Wiki内検索
メニューバーA
タグ
11-471 28-206 28-342 28-519 304 428 458 47 532 6-502 913 aa gbhs4w75 mspuqpiv pluto ピチピチ ◆1gx5q3ma8y ◆34ietljps6 ◆6gzt0d6rrc ◆8giervnano ◆9oq0gi8lfs ◆gtd5kcksn. ◆jhf0qdqssc ◆k1m2.fa0dm ◆nna2fui0zk ◆okpddn8iwc すいもう すずか すずか×アリサ なのは なのは×ティアナ なのは×フェイト なのはフェイトの娘 はやて はやて×すずか はやて×カリム アギト アクエリアス アリサ アリサ×すずか アリシア アルキメデス アルフ ウーノ ウェンディ エイミィ エリオ エロ オットー カリム キャロ キャロ×フェイト ギンガ ギンガ×フェイト クアットロ シグナム シグナム×ティアナ シャーリー シャッハ シャマル シャマル×キャロ スバル スピノザ セイン セッテ チンク ティアナ ティアナ×なのは ディード ディエチ デバイス トーレ トーレ×セッテ ドゥーエ ドクター ナカジマ家 ナンバーズ ノーヴェ バルディッシュ フェイト フェイト×なのは フェイト×ギンガ プレシア ヤンデレ ユーノ ユーノ×ロッサ ヨン◆h7y.esozi リインツヴァイ リイン初代 リンディ ルーテシア レイジングハート レティ ロッサ ヴィータ ヴィヴィオ ヴィヴィオ×なのは 或る捜査官 恭也 空気ブレイカー 高町家 鮫島 士郎 紫水 自作絵 修学旅行 宵月 八神家 非エロ 美由希 落ちはまだ未定 薔薇
最新コメント
最近更新したページ
フリーエリア

その実は落ちるために実る no12~no15

139 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 01:19:43 ID:XfGhS/DD

その実は落ちるために実る [ no.12 ] Fate

2年生の時、9月の体育祭でちょっとしたことがあった。

あのときはくじ引きで負けてしまい、クラスの『応援団』をやらされた。
かなり裾の長い学ランを無理矢理着させられて恥ずかしかった。

この暑い日に冬服.....本当についてない。

なのはは、かっこいいよ、なんて言ってくれたけど、はやてたちには笑われた。
クラスの子たちからも妙にもてはやされて、
もう少しでクラス対抗リレーでもその格好で行かされるところだった。
「アンカーだし目立っていいと思うよ。」
「みんな見たがってるから。」
云々。


ともかく競技が全て終了し、教室へ戻る準備をしていると
後ろから女の子に声をかけられた。

「フェイト先輩。」
「はい....?」

顔は知ってるけど、名前はわからない。

「今日、先輩のクラス優勝しましたね。走ってるの見ました。1位おめでとうございます。」
「え、うん、ありがとう。」

確か以前、調理実習で作ったとかでお菓子を貰ったっけ。
いきなりで少し驚いたけど。

「前に....タルトのお菓子くれた子だよね?」
「は、はい、ちゃんと覚えててくれたんですね!」
「うん。」
「えっと....それで、ですね、」

顔を見ると、なんだかバツの悪そうな焦ったような感じだった。

「ちょっとだけお時間いいですか?ちょっとだけですから。」
「うん?じゃあ後でこの荷物を体育倉庫に返しに行くんだけど、そのときでいいかな?」
私は学ラン等の入ったダンボール箱をコツコツと指差しながら言った。
「はい、着替えたらすぐ行きます!」





140 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 01:20:09 ID:XfGhS/DD


それから一旦教室に戻って着替え、
体育倉庫に行くと既にさっきの彼女が待っていた。

「お待たせしました....で、なにかな?」
「あ、あの....言いにくいことなんですけどっ」

さっきより確実に焦っているしかなり緊張していた。

「それにびっくりすると思うんですけどっ」
「う、うん?」

「....フェイト先輩のことが好きです....」

「え.......え?」

「ご、ごめんなさい、嫌がられるかもしれないって思ったんですけど、
い、言いたくて!もしも、もしもですけど、先輩が付き合ってくれたら嬉しいと思って!
あ、これはつまり、好きっていうのは、その」

