運動会
150 名前: 名無しさん@秘密の花園 [sage] 投稿日: 2008/06/16(月) 22:49:27 ID:DLMQAf0+
SS投下します
12歳位のヴィヴィオ視点で高町一家を3レスくらい
ちょっと長くなりそうなんで、まずは前半部分です
151 名前: 名無しさん@秘密の花園 [sage] 投稿日: 2008/06/16(月) 22:50:25 ID:DLMQAf0+
土曜日の午後九時。お風呂に入って歯も磨いて、やる事はもう全部終了。そんな寝る前の一時を、私はリビングでなのはママと一緒にテレビを見ていた。
だけど、バラエティ番組の内容は全然頭に入って来ない。テレビから聞こえる芸能人達の笑い声が、空虚に通り過ぎてゆく。私はさっきからカーテンの隙間、窓ガラスの向こう側に広がる夜空を、何度も何度も見ていた。
「ヴィヴィオ、そんなに何回も確認しなくても大丈夫だよ」
CMになったからか、なのはママがにっこりと笑いながら私に言う。
「だって。心配なんだもん」
「天気予報も、明日は晴れるって言ってるよ?」
「天気予報なんかアテにならないよ。この間だって、今日は晴れですって言っておきながら、ザァザアの雨だったし」
言い終わると、私はまた窓の向こうに目を凝らす。今の所、満天の星空が広がっている。でもこれがいつ、雨雲に変わるかなんて分からない。油断は禁物だ。「なのは、お風呂上がったよ」
ここでフェイトママ登場。薄いグリーンのパジャマを着て、バスタオルで髪を拭いている。
「は〜い、分かった。それじゃあフェイトちゃん、ヴィヴィオを寝かせといてね」
「任されました」
敬礼の真似をするフェイトママを見て、なのはママはお風呂場へと向かって行った。さて、と言ってフェイトママが私の方に向き直る。
「ヴィヴィオ。明日も早いし、もう寝よっか」
「……うん」
フェイトママはテレビを消し、私の手を引いて寝室へと向かう。
「ねえ、フェイトママ。明日は晴れると思う?」
私は布団の中で、隣に横たわるフェイトママに問い掛けた。
152 名前: 名無しさん@秘密の花園 [sage] 投稿日: 2008/06/16(月) 22:52:52 ID:DLMQAf0+
余談だが、私は未だに自室どころか、自分のベッドさえ与えて貰っていない。だから寝る時は必然的に、親子三人川の字で寝るのだ。
ただし大抵の場合、私はママ達より早く寝る。そして大抵、私が寝付くまでママ達が交代で添い寝してくる。私が寂しいだろうからって言うけど、そんな事は一切ない。全然ない。ただママ達がそうしたいだけなのだ。
時々思う。ママ達、いつかはちゃんと子離れ出来るのかな。
それは兎も角。
「きっと晴れるよ。ヴィヴィオは日頃の行いが良いから」
暗くてよく見えないけど、フェイトママは笑顔で言い切ったに違いない。
「……科学的根拠だと?」
私は言いたい事をグッと我慢して、再び尋ねた。
「ほら──」
フェイトママはカーテンを開けて、星空を指差す。
「今夜は見事な星空でしょ。こんな夜の翌日は、良いお天気になるんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「だから心配しないで大丈夫だよ。明日は頑張ってね。──お休み」
「っんん。お休みなさい」
フェイトママが私の額にキスをした。いつも思うけど、フェイトママはこんなに暗いのに、なんでいつも私の位置が分かるんだろう。
二人とも喋らなくなって、寝室は沈黙に包まれた。しばらくして、フェイトママも出て行く。それを見届けて私はベッドの真ん中から端に移動した。(特に理由はない。本当だってば!)
