BBSPINKちゃんねる内で発表されたチャングムの誓いのSS(二次小説)を収集した保管庫です

   チャングム×ハン尚宮×チェ尚宮 (6)  −観望−       壱参弐様


 あなたに抱かれた夜からひと月余り過ぎ、今日もあなたは私の隣にいる。この頃の
私、すっかり言いなりよね。
 あなたが抱きたい時には、さっさと抱き締められる。なのに、私があなたを欲しがって
いると判っていても、だからちょっかいを出しておねだりしても、延々
物語をして焦らせる。それからたっぷりと。

 今日だって……。頑張ってお話しを聞いたでしょう。あなたが許してくれるまで、じっと
待っていたでしょう。だから早く。
「ソングム」
 何か言いたげに震える下唇。親指で押さえなぞる。少し開いたその中に、舌先を
差し込んだ。こわばる舌、ほぐしてあなたの息が温まるまで、吐息が喘ぎに変わる
まで。優しく柔らかく舐めさすっていく。
 ゆっくりチョゴリをずらし、肩や胸に指を置いて……。

 あらわにした時は、大きな丸を描いたふくらみの先。触れるにつれ、小さく固く
すぼまり、ぴんと尖ってくる。それを更に私の舌で包み、もう一度柔らかくなるまで
吸い付く。

 それにしても……今日は身体が、やけに火照っているわね。まだ胸しか触っていない
のに……。

  こほん、こほん
 あれ? 額に手を当てると、熱い。
「どうしたの? 辛そうね」
「少し喉が痛みます」
「それなら今日はもういいから。お休みなさいよ」
「はい。申し訳ございませんが、そうさせていただきます」

 同じ部屋に寝かせることも考えた。が、昼間もずっと居てもらうわけにはいかない。
仕方なく自室に戻した。
 心配した通り、ハン尚宮は二日ほど熱を出して寝込んだ。
 辛そうに咳き込むあなたを見るたび、ぎゅっと抱き締めたくなる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 言い出すはずだったのに。床に伏せ、考える。
 決意が定まらず、悶々とする思いが疲れとなってしまった。
 気付いてくれるのを待つ気持ちすらあった。
 しかしそれではいつになることか。
 受身でいてはよくない。よくないとは思うけれど。

 同じ場所で仕事をし、話しをし。合間に目をやると、お前の瞳がこちらをじっと見る。
その視線は、鋭く私の目の奥に入り込み、時になぶるように頭の中にまで達していく。
今日はどう責めようか、私の声を楽しもうか……その時から"それ"は始まっている。
 なぜ判るかって? 私も同じことを考えているから。
 互いの目が合うとき、お前の瞳に小さな怯えと期待が兆し、そしてお前は恥らうように
目線を外す。その乙女のような有り様がなんとも愛らしくて、私の身体も熱くなる。

 だから、お前が……身体を寄せて……唇をうなじに感じた時には……私の指は吸い
寄せられるように黙々と肌を求め、お前の服の中に潜り込んでいく。
 口付けだって、口の周りがべたつくくらいに柔らかさを感じさせられる。そして時々、
声も出ないくらいに良くて。その時は頭の中もただ、あの者しかいなくなって……。

 朝になり感じる一抹の悔い。
 昼間芽生える時めき。
 夜味わう疎ましい、しかし至福の時間。

 また朝が来て、虚しくなる。
 その繰り返し。

 私も離れられない。この者が感じているであろうと同じくらい。
 だから距離を置かねば……距離を。
 そしてやっと今日、風邪のおかげでその魔力から解放された。


 けれど、こんなに熱心に看病してくれる。時間を見つけては、部屋に来て背中を擦り、
夜など、うつるからいいって言っても構わず、隣に寝てくれた。
 ちょっと寝ついては、ぜぃぜぃ咳をしてまた起きて。朝まで何度も目が覚めた。その度、
あなたも起きて抱き締めてくれる。ずっと喉が痛くて苦しかったけれど、あなたの温かい
胸に息苦しさが和らいでいく。
 そして感じる安らぎ。普段は憎しみが消えず、抱かれている時は快楽しかない。この子
を普通に見たことは一度もなかった。けれどこうして胸に顔を埋め、温もりに包まれる。
それが素直に気持ちいい。

