だから大げさに喘いだりした。そして、早くお前も脱いで、と心の中で叫んでいたのだ。

 なぜ自分が昂るまで、あの者が衣を離さぬのか。ハン尚宮にもよくは判らなかった。
けれど推し量るに、要は怖いのだ。欲情に溺れ、私の冷ややかな視線が緩むまで、自らも
一糸まとわぬ姿となって、向き合う自信がないのだろう。

 しばらくしてからやっと、もう一方も身にまとうものを解く。
 素肌で抱き合えば、あの者が肌越しに伝わってくる。そうなれば、共々浅ましい姿。再び
対等に並び、相手の反応を見ながら感じる振りもできる。それに何より、いくばくかの心地
よさがある。

 けれど今日は。
 いっそ、自ら脱ぎ去りたい。身に絡む布きれを取り、早く、早くあなたの手をこの身に
添わして。
 焦るほどの渇望を、ハン尚宮は感じていた。
 激しく荒々しく、私への気遣いなど一切なく、欲望を押し付け貪る。それは羞恥と痛み。
同時に、快楽とも手を携えてくる。
 心の交わりなんてあるはすもない、
 けれど、ひたすらに私を求めるあの熱情が、今は欲しい。

 しかしこれでは……自分で描いた台本通りではないか。何ということだ。
 ハン尚宮は小さく舌打ちした。
 いや違う。決して惹かれてなんていない。ただ身体を、行為を求めているだけに過ぎない
のよ。


 脱がせる時、いつも恥じらい嫌がるそぶりを見せるのに、今日はやけに素直ね。
 チェ尚宮は訝りながらも、もう諦めが付いたのだろうと思うことにした。まさか相手が、
この時を待ち焦がれていたとは知る由も無い。
 既に上気した肌は汗ばみ、滑らす手指にひっかかるほど。驚いてあの場所に指を差し
入れると、既にぬらぬらと潤いあふれ出る。
 私の存在に欲情している!

 チェ尚宮も、ひと月近くこの肌に触れていない。たまらなくなって慌てて着ているものを
脱いだ。

 顕わにされた胸に圧し掛かる、チェ尚宮の柔らかな乳房を感じて、ハン尚宮は腕、脚を
絡ませ、ぐっと締め付けてしまう。まだ昂ってもいないのに。
 チェ尚宮はその仕草にふと、嵐のような未来の前触れを感じた。
 今離れなければ、深みに嵌り、二度と這い上がれなくなる。そう囁く声が聞こえる。
やめなければならない、今すぐやめなければ。絡まるこの手足を振りほどかねば。

 上体をもたげ、しばらく下にある身体を眺める。と、背中に回された手の片方が、前に
来て、乳房にあたる。同時に背中に残る手が、腰を強く押し付ける。

 このままこの者を抱けば、良からぬことが起こる。理性を振り絞り、チェ尚宮は行為を
やめようと努めた。けれど、もう離すまいとするかのように、ハン尚宮は更に腕に力を
込め、チェ尚宮の右の手を取ると、自らの胸に乗せゆっくり動かし、愛撫をせがんだ。

 もう駄目。
 チェ尚宮は沈むように肌を合わせていった。


 そして二人。
 チェ尚宮は久しぶりに味わうハン尚宮の感触に、我を忘れて貪りついた。ハン尚宮も、
そうしている間中ずっと、名前を……もう口を塞がれる必要はなかった。感じる振りも
しなくてよかった。愛しみに応え、感じたままソングムの名を呼び続けた。
 けれど、そのことにすら気付かないほど、チェ尚宮は激しく責め立てる。ハン尚宮も
そうするチェ尚宮の動きを封じるほど、愛しみの一つ一つに応えて、強く抱き締め返す。


 今は後ろから、組み敷かれている。
 敷布を握り締めるハン尚宮のこぶしに、チェ尚宮の指が重なる。捩れ、ぐちゃぐちゃに
なってしまった敷布のように、あなたの心も乱し捩じらしたい。
 そう思いながら、そのこぶしにチェ尚宮の唇が湿り気を与えると、ハン尚宮は身を返し、
もっと湿り気、滑りを求めてその指をチェ尚宮に差し込み舌をもてあそぶ。
 チェ尚宮は与えられる指を味わっていった。


 かなりの時間、身体を重ねていたが、ようやく一息付く。横に並ぶ身体が、汗でじっとり
と張り付いている。少し引き離し、チェ尚宮は肘を枕にハン尚宮を見下ろした。そして
相手を、もう敏感な部分は避けて、撫でている。
 その顔を見つめるハン尚宮の目に、またあの、汗で大きく張り付いた鬢の毛が映った。

 ハン尚宮は腕をもたげて、後れ毛に手をやる。
 そして指先でしばらくいじくっていた。けれど、それが愛撫のように思われることに
気付き、ごまかそうと手のひらを広げ、なんとなく仕方なく、そうしているだけ、とでも
言いたげに、首筋に腕を巻きつけた。

 けれど。巻きつけた二の腕、回した薬指小指に両の耳たぶが触れる。
 柔らかな感触だった。もっと触りたい。お前の柔らかさを味わいたい。身体中の柔らか
さを。

 巻き付けられた腕に誘われるように、チェ尚宮は愛しい人のおとがいに手を当て、
口付けをする。それからまた再び、身体を合わせる。ハン尚宮もまた、徐々に上り詰め
させられていく。
 相変わらず喘ぐ振りは続けている。けれど。さっきは夢中で判らなかったけれど、少し
冷静になって気が付いた。振りじゃない。
 本当に? いや。確かに今、心の底から喘いでいる。そして感じている。
 どうしてこんなことに。己の行いに戸惑いながら、けれど身体は更なる愛しみを求めて
いるではないか!