明日の事を考えると、不安とそして興奮で目が冴えてしまう。でも早く眠らないといけない。明日を寝不足で迎えるなんて、あってはならない。
だって明日は。
待ちに待った運動会だから。
153 名前: 名無しさん@秘密の花園 [sage] 投稿日: 2008/06/16(月) 22:55:31 ID:DLMQAf0+
運動会当日は、天気予報やママ達の言った通り、雲一つない良いお天気だった。絶好の運動会日和だ。
「ヴィヴィオ、今日の髪はどうする?」
輪ゴムとブラシを持ったなのはママが尋ねる。私はちょっと考えてから、いつもの髪型ではなく、走りやすいように三つ編みをリクエストした。
「ちゃんと見ててね。私、今日は色んな種目に出るんだ」
「一位は取れるかな〜?」
「取れるもん! 私、クラスの男子より速いんだよ」
「にゃはは。冗談だよ。ヴィヴィオが速いのはちゃんと知っているよ」
「もう、なのはママのイジワル」
私の怒った顔が面白いのか、なのはママは声を立てて笑う。
「なのはママ〜、ヴィヴィオをあまりからかわないで下さい〜」
お味噌汁の鍋を持ったフェイトママ登場。
「だからフェイトママ、冗談だってば。──っと。ヴィヴィオ、髪型はこんな感じでいい?」
私は三つ編みを触って確かめる。
「うんOKだよ。ありがと、なのはママ」
「じゃあなのは、ヴィヴィオ。朝ご飯も出来たから食べよう。手はちゃんと洗ってね」
「はーい」
「はーい」
三人揃っての朝食。テーブルの上には他にもお弁当のおかずが並ぶ。昨夜、私が寝てからもママ達は準備をしていたのだ。
「行って来ます」
「行ってらっしゃーい」
「入場行進は九時からだよね? それまでには学校に行くよ」
「そうだよ」
「じゃあヴィヴィオ、頑張って」
「うん」
二人のママの応援を背に、私は歩き出す。いつも制服で歩く道を、今日は体操服で行く。それだけで何だか身が引き締まる感じだ。
今日は頑張ろう。絶対に優勝しよう。
決意を胸に、私は朝の通学路を走った。
199 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/18(水) 23:51:33 ID:/pxksXiq
この学校の運動会は、赤組・青組に分かれて、クラス対抗で行われる。わたしのクラスは青組だ。
また運動会という行事なだけあって、魔法の使用はもちろん禁止。普段魔法はダメだけど、今日だけは頼りになるっていう子も少なくない。まあ、わたしは両方イケるけどね。
「ヴィヴィオちゃん、一緒に頑張ろうね」
「ヴィヴィオ、今日は期待してるからな」
「任せてよ」
クラスのみんなの表情も、今日はどことなく引き締まって見える。教室は程良い緊張感に包まれていた。
"只今より、第××回運動会の入場行進を始めます"
九時になった。スピーカーから放送部のアナウンス、次いで行進曲が流れる。団長の笛の合図で足踏み開始。曲に合わせて行列が進み始める。
先に行くのは去年総合優勝した赤組。わたしは青組でも後ろの方だから、本当に最後の方(ついでに外側)を歩いている。
この後に退屈な開会式を控えているという事もあって、保護者はまだあまり来ていない。でも逆に言えば、この時間に来たら、良い席を確保出来るという事で。
「ヴィヴィオー!」
「こっちこっち!」
しっかりいました我が両親。
保護者用に建てられた簡易テント。その中でも校庭を一目で見渡せて、尚且つ午後も日陰でありそうで、更にトラックに近い位置を陣取ったなのはママとフェイトママ。
「わっスゲェ。エース・オブ・エース、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンだ。二人揃っているのは初めて見たよ」
「あのお二人、ヴィヴィオちゃんのご両親だよね」
「……あはは。……認めたくないけど」
わたしは光の速さで目をそらした。もう渇いた笑みしか出て来ない。
フェイトママなんて、"がんばれヴィヴィオ"などという小さな横断幕を持っている。恥ずかしい事この上ない。
まあ、はしゃぎたくなる気持ちも分かるけど。フェイトママは仕事の都合がつかなくて、ここ3・4年位、わたしの学校行事に来れなかったから。
やがて行進は校庭を一周し、トラックの内部で整列して止まった。
"第××回、運動会の開催を宣言します"
運動会が始まった。
200 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/18(水) 23:53:30 ID:/pxksXiq
午前の種目はつつがなく進む。
わたしは途中いくつかの競技で、それこそ一騎当千、鬼神のような活躍を見せた。百メートル走では当然のように一位を取ったし、騎馬戦で沈めた敵機の数は数え切れないほど。
しかし、いち個人がどんなに頑張っても、どうにもならない事はあるわけで。
今、青組はちょっと負けていた。
「ああ〜午前の競技、負けたまま終わっちゃったね」
「……大丈夫。これ位の点数差なら、まだ逆転出来るよ」
とは言ってみたものの、やはり悔しい。
「え〜と、最後の種目は──フォークダンスか」
「あ〜!」
「どうしたの? ヴィヴィオちゃん」
「あ、い、いや何でもないよ」
しまった。フォークダンスの事をすっかり忘れていた。具体的に言うと、忘れていたのはあの二人に出るな、と伝える事。フォークダンスは保護者の参加を認めているから、あの二人の事だ。参加するに違いない。
案の定、入退場門へと向かう生徒や保護者の中に、二人の姿をはっきりと確認した。
「おお、なのはさんとフェイトさんも参加するんだ」
「……そうみたいだね」