 今も、心配そうに見下ろす顔……ますます気持ちが砕けそうになる。
 あれを……切り出さなければ。
 静かに言おうか、それとも。


 数日たって、身体もすっかり楽になった。気力も回復してきたのを感じる。
 久しぶりに呼ばれ、チェ尚宮の部屋に向かう。
 あの者も嬉しそうに……駄目よ駄目、今日こそは言うわ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ようやく血の気が戻ってきた。水剌間で見ていても、動きも軽やかになっていて。目が
合うと、いいわよ、と目配せをくれたように思う。
 本当に久しぶり。そう思うと昼間から嬉しくて、夜が待ち遠しい。今夜は少しでも早く、
そして長く。
 急いで片付けを終わらせ、あなたを呼んだ。
 こうして後ろから抱きすくめるのが、一番好き。あなたの緊張した首筋が、少しずつ
柔らかくなるのが、とっても好き。

 いよいよと求めた手を、ところが払いのけられた。急に居ずまいを正し、真面目な顔を
向けてくる。
「最高尚宮様、お願いがございます」
「二人っきりの時は」
「いえ、もうそういたしません」
 冗談、と思い、すがり付こうとすると押し倒され、胸元に手をあて押さえつけられた。
 上から眺めるあなた。
「私を太平館に派遣してくださいまし」
「何ですって?」
「チャングムと離れて半年以上になります。そろそろあの子の顔も見たいので」
「そんなこと言えて?」
「はい」
「なぜ?」
「そうなさってください」
「だからなぜ?」
「でないと、チェ尚宮殿のお為にならないかと存じます」
 私の為にならない?
「そうなさる方がよろしいかと」
「そんなわがままが通るとでも」
「お立場が判っておられないのは尚宮殿かと存じます。よくお考えください」

 言い放つ言葉は厳しかった。けれど、あなたの目尻に光るものを見た。私の前で初めて
流す涙。
 あの涙はあなたと私の住む世界をはっきりと分からしめた。
 あの子の元に戻ろうとするあなたを、引き止めたかった。
 あなたの姿を、私の元に取り戻したかった。

 けれど、しがらみから放たれた鳥は、一度も振り向くことはなかった。

 部屋に戻ろうとするあの背中は、もう私のものじゃない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 どうしてあんなことが言えたのか、今頃あれこれ思案しているだろう。私の
言いなりに、何でも通るようになったと思っているのかとか、あるいはまた皇后様に
訴え出たのだろうかとか。

 だけど、すぐに教えてはならない。いままでの報い、少しは悩んでもらわなくては。

 その内、告げたことの意味を理解するであろう。そして遠くない先、頭を下げてくる
だろう。その時を、こうして待っていればよい。
 いや、早速太平館に行く準備を始めておこうかしら。

 数日は、そ知らぬ顔で当番についた。水剌間ですれ違うと、様子を伺うような眼差し
を向けてくる。が、気が付かなかったことにする。
 もちろん、呼び付けられることもなかった。

「ハン尚宮殿、いるの?」
 五日ほどした夜、やっと、珍しく最高尚宮自らお訪ねだ。
「この前のことだけど……どれぐらい行きたいの」
「そうですね、三カ月の間ぐらいではいかがですか。ちょうど春先で、あのあたりは
花盛りかと存じます。山菜や野花など改めて吟味し、新しいお料理を考えとうございます」
「そんなに!」
「不都合でしょうか。それともお一人では水剌間が回りかねるとか?」
「そうよ。あなたがいなければ……いえ、あまり長くおられても、あそこは大変でしょ。
お料理以外にも雑用が多いし、気配りも必要だし」
「それだけ遣り甲斐があるというもの」
「それに……あなたみたいに美しい方は、変に目を付けられても。だからどうかと
思って」
「お気遣いありがたく。けれど私のような年嵩に目を留めていただける酔狂な方はいない
かと存じます」
「いえ私はあなたが一番好き、あ、そんなに格式張って話さなくても、二人きりの時は」
「いえ、やはり上役に失礼を致したと反省しております」
「……判ったわ。では行ってらっしゃい。向こうの尚宮を呼び戻すよう伝えるから、
再来週からお願いするわ」
「ありがとうございます」
「それで……ハン尚宮殿……どうかこれからもよろしくお願いします」
「はい」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 部屋に戻り、再びあの手紙を読み返した。
「 ソングムへ
 この手紙を読んでいるということは、どういうことかもうお判りね。
 ミョンイの手紙は私が預らせていただきます。だって元々あなたに宛てたものじゃない
もの、あなたが持つのは相応しくないわ。
 その代わりに私の手紙を置いておきます。