 戸惑うハン尚宮の身体に、時折、チェ尚宮の解いた髪が落ちた。それはチェ尚宮の動きと
共に、胸を優しくくすぐり、こすりあげる。あの黒髪を、この指にまとわり付かせたい。
 ハン尚宮は、こすりあげられるたび、そう思った。
 二度目が終わっても、その思いは消えてくれない。もっと……。
 しかしもう夜も遅い。今日はかなり疲れているはず。明日また。
 そう願う自分に、また驚く。
 私は明日を待ち望んでいるというのか。

 この思いを気付かれたくは無い。慌ててチェ尚宮の首筋から手を離す。
「ねえ、ペギョン」
 なにか、聞きたげな様子である。けれどハン尚宮は黙って、いつものように背中を撫で
られ、背中に口付けを受けた。そしてそのまま寝入るつもりだった。いつものこと。
いつものやり方。これで終わり。
 だが、灼熱が延々背中に広がる。
 たまらず無言のままくるりと向きを変え、身体を寄せていく。チェ尚宮もそれ以上何も
言わず頭を寄せる。その唇に自らの唇を軽く合わせた。
 そして、二人は心地よい眠りに落ちた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 チュンチュンと鳴く雀の声で目が覚める。今日は朝当番だ。急いで水剌間へ行かなければ
ならない。

 久しぶりに抱かれ、節々がだるい。しかし爽やかな気分も感じている。
 隣のソングムに目をやると、まだ柔らかな表情で眠っている。

「また後でね」
 そう声を掛けて、静かに部屋を出た。


 夜、呼ばれるのを心待ちにしている自分が恐ろしい。

 大きな荷物、資料やら書付けやらを抱えて部屋に向かう。今夜はまず、不在だった間の
引継ぎをしなければならない。これに結構な時間がかかった。
 説明しながら、時々お前の顔を見る。
 昨日までのことは……お前の外出とかあったからよ。お互い仕事の段取りが大きく
変わって、それでちょっといろいろと気も昂っていたから……。お前に対する気持ち、
憎しみとかは決して変わったわけではないわ。
 何事も普段の生活に戻していかねば。それに、昨晩話してくれた様子だと、この者も
ずいぶん語り口がうまくなった。今も真面目に説明を聞いている。とてもいい傾向だ。
そろそろ独り立ちできるだろう。
 夜半過ぎ、やっと終わった。

 しかしそのまま。
 何もしようとはしない。


 今日はなしか? そう思い、資料を片付けるお前の後姿を目で追った。
 後れ毛が揺れる。

 喉がからからに渇く。
 そうだったのか。漆黒はお前の髪の色……。触れたくて堪らない。

 思わず背中越しにあの後れ毛に手をやり、暫らく撫で付ける。髪の毛に指を絡ませ
何度も掻き揚げる。掻き揚げる指にうなじや耳が触れ、冷たい指に温もりを分け与える。
「何? 何よ?」
 いきなり首筋を撫でられ、振り向く。
「こっちへいらっしゃい」
 ぐいと引き寄せる。
「何するのよ」
 答えず、うなじに口付けた。鼻腔をくすぐる香り。頬に触れる柔らかな髪。触れた時、
自分の身体に火が付くのを感じた。

 昼間、水剌間であの者の濃紺の尚宮服を見るだけで、中に納められた身体の線が目に
浮かび、形の良い胸、私に惜しげもなく見せる腿。私だけを見つめるねばっこい眼差し。
御膳を作りながら熱く火照るのを感じていた。
 あの者が欲しい。乱れさせたい。そう思っては、掻き消そうと頭を振った。
 けれど今、お前を見て、また噴き出した。

 襟元を寛げるのももどかしく、首筋に指先を這わせ鎖骨のくぼみに唇をよせる。服の
合間から、立ち上る匂い……熟れた女と微かな香の薫りが混じりあう、生暖かな空気。
 私から触れるなんて今までなかったから、ちょっと戸惑っているようだ。手で押し返して
くる。目と目が合った。憎い相手。けれども……。

 あのミョンイが……いくら私が嫌そうな顔をしても、離れようとはしなかったお前。
光る汗と後れ毛の見えるうなじ。顔貌に増して、この子の身体はきめ細かく輝いている。
美しい。