「ちょ、ちょっと、落ち着いて、ね?」
「は、は、い。」

相手があんまり慌てふためくものだから、逆に私はすぐ冷静になった。

「ちゃんと君の気持ちわかったから、落ち着いて。」
「え、は、はい....」

「だけど....ごめんね。」

「.......やっぱり....そうですよね。」
顔を見ると彼女は泣いていた。

「ごめん。」
「やっぱり女の子がこんなの変ですもんね!」
そう言い放って彼女はこの場を後にした。


私は倉庫にもたれかかる。
自分がどんな表情をしていたのかもう思い出せない。
ただ胸が重くて仕方なかった。


数ヶ月して校外で偶然あの1年生を見かけた。
彼女の隣には同年代の男の子がいて、2人は腕を組んで歩いていた。
彼女はとても幸せそうだった。






141 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 01:21:09 ID:XfGhS/DD

その実は落ちるために実る [ no.13 ] 

保健室での会議?から一時間後、私たち4人はそれぞれの教室に戻っていた。
長い間話していたせいで全員昼ご飯を食べそびれた。
それに気づいたのは席について自分のお腹が鳴りそうになってからだった。
ごめんね、みんな。それと本当にありがとう。

それにしても....と、教科書も開かないで考え始める。

ーーー逃げるのかって言われても....


私はみんなが話していたことをもう一度頭の中で再生する。

『とりあえず今のままってのはまずいと思うで。』
『かなり覚悟がいるだろうけど....それでも一応想いは伝えるべきなんじゃないかな。』

『....フェイトちゃんの答えが判ってるのに....お互い傷つくだけだよ....私はフェイトちゃんに
彼氏がいる状態がすでに無理なの。私が気持ち伝えたからってその状況は変わらないんだよ....』

『まあ....彼氏がいるわけだから....あんたの望み通りにはならないかもしんないけど....』
『せやけど今のままやとフェイトちゃんはなのはちゃんに避けられてるって気づくやろ?
そんなんやったら同じ気まずくなるんにしても気持ち伝えてからの方がまだマシや思うで。』

『....なんで?』

『じゃあ聞くけど、自分が苦しいのとフェイトが苦しいの、あんたが嫌なのはどっち?』

『....フェイトちゃんが苦しい方が嫌。』

『そ。じゃあ逃げるんじゃないわよ。フェイトは自分があんたを悩ませてたことに
ショックは受けるだろうけど、あんたに好かれて嫌だと思うはずないじゃない。』
『フェイトちゃんはなのはちゃんに避けられたと思う方がショックが大きいんじゃないかな。』

『....そ、うかな?』

『そうやって。フェイトちゃん、友達大好きっ子やもん。』
『フェイトが対応に困ったら私たちがちゃんと相談にのるからさ。』
『私たちは2人ともの友達だもの。』

『....ありがとう....でも私、彼氏のことに触れただけで取り乱しそうだから....』

『そうか。まあ今すぐとは言わんけど、がんばるしかないな。』
『なのは、心の準備が出来たらいつでも言いなさい。
すぐにフェイトと2人きりになれるようにセッティングするから。』
『これからはフェイトちゃんにそれとなく心の準備させておくように私もがんばるね。』

『え、ちょ、私まだ告白するとはーー』

『そのあとは私たちがしっっっっっかり慰めてあげるから安心しなさい。』
『ホンマは彼氏から奪い取ったったらええんやけど。』

『ひどいよみんな....』

『さて、本日の友情会は終わりや。本日最後の授業くらいは出席せな。』
『そうだね、フェイトちゃんも不思議に思ってるよ。ちゃんとフォローしておくからね。』
『それじゃあ一時解散〜』





142 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 01:21:49 ID:XfGhS/DD


ーーーなんだか好き放題言われてしまった。

でも....
みんなが言うようにいつかは本当のことをあなたに伝えられたらいいのかもしれない。
だけど私は傷心過ぎてマトモに話なんか出来ない。


「では今日はここまで。明日さっそく小テストするからしっかり覚えておくように。」
先生の声で授業中だったことを思い出すと同時にチャイムが鳴る。
そういえば教科書を開いてなかった....