 これからしばらく、宮を留守にするかも知れないけれど、私の部屋を探しても無駄よ。
そして前のように私や私の 愛 し い 子 に危害を加えようとしたら、あなただって
無事じゃいられないわよ。手はずは整えてあるから、私たちに何か起こればあの手紙と、
それに私の手紙も添えて、然るべき所に届けるようにしてあるの。
 そうすればどうなるか、判るでしょ?

 届けた手紙が偽りだとも言えないように、他にも手を打ってあるから。言い逃れ
しようとすればするほど窮地に立たされるでしょうね。
 それもちょっと見てみたい気もするけれど。

 だけど、今すぐにどうこうしようという気はないの。それだけは約束するわ。

 だからよくよく考えておきなさい。あなたがどうすればいいかってことを。覚悟を決め
ないと、あなただけの問題では終わらないのよ。それは判ってるって思いたいけれど。

 それじゃあね、
                            ペギョン」


 ……。
 どうしよう。
 ミョンイの手紙を。

 それと判ったのは……いや全然判らなかった。ただ偶然、証文を検める必要があって
引き出しの裏を抜いたとき、ふとあの手紙に目が行ったのだ。
 外見ちっとも変わっていなかったが、中を見て息が止まった。あなたがこんな真似を
してまで、という落胆。何度も同じ過ちを繰り返す自分への怒り。頭の中、血ががんがん
流れる音すら聞こえそうなほどだった。

 でも兄上にも責任がある。屋敷ではいつ捜索されるか知れぬ、宮の方がよほど安全だと
言われたから。
 処分も考えたけれど。あれがあった方が、いつかチャングムを懐柔するのに使えるかと
思って。あの子にとって、身を明かすたった一つの証でしょう。
 まあ……仕方ない。奪われてしまったものを、どうこうは。

 でもいったい、いつ? どうやって? このところ部屋に詰めきりで、お前も一人になる
ことはなかったはず。宮でも騒ぎはなかった。太平館のあの子も、特に変わった様子は……
まさか、前に出向いていた時に? じゃああれから、あれを手に入れてからも私と? 
それはなぜ? もう会う必要なんてなかっただろうに。

 それとも、ほんの僅かでも思ってくれていたのか。ならばまだ気持ちは少しは繋がって
いると、そう考えていいのか。
 いや、そんなことはないのだろう。
 けれどそれならどうして私を。そしてどうしてあれほど激しく。

 クミョンに相談しようかしら。でも、また怒られるのも嫌だし。しばらく黙っていよう。
そうしよう。


 あなたを牢屋から解き放った時、こうなることは判っていたのかも知れない。
それでも、いくら甘いと責められようとも、あなたを手離したくなかった……。
もし失ってしまったら、私は何を支えにできたのだろう。いや、ミョンイの絶望の目に
増してあなたの恨みの目にまで苛まれたら、とうてい正気ではいられなかった……。

 やはり……もう終わりなのか。私は放逐される。そしてクミョンも、一族も。
 いや、謝り、座を譲れば私だけで済むのかもしれない。

 どちらにしたって、あなたとは、二度と会えなくなる。それだけは間違いなかろう。
 代わりにあったあなたの書き付け……。言外、さっさと居なくなれ、と。

 ならばなぜ、すぐにでも私を始末しないのか。なぜ太平館へ行くというのか。
 全く判らない。チャングムと共に、何か仕掛けようとするのだろうか。

 いつもよく判らない。あれだけ寄り添っても、あれだけ悦びを分ち合っても、本当の
あなたを決して見せてくれようとはしない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ハン尚宮は水剌間をこなす傍ら、異動の準備を着々と整えた。もう明後日には
出発となる。
 このところ長雨続き。出発の日までに治まってくれればいいのだけれど。厨房、
明かり取りの窓から外を眺めて、ハン尚宮は思う。