201 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/18(水) 23:55:20 ID:/pxksXiq
結局、人数の都合上でフェイトママは男性側へと回った。その際、
「畜生、フェイトさーん……」
という男子の嘆き声と、
「キャーッ、フェイトさん!」
という女子の歓声が聞こえた。……何だかなあ。
そして、なのはママはというと。
「ちょっとなのはママ! 何でわたしの前にいるの?」
「だってヴィヴィオを近くで見ていたいじゃない?」
並び順が決まっている生徒とは違い、基本的に保護者はどこに並んでも良い。でもだからといって、わざわざわたしの前に並ぶなんて。
わたしはむ〜っとした表情でなのはママを睨み付けた。全然効いていなかったけれど。
フォークダンスは形式通り男女でペアになり、輪になって踊りながらペアを変えていくやつだ。
曲も終盤になって、わたしはある事に気づいた。
どうもフェイトママが近づいて来ている。このペースだと、フェイトママと踊る可能性もある。
202 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/18(水) 23:58:11 ID:/pxksXiq
それは勘弁願いたい。この歳にもなって親子でダンスだなんて、恥ずかし過ぎる。
果たして曲が終わるのが先か、ペアになるのが先か──
誠に残念な事に、ペアの方が先だった。しかも曲はあと二回分で終わっていたのに。
「……ヴィヴィオ、どうしてそんなに睨んでいるのかな?」
「別に。睨んでなんかいないよ。ただ、フェイトママがあと二人分後ろに並んでいてくれたらな、って思っただけ」
でもさすが、かどうかは分からないけど、フェイトママはリードするのが今までのどのパートナーよりも上手だった。フェイトママはなぜか、こういう事をやらせたら様になる。
最後のペア。前方を見ると、なのはママとフェイトママが一緒に踊っていた。まあ、わたしの最後から二番目のパートナーがフェイトママだったから、当たり前といえば当たり前だけど。
息の揃った二人の踊りを見て、また曲が終わって楽しそうに帰って行く二人の姿を見て、お似合いだと思ってしまったのは絶対に秘密だ。
203 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/19(木) 00:00:25 ID:/pxksXiq
ようやく昼休みになった。生徒達はそれぞれ家族と一緒にお弁当を食べる。わたしも二人が待つテントまで歩いて行った。
「ママー、お腹空いたー」
「はい、どうぞ。沢山作ったから、しっかり食べてね」
バスケットから取り出されたランチボックス。中にはなのはママとフェイトママ合作の料理が沢山入っていた。
ハンバーグに玉子焼き、グラタン。他にも色々。嫌いなピーマンもある。
「ねえ、今日のわたしはどうだった?」
ミートパイにかぶりつきながら、わたしが言う。
「ヴィヴィオ凄いよ。すっごく速かったよ。さすが私となのはママの娘だね!」
「フェイトママったら、さっきからヴィヴィオ凄い凄いばっかり。──うん、去年より速くなったね。良かったよ」
フェイトママはちょっと興奮気味に。なのはママはにっこり笑って。
「まあね。わたしも放課後とか練習したもん」
二人に誉められて、わたしは照れ隠しに言った。
「ごちそう様でした。美味しかったよ」
食べ終わっても、まだ少し時間に余裕があった。
「そういえば午後の種目に親子競技があるの。なのはママかフェイトママ、どっちかお願い」
「今年は何をするの?」
「二人三脚リレーだよ」
なのはママもフェイトママも、管理局に勤めているだけあって、普通の人よりかなり運動神経が良い。どっちが出ても大丈夫だ。
「あっ、そろそろ時間だからもう行くね。親子競技、よろしく」
「行ってらっしゃい」
「頑張ってね、ヴィヴィオ」
午後の種目が始まる。まずは逆転。それが目標だ。
345 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/23(月) 00:39:16 ID:pgT1IbW3
"親子競技・二人三脚リレーに出場される保護者は、入退場門へご集合下さい"
スピーカーからアナウンスが流れる。それを合図に、保護者が徐々に集まってきた。
我が家はというと。
「今年もなのはママが出るんだね」
「うん。フェイトママは是非ともビデオを撮りたいって」
テントの方を見ると、フェイトママが泣く泣くビデオカメラを回していた。わたしが見ているのに気づいたのか、小さく手を振っている。
わたしはなのはママの方に向き直った。何があったかはあえて聞かない。何となく想像は出来るけど。
しかし二人三脚だから、なのはママで良かったのかも知れない。フェイトママは身長が高い。わたしと体格が違い過ぎるから、きっとお互いに走りにくかっただろう。
「位置について、よーい」
パァン。
体育係がピストルを鳴らした。それを合図に、一走目の親子が走り出す。走る距離はトラック半周。わたしとなのはママは中盤の八走目だ。
それにしても二人三脚というのはなかなか厄介なもので。一人で走っているのと変わらないスピードを出す親子がいれば、つっかえつっかえ転びそうな親子もいる。
そして、わたし達にバトンが回ってきた時には、赤組と二十メートル位の差がついていた。
「ヴィヴィオ、いけるよね?」
なのはママの目つきが、スッと鋭くなる。
「当然!」
わたしはニッと返す。
わたしとなのはママは走り出した。息はぴったり。風のように走る。実況アナウンスも興奮気味だ。
"高町親子、速い速い! 差はどんどん縮まります!"
