なのはさんがフラグをよく立てるSS1
24 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:46:29 ID:P1ofxbGM
ヴォルケンリッター、蒼のイケメン守護獣ザフィーラは考えていた。
そりゃあもう脳髄を搾り出す勢いで考えていた。
……一体何がどうなるとこんなことになるんだ、と……。
胸を穿つは紺碧の創傷。
紅く帰結する自らを以って、――今はただ、穏やかな日常を。
第一話 それは、大いなる変態なの
カーテンの隙間から漏れる朝日に、新しい一日を実感しながらなのはは腕をうんと天井に伸ばした。
しゃっきりと目を覚ましてから、隣ですうすう眠る人に口元を綻ばせる。
「フェイトちゃん、朝だよー」
どちらと言えば寝坊癖のあるフェイトの肩を揺すりながら電気を付ける。朝が最近冷え込むというのにフェイトは相変わらずな格好で眠り続けている。
風邪引くよ、と叱っても何故だか直らない癖の矯正を諦めたわけではない。注意しようと軽く布団をめくると中からちょこんと覗くヴィヴィオが可愛くて、それに目を取られるだけだ。
「フェイトちゃーん」
瞳がうっすらと開き、ぼんやりした眼差しがなのはを捉える。
「なのは……」
「おはよ、フェイトちゃん」
「……うん……」
目を擦りながら背中を起す様子をいつもこっそり笑ってしまうこと、いつか言ってみようか。
子供みたいな仕草がなんだかとっても好きなんだよ、って。
「今日、いい天気になるみたい」
流れる朝のニュースの受け売りをのそのそ歩いてきたフェイトに放る。
「そうなんだ……。空が綺麗だと飛んでて気分いい」
「模擬戦で空に見惚れて一本取られちゃうかも」
冗談めかして言うと、そうだね、と小さくて優しい同意が返って来た。
この控えめな声も、好き。
25 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:47:28 ID:P1ofxbGM
「フェイトちゃん、寝癖」
ぴょこんと重力を無視してはねる一箇所を撫でながら少し笑う。
そういえば昨日はきちんと髪を乾かしてから寝てたっけ?
ぼんやり昨夜のことを思い返す。しかしそれは丸きり違う映像に取って変わられてなのはを赤面させた。
「……なのは?顔……赤いよ?」
「ふぇっ?!な、なんでもないよ!」
「すごい……赤いんだけど……」
「なんでもないってばー!」
フェイトは寝癖の付いた髪を直すでもなのはの謎の弁明を聴くでもなく、ただぎゅう、と抱きしめてきた。
「ふぇ、ふぇいとちゃ……」
「なんか……すごい可愛いね……、なのは」
「……フェイトちゃんっ!も、もぉ……、ヴィヴィオに見られるよ……?」
「両親が仲睦まじいのは良き事デス」
「……ばか」
毎朝のように繰り返される甘ったるい会話。
砂糖が水に溶ける飽和量は決まっていても、人と人との間にそれは存在するのだろうか。
「今日、一緒に帰れるといいね」
「そう、だね」
寝起きで普段より高いフェイトの体温。独特の匂いと暖かさに一瞬仕事が消えてしまいそうになる。
「終わるといいけど」
「うん」
「頑張って早く終わらせる」
「……うん」
「そういえば僕、
………………え?」
「フェイトちゃん……?」
聴きなれないそれに、二人は顔を見合わせた。
26 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:48:06 ID:P1ofxbGM
「なのは……、なんか……困ったね……」
「フェイトちゃん……」
高町なのはとフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは苦笑しながら再度顔を見合わせた。
今自分達が陥っている状況が理解できる範疇を超えているならパニックになると言う選択肢が残されている為にまだ救いがある。
しかしこの中途半端に困る事態はなんなのか。
「これ……なんなんだろうね……」
「まだ他の人に会ってないからなんとも言えないけど、あたしたちの間でこれだから……多分……」
「そうだね……。予想だけど、はやては『ウチ』になってる気がするな」
「ああ、それならしっくり来ない事もないね」
とりあえず出勤準備は完璧に済ませてある。出ようと思えばいつでも家を出られるが、気になることがあった。
「ヴィヴィオはどうなってるのかな」
「うーん……、起して聞いてみるのもね……」
「そうだね……」
ヴィヴィオは自分が話題に登っているとも知らずにくぅくぅと可愛い寝息を立てている。
気になるのは勿論だが、起きた頃合を見計らって電話なり通信なりをすればいい話だ。
二人は同時に時計を見やり、軽い溜息を吐いた。
「厄介なことになった……、って言えないけど個人的には厄介」
「うん……、同意だな」
「じゃあ……行こうか。ザフィーラももうすぐ来てくれるし」
「ヴィヴィオも懐いてくれてるみたいだしね、そうしようか」
順にヴィヴィオを撫でてからなのはとフェイトは職場へと向かっていった。
数分後、ザフィーラが二人の後にした玄関先に現れ、慣れた手つきで鍵を開ける。今日は一人でヴィヴィオの世話を見ることになっているのだ。
かちゃりと玄関を開け、中に入ると先程まで人のいた空気が漂った。まだほんのりと朝の匂いがする。
ヴィヴィオはもう起きたのだろうか?
