義理チョコ狂詩曲-2
前:義理チョコ狂詩曲-1
511 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:13:36 ID:wcJKh7HC
「シグナムはな、薔薇が好きなんや。真っ赤な薔薇や。」
意外だ、白薔薇かと思っていたのだ。だって〇梨子だし。ロサ・ギガンティア・アンブゥトゥ
ンだし。
「そうか、じゃあその線でいってみるよ。はやて、相談に乗ってくれてありがとうね」
「いやいや、うちの大事な家族のことやし、フェイトちゃんやったらこの位いつでも相談に乗
るよ」
結局お人好しの執務官は最後まで悪戯好きの部隊長のにやにや笑いに気付かなかった。
そんなこんなでやってきました二月十四日
機動六課の司令室でグリフィス・ロウランは焦っていた。
目の前に伝説のチョコレートがあるのだ。
それは、時空管理局でまことしやかに囁かれる都市伝説。
二月十四日にそのチョコレートを受け取ったものは、次の日に無惨な姿になって発見される
という。
そして、犠牲者達は皆「ピンクの光が……ピンクの壁が……」とか「魔王が……魔王に頭冷
やされる……」などの共通の譫言を述べるのだという。
人呼んで「魔王を招く恐怖の闇討ちチョコレート」
その正体は、テスタロッサ・ハラオウン執務官のチョコレートだと囁かれている――
シャーリーからその話を聞いたときはいつもの冗談かと思っていた。
しかし――
そのチョコレートが今自分の目の前にあるのだ
40 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:21:54 ID:w/58zz9A
「あ、あの、フェイト執務官。これは一体なんでしょうか」
チョコだというのはさっき聞いた。問題は、なぜ、自分が、この曰く付きのチョコを受け取
るはめになったかということである。
「だからね、なのはとはやての出身の世界には、二月十四日に女性が好きな男性やお世話にな
った男性にチョコを贈るしきたりがあってね。まあ、最近では女同士でも贈りあったりするん
だけど。
グリフィスはいつもはやての補佐を頑張ってくれていたからそのお礼にと言うことで」
シグナム用のチョコの余りなんだけどね、といいながらフェイトはチョコを差し出してくる。
どうする自分、どうすればこの危機を乗り越えられる、冷や汗でずり落ちそうになる眼鏡を必
死に押し上げながらグリフィスは必死に逃げ道を模索する。そうだ、甘いものは苦手だという
ことにすればどうだろう。
「実は、自分は甘いものが苦手で――」
「それなら大丈夫、これ、かなり甘さ控えめのビターチョコだから」
退路はあっさり断たれてしまった。まさにライオットザンバーで一刀両断されたかの如きの
あっけなさであった。嫌な汗が額から吹き出し止まらない。
落ち着け自分、速やかに次の手段を考えるのだ、震える手で眼鏡を押し上げグリフィスは祈
るような気持ちで辺りを見回す。しかし、シャーリーを筆頭とするオペレーター達は巻き込ま
れるのを恐れて司令室から早々に退散していた。救いの手を差し伸べてくれる人は誰もいない。
これぞまさしく、ああ無情。そしてフェイトから情け容赦ない追撃が入る。
「せっかくだからと思ったのだけど、迷惑だった?」
眉を顰めて心配そうに顔を伺ってくるフェイト。所謂愁眉と言うやつである。しかも震いつ
きたくなるほどの極上の美女の。
こんなものを拝まされて嫌と言える男がいるだろうか、いやいまい。
しかし、後ろからは嫌な気配が立ち込めてきている。地獄の底から魔王が自分を呪っている、
そんな気配だ。どうする自分、今の状況を例えるならば、まさに「前門の死神、後門の魔王」
しかし自分も男だ、ここで逃げたら男が廃る。前門の美女に対して突撃あるのみ。
41 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:23:47 ID:w/58zz9A
男とは、かくも美女の憂い顔には弱い生き物なのであった。
「いえ、そんなことはありません、受け取らせていただきますとも、ええ、フェイト執務官か
らだったら喜んで、いくらでも」
フェイトの顔がほころんだ。まさに愁眉を開くというやつである。後ろから後光が差して金
色の輝きが溢れ、辺りに花が咲き乱れるような錯覚に陥る。これぞまさしく魔王さえ陥落させ
る光の女神の微笑み。
「そうか、じゃあこれどうぞ。これからシグナムにも渡しに行くから、それじゃあね」
にこにこと微笑みながら立ち去っていくフェイトを見送りながら、「我が人生一片も悔いな
し」などと考えるグリフィス。そして、覚悟を決めて恐る恐る振り返ると――
「グリフィス君。ちょっと私とお散歩しようか――」
そこに白い魔王が立っていた。
機動六課のとある廊下でシグナムは憂鬱だった。
今年もこの日がやってきた。バレンタレインデー、シグナムにとってここ十年はこの日は災
厄の日に他ならなかった。主に胃腸にとっての。
はやてが自分にチョコを渡してくるのに便乗して、何故かシャマルがチョコを渡してくるの
だ。しかも手作りチョコである。
シャマルの手作りとはいえたかがチョコ、湯煎で溶かして型に流し込むぐらいでそうは酷いこ
とにはならないだろう、そう思って食べてみたら凄かった。
そこらの葉っぱを囓ったような何とも言えないえぐみの中に濃厚な腐った肉汁のような味が
広がり、日向に置き忘れて発酵した牛乳のようなそこはかとない酸味と、一ヶ月ぐらい放置し
て掃除していないボウブラの湧いた亀の水槽の水のような風味が隠し味、さらにねっとりとし
た甘さが生臭さを引き出して絶妙なハーモニーを奏で、ねっとりと歯にまとわりつく不快感と
ザリザリとした何かが歯と舌に心地悪い革命的な食感。
次の日になれば胃腸がしくしくと痛むおまけ付きだ。
シグナムはその時の強烈な味を思いだして思わず嗚咽した。
42 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:25:03 ID:w/58zz9A
こんなチョコとの格闘が十年間続いている。ミッドチルダに引っ越してやっと解放されるか
と思ったら、ここでもシャマルはこの日にチョコを律儀に渡してくるのだ。
断ろうにもはやてのを受け取りながらシャマルのを拒否するわけにもいかないし、悪気があっ
てそんなチョコを渡してくるわけではないと分かっているから無下にも出来ない。これでもシ
グナムはシャマルのことを一応大事に思っているのだ。
まあ、一番の理由はシャマルに逆らうと後が怖いということなのだが。
うっかり怒らせると時代劇の予約録画をリセットされてしまうのだ。これは痛い。
十年前のバレンタインのあの日を振り返る。
あの時は本当に惜しいことをした、とシグナムは溜息をつく。せっかくフェイトが愛の告白と