白い悪魔と聖王の名はダテじゃない。わたし達は赤組の親子を抜いて、次にバトンを渡した。
結局、わたし達の活躍が効を奏して、二人三脚リレーは青組の勝利に終わった。
346 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/23(月) 00:42:06 ID:pgT1IbW3
「ヴィヴィオ、よくやった! 誉めてつかわそう!」
「本当。とってもカッコ良かったよ」
「うん、ありがと!」
やはり誉められて悪い気はしない。わたしは得意げに笑った。
「それにしても、なのはさんも速いよなあ。流石エース・オブ・エースだよ。く〜、憧れるぅ!」
「それに、とっても優しそうだよね」
「ヴィヴィオ、家でのなのはさんとかフェイトさんはどんな感じ? やっぱり頼りがいがあってエースの貫禄に満ちてる?」
「あ〜、それはどうだろ……。あはは……」
わたしは苦笑いを浮かべながら視線をずらした。
家でのママ達ははっきり言って、所構わずイチャイチャするか、なのはママがフェイトママを尻に敷いているかのどっちかだ。迷惑な事この上ない。──まあ一応、ママ達の事は好きだし、尊敬はしているけど。
この二人にママ達の真実を話しても信じないだろう。わたしは二人の幻想を壊さない事にした。
さて。わたしが次に出る種目は個人競技の借り物競争。
四人でスタートし、箱からお題を引いて、マイクに向かって自分の借り物を叫ぶ。観客にも協力してもらって自分の借り物を入手したら、ハードルと平均台を越えてゴールだ。この競技は運動神経だけではなく、運も試される。
「あまり自信はないなあ。運が絡むとどうもね」
「頑張ってよ、我がクラスのエース」
自分の出番まではもう少しあるから、わたしはお題の内容を分析する。
お題は簡単なものから難しいものまで何でもありだった。もちろん人もあり。
足の速い子がトイレットペーパーというお題を引いて、泣く泣く校舎の中に入っていく場面もあれば、遅い子が体育教師というお題を引いて一位を取る場面もある。
「ほら。出番だよ、ヴィヴィオ」
「ヴィヴィオちゃん、頑張って」
「ああ、うん、出来る範囲で頑張るよ」
わたしは重い腰を上げて、トラックに立った。横に並ぶ四人の間に、緊張が流れる。
「位置について、よーい」
パァン。
ピストルの音が鳴り響いた。
347 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/23(月) 00:44:34 ID:pgT1IbW3
走り出しは好調。まずはわたしがトップに出る。ここまでは予定通りだ。
トラックを半周ほど走って、お題の入った箱にたどり着いた。わたしは丸い穴から腕を入れる。
中には、まだ沢山のお題が入っていた。わたしは、どれを引こうかと少し躊躇してしまった。
だけどここでグズグズしていては、せっかく稼いだ時間が勿体ない。わたしは、中指に触れた一枚の紙を抜き取った。中身を見ずにマイクまで走る。
わたしはマイクのスイッチを入れるのと同時に、内容を確認した。わたしのお題は、
「長い髪の人ぉっ!」
少し、イヤな予感がした。
果たしてわたしのお題に、まずなのはママが客席から走って来るのが見えた。少し遅れてフェイトママもやって来る。到着は同時だった。
「フェ、フェイトちゃん? は、早かったね?」
「な〜の〜は〜。自分だけ行こうって、それはダメだよ?」
詰め寄るフェイトママと、たじろぐなのはママ。
「ちょっと! 二人もいらないよ。喧嘩するんなら、帰ってよ!」
わたしはソワソワと辺りを見渡した。すでに一人、お題を手にハードルへと向かっている。
「──しょうがない。ヴィヴィオ、舌咬まないで、しっかり掴まっていてね」
「え?」
フェイトママはそう言うと、わたしを背中に担いだ。
「え? ちょっ……」
そしてなのはママの所まで行くと、両腕でしっかりと──なのはママを、いわゆるお姫さま抱っこした。わたしはフェイトママの腕の支えがなくなったから、落ちないように必死で掴まる。
「なのは、ヴィヴィオ。行くよ!」
「え〜〜っ!?」
それだけ言うと、フェイトママは走り始めた。
348 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/23(月) 00:47:11 ID:pgT1IbW3
観客茫然、わたしは唖然。そしてなのはママは──ポッと顔を赤らめていた。
それにしても人間を二人担ぎながら、それをまるで感じていないかのように走るフェイトママは、流石というかなんというか。
って、感心している場合ではない。フェイトママに文句を言わねば。
「ちょっと、フェイトマ──わっ」
「ん? どうしたの、ヴィヴィオ?」
「……後で言う」
フェイトママがハードルを飛び越えた拍子に、危うく舌を咬みそうになった。身の安全を考えて、全てが終わってから文句を言おうと誓った。
ハードルを二つ飛び、平均台を渡り終わって、フェイトママは一番でゴールテープを切った。その途端にドッと湧く客席。拍手が鳴り響いた。
フェイトママは、
「ウチの子、一番ですよね!」
と、ゴール係の先生に詰め寄っている。わたしは、穴があったら入りたかった。
「まったくもう! フェイトママってば、強引過ぎるよ」