寝室にのっそりと足を踏み入れると、高町家の愛娘はまだ夢の中で遊んでいるようだった。
ふぅ、と一息ついてからザフィーラはベッドの脇にしゃがみこんだ。
ヴィヴィオはザフィーラが人に変わることを知らない。賢い大きな犬だと言う認識しか持っていないだろう。ヴィヴィオが自分をどう思っていようと彼自身は何も気にしないが、家事を代行するのであればこの姿では不便だ。
説明すればこの幼い少女は理解できるだろうか?馬鹿ではないことはわかっているが、説明して理解を得たとしても自分の本来の姿は幼女に恐怖感を与えやしないか、ザフィーラは寝顔を一瞥する。
その時、ヴィヴィオが目をこすり出した。
27 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:48:51 ID:P1ofxbGM
「ふぁ……」
「起きたか」
低く威圧感のある声がヴィヴィオの瞳を開けさせる。しかしその声には優しさがあり、それに怯えさせたことはない。あくまでザフィーラの主観であるが、事実、少女は彼に怯えたことはなかった。変態で声オタなだけで、基本は非常に温厚な性格が伝わっているのだろう。
それに――これが最重要箇所だが――ザフィーラに幼女趣味はなかった。だが、某小学生アニメでは黒髪少女派である。何故ならその眼鏡声優が好きだったから。
「おきた……」
「そうか」
「ざっふぃはいまきたの?」
「少し前にな」
上手く発音されなかった自分の名前を訂正せずに大きな鼻先でぐい、と起き上がるのを手助けする。助けられなくとも起き上がることは出来るが、ヴィヴィオは毎日こうしてくれるザフィーラが好きだったので今日もそれに甘えた。
「今日は一人でお前の世話を見る。不便を感じさせるかもしれないが急な休みを取られてしまってな」
風邪を引いたそうだ、と付け加えながらヴィヴィオの可愛いあくびに少しだけ微笑む。
「じゃあきょうはざっふぃといっしょ?」
いつも一応一緒なのだが、今日は自分だけと一緒なのかと問うたつもりなんだろうと解釈し頷く。
「ああ。今日だけ二人だ」
じゃれるように背中に乗ってきたヴィヴィオの感触に、新たな趣味が発生するのではないかとザフィーラは一瞬危惧したが、それはいつ人型に変わることを話すか、という心配に取って変わりあっさりと頭の向こうに追いやられた。
俺はロリコンじゃねぇ、小○ゆうが好きなんだ。
「何か食べたいものはあるか」
「ざっふぃがだしてくれるものー」
無邪気な笑い方のヴィヴィオには鋼の男も弱いらしい。昨日来た時にあったものを思い返しつつ冷蔵庫やシンクのある方向に歩いていく。
巨大な狼と同等の体格を持つザフィーラだが、それでもこのままでは冷蔵庫のドアは開けられない。フォルムを変更するしかないので、一度ヴィヴィオの元へ戻った。
「どうしたのー?」
「少し驚くかもしれないが」
きょとんとした表情を向けるヴィヴィオに、もし怖がられたなら少なからずショックを受けそうな自分に苦笑しながら話し出す。
28 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:49:46 ID:P1ofxbGM
「いつもお前にはこれで接しているが、本来の姿はこれではない」
「ほ、んらい?」
「……ああ、すまない、わからないな。つまり……」
言葉に詰まってしまい、口篭る。
難しい言葉を使わずに自分の姿が変わることを説明できる自信は少し足りない。
だが、獣姿で怯えないのなら中身は同一で人型の自分にも同じ事が言えるのでは、と思い返しヴィヴィオを見た。
「人間になれるんだ」
「ざっふぃが?まほう?!」
魔法ではないが似たようなものか。
とりあえず人型に変わる事実を理解させられればいいので否定はしない。
「ああ。それでな、今日お前の世話をするにはこの姿では不便なんだ」
「?」
「とりあえず、だな、人になるがそれはザフィーラに違いないから、……怖がる、な?」
「うー、んー?」
わかったかどうかの確証は全く持てなかったが、何となく大丈夫な気がしたので人型へとフォルム変更をした。
そろりとヴィヴィオを見やる。ぽかん、としたその表情にしくじっただろうか、と少し冷や汗が流れた。
しかしそれは杞憂だったらしい。
「ざっふぃ!おっきー!」
「……そうだな」
言われた通り、人間の男性として見るなら間違いなく大柄だ。背が高いだけでなく、その腕や背中に付いた筋肉がその印象を更に強くする。