それからはやてちゃんと私は帰り支度をして廊下で隣のクラスの友人たちを待つ。
まだ扉は閉まっていて、先生の話が聞こえる。
「ーーというわけで忘れないようにーー云々」
このクラスの先生が話が長いのはいつものことだった。

「あ」
はやてちゃんが何かに反応する。
だけどすぐに何もなかったように振る舞う。
私ははやてちゃんが何に反応したのかすぐに気がついてしまう。

それは私たちの正面遠くから歩いて来る背の高い男の子....

その光景はこの2ヶ月よく見られるものだったけど、私はそれにまだ慣れない。
今日はとくに見たくなかったものなので、はやてちゃんは私に気を使ってくれている。
背の高いその人が、私たちから離れた扉の横で壁にもたれて恋人が出て来るのを待っている。


「お待たせー」
ガラガラと扉が開き、アリサちゃんとすずかちゃんが出て来る。
「いーえー、いつものことやから。」
はやてちゃんが、帰ろか、と歩き出そうとすると、すずかちゃんがはやてちゃんの肩に手を置く。
すずかちゃんもアリサちゃんも少し眉をひそめている。
「どしたん?」
多分はやてちゃんは私のために早くこの場を去ろうとしている。


「や、なんかフェイトいないのよね。」


アリサちゃんの意外な言葉。





143 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 01:22:15 ID:XfGhS/DD


いない.....?何故......?


「アリサちゃんと私が保健室から戻った時にはもういなくて....どうしたんだろう?」

「え?でもあの人待ってるで?」
はやてちゃんが少し声を潜めて扉の横をちらっと見る。
アリサちゃんとすずかちゃんもそれを確認し、小さな声で話す。
「彼氏、フェイトがいないの知らないのかしら?」
「何も聞いてないのかな?」

そうこう言っているうちに次々と生徒が出て行き、
教室の中には誰もいなくなった。

「ま、とりあえず帰ろ。」

私たちは廊下を歩き出す。
壁にもたれていたその人は、生徒が誰も出てこないことに気づいて
教室の中を覗き込んでいた。



校門を出てしばらくしてから後ろを振り返ると、
その人はやっぱり1人で歩いていた。


どうしたんだろう?なにかあったのかな?
みんな私に気を使って控えめに心配する。





144 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 01:23:06 ID:XfGhS/DD



家に帰るとお母さんに店の手伝いを頼まれる。
今日はそんなこと出来る元気ないのに、と思いつつ
心配かけて色々訊かれるのも嫌だったので店に出た。
そしたら偶然リンディさんがやって来た。
珍しいお茶を買ったらしく、そのお裾分けをしに来てくれたそうだ。

「あら、なのはさん。学校に仕事に家の手伝いなんて偉いわねー。」
「いえ、そんなことないです。時々しか手伝いませんから。」
「今日はフェイト何もなかったみたいだから、なのはさんのお手伝いでもすればよかったのにねえ?
あの子いつもお店でケーキとか頂いてるみたいだし。」

何もなかったの....?
授業最後まで出られないくらい体調悪かったのかと....

「あの、フェイトちゃん具合悪そうでした?」
「え?そうね....いつも通り戻ってきてーー早々にお風呂入ったりと普通にしてたし、
体調が悪いわけじゃないと思うけど。あの子に何かあったの?」

そうなんだ....どうしたのかな。

「そうですか、今日私が具合悪くて、それで保健室に行ったんですけど
もしかしてフェイトちゃんに風邪とか移ってないかなって思っただけなんで。」
「そうなの?なのはさん、今寝てなくて大丈夫なの?薬ある?買ってきましょうか?
ご両親忙しそうだから私が代わりに病院に連れて行きましょうか?」
「あ、大丈夫です!午後にはすっかり治りましたから!」
「そう?気をつけてね。近頃暑くなったからってあんまり薄着しないようにね?」
「はい....」
「それじゃあまた。お茶飲んだら感想聞かせてね。」

リンディさん少し過保護かもしれない。
そういうところ、似ているな、なんて思いながら手を振って見送る。

それから突然ある考えが頭を過るーー


あれ....?....そういえば今朝のあなたはいつもの感じじゃなかった....
それってやっぱり本当に少し体調が悪かったからだよね?
だとしたらーー



保健室に向ってもおかしくないよね?