共にチョコをくれようとしたのに、その恥じらう様子と上目遣いにこちらを見てくるその愛らし
さにパニクって、心にもないことをいってしまったのだ。
ああ、テスタロッサ、お前となら犯罪者になっても構わなかったのに、ロリコンと呼ばれた
って構わない、むしろロリコンと罵ってくれテスタロッサはあはあ――
シグナムの思考はかなりやばい世界を遊泳している真っ最中であった。
ああ、自分ときたらあんなことをいってしまって本当に悔しい。断られて哀しげな姿に心が
痛んだが、武士に二言はないのである。
そんなこんなで結局フェイトはなのはとくっついてしまったし、あの時無理矢理にでももの
にしておけば良かったと、なのはに知られたら即SLBな事を考えた。
ああ、あの時お前を慰めてやりたかった(性的な意味で)お前の思いを受け止めてやりたかっ
た。
そして二人でめくるめく官能の世界にレッツらゴー光源氏のように幼女を自分の色に染め上
げるってロマンだよね別に私はロリコンじゃない今のテスタロッサも好きだぞそのナイスバデ
ィーがたまらないソニックフォームのお前をシュランゲフォルム のレヴァンティンでバリアジ
ャケット切り裂いて縛り上げたいよハアハア
43 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:26:25 ID:w/58zz9A
かなりやばい人になっているシグナムである。
シュランゲプレイは実際試合中に(性的な)興奮のあまりやりかけたことがあるのだが、ラ
イオットザンバーホームランで場外退場にさせられた。ちなみにシグナムはソニックフォーム
はフェイトが自分のために編み出した婚礼衣装だと妄想している。だからソニックフォームへ
の思い入れは人一倍なのである。
「あ、シグナム〜」
締まりのない顔で、「真・上もしたも付けていない・ソニックフォームのフェイトとキャッ
キャウフフしている」妄想を脳内で繰り広げていると、廊下の先から妄想中の情事の相手の声
が聞こえた。
「やあ、テスタロッサ、どうした、何か用か」
いつものきりりとしたポーカーフェイスでクールに返答するシグナム。その表情の変化は僅
か0.03秒の早業であった。
フェイトがにこにこと微笑みながら大きめの紙の手提げ袋を抱えて小走りに駆け寄ってくる。
それにあわせてひょこひょこと揺れるリボンを付けた長い髪の毛が、まるでしっぽを振ってい
るように見えて愛らしい。テスタロッサ可愛いよテスタロッサ。
「シグナム、チョコ受け取ってください」
フェイトの手にあるのは可愛くラッピングされた小さな箱であった。
――な・ん・で・す・と〜 シグナムはその言葉に我を疑った。けっしてフェイトは疑わない
のが愛の証なのだと馬鹿なことを考える。
「シグナム、10年前に言ったじゃないですか。チョコ渡したかったら10年後にしろって」
少し怒ったように頬を膨らましてシグナムを見つめてくるフェイト。くうっ、そんなテスタ
ロッサも可愛いぞ!
44 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:27:45 ID:w/58zz9A
「そ、そんなこといったか」
忘れていないくせに、というか未練たらたらだったくせにわざとクールに決めてみる烈火の将。
「言ったじゃないですか。だから今年こそは受け取ってもらいますよ」
――大人になった私を受け止めてくださいというやつだな、受け取ってやるぞ、さあ、この腕
の中にカモーン!
しかしここでがっついて印象を悪くさせてはいけないと、何とかクールに取り繕った。
「ああ、喜んで受け取らせてもらうぞ」
その言葉にぱあっとフェイトの顔が輝いた。
――ぐはぁ、その笑顔は反則だぞ、テスタロッサ
シグナムの目にはフェイトの周りにキラキラ光の粒子が舞い散り、虹が架かっているように
見えた。素晴らしきテスタロッサLOVEフィルターであった。
「じゃあ、シグナムここで味見してみてもらえますか」
「こ、ここでか」
――テスタロッサのやつも大胆だな、人前でプレイしようというのか?私としては二人っきり
な所で濃厚に愛し合う方が好みだぞ
とんでもない妄想を繰り広げる劣化の将である。
「だってシグナム食べてくれないかもしれませんし」
――とんでもない、お前を食べないなんてとんでもないぞ!隅々まで食べ尽くしてやる、いい
えさせてください
駄目だこの将終わってる。
そんなシグナムの心中など知るよしもないフェイトは包みを開くと箱を開け、中に並んだチ
ョコを一つ手に取った。
45 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:29:06 ID:w/58zz9A
その行動に、なんだチョコかとシグナムはがっかりしたが、
「はい、シグナム、あーん」
――まじか、テスタロッサ、まじなのか
とても嬉しいのだがクールな武人を売りにしている自分としては恥ずかしい。しかし、フェイ
トに手ずからチョコを食べさせてもらうなんてそんな素敵シチュを逃がすなんて勿体なすぎる。
というか食べさせてもらいたい、むしろフェイトを(ry
「シグナム食べてくれないのですか?」
少ししゅんとしながらフェイトがシグナムをじっと見つめている。なんだか子犬が主人に怒
られて項垂れるようである、というかあるはずのない獣耳がしゅんと項垂れているのが見えて
きた。
これはいけない、フェイトが悲しんでいるではないか、だから自分はチョコを食べさせても
らわないといけないのだ。口実を得たシグナムは、照れくさそうにしながらもあーんと口を開
いた。フェイトのたおやかな白い指がひょいとシグナムの口の中にチョコを放りこんだ。
――テスタロッサのチョコレートだ、さぞかし甘いことだろう
しかしそのチョコの味はシグナムの予想を斜め上に行っていた
「んぐぅ」
そのチョコはとても苦かったのだ、ビターなんてものじゃない、むしろこれはえぐいとでもい
うべきか。はっきり言って不味い。食べられないとまでは言わないが予想外のその味に吃驚し
て吐き出しそうになるのを必死に堪える。フェイトの前でそんな粗相は許されない。
「て、テスタロッサ……このチョコは……」
「シグナムはビターチョコが好きだと聞きましたので、カカオ95パーセントにしてみました。
もしかして、口に合いませんでしたか?」
46 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:30:19 ID:w/58zz9A
フェイトが心配そうにシグナムの顔を伺ってくる。ああ、そんな顔で見られては――
「い、いや美味いぞ、テスタロッサ」
フェイトから箱を引ったくると次々とチョコを口の中に放り込む。苦さに涙が出そうだった。
――ああ、これはもしかして十年前にチョコを受け取らなかった自分への仕返しなのか?