しゃがんでも今一目線が合わないのでいつもなのはやフェイトがするように出来るだけそっと抱きかかえた。
「ママみたいー」
ころころ笑うヴィヴィオを見て、聞かなくてもよさそうな質問をする。
「……怖いか?」
「なんで?ざっふぃのおみみかわいい!」
首を傾げたヴィヴィオに、ザフィーラは内心の安堵が顔に出ないよう苦心する羽目になったのだった……。
29 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:50:21 ID:P1ofxbGM
「あ、やっぱりはやてちゃんもなんだ……」
「そうみたいや……。どう意識しても変わらへん」
管理局に着くなりなのはとフェイト、はやては顔を合わせ、確認を行うと全員が苦笑した。
「二人はいつからや?」
「うーん……多分昨日の夜からだと思う……。はやてちゃんと別れた後だってことは確か。ね、フェイトちゃん」
「うん、それで間違いないと思う」
「それで、二人の『それ』はどんなんなっとる?」
なのはとフェイトはその質問に困ったような笑いで応えた。
「なんや、はずかしいやつになってもーた?」
「うーん……、割と普通……と言えなくもないけど」
「ほなら言うてや、対策も練らなあかん」
「うん……」
示し合わせたかのように、フェイトがなのはの名前を口にした。
「なのはは」
「えっと……『あたし』」
言い終えると、代わりになのはがフェイトの名前を口にする。
「フェイトちゃんは」
「……『僕』」
「なのはちゃんが『あたし』、フェイトちゃんが『僕』、か……。こう言っちゃアレやけどフェイトちゃんはあんま違和感ないなあ」
「……あるよ。女なんだから……」
「需要あるでー?僕っ娘」
「そんな需要なくてもいいよ……」
フェイトは着ていた上着を脱いで椅子の背もたれに掛けた。それに気付いたはやてがそれを剥がしてハンガーに移す。
「あ、ありがとう。
それで……はやては?なのはと『ウチ』なんじゃないかって話してたんだけど」
「あー、それやったらええなあ。関西弁はウチって相場が決まっとるし」
なのはにも上着を脱いで渡すよう手で示しながらはやてが笑う。
「実際はどうだったの?」
上着を渡しながら問う。
はやては眉間に皺を寄せながら言った。
「……『おいどん』……」
「は?」
30 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:51:21 ID:P1ofxbGM
二人の間抜けな声が見事に重なったことに感心する様子もなく、八神部隊長はもう一度言った。
「せやから、『おいどん』。
最悪なやつ当たってもーた気ぃするわ……」
「そ、そうかな……、拙者とかの方が痛くて嫌じゃない?」
なのはのフォローが届いたかどうか不明だが、おいどんガールがぶーたれた口で答える。
「それはクロノ君やった。なんか微妙にはまってて変な感じせーへん」
「スバルとかティアナは?あ、まだ会ってない?」
「さっき通信入れて確認済みや。スバルは『アチキ』でティアナは『某』。どういう基準やっちゅうの。キャロとエリオは未確認やけど、……多分」
「そっか……。性別は考慮されないみたいだね……」
「そうみたいやなあ、実際フェイトちゃん『僕』やもんな」
「うん……」
はやてはお茶用意してくるな、と言い残し席を立った。
ドアが閉まる音を二人で見守ってからなのはが口を開く。
「どう思う?これ……」
「なんだか変なジョークみたいだけど、真面目に考えたらあんまり笑っていられない」
「そうだよね……。公の場でこれじゃあふざけてるとしか取ってもらえない」
「僕やなのはならともかく、はやては厳しいね……」
「ふふ、フェイトちゃんへんなかんじ」
「し、仕方ないよ、言えないんだから……。言いたくて言ってるんじゃ……」
「分かってるよ、フェイトちゃん。なんか違う人みたいでどきどきするだけ」
フェイトは少しだけ頬を赤くした。
言いなれていないのに口をつくその一人称はなんだかものすごくこそばゆい。
「でも、困ったよね」
「うん……。いつまで続くのかも誰の仕業かもわからないから」
「怪しい人物の目星もついてへんからなあ」
器用にドアを開けてはやてが戻ってきた。
手にしたお盆には品のいいティーポットとカップが3組、そしてそれに見合う気品を漂わせるクッキーが載っている。それをテーブルの中央に置いてカップを配る。