え、じゃあ....私の話....

廊下で聞いてしまったとかーーーーー???

まさか....

ううん、私の気持ちを知って顔をあわせられなくて帰ったんだ....


うそーーーー
どうしようーーー






174 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:03:56 ID:XfGhS/DD

その実は落ちるために実る [ no.14 ] Fate

一昨日から日差しが強くてそろそろ暑いくらいだ。
朝ご飯も済ませ、いつも通りアルフを撫でて相手をする。

「はーい、お弁当ね。」
「ありがとうございます、母さん。」
「今日は夜遅くなるけど何か作っておくわね。」
「あの、私も今日帰るの遅くなると思います。でも8時くらいには戻ります。」
「そう、わかったわ。」


今日は約束してた日だ。
彼の妹に渡すプレゼントを鞄に入れた。
それから、いってきます、と言う前に母さんが声をかけてきた。


「あ、フェイト。」
「はい?」
「急に変なこと言うけど....」
「なんでしょう?」
「あなたも年頃の女の子だから色々気をつけるのよ?」
「.........は、はい....」

朝から急にそんなこと言われたのでちょっと驚いた。

「....どうかしましたか?」
「近頃のあなた、すいぶん背も伸びたし成長したなって思ってね。それでちょっと気になったのよ。」
「....はい。」
「そのブラウス、ベスト脱いだら透けたりするじゃない?そういうのあんまり見せちゃ駄目よ?」
「へ!?み、見せないよ!何言ってるんです母さんっ。」

さすがに私も中学3年生です。そこまで無防備じゃない。

「ならいいけど....でもね、フェイトの寝てるところとかフェイトのバリアジャケット見る限り、
ちょっと危険な感じがしないでもないのよね。」

それは母さん以外の人からも言われた覚えがある....

「き、危険?そ、そうかな?」
「そうよ、なのはさんを見習いなさい。」

確かになのはのバリアジャケットもパジャマも....

「....はい....わかりました。バリアジャケットは近いうちにデザイン変えます。
寝るときは....みんなに見せるわけじゃないんだから今までのままで....駄目でしょうか?」
「まあいいでしょう。」



それからすぐに家を出た。
母さんにそんなことを言われて恥ずかしくなり、アルフにいってきますを言い忘れた。





175 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:04:26 ID:XfGhS/DD


母さん.....ちょっと過保護なんじゃないかな?
でもそんなふうに大切にされてるんだと思うと嬉しい。
血なんか繋がってなくても家族になれるんだね。
母さんやなのはが私にしてくれたこと、これからは私も誰かに返せていけたらいいな。

それにしても....
母さんにはまだ付き合っている人がいるということは言ってないけれど
もしかして既に知ってるのかな?
....もう少ししたら。
自分の気持ちに整理がついたら、言おうと思ったんだけど。


今はまだなんだ....


まあ、まだ母さんが心配するような深い関係にはなってないけれど....
そのことについては既に自分なりに考えてる。
恋愛ごっこしてるわけじゃない。




「フェイトちゃん、おはよう。」
「おはよう、なのは。」

いつもの角を曲がると既になのはが来ていた。

「なのは昨日はヴィータと模擬戦だったんでしょ?怪我とかしてない?」
「大丈夫大丈夫。もう慣れてるんだから解ってるでしょ?」

いつものように歩きながら会話。

「まあ....そうだけど。あ、そういえばさ、先週私のクラスがテニスしてたときのこと覚えてる?」
「へ? 覚えてるよ。」
「あのときなのは何か言わなかった?口動かしてたみたいに思ったんだけど。」