悪戯好きな自分の主が、「フェイトちゃん、シグナムにあげるチョコはこの位でないとあか
んで」とフェイトをそそのかしたことは知るよしもなかった。
――ああ、この苦さも愛故の試練か、耐えてやる、耐えてやるとも、お前との愛のためだった
らいくらでも耐えてやるさ
もごもごと口の中の咀嚼するシグナムをフェイトはにこにこ見つめていたが、ふと何かを思い
出したように側に置いていた袋を開け始めた。
「シグナムにプレゼントもあるんですよ」
はいどうぞ、とフェイトが取り出したのは真っ赤な薔薇のブーケであった。
――リッペ〜リッペなのかぁ!
ああもうこれは愛の告白に違いない、いやそうだむしろそうだだってリッペだよ紅い薔薇だよ
これって愛の告白じゃないですかテスタロッサお前も私を愛していたのだなこんな回りくどい事
をしなくても私はいつでもおKだいざ行かんめくるめく二人の愛の楽園へ!
思考のねじが吹っ飛んだシグナムがフェイトの肩をガシッと掴んだ。その勢いにフェイトは
少し怯えた表情を見せる。しかしそれでもシグナムは止まらない、むしろシグナムを勢いづけ
るだけであった。
「テスタロッサ!!」
「は、はい、なんでしょう?」
シグナムが大声で愛を叫ぶ――
「テスタロッサ!ヤらせてく――ぐはぁ」
47 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:31:46 ID:w/58zz9A
その瞬間上から何かが降ってきて、ガコンと素敵な音をたてながらシグナムの頭に激突した。
シグナムが鼻血を吹き出して地面に顔から倒れ伏す。
――い、一体何が……
顔を上げると地面には大きな金だらいか転がっていた。何故こんな物が上から降ってくるの
だ、ここは建物の中のはずなのに。
立ち上がろうとするが、後頭部にクリーンヒットの攻撃のせいでシグナムは地面に転がり悶絶
するしかできなかった。
フェイトは突然の出来事に呆然と立ちつくしていた。
シグナムにもフェイトにも見えなかった。シグナムが叫んだ瞬間に、頭上に旅の扉が開いて
そこから金だらいが降ってきた事を。さらにシグナムの背後から桜色の魔法弾が迫って後頭部
を直撃した事を。
「あら、フェイトちゃんじゃないどうしたの?」
「あ、シャマル先生」
――お、お前か
わざとらしいシャマルの登場だった。
「シャマル先生ちょうど良かったです。なんか急に頭上から物が降ってきて、シグナムの頭に
直撃しちゃって――」
お人好しの執務官はまさか目の前の人物が犯人だとは考えない。ましてや魔王様がみてるなん
て想像もしなかった。医務官のシャマルに助けを求めるのは当然の帰結であるだろう。
「あらあら大変。それじゃあ、私が医務室に連れて行くからフェイトちゃんは戻って良いわ
よ」
「でも、シャマル先生一人じゃシグナムを運ぶのは大変じゃないですか?手伝いますよ」
「大丈夫よ、ザフィーラを呼んで手伝ってもらうから。フェイトちゃんまだお仕事残っている
んでしょう? 今日くらい早く終わらせてなのはちゃんとヴィヴィオちゃんの所に早く帰って
あげなさいな」
48 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:33:08 ID:w/58zz9A
妻が大好な子煩悩フェイトとしてはその言葉の魅力には抗いきれず、「それじゃあお願いしま
す。シグナムお大事に」とさっさと立ち去っていってしまった。妻子が関わると意外と薄情な
人であった。
――まて、テスタロッサ、まだ私はお前に愛の返答をしていないぞ!
シグナムが心の中で血の涙を流しながら絶叫した。
「それじゃあ、医務室いきましょうか。当然処方のお薬は私の手作りチョコね」
フェイトの返事の代わりにかえってきたのはシャマルの死刑宣告に等しい言葉であった。
――結局今年もこうなるのかー
シグナムの受難は始まったばかりだ
機動六課の隊舎の自室でフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは歓喜していた。
なんとヴィヴィオからチョコをもらえたのだ。しかも手作りである。ひゃっほーい。
寮母のアイナさんと一緒に作ったのだという。アイナさんG.J.です。フェイトは歓喜に悶え
ていた。
もらった直後に嬉しさのあまり、ソニックフォームで隊舎の上を飛び回り「フェイトちゃん頭
冷やそうか」となのはにSLBを撃たれたけれど、フェイトは全然気にしていなかった。
食べるなんて勿体ない、クロノに頼んで氷結魔法で凍らせて永久保存しようかと思ったが、
食べてあげないとヴィヴィオが可哀相かと思いなおし半分だけ食したのだ。
それはまさにもう、まさにマナ、ネクタル、エリクシア。一口囓ればあまりの美味さに涙が
溢れ、二口目には歓喜のあまりに体が震える。三口囓ればそこに花畑が広がり、母プレシアが
アルハザードから手招きしているのが見えた。フェイトにとってはこの世のものとは思えぬ美
味であった。
残りは毎晩ちびちびと楽しみに食すことにした。
49 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:35:09 ID:w/58zz9A
ヴィヴィオを寝かしつけた後に、ソファーに二人並んで座ってで今年もなのはとチョコの交
換をした。
なのはのチョコも大好きだ。その甘さと蕩けるような食感はまさになのはの愛のようだから。
いや、なのはが愛をこめて作ってくれたのだからまさにこれはなのはの愛の結晶、
なのはの愛そのものなのだとフェイトは思う。
こんなチョコがもらえる自分は本当に幸せだとフェイトは喜びを噛みしめる。
自分のチョコは気に入ってもらえただろうか。なのはのために作ったチョコは今年はコアン
トローをいれたちょっと甘さ控えめのトリュフチョコだ。
なのはの味覚に合うように何度も吟味して作ったのだがどうだったろうかとフェイトはなのは
に尋ねてみる。
「うん、凄い美味しいよ。甘さの加減が私好みでぴったりだよ。」
「そうか、よかった」
なのはに喜んでもらって凄く嬉しい、頑張ったかいがあったとフェイトはなのはに微笑みかけ