紅茶のいい匂いがした。
31 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:52:38 ID:P1ofxbGM
「ありがと、はやてちゃん」
「いーえ。
いきなり本題に入って悪いんやけどな、今の状況を簡単に纏めたから見てくれるかな」
右にパネルを出し、起動に割り当てられたキーを叩くと、3人の1m程前にスクリーンが現れた。いくつか用意されているらしいメニューから簡易説明と書かれた部分にカーソルをセットする。
「急いで作ったもんやから荒削りやけどないよりはマシや思てな」
「忙しいのに……ごめんね」
「ええって、仕事の内や」
ヴン、と一瞬の揺れを起してから画面に管理局中枢メンバーの顔写真が映し出された。
「わかってる範囲で今回のコレに巻き込まれてる人物のリストや。起動六課の恐らく全員に始まり、シグナム、ヴィータ、シャマル、ヴァイス君も確認が取れてる」
「はやてちゃん、ちなみにシグナムさんは……」
「聴いて悪いんやけど笑ってもーたで。あんな、『アタイ』や」
「なんか……はまり役だね……」
「ヴィータは『ミー』やったで。アメリカンかっちゅうの」
「ヴィータちゃん……、『俺』がしっくり来るかな……」
「まあしゃあないからな、多分無作為やし。で、共通性がないかどうか色々考えてみたんやけど特にないやろ?いや、もしかしたらあるのかもしれへんけど少なくとも今はないように思える。
これを行った人物に何のメリットがあるかゆうたら……、政治的混乱?」
カチャ、とカップが音を立てた。
「それは確かにあるよね。さっきフェイトちゃんとも話したけど、でも考えてみたらそれってそこまで困る事態じゃない。
だって実際犯人がその政治的混乱と言うものを狙ったとして話を進めるけど、そんなものは事前に相手に話をつけておけばいいだけでしょう?
ふざけていいことが起こる場じゃない。皆聡明で話せばわかる人達だし、メリットと呼ぶにはそれは効果が薄いよ。
だからそれを狙ったものじゃないと思うな」
「愉快犯……?」
「短絡的に纏めても仕方あらへんけど、その可能性は高いかもしれんな……」
「どういう原理なのかはまだわからないよね?」
画面上の自分に目をやってからフェイトがはやての方を向く。
「……極めて高度なプログラム。そうとしか言い様があらへんな。魔法は単体相手になら効力も大きいけど今回は被害に遭うてる範囲が広すぎるし、その被害が全部判で捺したみたいに同じや。
魔術の類じゃこんな面白モードにはならへん。考えてみたら当たり前やけどな、魔法は個人技みたいなもんやし。
こんなプログラム聞いたこともあらへんけど、でもこれは魔術師周辺の仕業やないことだけは断言できる」
「でも、あたしやはやてちゃんにフェイトちゃんはれっきとした人間だよ?そりゃ、魔法が使えることを考えたらごく普通の人間とは言えないけど。
そういうプログラムを簡単に組み込めるのは……こういう風に言いたくないけど……スバルやギンガくらい……」
追随するようにフェイトも口を挟む。
32 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:53:24 ID:P1ofxbGM
「はやての理屈は理に適ってるけど、なのはの言う事も尤も……だよね。普通の人間にプログラムを移植して同じ行動を取らせるなんて無理だよ、魔法の類じゃないっていうのはわかるけど」
「……せやけどなあ……、事実がそれを裏付けてんねん……。
広がり方が局地的かつ爆発的。この傾向を持つのは人為的なプログラムや。今は未だメリットも犯人の目星もついとらんからこれ以上の議論はあかんな、考えが偏ってまうし。それにこの分野は成長途中、新しい技術なんかもわからん。
今日のところはあれやな、分かってるかぎりの現状把握が出来ただけでも儲けもんや、仕事入ろか。なんか進展あったら連絡するわ」
振り分けられた一人称が現段階で最も悲惨なおいどんであるはやてはそう言って映像を閉じた。
二人が去った後に小さく呟かれた言葉を聴く者は、……誰一人居なかった。
「ロスト……、ロギア……」
33 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:53:57 ID:P1ofxbGM