「まあヴィヴィオ。一位だったから良いじゃない」
なぜか、なのはママはフェイトママ側へ回ってしまった。いつもならフェイトママを怒りそうなのに。お姫さま抱っこのせいかも知れないと思った。
"以上を以て、第××回運動会を閉会します"
とうとう運動会が終わった。
結果は、青組の優勝。あの後、綱引きは赤組に負けたけど、わたしがアンカーを務めたリレーは勝ったりしたのだ。
だけど、今のわたしは機嫌が悪い。理由は言わずもがな。
「ヴィヴィオ〜。機嫌、直して」
この人、フェイトママのせいだ。
片付けも終わった帰り道。親子三人で一緒に歩く。周りには、わたし達以外に誰もいない。
「ヴィヴィオ、そろそろ許してあげたら?」
「嫌だ。フェイトママなんかもう知らないもん」
「ヴィヴィオ〜……」
オロオロしたフェイトママの声が響いた。そんな日曜日の夕方。
今日の高町家は、ちょっと波風立っています。
SS投下します
12歳位のヴィヴィオ視点で高町一家を3レスくらい
ちょっと長くなりそうなんで、まずは前半部分です
151 名前: 名無しさん@秘密の花園 [sage] 投稿日: 2008/06/16(月) 22:50:25 ID:DLMQAf0+
土曜日の午後九時。お風呂に入って歯も磨いて、やる事はもう全部終了。そんな寝る前の一時を、私はリビングでなのはママと一緒にテレビを見ていた。
だけど、バラエティ番組の内容は全然頭に入って来ない。テレビから聞こえる芸能人達の笑い声が、空虚に通り過ぎてゆく。私はさっきからカーテンの隙間、窓ガラスの向こう側に広がる夜空を、何度も何度も見ていた。
「ヴィヴィオ、そんなに何回も確認しなくても大丈夫だよ」
CMになったからか、なのはママがにっこりと笑いながら私に言う。
「だって。心配なんだもん」
「天気予報も、明日は晴れるって言ってるよ?」
「天気予報なんかアテにならないよ。この間だって、今日は晴れですって言っておきながら、ザァザアの雨だったし」
言い終わると、私はまた窓の向こうに目を凝らす。今の所、満天の星空が広がっている。でもこれがいつ、雨雲に変わるかなんて分からない。油断は禁物だ。「なのは、お風呂上がったよ」
ここでフェイトママ登場。薄いグリーンのパジャマを着て、バスタオルで髪を拭いている。
「は〜い、分かった。それじゃあフェイトちゃん、ヴィヴィオを寝かせといてね」
「任されました」
敬礼の真似をするフェイトママを見て、なのはママはお風呂場へと向かって行った。さて、と言ってフェイトママが私の方に向き直る。
「ヴィヴィオ。明日も早いし、もう寝よっか」
「……うん」
フェイトママはテレビを消し、私の手を引いて寝室へと向かう。
「ねえ、フェイトママ。明日は晴れると思う?」
私は布団の中で、隣に横たわるフェイトママに問い掛けた。
152 名前: 名無しさん@秘密の花園 [sage] 投稿日: 2008/06/16(月) 22:52:52 ID:DLMQAf0+
余談だが、私は未だに自室どころか、自分のベッドさえ与えて貰っていない。だから寝る時は必然的に、親子三人川の字で寝るのだ。
ただし大抵の場合、私はママ達より早く寝る。そして大抵、私が寝付くまでママ達が交代で添い寝してくる。私が寂しいだろうからって言うけど、そんな事は一切ない。全然ない。ただママ達がそうしたいだけなのだ。
時々思う。ママ達、いつかはちゃんと子離れ出来るのかな。
それは兎も角。
「きっと晴れるよ。ヴィヴィオは日頃の行いが良いから」
暗くてよく見えないけど、フェイトママは笑顔で言い切ったに違いない。
「……科学的根拠だと?」
私は言いたい事をグッと我慢して、再び尋ねた。
「ほら──」
フェイトママはカーテンを開けて、星空を指差す。
「今夜は見事な星空でしょ。こんな夜の翌日は、良いお天気になるんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「だから心配しないで大丈夫だよ。明日は頑張ってね。──お休み」
「っんん。お休みなさい」
フェイトママが私の額にキスをした。いつも思うけど、フェイトママはこんなに暗いのに、なんでいつも私の位置が分かるんだろう。
二人とも喋らなくなって、寝室は沈黙に包まれた。しばらくして、フェイトママも出て行く。それを見届けて私はベッドの真ん中から端に移動した。(特に理由はない。本当だってば!)
明日の事を考えると、不安とそして興奮で目が冴えてしまう。でも早く眠らないといけない。明日を寝不足で迎えるなんて、あってはならない。
だって明日は。
待ちに待った運動会だから。
153 名前: 名無しさん@秘密の花園 [sage] 投稿日: 2008/06/16(月) 22:55:31 ID:DLMQAf0+
運動会当日は、天気予報やママ達の言った通り、雲一つない良いお天気だった。絶好の運動会日和だ。
「ヴィヴィオ、今日の髪はどうする?」
輪ゴムとブラシを持ったなのはママが尋ねる。私はちょっと考えてから、いつもの髪型ではなく、走りやすいように三つ編みをリクエストした。
「ちゃんと見ててね。私、今日は色んな種目に出るんだ」
「一位は取れるかな〜?」
「取れるもん! 私、クラスの男子より速いんだよ」