「.....え.....と、どうだったかなあ?忘れちゃったよ。」
「.....そっか。」





176 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:05:11 ID:XfGhS/DD




学校に着いて、教科書を鞄から出していると隣の席のすずかが声をかけてきた。


「フェイトちゃん、なあにそれ?」
「え、ああ、これ?」

鞄の中に入れていたプレゼントの包みが見えてたみたいだ。

「今年小学校に入学した女の子にあげるプレゼントなんだ。誕生日とかじゃないんだけど。」
「ふふ、子供好きだよね、フェイトちゃん。」
「そっかな....うん、そうかも。」
「何あげるの?」
「本だよ。『星の王子様』なんだけど、どうかな?」

プレゼントの中身を答えるとすずかは笑顔で、ああ、と頷いた。

「純真でかわいい子だから、いつまでもそんなふうでいてほしいなって気持ちを込めて。」
「いいね、私も素敵だと思うよその本。」
「もし今すぐ読めなくても大きくなってから読んでもいい本だしね。」
「喜んでくれるんじゃないかな。」
「だといいな。ありがとう。」

「おーい、フェイトちゃん!」

すずかと話していると廊下側の窓からはやてが手を上げている。

「どうしたの?」

私が駆け寄ると、はやては溜め息まじりに言う。

「めんどくさいお知らせや。私ら2人、明日の休み時間内に身体測定やて。」

そういえば仕事で休んだっけ。
なのはは身長が2センチ伸びたって言ってたな。
中1の夏頃は私とかなり身長差が出来ていたけれど、
そのうちまた昔と同じくらいの差になるのかもしれないな。

「うん、わかった。面倒なお知らせありがとう。」
「どういたしまして。」





177 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:05:56 ID:XfGhS/DD


それから放課後、私の教室まで彼が迎えに来て一緒に学校を出た。
校門を出てから左手に何度目かになる温度を感じる。


どうぞ、といわれて前と同じように室内へ入る。
靴を脱いでそこから部屋の奥を見る。

「こんにちわ、お邪魔します。」
彼に続いてリビングに行っても妹の姿がない。

そういえば靴がなかった....

「妹さんは?」
彼は黙っていた。

「....今日ね、実は妹さんに渡そーー」
そこまで言うと、彼が私の言葉を遮ってこう言った。



妹も両親も今日は帰ってこない







183 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:33:17 ID:XfGhS/DD

その実は落ちるために実る [ no.15 ] 


授業を何限もサボってしまったあの日の夜、私は翌日の学校を休もうかと考えていた。
あまりに気まずいから。
それに私の心はもうぐちゃぐちゃのズタズタだから。
それでも話を聞いてくれた友達のことを思うと、なんとか登校できた。
あなたに会ったら一言目になんて言えばいいか、何か言われるのか。
どんなふうにあなたに接したらいいか不安と戦いながら。


だけど翌日欠席したのはあなたの方だった。


ーーやっぱり私と会いづらいよね。

ーーいつもなら連絡をくれるのに。


その日はずっと不安に押しつぶされそうな気分でいた。
昼休みにアリサちゃんたちに、昨日の保健室での話を聞かれたのかもしれない、と相談した。


「それなら話は早いんじゃない?」
後はもう正直に言うしかないんだから、とアリサちゃん。

それはそうなんだけど....

「でも絶対に聞かれたとはいえへんよなぁ?」
「うん....まあそうよね。」

「でもアリサちゃんもすずかちゃんも授業出てなかったから心配して探しに来たかもしれへんしなぁ?」
「うーん、フェイトのことだからそれはありえるかもね。」

「でも部屋の外からそんな聞こえるんかなぁ?」
「そうよね....よっぽどフェイトが聞き耳たてるとかじゃないと....そんなことしないわよね。」

「でもアリサちゃん途中で大声出したからなぁ、フェイトのバカぁ言うて。」
「はやて、あんたさっきから!」

「とにかくフェイトちゃんが学校に来たらまずは様子見た方がいいと思うよ。」

「....うん、ありがとう、すずかちゃん。」
「(ちょ、すずかちゃんにだけかいな。)」





184 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:33:54 ID:XfGhS/DD


結局理由のわからないまま一日が過ぎ、私は寝付けない夜を送った。

だけどその翌日もあなたは学校に来なかった。
ただ前の日と違って私やみんなにメールが届いた。


『昨日はメールくれてたのに連絡忘れててごめんね。』
『ちょっと体調悪かっただけだから。』


あとはいつも仕事で休むときと同じ感じ。


『今日から長期の仕事が入って一週間くらい休まないといけなくなったんだ。』
『またノート一気に借りたり迷惑かけるかもしれないけどごめんね。』


たしかに管理局側が学生生活を送る間は長期任務を控えてくれているとはいえ、
一週間程度のことなら執務官には充分あり得る。
私にもメールをくれたし、内容も普通だった。