る。そんなフェイトになのはが「フェイトちゃんは心配性だなぁ」と笑いかける。
花がほころぶようなその微笑みにフェイトの胸がトクンと跳ねる。なのはの微笑みはいつま
でたっても自分をドキドキさせる。いや、自分はいつだってなのはの全てにドキドキさせられ
ている。
「フェイトちゃんが作ってくれたチョコだもん。フェイトちゃんの愛が詰まっているから私に
はどんなチョコだって美味しいに決まってるよ」
自分と同じように思ってくれるんだとなのはへの愛おしさにフェイトは胸が熱くなった。こん
なにも愛おしい人に愛してもらうことができて自分は本当に幸せだ。
――なのは、君が側にいてくれて私は本当に幸せだよ。君が本当に大好きだよ
そんな気持ちを伝えたくてなのはを抱き寄せると顔を近づけ唇を掠う。チョコよりも甘いなの
はの香り、チョコのように蕩けるその柔らかい体と唇の感触にフェイトの心が熱くなる。
今日のキスはいつも以上に甘い味がする。フェイトはまだチョコの味が残るなのはの口内を
思う存分味わった。
50 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:36:25 ID:w/58zz9A
もっとなのはを味わいたいとなのはの寝間着のボタンに手をかけるが、なのはの手がそんなフ
ェイトの動きを制した。
「ちょっと待って、あのね、まだフェイトちゃんに渡したい物があるの」
なのははそう言うと、ソファーの隅に置いてあった紙袋を手渡した。
「今年はね、日本じゃなくて欧米式のバレンタインにしようかなって思って」
「欧米式?」
「うん、あっちのほうだとね、義理チョコとかそういう習慣はなくて、バレンタインは恋人に
贈り物をする日なんだよ。だから今年の私のチョコはヴィヴィオとフェイトちゃんだけのもの
なの。そして最愛の人のフェイトちゃんにこれをプレゼント」
少し照れたけど、臆面もなく自分のことを愛していると言ってくれるなのはが凄く嬉しくて、
想いをこめて「ありがとう、私もなのはを愛しているよ」とお礼を言った。
――こんなにも私を愛してくれて本当にありがとう。
「開けていいかな」
「うん」
何が入っているのかと少しドキドキしながら開いてみると、そこにはマフラーが入っていた。
黒が基調の赤のアクセントが入ったシックなマフラーだ。
「ヴィヴィオとフェイトちゃんと私の三人でおそろいのデザインなの、私のが白と青で、ヴィ
ヴィオのが白と赤なんだよ」
なのはから何度か手編みのマフラーはもらったことはあったし、いつ貰っても嬉しい物である
が、今回のはいつもにもまして嬉しくて心にジンときた。
三人でおそろい、その言葉がとても嬉しかった。いつまでも三人でいられればいいのに、ぎゅ
っとなのはに貰ったマフラーを抱きしめながら、フェイトは目が潤んでいた。嬉しいはずなのに
少し何だか切なかったのだ。
51 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:37:34 ID:w/58zz9A
「フェイトちゃんなんで泣くかなあ」
なのはが笑いながらフェイトを抱きしめた。優しく抱きしめてくれるその温もりが愛おしい。
「ごめんね、こんなに素敵な物貰ったのに私はなんにも用意していなくて」
自分に見つからないようにこっそり編んでいたのだ。同じ部屋に住んでいるのだからさぞかし
大変だったに違いない。仕事だって忙しいというのに。
「私が勝手にプレゼントしたかっただけだから、フェイトちゃんは気にしないでいいよ。それ
にフェイトちゃんはちゃんとチョコくれたでしょ?」
「でも、なのはだってチョコくれたし、これじゃあつり合わないよ。――それじゃあホワイト
デーにきちんとなにかプレゼントするよ」
なのはがここまでしてくれたのだから、じぶんもきちんとお返ししないと気が済まない。ち
ゃんとなのはの愛に応えたいから。
「残念でした、欧米式ではホワイトデーという習慣はないんだよ。だから気にしなくていい
よ」
なのはは笑いながらいうが、そんな言葉にフェイトは困ってしまう。
――ちゃんとなのはにお返ししたいのになぁ
「どうしてもっていうなら、今日中にフェイトちゃんが用意できる物で、私欲しい物があるん
だけど――」
「え、何かな、なのはが欲しいならなんだってあげるよ?」
――でも、今日中といっても後一時間もないし、一体何が欲しいんだろう。
52 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:38:47 ID:w/58zz9A
疑問に思っていると、なのはがソファーにフェイトを押し倒してきた。そのまま顔を近づけ
ると唇を重ねフェイトの口内に舌を差し入れるとフェイトの全てを味わいつくそうとするかの
ような動きでフェイトの中を貪ってきた。
突然の出来事に吃驚したがなのはの情熱的な想いに身も心も熱くなっていく。いつしかフェ
イト自身も夢中になってなのはを求めていた。お互いを求め合う長く激しい口付けが終わりフ
ェイトが夢心地でその余韻に浸っているとなのはが耳元で囁いた。
「お礼はフェイトちゃん自身でいいよ」
翌日、機動六課の司令室で「魔王が、魔王が……」と譫言をいいながら倒れているグリフィ
スが発見されたという。
その横には血文字で、「フェイト執務官、チョコレート」となぞの文字が残されていたとい
う。
ついでにシグナムはお腹を壊して三日ほど寝込んだという。その直前にフェイトからチョコ
をもらっている姿を目撃したとのS氏の証言があったいう。
そして、三月十四日にフェイトが給料三ヶ月分の指輪をなのはに渡して
「機動六課が解散した後も三人で一緒に暮らそう」
と叫んだのはまた別の話だ。
テスタロッサ・ハラオウン執務官のチョコの伝説は今年も健在である。
53 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:44:02 ID:w/58zz9A
これで終了です。
無駄に長くて済みません。
俺、将大好きですよ?