「にゃはは。冗談だよ。ヴィヴィオが速いのはちゃんと知っているよ」
「もう、なのはママのイジワル」
私の怒った顔が面白いのか、なのはママは声を立てて笑う。
「なのはママ〜、ヴィヴィオをあまりからかわないで下さい〜」
お味噌汁の鍋を持ったフェイトママ登場。
「だからフェイトママ、冗談だってば。──っと。ヴィヴィオ、髪型はこんな感じでいい?」
私は三つ編みを触って確かめる。
「うんOKだよ。ありがと、なのはママ」
「じゃあなのは、ヴィヴィオ。朝ご飯も出来たから食べよう。手はちゃんと洗ってね」
「はーい」
「はーい」
三人揃っての朝食。テーブルの上には他にもお弁当のおかずが並ぶ。昨夜、私が寝てからもママ達は準備をしていたのだ。
「行って来ます」
「行ってらっしゃーい」
「入場行進は九時からだよね? それまでには学校に行くよ」
「そうだよ」
「じゃあヴィヴィオ、頑張って」
「うん」
二人のママの応援を背に、私は歩き出す。いつも制服で歩く道を、今日は体操服で行く。それだけで何だか身が引き締まる感じだ。
今日は頑張ろう。絶対に優勝しよう。
決意を胸に、私は朝の通学路を走った。
199 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/18(水) 23:51:33 ID:/pxksXiq
この学校の運動会は、赤組・青組に分かれて、クラス対抗で行われる。わたしのクラスは青組だ。
また運動会という行事なだけあって、魔法の使用はもちろん禁止。普段魔法はダメだけど、今日だけは頼りになるっていう子も少なくない。まあ、わたしは両方イケるけどね。
「ヴィヴィオちゃん、一緒に頑張ろうね」
「ヴィヴィオ、今日は期待してるからな」
「任せてよ」
クラスのみんなの表情も、今日はどことなく引き締まって見える。教室は程良い緊張感に包まれていた。
"只今より、第××回運動会の入場行進を始めます"
九時になった。スピーカーから放送部のアナウンス、次いで行進曲が流れる。団長の笛の合図で足踏み開始。曲に合わせて行列が進み始める。
先に行くのは去年総合優勝した赤組。わたしは青組でも後ろの方だから、本当に最後の方(ついでに外側)を歩いている。
この後に退屈な開会式を控えているという事もあって、保護者はまだあまり来ていない。でも逆に言えば、この時間に来たら、良い席を確保出来るという事で。
「ヴィヴィオー!」
「こっちこっち!」
しっかりいました我が両親。
保護者用に建てられた簡易テント。その中でも校庭を一目で見渡せて、尚且つ午後も日陰でありそうで、更にトラックに近い位置を陣取ったなのはママとフェイトママ。
「わっスゲェ。エース・オブ・エース、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンだ。二人揃っているのは初めて見たよ」
「あのお二人、ヴィヴィオちゃんのご両親だよね」
「……あはは。……認めたくないけど」
わたしは光の速さで目をそらした。もう渇いた笑みしか出て来ない。
フェイトママなんて、"がんばれヴィヴィオ"などという小さな横断幕を持っている。恥ずかしい事この上ない。
まあ、はしゃぎたくなる気持ちも分かるけど。フェイトママは仕事の都合がつかなくて、ここ3・4年位、わたしの学校行事に来れなかったから。
やがて行進は校庭を一周し、トラックの内部で整列して止まった。
"第××回、運動会の開催を宣言します"
運動会が始まった。
200 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/18(水) 23:53:30 ID:/pxksXiq
午前の種目はつつがなく進む。
わたしは途中いくつかの競技で、それこそ一騎当千、鬼神のような活躍を見せた。百メートル走では当然のように一位を取ったし、騎馬戦で沈めた敵機の数は数え切れないほど。
しかし、いち個人がどんなに頑張っても、どうにもならない事はあるわけで。
今、青組はちょっと負けていた。
「ああ〜午前の競技、負けたまま終わっちゃったね」
「……大丈夫。これ位の点数差なら、まだ逆転出来るよ」
とは言ってみたものの、やはり悔しい。
「え〜と、最後の種目は──フォークダンスか」
「あ〜!」
「どうしたの? ヴィヴィオちゃん」
「あ、い、いや何でもないよ」
しまった。フォークダンスの事をすっかり忘れていた。具体的に言うと、忘れていたのはあの二人に出るな、と伝える事。フォークダンスは保護者の参加を認めているから、あの二人の事だ。参加するに違いない。
案の定、入退場門へと向かう生徒や保護者の中に、二人の姿をはっきりと確認した。
「おお、なのはさんとフェイトさんも参加するんだ」
「……そうみたいだね」
201 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/18(水) 23:55:20 ID:/pxksXiq
結局、人数の都合上でフェイトママは男性側へと回った。その際、
「畜生、フェイトさーん……」
という男子の嘆き声と、
「キャーッ、フェイトさん!」
という女子の歓声が聞こえた。……何だかなあ。
そして、なのはママはというと。