保健室での話を聞かれていたのかどうか少し疑問に思えてきた。
やっぱり今度学校に来たときに様子を見てみないとわからない。


この数日間会わずにすんだことで私は少し落ち着きを取り戻したかもしれない。

不安。

だけど会わなくてすむという安心感。





185 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:36:14 ID:XfGhS/DD


そんな長くて短い数日が過ぎ、
あなたは予定通りの日の午後から学校に姿を見せた。

「フェイトちゃん来たみたいやね。今日の帰りは皆と一緒に帰るってメールきてたよ。」
「うん....」

昼休みが終わってからの登校だったのでまだ会話はしていないけれど、
私が美術室に向う際に職員室に入るあなたの姿が見えた。
遅刻届けの印鑑を押してもらうために先生のところに向ったようだ。



「本日から校内スケッチを行います。」
「げっ、だるい〜」
「再来週から色塗りを始められるようにね。」
「絵の具面倒くさいよー」
「いいからさっさと行く!時間内に適当に戻って来てくださいね〜」
「は〜い....」

そんなわけで私たち生徒全員は美術室から放り出された。

私ははやてちゃんと一緒に歩き始めた。
だけど私の心はここにあらずといった感じで....

「なのはちゃん、今日の帰りフェイトちゃんと顔会わすときのことばっかり考えてるやろ。」

その通りかもしれない....

「さすがにみんなの前で変な話にはならんと思うよ?
せやから今は普通の態度で接するようにって....聞いてる?」
「う、うん。」
「もお〜....まあええわ。今は1人でおりたそうやし、私は別の場所でスケッチに勤しむわ。」
「へ、はやてちゃん。」

私が呼びかけたとき、すでに彼女は私に手を振って先を歩き出していた。
私は徐々に遠ざかっていく彼女にようやく小さく手を振った。


それから確かに今言われたように1人になりたくて、自分の教室に向う。
何故なら今自分たちは美術の授業で誰もいないわけだから。


そう、誰もいない....



ーーーはずだった。





186 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:37:38 ID:XfGhS/DD


グラウンドの見える窓側の前から4番目。
午後は日当りがよくて心地よいその席。

その机に座った後ろ姿。
太陽に照らされて輪郭が白く輝く金の髪。


「フェイ....トちゃん?」


窓の外に向けられていた顔がゆっくりと私に向けられる。
逆行で影になった表情はそれでも美しく、暗がりに浮かぶ紅い瞳に私の鼓動は高鳴る。

「あ、なのは....」
あなたの方も私がここにいることに驚く。

「ごめんね、なのはの机の上に座っちゃたりして。」
「あ、ううん、いいよ、そのままで!」
私は机から降りようと手をついたあなたを制止する。
混乱する胸の内とは裏腹に自然にあなたの方へ歩く。
教室の中央に位置する友人の机の上にスケッチブックと鉛筆を置く。
それからあなたの隣の机、つまり自分の席の隣にあなたと同じように座る。


「校内スケッチ?私も前の週にやったな。」
「そうだよ、教室でも描こうかなって....フェイトちゃんはどうしたの?隣、授業始まってるよ?」
あなたは少し困った顔。
「うん、教室入る前にこっち覗いたら誰もいなくて....ちょっと考えたいこと....
いや、ていうか、ちょっとぼんやりしたいなあって思ったりして....」
「そうなんだ....?」
「あ、これサボりだよね。しまったな、なのはにばれちゃった。」
「うん、ばっちり目撃しちゃたね。いけないんだー。」
「....言いつけられちゃう....?」
さっきより困った顔。だけどそれはさっきより嬉しそう。
それはあなたは私の表情を見て、言いつけるわけないってもう知ってるから。