シャシグいいよね。
少し解説。
ベルカことドイツでは、恋人にプレゼントを贈るのが一般的な
バレンタインだそうです。つまり、決まった相手同士の記念日ですね。
そして紅い薔薇をあげることは、愛の告白なんだそうです。
前:義理チョコ狂詩曲-1
511 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:13:36 ID:wcJKh7HC
「シグナムはな、薔薇が好きなんや。真っ赤な薔薇や。」
意外だ、白薔薇かと思っていたのだ。だって〇梨子だし。ロサ・ギガンティア・アンブゥトゥ
ンだし。
「そうか、じゃあその線でいってみるよ。はやて、相談に乗ってくれてありがとうね」
「いやいや、うちの大事な家族のことやし、フェイトちゃんやったらこの位いつでも相談に乗
るよ」
結局お人好しの執務官は最後まで悪戯好きの部隊長のにやにや笑いに気付かなかった。
そんなこんなでやってきました二月十四日
機動六課の司令室でグリフィス・ロウランは焦っていた。
目の前に伝説のチョコレートがあるのだ。
それは、時空管理局でまことしやかに囁かれる都市伝説。
二月十四日にそのチョコレートを受け取ったものは、次の日に無惨な姿になって発見される
という。
そして、犠牲者達は皆「ピンクの光が……ピンクの壁が……」とか「魔王が……魔王に頭冷
やされる……」などの共通の譫言を述べるのだという。
人呼んで「魔王を招く恐怖の闇討ちチョコレート」
その正体は、テスタロッサ・ハラオウン執務官のチョコレートだと囁かれている――
シャーリーからその話を聞いたときはいつもの冗談かと思っていた。
しかし――
そのチョコレートが今自分の目の前にあるのだ
40 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:21:54 ID:w/58zz9A
「あ、あの、フェイト執務官。これは一体なんでしょうか」
チョコだというのはさっき聞いた。問題は、なぜ、自分が、この曰く付きのチョコを受け取
るはめになったかということである。
「だからね、なのはとはやての出身の世界には、二月十四日に女性が好きな男性やお世話にな
った男性にチョコを贈るしきたりがあってね。まあ、最近では女同士でも贈りあったりするん
だけど。
グリフィスはいつもはやての補佐を頑張ってくれていたからそのお礼にと言うことで」
シグナム用のチョコの余りなんだけどね、といいながらフェイトはチョコを差し出してくる。
どうする自分、どうすればこの危機を乗り越えられる、冷や汗でずり落ちそうになる眼鏡を必
死に押し上げながらグリフィスは必死に逃げ道を模索する。そうだ、甘いものは苦手だという
ことにすればどうだろう。
「実は、自分は甘いものが苦手で――」
「それなら大丈夫、これ、かなり甘さ控えめのビターチョコだから」
退路はあっさり断たれてしまった。まさにライオットザンバーで一刀両断されたかの如きの
あっけなさであった。嫌な汗が額から吹き出し止まらない。
落ち着け自分、速やかに次の手段を考えるのだ、震える手で眼鏡を押し上げグリフィスは祈
るような気持ちで辺りを見回す。しかし、シャーリーを筆頭とするオペレーター達は巻き込ま
れるのを恐れて司令室から早々に退散していた。救いの手を差し伸べてくれる人は誰もいない。
これぞまさしく、ああ無情。そしてフェイトから情け容赦ない追撃が入る。
「せっかくだからと思ったのだけど、迷惑だった?」
眉を顰めて心配そうに顔を伺ってくるフェイト。所謂愁眉と言うやつである。しかも震いつ
きたくなるほどの極上の美女の。
こんなものを拝まされて嫌と言える男がいるだろうか、いやいまい。
しかし、後ろからは嫌な気配が立ち込めてきている。地獄の底から魔王が自分を呪っている、
そんな気配だ。どうする自分、今の状況を例えるならば、まさに「前門の死神、後門の魔王」
しかし自分も男だ、ここで逃げたら男が廃る。前門の美女に対して突撃あるのみ。
41 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:23:47 ID:w/58zz9A
男とは、かくも美女の憂い顔には弱い生き物なのであった。
「いえ、そんなことはありません、受け取らせていただきますとも、ええ、フェイト執務官か
らだったら喜んで、いくらでも」
フェイトの顔がほころんだ。まさに愁眉を開くというやつである。後ろから後光が差して金
色の輝きが溢れ、辺りに花が咲き乱れるような錯覚に陥る。これぞまさしく魔王さえ陥落させ
る光の女神の微笑み。
「そうか、じゃあこれどうぞ。これからシグナムにも渡しに行くから、それじゃあね」
にこにこと微笑みながら立ち去っていくフェイトを見送りながら、「我が人生一片も悔いな
し」などと考えるグリフィス。そして、覚悟を決めて恐る恐る振り返ると――
「グリフィス君。ちょっと私とお散歩しようか――」
そこに白い魔王が立っていた。
機動六課のとある廊下でシグナムは憂鬱だった。
今年もこの日がやってきた。バレンタレインデー、シグナムにとってここ十年はこの日は災
厄の日に他ならなかった。主に胃腸にとっての。
はやてが自分にチョコを渡してくるのに便乗して、何故かシャマルがチョコを渡してくるの
だ。しかも手作りチョコである。
シャマルの手作りとはいえたかがチョコ、湯煎で溶かして型に流し込むぐらいでそうは酷いこ
とにはならないだろう、そう思って食べてみたら凄かった。
そこらの葉っぱを囓ったような何とも言えないえぐみの中に濃厚な腐った肉汁のような味が
広がり、日向に置き忘れて発酵した牛乳のようなそこはかとない酸味と、一ヶ月ぐらい放置し
て掃除していないボウブラの湧いた亀の水槽の水のような風味が隠し味、さらにねっとりとし
た甘さが生臭さを引き出して絶妙なハーモニーを奏で、ねっとりと歯にまとわりつく不快感と
ザリザリとした何かが歯と舌に心地悪い革命的な食感。
次の日になれば胃腸がしくしくと痛むおまけ付きだ。
シグナムはその時の強烈な味を思いだして思わず嗚咽した。
42 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:25:03 ID:w/58zz9A
こんなチョコとの格闘が十年間続いている。ミッドチルダに引っ越してやっと解放されるか
と思ったら、ここでもシャマルはこの日にチョコを律儀に渡してくるのだ。
断ろうにもはやてのを受け取りながらシャマルのを拒否するわけにもいかないし、悪気があっ
てそんなチョコを渡してくるわけではないと分かっているから無下にも出来ない。これでもシ
グナムはシャマルのことを一応大事に思っているのだ。
まあ、一番の理由はシャマルに逆らうと後が怖いということなのだが。
うっかり怒らせると時代劇の予約録画をリセットされてしまうのだ。これは痛い。
十年前のバレンタインのあの日を振り返る。