 そんな昼下がり。
「ハン尚宮殿、入っていいかしら?」
「どうぞ」
「あの、太平館のことだけれど、本当に行ってしまわれるの?」
「はい」
「時々様子を見に行っていいかしら?」
 ―――お前がどう動くのか、探りも入れたい。
「最高尚宮様は、水剌間のみならず、全厨房を守られるのがお役目」
 ―――つれない返事。
「ですから、どうかご心配なく」
「お願い、考え直してくれないかしら」
「……」
 ―――俯き押し黙る、以前のあなたに戻ってしまった……。
    嫌われたっていい。どうせ最初からそうなのだから。駄目もとで……ちょっと
    甘えてみることにしよう。もしかしたら……。
「これから御膳の時のお話しとか、どうすればいいの?」
 ―――お前に先があるとでも? 今まで教えただけで、充分足りるはずよ。
「あなたがいなければ、私……どうかこれからも」
「なるべく女官たちから幅広く話しを聞かれればよろしいかと。私はそうして参りました」
「でも私、あなたのようにはうまく聞けないし、あなたから教えてもらうのが一番いいと
思うのだけれど」
 ―――ああ、うだうだと諦めの悪い。しかしこの場をやり過ごすため、とりあえず
    調子を合わせておこうかしら。
「太平館では、少しゆとりもございますゆえ、しばらく風月を愛でて、もう一度書を
紐解いてみます。それで面白くて、ためになるお話しがございましたら、帰りましてから
お話し差し上げたく」
「ほんと! 本当に、また聞かせてくれるの?」
「はい。ご所望でしたら」
「是非是非お願いするわ。でも私も頑張ってみる。頑張って本を読まなくちゃ」
「最高尚宮様も精進を怠らぬお姿、きっと後進の者の鑑となるでしょう」
「そうね。……それで……」
「どうかなさいましたか?」
「あの……暫らく……会えないのね」
 ―――お前と離れるために行くのよ。

 雨足が強くなり、濡れ縁で跳ねる音。

「……寂しくなるわね」
 ―――あなたを繋ぎ止めたい。
「後で話しをしに来ない?」
 ―――細い糸。それすらあるのかどうか。
「ねえ……」
 ―――全く。もうお前とは終わりだ。今さら何といわれようと。私が聞くとでも
    思っているのか。馬鹿馬鹿しい……。
 ハン尚宮は更に呆れた。けれど、チェ尚宮は去ろうとはしない。
 ―――チェ尚宮……そんなすがるような目で見ないで。情が移ってしまうではないか。
    もう迷うな。考えても悩んでも同じこと。私は決めたのよ。

 それでもハン尚宮は突き放すことができずにいる。それは、身に植えつけられた情欲の
せいか。それとも、微かに芽生えた愛しさのためか。
 ―――さてどうしたものか。今までの私なら、迷いも無く切り捨てていたところだけど。
    いや、これからは注意深く過ごしていかなくては。まだ気持ちが残っていると
    思わせておいて、追い払うまで、使えるだけ使わなくては。

    なんという邪悪な考えだろう……。
    けれど私は、あの時消えたも同然。もう、どんなことでも。

    それにもうすぐチャングムにも会える。今しばらく、構うのも悪くない……か。
   私に不利なことは、何もないから。
    ……また言い訳。悪いくせ。私は自分を納得させるのに時間がかかる。

「いえ、では後ほど伺いたく」
 それを聞くとチェ尚宮は、小躍りせんばかりの足取りで出て行った。隣からは部屋を
せっせと片付け、掃き清める音さえする。

 ハン尚宮はそれを聞いて、覚えず微苦笑した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 夜食の準備が終わった。
 合間を見て、代行の役割も含め、ミン尚宮たちに引継ぎを申し渡しておいた。明日
もう一度念押ししておこう。これで心置きなく、離れることができる。
 この先しばらく、宮でも目立った予定はない。ゆっくり骨休めをしてこよう。

 手も空いたことだし、最高尚宮の部屋に向かう。
 しかし話しなどしたところで……。
 手紙の意味するところは充分判っているはず。今更あれこれ言う余地はないって
ことも。お前はただ、私の命じる通りにすればいい。