だってあなたが私の席を選んでくれてる。
笑顔にならないわけないーーー


「私も今からスケッチしないから、それを黙っててくれればいいよ?」
「そうなの??描かなくていいの....?」
「うん、全然いい。美術準備室ってしょっちゅう開けっ放しだから、
これから適当に描いて提出日までの放課後に準備室にこっそり戻すつもり。」
「私も明日からは一週間分のノート移さなきゃ。」
私たちはお互い小さく笑った。

よかった、私普通に出来てるよね。

それにあなたも私を避けたりしていない、と思う。
まだ私の気持ち、知らないのかな。





187 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:38:47 ID:XfGhS/DD


「....任務中に怪我とかしてない?大丈夫だった?」
私がしたのはいつもお互いが口にする質問。
もちろん心配だからというのもあるけど、当たり障りのない内容だと思ったから。

「ん....うん。」
ところがあなたは曖昧な返事。

これは大抵の場合大丈夫じゃないときだ....
悪いけど私はあなたのことよく見ているんだから。

「何処か痛い?」

するとあなたは渋々白状する。
「うーん....と....たいしたことないんだけど、ちょっと交戦中に左手を痛めて....」
「えっ、大丈夫?」

私は窓ガラスに身を寄せるあなたのすぐ隣に移動して座る。
それからあなたの左手をそっと持ち上げ、掌、甲、腕を見る。

「外傷はないんだよ。強く触れたり激しく動かさない限り大丈夫。」

なるほど傷は全くないし、私がそっと触れた程度では平気な様子。

「そう....じゃあ暫くは事務仕事しか出来ないね。」
「うん。」

そう言って私はあなたの手元から視界を戻す。
あなたも自らの手から視界を戻す。
目が合う。
あなたの瞳がほんの20センチほど先にある。
いつも以上に優しい微笑みを見せてくれる。

それから私は自分の状況を考えてしまう。


机1つに座る2人。


そうなるともちろん身体は密着してしまっていて。
あなたに触れる肩が、腕が、熱い。


心臓がおかしいくらいに脈打つ。
私は耐えられなくなって顔を下に向ける。
こんなに赤い顔絶対に見せられたものじゃない。



どれくらいか、きっと何十分もそのまま2人でじっとしていた。


前にもどこかでこんなふうにあなたに寄り添っていたことがあったっけ....
胸は高鳴って落ち着かないはずなのに、なんて心地いいんだろう....
このままずっといれたらーーー





188 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:39:46 ID:XfGhS/DD



「久しぶりだね、会うのもだけど....2人でいることって。」

ずいぶんして、あなたが話し始める。

まるで私と一緒にいるのが嬉しいとでも言うように。
友達思いのあなただから実際嬉しいのは本当だろうと思う。

だけど私はもうそれだけじゃあ喜べないんだよ?
だからそんなこと言わないで....

「そうだね。フェイトちゃんの考え事の邪魔しちゃったね。」

私が来ない方がよかったでしょ、というニュアンスを入れて。
だけどあなたがどんな顔をしているか見えないし、伝わったのかもわからない。

「ああ、それならもういいんだ。解決したから。」





189 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:40:24 ID:XfGhS/DD


解決したって....何だったんだろう?

いずれにしてもあなたは今微笑んでいるんだろうと感じた。
そして私が悩みがあったのかと尋ねようと思ったとき、先に言葉を発せられる。

「それと今日だけど、やっぱりみんなと一緒に帰れないや。」
「えっ」

私は思わず顔を上げる。
あなたは予想通り微笑んでいて....

「はやてにも伝えてくれるかな?」
「あ、うん、わかった。」
「ごめんねー、なのは。」
「いいよ。....帰り、彼氏と約束できたの?」
「....うん。」

やっぱり、そう....だよね。
聞くんじゃなかったかな、なんて思いながら再び顔を伏せる。
そして聞きそびれた方のことを考える。

考え事....