「何が目的なのかがわかればまだ対策も立てられるんだけどね」
「そーだな……。ミーもそう思う」
「案外しっくり来るね、ヴィータちゃん」
ヴィータは不満げになのはを見た。
「なんでなのはだけマトモなんだよなー。ミーってなんだよ、ったく……」
「シグナムさんはアタイらしいね」
「シャマルはわたくしだぜ?なんつーか、二人ともハマってるよな」
「ザフィーラは?」
「わかんね。あいつキモいし変なの当たってりゃいいけどな」
「……結構可哀相なこと言うんだね……」
食堂脇に設置された休憩ルームで午後のひと時を過しつつ、二人は妙な事態の話題を広げていた。ピーク時を外しがちな二人なので、人影は疎らで声も届き易い。
「どーいうことなんだろうな」
「はやてちゃんは誰かの仕掛けたプログラムだっていう見解だったよ」
「……プログラムか」
目を閉じ、かつての自分を思い返す。
闇の書の一部だったころの自分。ただのプログラムに過ぎず、個性も何もなくただ主の命を遂行する為だけに動いていた時代。自分を殺されていた時代。
はやての登場により激変した環境、そして……。
「はやてはどう思ってんのかな」
「気になる?」
「当たりめーだろ、はやては主だ」
「主じゃなくても気にするでしょ?」
空になった紙コップを手のひらで転がしながらなのはが微笑んだ。
相変わらず、はやてを慕う気持ちをヴォルケンリッターの3人以外に見せようとしないようだ。だがそれが透けて見えているのがヴィータの可愛いところだとなのはは思う。
34 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:55:07 ID:P1ofxbGM
「ただ単に一人称が変わってるだけならいいけど」
「それ言えるの、なのはの場合だけだろ」
「えー?そんなことないよ」
「じゃあお前『ミー』でもいいのかよー!」
「あはは、それはちょっと嫌かも」
なんだよそれ、とヴィータがわざとらしくなのはを追いかけ背中を叩く。
くすりと笑いあってから、二人は大きなガラス窓に映る景色に目を移した。
「なんかさ、今管理局はちょっとした騒ぎになってっけど、外見るとさ、あれ?気のせいだっけか?みてーな気分になる」
「そうだね……。何にもなかった昨日までみたい。うーん、外行きたいなあ」
綺麗に晴れた空は野外演習にはもってこいの天候だ。
だが原因不明の事態解明の為にとりあえず今日はそれを望めないだろう。皮肉にも晴れ渡る空を恨めしく見るでもなく、なのははどうしたものかなあ、などと呑気に構えていた。……ようにヴィータには見えた。
実際は誰よりも危機に対する心構えが強いのだが、それをあまり顔や態度に出さないために日和見と捉えられることの多い教導官を本当の意味で理解している者はそう沢山いるわけではない。
その数少ない一人であるヴィータは、なのはが今回の謎の事件に深い関心を寄せていることや早急な対策を打ち出す必要性を感じているのを察していた。
「なんとかなる精神で片付きゃいいんだけどな」
「なんとかなると思うよ」
「おいおい、お前がそんなんでどーすんだよ」
けろりと言ってのけたなのはに少し目が丸くなる。日和見ではないことは理解しているが、その確信が揺らぎそうだ。
「だってさ」
「ん?」
「みんながいるから」
またもけろりと放られた言葉に笑いそうになったのを堪えながらなのはを見る。
36 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:56:40 ID:P1ofxbGM
「……なるほどな」
「あたし一人じゃ何も出来ない。だけどヴィータちゃんやフェイトちゃん、守護騎士のみんな、そしてその主のはやてちゃん。たくさんの人がいるから、だから大丈夫。
……なにがあっても」
まっすぐな眼差しはその自信に満ちた言葉のようで、ヴィータは一瞬でも何だこいつと思った事を内心で恥じた。
高町なのはの最大の強み。
それは、仲間を信頼する気持ちを強く胸に宿していることだ。
話していると、余りに長い時を過してきたが故に忘れていた、しかし忘れてはならないことを思い出させてくれる。
だからヴィータはなのはが好きだった。恋愛感情抜きで、人として目の前の戦技教導官、高町なのはが好きだった。
少なからず今の自分の変化に不安を感じていたが、それが和らぐのを肌で感じる。