 部屋に入る。
 部屋の中の匂い、それは現実のものではなくチェ尚宮が発する"気"なのだろうか。
その空気が身体を包み染み込み、少し鳥肌立った。

 私を抱きたくてたまらない……この雰囲気、よくチャングムが漂わせていたっけ。
 この期に及んでも、私が欲しいのか……それなら、浅ましい、と言うべき……。
 それとも抱けば懐柔できるとでも? いいや、もうそれはない。お前なんかと。
 なのに、のこのこと、この部屋に来る私もどうかしている。全く、どうかしている。

 来るべきではなった。
 少しの後悔、それは今さら役立つはずも無い。

 気おされてはいけない。

 さて。
 向き合って座った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「考えたのだけど。チャングムは行ってだいぶ経つから、他の内人と交替に戻そうかと
思うのだけれど」
「それは、よいお考えです、ね え ?」
「いえ、あの、そうね、もう暫らく居てもらうわ。交替の者もあらかじめよく指導して
おかなければならないから」
「そうですか」
「それで……そうなると……チャングムと二人っきりで過ごすことになる」
「そうお願いしたはずです」
「また、前みたいに二人で……楽しそうに料理を……作るのか」
「いえ、しっかり精進して参ります」
「ひょっとして……」
「……それにあの子とも、じっくり話し合う必要がありますので」
 ―――じっくり……ですって。
 身を合わせる二人の姿が、チェ尚宮の脳裏に浮かぶ。気持ちがかきむしられる。
 一族のことも地位のことも、頭の片隅に追いやられていく。
「私を置いていくの?」
 ―――意味を成さない問いかけ。そうと判っているのに。
「私も辛ろうございます」

 ―――そんな口だけの慰めなんて。
 チェ尚宮はがっかりした。けれど余計な言葉ばかりが、口から溢れてしまう。
「私の代わりに……いや私があの子の代わりだったのか……」
 ハン尚宮は、頬を張り飛ばしたい気持ちを……必死で抑えた。
 ―――それ以上言わない方がいい。敵として組み討つのは仕方ない。けれど軽蔑
    すべき輩にまで貶めさせないで欲しい。でないと私はあなたを心の底から嫌って
    しまうだろう。

 しかしチェ尚宮は続けた。無神経と思われようと、感情を逆撫でしようと、ただ気を
引きたかっただけかも知れない。
「……抱かれていたってことを……私の手で……とろけた顔をして、あんな声を出して、
果てた。あなたのどこが感じるのか、どんな格好で抱かれるのが好きなのか、私は
全部知っている……それを知ったらあの子は、あなたのことを今までのような目で見て
くれるかしら」
「チャングムには正直に話したいと思います」
 ―――そう思われても仕方がないようなことを、私はさせられていたのです。
「あなただって、求めてきたじゃない。何度も何度も。それも言えて?」
「そんなことも、ありました。けれど、あの子は私を信じてくれると思います」
「しかしお前……あれを取り戻してからも、続けていたじゃない? どうして? 私を
辱めたかったの? あなたがされたと同じようにしたかったの?」
 ―――最初はそのつもりだった。
「それとも、私を謀ったつもりなの?」
 ―――そんな気もあったけれど。
「本当は……良かったから、じゃないの?」
 ―――それから後は、徐々に……惹かれて。
「私のことを忘れることができる?」
 チェ尚宮の人差し指が耳たぶをなぞる。
「ここを触られると、とても感じるんでしょ。首筋を……。ねえ、脱がせる前から……
舐めるだけで何度いったっけ」
 口を寄せ、舌がうなじを這う。
「今だって、こうされたくて……期待して来たんでしょ」
 耳たぶを唇で挟みながら、生暖かい息が吹き込まれた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――終――――


 −謝辞−
 内容の一部に、他サイト二次作者様が初めて着想された設定、
それを元に展開された別のサイト作者様の設定をお借りしています。
使用にあたり許諾いただきました。ありがとうございました。

  * (1)−宿望− (2)−渇望− (3)−企望− (4)−想望− (5)−非望− (7)−思望− (8)−翹望− (9)−顧望− (10)−闕望− (11)−属望− (12)−競望− (13) −星望− 1/3 2/3 3/3


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