「ちょっとなのはママ! 何でわたしの前にいるの?」
「だってヴィヴィオを近くで見ていたいじゃない?」
並び順が決まっている生徒とは違い、基本的に保護者はどこに並んでも良い。でもだからといって、わざわざわたしの前に並ぶなんて。
わたしはむ〜っとした表情でなのはママを睨み付けた。全然効いていなかったけれど。
フォークダンスは形式通り男女でペアになり、輪になって踊りながらペアを変えていくやつだ。
曲も終盤になって、わたしはある事に気づいた。
どうもフェイトママが近づいて来ている。このペースだと、フェイトママと踊る可能性もある。
202 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/18(水) 23:58:11 ID:/pxksXiq
それは勘弁願いたい。この歳にもなって親子でダンスだなんて、恥ずかし過ぎる。
果たして曲が終わるのが先か、ペアになるのが先か──
誠に残念な事に、ペアの方が先だった。しかも曲はあと二回分で終わっていたのに。
「……ヴィヴィオ、どうしてそんなに睨んでいるのかな?」
「別に。睨んでなんかいないよ。ただ、フェイトママがあと二人分後ろに並んでいてくれたらな、って思っただけ」
でもさすが、かどうかは分からないけど、フェイトママはリードするのが今までのどのパートナーよりも上手だった。フェイトママはなぜか、こういう事をやらせたら様になる。
最後のペア。前方を見ると、なのはママとフェイトママが一緒に踊っていた。まあ、わたしの最後から二番目のパートナーがフェイトママだったから、当たり前といえば当たり前だけど。
息の揃った二人の踊りを見て、また曲が終わって楽しそうに帰って行く二人の姿を見て、お似合いだと思ってしまったのは絶対に秘密だ。
203 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/19(木) 00:00:25 ID:/pxksXiq
ようやく昼休みになった。生徒達はそれぞれ家族と一緒にお弁当を食べる。わたしも二人が待つテントまで歩いて行った。
「ママー、お腹空いたー」
「はい、どうぞ。沢山作ったから、しっかり食べてね」
バスケットから取り出されたランチボックス。中にはなのはママとフェイトママ合作の料理が沢山入っていた。
ハンバーグに玉子焼き、グラタン。他にも色々。嫌いなピーマンもある。
「ねえ、今日のわたしはどうだった?」
ミートパイにかぶりつきながら、わたしが言う。
「ヴィヴィオ凄いよ。すっごく速かったよ。さすが私となのはママの娘だね!」
「フェイトママったら、さっきからヴィヴィオ凄い凄いばっかり。──うん、去年より速くなったね。良かったよ」
フェイトママはちょっと興奮気味に。なのはママはにっこり笑って。
「まあね。わたしも放課後とか練習したもん」
二人に誉められて、わたしは照れ隠しに言った。
「ごちそう様でした。美味しかったよ」
食べ終わっても、まだ少し時間に余裕があった。
「そういえば午後の種目に親子競技があるの。なのはママかフェイトママ、どっちかお願い」
「今年は何をするの?」
「二人三脚リレーだよ」
なのはママもフェイトママも、管理局に勤めているだけあって、普通の人よりかなり運動神経が良い。どっちが出ても大丈夫だ。
「あっ、そろそろ時間だからもう行くね。親子競技、よろしく」
「行ってらっしゃい」
「頑張ってね、ヴィヴィオ」
午後の種目が始まる。まずは逆転。それが目標だ。
345 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/23(月) 00:39:16 ID:pgT1IbW3
"親子競技・二人三脚リレーに出場される保護者は、入退場門へご集合下さい"
スピーカーからアナウンスが流れる。それを合図に、保護者が徐々に集まってきた。
我が家はというと。
「今年もなのはママが出るんだね」
「うん。フェイトママは是非ともビデオを撮りたいって」
テントの方を見ると、フェイトママが泣く泣くビデオカメラを回していた。わたしが見ているのに気づいたのか、小さく手を振っている。
わたしはなのはママの方に向き直った。何があったかはあえて聞かない。何となく想像は出来るけど。
しかし二人三脚だから、なのはママで良かったのかも知れない。フェイトママは身長が高い。わたしと体格が違い過ぎるから、きっとお互いに走りにくかっただろう。
「位置について、よーい」
パァン。
体育係がピストルを鳴らした。それを合図に、一走目の親子が走り出す。走る距離はトラック半周。わたしとなのはママは中盤の八走目だ。
それにしても二人三脚というのはなかなか厄介なもので。一人で走っているのと変わらないスピードを出す親子がいれば、つっかえつっかえ転びそうな親子もいる。
そして、わたし達にバトンが回ってきた時には、赤組と二十メートル位の差がついていた。
「ヴィヴィオ、いけるよね?」
なのはママの目つきが、スッと鋭くなる。
「当然!」
わたしはニッと返す。
わたしとなのはママは走り出した。息はぴったり。風のように走る。実況アナウンスも興奮気味だ。
"高町親子、速い速い! 差はどんどん縮まります!"