あの時は本当に惜しいことをした、とシグナムは溜息をつく。せっかくフェイトが愛の告白と
共にチョコをくれようとしたのに、その恥じらう様子と上目遣いにこちらを見てくるその愛らし
さにパニクって、心にもないことをいってしまったのだ。
ああ、テスタロッサ、お前となら犯罪者になっても構わなかったのに、ロリコンと呼ばれた
って構わない、むしろロリコンと罵ってくれテスタロッサはあはあ――
シグナムの思考はかなりやばい世界を遊泳している真っ最中であった。
ああ、自分ときたらあんなことをいってしまって本当に悔しい。断られて哀しげな姿に心が
痛んだが、武士に二言はないのである。
そんなこんなで結局フェイトはなのはとくっついてしまったし、あの時無理矢理にでももの
にしておけば良かったと、なのはに知られたら即SLBな事を考えた。
ああ、あの時お前を慰めてやりたかった(性的な意味で)お前の思いを受け止めてやりたかっ
た。
そして二人でめくるめく官能の世界にレッツらゴー光源氏のように幼女を自分の色に染め上
げるってロマンだよね別に私はロリコンじゃない今のテスタロッサも好きだぞそのナイスバデ
ィーがたまらないソニックフォームのお前をシュランゲフォルム のレヴァンティンでバリアジ
ャケット切り裂いて縛り上げたいよハアハア
43 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:26:25 ID:w/58zz9A
かなりやばい人になっているシグナムである。
シュランゲプレイは実際試合中に(性的な)興奮のあまりやりかけたことがあるのだが、ラ
イオットザンバーホームランで場外退場にさせられた。ちなみにシグナムはソニックフォーム
はフェイトが自分のために編み出した婚礼衣装だと妄想している。だからソニックフォームへ
の思い入れは人一倍なのである。
「あ、シグナム〜」
締まりのない顔で、「真・上もしたも付けていない・ソニックフォームのフェイトとキャッ
キャウフフしている」妄想を脳内で繰り広げていると、廊下の先から妄想中の情事の相手の声
が聞こえた。
「やあ、テスタロッサ、どうした、何か用か」
いつものきりりとしたポーカーフェイスでクールに返答するシグナム。その表情の変化は僅
か0.03秒の早業であった。
フェイトがにこにこと微笑みながら大きめの紙の手提げ袋を抱えて小走りに駆け寄ってくる。
それにあわせてひょこひょこと揺れるリボンを付けた長い髪の毛が、まるでしっぽを振ってい
るように見えて愛らしい。テスタロッサ可愛いよテスタロッサ。
「シグナム、チョコ受け取ってください」
フェイトの手にあるのは可愛くラッピングされた小さな箱であった。
――な・ん・で・す・と〜 シグナムはその言葉に我を疑った。けっしてフェイトは疑わない
のが愛の証なのだと馬鹿なことを考える。
「シグナム、10年前に言ったじゃないですか。チョコ渡したかったら10年後にしろって」
少し怒ったように頬を膨らましてシグナムを見つめてくるフェイト。くうっ、そんなテスタ
ロッサも可愛いぞ!
44 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:27:45 ID:w/58zz9A
「そ、そんなこといったか」
忘れていないくせに、というか未練たらたらだったくせにわざとクールに決めてみる烈火の将。
「言ったじゃないですか。だから今年こそは受け取ってもらいますよ」
――大人になった私を受け止めてくださいというやつだな、受け取ってやるぞ、さあ、この腕
の中にカモーン!
しかしここでがっついて印象を悪くさせてはいけないと、何とかクールに取り繕った。
「ああ、喜んで受け取らせてもらうぞ」
その言葉にぱあっとフェイトの顔が輝いた。
――ぐはぁ、その笑顔は反則だぞ、テスタロッサ
シグナムの目にはフェイトの周りにキラキラ光の粒子が舞い散り、虹が架かっているように
見えた。素晴らしきテスタロッサLOVEフィルターであった。
「じゃあ、シグナムここで味見してみてもらえますか」
「こ、ここでか」
――テスタロッサのやつも大胆だな、人前でプレイしようというのか?私としては二人っきり
な所で濃厚に愛し合う方が好みだぞ
とんでもない妄想を繰り広げる劣化の将である。
「だってシグナム食べてくれないかもしれませんし」
――とんでもない、お前を食べないなんてとんでもないぞ!隅々まで食べ尽くしてやる、いい
えさせてください
駄目だこの将終わってる。
そんなシグナムの心中など知るよしもないフェイトは包みを開くと箱を開け、中に並んだチ
ョコを一つ手に取った。
45 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:29:06 ID:w/58zz9A
その行動に、なんだチョコかとシグナムはがっかりしたが、
「はい、シグナム、あーん」
――まじか、テスタロッサ、まじなのか
とても嬉しいのだがクールな武人を売りにしている自分としては恥ずかしい。しかし、フェイ
トに手ずからチョコを食べさせてもらうなんてそんな素敵シチュを逃がすなんて勿体なすぎる。
というか食べさせてもらいたい、むしろフェイトを(ry
「シグナム食べてくれないのですか?」
少ししゅんとしながらフェイトがシグナムをじっと見つめている。なんだか子犬が主人に怒
られて項垂れるようである、というかあるはずのない獣耳がしゅんと項垂れているのが見えて
きた。
これはいけない、フェイトが悲しんでいるではないか、だから自分はチョコを食べさせても
らわないといけないのだ。口実を得たシグナムは、照れくさそうにしながらもあーんと口を開
いた。フェイトのたおやかな白い指がひょいとシグナムの口の中にチョコを放りこんだ。
――テスタロッサのチョコレートだ、さぞかし甘いことだろう
しかしそのチョコの味はシグナムの予想を斜め上に行っていた
「んぐぅ」
そのチョコはとても苦かったのだ、ビターなんてものじゃない、むしろこれはえぐいとでもい
うべきか。はっきり言って不味い。食べられないとまでは言わないが予想外のその味に吃驚し
て吐き出しそうになるのを必死に堪える。フェイトの前でそんな粗相は許されない。
「て、テスタロッサ……このチョコは……」
「シグナムはビターチョコが好きだと聞きましたので、カカオ95パーセントにしてみました。
もしかして、口に合いませんでしたか?」
46 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:30:19 ID:w/58zz9A
フェイトが心配そうにシグナムの顔を伺ってくる。ああ、そんな顔で見られては――
「い、いや美味いぞ、テスタロッサ」
フェイトから箱を引ったくると次々とチョコを口の中に放り込む。苦さに涙が出そうだった。
――ああ、これはもしかして十年前にチョコを受け取らなかった自分への仕返しなのか?