 手をまた伸ばしてチェ尚宮のうなじに添わせ、もう一度髪をかき上げる。
 いやしいのかも知れない。自分でもそう思う。けれど……今この想いを止めることが
できないの。こんなに憎い相手なのに。
 いや決して、愛おしい訳ではない。

 また心の中で言い訳を考えている自分がいる。
 お前を屈服させたい。辱めてやりたい。それだけだから。
 そうよ、ただ追い詰めるだけでは面白くない。今までのこと、きっちり落とし前を
付けてもらうわ。こうしてお前の心を苛んでやるのよ……。

 両手で頭を抱え、引き寄せ唇を割り、自分の舌を差し入れる。相手にかまわず何度も、
お前の中と自分の中へ交互に、行き来させる。
  くふっ
 息をするのも辛そうにしている。けれど離さない。
 そして、更に深い口付けを交わす。拒むことすら忘れて、ソングムはただその柔らかな
出入りに翻弄されている。吐息は時に甘く、時に生臭いほど漂っている。

 離れる時、粘り気が細く糸を引いた。

 ゆっくり押し倒し、胸元をはだけていく。たわわな双丘の先端に唇を寄せた。お前の
身体がぶるっと震える。手で肌を捉え、敏感な場所を探り当て、揉みしだく。

 もうこの者の言いなりになる必要は無い。いつでも私は、お前から離れられる……。
しかしすぐには、そうしてあげない。私をさんざん辱めた報いを受けさせてやる。私の
耳元でミョンイやチャングムを詰った侘びを入れさせてやる。
 それは、繰り返し、葛藤する自分に言い聞かせた理屈だった。でも本当のところは。

 この者の胸を目の前に置かれて、時々顔や自分の乳房をさすり通過するそれに、触れて
みたかった。
 どんな感触なのだろう。一度でいいから掴み、舐め回してみたい。この指で味わいたい。
そう本能が囁いた。けれどそれを自分に許すと、快楽にはまってしまうことも判っている。
甘い誘惑。
 だから今までは、抑えようとしてきた。この者の行為に、冷ややかな視線を向けて
いたのはたぶん、歯止めが無くなりそうな予感があったからだろう。

 でも……ソングム。今だけはお前と地獄に落ちてもいい。
 偽りではないの。それほどお前は魅力的。色香が私を狂わす……きっと私は狂って
いるのね。
 こうしてやると徐々に紅潮していく肌。思えばミョンイといいチャングムといい、
若い肌しか抱いたことはなかった。それはもちろんいいけれど、この手触り。しっとりと
私を包み込んでしまう。
 お前と……心を共にすることは、この先もなかろう。それは判っていても、行為だけの
関係、それを求める私がいる。

「して欲しかったんでしょ?」
 耳たぶを舐めながら、息を吹き込む。
 お前の首筋が粟立った。

 ミョンイと同じ部屋になって、しばらくしてそうなって。
 なぜ他の女――たぶんソングムだと薄々判っていた――と逢引を続けるのかって聞いた
ことがあった。それまで方々の女を楽しんでいたことは知っていた。でも、あの時は
私だけでいて欲しかったのに。あの子……なかなか答えてくれなかったけれど、ぽつぽつ
語るには、よさがある、と。私と真面目に愛し合うだけでなくて、そのものが楽しいことがある、
というようなことを言っていたっけ。けれどそれは私には理解できない気持ち
だろうから、もうその話しは言いたくないとも。
 今になって、あなたの言っていたことが判る気がする……。

 乳房に唇を寄せるたび、身を捩って逃れようとする。肩を抱え、逃げまどうそれを更に
頬張る。
 その度に身体の中駆け巡る灼熱。
「ちょっと、待っ……って」
 激しさを増す私の動きを押し止めるかのように、腕をぎゅっと掴まれる。お前の身体が
小刻みに震えている。腿は鳥肌立っている。もういきそうじゃない。ここで離すなんて。
「待てないわ」
 この者を……そうよ、私がされたように同じように、私の前に跪かせたい。
 しばらくおへその周りを舐めながら、動きを止めていた手を……身体の奥に差し入れた。
そこは既にしっぽりと濡れている。

「うふぅぅ…はぁぅ…はっぅ…ううー」
 身体を仰け反らせ、声。その響きにこちらの頭の中まで、痺れてきそうになる。
 私の動きに翻弄され、気を立ち上らせている。
 そして、惚けるような顔で、果てた。

 向こう向きの身体。しばらくその背中を指で伝う。痺れが蘇っているのね……その度に
身体を丸めて耐えている。私も同じことをされたのよ……。

 どう? 無理やりさせられる気分は?
 とりあえず、今日はこれぐらいにしておいてあげる。お前に比べれば優しくしたでしょ?
 力の抜けた身体に寝支度をさせ、布団に横たえた。
                                ―――終―――


  * (1)−宿望− (2)−渇望− (3)−企望− (5)−非望− (6)−観望− (7)−思望− (8)−翹望− (9)−顧望− (10)−闕望− (11)−属望− (12)−競望− (13) −星望− 1/3 2/3 3/3


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