それで解った。
一週間前学校を早退していたあの日、体調が悪かったわけじゃないって。
この人はきっと私の気持ちどころかクラスメイトが
授業に出ていなかったことすら気づいていないんだ....
それは今『解決した』と言っていたけれど、それほど大きな悩みがあったということ。


あなたはこれまで自分が辛いときだって無条件に私に親身になってくれた。
病院で私にどれほど尽くしてくれたか、愚かな私は年を重ねるごとにやっと解ったから。
だからそんなに大きなあなたの悩みに気づいてあげられなかったことに後悔する。


どうして私は....
自分のことばかり....初めからそうだった。
あなたと友達になりたいなんて私の気持ちだけぶつけて、今はそれ以上を望んでいる。
自分勝手で欲張りで....



「なのは、私ずっとなのはのそばにいてもいいかな....?」



....それなのにあなたは優しさの塊を無償で私に与える。





190 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:40:56 ID:XfGhS/DD


私はあなたの言葉に涙しそうだった。

そしてただもう溢れそうな愛しさが込み上げて来て、抱きしめたかった。
耐えきれなくなった私は目を閉じてあなたの首元に顔を埋めてぐっと寄りかかった。
あなたは避けもせず、じっとしている。



愛しい。
なんて愛しい存在なのかーーー



私の鼻先はあなたの肌に触れ、あなたの花のような香りが私の脳をおかしくする。
もう自分でもどうなっているのかわからない。
こんな気持ち今までなかった。

「なのは」

あなたは私の行動が質問に対する肯定だと受け取ったのか、ただ優しく私の名前を呟く。
だけど私は何も言わない。
私はゆっくり目を開いて、あなたの喉を、首を、ほんの少し見える鎖骨をじっと見つめる。
思い出したくはなかったあの印の痕が見える。
薄くなってはいるものの、まだ消えてはいない。

「この痕....彼氏がしたんだ....?」

こんなこと訊いてどうするのか、自分でもわからなかった。
そして聞きたくない答えが返ってくるとわかっていたのに。

「えっ!....う、ん.....気づいてたんだ.....」

瞬間、私の心は痛みとともに熱い炎を感じた。


ーーーこの肌に私じゃない誰かが口づけた!

ーーーどんなに甘美なことだろう!

ーーーこれが私のものならいいのに....

ーーー私のものにしたい....


頭がクラクラする。
今まさに私の唇はあなたの首に触れようとしている。
なにをしているんだろう、私は?
ただあなたの一番近くにいたいと思っていただけなのに....体はそうじゃないんだ。
やっぱりもう子どもじゃないんだ、私。

そんなことを考えている間にも、体は勝手に動く....

もう、今はそれを止められない....





191 名前: その実は落ちるために [sage] 投稿日: 2008/04/26(土) 22:41:46 ID:XfGhS/DD


「っ...!?」

ビクッと体を震わせるあなた。
だけどそれもほんの一瞬で、何も抵抗しない。
私は目を閉じて、じっとあなたの肌を唇で感じている。
見なくてもあなたがただ呆然としている様子がわかる。
わかってる、こんなこと急に友達にされたら誰だって固まってしまう。
それでも私の心は焦げ付く熱を冷ますことが出来ず、さらに強くあなたの肌を吸い上げる。
「え、なの....」


ああ、これでもう私はあなたに顔あわせられなくなるーーー
頭のどこかで冷静にそう考える自分がある。


だけど心が考えるのはこう....

こんな小さな印を刻むだけで、本当に手に入れることが出来ればいい....
私のものだと言えればどんなにいいか....




そしてゆっくりとあなたの首元から顔を離す。
首の付け根には一週間前の薄い痕と、今刻まれてまだ湿っている深紅の印。
当然あなたの驚いた顔が見える。

「なのは?何なの?....び、びっくりしたんだけど?」

私はあなたから視線だけを外す。
少しの沈黙。

それからまたあなたが言いかける。
「....なのは?」


キーンコーン


「あ」
そこで時間切れの合図。

「美術室戻らなくちゃ。」
「あ、う、うん。」
私はそれだけ言って即座にその場を逃れた。






続き その実は落ちるために実る no16~no21
2009年04月06日(月) 22:53:27 Modified by coyote2000




スマートフォン版で見る