悪戯好きな自分の主が、「フェイトちゃん、シグナムにあげるチョコはこの位でないとあか
んで」とフェイトをそそのかしたことは知るよしもなかった。
――ああ、この苦さも愛故の試練か、耐えてやる、耐えてやるとも、お前との愛のためだった
らいくらでも耐えてやるさ
もごもごと口の中の咀嚼するシグナムをフェイトはにこにこ見つめていたが、ふと何かを思い
出したように側に置いていた袋を開け始めた。
「シグナムにプレゼントもあるんですよ」
はいどうぞ、とフェイトが取り出したのは真っ赤な薔薇のブーケであった。
――リッペ〜リッペなのかぁ!
ああもうこれは愛の告白に違いない、いやそうだむしろそうだだってリッペだよ紅い薔薇だよ
これって愛の告白じゃないですかテスタロッサお前も私を愛していたのだなこんな回りくどい事
をしなくても私はいつでもおKだいざ行かんめくるめく二人の愛の楽園へ!
思考のねじが吹っ飛んだシグナムがフェイトの肩をガシッと掴んだ。その勢いにフェイトは
少し怯えた表情を見せる。しかしそれでもシグナムは止まらない、むしろシグナムを勢いづけ
るだけであった。
「テスタロッサ!!」
「は、はい、なんでしょう?」
シグナムが大声で愛を叫ぶ――
「テスタロッサ!ヤらせてく――ぐはぁ」
47 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:31:46 ID:w/58zz9A
その瞬間上から何かが降ってきて、ガコンと素敵な音をたてながらシグナムの頭に激突した。
シグナムが鼻血を吹き出して地面に顔から倒れ伏す。
――い、一体何が……
顔を上げると地面には大きな金だらいか転がっていた。何故こんな物が上から降ってくるの
だ、ここは建物の中のはずなのに。
立ち上がろうとするが、後頭部にクリーンヒットの攻撃のせいでシグナムは地面に転がり悶絶
するしかできなかった。
フェイトは突然の出来事に呆然と立ちつくしていた。
シグナムにもフェイトにも見えなかった。シグナムが叫んだ瞬間に、頭上に旅の扉が開いて
そこから金だらいが降ってきた事を。さらにシグナムの背後から桜色の魔法弾が迫って後頭部
を直撃した事を。
「あら、フェイトちゃんじゃないどうしたの?」
「あ、シャマル先生」
――お、お前か
わざとらしいシャマルの登場だった。
「シャマル先生ちょうど良かったです。なんか急に頭上から物が降ってきて、シグナムの頭に
直撃しちゃって――」
お人好しの執務官はまさか目の前の人物が犯人だとは考えない。ましてや魔王様がみてるなん
て想像もしなかった。医務官のシャマルに助けを求めるのは当然の帰結であるだろう。
「あらあら大変。それじゃあ、私が医務室に連れて行くからフェイトちゃんは戻って良いわ
よ」
「でも、シャマル先生一人じゃシグナムを運ぶのは大変じゃないですか?手伝いますよ」
「大丈夫よ、ザフィーラを呼んで手伝ってもらうから。フェイトちゃんまだお仕事残っている
んでしょう? 今日くらい早く終わらせてなのはちゃんとヴィヴィオちゃんの所に早く帰って
あげなさいな」
48 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:33:08 ID:w/58zz9A
妻が大好な子煩悩フェイトとしてはその言葉の魅力には抗いきれず、「それじゃあお願いしま
す。シグナムお大事に」とさっさと立ち去っていってしまった。妻子が関わると意外と薄情な
人であった。
――まて、テスタロッサ、まだ私はお前に愛の返答をしていないぞ!
シグナムが心の中で血の涙を流しながら絶叫した。
「それじゃあ、医務室いきましょうか。当然処方のお薬は私の手作りチョコね」
フェイトの返事の代わりにかえってきたのはシャマルの死刑宣告に等しい言葉であった。
――結局今年もこうなるのかー
シグナムの受難は始まったばかりだ
機動六課の隊舎の自室でフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは歓喜していた。
なんとヴィヴィオからチョコをもらえたのだ。しかも手作りである。ひゃっほーい。
寮母のアイナさんと一緒に作ったのだという。アイナさんG.J.です。フェイトは歓喜に悶え
ていた。
もらった直後に嬉しさのあまり、ソニックフォームで隊舎の上を飛び回り「フェイトちゃん頭
冷やそうか」となのはにSLBを撃たれたけれど、フェイトは全然気にしていなかった。
食べるなんて勿体ない、クロノに頼んで氷結魔法で凍らせて永久保存しようかと思ったが、
食べてあげないとヴィヴィオが可哀相かと思いなおし半分だけ食したのだ。
それはまさにもう、まさにマナ、ネクタル、エリクシア。一口囓ればあまりの美味さに涙が
溢れ、二口目には歓喜のあまりに体が震える。三口囓ればそこに花畑が広がり、母プレシアが
アルハザードから手招きしているのが見えた。フェイトにとってはこの世のものとは思えぬ美
味であった。
残りは毎晩ちびちびと楽しみに食すことにした。
49 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:35:09 ID:w/58zz9A
ヴィヴィオを寝かしつけた後に、ソファーに二人並んで座ってで今年もなのはとチョコの交
換をした。
なのはのチョコも大好きだ。その甘さと蕩けるような食感はまさになのはの愛のようだから。
いや、なのはが愛をこめて作ってくれたのだからまさにこれはなのはの愛の結晶、
なのはの愛そのものなのだとフェイトは思う。
こんなチョコがもらえる自分は本当に幸せだとフェイトは喜びを噛みしめる。
自分のチョコは気に入ってもらえただろうか。なのはのために作ったチョコは今年はコアン
トローをいれたちょっと甘さ控えめのトリュフチョコだ。
なのはの味覚に合うように何度も吟味して作ったのだがどうだったろうかとフェイトはなのは
に尋ねてみる。
「うん、凄い美味しいよ。甘さの加減が私好みでぴったりだよ。」
「そうか、よかった」
なのはに喜んでもらって凄く嬉しい、頑張ったかいがあったとフェイトはなのはに微笑みかけ
る。そんなフェイトになのはが「フェイトちゃんは心配性だなぁ」と笑いかける。