白い悪魔と聖王の名はダテじゃない。わたし達は赤組の親子を抜いて、次にバトンを渡した。
結局、わたし達の活躍が効を奏して、二人三脚リレーは青組の勝利に終わった。
346 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/23(月) 00:42:06 ID:pgT1IbW3
「ヴィヴィオ、よくやった! 誉めてつかわそう!」
「本当。とってもカッコ良かったよ」
「うん、ありがと!」
やはり誉められて悪い気はしない。わたしは得意げに笑った。
「それにしても、なのはさんも速いよなあ。流石エース・オブ・エースだよ。く〜、憧れるぅ!」
「それに、とっても優しそうだよね」
「ヴィヴィオ、家でのなのはさんとかフェイトさんはどんな感じ? やっぱり頼りがいがあってエースの貫禄に満ちてる?」
「あ〜、それはどうだろ……。あはは……」
わたしは苦笑いを浮かべながら視線をずらした。
家でのママ達ははっきり言って、所構わずイチャイチャするか、なのはママがフェイトママを尻に敷いているかのどっちかだ。迷惑な事この上ない。──まあ一応、ママ達の事は好きだし、尊敬はしているけど。
この二人にママ達の真実を話しても信じないだろう。わたしは二人の幻想を壊さない事にした。
さて。わたしが次に出る種目は個人競技の借り物競争。
四人でスタートし、箱からお題を引いて、マイクに向かって自分の借り物を叫ぶ。観客にも協力してもらって自分の借り物を入手したら、ハードルと平均台を越えてゴールだ。この競技は運動神経だけではなく、運も試される。
「あまり自信はないなあ。運が絡むとどうもね」
「頑張ってよ、我がクラスのエース」
自分の出番まではもう少しあるから、わたしはお題の内容を分析する。
お題は簡単なものから難しいものまで何でもありだった。もちろん人もあり。
足の速い子がトイレットペーパーというお題を引いて、泣く泣く校舎の中に入っていく場面もあれば、遅い子が体育教師というお題を引いて一位を取る場面もある。
「ほら。出番だよ、ヴィヴィオ」
「ヴィヴィオちゃん、頑張って」
「ああ、うん、出来る範囲で頑張るよ」
わたしは重い腰を上げて、トラックに立った。横に並ぶ四人の間に、緊張が流れる。
「位置について、よーい」
パァン。
ピストルの音が鳴り響いた。
347 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/23(月) 00:44:34 ID:pgT1IbW3
走り出しは好調。まずはわたしがトップに出る。ここまでは予定通りだ。
トラックを半周ほど走って、お題の入った箱にたどり着いた。わたしは丸い穴から腕を入れる。
中には、まだ沢山のお題が入っていた。わたしは、どれを引こうかと少し躊躇してしまった。
だけどここでグズグズしていては、せっかく稼いだ時間が勿体ない。わたしは、中指に触れた一枚の紙を抜き取った。中身を見ずにマイクまで走る。
わたしはマイクのスイッチを入れるのと同時に、内容を確認した。わたしのお題は、
「長い髪の人ぉっ!」
少し、イヤな予感がした。
果たしてわたしのお題に、まずなのはママが客席から走って来るのが見えた。少し遅れてフェイトママもやって来る。到着は同時だった。
「フェ、フェイトちゃん? は、早かったね?」
「な〜の〜は〜。自分だけ行こうって、それはダメだよ?」
詰め寄るフェイトママと、たじろぐなのはママ。
「ちょっと! 二人もいらないよ。喧嘩するんなら、帰ってよ!」
わたしはソワソワと辺りを見渡した。すでに一人、お題を手にハードルへと向かっている。
「──しょうがない。ヴィヴィオ、舌咬まないで、しっかり掴まっていてね」
「え?」
フェイトママはそう言うと、わたしを背中に担いだ。
「え? ちょっ……」
そしてなのはママの所まで行くと、両腕でしっかりと──なのはママを、いわゆるお姫さま抱っこした。わたしはフェイトママの腕の支えがなくなったから、落ちないように必死で掴まる。
「なのは、ヴィヴィオ。行くよ!」
「え〜〜っ!?」
それだけ言うと、フェイトママは走り始めた。
348 名前: 運動会 [sage] 投稿日: 2008/06/23(月) 00:47:11 ID:pgT1IbW3
観客茫然、わたしは唖然。そしてなのはママは──ポッと顔を赤らめていた。
それにしても人間を二人担ぎながら、それをまるで感じていないかのように走るフェイトママは、流石というかなんというか。
って、感心している場合ではない。フェイトママに文句を言わねば。
「ちょっと、フェイトマ──わっ」
「ん? どうしたの、ヴィヴィオ?」
「……後で言う」
フェイトママがハードルを飛び越えた拍子に、危うく舌を咬みそうになった。身の安全を考えて、全てが終わってから文句を言おうと誓った。
ハードルを二つ飛び、平均台を渡り終わって、フェイトママは一番でゴールテープを切った。その途端にドッと湧く客席。拍手が鳴り響いた。
フェイトママは、
「ウチの子、一番ですよね!」
と、ゴール係の先生に詰め寄っている。わたしは、穴があったら入りたかった。
「まったくもう! フェイトママってば、強引過ぎるよ」
「まあヴィヴィオ。一位だったから良いじゃない」
なぜか、なのはママはフェイトママ側へ回ってしまった。いつもならフェイトママを怒りそうなのに。お姫さま抱っこのせいかも知れないと思った。
"以上を以て、第××回運動会を閉会します"
とうとう運動会が終わった。
結果は、青組の優勝。あの後、綱引きは赤組に負けたけど、わたしがアンカーを務めたリレーは勝ったりしたのだ。
だけど、今のわたしは機嫌が悪い。理由は言わずもがな。
「ヴィヴィオ〜。機嫌、直して」
この人、フェイトママのせいだ。
片付けも終わった帰り道。親子三人で一緒に歩く。周りには、わたし達以外に誰もいない。
「ヴィヴィオ、そろそろ許してあげたら?」
「嫌だ。フェイトママなんかもう知らないもん」
「ヴィヴィオ〜……」
オロオロしたフェイトママの声が響いた。そんな日曜日の夕方。
今日の高町家は、ちょっと波風立っています。
2009年06月06日(土) 08:22:43 Modified by coyote2000