――きっと、こいつにはずっと適わない。
快い敗北宣言に口元がそっと形を変える。
「最近ずっとなんもなかったからな、トラブル」
「そうだね、お陰で色々教える時間増えて助かってる」
「けどよ、本当に何もなくなったらミー達クビだよな」
「あはは、そうだね、仕事ないんだもんね」
「だからなきゃないで困んだよな」
「うーん?ない方があたしはいいよ?」
ヴィータはにやりと笑った。
37 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:57:57 ID:P1ofxbGM
「なんでだよ」
「平和が一番。それが原因でのクビなら大歓迎だよ」
「はは、さすがエースオブエースは言う事が違ぇな、クビを希望するなんてさ」
「あたしの仕事は、大きく括るなら泣いてる命を助ける事。だけど、その泣いてる命が元からなくなるような世界が来るなら、ね?」
なのははにっこり笑ってヴィータの髪を撫でた。
「なんだよ、何すんだよ」
「ヴィータちゃんもきっとそう思ってるんじゃないかなって」
「……クビは嫌だと思ってるぞ」
「ふふ、実はいっしょ」
「お前、それ矛盾って言うって知ってるか」
呆れたように目線をやると、なのはは楽しそうに言った。
「管理局勤めなくなったらヴィータちゃんとこういうこと出来なくなっちゃうもんね」
馬鹿か、と吐き捨てながらもヴィータの口調はひどく優しいものだった……。
38 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:58:53 ID:P1ofxbGM
「ざっふぃ、ざっふぃ!」
「どうした」
「みてみてー」
ぱたぱたと駆け寄ってきたヴィヴィオに若干の戸惑いを感じつつもしゃがみ込んで出来るだけ目線を揃える。
ヴィヴィオの小さな手は白い紙を挟みこんでいた。見ると画用紙いっぱいに何かが描かれている。自分を描いたものだと理解するのに少し時間が掛かった。
「かいたの!ざっふぃなの!」
にこにこ笑うヴィヴィオに、こんな時何と言えばいいのかわからなくて、なのはやフェイトがよく口にする言葉を手探りで口にする。
「……ありがとう」
「うん!」
ひどくぎこちない手つきで髪を撫でてやると、またうれしそうに笑う。
今まで獣化フォルムのみで接してきたせいもあり、こんな風に触れたことはなかった。
っていうか、3次元を視野に入れたのが久し振りだろそういえば。ちょっと俺やばい?だってよぉ、ア○ク可愛いよ梨○可愛いよクドリャ○カたまんねえよ……。エクス○シーとか本気でエ○スタシーだぜ、アニメ化マダー?
あ、そういえばうみね○のキャスト発表されてたな、井上○○奈いるなら録画せねば。
いや、それにしても。
……こんな笑い方をするんだな。
ぼんやりと思いながら、無邪気にじゃれてくる少女の描いた似顔絵に目を細める。
褒めようと必死に考えるが、脳裏を巡るのは堅苦しい言葉ばかりで眉間に皺が寄った。
嬉しいと思ったんだ。だから、それを伝えるべきだろう。
39 名前: なのはさんがフラグをよく立てるSS [sage] 投稿日: 2008/08/26(火) 16:59:57 ID:P1ofxbGM
「上手……だな」
「えー?」
「……また、描いてくれるか」
漸く出た一言にヴィヴィオは一瞬止まってから、満面の笑顔で答えた。
「うん!」
その絵に薄くて高い本やエロゲのジャケットや抱き枕までしっかり描かれていることを除けば、ザフィーラは邪気のない笑顔と不意打ちの贈り物が嬉しかった。
何故嬉しいのかは生身の人間にやや鈍いザフィーラの心は捉えることが出来なかったのだが……。
ギャルゲとエロゲばかりやっている葉鍵型月厨のザフィーラにとって、ヴィヴィオとの触れ合いは変態的理由ではない心地よさを伴っていた。
シャマルやシグナム、ヴィータはザフィーラのキモオタの真髄(ユーノとのサークル活動)を見てからどこかよそよそしく、誰かとまともに会話したのはいつだったのか正直あやふやだったからだ。
恐らく、事の発端はこんな背景にあったのだろう。
それに気が付いた時、事態は彼だけではどうにもならない場面へと進みつつあった。
――今はただ、穏やかな日常を。
そして紅い収束へと、……緩やかに。
なのはさんがフラグをよく立てるSS2
2009年08月30日(日) 17:34:21 Modified by coyote2000