花がほころぶようなその微笑みにフェイトの胸がトクンと跳ねる。なのはの微笑みはいつま
でたっても自分をドキドキさせる。いや、自分はいつだってなのはの全てにドキドキさせられ
ている。
「フェイトちゃんが作ってくれたチョコだもん。フェイトちゃんの愛が詰まっているから私に
はどんなチョコだって美味しいに決まってるよ」
自分と同じように思ってくれるんだとなのはへの愛おしさにフェイトは胸が熱くなった。こん
なにも愛おしい人に愛してもらうことができて自分は本当に幸せだ。
――なのは、君が側にいてくれて私は本当に幸せだよ。君が本当に大好きだよ
そんな気持ちを伝えたくてなのはを抱き寄せると顔を近づけ唇を掠う。チョコよりも甘いなの
はの香り、チョコのように蕩けるその柔らかい体と唇の感触にフェイトの心が熱くなる。
今日のキスはいつも以上に甘い味がする。フェイトはまだチョコの味が残るなのはの口内を
思う存分味わった。
50 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:36:25 ID:w/58zz9A
もっとなのはを味わいたいとなのはの寝間着のボタンに手をかけるが、なのはの手がそんなフ
ェイトの動きを制した。
「ちょっと待って、あのね、まだフェイトちゃんに渡したい物があるの」
なのははそう言うと、ソファーの隅に置いてあった紙袋を手渡した。
「今年はね、日本じゃなくて欧米式のバレンタインにしようかなって思って」
「欧米式?」
「うん、あっちのほうだとね、義理チョコとかそういう習慣はなくて、バレンタインは恋人に
贈り物をする日なんだよ。だから今年の私のチョコはヴィヴィオとフェイトちゃんだけのもの
なの。そして最愛の人のフェイトちゃんにこれをプレゼント」
少し照れたけど、臆面もなく自分のことを愛していると言ってくれるなのはが凄く嬉しくて、
想いをこめて「ありがとう、私もなのはを愛しているよ」とお礼を言った。
――こんなにも私を愛してくれて本当にありがとう。
「開けていいかな」
「うん」
何が入っているのかと少しドキドキしながら開いてみると、そこにはマフラーが入っていた。
黒が基調の赤のアクセントが入ったシックなマフラーだ。
「ヴィヴィオとフェイトちゃんと私の三人でおそろいのデザインなの、私のが白と青で、ヴィ
ヴィオのが白と赤なんだよ」
なのはから何度か手編みのマフラーはもらったことはあったし、いつ貰っても嬉しい物である
が、今回のはいつもにもまして嬉しくて心にジンときた。
三人でおそろい、その言葉がとても嬉しかった。いつまでも三人でいられればいいのに、ぎゅ
っとなのはに貰ったマフラーを抱きしめながら、フェイトは目が潤んでいた。嬉しいはずなのに
少し何だか切なかったのだ。
51 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:37:34 ID:w/58zz9A
「フェイトちゃんなんで泣くかなあ」
なのはが笑いながらフェイトを抱きしめた。優しく抱きしめてくれるその温もりが愛おしい。
「ごめんね、こんなに素敵な物貰ったのに私はなんにも用意していなくて」
自分に見つからないようにこっそり編んでいたのだ。同じ部屋に住んでいるのだからさぞかし
大変だったに違いない。仕事だって忙しいというのに。
「私が勝手にプレゼントしたかっただけだから、フェイトちゃんは気にしないでいいよ。それ
にフェイトちゃんはちゃんとチョコくれたでしょ?」
「でも、なのはだってチョコくれたし、これじゃあつり合わないよ。――それじゃあホワイト
デーにきちんとなにかプレゼントするよ」
なのはがここまでしてくれたのだから、じぶんもきちんとお返ししないと気が済まない。ち
ゃんとなのはの愛に応えたいから。
「残念でした、欧米式ではホワイトデーという習慣はないんだよ。だから気にしなくていい
よ」
なのはは笑いながらいうが、そんな言葉にフェイトは困ってしまう。
――ちゃんとなのはにお返ししたいのになぁ
「どうしてもっていうなら、今日中にフェイトちゃんが用意できる物で、私欲しい物があるん
だけど――」
「え、何かな、なのはが欲しいならなんだってあげるよ?」
――でも、今日中といっても後一時間もないし、一体何が欲しいんだろう。
52 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:38:47 ID:w/58zz9A
疑問に思っていると、なのはがソファーにフェイトを押し倒してきた。そのまま顔を近づけ
ると唇を重ねフェイトの口内に舌を差し入れるとフェイトの全てを味わいつくそうとするかの
ような動きでフェイトの中を貪ってきた。
突然の出来事に吃驚したがなのはの情熱的な想いに身も心も熱くなっていく。いつしかフェ
イト自身も夢中になってなのはを求めていた。お互いを求め合う長く激しい口付けが終わりフ
ェイトが夢心地でその余韻に浸っているとなのはが耳元で囁いた。
「お礼はフェイトちゃん自身でいいよ」
翌日、機動六課の司令室で「魔王が、魔王が……」と譫言をいいながら倒れているグリフィ
スが発見されたという。
その横には血文字で、「フェイト執務官、チョコレート」となぞの文字が残されていたとい
う。
ついでにシグナムはお腹を壊して三日ほど寝込んだという。その直前にフェイトからチョコ
をもらっている姿を目撃したとのS氏の証言があったいう。
そして、三月十四日にフェイトが給料三ヶ月分の指輪をなのはに渡して
「機動六課が解散した後も三人で一緒に暮らそう」
と叫んだのはまた別の話だ。
テスタロッサ・ハラオウン執務官のチョコの伝説は今年も健在である。
53 名前:義理チョコ狂詩曲[sage] 投稿日:2008/02/14(木) 07:44:02 ID:w/58zz9A
これで終了です。
無駄に長くて済みません。
俺、将大好きですよ?
シャシグいいよね。
少し解説。
ベルカことドイツでは、恋人にプレゼントを贈るのが一般的な
バレンタインだそうです。つまり、決まった相手同士の記念日ですね。
そして紅い薔薇をあげることは、愛の告白なんだそうです。
前:義理チョコ狂詩曲-1
2008年02月14日(木) 12:49:50 Modified by nanohayuri